宇宙をかけた恋:惜別の宴

 ジュシュル船長たちを三十階招いています。

    「小山社長、まさか伝説の浦島夫妻が生き残っておられるとは感無量です。でもどうやって、今まで・・・」
    「記録を読んでいないのか。地球の神が宿主を移動するのに装置は不要だ」
    「そんなことが本当に・・・」
    「リスクは生じる。でも悪いが、他はわたしとて調達は無理だ。それに乙姫も浦島もエランのアラ時代に産みだされた神だ。始末はエランでするのが筋だろう」
    「いえ、御高配に感謝します」

 そこから雑談になったのですが、

    「我々が武力行使を行っていればどうなっていましたか」
    「たぶんガルムムと同じ運命。でもそうしたくなかった。エランに第二のアラルガルが誕生しているとは夢にも思わなかった」
    「いえ、偉大なるアラの足元にも及びません」

 ユッキー社長は少しだけ厳しい顔で、

    「ジュシュルよ、お前の力は乙姫や浦島を上回る。いざとなれば決心するがよい。そうはならないと見てるがな」
    「そこまで見えるのですか」
    「それぐらい見えないと地球では生き残れない」

 ジュシュル船長は、

    「本当はあなたに来て頂きたかった。そうなればエランは再び栄光を取り戻せるでしょうに」
    「政治は厭きた。それにわたしとてアラルガルの半分しかエレギオンを守れなかった。アラこそ真の英雄。神の力など微々たるものだ。本当に必要なのは人の力だ」
    「もうお会いすることもないと思います。でも、地球の女神の心からの協力があったことを忘れません。もしエランに到着できれば、長く語り継がれることになります」

 ユッキー社長は表情を緩められて、

    「そんなに大げさに考えなくてイイよ。困った時はお互い様って言葉が地球にあってね、ちょっと助けてやろうと思っただけ。気まぐれよ」
    「いえ、やって頂いた事は・・・」
    「ジュシュル、あなたもこれから長い記憶の旅に出るわ。百年、二百年なんて瞬きするぐらい短く感じるようになる。アラで一万年、わたしで五千年よ。いつの日かエランがかつての輝きを取り戻した時に宇宙旅行に招待してね」

 ジュシュル船長は驚きながら、

    「どうしてそれを・・・」
    「アラに聞いたのよ。意識移動技術自体は難しいものではないってね。意識分離技術さえあれば容易だってさ」
    「でもエランにはシリコンが・・・」
    「あれは最初に意識分離をする時には大量に必要になるけど、一度分離してしまえば移動にはちょっとで十分よ。それにシリコンを海に捨てたのはジュシュル、あなたじゃない。もうシリコンはエランに無いことを示すパフォーマンスとして必要だったわ。でも、ちゃんと残ってる」

 そこまでユッキー社長は読んでたのか。

    「なにからなにまでお見通しですか」
    「一つ教えておくわ。宿主の移動に装置は必要ないのよ」
    「それは地球の神だから」
    「地球の神もエランで作られた神だよ。浦島や乙姫だって出来たんだ」

 それを教えちゃうの。

    「どうしてアラルガルは移動しなかったのですか」

 ユッキー社長は遠くを見るような目になり、

    「アラの宿主の移動はわたしなら出来たのよ。コトリも頼んでたから、やるはずだったの。でもアラは拒否したわ。アラの気持ちはよくわかったわ」
    「どういうことですか」

 ユッキー社長はきっとシラクサからの脱出と、兵庫津でコトリ副社長と互いの記憶を封印したエピソードを重ね合わせているんだと思う。あの時の二人は、四千六百年に渡って守り続けていたエレギオンを失った虚無感でいっぱいだったはず。

    「うふふふ、アラも完璧な人間ではなく、神の猜疑心に常に苛まされてたのよ。それを紛らすために、享楽に走った時期もあったでしょ」
    「え、ええ」
    「でもね、アラは最後の最後のところで踏みとどまりつづけたのよ。それを九千年よ。あれほどの英雄は二度と現れないと思うわ。そう、ジュシュル、あなた以外にはね」

 ジュシュル船長はビシッと立ち上がり、エラン式の敬礼を行い。

    「あなたが地球の総統になられないのが不思議過ぎます。それが地球にとって良いことかどうかの判断は付きませんが、いつの日かエランへの宇宙旅行に招待させて頂くことを約束します」
    「楽しみにしてるわ。ずっと待ってる」
    「その時にお願いが・・・」
    「それもOKよ。今からでもイイけど、先に励みがあった方が頑張れるでしょ。良い航海を」
 この光景どこかで見たような。そうだ、そうだ、アングマール戦のセカと首座の女神だ。セカは四女神を選べる栄誉を受け、氷の女神の首座の女神を選んだんだ。ユッキー社長はジュシュルにセカを見たのかもしれない。あのエレギオン最大の英雄であるセカを。


