ツーリング日和6(第26話)据膳談議

「いるね」
「白羽根警備もアホやない」

 もうすぐ敦賀港に着岸やねんけど、十人ぐらいはおるな。

「コトリ、どうするの」
「芸がないけど強行突破や」

 ボーディング・ブリッジを下りたら寄って来よったから、

「おっと、そこまでや。それとうちらのバイクのナンバーをちゃんと覚えて報告しいや。そうしたら、あんたらの仕事は終りになる」

 しゃ~ない金縛りや。三十分ぐらいでエエやろ。これで白羽根警備との鬼ごっこはおしまい。もうちょっと楽しみたかったけど、こっちかって仕事があるから、これ以上は付き合われへん。

「帰ろうか」
「朝飯困るな」

 敦賀から定番の帰り道で舞鶴回ってから、綾部、丹波篠山、三田から北六甲有料道路から六甲山トンネル抜けて神戸に御帰還や。

「七泊八日になったけど楽しかったね」
「ああ、これで北海道も目途付いたようなもんや」

 北海道は目途ついたけど、目途が付かへんのがあの二人。

「知恵の女神が情けないね」
「今回は難しいわ」

 それよりあいつら、昨日の夜もやってへん。もう五泊目やぞ。昔から言うやろ、据膳食わぬは男の恥ってな。

「あえて据膳を食べないことで、男のプライドとか優しさを示してるとか」

 それは据膳の言葉を履き違えとるわ。据膳つうのは、どうぞお食べ下さいと目の前に出された御膳の事や。御膳には御馳走が乗っとるんよ。そこまでして出されてるのを食べへんのは失礼やないか。

 もちろん男と女の据膳には色々ある。たとえばあれこれ因果を含められて無理やり据膳にされとる場合は食べへんのも一つや。

「そういうケースもややこしいのよね。食べてもらうことで因果を果たすケースもあるもの」

 やるのは嫌でも、据膳として食べられへんかったら、今度は食べられへんかった事が問題になるケースやろ。あれはややこしいわ。

「そもそも据膳と勘違いして食べようとするケースもあるよ」

 見え見えの据膳もあるけど、シチュエーション的な据膳もある。わかりやすく言うたら、夜に二人だけで部屋におるような状況や。言い換えれば、男がいつでも襲える状況になっとるぐらいでエエ。

「あれでしょ、恋愛感情抜きの男友達としか思ってないのに、部屋に入れられたのをOKと勘違いして襲いかかるってケース」

 そういうこっちゃ。男から見たら誘われてるように見えるとしても良い。その辺は阿吽の呼吸のもんや。据膳いうても女が首から、

『一発よろしく』

 こんな札を掛けとるわけやあらへん。女が据膳なのかどうかの判断は男になる。その判断を間違うと悲劇になる。下手すりゃレイプで捕まるからな。

「あれも微妙な時が多々あるのよね」

 それを言い出したらキリがのうて、好意はあってもその夜はやりたないとか、どうしてもやったらやっても良いけど気乗りが薄いとか、

「女から誘ったら良くないから、それなりに抵抗だけ見せるとか」

 そやから据膳かどうかが微妙な時は食べへんのが吉もある。そりゃ、据膳食べたばっかりに、後が大変なんてケースもなんぼでもある。男と女でやる関係を結んだっつうのは、そこからどんなドラマが展開するかバリエーションがありすぎる。

 そやけど、そやけど、香凛は完全な据膳やん。どうか食べて下さいと言ってるようなもんやんか。それにやで、半分無理やりやったけど、フェリーの夜に香凛を泣かせて、あそこまで言わせてるんやで。

「コンドームがなかったらだよ」

 まあそれは理由になるけど、若い男が香凛みたいな美人と五泊目やぞ。やりたないわけあらへんやん。それどころか、別に香凛がおらんでも溜まるし、一緒やからセルフで出しようもあらへんやんか。

「夜の部屋は別だったから出してるよ。でもひょっとしたら童貞かも」
「同棲して結婚式まで行ってる女がおったのにありえるか」

 ごく普通の庶民同士が恋をして、将来を誓い合うところまで関係が深まって、お互い清い体のまま初夜を迎えるなんて宝くじより確率低いわ。あるんやったら、超が付くマザコン男とか、ウルトラ・シスコン男の偽装結婚ぐらいや。

