天使と女神シリーズ18 エミの青春

 高校生になった小林エミには両親に疑問がありました。夫婦仲はエミから見ても照れ臭くなるほど良いのですが、娘のエミから見ても釣り合いが悪すぎる点です。母は今でこそ小太りの肝っ玉母さんですが、かつては夢見る人と言われるほど美人で、教養だってどうみても大卒、さらに礼儀作法も心得ています。

 一方で父は高校中退の小男で母より背が低い。顔もわが父ながら胴長短足の醜男で、結婚した頃も貧乏で、結婚してからもずっと貧乏。接点さえ無さそうな二人なのに大恋愛の末に駆け落ちし、母の実家とは完全に縁が切られている状態です。さらにエミは母親に似て学校ではリボンのシンデレラと呼ばれる程の美人ですが、どこをどう見ても父親の面影がないというより無さすぎるのです。

 そんな小林家が忌み嫌う人物に甲陵倶楽部馬術会長の黒田がいます。父の子どもの頃からの喧嘩相手だったとの事ですが、とにかく両親が嫌うものでエミも黒田は不倶戴天の仇敵みたいに思っています。

 ある嵐の日にエミは母と親子喧嘩をします。その挙句に告げられたのが、エミは黒田の娘であるだったのです。母は黒田と付き合っていましたが、妊娠した途端に捨てられ、飛び降り自殺をしようとした時に父に抱き止められて結婚したと言うのです。

 父は母を黒田の子ども付きで受け入れ結婚しただけでなく、エミは難産で母はその時に子どもを産めない体になってしまっています。それでも父は母を愛し、エミを実の娘以上に愛しています。出生の秘密を知ったエミは父の愛の深さを知ることになります。

 そんな時に父の乗馬クラブと、黒田のクラブが果し合いのような馬術試合の団体戦を行うことが決まります。実力差は大人と子供ほどの差がありますが、母は何がなんでも勝つと意気込みます。一方でエミは叔父の広次郎夫妻から両親のさらなる結婚秘話を教えられます。

 馬術試合に勝つには大障害を飛べる騎手が必要です。それが飛べるのはクラブでコトリ、シノブ、ユッキーしかいません。シノブは失恋のショックで引きこもり状態で、コトリは馬で競技とは言え戦う事に気乗りがしません。でもユッキーは願いを受け入れ、三人は馬術試合に参加を決めます。

 対戦相手ははアジア大会代表を含む強豪ぞろい。貸与馬戦ですから馬のハンデは無いとはいえ厳しすぎる試合に臨むことになります。エミは馬術試合の勝利を心から願いました。父が苦労惨憺の末に作り上げた乗馬クラブを守り、母の黒田への妄執が解き放たれるようにです。エミの願いは果たして叶うのか。

エミの青春:あとがき

シノブの恋のサイド・ストーリーです。主人公はシノブの恋でチョロっと出てきた北六甲乗馬クラブの娘であるエミです。お話的にはシノブの恋の馬術勝負を北六甲乗馬クラブ側から描くところから入っています。 さすがにそれでは1冊は引っ張り切れないので、当…

エミの青春:エミの青春

サヨコも退院してくれて、なんとなく日常が戻ってきた感じ。でも以前と違う。そりゃ、もう公認なんてレベルじゃないカップルに大伴先輩となっちゃって、サヨコはもうベッタリ状態。休み時間になると飛んで行って大伴先輩の車椅子押してるもの。 大伴先輩も退…

エミの青春:初音叔母ちゃんの秘密

三月はお父ちゃんの誕生日。小林家では恒例で兄弟が集まってお祝いすることになってるんだ。 「兄貴、土産や」 「へぇ、諏訪泉って信州の酒か」 「そう思うやろけど、鳥取の酒や」 広次郎叔父ちゃんは仕事で行ってたみたい。 「これは旨いな」 「そやろ。そ…

エミの青春:北翔高校のお掃除

これはコトリもユッキーも関わっとらへんけど、北翔高校もエゲツナイ事やっとった。あの時にヤクザの幹部の息子や主だった連中は逮捕されて即退学処分になっとった。誘拐に、傷害に、監禁と婦女暴行未遂で逮捕やから、ここまではわかる。 北翔高校と言うか極…

エミの青春:後始末

女神の力を使うたから女神の仕事になるんやけど、 「コトリの読みは微妙に外れたね」 「毎度のこっちゃ。結果オーライってこと」 サヨコさんの人違い誘拐の手口はずっと違和感があったんよね。荒々しい割には雑すぎる点にやねん。人身売買組織みたいなもので…

