天使と女神シリーズ外伝10 麻吹アングルへの挑戦

 港都大AI研は写真のすべてをAIで解き明かすプロジェクトを寄附講座で開始します。リーダーに任じられた浦崎特任教授は、写真と言ってもデジタル技術の産物であると見ました。

 撮影のための条件は数あれど、これがいかに多くとも有限の組み合わせであり、そこから究極の写真を見つけ出すのはAIの得意分野と考えたのです。つまり理により写真のすべては説明できるとしたのです。

 究極の写真を見つけるために、被写体に対してすべてのアングルを撮影できる装置の作成と、究極の写真を見つけだすAIの開発の二本立てで研究は開始されます。

 審査AIと名付けられた究極の写真を見つけ出すAIの開発には篠田真と天羽涼が担当となります。二人は写真の評価の課題に苦しみますが、浦崎の写真は大衆芸術であるとの言葉から画期的な感性AIを組み込んだ審査AIの開発に成功します。

 さらに天羽たちは写真上達メソドを研究したところ、写真技術は上達すれば目指すポイントは一つに絞られる事に気づき、これを数式化するのに成功します。これにより究極の写真は撮影しなくとも計算で生み出されることになります。

 天羽関数の正しさは特殊撮影機でも実証されます。浦崎はフォトグラファーをAIで代替できる突破口を見つけ出したと判断し、これを発表、大きな反響を呼びます。

 ところが麻吹アングルの存在を知ります。天羽と篠田は研究の結果とし麻吹アングルが実在することはわかりましたが、その正体は天羽関数では説明できない事を知ります。

 麻吹アングルの正体に挑む天羽。これを探求するうちに大きな壁に直面するのでした。これを乗り越えようとする天羽。そのたどりついた先に見たものは何か。

麻吹アングルへの挑戦:あとがき

今回は理系の研究室を舞台にしてみました。文系は考古学部から発掘調査までさせていますが趣向を変えてみようと言うところです。理系と言っても専門分野が必要ですから思い切ってAIを選んでみました。 そのAIが挑むのが麻吹アングル。AIが写真に挑むと…

麻吹アングルへの挑戦:たどりついた果て

「子どもは涼に似たら良いな」 「ダメ、根性で真に似てもらう」 女の子だったらボクに似たら可哀想ではないですか。「ああ外見は涼で良いけど、こんな能力は不要」 「どういうこと?」 涼はサヴァン症候群と自分の能力との関連を随分前から考えていたようで…

麻吹アングルへの挑戦:新天地

科技研でも一悶着。科技研側はボクと涼にそれぞれ独立した研究室を与えてくれようとしましたが、「真と一緒じゃないとヤダ」 涼が渋りまくって同じ部屋。これで良いかもしれません。涼が山姥状態になった時のコントロールはかなりの慣れとコツが必要ですから…

麻吹アングルへの挑戦:山姥の秘密

今回の研究で様相が変わったのは麻吹アングルの存在を知ってからです。ボクも浦崎教授も慌てたのですが、涼は最初から答えを知っていたで良さそうです。だってですよ、「涼でも天羽関数は手強かったみたいだね」 「あんなのすぐよ」 はっ?「でも光の変動の…

麻吹アングルへの挑戦:アングルの正体

「麻吹つばさもサヴァン症候群なのか」 「そうとも考えられるけど・・・」 この辺はサヴァン症候群で説明すること自体が仮説だし、証明しようもありません。「麻吹つばさ一人なら先天性で説明可能だけど、知る限り六人は加納アングルもしくはそれ以上のアングル…

麻吹アングルへの挑戦:サヴァン症候群

「麻吹アングルが実在しているし、人の目でしか見えないのもわかるけど、それ以上は追いかけられなかったのはちょっと悔しいな」 「教授には言わなかったけど・・・」 涼は仮説を持っているようです。「網膜を通じて送られた情報は視神経を伝わり、背側皮質視覚…

麻吹アングルへの挑戦:涼の生い立ち

涼が麻吹アングルへの挑戦をあきらめた理由は様々にありますが、「一生かけるなら不老現象の方がイイに決まってる」 こういう現金な判断もありますし、「科技研に移らないと食べるのが大変すぎる。子どもだって育てられないじゃない」 さらに現金な理由もあ…

