謎のレポート(第33話)これが真相か

 ずっと、ずっと引っかかっていたのだけど、熊倉のケースはやはり無理が多すぎるところがあるのよね。簡単に言えばリスクが高すぎるってこと。とにかく秘密を知る関係者が多すぎる。

 死刑執行から助け出すためには、少なくとも死刑執行に立ち会った刑務官全員がグルにならないといけないじゃない。拘置所から運び出すのもそうだよ。この辺は詳しくないけど、病院とか家で死ぬとでは監視の目が違うはずだもの。

 これに比べたら、強姦犯を拉致するのはずっとお手軽のはずなんだ。刑務所だって医者はいるけど、出来るのはしょぼくれた町医者程度。それじゃ手に負えない病気やましてや入院が必要になればどうなるかなんだよね。

 どうなるもこうなるも病院に受診なり入院になるのだけど、囚人専用の病院は愚か、囚人用の病室を持つ病院もないんだ。じゃあ、どうするかだけど刑務所の外にあるごく普通の病院を利用することになる。

 警察病院もあるけど、あれは警察職員の福利厚生を目的に建てられたものなんだ。名前こそ警察が付いてるけど、市立病院が市民病院となってるふらいの意味しかない。誰でもごく普通に利用できる普通の病院に過ぎないってこと。

 そりゃ、囚人の入院なんて喜ぶところはないと思うから、なんだかんだと引き受けることは多いと思うけど、別に鉄格子付きの病室があったりするわけじゃない。普通の医者と、普通の看護師と普通の職員と、普通の病人が利用している普通の民間病院。言うまでもないけど警察官が常駐して監視している訳じゃない。

 ここはシンプルに言うと囚人でも刑務所で死ぬより病院で死ぬ方が監視は緩いし工作もやりやすいぐらいかな。入院中も刑務官なり警官が警護には付いてるけど、囚人が死ねば監視の目は一遍に緩むはずだもの。

 だからどう考えても死刑執行まで進ませておいて、そこから助け出して拉致するのは、やることが大きすぎるし、リスクも高すぎる。とにかく露見すれば国家的大スキャンダルになるもの。だから熊倉のケースは例外中の例外のはずなんだよ。

「復讐のため?」
「そうだと思います。愛する娘である翆のためではないかと」

 熊倉の死刑執行はあえて行われたはず。死刑囚の熊倉を拉致するだけなら、それこそクスリでも飲ませて入院させてからすればもっと容易だもの。だからあれはあえて熊倉を死の淵まで追い込まれる経験をさせるためだったんだよ。

 死刑執行は絶対的な死を意味するよ。とくに絞首台まで行ってしまえば観念する。独房から呼び出されただけでもきっとそう。あれこれ手続きが進んで首にロープを巻かれて突き落とされるところまで行けば、もう死んだと誰もが思うはず。そう、ギリギリの死の恐怖を味合わせるためにあえてやったのだと思う。

「なるほどや。熊倉の調教が、ゲシュティンナンナじゃなくマリだったのはそういうことか」
「狙いはマリの神のムチによる拷問死」

 シノブもそう思う。だからこそ最後の晩餐があったんだ。

「一度命拾いさせた後に殺されんのは辛いやろな」
「それもムチ打ちによる拷問死だものね」

 これこそが熊倉に与えられるはずだった死刑以上の刑だったはず。シンプルには絞首台でラクに殺さず、苦痛の末の拷問死を与えるもの。ムチを選んだのは復讐のため。マリの一打一打には翆の恨みが込められていたはず。

 それでも飽き足らないとしたのが、絞首台からの絶体絶命状態からの救出。生き延びたと思わせておいてからの苦痛の末の拷問死をさらに付け加えようとしていたはずなんだ。

 それだけじゃないはず、性転換させて女の体で男にレイプされる恐怖も付け加えていた気がする。実際にレイプさせなかったのは、コトリ社長も言ってたけど、男に喜ばせたくなかったんだと思ってる。

「それやったら、もしかして」
「ありえるね」

 熊倉以外の九人は強姦魔のはず。担当したのはゲシュティンアンナだけど、この連中への死刑以上の刑は熊倉と違い死刑じゃない。コトリ社長の言う通り神の快楽でマゾ奴隷にしただけでなく、神の快楽の中毒にしたはず。

 それもゴリゴリの重症中毒症状にさせ、強烈どころか苛烈な禁断症状が現れるまでね。そこまでが刑への準備で本番は売られた後。神の快楽の禁断症状はゲシュティンアンナじゃないと一時的でもスッキリ出来ないんだよ。人の男じゃ少し和らぐ程度。

 激烈な禁断症状は死ぬまで止む事なく襲い掛かってくる。これを和らげるために、男をひたすら求め、腰を振り続ける生活しか出来なくなる。だが、どんなに長時間輪姦され尽くされ、数えきれないぐらいイカされても満たされることはないはず。これが強姦魔に与えられる刑。

「淫乱地獄みたいな刑やな。やっても、やっても満たされへんのがホンマに辛そうや。これはこれで結構な刑やけど、熊倉はそのコースにせんで拷問死にしたんやな。そやけど、あれこれ計算違いのことが起こった」
「というか、わずかな可能性に熊倉が順応し適応したと言う方が正しいと思います」

 計算外が起こったのは熊倉のムチへの順応の速さ。コトリ社長の経験通り、ムチ打たれたら反発と言うか恨みが出るのが自然な反応のはず。とくに理不尽なムチなら必ずそうなるはず。熊倉へのムチは理不尽そのもので、問答無用で体を女にされ、心も女にしろとムチで強要されてるからね。こんなもの順応しようがないじゃない。それこそ、

『誰がお前の思う通りになるものか』

 こうなってしまえば二日目のムチで熊倉は死んでいてもおかしくない。それぐらいのムチはマリは余裕で揮ってる。

「最初の死刑執行で熊倉に生きたいと思う願いが強く出過ぎたんやろな」
「だろうね。女にされ、女の心になり、女として犯され、女としてイカされ、男の性奴隷にされても生きたいぐらいにね」