 三日後にエランの宇宙船は神戸空港を飛びたっていきました。ユッキー社長もコトリ副社長も、ミサキも屋上の展望デッキから見送らせて頂きました。

    「ユッキー、無事帰れるかな」
    「帰れるよ。ジュシュルがいる限り必ずエランに戻るさ」
    「一緒に行っても良かったのに」
    「そうね、エレギオンがなければ行ったかもしれない。まあ歳なのもあったけど。それでも久しぶりに首座の女神に相応しい男を見た気がするもの」

 ユッキー社長の横顔が寂しそうです。

    「エランにもイイ男たちがいるね」
    「そやな。アタブも爽やかなエエ男やった」
    「やったの!」
    「コトリの初物やで。これで子どもが出来たら、正真正銘のエラン人とのハーフや」

 さすがにコトリ副社長、手が早い。

    「ミサキちゃん、ディスカルとはやったの」
    「やってませんよ。コトリ副社長こそ、いつのまに」
    「そうよ、そうよ、わたしも忙しくて時間が取れなかったのに」
    「そりゃ、コトリは知恵の女神」

 ホントにやったのかな。まあ、どっちでもイイか。誰とやろうと女神の勝手だものね。ん、ん、ん、もしかして。ユッキー社長がジュシュルとセカを重ね合わせてるとしたら、

    「ユッキー社長、いつからだったのですか」
    「最初に空港ロビーで会った時からよ」

 あんなに怖い顔して交渉してたのに、あの時に見初めていたなんて。

    「じゃあ、あの十六時間のマラソン会議をまとめあげたのも」
    「そうよ、早く話がまとまった方がジュシュルも喜ぶと思って」

 こりゃ、ツンデレなんてレベルじゃないよ。

    「浦島夫妻の件もですか?」
    「そりゃそうよ。血液製剤だけでなんとか満足してもらおうと思ったけど、どうしても地球人が欲しいのを断念させることが出来なかったじゃない。だから助けてあげた」
    「ジュシュルが武力行使を行うリスクはどれぐらい見積もられていたのですか」
    「半年ぐらいは待ってくれたと思ってるけど」

 なのに岡川首相を脅し上げ、米中露の三国首脳まで巻き込んでのあの騒ぎ。

    「ジュシュルも急いでたじゃない。離陸予定までに間に合わせるにはあれしかないでしょ。感謝してくれてると思ってるけど」
    「本当にやってないのですか」
    「やってないって言ったよ。神の言葉を信じなさい」

 やっぱりやってたんだ。あの忙しい最中によくもまあ。

    「ミサキちゃんも良かったでしょ」
    「ミサキはやってませんよ」

 やってたけど、ミサキのキャラとして言えないじゃないですか。

    「わたしの勝ちかな」
    「えっ、どういう意味ですか」
    「神は不死なのよ。ジュシュルはいつの日か迎えに来てくれる。たとえ、それが千年先でもね。ホントに楽しみだわ。会う時にはどんな服にしようかな」

 あのね、千年先ですよ、千年先。でもセカに重ね合わせたら本気で待つかもしれない。それこそが首座の女神の恋かもしれない。

    「やっぱり神式かな」
    「エランの結婚式なんて知ってる訳ないじゃないですか!」
    「あれ、聞いてないの。わたしも忙しくてそこまで聞けてないの。今度、コトリに聞いておこうっと」

 まったく、気が早いというか、気が長いと言うか。でもロマンチックかも。そりゃ、

    『宇宙をかけた恋』

 こう言えそうだもの。そこにコトリ副社長が来て、

    「さて店じまいせんとあかんな」
    「おもしろかったけど、終わっちゃったものね」

宇宙をかけた恋:浦島伝説

 自衛隊も動けば迅速かつ強力。レンジャー部隊はヘリから降下し、あっと言う間に教団本部を制圧。まあ、相手は丸腰ですからね。ただ二人の確保には、かなり手間取ったようです。

    「自衛隊でも確保できるんですね」
    「まあ、二年ぐらいだから」

 コトリ副社長が、

    「前にアラは最後のカギは無重力って言ってたけど、あれはカプセルで無重力の意味でエエんちゃうやろか」
    「わたしもそう思う。アラは十年って言ってたけど、地球の神は五十年だから」
    「二度とこんな強力な神は現われへんと思てエエやろ」

 つうかあなた方のことなのですが、

    「さてと御対面といこうか」

 ECOの部屋に二人は来て頂いています。もっとも自衛隊がビッシリ警護してますけど。

    「こんにちは、わたしはECO代表の小山です。わざわざ御足労頂いて感謝しております」

 二人の格好は、男はスーツ姿ですが、女は羽衣を付けた唐風のものです。

    「あれを御足労と言うのか。誘拐拉致監禁ではないか」
    「素直に御招待に応じて頂いておれば、ここまで手間はかけませんでしたのに」
    「覚悟しておけ、訴えてやる」
    「どうぞ、ご自由に」

 ユッキー社長は涼しい顔をしています。

    「ところでなんとお呼びしましょうか。乙姫、それとも亀比売ですか」
    「乙姫にしてもらおう」
    「そちらの方は浦島さん、それとも水江さん」
    「浦島でけっこう」