「とりあえずどうするの」
「ホテルに放り込んで励ませる」

 やってくれんと活路を見出しようがあらへん。

「それってヴァージンを貫いたら活路が開かれるってことよね」

 香凛が貫かれたからって必ずしも活路は開かれると限らんが、貫かれんことには話を広げようもあらへん。たとえば孕んでくれたら状況が変わってくる。

「それは時間がかかりすぎるよ」
「一発でも当たる時は当たる」

 出来ちゃった婚の泥仕合はコトリも避けたいんやが、状況はそれぐらい苦しいわ。

「ところで野獣はアレはどれぐらいあるんだろ」
「どやろ」

 あれの大きさは必ずしも体格と比例せん。でっかい統計取れば別かもしれんが、コトリの知っとる限り個人差が大きすぎる。

「だから処女相手に気を使ってるとか」
「そんなもん、いつかやるんやから一緒や」

 一般的な話をすれば小さいより、大きい方が歓迎される。そやけど実戦は言うほど差はあらへん。あまりにデカいと女は壊されそうな恐怖心が出るから嫌がられるぐらいや。

「実際はどんなサイズでも入るのにね」

 経験が多すぎじゃ。ほいでも過ぎたるはの逆の短小は軽蔑されるものな。

「でも本当は大きさより持続時間と連発能力だものね」

 そやから経験が多すぎるって。連発能力はまだしも少なくとも早漏はあかんな。女が存分に感じるためにはどうしたって時間が必要や。中途半端に火が付いたぐらいで終わらされてまうのは生殺しになる時があるからな。

「そこをカバーするのが連発能力じゃない。早漏だって二発目になったら時間は伸びるじゃない」

 そやから、そやから経験多すぎじゃ。だいたいやで連発できる奴は少ないぞ。

「そこは女のテクニックじゃない」

 童貞相手の時がそうやもんな。若いし、頭に血が昇り切っとるから、三擦り半どころか、先っちょで暴発してまうのもおる。そこで責めたらあかんのよ。優しくフォローして、次に導いてやるんよ。

 女にそんなことされた事あらへんから、反応は面白いぐらいや。すぐやもんな。二発目かって三擦り半に毛が生えたぐらいになるのも少のうない。とにかく初体験やから余裕なんてものはクスリするほどもあらへんのが多いんよ。

 それでも、そこまで頑張った事を目いっぱい褒めてやって、次に導いたるねん。あれは若さの特権やと思うわ。ホンマになんぼでも導けるねん。さすがに何発かしたら経験ができるやん。朝になる頃には・・・

「何発やらせてるのよ」

 そんなもんコトリが満足するまでに決まってるやんか。枯れ果てて、空撃ちになっても若い童貞やったら余裕や。時間の許す限りエンドレスしかあらへんやろ。そうしてやるのが女神の筆下ろしや。

「そりゃ、そうだけど」

 コトリとユッキーのことはエエ。五千年も女、それも若い女ばっかりやって、すべての経験が止め処もなく積み上げられてもてるからな。そういう女を相手に筆下ろしする幸せを与えてやるのも女神の仕事や。

「それって幸せなのかな。他の女じゃ満足できなくなっちゃうかもしれないんじゃない」

 当たり前や。女神とのエッチやぞ。それぐらいの代償なんてタダみたいなもんや。余計な心配せんでも男は普通の女と出来るようになる。そやな、最高のエッチは女神ぐらいがいつまでも記憶に残るぐらいや。

 そやけど、毎度毎度こんな淫乱の極みみたいなエッチをやっとる訳やない。一発で心も体も深く深く満足する時はするねん。それがたとえ短小の早漏でもや。これが五千年かけて会得した神髄や。なにより一番肝心なのは、

「エッチは心よ」

 しもた。決めセリフ言われてもた。

ツーリング日和6(第25話)困った

「今晩、やるかな」
「せえへん気がする。あのままやったら、コトリにやらされたようなもんやからな」

 それでもやるかもな。やったらエエねん。好きおうてるねんから、誰も文句は言わん。

「直樹も気づいてるよ。やってないのは、顔のコンプレックスもあるけど、香凛が初めてなのもあるんじゃい」

 ヴァージンの深窓のお嬢様か。直樹みたいなタイプやったら気使うか。ヴァージン言うても最初の一回目だけやねんけどな。

「わたしたちを引き合いにしたらダメよ。それとね、やっぱり初回は大事よ。コトリだって最初の嫌な思いを払拭するのに千年かかったじゃない」

 コトリの本当の意味での最初は悲惨すぎたもんな。コトリはともかく、どうせやったら良い思い出にした方がエエに決まっとる。最初の時にポイントなんは、心が受け入れるかどうかやねん。最初から良かった女なんてまずおらんと思うが、心が受け入れたら満足感が深いからな。

「とりあえず、今晩やるとして、次の展開が難しくない」
「マイの時のようにはいかんやろな」

 白羽根警備に手を引かせるぐらいは、マイの時の手段を使えば簡単や。マイの時は、白羽根さえ手を引けば、マイの爺さんの無双が期待できたし、思惑通りになってくれた。そやけど今度の相手は香凛の爺さんの大拙や。

 大拙は甘い人間やない。マスコミでチャラチャラしとるように見えるけど、あれも全部ビジネスとして計算づくや。華仙流を一代でメジャーな流儀に押し上げた手腕はダテやない。ちょっとでも隙を見せたら叩き潰される。

「正面から行かせるのは活路としてありだけど、見合い話がなくても直樹は蹴られるよ」

 それは現実問題としてある。今回のはガチガチの政略結婚やけど、あの手の家の結婚は多かれ少なかれ政略結婚的な要素は常に含まれるのは常識やもんな。それ言うたらマイと清次さんとの結婚もそうなってまうし。

