日暮れへのツーリング(第9話)青い思い出

 高校時代のコーヘーはパソコンオタク。顔はブサメンじゃない程度のフツメンの下の方ぐらい。スタイルだって良く言えばインドア派、運動部なんか入ってもいないから、だらしないは言い過ぎかもしれないけど、お世辞にも引き締まったとか逞しいには程遠かった。

 勉強も出来なかったな。追試の常連に毛が生えた程度。コソ勉もしてなかったのは志望大学を落ちたどころか、大学にも進まず専門学校だったのでお察しだ。キャラはオタクではあったけど陰キャではなかったよ。

 さりとて陽キャでもない。そうだな、学園ドラマならモブ生徒ぐらいだ。毒にもクスリにもならない、その他大勢の一人ぐらい。渚から見れば、コーヘーがクラスメイトにいたぐらいは知ってるけど、別に友だちとか、ましてや憧れの人じゃない。

 そんなコーヘーだけど、同窓会SNSで連絡を取って来たのは、参加こそしてないけど同窓会の魔力のせいかもしれない。同窓会に期待するものはあれこれあるだろけど、やっぱり青い時代へのノスタルジーだと思うのよ。

 たぶん出席していたら、あの青い時代の時間を共有した思い出話、昔話に花が咲いてたはず。それを呼び覚ますのが同窓会だし、それは同窓会SNSだけでも出てたものね。そんな青い時代の思い出の中に恋もある。

 オクテなら初恋もあるだろうし、初恋でなくてもまだまだ恋愛初心者だし、大人の恋とは質が違ってた。どう言えば良いのかな、まだまだ恋に恋してた年代だった気がする。とにかく彼氏なり彼女が欲しかったけど、具体的にどうしたら良いかとか、なにを目指すのかわかってなかったと思ってる。

 そこまでバカにするなと言われそうだけど、おぼろげな手順は知ってるよ。そんなもの好きな相手に告白して恋人になってもらうだ。告白をするまでにどうしたら良いかのノウハウも初心者だけど、だったら恋人関係になって何をしたいかは曖昧なんてものじゃなかった気がする。

 ここだって恋人関係になれば目指すものは一つだろうと言われそうだし、現実的に大人の恋でもそうだ。女と男が愛し合えば目指すのはドッキングになる。もちろんドッキングに至るまでのノウハウとか、駆け引きはあるにせよだ。

 高校生で恋人関係になってからのドッキング率なんて知らないけど、とりあえず高校生の初体験率が五十%なんてデータもあるから、それなりの確率でドッキングまで行くカップルは多いのかもしれない。

 でね、めでたくドッキングにたどり着いたとして、次はどうするだ。もちろんドッキングをさらに重ねるはあるとは思うけど、恋愛ってドッキングがゴールじゃないのよね。誰だってドッキングの次を考えるだろうが。

 これだって高校生なら知識として知ってる。ベタだけど結婚だ。大人だってセフレとか、愛人とか目指すのは少ないだろうが。結婚が次の目標になるから、それをエサに結婚詐欺とか、二股三股かけられたりするだろう。

 ここのポイントだけど、ドッキングをしたからにはパートナーは一人ってのがある。恋人同士なら当たり前の話なんだけど、お互いにその相手しか愛さないの最終形態が結婚して夫婦になるぐらいで良いとも思う。

 でもさぁ、高校生なら結婚する現実的な意味を実感できないんだよね。結婚するだけなら十八歳になれば赤い紙をお役所に提出すればなれるのはなれるけど、そんな簡単なものじゃないのを知ってるのが大人の恋だ。

 たいした話じゃないのだけど、結婚して夫婦になれば自活しなくちゃならないのよ。当たり前すぎる話だけど、高校生が自分で稼ぐ実感を持つのは難しいのよね。そりゃ、生まれてからずっと親に養ってもらってるもの。

 なんとなくさ、おカネってどこかから勝手に湧いてくるぐらいに思ってるところがあるのよね。おカネを手に入れる難しさは高卒就職ならすぐに叩き込まれるけど、大学進学したらまだ甘い気がする。

 せいぜい結婚して新所帯をもったら、その生活のために働いておカネを稼ぐ必要があるぐらいはわかっても、あの大変さはやっぱり社会人にならないと実感するのは難しいと思うんだ。

 だから結婚して夫婦なるイメージは曖昧と言うか、ひたすらバラ色の世界に思ってしまうのが青い時代の恋の気がする。これってね、バカにしたり、見下したりしてるわけじゃないのよ。だってさ、社会人になって結婚となれば、相手の収入をどれだけ重視する事か。

 けどさ、青い時代の恋って、そっちがドリーム状態だから、ホントに相手が好きになるかどうかがすべてみたいなものじゃない。いくらおカネ持ちの家の息子だって、おカネで評価する部分は少ないはずだもの。