 へぇ、この二人が浦島伝説の主人公なんだ。

    「小山代表、いや小山社長。あの時にわらわの企画を潰された恨みは忘れんぞ」
    「あら、あの程度で済ませてあげたのに。感謝されると思ってましたわ」
    「ここで会ったからには、わらわの力を思い知らせてやる」
    「無駄です。乙姫様とわたしでは大人と子ども以上の力の差があります」
    「うげぇ」

 社長も乱暴な。

    「わかりましたか。大人しく話を聞いてもらいます。今回のエランは地球カップルのエランへの同行を求めています」
    「なに、エランにか・・・」

 顔にあからさま動揺が浮かんでいます。

    「イエスですか、ノーですか」
    「もう少し話を聞かせてくれ」

 ユッキー社長は包み隠さずエランの事情を話しました。あそこまで話してイイのかな。

    「そうかアラルガルはもういないのか。それも地球に亡命して客死とは・・・ジュシュル船長と話し合って決めるにしたいが」
    「お呼びしてあります。通訳は必要ですか」
    「いや、なんとかなると思う」

 ジュシュル船長とは二時間以上話し込んだ末、

    「わらわはエランに帰る。この機会を逃せば二度とエランに戻る事は不可能だ」
    「必要なものはECOが手配します。霜鳥、任せたぞ」

 この後に浦島夫妻に話を聞いたのですが、そりゃ、大変だったようです。

    「宇宙船が故障しエランに帰れなくなった時もショックだったが、まだエランからの救助船が来る希望はあったのだ。それが待てど暮らせど来ず、ついに意識移動装置が稼働しなくなった時の絶望感は言い尽くせない」
    「どうやって」
    「ひたすら念じたのだ。ただひたすらにな。あの時に奇跡が起こったとしか思えん」
 ミサキにはわかった気がします。一度肉体から分離された意識は、その意思だけで自力で宿主を移動することが出来るのだと。それは一種の技術のようなもので、自得するには極限状態の絶望経験が必要なのじゃないのかと。

 一万五千年前のエランからの流刑囚が置かれた環境がそうで、まさにその状態だから自得し、自得した者のみが生き残ったんだ。

 エランでは装置で移動ができるが故に、アラでさえ自得する必要がなく、宿主移動が自力で出来るとは夢にも思わなかったぐらいで良さそう。出来ない、もしくは出来るはずがないの先入観があれば得ることなんて到底不可能ぐらい。

    「永遠の生を得たようなものだったが、これもまた地獄のようなものだと知ることになる。エランからの救助船の期待も千年もすれば薄れ切ってしまった。そうなれば、地球からエランに向かう宇宙船を作ることになるが、そこまで文明が進歩するまでの待ち時間の長さには絶望しかなかった」

 だろうね。浦島夫妻が地球に来たのが奈良時代の初めぐらいだけど、千年しても戦国時代だもの。そこから五百年ぐらいしてやっと月着陸だし。これが時空トンネルを見つけ、それを利用してエランまで行ける宇宙船が作れるようになるまでは、現在からでも千年単位で必要だもの。

    「三十四年前に来た宇宙船がエランのものだとわかった時は狂喜した。問題はどうやって乗せてもらうかだったが・・・」

 エラン人が地球人にコンタクトを取る時の壁が言葉。乙姫はどこからか、エランの技術でも自動翻訳がプアだったことを知ったようです。

    「だから、あのアピールを」
    「そうじゃ、話せることのアピールであった。次が来た時には通訳になり、事情を話して便乗させてもらおうと考えていた。しかし・・・」

 二十六年前の宇宙船は一日でコトリ副社長が制圧してしまい、再び待つことになったみたい。

    「我々の前に常に立ち塞がったのは小山社長だ。三十四年前も小山社長さえいなければ、通訳の話が出て来たはずなのに・・・」

 対立が決定的になったのは、十六年前の浦島事件。あの時は加納さん絡みでユッキー社長は浦島夫妻の策謀を粉砕しています。

    「リスクはお聞きになりましたか」
    「聞いた。三割もないそうだな」
    「最悪、神戸からの離陸の際に空中分解の可能性さえあるらしいです」

 浦島夫妻は、

    「でもゼロじゃない。千七百年待ってたのだぞ。これを逃せばまた千七百年待ってもチャンスはないかもしれない」
    「帰っても今のエランは・・・」
    「それもジュシュルから聞いた。それでも故郷に帰りたいのだ」
 千七百年も待ちわびたチャンスだものね。
    「向こうでの役割もお聞きしましたか?」
    「モルモットでもなんでもなる。まあ、そこまでじゃなさそうだが」
 無事を祈る事しかミサキには出来ませんでした。