「マイはある意味エライと思うよ。自分の置かれている立場をあれだけアッケラカンと受け入れてしまってるんだから」

 香凛はどうなんやろ。華道の家元家で多いのは、時代の家元を受け継ぐ若手のホープみたいなパターンが多いよな。ある種の職場結婚みたいなものやけど、

「香凛は一人で家元出来そうじゃない」

 そやな華風の香凛やもんな。そういう意味で旦那は誰でも良さそうなもんやけど、今回は華茶一如の話が絡んで来るから、大拙もそう簡単には折れんやろ、

「キズモノにされたぐらいであきらめそうにないものね」

 今晩、二人で頑張ってくれたら、正面突破の最低限の体制は出来るけど、今のままやったっら正攻法で行っても玉砕するだけや。

「駆け落ちさせるか」
「それは最後の手段だよ」

 駆け落ちは失うものが多いからな。古臭いと言われようが、家族に祝福されてこその結婚や。もうちょっと言えばそうなれるように努力するのも結婚のうちやんか。そやけど、エエ手が浮かばん。

「せめて大拙の華茶一如構想がトンデモだったら、なんとかなるんだけどな」

 これも妙な言い方になるけど、香凛が素直にお見合いをして相手を気に入ってくれたら、関係者一同、全員ハッピーみたいな結婚やねん。だからこそ政略結婚やねんけど、写真見た瞬間に逃げてもたぐらいやからな。それにしても相手の男はどんな奴やねん。

「コトリ、まだ見てなかったの。シノブちゃんから来てたよ」

 ホンマや、どれどれ。二十三代目紹鴎流家元、岡本宗順。もっとも宗順は芸名みたいなもんで、本名は順一って平凡やな。やっぱり茶道教室なんかやってへんで、職業はまあまあのとこに勤めとるやんか。歳は香凛の三つ上で、学歴は西宮学院大卒業。

「歳の釣り合いも学歴も悪くないし、顔もまあまあだから、後は会って見ないとわからないタイプかな」

 これやったら結婚が絶対条件やなかったっら、顔ぐらいは見に行くクラスやな。そこに妥協できへんかった気持ちはわかるけど、問題は解決せえへん。ところで茶道の腕前は、

「かなりよ。裏千家の茶名・紋許をもらってるもの」

 だから宗順か。裏千家では茶名として利休ゆかりの宗易の「宗」の字を与えられることになっとるねん。ちなみに宗易は法名で、有名な利休は禁中茶会の時に町人では参加できへんから、正親町天皇から居士号として与えられたものや。

「戒名の居士とニュアンスが違って、今なら博士号が近いかもね」

 茶道の方の十分条件もクリアか。困ったな、文句が付けにくいやんか。直樹が大拙に正攻法で仕掛けるには、香凛と愛し合ってる以外に、出来ればお見合い相手がトンデモであるのが理想的やねん。女にだらしがないとか、カネにだらしがないとか、それも実は結構な借金を抱えてるなんかもエエ。

「ホモとか、インポとか、種無しも使えるよ。ロリコンも効果的かも」

 それは品が悪いから出来たら避けたいが、要は大拙に、

『こんな男に孫娘はやらん』

 こう言わせてしまうような材料や。そうやって見合い相手を切って捨てさせて、返す刀で直樹との結婚を認めさせてしまうぐらいの段取りやねん。そやけど今のところ、そういう致命的な弱点はないどころか、

「これが逆なら、まだ手はありそうなぐらい」

 まあそうや。エレギオンHDの名を振りかざしても、

「さすがにね。畑が違うからゴリ押しも良いとこになっちゃうよ」

 御意や。あんまり使いたい手やないもんな。ましてや今はプライベートや。

「それでも取っ掛かりぐらいはあるじゃない」

 そう言うけど無理あり過ぎや。まず大拙は華茶一如のために茶道界のブランドを欲しがっとる。宗順は紹鴎流の家元やけど、学んだのは裏千家や。このまま宗順を華仙流に取り込んでも、裏千家の影響が懸念される。

 それやったら三千家と無関係の直樹の方が・・・有利になるはずないやろが、そりゃ大拙は婿に茶道の腕前を期待しとらへんかもしれんが、直樹には肝心の看板があらへんやんか。大拙が欲しいのは紹鴎流の看板で、その代償に孫娘の香凛まで嫁に差し出そうって話やねんぞ。

「やっぱりそうよね」

 考えるまでもあらへんやろ。そんなんで有利になるんやたら、殆どの男が宗順より有利になってまうわ。

「それでもここはポイントよ」

 まずわかるんは宗順に紹鴎流は伝わってないとしてエエやろ。あったら裏千家なんか学ぶかいな。せめて父親なりから一子相伝でも紹鴎流を学ぶからな。もうちょっと言えば紹鴎流はこの世にないとしてエエやろ。

 そやから茶道の腕前は根本的には関係あらへん・・・あかん、あかん、同じとこ話が回ってるだけやんか。大拙が欲しい紹鴎流の看板は宗順が持ってるんや。そこだけで圧倒的に不利でどうしようもあらへんやん。