エミの青春:呼び出し

ついにサヨコからの電話があった。 「エミ、お願い、風の丘公園にまで来て、来てくれないとサヨコは・・・」 「サヨコ、だいじょうぶ・・・」 サヨコの声に間違いなかったけど、もう弱り切ってるのは電話口だけでわかったぐらい。時間稼ぎの遁辞を入れて、 「警察…

エミの青春:作戦開始

作戦は遂行中。まず駅から学校までは心配なさそう。セレクト・ファイブも、もし襲われた時にどうするのかの手順をあれこれ考えてくれてた。やはり問題は駅から家まで。学校の近くの駅はまだ賑やかだけど、家に近い方は閑散としてるのよね。 無人駅だし、駅の…

エミの青春:大伴先輩

サヨコが攫われた時に大伴先輩が一緒だったんだけど、それを防げなかったことでちょっと評判落としてたんだ。でも、さすがに言い過ぎだと思ったよ。だってだよ、左足が折れてて松葉杖だし、相手だって複数だったって言うじゃない。それなのに、 『セレクト・…

エミの青春:コトリさんの作戦

サヨコ救出作戦だけど、この要点は犯人にエミを襲撃させる必要があるって言うのよ。全部推理だけど、犯人は強力なクライアントにごく近いうちにエミを納入する必要に迫られてるはずだって。 「サヨコさんを救出するには、エミさんを襲ってきた時に連中を踏ん…

エミの青春:サヨコの行方は

クラブに帰るとなぜかユッキーさんとコトリさんがいた。平日なのに珍しいものだと思ったら、 「心配してたよ」 「稲森小夜子さんって、班研究のときのサヨコさんだよね」 心配してわざわざ来てくれてたんだ。誰かと、とにかく話をしたかったから、話相手にな…

エミの青春:大事件

かなり高校生活が楽しめるようになったんだ。部活までは無理だけど、放課後も以前みたいにシンデレラよろしく飛んで帰るのはなくなったものね。お小遣いも少し増えたから帰りにモスとかに寄ってダベってる日もあるんだ。 エミは駅まで自転車で行って、そこか…

エミの青春:落成

建ててる途中から知ってるけど、出来上がって中に案内されたら腰を抜かしちゃった。立派なんてもんじゃないんだよ。どこのクラブハウスかと思ったもの。レストランも、ホンマもののレストランになってた。お母ちゃんなんて完全に目が点で、 「れ、レストラン…

エミの青春:ビビる話

地震から小林家の運命はガラガラ変わってる気がするんだ。クラブハウスにもしてた母屋が全壊しときには、さすがにお先真っ暗って思ったもの。ところが温泉が湧いてきて、入浴施設を作るためのクラウド・ファウンディングが順調に集まって、なんと温泉付のク…

エミの青春:温泉権バトル

社長が地主の息子、現地主に呼び出されたって連絡があったんや。ユッキーは即答で、 「シノブちゃん。留守は任せた」 おいおい、本業をって思たけど、コトリも行くで。北六甲クラブに着いて社長の軽ワゴンで地主の家に向かったんやが、 「ここだったんだ」 …

エミの青春:女神の計画

ユッキーの温泉好きも、ここまで来るとビョーキやな。 「どうしてよ。自然湧出のしかも炭酸泉だよ。わたしの温泉を持つのがずっと夢だったのよ」 「ユッキーのやない、小林社長の温泉や」 それにしても温泉はお湯を入浴施設に売るなり、自前で入浴施設とか旅…

エミの青春:温泉だ

エミも地震以来初めてクラブに行ったんだけど、お父ちゃん頑張ってた。厩舎の横のテントを広げて行って、仮設事務所と、仮設レストランまで作ってたし、ヒビが入っていた馬場も全部埋めて使えるようになってたもの。 温泉だけど濛々と湯気が上がってた。これ…

エミの青春:地震

深夜だったんだけど、 『ドンドンドンドン・・・』 まるで地の底から太鼓を打ち鳴らすような音がして、部屋が揺れた揺れた。エミもベッドから転げ落ちちゃった。部屋だけじゃなくて、 『メリメリメリ・・・』 柱や壁や天井が、 「エミ、だいじょうぶか」 お父ちゃ…