宇宙をかけた恋:ターゲット

 エラン人たちが帰った後に、

    「社長、あんなこと言っても良かったのですか」
    「だって仕方がないじゃない。脅して血液製剤だけで満足して帰ってもらうつもりだったのだけど、あそこまで固い信念を持ってるんだもの。あそこで断ったら、ジュシュルはわたしに挑んでただろうし、挑まれたら殺すしかないじゃない」
    「そして殺したら宇宙船は神戸攻撃に向かうと」
    「あれは本気だよ」

 ここでコトリ副社長が、

    「でもなかなかの人物やんか。ちょっと惚れた」
    「あら、わたしもよ」
    「あれこそ至高の勇気」
    「違うわよ、真の勇敢さよ」

 たく、こんな時に、

    「お二人ともわからないのですか、あれは勇敢さや勇気じゃなくて、真っ直ぐな強い信念です」

 ミサキも惚れちゃった。だって途中からユッキー社長は厳しい顔から怖い顔に変わってたんだよ。最後の方は睨みまで入ってたのに、怯むことなく真正面から睨み返したんだ。あそこまで出来るのは並の人間じゃないよ。もっとも、人じゃなくて神だそうだけど。

    「ほんじゃあ、ミサキちゃんは行く」
    「いえ、あの、その、コトリ副社長は行けますか?」
    「行ってもエエけど、あの統一食とお酒なしの生活は辛いな」
    「わたしもなのよね。宇宙旅行とジュシュルは魅力だけど、あそこまで食文化が退化してるところは辛すぎるものね」

 たしかに。三人の中で抜けてもエレギオンに一番影響が少ないのはミサキだけど、統一食とビール抜きの生活は耐えられそうにないものね。それでもなんとか力になってあげたい気持ちはあるけど、

    「ユッキー社長、なんかアテがあるのですか?」
    「あるよ」
    「えっ」
    「それも男女二人だからピッタリはまる」

 そんな都合の良いのがこの世にいるのかな。

    「騙すのですか」
    「神戸を瓦礫の山にするぐらいなら、騙したってかまわないけど、今回はその手は使わない」

 ほんじゃあ、使う時は・・・使ってるか。神は息を吐くようにウソを吐くし。

    「ジュシュルがまだウソを吐いてる可能性は」
    「そんなものあるに決まってるじゃないの。相手は神なのよ。でもエランの窮状はある程度信じてもイイと思う」
    「コトリも同意見。あの程度の血液製剤で地球がどうにかなるわけじゃないし、エラン・ブームの好景気で元は取れたし」

 それもそうだ、

    「で、誰なんですか?」
    「ミサキちゃんも宿主代わりして、オツムの回りが鈍くなったんじゃない」
 エランへの安全な宇宙旅行だけの条件だったら、募集すれば簡単に集まりそうだけど、宇宙船にはガタが来てるし、時空トンネルのリスクは高いし、エランから二度とは言わないけど、今度こそ百年単位で帰って来れる目途はないし。

 さらに向こうでも最悪人体実験の材料にされる可能性はあるし、そうでなくともあの統一食で暮らさにゃいけないし。そんなところに、喜び勇んで行く地球人なんて・・・

    「あっ、まさか、でも・・・」
    「そういうこと。行きたがってるし、言葉だってそんなに不自由しないじゃない。そのうえ二人だし」

 そういうことか、

    「でも会ってくれるでしょうか」
    「まあね、前の一件があるからね」

 たしかにこれ以上の候補はいないかも。

    「コトリどうだった」
    「ラッキーやで。二人ともまだ三十代前半や」
    「そりゃ、良かった。老人じゃ、意識は行けても体が長持ちしないし」

 後は説得方法だけど、

    「わたしもコトリも、ミサキちゃんもECOを動けないのよね」
    「そうなんや。コトリとユッキーが乗り込んで連れてきたら手っ取り早いんやけど、さすがに抜けられん」

 エランとのコミュニケーション問題です。この辺はエレギオン・グループへの利益誘導もあり、あれこれ必要な資料を手に入れたり、技術指導や解説もしてもらっています。そのためにはコトリ副社長は動けないのです。ユッキー社長もそうで、自前の星際事業とはいえ、やはり干渉しようとする有力国がいます。これへの対応に不在は許されない状況です。ミサキの負担が比較的軽いのですが、冥界ならともかく地上では平和すぎる神です。

    「交通手段も問題なのよね・・・」

 瀬戸内海とはいえ島なので渡るだけで手間と時間がかかります。それとユッキー社長はとにかく急いでいます。まずECOから協力要請を行いましたが拒否。どうするのかと思えば、

    「岡川首相を呼んで。大急ぎでね。ECO振りかざしてかまわないから」

 とはいえ相手は一国の首相。すぐに来れる訳がないと渋られると、ユッキー社長は自分で電話をかけられ、

    「地球側全権代表の小山です。このわたしが至急の用事があるのです。明朝には来られるように」
    「小山代表、至急と言われましても私も用事がありまして・・・」
    「ECOへの協力をお断りになられるのですね。では、日本以外に頼みますが宜しいですね」
    「どういう意味だね」
    「ECOは、エランと不測の事態が起った時にいかなる国の協力を頼んでも良いことになっています。またその時にはECOが中心となることも決まっております。それに基づいての協力要請を日本が応じないのなら他の国に頼むしかないではありませんか」