 もっともだけど青い時代に熱中した恋が交際にまで進むのはそんなに多くない気がする。渚の頃とはまた時代は変わってるとは思うけど、告白、交際どころかそれ以前で終った恋も多いはずなんだ。

 とにかく好きになる相手は被りまくるからライバルもゴッソリ状態じゃない。そんな儚い恋も高校卒業とともに終わり、そこから大人の恋を覚えて行くことになる。青い恋はセピア色の思い出として残されていく感じだ。

 それでもどこかに青い時代のピュアな想いは残るんだよ。それに火が着いてしまうのが同窓会かな。だから同窓会ラブも起こることはあるし、同窓会ラブが暴走しての不倫騒動も良く聞く話じゃない。

 もちろん全員がそうなるわけじゃない。時期にもよるけど憧れの相手が結婚していたりもあるし、高校時代とは良くない意味で変わってしまってる事だってある。だから同窓会で再会して、人知れず青い恋のピリオドを打ってる人も多いのじゃないかな。


 でもってコーヘーだ。コーヘーだって青い恋をしたはずだ。結果から見ればわかるけど、どう見たって渚が対象だったで良いみたいだ。これを気色悪いと言う気なんてないよ。もしそう感じたなら誰がマスツーなんてするものか。

 じゃあ、渚はどうなんだになってくる。まず恋愛対象に出来るかと聞かれたら困るな。せいぜいクラスメイトぐらいなんだよね。悪印象はなかったけど、一目惚れには遠すぎる。この辺は高校時代のコーヘーのイメージが強いのもあるだろうな。

 その辺は青い恋の名残もあるだろうけど、社会人としてコーヘーと渚では釣り合っていなさすぎる。釣り合うどころか棲む世界すら違ってしまってる。マスツーでタメ口出来たのも、あれはあくまでも同窓会乗りの延長だっただけ。

 それこそ実社会となれば、そもそも会えないもの。もし話す機会がたまたまあっても、それこそ敬語の塊でしか話せないのよね。いくら同窓生でもタメ口なんかで話そうものなら、上司から大目玉を喰らうよ。

 成金、成金って言ったけど、コーヘーの棲む世界って完全にセレブの世界だ。セレブと庶民でも恋は成立するけど、同級生だから同い年だ。仮にコーヘーが結婚まで考えているなら渚なんて完全にアウトオブ眼中にしかならないじゃないの。

 コーヘーの持つ地位と富なら、いくらでも若い女は選び放題だもの。そうなのよね、コーヘーが渚に目を止めたのは青い恋の余韻を楽しみたかっただけ。コーヘーに見えてる渚はすべて幻想なんだよ。


 だからこの関係をどうソフトランディングさせるかが社会人としての嗜みになるだろうな。リアルなら接待だな。取引相手の御機嫌を取るってやつ。接待の時の基本は相手を喜ばすだ。ぶっちゃけ、相手のして欲しいことをやってあげるのが接待になる。

 そういうとすぐに過激なものを想像するのも多いけど、たとえば接待相手が好きな料理のジャンルを選ぶのもある。そりゃ、そうだろう接待相手が苦手とか、嫌いな料理を食べさせられたんじゃ、機嫌は悪くなるだけだもの。

 お相手する人間もそうだ。誰だって苦手とか、虫の好かない人はいる。こっちが接待する側だったら我慢するしかないけど、接待される側だったら同じ時間を過ごすだけで苦痛になる。そういうのを調べておくのが接待なんだよ。

 渚はKST社長のお気に入りとして接待担当に選ばれて、社長は渚とタメ口を利くのが御所望ぐらいの設定でどうだ。まあ本当の接待と違って接待費はもらえないけど、一緒にマスツーを楽しめるので良いとしておこう。

 いつまでだけど、コーヘーが青い恋の思い出にケリを付けてくれるまでかな。そのうち、渚が幻想の憧れじゃなく、タダのオバサンと気づくはずだもの。そうなっても、マスツー仲間として続いてくれたら上首尾ぐらい。

 渚の勤めている会社だってKSTと取引があるから、コーヘーに不快な思いをさせて、会社に損害なんてもたらそうものなら、こっちが左遷させられてしまうのがリアルだもの。そんなことはコーヘーならしないと信じたいけど、とにかく相手は成金だ。


 でもね、本音で言うと楽しんでる部分はあるんだ。マスツーしたけど評価は合格点だったもの。だから次も約束したんだよね。なんかマスツーの楽しさに目覚めかけてる感じ。こういう感覚が同級生同士の感覚かも。

 うだうだ考えたけど、次はどこに行くつもりなんだろ。考えてみれば、男友だちと出かけるなんて久しぶりだものね。もうちょっと良い男なら恋も楽しめたかもしれないけど、それは贅沢だよね。