 そこまで熊倉に適性があったかをゲシュティンアンナとて見抜いたとは思わないけど、結果的には熊倉はマリのムチを受け入れてしまい、

「あれも入れてもたんやろな」
「セットにしてたから違和感がなかったのかも」

 回復の秘術だけど、編み出したのはドゥムジで良いと思う。この秘術には二つの効果があったはず。一つはムチの痛みだけ受けてダメージは素早く回復させるもの。もう一つは被虐を喜びと動機付けするもの。

 だけど被虐を喜びとするものはドゥムジには不要のもので、秘術を編み出す過程で副作用みたいに付いて来たのじゃないかと考えてる。というかドゥムジは被虐こそ喜びの究極のマゾヒストだから、そんな効果があるのさえ気が付いてなかった気がする。

 ドゥムジからゲシュティンアンナに回復の秘術は伝わったはずだけど、ゲシュティンアンナは十分に習得できていないと見てる。十分どころか習得できなかったはずなんだよ。

「そっか、そっか、習得したつもりで施したら回復の秘術は起こらなかったんや」
「起こったのは被虐を喜びとする動機付けだけ」

 それでもゲシュティンアンナには有用な秘術だったから駆使したぐらいに考えてる。これも熊倉には不要な秘術だけど、性転換術のセットとして組み込まれていたか、ウッカリ外すのを忘れていたと思う。

「そういうことか」
「火種だけ残っていたんだね」

 熊倉はかすかに伝わっていた回復の秘術を見事に開花させてしまったはずなんだよ。そうじゃなきゃ、おかしいじゃない。あれだけのムチを回復の秘術無しで誰も耐えられないよ。みんな死んじゃうもの。

「熊倉レポートって、ひょっとしたら翆への釈明書みたいなものかも」
「そうかもな。ムチで殴り殺し損ねた弁明書みたいなものかもしれへん」

 違うと思う。あんなレポートで翆が納得するものか。翆への報告があったとしても熊倉が拷問死しただけのはず。どうせ確認なんかされないもの。やはりあれは商品の紹介文のはず。それもまだ下書き段階だよ。だって長すぎるもの。あそこからレポート用紙一枚ぐらいにまとめていくはず。

「熊倉は選ばれるべくして選ばれたのね」
「陳腐やけど、まさに因果応報そのものやな」

 でも熊倉で最後のはずなんだ。大道は入院したんだ。詳細は伏せられてるけどおそらく脳出血。まずは助からないし、仮に助かってもこれまでの大道ではなくなるはず。闇の委員会も大道の隠然たる政治力があってのものだもの。

「もう解散したかもしれんな」
「そうね。最後の大仕事だったかもしれない」

 熊倉以降も囚人がゲシュティンアンナの下に送られたかどうかは確かめようがないんだよね。だけど、熊倉のためにあれだけ危ない橋を渡ったから、熊倉が最後の可能性も十分にあるはずなんだ。

謎のレポート(第32話)翆のケース

 翆が熊倉から受けた様々な性暴力、それによる屈辱の中に性奴隷誓約書へのサインがある。一度目はアヌスを守るために口による奉仕を受け入れ、咥えて飲むところまで強制されている。だけど、そこまでして守りたかったアヌスを騙されて無残に貫かれているんだ。

 二度目の性奴隷誓約書はもっと酷くて、翆は熊倉以外の男にも命令があれば無条件で体を開かなければならず、そこまでしてようやく二度目のアヌスを守れるだけ。さらに誓約書に違反、たとえば他の男を嫌がったりすれば、アヌスさえやられ放題になるんだよ。

 二度目の性奴隷誓約書へのサインがまさに強烈で、熊倉に貫かれてるだけではなく、熊倉の射精に合わせてさせられてるんだもの。ペンを握っていた翆がどれだけの屈辱と絶望を感じていたかを想像するだけで涙が出るもの。

 二度目の性奴隷契約書へのサインは翆のすべてを奪い、すべてを縛り上げて行くんだよ。あの昼休みのトイレから、さらにロリコン変態男とのベッドでの売春になっている。あの二度目のサインは翆を徹底的に破滅させるもの。

 そこまでされた翆が崩壊させられたのは、熊倉の前で、責め上げられ。ついに耐え切れずついにイカされた時で良いと思う。以後の翆はひたすら堕ちて行くだけになったもの。最後は自分で体を売ってたし、そこまでされた熊倉に保護を求めていたもの。


 ここなんだけどレイプ状態の翆が感じるのかの疑問あるのよね。それもイクまでだよ。レイプされた女は感じないんだよ、あるのは恐怖と屈辱と痛みだけ。こんな状況でイクどころか感じたりしないはずだもの。だからレイプされて気が狂ったり、PTSDになるのも珍しくないぐらいなんだ。

「シノブちゃんの言う通りだけど、レイプされるのって極限状況なのよね」
「だから発狂までするんじゃないですか」
「経験がないから難しいかもしれへん」

 そりゃコトリ社長は経験者だからよく知ってるけど・・・あれ、コトリ社長のレイプ経験も強烈なものだけど、五千年前のしかも人時代なのに発狂してないか。まあ、世の中例外もあるから、中にはレイプされながら感じてイクのがいるのか。

「こらっ、人を淫乱みたいに言うな。あれには理由がある」
「そうよコトリはアレが大好きだったから」
「違うやろが。大好きだけやったらユッキーも同じやろが!」

 だ か ら、エレギオンHDの社長と副社長の会話かよ。

「ちょっとだけ真面目に話すと・・・」

 ユッキー副社長が説明するには、レイプという極限状況を受け止めるのは精神、つまり心だとした。これはわかる。恐怖と屈辱を受け止めるのは心しかないもの。心で極限状況を受け止めた時に耐え切れず破綻してしまったのが発狂とかPTSDだよね。

 この心だけど、破綻しそうになると、破綻しないようにする防御メカニズムが働くことがあるんだって。たぶん現実逃避としても、そんなに間違っていないと思うよ。これをレイプにあてはめると、

「レイプされてると言う現実から心が逃避するとすれば、これは夢だと思うとか、単なる普通のセックスをしてると自分で思い込んじゃうぐらい」

 女のセックスって体だけじゃなく、心も受け入れないと感じないんだよね。ここも言ってしまえば心が受け付けないと体も感じないで良いと思う。心で拒否しながら体が勝手に感じてしまうのはエロ小説の世界だけって事だよ。