 これは宇宙船着陸前にスッタモンダの末、なにも決められなかった反省から、もし軍事力行使のような事態になった時にもECOが中心機関になることが決められています。

    「まさか、軍事力行使の事態が・・・」
    「それはお会いしてからお話します」

 翌朝には岡川首相が現れ、

    「・・・どうしてもECOへの協力を拒否されるのですか」
    「誰も拒否するなど言っておらん。無理なものは無理だ」
    「ECOは地球の代表機関であり、その活動はいかなる国でも干渉できません」
    「そうなのだが・・・」
    「自衛隊の出動が無理ならば、他国の軍隊を要請させて頂きます」
    「それは待ってくれ」

 慌てる岡川首相を尻目に、

    「ハロー、ジョン、元気。ちょっと頼みがあるのだけど・・・うん、うん・・・そういうこと・・・どうしても駄目だったね・・・よろしく」
    「ズドラーストヴィチェ・・・」
    「ニイハオ・・・」

 これってホットライン?

    「とりあえず米中露はECO事業に協力してくれることになりました。岡川首相はどうなされますか」

 うわぁ、そこまでやるか。これは既に根回し済みだわ。

    「ECOは本気です。わたしが必要と言えば、必要なのです。もちろん日本がECOに協力しない自由はありますが、ECO事業の妨害までされるおつもりですか」
    「ちょっと待ってくれ、他国の軍隊が日本で活動されると・・・」
    「それもECOが必要とするなら認められております。国内法の整備をされるなり、米中露軍を迎え撃つかは首相の判断になります」

 脂汗を流す岡川首相ですが、

    「こんなムチャクチャな・・・」

 ユッキー社長は一呼吸おいて、

    「相手は文化も文明も違うエラン人です。価値観、考え方も当然違います」
    「今までよくやってくれていると感謝しておる」
    「首相にはおわかりになりませんか。わたしがこれほどの危機感をもって要請してる意味を」
    「そう言われても…」

 うわぁ、顔が怖くなってきた。

    「わたしの要求が満たされなければ、エラン宇宙船は戦闘体制に入ります。首相もエランの武器の威力については御存じのはず。間違いなく神戸は廃虚となります。ましてやあの宇宙船の乗組員はエランの最精鋭部隊です」
    「事態はそこまで・・・」
    「一刻の猶予もありません」

 首相は蒼白の顔をしながら、

    「少し時間が欲しい」
    「神戸が廃虚になる時間ですか」
    「もうそんなに」
    「この場での御返答をお願いします。どうしても待ちたいと仰られるのなら、雪狼突撃隊の出動を要請します。あそこが一番近いですからね」
    「雪狼突撃隊って中国の・・・」
 ここまで脅された首相が可哀想な気もしましたが、事態が切迫しているのはまったくのウソではありません。他国の軍隊を受け入れるリスクに屈した首相はレンジャー部隊の出動をこの場で命じました。
    「社長、やりすぎでは」
    「それぐらい事態は切迫してるよ。血液製剤の積み込みはもうすぐ終了するのよ。その時点で連れて帰る地球人がいなければ実力行使に出るよ。ジュシュルは本気だよ」

 そういえば、そうだった。

    「星の命運がかかってるんだよ。たとえ地球人を皆殺しにしてでも連れて帰るよ。いつまで待ってもらえるかは、わたしをどれだけ信用しているかだけ」
    「まさか、あの夜は・・・」
    「そうだよ、惜別のために来てたんだ。だからビールも飲まなかった。ひょっとしたら、あの夜に決行の予定だったかもしれない」

宇宙をかけた恋:尋問

    『コ~ン』

 今日もエラン人が招待されています。地球食にもすっかり馴染んだようで、

    「こういうのをなんて言えば」
    「それはね、美味しいって言うのよ。エランでは死語になってるみたいだけど」
    「そうか、こういう食べ物で感じる感情が『美味しい』なのか。古典で読んだことがあるが、さっぱりわからなかった」

 地球食を楽しんでくれるのはイイけど、エランに帰ったら困るだろうな。ここまでは和やかだったんだけど、今日はコトリ副社長から、

    「いつもとちゃうで。今日は覚悟しときや」

 なんだろうってところです。すると突然ユッキー社長は厳しい顔になり、

    「地球に来る時に三十四年前の記録を読んだであろう」

 エラン人たちはユッキー社長の顔つきに驚いたように、

    「ええ」
    「地球の神は、神が見えるのだぞ」

 ジュシュル船長の顔色が変わってる。

    「あ、あれは本当の話なのか」
    「地球の神の力はエランの神を凌駕しておる。ジュシュルよ、お前如きでは指一本触れることは出来ない」
    「なんの話だ」
    「教えてやろう」

 ジュシュル船長の顔が真っ青に、

    「そういうことだ。アラルガルでさえ話にならないレベルだった」
    「はっ、はっ、はっ・・・ガルムムもこれで・・・」

 うわぁ、強烈。呼吸まで金縛りにしてたんだ。

    「お前の話にはウソがある。エランの状態はもっと悪いはずだ。エラン人は五億人も生き残っていない、せいぜい一千万人程度だ」
    「そんなことはない・・・」
    「アラルガルも知能は低かったが、お前も同レベルだな。ウソが下手過ぎる」

 えっ、どういうこと?