日暮れへのツーリング(第8話)モンキーの魅力を語り合う

 篠山からの帰り道。渚にはモンキー愛があるけど、非力さをカバーできる理論武装をしきれないのよね。

「そりゃそうや、パワーとスピードを求めんバイク乗りはおらんやろ」

 そうなのよね。モンキーの非力さはバイクの中でも最弱クラスだもの。パワーだけなら五〇CCの原チャリに勝てるけど、スピードと言うかダッシュ力なら負けそうになる事があるぐらい。

「パワーとスピードがバイク乗りにとって別次元の魅力なんは渚の言う通りやが、他にも異次元の魅力はあるで」

 異次元の魅力ってなんだよ。

「バイク乗りはバイクに乗ってナンボの人種やんか」

 ああそれか。パワーとスピードを求めてサイズアップをして、ついに大型を手に入れたバイク乗りがいるとするじゃない。買った当初はパワーとスピードを堪能するだろうけど、大型の大きさと重量は半端ないのよね。

 バイク乗りの用語で乗り出しって言うけど、大きさと重量のために乗るのが億劫になってしまうのがいるのは聞いたことがある。バイクには乗りたいのだけど、

「置いてるところから引っ張り出す手間もあるし、大型やからバイクウェアもちゃんとせんとあかんやろ」

 バイクウェアと言ってもプロテクターをフル装備したもの。小型だってそこまでした方が安全だろうけど、大型なら必要って感じに今はなってるところはあるらしい。あれってゴッツイのよ。あれを着るってだけで一気合いるぐらい。そこからウンコラセてってバイクを引っ張り出すのだけど、

「どこに行くかは出て来るやん」

 どこに行くのも自由なんだけど、大型だからそれなりの距離と面白さが欲しいし、乗り出しにそこまで気合を入れてるのに、ご近所を一周ぐらいじゃ終わらせられないと思うはず。そうなると行き先を考えておく必要が出て来るのだけど、

「それも大型のパワーとスピードを楽しめるとこや」

 手頃にあれば良いだろうけど、無ければそこに行くにも気合がいることになる。他にもあれこれ理由はあるだろうけど、

「いつしかオブジェになってまう」

 そうなってしまう人も少なからずいるそうだ。それに比べるとモンキーははるかにお手軽だ。

「渚やったらわかるやろ。それこそ近所のコンビニ行くだけでも楽しいのがモンキーや」

 バイク乗りは市街地走行が好きじゃないけど、モンキーなら割り切れば市街地走行だって楽しめてしまうところはあるものね。カントリーロードならなおさらだ。良くバイク乗りは、

『軽さは正義』

 こう言うけど、これは取り回しの手軽さだけでなく、乗り出しの気楽さも含んでるはず。気が向けばいつでも乗れるのは大きなメリットだ。

「モンキーは不思議なバイクで、どこ走らせても楽しく感じさせてくれるところはあると思うねん」

 たしかに。バイクって個性がそれこそあるけど、乗った瞬間にスピードに挑みたくのもある。スーパースポーツなんかそうだろ。でもモンキーは逆で、ゆったり走らせたくなるバイクなのよね。

 新神戸トンネルとか、六甲北有料道路ならクルマの流れに付いて行くために、それこそフルスロットルの時もあるけど、ああいう走りってあんまり楽しくないのよ。

「そんな感じや。新神戸トンネル抜けて、箕谷の料金所を出たらホッとするぐらいやんか」

 わかるわかる。やっと無理して走らせなくても良いって気持ちになるもの。

「高速はまだしも、自動車専用道路はチイと悔しい時もあるけど、あれかって割り切れへんか」

 割り切らなきゃ乗ってらんないけど、やっぱりさ、ツーリングは下道が本道だと思うんだ。下道だって混んでる道は好きじゃないけど、

「バイクやから裏道や抜け道を探せるのも楽しみのとこもあるやん」

 もっともそんなモンキーの走りの楽しさを押し付ける気はないよ。バイク乗りがどんなバイクを選び、それでどういう楽しみ方をするかは自由だもの。

「そういうこっちゃ。モンキー乗りかって聞かれたらそう思うって話しとるだけで、大きなバイクの魅力かって認めとるさかいな」

 どうもさ、最近はなんでも正解を求めるのが多すぎる気がするのよ。でもさ、正解があるとか、正解は一つなんて学校の試験ぐらいなんだよね。同じようなシチュエーションでも少し時代が変わるだけで正解すら変わるのが世の中なんだ。

「オレもそう思うわ。せいぜい七三ぐらいちゃうか」

 そんな感じ。もうちょっと言えば三三ぐらいで残りの四はどっちでも良いのが多いよ。残りの四はその時の気分でどっちにも流れるくらいかな。

「そんな感じやとオレも思うねん。そやけどその三と三がしょうもない問題で罵倒し合ったりも多いのがSNSや」

 政治の話題は鬱陶しいから置いとくとしても、YAEHまで噛みつく人がいて呆れたもの。あんなもの単なるバイク乗りの挨拶で、

「やってもやらんでもかめへんもんや」

 YAEHが嫌いなのだって自由だよ。それをわざわざ論を立ててまで嫌いって主張するのは好きじゃないな。

「そうやねんよな。YAEH嫌いの輪を広げたいやんか」

 わざわざ口に出してまで主張する問題かって思ったもの。実際に走っていても自然にYAEHする人もいるし、こっちがしても返してくれる素振りの無い人だっている。だからと言ってなんも感じないけど、

