天使と女神シリーズ1 天使と女神
高校時代に天使とまで呼ばれたコトリにバーで再会した山本は、コトリからの告白、さらには決死のプロポーズまで受け入れてもらいますが、些細な事で別れてしまいます。これを知った小学校時代からの旧友であるシオリは関係修復に乗り出しますが、シオリにも山本との過去があり、さらに氷姫まで参戦してきます。迷走する恋の行方はどうなるのか。 |
この話は『恋する歴女のいる酒場』の後日談として書き始めたもので、前作の粗筋はプロローグに書かせて頂いています。『恋する歴女のいる酒場』は歴史編が書きたくて、ラブロマンスはオマケだったのですが、オマケのはずのラブロマンスを膨らましているうち…
「カランカラン」 いつものバー。ユッキーの命日の追悼式から三週間後です。 「ちょっと聞いてほしいことがあるんや」 「なに、なんでも聞くよ」 なんだろう。かなり思いつめた顔してる。 「追悼式の時はありがとう。ユッキーも喜んでくれたと思ってる」 「…
痛い、とにかく痛い。胃がちぎれそうになるほど痛い。体をどうしたって押し寄せる波のように痛みが襲ってくる。とにかく痛い。事故の時の痛みに較べたらって思い込もうにも、痛いものは痛い。文字通り七転八倒。 原因は逆流性食道炎。なんで検査もしないでわ…
すぐに転がりもうと思ったんだけど、実際にやるとなるとちょっと無理かなぁ。シオリちゃんは身の回りの物だけで出来たけど、コトリも同じってわけにはいかないやん。どうしたってプチ引っ越しぐらいの荷物の量になってしまうもの。 カズ君の家は行ったことが…
カズ君と会うんだけど、今日はなにか違うことが起こりそうな気がする。どこかいつもと違うんだぁ。今日がもしその日なら与えられたチャンスの夜かもしれない。 「カランカラン」 このカウベルの音を何回聞いたかしら、今日こそこれをウェディング・ベルにし…
コトリがカズ君と再会してかなり経つけど、相変わらず肝心なことが話せない状態が続いてるの。シオリちゃんも会ってるみたいだけど、たぶん同じだと思うのよね。この話せなくしてるのはカズ君だとずっと思ってたけど、どうも違う気がしてるの。カズ君はユッ…
カズ君と飲んでるんだけど、ちょっとカズ君の様子が変。変と言うより何かを言いたそうで、何度か口に出しかけては話題を逸らしてるの。こういう時のカズ君は本当に大事な話の時もあるけど、人を引っ掛ける時もあるから要注意。でも、ためらい方がちょっと気…
あの夜のコトリちゃんは緊張してたな。まあ二年ぶりやから無理もないか。でもちょうど良かった、あそこで婚約の話を蒸し返されたら、どう対応したら良いかわからんかったからな。なんとか伝えたいことだけは話せたからヨシとしとこう。あの後も会ったけど、…
今頃会ってんだろうな、あの二人。で、どうなっちゃうんだろう。あっと言う間に婚約復活でバージン・ロードまっしぐらとか。でもって、その幸せそうな二人を撮る友人のカメラマン加納志織ってか。私の役回りってそこなの。この女神様がだよ。 それも自分でま…
シオリちゃんには本当に感謝してる。一緒にって誘ったけど仕事があるからって。ホントかしら、きっと二人の時間を邪魔しないようにってしたのよきっと。ここのバーも本当に久しぶりやわ。ここでカズ君と二回もチェリー・ブロッサムの祝杯を挙げたんだ。なん…
コトリちゃんが会いたいって言ってるんだけど、どうにも嫌な予感がするの。会えばカズ君に会わせてくれの話になりそうで仕方がないのよ。二人が会えば確実に運命の歯車は回る気がするんだけど、今はまだ回って欲しくないの。だから仕事を理由に何度か断った…
私の本来進むべき道は、どこだったんだろう。今はフォトグラファーとして成功してるから、この道と信じたいけど本当にそうなんだろうか。ヒョットしてあの坂元のところから転落人生を送るのが本来進むべき道だったんじゃないだろうか。どう考えてもそちらの…
オレの通ってる道場は市内でも一番なんだ。格闘技好きなら誰でも知ってるぐらい有名。とにかく館長の教え方が上手くて上達が早いんだよ。この館長だけど優しいと言うよりお人よしと言ってよいぐらいの人なんだけど、稽古は甘くなんだよな。そんな厳しい稽古…
ユッキーの死から一年ぐらい経ったけど、カズ君少しだけ元気が出てきたみたい。それだけでなく少し変わったんだ。どう言えば良いんだろう、まるでユッキーみたいな感じなんだ。もちろん最後に会った可愛いユッキーだよ。前からなんでも良く気が付く人だった…