    「簡単すぎて誰でもわかる。お前の船の搭載量で血液は足りるからだ」
    「うっ、それは・・・」
    「もう十分すぎる量の血液は集まった。ついでに地球で半製品化まで出来ておるから、余るぐらいになったであろう」

 言われてみれば、もし血液だけだったら宇宙船にも積み込めないぐらいになってるはず。

    「ジュシュルよ、もう一つの目的は許さない。お前如きを抹殺するのは一瞬だ」
    「しかし、それでは・・・」
    「死にたいか」
    「死は恐れぬ。その前に聞いて欲しいことがある」

 五年戦争の実相をジュシュル船長は話し出しました。まず三十四年前の宇宙船団の話からで、

    「帰路の航海が困難を極めたのだ」
    「時空トンネルの変動か」 「そうだ、時空トンネルは位置も変動するがトンネル内の様相も変わる。かつてはそれに対応する航海技術もあったが、今は失われている」
    「帰れたのは二隻か」
    「いや三隻だ」

 実に七隻が時空トンネル内で遭難して失われたようです。それでも地球から持ち帰ったシリコンにより、神が誕生し覇者の時代になったのは本当ですが、神になったのはわずかに七人。それ以上増えなかったのは、

    「神がああなるのが予想外だったのは事実だ。それがわかった私はすべてのシリコンを海に投棄した」
    「そこまでエランにないのか」
    「ああ、シリコン鉱脈は掘り尽くされているだけでなく、残っていた鉱山も千年戦争で破壊され、汚染され近づくことも出来ない」

 七人の神が覇権を争ったのですが、

    「ガルムムとは同志であったんだろう」
    「いやガルムムは覇を争った宿敵・・・」
    「まだ、わからんか。お前は会見の時にガルムムにコンタクト取ろうとしたと言っておるのだ。ガルムムの説明をあれだけ言い澱んでおれば誰でもわかる」

 そっか、そうだった。

    「社長はアラルガルを例外中の例外とした。それは実感している。しかし社長の仲間たちも神ではないのか」
    「そうだ。月夜野も霜鳥も神だ」
    「私とガルムムもそうである奇跡が起こった。まあ、幼馴染でもあったのだが」
    「二人が組んだから勝ち抜けたか」
    「そうだ」

 そうだったんだ。だから五年で終われたのかも、

    「地球人の血液が治療薬になるのがわかっていたのは、アラの時代からだな」
    「そうだ」

 えっ、えっ、

    「しかしあくまでも進行を遅らせる程度しか効果はない」
    「その通りだ。だからより効果が高い純血種の血液が必要だった」
    「それだけか?」

 ジュシュル船長は苦悩に満ちた顔で、

    「とにかく人類滅亡兵器は手強いのだ」
    「だから二つのテストやりたいのであろう。一つは純血種であれば本当に効果が高いのか、もう一つはエランの地球人と同じ環境を経験させたうえでの純血種の効果だ」

 エランの地球人と同じ環境って、地球からエランに連れ去るってことじゃないの。それがさっきユッキー社長が話したもう一つの目的とか、

    「誰もが地球への航海を尻込みした。そりゃ、生きて帰れる確率が三割だからな。でも行かなければエランは滅亡する」
    「どうしてガルムムだったのだ」
    「ガルムムは凶暴ではないが、強引なところがあってな。どうしても自分で行くと言って聞かなかったんだ」
    「ではいきなり武器を持ちだしたのは」

 ジュシュル船長はさらに苦悩し、

    「血液の協力だけなら可能だが、地球人の提供は無理と判断したのだ。逆のケースで考えれば誰でもわかることだ」
    「わざわざ神戸を選んだのはなぜだ」
    「ここに降りるプログラムしか我々には残されていない」
 エランの宇宙技術はアラ時代も衰退の一途をたどっていたようですが、反アラ戦争でさらに拍車がかかったようです。アラは地球移住用の宇宙船建造計画を進めていましたが、技術者たちはアラ側の人間であり、反アラ戦争終了後に多くの者が罪に問われたそうです。

 それでも地球に十隻の大船団を飛ばせるぐらいの能力はあったのですが、五年戦争でさらに技術者たちは離散。新たな宇宙船を建造することは既に不可能となっているそうです。

 建造技術以上に低下していたのが宇宙航海技術。これはアラしか覚えていなかったとしても良さそうです。宇宙航海技術は時空トンネルの通過技術もそうですが、離発着の難度が非常に高いそうです。