「ああいう連中はちょっとでも賛同の輪が広がったら、今度は少数派のYAEH嫌いの権利を守れって頑張り出すで」

 されて不快だから一律禁止だとか、YAEHがOKの人かどうかマークを付けろとかね。さすがにYAEHだから法律で云々までいかないとは思うけど、

「バイク乗りはそもそも少数派やからたいした問題にはならんと思うけど、あの手の話にはすぐにプロの活動家が乗っかってくるやん」

 あるあるだ。少数派の人を尊重しようなら反対しないけど、

「少数派が絶対ファーストで、多数派はどんなに不便や不都合が生じようがそれが当然みたいに振舞われたら反発が出ん方がおかしいやろ」

 そこら辺が社会の折り合いになるはずだけど、権利保護のプロ活動家がからむと、

「男子選手が女子競技で無双するとこまで行ってまう」

 YAEHはそこまで行きそうにないから良いけどね。そんな事はともかく、コーヘーとでもマスツーは面白かった。ソロツーはソロツーで気ままで良いところもあるけど、仲間がいるとどこかで心強いし、お店屋さんでお一人様をしなくて済むのは大きいよ。

「また行こうや」

 う~ん、相手がコーヘーなのは気に入らないけど、他に相手がいないのよね。仕方がないから、

「パートナーにしてくれるか」

 図に乗るな。何が悲しくてコーヘーをパートナーにしないとならないのよ。パートナーって言うのは、相手を深く信用とか信頼して成り立つものだ。コーヘーなんか、

「信用と信頼はあるやろ」

 無いとは言わないけど、そうだな、混んでる食堂でやむなく相席する程度だ。パートナーじゃなくて、せいぜいお相手だ。

「渚も変わらんな」

 コーヘーにだけは言われたないわ。

日暮れへのツーリング(第7話)篠山のスフレ

「行こか」

 行列も出来てるみたいだから、食べ終わったらトットと店を出るのがマナーだ。さてお勘定だ。

「オレが出しとく」

 アホか。いくら社長でも奢ってもらう義理などこの世のどこにもあるものか。

「同級生やん」

 だからだ。あくまでも同級生であってそれ以上でも、それ以下でも無い関係だろうか。そもそもだぞ、奢ってもらえばコーヘーに借りが出来てしまうだろうが。どうして渚がコーヘーに借りなんて作らないといけないんだよ。

「マスツー仲間でもあるで」

 仲間じゃない。たまたま今日はマスツーしただけだ。一度マスツーしただけで仲間とは何様のつもりだ。これ以上なにか言ったら鍋で二十分間茹でてもらうぞ。そこから篠山に行ったのだけど、丹波細工所の交差点からショートカットルートで。この道って、

「デカンショ街道は後から出来たバイパスみたいな道やんか・・・」

 いやいや、国道一七三号は綾部街道になるけど、これがそれなりの街道になったのは光秀時代のはずだ。だから古代山陰道も小野駅を置いてるし、小野駅から飛曽山峠を越えてるはずだし、その証拠に江戸期の篠山街道もこのルートじゃない。

「渚は歴女か?」

 ツーリングやってるとどうしてもね。もっともツーリングやったから歴女になる訳じゃないけど、なんか歴史街道と知って走るとロマンがあるもの。

「渚の言う通り古代から飛曽山峠は越えてたとは思うんやが、やっぱりデカンショ街道はあらへんかったはずやんか」

 そういう事か。現在なら飛曽山峠を越えたらデカンショ街道だけど、これがないのだから、どこかで篠山川を渡って小野駅の次の長柄駅に向かったはずよね。次の長柄駅と丹後支道への篠山分岐を考えると、

「どっちやろうかと思うて」

 コーヘーもオタク過ぎるぞ。篠山街道の断片からしたら王地山公園のあたり、

「京口橋やろ。そやけどあれかも篠山城が出来たからちゃうか」

 まあね、長柄駅は篠山城の北西の多紀連山の麓になるものね。コーヘーの言う通り、飛曽山峠を越えて早くに篠山川を渡り、篠山川の北岸を西に進んでいた可能性は残るかも。そんな事を話しながら篠山が近づいて来た。

 篠山も神戸からならツーリングの定番みたいなとこなんだ。距離的にも日帰りで手頃だし、篠山自体が観光地だもの。だから渚も何回も来てるし、コーヘーもそうみたい。今さら二人でデートもどきの街をブラブラは気が乗らないけど、