 それやったら、少しでも差を詰めるにはやるしかあらへん。初物捧げた男と結婚するストーリーしか活路はあらへんやんか。そうや大拙の肉親の情に訴える作戦や。その路線で行くのやったら、やりまくって、

「デキ婚作戦は良くないと思うけど」

 まあな。とにかく今晩は頑張って欲しいけど、

「やっぱりやらないと思うよ。フェリーはラブホじゃないからコンドームないもの」

 しもた、忘れとった。

ツーリング日和6(第24話)フェリーの夜

 今日はフェリーに乗るだけやから九時に出発。まずは日本海に出て、後はひたすらシーサイドロードを南下や。村上で塩引き鮭と鮭の酒びたしを買い込んで新潟で昼食、

「へぎそば食べなきゃ」
「わっぱ飯も外せんな」

 土産物屋で特産品をあれこれ買い込んで、

「白羽根警備の動きは?」
「秋田から動いとらんようや」

 まあそうするわな。コトリらがおらんかったら、直樹と香凛はノコノコ明日の朝に秋田フェリーターミナルに顔出す予定やったぐらいやからな。問題は秋田に姿を現さんかった時やけど、

「応援に来たのはランボー並みに強いだろうけど、二人か三人じゃない」

 そやろな。ランボーとコマンドーの夢の競演みたいな奴やろうけど、何十人もおらんわ。相手はいくらリアルなまはげみたいに強そうや言うても、しょせんは素人や。戦力的にはそれで十分やけど、ワン・セットしかおらんのがあいつらのネックや。

 それにあいつらだってアホやない。新潟の線かって読んでるはずや。問題は両方カバーするだけの戦力があらへんことや。そやけど、

「新潟では手を出さないしても、見張りを置いてる可能性はあるよね」

 新潟で乗り込むのを確認したら秋田の主力部隊は敦賀に急行や。新潟から敦賀までフェリーは十三時間ぐらいや。一方で秋田から敦賀は七百キロぐらいやが、ほとんど高速やから、白羽根警備の連中やったら十時間もあったら走りよるやろ。

「敦賀に先回り出来るよね」

 そういうこっちゃ。そもそも新潟で手を出したらまだ日も高いから人目が気になるやろ。敦賀やったら五時半着やから下船してくるのは六時頃や。秋田も八時半出航やけど、乗船手続きの関係で七時過ぎにはフェリー・ターミナルに行く必要がある。勝負賭けるんやったら、秋田か敦賀の方が都合がエエはずや。

「東京方面に動いてるくれる可能性は」

 そういう懸念はあいつらも念頭に置いてるやろうけど、すぐには動けんはずや。

「そっかそっか」

 白羽根警備の請負料は、青森やったら大儲け、秋田でなんとか黒字、敦賀やったら足が出るぐらいやと思う。請け負ったプライドもあるから敦賀までは動くとみる。そやけど埼玉とか東京に広がると底なしの大赤字になるはずやねん。

「マイの時はコスト度外視で追跡できたけど、今回はビジネスだものね」

 そういうこっちゃ。請負料の再交渉問題が出てくる。追加料金を了承させるか、請負失敗で料金をあきらめるかや。その再交渉の結果が出るまで東京方面には動かん。

「再交渉のタイミングはフェリーの線が消えてからになるよね」

 だから待つ戦術も有効やったんやが、こっちが待っとられへん。これがこっち側のネックや。東京に動くのもとりあえずの安全性は高いんやが、そんなもん下道で付き合わされたら神戸に帰るまで、これまた何日かかるんよ。

「そろそろフェリー乗り場に行こっか」
「おったら、おった時の事や」

 直樹も香凛もそんな不安そうな顔をするな。つうても無理か。

「コトリ、フェリーターミナルが見えて来たよ」

 どこも似たようなもんか。乗船手続きを済ませて、

「船室は?」

 デラックスAのツインを二部屋にしてもうた。直樹は四人部屋にこだわったけどステートBの二段ベッドはこっちが堪忍や。ほら、誰もおらへんやろ。コトリの読みはこんなもんや。

「よく外れるけど」
「ほっとけ」

 十六時半の出航やからまずメシや。

「日本海の夕日はさすがだね」

 ツーリングで見るのはしばらく見納めやな。腹も満たされたから、風呂に行ってやが、

「香凛と直樹は部屋のバスにするって」

 ちょっと解したらんとあいつらもたんで。こんな環境に置かれると誰かって不安と緊張になるけど、緊張ばっかりしとったら潰れてまう。

「あいつらの部屋行くで」

 ビールとおつまみ抱えて訪問や。部屋に入ったら二人とも蒼い顔や。それにしても律義やな。香凛がソファで、直樹がベッドやんか。ソファで肩並べて座ったっらエエのに。缶ビールを勧めておいて、