 妙な例えになるけど、商売女はセックスが仕事だけど、仕事の時には感じないそう。まあ、いちいち感じてたら体が持たないだろうし、心まで感じてたら商売にならないぐらいかもしれない。やった事ないから最後のところはわからないけどね。

 レイプは心が拒絶するから体も感じるはずがないのだけど、心の防御メカニズムが働くと状況が変わってしまうと言うんだよ。

「逃避した心はある種の妄想世界にいるのだけど、その世界は当人にとっては現実世界と感じてることになる。妄想世界では心がセックスを受け入れてるから体も反応することになる」

 えっ、どういうこと。

「レイプと言う極限状況は変わらないでしょ。言い換えればセックスさせられる状況よ。これをレイプとして心が受け止めたら壊れるから、自ら望むセックスと思い込むのだよ。そうなれば心は受け入れてるから体も受け入れる」

 なんとなくわかったような、わからないような。

「翆はまだ中学生よ。処女を奪われる状況に、心が耐えられなくなってもおかしくないじゃない」
「だから心が逃避したってことですか」

 レイプされた女がずべて発狂するわけじゃないけど、翆があの状況で発狂していない。心に深い傷は出来たと思うけど学校さえ休んでいないものね。そう出来たのは心の防御メカニズムが働いたからか。

 その後の状況も熊倉に弱みを握られて、次々と苛酷な状況に見舞われてる。口での奉仕、アヌスの貫通、性奴隷誓約書への二度にわたる屈辱のサイン、公開ストリップ、トイレからホテルでの売春・・・

 そのどれもが女として、ましてや中学生なら極限の状況だものね。だから翆の精神はその度に心の逃避を繰り返していたのか。言われてみれば、そうでもしないと耐えられる状況じゃないのはわかる気がする。

「とにかく連日みたいなものじゃない。そうしているうちに心の逃避のスイッチが入りやすくなったんじゃないかな。今日もまた犯されると感じただけで心が逃避してしまうぐらいだよ」

 心が逃避したら発狂とかは回避できるけど、その代わりと言ったらなんだけど、

「そうなのよね。心がセックスを受け入れてるから体は感じてしまうのよ」

 まだ中学生と言いたいけど、連日経験を積み上げてるようなものだものね。トイレだって昼休み中だし、ホテルとなると朝から夕まで、さらにその後は熊倉にやられる。一日だけでも、どれぐらいセックスさせられてるか怖いほど。

「翆が受け入れてた証拠みたいなものだけど、あれだけ連日やらされてアソコが壊れてないのよね。そのためには挿入時点でしっかり濡れ、性的な興奮状態になってたはずなの」

 これもあんまり想像したくないけど、そうじゃなきゃ到底無理だよね。翆には悪いけど、それこそ喜んで男を迎え入れる状態になってた事になる。そこまでの状態になるには、

「心の防御メカニズムがさらに強力に作用したんだと思ってる。翆が初めてイッたのはホテルだと思うけど、エンドルフィンの助けもあったはずだよ。翆には悪いけど、そりゃ良かったはずだよ」

 エンドルフィンとは体内ホルモンの一つだけど、非常に特殊な性質があるものなんだ。別名で脳内麻薬とも呼ばれるぐらいで、薬物の麻薬と同様に苦痛を取り去り、多幸感が促進させる効果がある。

 その効果はランナーズ・ハイにもするとされてるし、死の苦痛に見舞われても、その苦痛を無くしてしまうともされてる。なにしろ鎮痛効果はモルヒネの六倍半らしいのよね。さらにはセックスの快感まで高めると言われてるぐらい。

「エンドルフィンの分泌量については未解明の部分が多いけど、心の防御メカニズムが働く時に増えるはずだし、翆のように頻繁に心の逃避を行っていたら増えて行っても不思議無いはず」

 ここでだけど体がイクまで感じるのを覚えてしまった女は、心が受け入れれば体は感じたくなり、イクを求めてしまうのよね。あれは心が求め、体が欲するとして良いよ。だって女の最高の楽しみの一つだもの。

 これも、そこまで単純な話じゃないけど、女の感度も回数比例の部分は確実にあるのよね。回数も心の受け入れ方とか相手との相性があって複雑なんだけど、翆の場合は、たとえ嫌な相手であっても心が逃避するから結果として心も体も受け入れちゃったのか。

「おそらくだけど熊倉が翆をイカそうと執念を燃やしていた頃には、翆はホテルの客相手ならかなりの頻度でイクようになってはず。とにかく同時進行だから、遅かれ早かれ、そうなっていくしかないもの」

 翆はなにがあっても熊倉の前ではイキたくなかったはず。

「そりゃ、そうよ。処女をレイプされて、売春まで強要されてる相手だよ。女がイキ姿を見せるのは男と意味が全然ちがうからね」

 これは間違いなくある。男に取ってイクはセックスのセットの様なもの。と言うかそれだけを目的にセックスしてるようなもの。イケば満足するだけだから、どんな表情で、どんな格好だろうが、そんなもの気にもしてないもの。

 でも女は違う。女にとってもっとも恥しくて、見せたいものの一つがイキ姿なんだよ。たとえ恋人相手でも男との初イキだったら我慢しちゃうぐらい。そりゃ、恋人相手なら見られちゃうけど、あれですら見せるのを許してるぐらいの感覚だし、何回見せても羞恥は残るぐらいなんだ。

「だから翆は崩壊した。以後は完全に壊れちゃってるもの」

 翆がイカないためには心を逃避させずに心の拒否をすること。だけど相手は憎んでも憎み足らない熊倉だから、セックスをされてる状況だけで翆の心が限界に達してしまったのだろうって。

 そうなれば防御メカニズムが働いて心は逃避するのだけど、こんどは熊倉に感じてしまい体が昇り詰めようとしてしまう。なんとか我に返った翆はイカないように心で拒絶しようとする。

「逃避している心を戻すのにもストレスがかかるだろうし、戻ったところで自分を貫いているのは憎っくき熊倉じゃない。また心はストレスに耐え切れず逃避しようとするはずよ」