麻吹アングルへの挑戦:浦崎班の終わり

それにしてもトップ・プロって、あそこまでアッサリ撮ってしまうのに驚きました。「篠田君、ボクも初めて見たけど、プロとはあそこまでなんだな」 「五枚勝負と言ってましたが、本当に五枚しか撮らないのですね」 五枚と言っても、それなりに撮った中から選…

麻吹アングルへの挑戦:二人のプロ

浦崎教授に尾崎美里の扱いについて相談を、「学生ボランティアって訳にもいかないな」 「学生は学生ですが、考えようによっては超一流のプロですし、収入だって」 オフィス加納への依頼料を調べてみたのですが目眩がしました。バイトでも浦崎教授どころか山…

麻吹アングルへの挑戦:共感覚

涼と夕食を食べながら、「あそこまで話してくれるとはな」 涼の顔がやばいかも、「あれは自信だよ。どれだけ話しても誰も追いつけるはずがないと思っているはず」 そうかもしれません。具体的に話してはくれましたが、すべては見えない世界だからです。それ…

麻吹アングルへの挑戦:尾崎美里

理工学部は本部とキャンパスが違います。だから尾崎美里に会ったことがなかったのです。サークル室まで訪ねてみると、「代表は指導中です。申し訳ありませんが、しばらくお待ち頂けますか」 聞くと会員たちが撮って来た写真の指導だそうです。これはアポ時刻…

麻吹アングルへの挑戦:息抜きトラベル

科技研への移籍ですが、スカウトに来たのは海外も含めてビックリするほどいました。でもダントツに早かったのが科技研で、条件も破格。他の話も聞いてからにしたいと言っても即答でOKでした。涼の研究が終わってから一緒にの要望も、『研究者はそうあるべ…

麻吹アングルへの挑戦:魔女の存在

涼は天羽関数の麻吹アングル以外の分は完成させています。その分だけ研究がラクになったようで、家に帰れば素敵な涼の日が増えてくれています。その代わりにヤキモチ攻撃が増えるのが涼です。「それが麻吹アングルの謎と関係するの」 「直接は関係ない気もす…

麻吹アングルへの挑戦:甘い? 生活

涼はボクと結ばれてから引っ越してきて同棲状態です。これで文字通り朝から夜まで二十四時間一緒の生活になっています。涼は研究に熱中すると山姥になるのですが、服装とか身だしなみは、やりたくないのではなく、そちらに頭が回らなくなっているだけです。 …

麻吹アングルへの挑戦:ディラックの海

今日は涼と教授室に。ノックして、「篠田です。入ります」 「天羽です」 浦崎教授はソファに案内し、「研究は進んでいるかね」 「天羽関数の完成は近づいています」 教授は見せられた関数を見ながら、「よくぞ、ここまで・・・」 ここで涼が、「お世話になりま…

麻吹アングルへの挑戦:聖ルチア教会

黒木の実家は結構な資産家。学生の時からクルマをもってたぐらいだからな。こっちは未だにリサイクル・ショップで買ってきた自転車だけど。その点でも及ばなかったけど、今日は黒木と林さんの結婚式。もちろん涼も招待されています。「立派な教会ね」 「神戸…

麻吹アングルへの挑戦:科技研

大学の研究員なんて薄給も良いところです。どこの世界でも同じで地位と給与は連動します。悲しいのは地位が上がっても人もうらやむ給料にならないのと、下っ端はこれで暮らしているのが不思議ぐらいでしょうか。 だから海外雄飛を狙っている研究員も多いので…

麻吹アングルへの挑戦:女神たちの夜話

天羽涼か。あれもある種の天才、いや鬼才だろう。あそこまで写真のすべてに迫った奴は初めてかもしれん。一緒にいたのは彼氏だろう。仕事に恋に充実していると侮れんな。「イイ子じゃない」 「ああ、ああいうタイプは嫌いでない」 嫌いなのはアホみたいなナ…