「敦賀までは行けるけど、その後はどうするんや」

 あの二人の懸念や。コトリとユッキーがおるねんさかい、敦賀港に海兵隊が一個師団で待ち構えとっても突破したるけど、問題はその後や。

「とりあえず大阪のボクのマンションに・・・」

 下の下策や。下策過ぎてその場は裏をかけるかもしれんが、その場しのぎもエエとこや。まず逃げ回る発想を捨てなあかん。逃げるのも時に必要やが、今の状況で逃げてばかりやったら、必ず行き詰る。なんか打開するプランはあるんか。

「そう言われましても・・・」

 世の中には絶望的に感じてしまう状況はあるけど、殆どの場合に活路はあるんよ。活路を見出すには今の状況をまず冷静に分析せなあかん。今の状況をもたらしとる最大の原因、根本は何かをまず直視するのが重要や。

「それは瑠璃堂さんの見合い問題です。帰れば強制的に見合いから結婚に進まされてしまいます」

 それは聞いたし、知っとる。知っとるけど、直樹の様子が変やぞ、まさかと思うけど、誰が相手か、どういう目的かを聞いてへんなんて事はあらへんやろな。

「それぐらいは聞いてます。写真でしか知らない男です」

 冗談やろ。そんな事もまだ教えてもうてないんか。フェリーを秋田で下りてから、四泊も二人で同じ夜を過ごしてるのにか。やってないのは律義で許すとして、香凛はそこさえ信用を置いとらへんのか。

「私も相手が岡本って苗字の他には・・・」

 あたたた。マジかいな。こんな事ってあるんかいな。たったそれだけの事で白羽根警備に追い回されるもんか。

「それは瑠璃堂さんが華仙流の家元の孫娘ですから」

 呼び名もそうや。若い男と女やぞ。それも逃避行で四泊もして、さん付の名前呼びさえ出来へんのかよ。普通やったらソファに肩寄せ合って座っとるもんやろが。なんかイライラするな、

「時間もあらへんからズバッと聞くけど、直樹さんは香凛さんに惚れてるんやろ」
「惚れてるなんてトンデモない」
「香凛さんは」
「こんなにお世話になって感謝しています」

 お前ら特別天然記念物か! よう聞けよ、

「あんたらに立ち塞がっとるんは、瑠璃堂の家や。それも香凛さんの爺さんや。なんで、なんで直樹さんは香凛さんに惚れてるって言えんのよ。惚れとるから見合いの相手より、自分が結婚相手に相応しいって談判しようって考えへんのや」

 そしたら直樹の野郎、

「結婚? 冗談でしょ。瑠璃堂さんは華仙流の家元の孫娘ですよ。ボクとじゃ話になりません」

 なるわ! 男と女以外に考えることあらへんやろ。それにプータローやない、名の通った一流会社の正社員でしかも係長やろ。今の状況の活路は直樹が香凛を奪って大拙を納得させる以外にあらへんで。

「もう一回聞くで、直樹さんは香凛さんが嫌いなんか」
「好きとか、嫌いとか言えるような人じゃ・・・」

 この愚図が。好きでもない男と四泊も重ねるものか。香凛も香凛やぞ、

『うわぁ~ん』

 しもた泣かせてもた。

「竹野さんは本当の紳士です。そんな竹野さんを・・・」

 そうやろ、そうなっとるはずや。直樹の心が通じんはずあらへん。女を泣かせるとは罪な男やで。これで立たへんかったら男やないで。そやのに、そやのに、

「とにかくこの顔なもので・・・」

 そこから直樹の女難の相と女運の悪さを聞かせてもうたが、素直に笑た。まあ幼馴染はまだ許す。中学生やから、顔だけで判断してもしょうがないやろ。高校の時のも同じようなもんやが、陰口、悪口は許せん。

 恋愛で告白は重要過ぎるステップや。ここを乗り越えるには勇気がいるんや。これは男も女も一緒や。もちろんやが、告白されたからと言って付き合わなあかんもんやない。ゴメンナサイも普通に選んで誰も非難せん。

 そやけどな、告白してもらった事へのリスペクトはもたなあかん。告白をしてくれる勇気を認めてあげるのが恋愛のルールや。難しい話やない、告白してきた相手を無暗に貶すのは許されざる行為なんよ。

「美穂は最低や。災難やったけどこれは単に女運が悪いのとちゃう。結婚運が良かったんや。考えてもみい。もしあのまま結婚しとっても必ず元カレと浮気するし、下手すりゃ托卵や。誓いの言葉まで行っとったのに逃げられたんはラッキーそのものや」

 男が顔やないと言うのは半分ぐらいはウソや。女かって顔で入り口は判断する。直樹の顔やったらまず殆どの女は敬遠する。そやけどな、男でも女でもホンマに見んとならんのは心や。どんだけ綺麗な心を持っとるかなんや。

 心を知って惚れたら最強や。もちろん惚れられてもや。香凛は直樹の心を見れたんがわからんか。直樹かって気づいてるはずや。気づいとらへんかったら、ここまでする訳ないやんか。もっと素直に香凛を見たれよ。恋する女の顔ぐらい気づいたれよ。

