怪鳥騒動記:検討会議

    『コ~ン』

 ここに来るのは好きじゃないけど、プライベート・ジェットを使わせてもらったお礼もあるし、ここなら鳥の情報ももっと聞けそうだから、それほど嫌がらずに来た。今日は五女神の他に・・・あれはミサキさんの旦那のディスカルさんだ。どうして、エラン人がいるのかな。

    「アカネさん、大変だったわね」
    「心配しとってんから」

 さすがに神経使って十日も入院してたものね。

    「見せてもらうわね」
    「さすがはアカネさんや、これ以上の画像は世界中探してもあらへんで」
    「うむ、動物も鍛えといたからな」

 たしかにペンギンとか、ライオンとか、トラとか、カルガモとか、

    「ディスカル、どう」

 じっと見つめていたディスカルさんだけど、

    「全体が鮮やかな緑で、腹部が赤。ケチュルに似てるが・・・」

 ケチって誰のことかおもったけど、そうじゃなくてケチュル。エランにいた愛玩用の鳥に似てるって。エランでも小鳥を飼う趣味の人がいたんだ。

    「ケチュルもエランでは私が生まれるかなり前に絶滅しており、実物は見たことがありません」
    「こんな大きなものをペットにしてたの?」

 ディスカルさんはじっと考え込んで、

    「可能性があるとしたら、大いなる災いの鳥です」
    「やはりアンズー鳥」
    「さすがジュシュル総統が恋い焦がれた人です」

 ジュシュルってあの時の船長。だれが恋人だって、答えたのはユッキーさんだから、まさかユッキーさん。あんな怖い顔をするユッキーさんに欲情したジュシュルは変態とか。いやマゾか。

    「私も戦史の講義で聞いた程度だが・・・」

 かつてエランでも怪鳥騒ぎとか、鳥戦争みたいなみたいなものがあったんだって。ただそれも千年以上前の話だそうで、

    「エランでも既に絶滅したと考えています」
    「千年だものね」

 そうだよ千年だよ。ディスカルさんが覚えてるだけでも驚異的だもの。アカネなんて一週間前どころか、一時間前のことでも忘れることがあるし。

    「こんなに大きくなるものなの?」

 ディスカルさんは遠い記憶を呼び起こすように、

    「エランで出現した最大級のもので、翼開長で十メートルぐらいが最大だったはずです」
    「でもこの鳥は三十メートル以上はあるよ」

 ここでもディスカルさんは考え込んで、

    「鳥についてはわからない部分が多いのです。遺伝子操作により作られてはいますが、放射能地域に適応した時にさらなる変異が加わったと考えられています」
    「それにさらに反政府組織の改造もあったのよね」
    「ええ、ですからエサが豊富だと巨大化する可能性はあると聞いた事があります」
    「なるほど、千年戦争後のエランの食糧は慢性的に不足気味だったものね」

 うん、象まで食ってたらデカくなるかも。

    「大きくなったメリット、デメリットは」
    「メリットは未知数の部分もありますが、大きさに比例して能力は上がると聞いたことがあります。単純には大きいほどより強大になります。デメリットはとにかく必要なエサの量が増えます」

 あんまり嬉しくないデメリットかも、

    「どれぐらい飛べるの」

 これはポイントだよね。今はメキシコだけど、日本に飛んで来られたら困るもの。

    「かなりの長距離飛行能力もあったはずです。それだけじゃなく、水鳥機能も有しているはずです」
    「それって水に浮くってこと?」
    「潜水も出来て、魚も捕まえられます」

 あの鳥だったらクジラでも食べそう。でもそれなら、世界中どこにでも行けるってことじゃない。

    「アカネさん、そうですよ。元は軍事用と言いましたが、目的は敵国の食糧を食べ尽くす事です。食べ尽くしたら移動する性質を持っています」

 う~む。メキシコに居たらそのうち飢え死にしたかも。

    「食べるのは肉だけ」
    「なんでも食べる雑食性のはずです」

 やばいなぁ、タケシに言って買いだめさせとかないと。

    「寿命は」
    「長いはずです」
    「どれぐらい」
    「人ぐらいはラクラクと」

 待ってても簡単には死んでくれないのか。

    「エランではハンティングの対象になっていた時期もあったって聞くけど、どうやって仕留めてたの」
    「よくご存じですね。そういう時代もあったらしいですが、どうやって仕留めていたかは不明です」
    「最後の怪鳥騒ぎの時は?」