 こういう理解で良いかわからないけど、あまりのストレスに防御メカニズムがさらに強力に働き、それにともなってエンドルフィンが大量に分泌され、

「最後にイッた瞬間は体は臨界点を越えて大爆発かな」

 それでも翆は連続イキの阻止にも死力を尽くしてるんだ。

「あれは連続イキじゃなくて二度目のイキの阻止の気がする。だけど頑張れば頑張るほど心の防御メカニズムは強くなりエンドルフィンも増えたのだと思う」

 それって、

「翆は逃避した世界から戻れなくなった」

 発狂したでイイよね。翆の心が逃避した妄想世界がどんなものかなんてわかるはずもないけど、現実と合わせると、好ましい男に次々と求められ、体を開き、女の快感を楽しむ世界ぐらいかもしれない。

「まだ中学生だよ・・・」

 熊倉は翆で女の扱い方を覚えたって嘯いていたけど、あれは扱い方じゃなく、女の精神の壊し方だったんだ。監禁状態にされて間断なしに殴る蹴るの暴力、性暴力を加えられ続けたら、女じゃなくとも壊れるもの。

 そうだよ女がイッたから従順になったんじゃない、憎い熊倉の前でさえイカされてしまうぐらい精神が壊されてただけなんだ。女がイク快感に溺れて屈服したなんて思ってもらったら大間違いだぞ。女を舐めるんじゃない。

謎のレポート(第31話)選ばれた理由

 熊倉が中学時代に起こした委員長レイプ事件は検証できた。あれは掛け値なしの実話だ。あんな鬼畜な所業が実際に起こってるんだよ。だけど検証には手間がかかった。それは警察沙汰になってないからなんだ。

 そのために熊倉はノウノウと次の女を餌食にしていってる。警察沙汰にならかったのは委員長の親父が話を抑え込んでしまったからなんだよ。

「たかが市会議員程度に出来るか?」
「それより親でしょうが」

 まあそうなんだけど、委員長の親戚は政治家一族で、

「委員長の名前は青野翆なんです」
「それって、あの青野なの」

 これもわかってシノブもビックリした。こんなつながりがあったとはね。熊倉が起こした委員長事件で違和感があったのが委員長の父親の反応。ああされてしまった自分の娘にそこまでするかだったんだよ。

 体面を気にして娘を家に閉じ込めたのはまだしも、熊倉には一切手を出していないのが不思議過ぎた。そっちはそっちで復讐するのが親のはず。ここもあえて警察沙汰にしないことはあるのはある。

 警察沙汰になって表沙汰になることで二次被害を避けるためなんだ。泣き寝入りってことになるけど、悔しいけど性被害の一つの側面でもあるのよね。だけどね翆の場合は町中に知れ渡ってるじゃない。今さら表沙汰になるデメリットは少ないはずなんだ。むしろ警察沙汰、表沙汰にする方がメリットもあるはずだと思うのよ。

「あの総選挙か」
「青野史郎の指示と見て良いはずです」

 青野史郎は青野の変で大道に追い落とされた政治家。青野は三世議員で地元で三代にわたって連続当選を続けてる。だから政治家一族だけど、一族も県会議員になったり翆の父親のように市会議員になってるのもいる。

 それだけじゃなく市会議員や、県会議員にも青野の息のかかったのが多くて、県知事もそうなってる。その頂点にいるのが国会議員の青野史郎であり、青野王国と呼ばれるぐらいの権勢を揮っていたぐらいだよ。

 だから選挙も強かったんだけど、この時の総選挙は与党に猛烈な逆風が吹いてたんだ。さらに青野史郎にも定番の政治とカネの問題でスキャンダルを起こして苦戦が予想されてた。

 勢いに乗っていた野党も青野を追い落とそうと有力候補を送り込んでたのよね。青野は大接戦の末に辛うじて比例復活当選したものの、総選挙の結果としても現職大臣が落選するほど与党は大敗し、総選挙後にすったもんだの末のヘンテコな連立政権になったぐらい。

「だからこれ以上のスキャンダルはお断りだったんだろうね」
「臭いものに蓋したんやろな」

 翆の父親が娘を餓死させようとしてたかどうかは不明だけど、折檻ぐらいはしてたはず。政治家にスキャンダルは禁物だからね。翆の事件は政治的な不祥事とは言えないけど、選挙にプラスにならないの判断だったはず。


 翆は熊倉に売り飛ばされたし、その後の生活は誰もが想像する通り。そうそう翆が高く売れたのはまだ中学生だったから。さらに言えばグラマー・タイプじゃなくスリムな貧乳型。言いたくないけど、いかにも中学生らしい価値が評価されたからで良いみたい。

 ベドフィルまで行かなくても、その手の未成熟な女の需要は高いのよ。コアな客が群がってくる感じかな。自分で言いながら胸糞悪いよ。それとこういう経過をたどった訳あり女は逃げ出せないし、終わりがないのよね。

 だけど、そんなどん底の生活から五年後に助け出されてるんだよ。これがわかってシノブもホッとしたもの。これがわかったのは暴力団が経営していた地下売春組織の摘発があったから。

 保護された翆だけど、家には連絡されてる。でも父親は翆を引き取るのを拒否してる。建前上の理由は、

『成人した娘が何をしようか自己責任だ』

 詭弁でしかないけど他にも理由もある。翆の母親は交通事故で亡くなって若い後妻を迎えて子どもまで出来てるんだよ。今さら翆に関わりたくないってぐらいだよ。冷たいもんだね。だから施設に収容されたんだけど、中学すら卒業できていない。

 義務教育の公立中学だから、少々のことで留年なんかさせないものなんだよ。かなり危ない連中でも、追試だとか、レポートとかで目を瞑って普通は卒業させるもんなんだ。だけど、その前提として生徒がいて家族の協力がいるけど捜索願さえ出されていなかった。


 ここで一人の女が登場する。その女はわざわざ施設に翆を訪ね、その境遇を聞き、引き取ってるんだよ。それだけじゃない、傷ついた翆を癒すために懸命な治療をさせてるし、立ち直ってきた翆に夜間中学を卒業させ、さらに定時制高校に通わせ、仕事の世話までしてるんだ。