「コトリ、部屋に戻るよ」

ツーリング日和6(第23話)山形ツーリング

 朝食は七時半からで八時には出発や。

「シノブちゃんには」
「山形牛か魚沼産コシヒカリで手を打っといた」

 朝風呂気持ち良かったな。まずはここまで来たら田沢湖に寄らんかったらウソやろ。半周だけクルっと回って、たつこ像で記念写真や。これで田沢湖行ったことになるでエエやろ。田沢湖から角館やけどさすがに寄るヒマあらへん。アスピーテラインと一緒にお預けや。

 角館から由利本荘に抜けたから秋田市内はこれで完全回避でエエやろ。そやけど結構かかるな。もう十一時をだいぶ回ってもた。もうすぐ今日の目玉の鳥海山ブルーラインやけど、

「展望台ぐらいでお昼ご飯なの」

 我ながら芸がないと思わんでもないけど、他に思いつかんからそうするわ。ブルーラインもエエ道やな。

「走れて良かったじゃない」

 鳥海山は秋田と山形の県境になるけど、こりゃ壮大やわ。まあ、今回のツーリングはこんなんばっかりと言えんことないけど、

「贅沢よね」

 ホンマにそう思う。これだけ絶景ツーリングばっかり出来るんやものな。寒風山、竜泊ライン、八甲田山に続いて鳥海山やで。そろそろ五合目か。駐車場も広うて嬉しいわ。とりあえず昼飯やけど、

「山形と言えば玉コンニャクだってね」
「秋田の焼きりたんぽもあるのが県境やろな」

 両方ゲットして鳥海ラーメンってなんや。なんか辛味噌入れるらしいけど色んなご当地ラーメンがあるもんや。普通いうたら、普通に美味しいけど、

「ここで食べるのが値打ちよ」

 それはある。観光地食堂は味やない、そりゃ美味い方がエエに決まっとるけど、ここで食べてると言うのがプレミアやもんな。

「鳥海山登山の基地みたいなものよね」

 ここで五合目やからな。さすがに登っとる時間はあらへんわ。景色も堪能したから下るで。こりゃ楽しいわ。鳥海山を下りたら道の駅鳥海に寄って、

「ここからどれぐらい」
「二時間もあったらお釣りやろ」
「だったら本間屋敷寄って行こうよ」

 酒田の本間いうたら日本一の大地主で、

『本間様には及びはせぬが、せめてなりたや殿様に・・・』

 こうとまで歌われた大金持ちやった。なにせ三千町歩つうから三万石の米が取れたことになるもんな。地主は三割ぐらいの取り分やったはずやから、九千石か。江戸期を通じて一石はおおよそ一両やったからゼニにしたら九千両か。

「領主の取り分もそれぐらいだけど、使用人の数が違うものね」

 本間家も戦後の農地改革で散々な目に遭うてるのは仕方ないやろ。それでも滅ばんように頑張った話はどこかで読んだことがあるけど、今日はエエやろ。なんとか時代に対応してそれなりに生き残れたのは大したもんぐらいにしとこう。

 今に残る本間家旧本邸も凄いもんで、幕府の巡見使を迎えるために新築して藩主に献上したもんやと言うから驚くわ。もっとも献上した言うても形だけで、巡見使が帰ったら拝領しとるねんけど二千石の格式らしいわ。そんなに寄り道やないから寄ってこ。

「栄枯盛衰ね」

 農地改革にも光と影があるけど光の方が多いやろ。あん時の地主に同情するんは、ハイパーインフレで公定価格がダダ下がりしたことやろな。相続税も爆上がりしたし。ほいでも富は一か所に固まらん方がエエのは間違いない。

「そうよカネは天下の回りものじゃなくちゃいけないの」

 欧州の王室がバタバタ倒れたんもそうやもんな。カネと権力が集中したら無敵に見えるけど、

「圧倒的多数の持たざる者に倒されるのが歴史の鉄則だもの」

 わかっとってもやってまうのが人間やけどな。今日は急ぐから本間美術館はパスで宿行くで。東北の道はほんまにツーリングにマッチしとるわ。どこ走っても気持ちエエんよ。市街地も短いしな。さてこの辺やけど、

「コトリ、これ?」

 宿の名前も合うてるけど、なんやこれ。看板だけは大きいけど、これホンマに旅館か。民家ぐらいしかあらへんやんか。さすがに失敗したかな。素直に温海温泉にしといたら良かった。

「香凛お嬢様に失礼じゃない」

 こここまで、しょぼいはずないんやが。まさかホンマにこれだけとは、

「こっちから入るみたいだけど」

 なるほど思いっきりウナギの寝床みたいな建物ってことか。道路からみたらビックリしたわ。もっとも建物全体はチープやけど、まあ、これぐらいのとこの方が足取りをつかまれにくいぐらいと思うとこ。