 ここもディスカルさんは考え込んで、

    「政府軍が出動して三ヶ月ぐらいかかったはずです」
    「三ヶ月も!」

 具体的な作戦内容はさすがに覚えていないと言ってた。そりゃ、そうだろうな。ディスカルさんはエランのエリート軍人だったけど、別に鳥対策の専門家じゃないし、他に覚えることはテンコモリあるだろうし、千年も前に絶滅してるもんね。

    「ヘリぐらいで撃ち落とせんかったんかな」
    「あの程度では振り切られてしまいます」

 ディスカルさんは科技研勤務。地球の技術にも詳しいし、軍事技術も元軍人だから、あれこれ調べてるで良さそう。でもって、ヘリは三〇〇キロぐらいが最高速度だそうだけど、あの鳥はヘリより早く飛べるんだって。

    「速度もサイズに比例するとか」
    「そうらしいです」

 げっ、あの鳥ならもっと速い可能性もあるんだ。

    「ほんじゃジェット機やったら」
    「その手の高速機は低速のものに弱いところがありまして」

 高速で飛ぶには空気抵抗を減らさないといけないそうだけど、減らし過ぎると低速では失速して落ちちゃうんだって。あの鳥は自分より高速の追尾者がいると極端にゆっくり飛ぶそうなんだ。ゆっくり飛ばれると、追尾しようとしても追い抜いちゃうらしいけど、

    「追いついて一撃で落とせば」
    「それが非常に小回りが利きまして」

 照準を合わせようとした瞬間にヒラリと方向転換されたら、高速機では追い切れないんだって。そう、そのまま追い抜いちゃう状態になるで良さそう。

    「高速機は対高速機を想定して作られてまして・・・」

 ある相手を想定して特化されてるから、それ以外の相手を苦手にする部分は多いで良さそう。もちろん基本は早く飛ぶ方が有利だけど、

    「地球で言えば、複葉機並みの小回りが利く上に、レシプロ高速戦闘機並の速度が出せるってところでしょうか」

 ユッキーさんも、コトリさんも唸ってる。

    「そうなれば対空ミサイルぐらいか」
    「その辺は・・・」

 あの鳥が開発された頃は誘導兵器への対策が進んでいたみたいで、

    「ほぼ完璧なステルス性を備えています」
    「だからか」
    「道理で」

 これはシノブさんが集めた情報にあったみたいで、あれだけ肉眼でハッキリ見えるのに、レーダーではほとんど捕えられなかったって。

    「熱線追尾は」
    「これも対策されています」

 どうも覆われた羽毛がポイントみたいで、外に殆ど熱を漏らさないとか。

    「そうかもな、別にジェットエンジンついてるわけやないからな」
    「そうよね、対空ミサイルは鳥対策で作った兵器じゃないし」

 えっ、えっ、それじゃ、どうやって。

    「おそらく対空砲で撃ち落としたのではないかと」
    「そんなん、どこに飛んでくるかわからんやんか」
    「だから三ヶ月もかかったんじゃないでしょうか」
 どういうことか聞いたら、対空砲は防御兵器だって。つまりって程じゃないけど、相手の攻撃機が来ると予想しているところに配備して待ち受ける武器で、こっちから攻撃機を追い求める兵器じゃないってことらしい。

 使い方として、鳥が飛んでくる、または襲ってきそうなポイントを予想して待ち受ける戦術になるけど、とにかく相手は鳥だから神出鬼没。よくまあ、三ヶ月で撃ち落とすことが出来たもんだ。