「ホンマ、愛想の無いやっちゃ」

 あのね、どうしてコーヘーに愛想を見せないと行けないのよ。コーヘーは河原町の妻入商家群に入って、河原町の交差点を右折して北上か。

「ここや」

 カフェと言うより喫茶店だけど、へぇ、スフレが名物みたい。あちゃ、また焼き上がりに二十分かよ。これも考えようか。お一人様で待つのは侘しいけど、たとえコーヘーでも二人連れなら待てるよね。

 なになに、プレーン、ラムレーズン、いちご、キャラメル、黒豆、栗に抹茶か。篠山ならやっぱり栗だろ。

「オレは抹茶にする」

 黒豆コーヒーとのセットを頼んでデザートタイムだ。それにしてもコーヘーは成金IT社長にまでなってるのに独身とは意外だったな。

「成金は余計やけど、独身は独身でもバツイチや」

 やっぱり逃げられるよね。

「あのなぁ・・・まあ、逃げられたようなもんやけど」

 へぇ、そんな話って実際にもあるんだ。コーヘーのKSTが軌道に乗り始めた頃に事業絡みの政略結婚の話が持ち込まれたのか。

「運転資金も苦しかったし、事業拡大のための資金もいるやん」

 それと引き換えにヘチャムクレを押し付けられた。

「そこまでは言わん。美人は美人やったが・・・」

 そんな話、実際にもあるんだ。まず奥さんはセレブのワガママ姫。ワガママ姫もあれこれ類型があるだろうけど、まずは旦那にマウントを取りまくったのか。この辺は実家の会社の方が大きくて、なおかつ援助する方だからやられたら、

「お手上げやんか」

 政略結婚をテコに事業資金を援助してもらってるし、その資金で新事業にも乗り出してるからワガママ姫の御機嫌を取るしかないよね。後は定番の学歴か。ああいう連中が評価するのは大卒、それも有名大学卒だけで、それだって『それぐらいは当然』なんだろうな。

「専門学校卒も、高卒も、中卒も学歴やったらその他や」

 そこまでなのか。これは日常会話のように言われたみたい。

「あれは最後まで理解できんかったし、理解しようとも思わんかったけど・・・」

 倫理観も違うのか。セレブ連中の結婚って政略結婚になるのが多いみたいだけど、そうなるのはああいう連中は了承してるんだって。それはそれで、どっかおかしい気もするけど、

「なんつうか、夫婦に求めるもんが根本的にちゃうねん」

 夫婦になるって普通は愛し合った二人がするもんだ。たとえお見合いでもそうのはずだけど、セレブ連中の考えてる結婚ってそうじゃなくて、

「籍を入れることがすべてみたいやねん」

 結婚して姻戚関係になるのが政略結婚であり、そこには愛情もクソもなく、家の利害しか無いって・・・わかりにくいな。

「そやな、戸籍上の夫婦であれば、どこに愛情を向けようがエエぐらいや」

 ちょっと待ってよ、それって浮気公認って事なの?

「みたいや。籍さえ入れとけば仕事は終わりで、後は何をしようがOKぐらいや」

 コーヘーもすべての政略結婚がそうだとまで言わなかったけど、コーヘーが経験したのはそうだったのか。セレブとて人間だから人を愛するのだろうけど、それと結婚は完全に分離してるぐらいみたいだ。

「オレもさすがに怒ったんやけど、まずどうして怒られるか頭から理解してへんかったし、やっと理解したら思いっ切り罵倒された」

 聞いてるだけで寒風吹きすさぶ夫婦生活だけど、

「氷の家に住んでるかと思うたわ。そやから、死に物狂いで働いた」

 結婚を繋いでいるのは要するにカネだ。そのカネが欲しいばっかりに頭が上がらなくなってるから、奥さんの実家の資金をアテにしなくても良いように、

「それじゃあ足りんねん。嫁の実家の会社を敵に回してもエエようにならなあかんねん」

 コーヘーは五年耐えて離婚したのか。ご苦労さんだよ。でもさぁ、そうなったらより成金になってるから、

「そうなったらそうなったで、メンドウやねん」

 まずコーヘーの会社との事業提携や資金援助を狙っての政略結婚話が舞い込んで来るのか。たく女をなんだと思ってやがる。コーヘーも政略結婚には懲りたから断ったみたいだけど、

「玉の輿狙いばっかり寄って来る」

 やっぱり港区女子的な世界もあったみたい。カネがある男はやっぱりモテるよ。愛が一番なのはウソでもなんでもないけど、カネがなければ愛も枯れるのも間違いとは言えないのよね。つうかさ、政略結婚狙いも港区女子連中も、