 三十四年前の時はそれでもアラが遺した離発着技術があったそうですが、五年戦争の結果、エランに残されていたのは神戸空港への着陸プログラムだけだったとなっています。

    「我々も地球の神の記録を読んだが、到底信じられるものではなかった。神が見えるだけではなく、エランの神を何倍も何十倍も上回る力を持っているなんてだ。ガルムムは出発前に言ってたよ、
    『地球の神ぐらいなんとかなる』
    私もそうとしか考えられなかった」
    「お前はどうして、そうしなかった」
    「地球にガルムムもアラルガルも存在してなかったからだ」

 ジュシュル船長は、

    「社長は意識分離技術がある限り、エランの未来はないと言った。それは正しい。意識分離技術によってエランは滅亡の淵まで追い詰められている」

 地球がそうならなかったのが不思議なぐらいだけど、

    「意識分離技術を完全に廃棄するのは社長の言う通り不可能だ。しかし意識分離技術を行うためのシリコンはエランに尽きた。これで意識分離技術は無くなったも同然になる」
    「そこまでエランにないのか」
    「ない。思えばアラルガルはシリコン鉱山を意識的に攻撃していた。あれも意識分離技術を封じる目的であったことがわかる」

 エランでシリコンを入手するのは本当に無理みたい。

    「エランに残る神は今や私一人、さらに意識移動技術はついに成功しなかった。つまり私が死ねばエランに神はいなくなる」
    「だから志願してきたのか」

 誇らしげに胸を張り、

    「エランで一番不要な人間がリスクを負うのが当然だ。部下には悪いと思っている」
    「総統、我々も志願して来ています」
    「そうです。この航海にエランのすべてがかかっています。そのためなら、この命、喜んで捧げます」

 ああそこまで、

    「最後の船か」
    「エランには三隻が帰還できたが、一隻はもう使い物にならない」
 エランの宇宙船も本来は輸送船で、機能として惑星周回軌道の往復だったそうです。荷物に関しては惑星に投下したり、搭載していた小型の宇宙船ないし惑星基地の宇宙船で往復したようです。

 離発着機能はオプションというか、緊急事態用で、エランの建造技術でも一度それをやれば船体に大きな負担がかかり過ぎるぐらいです。しかしエランに連絡用の小型宇宙船を作る技術は失われており、やむなく地球への直接の離発着を行ったようです。

    「この船も既に三度の離発着を行っている。地球を飛び立てるかどうかも、やってみないとわからないし、エランへの着陸も未知数だ。言うまでもないがもう一度時空トンネルを通り抜けられる保証もない」

 ここでジュシュル船長はユッキー社長を昂然と睨み返し、

    「社長は強い。それはわかったが、エランの総統として、どうしても地球人を連れて帰らなければならない。これがエランに残された最後のチャンスなのだ」

 部屋中がピリピリするぐらいの凄い気迫だ。

    「純血種の血液製剤で問題が解決すれば良いが、現在の予測では想定通りの効果が出ても難しいとなっている。最後の切り札が宇宙旅行を経た地球人だ。これでダメであればエランは終る」
    「やるのか」
    「協力が得られなければ他に選択肢はない」

 うわぁ、血液製剤だけでは帰ってくれないんだ。というか、本当の目的は地球人拉致。二十六年前のガルムムの目的は、

    「ガルムムはそれだけを目指したのか」
    「そうだ」
    「何人必要だ」

 ユッキー社長、なんてことを。

    「多ければ多いほど良いが、最小なら男女二人だ。それでエランが救われる可能性が出てくる」
    「神戸を瓦礫の山にはしたくない。協力を考えよう」

 ちょっと待ってよ。誰がそんな荒廃したエランなんかに行くと言うの。それとも騙して連れて行く気。それは、いくらなんでも。

    「我々も武力行使は避けたい。これだけ歓迎してもらってるのを無にするのはさすがに心苦しいからな」
    「ビールはどうだ」
    「今夜はやめておく。あんな苦行が待ってるのとは想定外だった」
 二日酔いで死んでたものね。それにしても、ユッキー社長は何を考えてるんだろう。

宇宙をかけた恋:小銭稼ぎ

 ECOは星際事業であり、星と星の外交関係を結ぶ要の機関になります。見ようによっては地球を代表する機関であり、地球政府代表にもなります。ECOの権限については、

    『対異星外交について失態がないように』
 このスローガンで異様なほど大きくなっています。実質はともかく、建前上は地球上のどの政府、どの機関にも事業協力を命じることができます。この辺はエランの宇宙船が帰るまでの臨時機関的な位置づけもあり、各国の了解を得ています。そのためにユッキー社長は地球大統領的な地位にもいると言えます。

 本来こういう機関ではスポンサーにあたる国々の口出しが大きくなるのですが、ECOでは各国への資金協力を求めていません。エレギオンHDが運転資金も人員も丸抱えでやっています。資金分担がないことを歓迎されましたが、その代りユッキー社長の自在に腕を揮えます。