エミの青春:恋愛談義

例の三人の中で一番早く入会したのはシノブさんで、伊集院さんに連れられて来てたから、てっきり恋人同士だと思ってたんだけど、どうもちょっと違ったみたい。 「そうなりたかったんだけど、ライバルがいてね」 団体戦の前にしばらく来なかったのは失恋のシ…

エミの青春:金杯で乾杯

団体戦の勝利は気持ちよかったけど、甲陵もプライド高いから馬術会長杯に招待して来たんだよ。お父ちゃんも、 「神崎愛梨とメイウインドまで出場するっていうんや」 神崎愛梨の名前は馬術界では超有名。とにかく日本ではダントツでオリンピックでもメダルが…

エミの青春:大障害

翌週になって三人組がやってきて一六〇センチの垂直障害を置いてあるところに馬を近づけて来たんだけど、いきなりシノブさんが挑んだんだよ。それこそギャロップ走ってきて、 『ポ~ン』 飛び越えちゃったんだ。続いてユッキーさんが挑んだけど、 『ガタン』…

エミの青春:広次郎叔父ちゃんの家にて

「おう珍しいな」 「エミちゃん、いらっしゃい」 今日は広次郎叔父ちゃんのところにお使いに。たいした用事じゃないんだけど、ちょっとお休みをもらったようなもの。出迎えてくれたのは叔父ちゃんと奥さんの初音叔母ちゃん。二人は高校の時から付き合ってて…

エミの青春:父の怒り

今日は市内の乗馬クラブ対抗の障害飛越。 「エミ、覚悟しときなさい。今日のお父ちゃんは愚痴りまくるわよ」 結果は目に見えてて、うちのクラブじゃ優勝を争うどころか、完走が出来るかどうかレベルだものね。 「わかってますよ。エミもちゃんと付き合います…

エミの青春:女神達の夜話

「ユッキー、やっと出番やな」 「ホントだよ、主役のわたしを差し置いて話を進めるってなによ」 「だから主役はコトリだって」 「ちがうって、主役はわたし」 とは言うものの小声で話しとる。シノブちゃんが伊集院さんと付き合って順調やったんよね。コトリ…

エミの青春:二人の采女

采女って何かだけど、問題の時代なら地方豪族が自分の娘を天皇に献上したもの。仕事は天皇や后の身の回りのお世話だけど、なにしろ容姿端麗が条件で美人揃いだった上に教養までバッチリだったで良さそう。地方豪族の服属の証が始まりぐらいだって。 身分は高…

エミの青春:歴女の本領

日本史の自由研究の発表は噂通りのもの。見てるとムカツクぐらい小馬鹿にしまくるのよね。発表で多いのは戦国時代以降。捻って日露戦争や、太平洋戦争を取り上げてた班もあったけど、悉く撃沈。豆狸がその辺に強いのはリサーチ済。 サヨコのリサーチによると…

エミの青春:助っ人

サヨコと話してたんけど、 「それはそうと豆狸の課題どうしよう」 「困ってるよ」 豆狸の本名は小豆田。小柄で丸顔で小太りして狸に似てるから豆狸ってあだ名。日本史の先生なんだけど、はっきり言わなくても嫌われてる。理由は生徒をとにかく小馬鹿にするん…

エミの青春:ピクニック

ピクニックの話はお父ちゃんが嬉しそうに言いまわるもんだから、常連さんにも知られちゃって、 「社長、エミちゃんは誰とピクニックに」 「男も一緒かもしれへんで」 「社長のことやったら心配でコッソリついて行くんちゃう」 お父ちゃんならやりかねないと…

エミの青春:嵐

その日の天気予報は午後から雨だったんだけど、九時には降り出して、すぐに土砂降りになったんだ。屋内馬場は台風の時に倒壊してるから雨が降れば乗馬クラブはお休み。ただこの日の雨は半端なくて、いわゆるゲリラ豪雨ってやつ。風もビュンビュン吹いて嵐状…

エミの青春:シンデレラ

エミだって花の女子高生。友だちに遊びに行くのを誘われてるんだ。誘ってくれたのはサヨコ。転校して一番に友だちになってくれたんだ。サヨコの特技はとにかく情報収集。学校のありとあらゆる事を知ってるって感じ。学校とレストランの手伝いでいっぱい、い…

エミの青春:黒田

お父ちゃんは頑固なところもあるけど世話好きで人情に篤い人。お母ちゃんも世話好きでレストランの常連さんには肝っ玉母さんとして慕われてる感じ。人に恨みを買うようには見えないけど、我が家で黒田の名前は鬼門。 どうもお父さんは子どもの頃から仲が悪か…