ユッキーと付き合ってから不思議な感覚があるんだ。なんかわかってしまうって感じて言えば良いかなぁ。誰でもそんな気がすることがあるけど、これが不思議に当たるってところ。ちょっと気色が悪いぐらい。 ユッキーの死もそうなんだ。わかってしまったんだ。…
坂元とは高校の時から付き合ってたの。大学も近かったから続いてたんだけど、大学入って早々にバージン奪われたんだよ。まだウブだったから、まさかあんなところで襲われると思ってもなかったわ。信じられなかった。 付き合ってたから『いつか』とは思っては…
ユッキーの見た未来に私がいたのは間違いない。でも私が結ばれるとは言い切らなかった。確実に強力なライバルが現れる。でもね、ムザムザ渡したりしないよ。誰が来ようと、まず私を蹴落とさないとカズ君とは結ばれないんだからね。 でねぇ、あの時のユッキー…
久しぶりにシオリちゃんに会ったんだけど、聞かされた話が凄すぎて未だに心の整理が付かないの。とりあえずカズ君が事故で入院していた話に驚いたわ。道理で一年近くも、シオリちゃんから音沙汰がなかったんだと初めてわかったの。 それだけでも十分に驚きの…
ユッキーの葬儀は異例の事だったが病院葬で行われた。家族や親族との接触をユッキーが喜ばなかったからだそうなんだ。私も参列させてもらったが、誰もが泣いていた。それも心の底から泣いていた。弔辞を読もうとした院長も一行も読めなかったぐらい男泣きし…
さて今日から一週間の予定の撮影旅行。天気も良さそうだからチャチャっと済ますか。たく、ちゃらいアイドルの写真集なんてつまらんなぁ。それもいまどきのアイドルは団体さんばっかりやから手間がかかる。なんか修学旅行の写真を撮ってるようなもんやん。 「…
「・・・今日の議題はこれで終りです。他になにかありますか」 定例の院内会議です。 「ちょっとよろしいですか」 「事務部長。なんだね」 「木村先生のことなんですが」 木村先生の名が出てきて会議室に異様な緊張が走ります。 「みなも関心があるだろうから良…
木村先生は変わられました。テキパキした仕事ぶりは同じなのですが、氷の女帝の冷たさはすっかり影をひそめ、温かい空気が周囲を満たします。その雰囲気は春風の様だと言う人もいれば、極楽浄土じゃないかと言う人もいます。 今じゃ観音様とか菩薩様と呼ばれ…
ユッキーはあの夜から別人のように変わったんだ。ユッキーであるのは間違いないんやけど、そこには氷姫も、ユッキー様もどこにもいなくなったのです。今にして思えば、ユッキーは本来の性格の上に氷姫の分厚い殻をかぶり、その殻のわずかな隙間からユッキー…
入院中に全部思い出した。覚えているようで、そうでもないのが人間の記憶というけど、まさにそんな感じ。あのユッキーの事でもなんだなぁ。 ユッキーの高校時代のあだ名は氷姫だったんだけど、氷はその冷たいというか不愛想さから付いたのは間違いない。一方…
今日の昼間はどうしてもカズ坊の病室によう行けんかった。ヘトヘト状態でユッキー様モードをやるだけの気力でえへんかった。他の仕事も嫌っちゅうほど立て込んでたし、それだけで精力消耗してもたわ。でも行かへんかったら行かへんかったで、カズ坊の奴、明…
もう二週間ぐらいかな。さすがにユッキーは名医や、後遺症はほとんど残りそうにないわ。これはこれで感謝せなあかん。後は落ちた体力の回復やけど、一朝一夕にはいかへんなぁ。ほんまユッキーには世話になった、冗談抜きでユッキーがいなかったらと思うとゾ…
「カランカラン」 なかなか良いバーやん。さすがは売れっ子のカメラマンや、良いセンスしてるわ。シックな内装、程よい照明、使い込まれたカウンター、クールなバーテンダー。バーならうるさいウチでも、こんなバーを見落としとったとは。 「山本君の順調な…
「カズ坊、今日はちょっとしたサプライズしたるわ」 「今日のリハのメニューは終ったで、もう堪忍してぇな。これ以上はさすがにキッツイわ」 そんないつもの漫才をやってる途中に病室にシオが飛び込んできました。 「わぁ〜ん、生きてる」 私もユッキーも唖…
カズ坊は仕事先だけ連絡してくれたらそれでOKって言ってたけど、ホンマにエエのかな。アイツだって好きな女の一人ぐらいおらへんのか。まあ、アイツの事やからいてもどうせ『片思い』やろけど。とりあえず仕事先にはおらへんな。女も来たけど全部一回きり…
話には聞いていたけど正直なところホントに辛い。理学療法士は 「最初から全部できなくても仕方ないですから、無理しないでください」 こう言ってくれるのですが、死ぬ思いでメニューはなんとかこなしました。だってやり残そうものなら 「今日ぐらいのお優し…