「良かったね。バッドエンドは救われないもの」
「そうや、日本人なら浪花節や」

 浪花節はさておきシノブも良かったと思う。

「まさかと思うけど青野の変に関係してるとか」
「可能性だけです」

 翆を救った女の名前は山本裕子。翆だけでなく性被害者の救済を行ってるし、そういう団体の代表でもある。だけど素性も救済のための資金源も謎に包まれてるんだ。うちの調査部も使ってもさっぱりわからないぐらい。どれだけわからないかは年齢さえ不詳。画像はあるけど、

「飛び切りの別嬪さんやん」
「二十代の半ばぐらいに見えるけど」

 見た目はそうだけど、裕子の活動歴からすると合わないんだよね。

「まさか太郎」

 そう考えると符合する部分は幾つもある。ゲシュティンアンナが性転換させた女なら美貌になるし歳も取らない。さらに大道の息子なら素性は完全に隠されるし、さらに資金源の説明も可能になる。

 裕子は何人もの女を救済してるけど、とくに翆は可愛がっていたで良さそうなんだ。仕事を世話したと言ったけど、自分の団体の事務員だものね。

「子どもは産めへんから娘代わり」
「そんな気がします」

 確証はないけど、とくに美貌で歳を取らない女はこの世にそうそうはいないのよね。というか居る方が不思議なんだ。この部屋には集まり過ぎるけど。もし裕子が太郎なら説明できてしまう部分が多すぎるのよ。

「そやなぁ、青野の変で青野史郎を破滅にまで追い込んだのもそうやし、大道が性被害者救済に熱心なんも説明出来てまう」
「熊倉をわざわざゲシュティンアンナのところに送り込んだのもそうなるじゃない」

 大道と太郎はしっかり結びついているはずなんだ。神の性転換を受けた太郎は別人として暮らさざるを得なくなったけど、大道は見捨てるどころか太郎のやりたい事の手厚い援助もしてるはずなんだよ。

「太郎が性被害を受けた可能性は」

 こればっかりは、どう調べてもわからなかったんだよね。ついでに言えば男関係も全く不明。でもさぁ、太郎の心は女じゃない。女の苦しみ、悲しみはわかってもおかしくないと思うもの。

 なんとなく思ったけど、太郎なら大道の後継者になれたかもしれないと思ったぐらい。人への思いやり、優しさって大事だよ。

「そこはわからんな。政治の世界は甘ちゃんじゃ生きて行けるものじゃないからな」
「そこがシビアなのよね。でも太郎のような優しさを大道もあったんだと思うよ。こんなもの知り様がないけど、家庭での大道と太郎は仲が良かったはずだし、太郎も大道を尊敬してたんじゃないかな」

 だからあそこまでしたはずなんだ。そうじゃなくちゃ出来るものじゃない。熊倉の死刑執行からゲシュティンアンナの館の扱いまで太郎の影響が大きいはず。いや、それがすべてかもしれない。熊倉は選ばれるべきして選ばれている。

謎のレポート(第30話)性被害者

 闇の委員会は第四の裁判所になるかもしれない。法の平等の下で裁判所で与えられた刑では不足していると判断され、

『死刑以上の刑』

 これが相応しいとされた囚人を選びゲシュティンアンナの下に送るぐらい。大道以外にどんな委員がいて、それが何人で、どこで会議を開いているかはまったく不明なんだよ。

「リモート会議かもしれへんな」

 そうかもしれない。大道だって歳だし、そんな危ない会議に定期的に顔を合わせるだけでもリスクがあるもの。それはそうと熊倉が選ばれた理由はわかりやすい。

「そうやけど、ひょっとしたらひょっとするで」
「可能性だけだけどね」

 歳の差がって一瞬思ったけど、神の性転換をされた女は歳を取らないで良いと思う。たとえ太郎が実年齢で六十歳であろうと問題なくターゲットにされる。別に太郎が関係なくとも熊倉は選ばれただろうけど。

 だけどゲシュティンアンナの餌食にされているのは死刑囚だけでないはず。死神法相が規定の六か月以内の死刑執行をかなりやったけど、それでも死刑囚って高齢者が多いんだよ。これは捕まった時にそうの場合もあり、死刑囚として執行を待っている間にそうなったのもいる。とにかく年間たった三人とは言え、死刑囚から調達するのは無理があるんだ。

「だから性被害者でしょ」
「強姦だけでも千件超えるで」

 強制わいせつも七千件以上だものね。強姦魔に対する刑だけど、五年以上の有期刑となってる。これに傷害が加わると無期または六年以上の懲役となり、致死も加わると無期または死刑。この辺はあれこれあるけど、大雑把にはこんな感じ。

「集団暴行でも単独犯でも一緒なんは納得できへんけどな」
「そうよ、やられる回数が全然違うじゃない」

 旧強姦罪と旧集団強姦罪は扱いが違って、旧集団強姦罪の方が重かったんだけど、強制性交罪に変わった時に、単独での強制性交罪が旧集団強姦罪より重くなったから吸収された格好になってるんだよね。

「被害者視線がないと思うよ」
「そうやで。一人が相手なんと、十人や二十人も相手するのはどれだけ違うか知らんやろ」

 ええ、普通は知りません。というかそんな経験を持っているのがコトリ社長です。

「あれってな、ホンマに休みなしにやられるんよ。男は一発やったら休みがあるけど、他がやってるうちに回復タイムが取れるし、場が盛り上がるから二周目なんて普通にあるし、三周目とか、四周目かってあるんやで」

 今日は力は入ってるな。

「十人相手で一発ずつでも男は一発やけど女は十発や。これが同じ被害ってなんでなるんよ。十発分を連帯責任で取るべっきゃんか。裁判官のカマを十人ぐらいで掘ったったらチイとは尻の痛みでわかるで」

 この辺は性被害でなくとも、犯罪被害者はやられ損の部分があるのは間違いないのよね。そりゃ、損害賠償請求はできるけど、相手に払う能力がなければ単なる空手形だもの。熊倉がやった大松銀行襲撃事件で殺された被害者もそうだけど、残された遺族もなにも受け取れないに等しいのが現実。