    「知能は」
    「優れていますし、学習能力も非常に高いものがあるとなっています」

 アカネも段々不安になってきた。

    「あれだけ巨大になれば無敵に近いとか」
    「可能性はあります」

 でもさぁ、エランだって千年前が最後だよ。あれは違う可能性が、

    「これはね、アラに聞いたんやけど、アンズー鳥の卵には謎が多いんやって。とにかく温めなくとも勝手に孵化するし、孵化する時期も五十年単位らしいんや」

 五十年ってなんなのよ。それも産みっぱなしで勝手に孵るって、

    「それじゃ、何百年も経ってから突然孵化することもあるかもって」
    「そういうこっちゃ」

 でもさぁ、あれだけデカいんだから卵も巨大なはず。そしたらディスカルさんが、

    「卵は小さいのです。そうですね、地球ならウズラの卵ぐらいです。そして非常に頑丈だそうで、卵形の石にしか見えないとも言われています」

 そんなに小さいのから、あれだけ巨大化するんだ。

    「さらにこれは、聞いただけの話ですが、卵自体は非常に美しく、まるで宝石の様だとされています。ですから、エランでも誤って宝石扱いされたこともあるそうです」
    「見分け方は?」
    「エランでも非常に難しかったそうです。だから、偉大なるアラが何度も鳥退治をしたにも関わらず、これをなかなか完全駆除できなかったとされています」

 でも、でも、地球には、いやこの神戸には女神がいるんだ。

    「コトリ、無理そうね」
    「あんだけのサイズやし、象だって持ちあげるパワーやろ」

 女神の得意技の金縛りも、人のコントロール術も、

    「まず通用せえへん可能性がある。もし通用しても、そんなに長時間押さえ込めへんと思うわ」
    「そうよね。最後はパワー勝負になるけど、桁違いだものね」

 だったら、

    「神戸に来たらヨーロッパに逃げようかな」
    「そやな」
 こらっ、逃げるな。逃げるんだったら一緒に連れて行ってくれ。でもどこに逃げても、そんな化物鳥なら追いかけてきそう。メキシコでケリがついてくれないかな。

怪鳥騒動記:アンズー鳥

    「もしいるとしたらアンズー鳥ぐらいじゃない」
    「ユッキーもジュシュルから聞いたんか」

 アンズー鳥はシュメール神話に出てくる鳥。エン・リルに仕えていたんだけど、主神権奪おうとして、主神権の象徴である天命の書板を盗み出すって話が残されてる。

    「その話の元はエランやねん」
    「エラン?」

 エランにアンズー鳥は実在したって言うのよね。

    「もともとは愛玩用のペットとして広まったそうや」

 エラン人も鳥を飼う趣味があったんだ。聞く限りで言えば、地球で言えばインコとかオウムみたいな感じかな。

    「アンズー鳥の改良が行われたんや」
    「品種改良ですか」
    「いや遺伝子操作や」

 エランでも遺伝子科学は極度に発達したそうなのよ。まあ、そうなってるだろうけど。

    「アラでさえ聞いたことがあるレベルやから・・・」

 なんらかの理由でアンズー鳥は遺伝子操作しやすかったみたい。もっとも愛玩用だから入手しやすかっただけかもしれないとはしてたけど、

    「軍事用の生物兵器になったそうやねん」
    「生物兵器!」
    「うん。一万五千年以上前やって言うとったけど、敵国の食糧消耗が目的やったそうや」

 巨大化させて、相手の国の食糧を食いつくそうって作戦だったそうなのよ。よう、そんなん考えるわ。

    「結果としては失敗やったそうやねん」

 聞くと笑いそうになったけど、とにかく鳥だから自分の国にも飛んで来て往生したんだって。軍事研究はしばしば暴走して珍兵器を生み出すけど、アンズー鳥もその一つで良いみたい。

    「その後が問題で、遺伝子操作されたアンズー鳥は野生化して定着したそうやねん」
    「害獣として駆除しなかったんですか」
    「したそうやけど、駆除しきれんかっただけやなくて、途中から趣味の対象に変わったそうやねん」