「そういうこっちゃ、オレやないねん。オレが持ってるカネを愛してるだけや」

 そんなんばっかりが集まって来るから、コーヘーもある種の女性恐怖症と言うより、女嫌いになってしまったみたいだ。成金も大変だ。

「成金は堪忍してくれ」

 過ぎたるはなんとやらって言うけど、同情ぐらいはしてあげよう。おっ、スフレが来たぞ。さすが焼きたてだ。

「つうかや、スフレって冷めたら萎むんちゃうんか」

 コーヘーなのに良く知ってるね。焼きたてをすぐたべないとスフレの意味がなくなるから洋菓子屋さんにも売ってないんだよ。そんなのを売り物にするって頑張ってるお店だと思うな。お味は・・・これはなかなかだ。コーヘーもよくこんな店を知ってたな。

「成金やからな」

 なるほど。

「そこはツッコンでくれ」

日暮れへのツーリング(第6話)うどん屋

 ここのうどん屋はバイク乗りにも有名で、今日だってあんだけバイクが停まってる。店に入るとバイク乗りにも人気なのは見ただけでわかる。だって店内にバイクが飾ってあるんだもの。

「トライアンフのスクランブラーとダックスやな」

 大将もバイク乗りなんだろうな。コーヘーはカレーうどんにしたけど渚は釜玉にしてみた。このうどん屋の特徴はとにかく待ち時間が長いこと。店内にも書いてあるのだけど、茹で時間だけで二十分かかるらしく、混んでる時には一時間ぐらい待たされるって話だ。

 だから来たことなかったんだ。ツーリング中だからそこまで時間がかかるのも困るし、お一人様じゃない。女一人でそこまで待つのはさすがにね。でも今日はコーヘーであるとは言え二人だから心強い。

「そないに嫌がらんでもエエやんか」

 ところでさ、どうしてモンキーにしたの?

「シートが気に入った」

 それもモンキーの長所よね。バイクのシートって硬いのが多いのよ。だからだけど長時間になるとお尻が痛くなるんだよ。

「モンキーが出てからやと思わへんか?」

 なんとなくそんな気もする。これまでバイクのシートのレビューは足つきだけだった気がする。足つきは大事なポイントだけど、座り心地はあんまりなかったよね。それでも文句を言うのはいたけど、

「幅が広すぎるってやつやろ。そんなもんフカフカシートに較べたら屁みたいなもんや」

 渚はあんまりシートに関心が無く買ったのだけど、

「つうか試乗車なんかあらへんかったで」

 そうなんだよね。納車の時に初めて座ったけど、ちょっと感動したぐらい。もう硬いシートに戻れないよ。これは良いところに目を付けた改良だと渚も思ったもの。

「渚でも痛いんか?」

 セクハラだ。目噛んで、鼻噛んで死にやがれ。そうそうEクラッチって知ってる?

「ヤマハも似たようなもの出しとったな」

 あれってこれからの標準になって行くのかな。

「わからんけど、今のとこは中途半端や」

 中途半端ってどこがだって聞いたら、現在のEクラッチはマニュアルと併用と言うか切り替えできるスタイルなんだよね。だから乗るのにMT免許が必要になってくる。今は導入期だからそうなってるぐらいだろうけど、本命はAT免許でも乗れるはずのEクラッチ専用車が出てからか。

「そのためにはEクラッチが好評になる必要があるけどな」

 コーヘーに言わせるとホンダは大昔からバイクへのAT導入に熱心みたいだそうで、その流れからのものだろうって。クルマはほぼ完全にAT車に切り替わってしまったから、ATバイク時代の覇権を握ろうぐらいかな。でもさぁ、バイクにもいずれEV化が来るはずよね。

「バイクがEV化された時のトランスミッションがどうなるかはあるはずやけど、それぐらい見越しての投入やと見てるわ」

 なるほど。バイクのEV化はとりあえず置いといて、現状のEクラッチの評価は、

「乗ったことがあらへん」

 コーヘーが言うにはEクラッチが威力を発揮するのはやっぱりサーキットだろうって。コンマ一秒に命を削る世界でシフトチェンジは大きいって言うものね。クルマでもF1とかなら先行してたはず。

「つうか渚はモンキーに欲しいか」

 あっても良いぐらいだけど、それで重くなったり、ましてや値段が上がるならいらないな。

「そやろ。クラッチ操作なんか意識もしてへんやん」

 シフトチェンジはとにかく非力だから常に意識はしてるけど、クラッチ操作はそんな感じだ。もっともクルマにATが普及し始めた時もそんな感じだったらしいから、先の事はわかんないかな。

「小型やったら自動遠心クラッチで十分や」

 たしかにね。モンキーの次を買い替える頃にはバイクの世界も変わってるかもね。そうだそうだコーヘーはIT土方だったよね。

「あのなぁ、たしかに土方みたいなとこもあるけど技術者やぞ」

 渚らの時はまだまだパソコンを授業にどうやって取り入れようかの時代だったけど、コーヘーはパソコン部だった。当時的にはパソコンオタクの集団ぐらいにしか見てなかったのは白状しとく。

「時代の最先端と言え」

 そうとも言えない事がないぐらいだ。だってだぞ、大学に進学せずに専門学校だったはず。

「大学入試で落ちただけや」

 そうだったのか。で、やっぱりIT土方やってるの?