「女への性被害の理解がないのよね」
「そうや単に一発やられたぐらいにしか扱っとらへん」

 これはシノブも同意見。ある強盗強姦事件だけど、一人暮らしの若い女のアパートに侵入して縛り上げレイプしてるんだよ、それも何件も。この時のレイプの特徴は、とにかく長時間に及んでいる事。最長はなんと二〇時間にもなるって言うから驚かされる。

 それもレイプするだけじゃなく、おカネを盗ったのはまだしも、女のあられもない写真を撮り、

『バラシて欲しくなかったら・・・』

 こうやって口止めさせるだけなく、金銭をさらに脅し取ったり、さらなる性関係を結ぶように強要してるんだ。中には要求されたカネが払えずに売春までさせられたものもいる。それなのに下された刑はたったの懲役二十五年だし、これでも異例の重さって言うんだもの。

 レイプされるのはその場の屈辱はもちろんだけど、むしろレイプされた後の方が大きいと考えてる。女に取ってレイプをされた事実は大きすぎる黒歴史になってしまうんだ。だから犯行現場の写真さえ脅迫材料にされてしまうぐらい。

「熊倉レポートにあった委員長みたいなケースやな」
「救いが無さすぎて読むのも辛かった」

 シノブもそう思う。だから、たとえ犯人が捕まっても女にはレッテルどころか烙印を押されてしまうぐらいの被害に遭うのがレイプ。そう、

『レイプされた女』

 こうやって白い目で見られ続けるんだ。だから仕事だって辞めざるを得なくなるし、家だって住めなくなるから引っ越しを余儀なくされるぐらいは普通にあるのよね。でもまだこれでも済まない事も少なくない。

 レイプのトラウマで男性恐怖症になったり、引きこもりになったり、発狂するのだっている。さらにだよ妊娠なんてしちゃったら、これでもかの追い打ちだよ。

「そうやお嫁に行けない体にされて、一生が台無しにされるんや」

 一度ぐらいお嫁に行ってみろとコトリ社長には言いたいけど、ちょっと古臭いけどその通り。コトリ社長はエッチは大好きだし、さすが五千年の経験者だからアブなプレイだってなんでもござれなんだ。もっとも焦れった過ぎる程の純愛も大好きなのは神の多面性。

 だけどね性犯罪者への姿勢はムチャクチャ厳しい。論外に厳しいのは人さらいだけど、性被害者だって容赦なしだもの、

「当たり前や。災厄の呪いの糸で嬲り殺しにしたる」

 一種の死刑だけど、そんな甘いものじゃなくて、死より苦しい苦痛に間断なく襲われて、これが自分で死を選ぶまで永遠に続くっていう言う恐ろしいもの。どっちかというと無期拷問みたいな刑。次座の女神として古代エレギオン王国に君臨していた頃は、

『そちは永遠に苦しむべし』

 この判決を受けた罪人は大急ぎで自殺したとか。その自殺するまでのわずかの間でも発狂するぐらいの苦しみに襲われたそう。三千年以上も前の話だけどね。でもコトリ社長を怒らせたら、今でも災厄の呪いの糸を使えるのはシノブも知ってる。

 刑法って、色んなバランスで出来てるし、下される刑の判断も、これまでの前例の積み重ねでバランスを取るようになってるぐらいは知ってる。良く言う初犯だからだとか、前科があるとかの類。

 それぐらいはシノブだって知ってるし、裁判所だってそれなりに信用できるけど、性被害への刑は軽すぎると思うのよ。あれは男の感覚で決めてるとしか思えないもの。

「そうだと思うわ。自分がレイプされる感覚なんて、ホモにでも襲われない限りわかるはずないよ」

 被害者でなくとも女ならば、レイプ犯は問答無用でチンチン切り落としで良いと思ってるはず。それぐらい憎しみの対象でしかないし、そうしておけば再犯は起こらないもの。でもまだ足りないよ、切り落としたうえで死刑かな。そうはいかないのが法治国家だけど、

「話は横道にそれてもたけど、闇の委員会のメイン・ターゲットは強姦魔やと思う」
「わたしもそう思う。年間千件もいるから三人ぐらい病死で消えても目立たないよ」

 刑務所の年間病死者数が三百~四百人ぐらいのはずだから、統計上は出て来にくいだろうな。どっちにしてたったの三人だし。それに強姦魔ならゲシュティンアンナの条件である若さにも合うのが多いと思う。

「女からすればゲシュティンアンナの餌食にされる強姦魔の扱いに喝采を送るのも多いと思うよ」

 本音はね。チンチンこそ切り落とされないものの、根こそぎ消滅するだけでなく完全な女にされてしまう。熊倉のケースは例外的で、ゲシュティンアンナなら性転換直後のバリバリ男の心のままの餌食をレイプするはず。

 目には目を式だけど、強姦魔に同じ思いをさせてやりたいと願ってる被害者は殆どのはずだよ。末路は死ぬまで男の性欲処理をさせられる。女の姿になって男にヒーヒー言わされるのもカタルシスになるかも。

 もちろんそうなっても自分が失ったものは戻ってこないけど、心情として強姦魔がそうなるのに負の感情が生じる余地は無いのもわからないでもない。ここも誤解しないでね、そうなるべきと主張している訳じゃないし、そういう個人的な復讐を禁じたり、加害者である罪人への公平な裁きが必要なのは認めてるんだから。

「シノブちゃんの言う通りや。過剰な復讐は不毛や」

 やりまくってたクセに、

「あれは仕方ないよ。時代があまりにも違い過ぎるんだから」

 それはそうだけど、

「それでもゲシュティンアンナのやり方でも、元男とは言え、女が犠牲になってる点は気に入らんところはある」
「そうよね。いくら刑とか罰と言っても、その元男で楽しんでるのは男だし」

 そこは確実にある。レイプ魔が女に変えれて、男にレイプされる部分はカタルシスになるかもしれないけど、ここで一番楽しんでるのは男じゃない。熊倉みたいにわざと処女で調教して変態狒々親爺に売り飛ばされても、楽しんでいるのは男である変態狒々親爺。

「こんなものは誰もが満足するような方法はないのよ」
「性被害者だって、女になった強姦魔がヒーヒー言わされてイカされまくったら、今度は強姦魔がイクのが許せんようになる気がする」