 そんな鳥を愛玩用に飼うのがいるかと思ったら、そうじゃなくてハンティングの対象にしたみたいなの。

    「かなり手強い相手で、ハンティングするにも高度なテクニックが必要な上に、時に逆襲されて命を落とすこともあったそうや」

 よくまあ、そんなアホなことと思うけど、ハンティングが好きな人って、そんなもんだと言うし。でも大型の鳥だし、狩猟の対象になれば、

    「そうやねん。絶滅寸前までは行ってたらしい・・・」

 エランでは核兵器登場後も戦争が何度も行われたんで、汚染地域が広がってたのよね。そんなとこに人は住めないし、動物もそうのはずだけど、

    「ところがやな、アンズー鳥は汚染地域に適応してもたらしい」
 アラの話では、汚染地域に適応した動物や植物が発生し、そこにアンズー鳥も生き残っていたとしていたみたい。そこにわざわざ放射能防護服着こんでハンティングに行ってたのもいたらしい。趣味もそこまで行くと病気やわ。

 そこに起ったのが千年戦争。ハンティングどころじゃなくなり、やっとアラが平和を取り戻した時にアンズー鳥の襲来があったそうなのよ。数も増えてたからエラン史では鳥戦争とまで呼ばれてるらしいわ。とにかく食糧を食い尽くす害鳥だから、駆除に努めたそうだけど、

    「でも絶滅はせんかったみたいや」

 信じられないけど、アンズー鳥を密かに飼うというか、繁殖させる者が後を絶たなかったそうなの。

    「どうして、そんな厄介者を」
    「本来の目的に使うためやろ」

 独裁者アラの統治期間はとにかく九千年もあり、独裁者であるが故に反政府活動も断続的に消えなかったぐらいで良さそう。そんな反政府運動の一つにアンズー鳥を使ったゲリラ活動があったぐらいかな。

    「反政府組織は、さらなるアンズー鳥の改良をやったらしい」
    「さらにですか」
    「さらなる大型化と、パワーアップや」

 破壊力は大きくなったけど、ターゲットもデカくなったから、これまたアラ政府は押さえ込むことが出来たけど、

    「その後は?」
    「たまに怪鳥騒ぎが起るぐらいになったそうや」

 どういうこと。そしたらユッキー社長が、

    「それはね、アンズー鳥の繁殖が特殊だったそうよ。卵は勝手に孵るそうだし、孵る時期も五十年単位だそうなのよ」
    「五十年ですか!」
    「それも単位だから、百年とか二百年もありそうだってジュシュルは言ってたわ」

 それでも最後のエランの怪鳥騒ぎは千年以上前だって。

    「そんな怪物が地球に来てるとか」
    「訳ないよね」
    「そやそや、千年前やで。アラこそ実物見たことあるけど、ジュシュルやアダブだって昔話もエエとこや。それこそ伝説の怪鳥ぐらいやで」

 それもそうだ。

    「でもね、アンズー鳥とメキシコの怪鳥はやる事が似てると思うのよ」
    「でもどうやったら地球に持ちこめるのですか」
    「そこなのよね」

 エラン船が来たのは、最近だったらアラの時、次はシリコン採取の時、三回目はコトリ先輩があっという間に制圧したガルムムの時。最後はディスカルが来た時。

    「まさかジュシュルが」
    「ジュシュルはメキシコには行ってないよ。シノブちゃんが知っている五回でメキシコに行ったエラン船はいないよ」

 言われてみれば。鳥は飛べるけど、卵が勝手にメキシコに飛んでくのはおかしいし。

    「あるとしたら」
    「一万年前ですか」
    「あん時は意識だけの宇宙船やで」
    「じゃあ一万五千年前」
    「いくらなんでもやろ」

 じゃあアンズー鳥の線はなさそうよね。

    「二千年前がある」

怪鳥騒動記:騒然

 アカネさんがメキシコシティで仕事中に姿を現した怪鳥のニュースは世界中を駆け巡ったんだ。そりゃ、あれだけの人の目の前で何時間にも渡って飛び続け、象まで掴んで飛び去ったとなれば今世紀でも指折りの大事件じゃない。

 あの騒ぎの前に牧場の牛が襲われる情報があり、牛はいくらなんでもと思っていたら、象まで襲われたんだから、まさにあの鳥は化物。それだけじゃないよ、人も襲われてるんだ。