麻吹アングルへの挑戦:涼の執念

予言通り天羽君は元に戻っていました。あれだけ良く変われるものだと感心するぐらいです。やはり狸の仕業か、二重人格とか。相も変わらず調子がイマイチの黒木の特撮機で麻吹アングル探しです。 天羽君が言うまでもなく、光の変化による変数問題も、麻吹アン…

麻吹アングルへの挑戦:バーにて

どこに飲みに行こうか迷いましたが、天羽君はボクをぐいぐい引っ張って、裏通りにあるビルの二階に。重厚そうな木製の扉を開くと、『カランカラン』 ドアベル代わりにカウベルが鳴るようです。入ってみると長いカウンターとずらっと並ぶ酒瓶。噂に聞くバー、…

麻吹アングルへの挑戦:幻の写真小町

映画は高校写真部を舞台にした青春映画のようです。ちょっと興味を持ったのは映画評論家だけでなく写真評論家も絶賛している点です。青田教授も作中の写真に注目したらしいようです。 あれだけ勧められたのですから見て損はないと思います。映画一本見るだけ…

麻吹アングルへの挑戦:青田教授

理工学部がある狸ヶ原キャンパスから本部までは電車を使って三十分ほど。「天羽君、本部は久しぶりだね」 狸ヶ原キャンパスは良く言えば現代風で、悪く言えば味も素っ気も無い感じですが、本部はネオ・ルネッサンス様式を取り入れた重厚なものです。これは第…

麻吹アングルへの挑戦:狸ヶ原伝説

理系人間にも歴史好き、伝説好き、怪奇現象好きはかなりいます。怪奇現象と思われるものから新しい研究のヒントをつかむという、もっともらしい理由もありますが、普段が理詰めに物を考えますから、そうでないものに魅かれるのかもしれません。 理工学部にも…

麻吹アングルへの挑戦:浦崎史郎

AI研の大山教授から寄附講座の話を聞いた時に呼ばれたのが、当時講師であった浦崎史郎です。話を聞いた浦崎は頭の中で素早く可能性を検討しています。カメラもデジタル、写真もデジタル、これをAIに出来ないはずがありません。むしろ今まで手を付けてい…

麻吹アングルへの挑戦:研究の壁

天羽君と相変わらず光を変えながら麻吹アングルを捜索中です。パラパラと見つかりはするのですが、そこで足踏み状態。天羽君は紫外可視分光光度計まで持ち込んでデータを探っています。 それでも進展はあって、天羽君は一つずつ条件を変えながらの光による天…

麻吹アングルへの挑戦:オフィス加納のお昼休み

今日はスタジオ撮影だ。昼休みはロケ弁をやめて、マドカと最近評判の淡路島バーガーの店からテイク・アウトで食べることにした。マドカも食べたがっていたし、「なかなかだな」 「ええ、これは結構なものでございます」 しかしまあ、いつも事だが、ハンバー…

麻吹アングルへの挑戦:麻吹アングルを求めて

浦崎教授の写真の素人の科学者が写真のすべてを暴く計画は発想として悪くなかったと思います。下手に知識があると先入観となって、あれほどドライに研究を進められなかったはずです。 一方であまりに写真界について無知過ぎた面があります。言ったら悪いです…

麻吹アングルへの挑戦:反響

まずはフォトワールド誌の取材です。記者にデモを見せると、「こ、この写真はまさしく」 審査AIもその機能に舌を巻いています。それから理論的な事などの取材もあり出来上がった記事は、『写真もAIの時代が来た』 この反響は凄かった。マスコミからの取…

麻吹アングルへの挑戦:実証実験

チームSの特撮機が稼働する日が来ました。「プログラムの変更もOKです」 天羽関数はさらに研究が進み、当初の頃にあれだけもめた撮影距離の問題も解決してしまったのです。特撮機は予め一メートル四方の可動範囲を取っていますから、その範囲でのあらゆる…

麻吹アングルへの挑戦:特殊撮影機

チームSの黒木が作った特殊撮影機の原理は少しづつカメラを動かして被写体のすべてのアングルを撮ろうとするものです。これも設計段階では機能をあれこれ盛り込み過ぎたようで浦崎教授がひっくり返っていました。「黒木、ここの予算がいくらかわかっとるの…