 ちょっとコトリ社長。それはずれてるよ、

「たまたまかもしれんけど、ゲシュティンアンナが年間三人しか出来へんのも適当なブレーキになっとるんちゃうかな」
「そうよね、年間千人も量産されたら、世界の性産業がエライことになっちゃいそうだもの」

 ユッキー社長。見るところが違うでしょうが。だけど三人は絶妙かもしれない。熊倉がゲシュティンアンナに性転換されてマゾ奴隷にされてしまったのは正直なところ同情はする。最後の時点から熊倉に待ち受けてる運命は、女にされた夜に熊倉が恐れていた運命にしかなりようがないもの。

 だけど熊倉の犯した罪は、悪いと思うけど命でも償ったと言いにくいのよね。大松銀行事件の被害者や遺族がどうなったかのルポタージュを読んだことががあるけど、どれだけの家庭をぶち壊したことか。

 あのクラスになると逆の意味で法による処罰を越えてる存在の気がしないでもない。そのクラスを年間三人選んで復讐刑を与えるのは絶対否定できないところがあるもの。だってだよ、あの事件にシノブの家族が巻き込まれていたら、法廷で熊倉に一撃ぶっ放してやったよ。

「アカンて」
「そうよ当たらないから巻き添え被害しか出ないもの」

 ノーコンなのが無念だ。

謎のレポート(第29話)女神の推測

「太郎の行方はホンマにわからんのか」
「家には住んでいませんし、どこかに就職した記録もありません」

 大道の息子の太郎も調べたけど、死亡届が出ていないだけで杳として行方がしれないんだよ。だからと言って、大道家が捜索願も出していない。

「妙やな。内輪で勘当になったかもしれんけど」
「その数年前から大道がLGBT問題に積極的に取り組み始めたのと連動していると見れます」

 大道がLGBT問題にあれほど関心をもったかの理由も不明なんだよね。表向きはそれなりの事を言ってるけど、大道の取り組み方は熱心というより、異常なぐらいで、掛け値なしに政治生命をかけてのもの。

「言うたら悪いが票にも、カネにもならん仕事やもんな」
「だとすれば、大道が取り組みたかったからになるね」

 そう取るべきだと思う。

「だから太郎の失踪とリンクさせてる訳ね」

 ずばり太郎はLGBTだったで良いと思う。この問題に悩まされたからこそ大道はLGBT問題にあれだけ熱心だったはず。

「だから月刊パンスベルニアの記事で奇跡の性転換をされたのは太郎やったと」
「コトリ社長、雑誌は残ってないのですか」
「あんなもの全部残し取ったら三十階が雑誌だらけになるわい」

 ごもっともです。

「そやけど記事の内容はシノブちゃん見つけた画像ぐらいしかなかったわ。写ってないないところは・・・」

 覚えとるんかい! まったく神の記憶構造ってどうなってるのやら。でも助かった、雑誌も国会図書館に納本されるはずなんだけど、該当号は問い合わせても何故かないんだよ。

「政治家だから息子がLGBTだとバレるのを伏せたんだろうね」
「しょうもないとこで揚げ足取りしたり、悪口、陰口叩きまくるのワンサカ湧いてくるのが政治だものね」

 息子がLGBTだって恥ずべき事じゃないと思うけど、まだ時代が時代だし、今だって偏見が消えてるとは言いにくいし。

「でもそれだじゃなさそうね。おそらくだけど・・・」

 息子がLGBTと知った大道の理解は、

『息子はホモ』

 これぐらいであったはず。だからやりそうなことは、まず息子を男じゃなく女を愛せるように努力をしたはず。大事な跡継ぎだものね。一方で息子がホモである事実を伏せて回っていたはずなんだ。

 そうやってあれこれ治療を重ねるうちにLGBT問題を深く知るようになったぐらいでよいはず。LGBTと一括りに言うけど内容は同じじゃない。ごく簡単には、

 ・レズ・・・女の心を持ちながら女を恋愛対象にする
 ・ゲイ・・・男の心を持ちながら男を恋愛対象とする
 ・バイ・・・男も女も恋愛対象にする

 男が男を愛するのをホモって呼ぶけど、あれは正確にはホモセクシャル、同性愛者のことでレズとゲイを含めた概念なんだ。ここでだけどLGBまでは男であれ、女であれ自分の体を肯定してるんだよ。

「そういうことね。単なるゲイなら、それを世間に隠しながら暮らすことは出来るはず」

 そうなんだよね。政治家ならやりにくいかもしれないけど、カミングアウトする者もいるもの。だから隠れホモの噂の有名人は政治家にもいないことはない。だけど、

 ・トランスジェンダー・・・体の性と異なる心を持ち、心の性になりたい

 つまりTは自分の体を否定していることになる。性同一障害って言えばわかると思う。たとえば心が女なら自分の男の体を忌避して、恋愛対象が男になる。ゲイとはだいぶ違うのがわかるかな。

 こういう問題は関心のある人と言うか、自分が当事者になる、もしくは家族に起こらないとなかなか理解できないところがあるし、そもそも興味すら持たないものね。大道だって息子が当事者になってやっと理解できたんだと思う。

 すぐには理解できたどうかはわからないけど、跡継ぎと考えていた息子だし、大道だって頭が切れる男だから最後はすべて理解したと思ってる。だからLGBT新法にあれだけ尽力したんだと思う。あれは息子のためでもあったんだ。

 性同一障害治療もあれこれあるけど、一番重症なものに対する治療として性転換手術がある。これも技術的には男から女にする方が少し難度が低いとか。理由はあれこれあるけど、とにかくペニスの形成が難しいらしい。

「それはわかる。ちょん切って穴掘る方がラクそうや」

 だ か ら、表現をもうちょっと上品に出来ないかなぁ。今回の事件にミサキちゃんがいないのはしょうがないけど、ミサキちゃんがいないとコトリ社長は果てしなく暴走しそうで嫌だ。それはともかくその太郎だけど、