「土方の元締めや」

 なるほどブラック企業の悪の手先か。

「ちゃうわい。オレんとこはそれなりにまだホワイトや」

 濃い目のグレーのブラックか。

「あのな・・・渚は神戸ソリューション・テクノロジーって聞いたことがあらへんか」

 それってKSTの事なの。それなら知ってるよ。渚の会社もKSTが請け負ってるもの。なんだっけ、えっと、えっと、クレパス7だよね。

「クレパス7の始まりがクレパスやねんけど、あれを作ったのがオレや」

 えっ、コーヘーは高校の時にクレパスの基本構想を思いついたそうだけど、さすがに高校のパソコン部の知識ではこれを具体化する事が出来ず、専門学校で学んだ知識も加えて完成させたって言うの。

「売り込みは大変やったけどクレパスは市場に受け入れてもらえたんや」

 えっと、えっと、それってもしかして、いや、ひょっとして、いやいや天地がひっくり返るようなものだけど、コーヘーがKSTを作ったとでも言うつもり。

「そやからIT土方の元締めやってる言うたやんか」

 冗談でしょ! KSTはまだ新興だけどクレパスはビジネスソフトの定番としてシュアの三本の指に余裕で入るぐらいのはず。それだけじゃない、ネットゲームも有名でクォンテスとかホークアイ、そうそうシトルリン王国の興亡も、

「遊んでくれてるとは嬉しいな」

 ぎょぇぇぇ、絵に描いたようなIT成金社長じゃないの。

「成金は余計じゃ」

 だってそうじゃない。夜な夜な、キャバクラとかで遊びまくり、連夜のようにドンペリのシャンパンタワーを建てまくってるはず。

「接待もあるからキャバクラぐらいは行くけど、ドンペリ―タワーなんて建てたことはないわ」

 じゃあ新地のクラブでレミーマルタンをダースで入れるとか、

「オレはああいう遊びは好きやないねん」

 だったら港区女子と遊び放題。

「住んでるのは神戸や」

 魂消た。あのコーヘーがそこまでの成功者になってるなんて。それでもやっぱりコーヘーだ。そこまでの成功者なのに未だに独身だもの。コーヘークラスになると、どれだけカネの魅力があっても女は寄ってこないんだ。

「あのな、人をなんやと思うてるねん」

 コーヘーだけど。

「まあ、ええわ。うどん来たで」

 どんな味かな。うん、なかなか腰もしっかりしてるし、滑らかじゃないの。このうどんだったら繁盛するのはわかるよ。

「シュアしょうか」

 半分食べたところでコーヘーのカレーうどんとチェンジしたけど、こっちはこっちでなかなかじゃない。これって讃岐うどんかな。

「どうやろ。オレには讃岐うどんと稲庭うどんの違いなんてわからんけど、美味いのは間違いあらへん」

 うどんを堪能させてもらった。

日暮れへのツーリング(第5話)コーヘー

 渚にも男友だちはいる。高二の時に一緒だったコーヘーだ。コーヘーは元の名前がヒトシだったのだけど、ヒトシならコーヘーだろうってなったみたいで、コーヘーに名前が変わってる。

「変わってへんわ。コーヘーはあだ名やし、本名のヒトシは誰も呼んでくれへんだけや」

 だったっけ。コーヘーとまた知り合ったのは何年か前に学年同窓会があったんだ。渚は出席しなかったけど、この時に同窓会SNSみたいなものが出来て、その時に連絡を取って来やがったんだ。

 コーヘーには男として興味はなかったんだけど、これでも同級生だから何度かメッセージのやり取りをしたのだけど、コーヘーの思わぬ趣味を知ってしまったのが失敗だったかな。なんとだよ、コーヘーもバイクに乗ってやがったんだよ。

 コーヘーの場合は学生の頃に乗っていて、社会人になってから一度辞めて、最近になって戻ってきたリターンライダーって事になるはず。リターンライダーって若い頃に乗ることが出来なかった大型バイクに走るのが多いはずだけど、

「歳も歳やから小型にしたわ」

 笑っちゃうけど渚と同じモンキーだったのよね。モンキーを含めた小型バイクって、どうしたって非力だから大型どころか中型バイクでもマスツーするのは大変なんだ。だからずっとソロツーだったのだけど、実はお一人様って好きじゃない。

 もっともマスツーしたいと言っても、ハーレー軍団みたいな大規模マスツーはゴメンだ。小型バイクのツーリングクラブも探せばあるだろうけど、組織になればあれこれと窮屈そうじゃない。

 渚がやりたかったのは気の合う仲間との小規模、いや二台か多くて三台ぐらいのマスツーだったんだよ。でもさ、そんな適当な相手って、そうは転がってないのよね。さすがにコーヘーじゃあって思ってたけど、あんまりコーヘーが熱心に誘うから、