 エレギオン・グループの負担は大きいのですが、そこは世界不況の時に大儲けした分があり経営的には支障はありません。天文学的に儲かった分の還元ぐらいに位置づけています。慈善事業みたいなものでしょうか。

 主事業の血液事業は、世界的なエラン・ブームのお蔭で順調です。いや、順調すぎて宇宙船に積み込めないほどのものになっています。エラン側の計画では船内の施設で製品化する予定だったそうですが、短期間でこれだけの量になると間に合わなくなっています。

 そこでコトリ副社長はエラン技術担当のアタブと相談のうえ、工場設置にとりかかっています。工場もイチから作ると間に合わないので、倉庫を改築して突貫工事で作り上げています。地球の技術では製品化までは無理なのですが、半製品ぐらいまでは出来る目途がついたからです。

    「ユッキー社長、これも狙っていたのですか」
    「そうよ、あれだけ投資してるんだから、回収もセットじゃないとね」
 狙いはエランの先進技術の取得です。もちろんテクノロジーの差があり過ぎますから、そのままでは使えないのですが、ほんの一部を応用できただけでも莫大なメリットが期待できます。

 エラン技術は他の国も喉から手が出るほど欲しいはずですが、ECOに資金協力していないために口出しが難しく、さらにエラン語が話せるのが世界でたった三人では手の出しようがないというところかもしれません。

    「社長、こういう事態も見通して、あれだけ睨みを利かせていたとか」
    「他に理由がないじゃない」

 国内でもECOの権限は強く、政府でさえ下請け状態です。ECOの要求は、

    『天の声』

 とまで呼ばれています。

    「どうしてエランの商標権を握らなかったのですか」
    「小銭はいらなかったのと、ブームが大きくなって欲しかったから」
 ブームを大きくする狙いはユッキー社長の言う通りだと思いますが、小銭稼ぎには精を出されています。とにかく宇宙船に関する許認可はECOに一元化されており、商標権こそ手を出しませんでしたが、他の事業ではしっかり稼いでいます。

 宇宙船見学ツアーは神戸観光、いや日本観光の巨大な目玉になっていますが、これの主導権を握っているのがエレギオン・グループです。二時間待ち、三時間待ちがザラの展望塔もエレギオン・グループですし、その時間待ちの間の周辺施設の飲食店、土産物屋もエレギオン・グループが殆ど占めています。宇宙船見学ツアーも、

    『特別コース』

 これも作られています。ECOは空港管理も管轄内のため、人数限定で空港内に入れるようにしたのです。空港内はエラン人との会見場所もそのままに残されており、屋上から間近で宇宙船を見ることが出来るだけでなく、船外で活動するエラン人も見えます。料金はビックリするほど高いのですが、もう予約でビッシリ、抽選状態になっています。

    「やはり狙いは」
    「そうよ、これだけ熱烈歓迎の姿勢を見せれば変な気は起しにくいでしょ」
 さらに空港内限定のエラン関連グッズが売り出され、これがプレミアを呼んで高額で取引されたりもしています。このコースの設定は空港内の飲食店からも大歓迎されています。どこも潰れそうでしたからね、

 マスコミはエラン人を引っ張り出したくて仕方がないのですが、これもECOの管轄内です。エラン人への取材自体は無料なのですが、通訳代が目の玉が飛び出るほど高くなっています。

 そりゃ通訳と言っても、エレギオンHDのトップ・スリーであり同時にECOのトップ・スリーです。多忙な業務の間への通訳依頼ですから、

    『それでも割安』
 こう受け取られています。取材依頼は殺到しているのですが、さすがに業務優先で週に一度程度が精いっぱいです。


 これはさすがに一般観光客には無理ですが、船内見学にも出かけました。ミサキは宇宙船の船内に入るのは初めてでワクワクしましたが、

    「コトリ、一緒だね」
    「ホンマに丸きり同じや」

 コトリ副社長は二十六年前に乗り込んでいますし、ユッキー社長も鹵獲した宇宙船の見学をしているのです。

    「アラの言う通り、宇宙技術に進歩はないようね」
    「そんなんより、人類滅亡兵器対策で手いっぱいやってんやろ」

 話に聞くエラン統一食も御馳走になったのですが、

    「これは・・・」
    「食えるって程度だね」
    「これしかないんやったら、エランには行きたないなぁ」

 食べられない事はありませんが、これ以外になにもないのは辛すぎます。

    「でもこれは使えるで」
    「そうね、アタブと相談しといて」
    「よっしゃ、任せとき」

 なんの事かと思えば、この統一食を売り出そうって魂胆のようです。よくまぁ、思いつくものですが、

    「このままじゃ、さすがにだね」
    「その辺はどうせホンモノを食べる機会なんかないから、だいじょうぶ」
 こりゃ、詐欺だ。でも、売り出したら飛ぶように売れてました。まあ、集めた小銭がECOの運転資金にもなってるから、ま、いっか。前に試算したらトントンからやや黒字になりそうです。