コトリがカズ君と再会してかなり経つけど、相変わらず肝心なことが話せない状態が続いてるの。シオリちゃんも会ってるみたいだけど、たぶん同じだと思うのよね。この話せなくしてるのはカズ君だとずっと思ってたけど、どうも違う気がしてるの。カズ君はユッキーに会ってから、『なんとなくわかってしまう』感覚はあるって言ってたけど、人の頭の中までコントロール出来ないって言ってたもん。
そりゃそうよね。カズ君の勘は良くなったのはコトリも認めるけど、人の心をコントロールできたら化け物じゃない。でもね、一人だけそれに近いことが出来たのがユッキーなのよね。シオリちゃんから聞いた話だけでコトリは良く知らいけど、病院の人もそうだったと言ってるらしいから、ウソじゃないと思うよ。人間は死ぬ間際になると、不思議なことが起こる事があるって話はコトリも聞いたことがあるからね。
ユッキーは死んじゃったけど、ユッキーはカズ君の心の中に生きている気がするの。なんかオカルトみたいな話になっちゃうけど、もしそうなら言わせていないのはユッキーと考えて良い気がするの。そうでも考えないと不自然すぎるのよね。シオリちゃんから聞いたユッキーの予言を聞く限り、ユッキーはカズ君に次の恋人と幸せになって欲しいしか受け取れないもん。だからまだ言えないのは、カズ君の心の回復を見ているユッキーが、
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「まだ早いよ」
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「カランカラン」
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「コトリちゃん、婚約復活は出来た?」
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「シオリちゃんこそ告白できた?」
「ダメだよ」
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「やっぱり昔話に花咲かせてるの」
「まあね、幼馴染だからね」
「じゃあ、同棲時代も」
「もちろんよ」
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「コトリは思うんだけど、あのユッキーの予言、なんで二人なんだろうね」
「私も理由は知らないわ」
「一人でもイイんじゃない」
「コトリちゃんはそう思うの」
「シオリちゃんはそう思わないの」
「でも、こうなってるから仕方ないんじゃない」
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「でもさぁ、仮に一人にするならコトリじゃない」
「どうして」
「だって、コトリは婚約者よ」
「その婚約はユッキーとの心の結婚で解消してるでしょ」
「結婚と言っても、気持ちだけのものじゃない」
「こういうものに気持ち以上のものってあるかしら」
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「それをいうなら、私はユッキーにカズ君を頼むと託されてるのよ。私一人でいいのじゃないかしら」
「ユッキーの予言は一人じゃないはずよ」
「でもその一人は私。コトリちゃんかどうかはわからない」
「シオリちゃんがどう言おうと、もう一人は間違いなくコトリだよ」
シオリちゃんの女神の呼び名は、もちろん綺麗だからだけど、単に綺麗だけだからじゃないの。女神と恋の勝負を争える女はいないって意味もあるのよね。女神が降臨すれば、頭を垂れて退き下がらざるを得ないって感じかな。でもね、そんな女神でも退き下がらすことの出来ない女はいるのよね。
ユッキーもそうだったし、言ったら悪いけどコトリもそうなの。コトリの天使の呼び名もダテじゃないってことなの。その証拠に、コトリがカズ君のプロポーズを受けた時に、シオリちゃんはアドバイス役でなにも出来なったんだもん。まあ、今ならどっちが選ばれても不思議ないって感じかな。
そこはわかるんだけど、なんでこんなややこしい状況設定にユッキーはしたんだろうってところ。どっちか一人でイイ気がするのよね。開き直れば、どっちがカズ君を手に入れても変わりはない気がするんだもん。幸せになるって意味でね。
うんと、うんと、難しいなぁ。シオリちゃんはこういう複雑そうな状況を読み解くのが割と得意なんだけど、コトリは苦手だなぁ。
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「ところでコトリちゃん。二人になってるのは意味があると思うよ」