「よく見つけてきたね」
「月集殿より簡単でした」

 太郎は幸か不幸か雲を突く大男で風貌も魁偉として良い。なにしろ筋骨隆々、柔道二段の猛者。女でも格闘技好きなのがいるけど、太郎はそういうタイプだったのか、それとも親父に命じられてやってたのかの経緯は不明。

 調べようがないけど、太郎の風貌が問題になったのかもしれない。性転換手術の基本は性器の転換。男から女なら男性器を取り去って女性器にするのだけど、申し訳ないけど、それだけじゃ化物。

 だから女性ホルモン剤を使って女らしい曲線を作ったり、胸の膨らみとかも作るんだよ。後は美容形成的な話になるけど、豊胸術をやったりもあるとは思う。顔だってね、

「なるほどな。太郎の体は男らしすぎて、女らしくする手間は半端やないってことか」

 この辺はさすがに当事者になった事ないから、本当の気持ちはわからないけど、女の心を持っていたら、出来たら可愛い女の子になりたいと思っても不思議無いと思うんだ。そりゃ男性器の除去と女性器の形成は絶対だろうけど、他も目を瞑りたくないはず。

 ブラック・ジャックでも実在していたら、カネさえ積めばやってくれそうだけど、現実にいるはずもなし。そんな時に大道はどこかで聞いたんだと思う。

「ゲシュティンアンナはやっとったんか」
「断片的な情報過ぎますが、神の奇跡を見せての信者集めと、資金稼ぎのためと考えられます」

 教団の成長期、拡大期だから資金集めに必要だったはず。月刊パンスベルニア以外にも調べ上げると、奇跡の性転換があったらしいのアングラ情報はあるんだよね。もっとも怪しげ過ぎるもので、

「ある種の都市伝説扱いと見て良いかと思います」
「そうなるやろな」
「神のわたしでさえそう思うもの」

 大道も信じはしなかったかもしれないけど、藁をもすがる気持ちで訪ねたのかも。まあ、訪ねるだけなら害ないし、問題は将来の御利益じゃなく、目の前の息子の問題だから結果は自分の目で確認できるからね。

「だから太郎は行方不明になったんか」
「熊倉の例からして完全な別人になりますから、性転換後は名前も変え、大道家と関係ない人物として生きているのだと考えられます」

 おそらくこのためにもLGBT新法は必要で、内容に妥協をあれだけ許さなかったで良いはずなんだよ。

「でも太郎の秘密は守らなければならなかったか」
「ええ、手術による性転換ではないからなおさらで良いと思います。加えて神の性転換の秘密を守る約束もあったと思いますし、そこまで変わった太郎の秘密を守る意味もあったと思います」
「お蔭でコトリは月刊パンスベルニアを失ったと」

 コトリ社長、それはどうでも良いでしょうが! とにかく太郎の性同一障害問題で大道とゲシュティンアンナの間につながりが出来たはず。

「性被害者の方は」
「経緯から可能性は無いとは言えません」
「あっ、そういうことか」

 女になった太郎だけど、大道家と表向きの関係はなくなったけど、密かに連絡を取り合っていたはずなんだ。まあ、直接会って話しているのを見られても太郎と気づく人はいないだろうけどね。

 その太郎だけど、熊倉レポートでもわかるんだけど、絶世の美女になってるはず。同時に見た目通りにか弱くもなってるのも間違いない。だから襲われた可能性は残る。

「ただの襲われ方じゃなかったかもしれへんな」
「単純なレイプでも深刻な時は深刻よ」

 太郎が襲われレイプされたのかどうかは確認しようもないけど、大道が政界引退前から取り組み始めた性被害者問題への姿勢も相当なもの。大道は議員こそ引退してたけど、未だに政界への影響力は残されていると見られてるのよね。

 そりゃ、首相のクビを挿げ替えるような力は残っているとは思えないけど、取り組んでいるのが性被害者救済だから、与野党を超えて協力は得られやすいし、あえて反対する議員もいないと思うんだよ。ここでコトリ社長が、

「それやったらゲシュテインアンナの力も限界があるのかもしれん」
「コトリもやっぱりそう思うよね」

 そう考えるか。でもそうかもしれない。過去まで遡っても、ゲシュティンアンナが性転換を行った人数は年間で三人ぐらいが最高とも見れるんだよ。これは三人しかする必要がなかった、もしくは三人しか相手がいなかったとも見れるけど、

「そういうこっちゃ。三人しか出来ないと見るのが正しいかもしれへん」
「人の外側の容貌の変化はそんなにパワーはいらないけど、身長を変えるのは大変なのよ。数センチならともかく、熊倉みたいに三十センチなんて途方に暮れるぐらい。それに体の中もでしょう。考えただけでゾッとするぐらいパワーと手間がかかるもの」
「一撃みたいなもので、一回やるとチャージ期間が三か月ぐらい必要なんかもしれん」

 結論って程じゃないけど、ある時期までは女の心を持つ性同一障害者の治療を教団の資金稼ぎのためにゲシュティンアンナはやってたはず。いくら取ってたかはしらないけどね。それが大道と手を組むことによって、囚人ルートが出来てからはそっちに切り替えたんだろう。

「大道が闇の委員長だろうね」
「そっちに睨みが利くのは大道クラスじゃないと無理やろうし」

 大道が動いたかは確かめようがないけど、政府と話を付け死刑以上の刑を課すための囚人を選び、ゲシュティンアンナに送っている仕組みか。

「ゲシュティンアンナが選んでる可能性は」
「無いよ。ゲシュティンアンナが出した条件は若くて健康ぐらいじゃない。容貌なんてどうにでもなるから」
「下請けに徹して責任は闇の委員会に振ってるよ。たぶん買っているのもホンマやと思う。そうしといたら一連托生になって秘密は守られやすい」

 ここも考えようによっては複雑な気分になる。だってだよ大道が手を組む前のゲシュティンアンナの性転換は完全に人助けになるじゃない。そりゃ、ゲシュティンアンナに性転換された性同一障害者は幸せのはずだもの。

 だけど大道と手を組んでの死刑以外の刑を与えるのは影を曳くよ。わざわざやらなくても良いものじゃない。

「人から見ればそうだけど、神から見たら違うわよ」
「人の道徳と考え方がちゃうからな」

 そこが神と言えば神なんだよな。