第3部後日談編:悪い女

 ユッキーの見た未来に私がいたのは間違いない。でも私が結ばれるとは言い切らなかった。確実に強力なライバルが現れる。でもね、ムザムザ渡したりしないよ。誰が来ようと、まず私を蹴落とさないとカズ君とは結ばれないんだからね。

 でねぇ、あの時のユッキーの言葉を思い出しているんだけど、はっきりとは言わなかったけど候補は二人で良いと思うの。一人は私で間違いないけど、もう一人は誰かがとりあえず気になるの。どう考えても三人とは思えないのよね。

 候補はユッキーが知ってる女であるのもまず確実。それも私を通して見えた女。そうなるとカズ君にまとわりついているのは二人。コトリちゃんか、みいちゃんと考えて良いと思うわ。他に候補はいない。でもそれじゃ、候補は三人になってしまう。つまり、二人のうち一人は候補ですらないことになる。

 二人ともカズ君には深い因縁があるのよ。みいちゃんはカズ君が高校の時から熱中していたし、コトリちゃんにはプロポーズして受けてもらってる。どっちも手強いけど、みいちゃんはいらない。私はみいちゃんがカズ君にした仕打ちを許すことができない。私のカズ君にあれだけの事をし、今またシャアシャアとのさばるあの女を許せるものか。

 それと現時点では、みいちゃんが一番危険で厄介。チャンスさえつかめば一直線に来るだろうし、真っ直ぐ迫られてカズ君が情にほだされてYESと答えてしまう可能性だってあるのよ。ユッキーの見た未来が間違いないのなら、何もしなくてもみいちゃんとは結ばれないはずだけど、それでもカズ君にNOて答えさすのも私は嫌なんだ。いや会わせるのも嫌だよ。いや、近づけることも、話題にさせるのも嫌なんだ。

 みいちゃんは邪魔なだけで候補なんかじゃない。コトリちゃんならまだしも、みいちゃん相手に私が負けるわけがないもの。カズ君の手を煩わせる前に、この私が叩き落としてやる。それとこれはテストにもなるわ。そう、私の手で叩き落とせるのなら、みいちゃんは候補であり得ないことになるのよ。

 ヒョットしてあの夜に坂元に出会ったのもそうかもしれない。アイツはあれからしばしば連絡を寄越すようになったんだ。よくこの私の前に顔を出せたもんだと思うけど、坂元とはそういう奴だからね。昔の事なんてすっかり棚に上げて、今売れっ子の元カノの美人女性写真家を落としたいぐらいだろうと思ってるけど、ちょっと思いついたことがあったので適当に引っ張ってるの。

 実は恩師の退職祝いがあったんだ。写真部の顧問でみんなに慕われてた先生。私も相当お世話になってるの。誰かがそれを聞きつけて音頭を取って会を開いたんだけど、プチ同窓会的なものになり、私も誘われて出席したんだ。そこでの話なんだけど、みいちゃんがいるのを見て意外だった。まさか出席してると思わなかったから。で、話を聞いてみると、やっと離婚調停が成立して実家に戻ってきているみたい。

 でさぁ、でさぁ、なかなかなんだよ。高校の時は地味だったけど、なんていうのかなぁ、すっごく色っぽい感じなんだ。私はあの手の女は好きじゃないけど、いわゆる男好きするって感じ。これなら、カズ君が前にみいちゃんに会った時に動揺したって不思議ないってところかな。そこでピンと来たんだ。みいちゃんと坂元をくっつけちゃえって。

 知ってる人は知ってるけど、みいちゃんも坂元の追っかけだったんだよ。私も追っかけだったから良く知ってるの。まあ、坂元にあんだけ夢中だったみいちゃんを、カズ君があそこまでよく落としたと思うぐらいだよ。そうやねぇ、当時の価値感覚からすれば坂元をダイヤモンドとすればカズ君は悪いけど路傍の石以下だったから。いやもっと差があったかもしれない。

 そこでね、さりげなく坂元の話題をみいちゃんに振ってみたんだ。明らかに関心があるのは丸わかりだったんだ。でもちょっと殺意が湧いたよ、カズ君に復縁を迫っておいて、坂元の臭いがすればこれかってね。でも都合が良いのも確かで、ちょっとほくそ笑んじゃった。後は巧妙にセッティングしてやった。絶対にうまくいくと思ってた。坂元の好みは知ってるんだ。とにかく色っぽい女に弱いんだ。人妻にも手を出した話も知ってるからね。

 バッチリだったなぁ。一撃コロリってやつ。あれだけ簡単にひっつくとは拍子抜けするぐらい。まあ、みいちゃんも高校時代から追っかけやってたアイドルなら文句ないだろうし、坂元だって元だけど色っぽい人妻だから嬉しいだろ。

 うふふふ、みいちゃんは坂元を知らないのよね。あれがどんな男かって。私は骨の髄まで経験させられたからね。みいちゃん、楽しみにしておくと良いわ。それが、カズ君にあれだけの仕打ちをした報いよ。なんかワクワクしちゃう。

 そうよ私は悪い女だよ。間違っても人の良い小娘じゃないよ。ほんじょ、そこらの女じゃ、潜ったことが無いような修羅場を乗り越えてるんだからね、とくにカズ君のためならこれぐらいは朝飯前なんだよ。

 みいちゃん、アンタには資格はないよ。アンタに世界一イイ男に触れる資格なんて、これっぽっちもないんだよ。カズ君に手を出そうとしたのが身の程知らずなんだよ。代わりに坂元をあてがってやったから満足しな。アンタはせいぜい坂元程度がお似合いよ。とにもかくにもこれで一つ面倒くさいのは排除した。