 そやそや部屋割りをどうするって聞いたんやけど、一緒でエエと言うんよ。別に四人一室でもかまへんけど、

「まだみたいね」

 見た目は野獣やし、道連れになったお蔭でエライ目に遭うてるのに律義なこっちゃで。迷惑料でやってもかまへんぐらいやのにな。

「露天風呂は混浴だからパスだって」

 これはしゃ~ないか。お嬢さんやからな。

「直樹は入れば良いのに。コトリのおばさんボディはともかく、わたしのナイスバディを見れたのに」
「ほっとけ」

 なるほど、あえて見ないってことか。香凛がいるのにコトリやユッキーのフルヌードを見たら心象が良くないぐらいか。

「それやったら、やったらエエのに」
「見た目と違って純情みたいね」

 純情だけやのうて真面目やわ。今日かって鶴の湯の宿賃、ガソリン代、昼食代、途中で飲んだジュースまできっちりメモしとった。ホンマにカネ借りて返すつもりにしか見えんかった。

「そう言えば手もつながないものね」

 手どころか並んで座るんも避けようとしとったぐらいや。でもわかる気がするわ、

「あの見た目だから損したことは多かっただろうね」

 男と女の間に情が湧く、ほんまの最初の最初はやっぱり見た目が九割や。見た目が良かったら一目惚れもナンボでもある。逆に悪かったらそれだけで避けられてまう。あの迫力あり過ぎる顔やったら、可哀想やけど普通の女なら近寄りもせんやろ。

 コトリでも鶴の湯で会うた時は、リアルなまはげやと思てもたぐらいやからな。そういう経験を積み重ねたら、女に対して臆病になるのはわからんでもない。自信なんか育ちようがあらへんやろ。

「そんな事ないよ。極妻タイプなら惚れるはず」

 それは直樹が見た目通りにヤーさんやった時や。ありゃ律義なサラリーマンタイプで真面目が身上みたいな男や。これは貶しとるんちゃうで、褒めてるんや。愛した女を大事に出来るタイプでエエと思う。そやけど好きな女のタイプは、

「そうよね、ごく普通の大人しいタイプよね」

 高嶺の花への恋ぐらいに感じとるぐらいかな。

「高嶺の花もあるけど、身分違いの恋かもしれないよ。香凛の話は聞いてるはずだし」

 ほいでも香凛も気があるようにしか見えるんやけど、

「コトリにもそう見えるよね。わかったんじゃない」

 やっぱり無理やりでも部屋を分けたったら良かったかもな。

「どうかな。確かに魅かれ合ってる部分はあるけど、あの二人にとってはそれどころじゃないかもよ」

 そうやな。人間は追いつめられると弱いんよ。あの二人は色んな面で追いつめられて、それこそ明日はどうなるか見えへん状況やもんな。そやけど、そやけどや。そういう時こそ燃え上がりそうなもんやねんけどな。

 それはそうとこの露天風呂やけど、ビニールハウスみたいやな。冬場の雪対策もあるんやと思うけど、それだけやなく、

「これだけの広さの露天風呂は滅多にないよ。それなのに底から温泉が湧いてる掛け流しなのよ」

 幅が十三メートル、奥行き二十三メートルらしいけど、学校のプール並や。

「プール並って言ったら、こんなに深い温泉は初めてよ」

 一・二メートルやから子どもやったら足も立たんで。こんな珍しい露天風呂に入れただけでも泊まった価値は十分あるわ。

ツーリング日和6(第22話)予定変更

 ユッキーが腹括って乗るんやったらコトリも乗るで。

「事情はわかったからゼニは貸したる。貸したるけど、明日はどうするつもりや」
「秋田に泊まってフェリーで・・・」
「アホか!」

 白羽根警備の連中は青森で香凛の確保に失敗しとる。あそこで逃げれたんは白羽根警備の情報不足やったでエエやろ。直樹はあれでも柔道黒帯や。そんな直樹が一緒やった情報をつかんでなかったはずや。

「いや、直樹さんが一緒なのはつかんでたと思うよ。抜けてたのは柔道黒帯の情報だと思うよ」

 そうかもな。そのせいもあって、青森以降は積極的には追跡してへんはずや。これもたぶんやが、青森での直樹はかなりのインパクトを白羽根警備に残しとるはずやねん。

「半端ない気がする」

 半端ないどころか強烈やったはずや。あの顔と巨体やんか。それこそリアルなまはげが暴れとるぐらいに受け取ったはずや。

「柔道黒帯だからタダでも強いけど、数倍ぐらいに感じたんじゃない」

 青森で出くわした白羽根警備の連中かって弱いことあらへんはずやし、それも三人もおったそうやんか。聞くと直樹はまさに一蹴しとる。当然やけど筋者の線も疑ったはずや。疑わん方が不思議過ぎる。筋者やないのは調べたらわかっても、トンデモナイ怪物が香凛を守ってるとインプットされたはずや。

 次にやるのは作戦計画の練り直しや。青森での白羽根警備の体制は香凛とせいぜい一般人が相手ぐらいやってんやろ。そやけど怪物が同行しとるとなると話が変わる。本社から精鋭部隊の応援を要請したはずや。