「そこまで嫌がらんでもエエやんか」

 嬉しがってないからな。高校卒業以来だからコーヘーも昔の面影こそあったけど、さすがに変わったな。言ったらいけないだろうけど、白髪も見えてるぞ。

「まだ禿とらへんで」

 みたいだな。禿げてたら帰ろうかと思ってたよ。とにもかくにもツーリングだ。初めてだから無難に篠山になったんだ。あれ以上になると日帰りでもロングツーリングになっちゃうものね。

「篠山はエエとこやで」

 知ってるよ。ルートはどうするのかと思っていたら、新神戸トンネルか。

「六甲山トンネルは料金所が三回もあるさかいな」

 たしかに。小型バイクにETCなんかないから、そのたびに小銭を払うのはメンドウだもの。そうなると箕谷から岩谷峠、さらに淡河を突っ切って市野瀬から三田を目指しやがったな。さすがはモンキー乗りだ。良く知ってるよ。

 フラワータウンをどうするかと思ってたのだけど、へぇ、コーヘーも神鉄沿いの道を知ってたのか。これは片側二車線の立体交差になってる道だけど、初めて行った頃は渚も知らなかったんだ。

 だから六甲北有料道路から直進してフラワータウンを縦断するルートを走ってたのだけど、その道って信号が多いのよね。

「ああそうや。それも各停みたいに止まらされてウンザリした」

 気持ちはわかるよ。やっぱりアロハカフェで気が付いたの。

「そうやねんけど、なんか変な道やで」

 真ん中に神鉄がある広い道なんだけど、この道ってどこにも接続されてないのよ。南側は三田駅前ぐらいからで良いと思うけど、三田駅前ってゴチャゴチャしていて、あそこから国道一七六号に出るのはチイとややこしい。

「北側かって相野のあたりが整備されたんは最近やで」

 そうなのよね。なんか走って行くと田んぼの中で途切れてしまう感じだったもの。それでも知っていればフラワータウンどころか三田の市街地をショートカットできるある種の裏道にはなる。

「帰りに使う方が注意や」

 コーヘーもやらかしたのか。そのまま走って行くと三田の駅前だものね。相野駅の近くでJRの踏切を越えて走って行けば国道一七六号に出れるけど、湊川短大がどうしてこんなところにあるの?

「オレも気になって調べたことがあるんやが・・・」

 大元は湊川の近くの湊川裁縫女塾が始まりだったとか。これが大正時代なのだけど、これが発展して湊川高等女子職業高校になり灘区に移転。さらにこれが湊川高等女学校になり、戦後に湊川短期大学になり昭和三十一年に三田に移転したのか。

「ちょっとちゃう。湊川女子高の上に湊川女子短大が出来たみたいや」

 短大も高校も共学になって高校が三田松聖になって今に至るか。

「悪いけど湊川女子短大も湊川女子高も知らんかった」

 渚もだ。三田松聖はさすがに耳にしたことあるけどね。国道一七六号に入ると篠山に向かって北上するのだけど、ここまで来れば平日でも割と空いてるのよね。だからあの道は丹波の方へのツーリングでは重宝してる。出来れば国道一七六号も迂回したいけど、

「どこ走っても結構な峠道や」

 そうなのよ。花山院から永澤寺の道なんて、空いてるのが取り柄だけのガチの峠道だもの。他も似たようなもの。古市から篠山に入るのが一番ラクかな。古市の信号が混んでることが多いのが嬉しくないけどね。

「立杭回っても結構な道やもんな」

 立杭を迂回して黒石ダムからも峠道はなかなかすぎる。てな事を話していたらデカンショ街道だ。ちゃんとランチを考えているだろうな。

「当たり前や」

 焼鯖寿司と皿そばとか、

「うどんや」

 篠山でうどんとなると、

「猪の看板のとこやのうて風輪里や」

 あっちか。なるほど、だからこの時刻にしてるのか。そうなると福住まで行って北上だよね。

「いや、篠山ビーフのとこでショートカットする」

 それどこだ? 福住から北上するのは国道一七三号なんだけど、福住まで回ると途中でちょっとした峠もあるし、それなりに混んでる時もあるのは知ってる。だから篠山川の北側の道に入って福住をショートカットしようというのか。

 何か所か行くルートがあるみたいだけど、コーヘーは篠山ビーフを目印にしているみたいだ。あそこか。農道みたいなところだけどバイクならノープロブレムだ。この信号を右折だけど左に行けばどこになるの。

「篠山川の北岸道路みたいになって、そのまま走って行ったら篠山城の南側になるで」

 ああ、あの道に繋がるのか。やがて国道一七三号に入ったから、あった、あった。

「来たことあるんか」

 実は初めてだ。話には聞いてたから楽しみだ。