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「私が先に見えてて、それからコトリちゃんが見えてたから・・・」
「それで」
「ゴメン、なんか勘違いしてたみたい」
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「勘違いでもイイから教えてよ」
「いや、話すようなもんじゃないよ」
「シオリちゃんの意地悪」
「そんなことより・・・」
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「今日は楽しかったわ。また会えれば嬉しいわ」
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『シオリもそれじゃ辛いかもね』
シオリちゃんは自分が先で、コトリが後って言いかけて口をつぐんじゃったけど、それに何か意味があるのかな。まあいいや、話せる日がコトリに先に回ってくるってわかっただけで十分じゃない。その時に必ずカズ君を落としてみせるもん。
コトリちゃんの天使の呼び名は、可愛すぎる顔に、これ以上ないほどマッチしたキュートなスタイルから付けられてるのよね。これは今もホント変わっていないわ。それだけじゃなくて、どんな男だって一目で魅了させてしまう可憐さがあるのよ。天使に匹敵する可憐さがあったのは可愛いユッキーぐらいじゃないかしら。とにかく私が持っていない魅力をすべて持ってるのが天使なのよね。
今夜は言える日が近い感じがしてるから敵情視察のつもりだったけど、天使の『なぜ二人』の言葉から、嫌なことに気づいてしまったの。コトリちゃんは聞きたがっていたけど、さすがに言えなかったわ。話したからって、何が変わる訳じゃないと思うけど、合ってるかどうかもわからないし、言うのは辛すぎたの。
ユッキーが私を買ってくれていたのは間違いけど、あれだけ買ってくれてたのに私だけじゃ満足できなかったと思い始めてるの。そうなんだよね、私だけでイイのならわざわざ天使を引っ張り出して来る必要ないんだよ。わざわざ天使を引っ張り出してきた理由があったはずよ。
天使でもカズ君を幸せに出来るわ。私も負けていないつもりだけど、その点での優劣での争いじゃないのだけはわかるの。そうなると、私が先にいて、天使が後から出て来たのは、天使が持っていて、私が持ってないカードがあるとしか思えないの。
ユッキーが望んでいるのはカズ君の幸せ。具体的には新しい恋人と幸せになってくれること。その点では天使も女神も申し分ないと思うけど、もう一つ条件があるわ。それは、少しでも早くじゃないかと思ってるの。だからこそ言える日は重要で、その日はカズ君の心の中にあるユッキーが『もう、いけるよ』と判断した日になるんだ。
言える日が来ても私はそのカードを手にしていないとしか思えないのよ。ユッキーは最後のカードを私がいつ手にするか見えにくかったんじゃないかと思うの。そのカードが何かがわからないけど、これが無い限り私はアタック出来ないんだ。下手すると永遠に手に入らない可能性すらあるから天使が必要だったと思ってるの。だから二人なのよ。
ずっと同じリングの上に天使と女神がいると思ってたけど、私はまだリングに登り切れてなかったんだよ。そのカードを手に入れてやっと互角の勝負になるぐらいかな。
でもどうやったら手に出来るんだろ。いつ手に入るんだろう。このままじゃ、天使が先攻になるじゃない。これは辛いし、怖いわ。この勝負は先攻が絶対有利なんだよ。そもそも後攻なんて成立する余地がほとんどないもの。
私は天使を甘く見てないの。天使の実力は一番よく知ってる。正直言って怖い。天使は自分の手番に死力を尽くすはずだし、天使の全力アタックにNOと言える男なんて、そもそもいないとしか思えないのよね。これはカズ君だって同じだよ。カズ君はプロポーズまでしてるんだから。
そうなのよね、カズ君が天使にNOって答えて私が選ばれてオシマイになるとは思えないもの。そんな状況から私にチャンスが生まれるのは天使がYESを勝ち取った時になにかのミスを犯してくれる時だけ。でも、あの天使がそんなミスを犯してくれるかなのよね。まさに、絶体絶命。そうなると私の希望はユッキーの
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『でも必ずしもそうなるとは限らないみたいだし』
今までも天使に対して辛い状況はあったけど、天使のアタックを指をくわえて見るだけ、天使がアタックにミスを犯してくれるのを待つだけ、そのうえ最後のカードがいつ手に入るかどうかがわからないって・・・これが私が『辛い』状況ってユッキーは予言したのかもしれないわ。ここまで追い込まれるなんて、予想もしてなかった。