「秋田での待ち伏せね」

 香凛たちは秋田にフェリーで来とるから、フェリーで秋田から敦賀に帰ると読むのはたやすい。さらに逃走資金はかなり断ってるとも見てるのも加わる。

「直樹のチケットぐらいは確認済みよ」

 秋田港のフェリーターミナルで待ち伏せやろ。

「船内じゃない」

 そりゃ、見つけるだけやった船内の方がエエやろし、取り逃がしても追っかけるの容易や。海の上やから逃げ場があらへん。そやけど船内では動かんと思う。

「どうして」

 警察やないからや。直樹の実力は青森で見てるやんか。よほど上手く始末せんかったら大乱闘になる。乱闘になれば船側が黙ってへん。そうなれば新潟から警察が介入してくるやんか。そうなりたくないはずや。そやからフェリーに乗る前に決着を付けようとするはずや。日をずらす手はあるけど、

「それぐらいは読むよ。一日一便だから今日だって待ってたはずよ」

 白羽根警備があきらめるまで日をずらしとったら、コトリらも帰れんようになる。

「休暇を伸ばしたらミサキちゃんが怖いもの」

 だいぶ無理言うたからな。裏をかくにはフェリーを使わんのもありやけど、秋田から神戸まで下道で帰るのは無理がありすぎる。そうなるとやが、これも読まれとる可能性はあるけど、

「その時はその時じゃない」

 フェリーは秋田を明後日の八時三十五分に出航するんやけど、新潟に十五時半に着くんよ。そやから秋田を外して新潟で乗り込む。この作戦のキモは白羽根警備の連中も直樹対策に複数部隊は繰り出さんとみたい。

「おカネかかるもんね」

 この辺は契約の問題になるけど、請負になっとる可能性が高いとみる。白羽根警備かって香凛の確保だけやったら容易と見たはずで、マイの時のような総動員体制やないはずや。あん時は親会社の厳命やったからイナゴのように湧いて来よったからな。ここで直樹が、

「秋田で乗り込まないと見たら、そのまま乗船して新潟に乗り込んでくるリスクは」

 ある。悪いがどうしたってリスクはある。それを言い出せば敦賀で待ち受けてる可能性だってある。そやけどな、ノーリスクの作戦ってあらへんねん。まずコストを考えて白羽根警備は単独部隊と考える。

「それには賛成。こういう誘拐同然のリスクの高い仕事は料金がベラボウに高いのよ。だから白羽根警備だと思うけどね」

 こんな仕事を国内で請け負うのは白羽根警備ぐらいやもんな。それはともかく、本命の明後日の朝の便におらんかった時に白羽根警備はどう考えるかや。新潟に回った線も考えるかもしれんが、

「駒が一つだから、日をずらした方を高く取ると思うよ」

 それより別の要素が気になってくるはずやねん。直樹は今こそ大阪勤務やが、高校まで埼玉で育って、東京の大学から東京本社勤務や。白羽根警備も大阪の直樹の友人知人を抑えても、東京や埼玉となるとカバーするにも広すぎるし、予算も人手も足らんはずや。

「直樹さんの関係は大阪支社だけ抑えてるだけで良いと思う」

 本命の秋田に姿を現さんかったら、東北道から東京方面に逃げた懸念が強くなるはずやねん。

「フェリーより高速の線が有力になっちゃうのか」

 有力と言うか、そっちの線の懸念が出てくるぐらいや。とにかく相手は一点に絞って考えて罠張っとるから、外れた時にプランBの範囲が無暗に広うなるんよ。こういう時の判断は難しなるはずや。

「それでどこに泊まるの」

 秋田は当然パスで、南下ルートも秋田市内は避けとく方が無難やろ。要は新潟寄りに次の宿を設定すればエエんや。そやったら山形やな。折角やから、

「この辺でどうや」

 ここやったら三時間もあったら新潟は余裕やろ。

「秋田土産の代わりに山形土産と新潟土産が買えるね」

 そういうこっちゃ。ここで直樹が、

「でもそうなると・・・」
「貸したる言うたやろ。今の今から全部払たるから安心せい」
「取り立てもちゃんとするから安心してね」

 香凛と直樹が部屋に戻った後に、

「思ったんだけどさ、最初から新潟回りにした方が良かったんじゃない」

 それはプラン考えながらそう思た。ついつい、下りたとこの港にこだわってもたし、きりたんぽ鍋と比内地鶏に引っ張られてもてた。もちろんそれだけやない、新潟回りをすれば、

「目の前にあるアスピーテラインを走れなくなっちゃものね」

 ここまで来とるのに惜しいやんか。十和田湖と八幡平はセットみたいなツーリングコースやろ。

「秋田土産のリクエスト多かったものね」

 それも軽くない要素やった。でもその代わりが出来るから、

「どっちが良かったのかな」

 わからんけど山形に足を伸ばした方がおもろそうな気がするわ。そういう意味では瓢箪から駒やな。そういうたら山形で美味しい料理ってなんやろ。急に山形言われてもイメージわかんな。山形と言えば花笠音頭とサクランボか。

「イナゴの佃煮は山形じゃなかったっけ」

 イナゴねぇ、食べたら美味いかもしれんが、

「なんと言っても芋煮でしょ」

 それは秋やろ。