さて今日から一週間の予定の撮影旅行。天気も良さそうだからチャチャっと済ますか。たく、ちゃらいアイドルの写真集なんてつまらんなぁ。それもいまどきのアイドルは団体さんばっかりやから手間がかかる。なんか修学旅行の写真を撮ってるようなもんやん。
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「シオリ先生。御面談の希望の方が」
「断っといて、もうすぐ出発しないといけないし」
「そうなんですが」
「どうしたの」
「実は・・・」
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「ストーカーかよ。で、誰なん?」
「それが、こういう方です」
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「・・・で、御用件は」
「実は木村先生が御入院されていまして、宜しければ先生に一度お目にかかりたいとの事なんです」
「えっ、悪いの」
「いや、そうでもないのですが、ちょっとお話しできれば嬉しいとのことです。決して急ぎませんから、先生の御都合が付くときで結構と仰っていました」
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「では来週末ぐらいでいかがですか」
「ありがとうございます。木村先生も喜ばれると思います。お忙しいところ、御手間と御時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした」
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「ここまでは、木村先生の使いとして、木村先生のお言葉、ご要望を正確にお伝えしました。ここからは、私の大きな独り言と思ってください」
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「どうかお願いです。今から行って頂けませんか。来週末では間に合わないかもしれないのです。木村先生に残されている時間はあとわずかなんです。これは病院職員一同からのお願いです。御無理を言っているのは百も承知ですが、なんとかならないでしょうか」
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「お〜い、今日の撮影旅行は中止にするよ」
「シオリ先生、でも」
「一日ぐらい減ったって大丈夫。先方には適当にうまく誤魔化してといて、頼んだよ」
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「実は木村先生は恋をなされました」
「へぇ、あの氷姫がねぇ」
「はい、それからすべてが変わられました」
「相手は誰か知ってはる」
「はい、山本先生かと」
「じゃ、そっちを呼んだらいいじゃない」
「それが・・・」
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「ごめんねシオリ、無理言っちゃって。お仕事忙しいんでしょ。もっとゆっくりで良かったのに」
それと事務長さんが会ってるだけで癒されてしまうってこの感じなの。一緒に居るだけで心の穢れが洗い流されてしまう感じがする。それに、ここは病室のはずなのに、まるで春風の吹く高原とか、話に聞く浄土とか天国にいる気がホントにする。
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「案外元気そうで安心したよ」
「いいのよ、私は医者だから自分の事はよくわかってるから」
「・・・」
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「ちょっとだけ話し相手になってくれてもイイかなぁ」
「もちろんよ。そのために来たんだから」
「本当に無理言ってゴメンネ」
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「カズ坊の状態は本当に悪かったの」
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「私、精一杯がんばったけど、それでも無理だったんだ」
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「もうダメだと思った時に神様にお願いしたの。私の命と引き換えに助けて下さいって」
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「そして願いがかなったの。だから私がここにいるの」
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「でも神様は優しくて、もうちょっとだけ時間をくれたの。カズ坊との幸せな時間を。ちょっと贅沢だったかなぁ。だから、もう何もいらない」
「ちょっとユッキー・・・」
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「もうユッキーでいいよ。私は氷姫じゃなくて、カズ坊のための本当のユッキーになれたんだ」
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「でもね、なにもいらないと思ったんだけど、一つだけ心配が残ってるの。私って友達いないから、頼める人がいないの。だからシオリに無理して来てもらったの」
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「カズ坊のことをお願い。きっと落ち込むと思うから、出来れば相談相手になって欲しいの。もしシオリさえ嫌じゃなければ、カズ坊の恋人になってくれたら嬉しい。そこまではちょっと無理だったら、できれば誰か良い人を紹介してあげて。どうかなぁ」
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「どうしてカズ君を呼ばないの」
「あら、シオリはカズ坊のことをカズ君って呼ぶんだ」
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「そうよ私はカズ君って呼ぶの。ユッキーがカズ坊と呼ぶのと同じ」
「そうなんだ、だったらちょうど良いじゃない」
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「あれっ、そっか、なるほど、そういうことか。たしかにどっちがイイかなぁ。私はシオリが良いと思うけど」
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「うんうん、シオリもそれじゃ辛いかもね。でも必ずしもそうなるとは限らないみたいだし、あははは、カズ坊は幸せ者ね。こんなにみんなに想ってもらってるのなら、きっと大丈夫だわ。ちょっと安心した。これで私も心配せずに済みそう」
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「ゴメンネ、ちょっと疲れちゃったから寝させて。今日は来てくれて本当にありがとう」
それとユッキーから確実に何かを託された実感があります。もちろん話の中でもカズ君の恋人になってくれと言われていますが、それ以上の何かの気がしてなりません。どういえば良いかわからないのですが、単に恋人になる以上の重い役目を託されたとしか感じられないのです。
それと事務長は、ユッキーは今ではなんでも御見通しにできるとも話していましたが、最後のところがそうだったのかもしれません。ユッキーには見えていたとしか思えませんが、私の他に見えていた女性は誰だったのでしょうか。
コトリちゃん、みいちゃん、それとも別の人。知りたかったのですが、ユッキーの体調は私と会った日を境にさらに悪化し、生きている姿を二度と見ることはできませんでした。どうもあの日に間に合うように会いに行けたのも、ユッキーの意志が働いていたとしか思えませんでした。