    「シノブちゃん、平山博士の様子は」
    「かなり落ち込んでました」

 合同調査隊は現地調査も行ってたんだけど、そこを襲われたんだ。メキシコシティの事件の少し後ぐらいだけど、最後の通信は、

    『鳥が、ぐぇぇぇ』
 山科教授もそこにいてやられたらしい。とにかく鳥の出現のためにメキシコは大混乱。戒厳令が出されてる。マモルもすぐにでもメキシコに行きたそうだったけど、入国するのは難しそう。アカネさんも、よくあの時に帰ってこれたぐらいのところで、あの後に空港は再び閉鎖になってるぐらいだものね。

 メキシコとアメリカの国境も大変なことになってて、メキシコからアメリカに脱出しようとする人間と、物好きにも鳥見物にメキシコに入りたがる野次馬でごった返してるよ。あんなところを鳥に襲われたら、どうするんだろうの懸念も出ていて、米軍がかなり動員されてるみたいなの。

    「コトリ」
    「とっくに動いてるけど、今回は厳しいわ」
    「実害は深刻だし、長期化しそうだし」

 エランの宇宙船騒動の時もそうだったけど、こういう騒ぎに便乗するのはコトリ先輩の得意技。いつから準備して、動き始めてたかはシノブでさえわからないけど、最初の怪鳥騒ぎの時からかもしれない。メキシコの産業がストップ状態だから、とにかく物の値段が高騰してる。ああいうものは、

    『無くなりそう』

 この情報だけで思惑買いが殺到するから、実際に物が無くなる前に物が無くなっちゃうんだよね。コトリ先輩はさらに先手を取って動いてるのだけど、

    「この調子じゃ、マーケット自体がいつまであるかわからんで」
 怪鳥が出現しているメキシコのお隣のアメリカも動揺しまくって、経済が大混乱。アメリカが大混乱となると、連動して世界中が大混乱ってドミノ倒し。エレギオン・グループもメキシコから逃げられる人は出来るだけ逃してる。

 鳥は翼開長で三十メートルにもなってるらしいけど、大きくなった分だけエサも大量に必要になってるで良さそう。だから牧場の牛も一度に何十頭って単位で襲われてるらしい。さらにだけど、養豚場や、精肉工場、さらには冷凍倉庫まで襲われてるのまではわかったんだ。人だってもう何百人かわからないぐらい。

 そのために誰も出歩かなくなってるらしい。歩いていたら、いつ襲われるかわからないもの。家の中にいたって、襲われるかもしれないけど、外を歩くより、少しは危険が少ないぐらいかな。

 だから工場や、会社も出勤する人がめっきり減って、電力の供給も不安定になってるんだよ。電力が不安定になれば、通信も不安定になって、メキシコの現地情報も手に入りにくくなってるんだ。

    「暴動さえ起りにくくなってるって話だものね」
    「襲われちゃいましたから」
 政府の責任を追及する大集会が行われたんだけど、そこに鳥が来襲。もう大混乱どころの話じゃなくなり、喰われて死んだのもいたけど、それ以上に踏み潰された死傷者が多数の惨状。

 緊急国際会議も行われたけど、世界的規模に広がっている経済の混乱をすぐに収める方法もなく、鳥に対しての有効な対策もすぐには打ち出せるはずもなく、なんとか具体的に決まったのはメキシコへの経済支援や食糧支援だけ。

 これだって、どうやってメキシコへ食糧を持ちこむのかは大問題。だってだよ、食糧を輸送するトラックが襲われたんだ。トラックだけじゃない、船だって襲われて、誰もメキシコに行くのを嫌がってるんだよね。

 日本も大変。物価どころか物も店屋から減ってるし、大不況の影響は深刻。国会でもあれこれ論議してるけど、定番の政府の責任追及だけで、なんにも決まらないんだよ。政府も安全保障会議を開いてるけど、鳥の情報が少なすぎて、お手上げ状態。

 シノブにとって痛かったのは山科教授がいなくなったので、マモルが東京に引っ張り出されてデートもろくろく出来なくなっちゃったのよ。それぐらい日本の鳥類学でマモルの地位が高かったんだけど、とにかく、ずっと東京に縛り付け状態だもの。

    「やれたの」
    「それが・・・」

 やっぱりさ、ここのステップって重要じゃない。告白こそ突撃しちゃったけど、さすがにシノブから誘うのは躊躇うじゃない。別に女から誘ってもイイようなものだけど、シノブはユッキー社長やコトリ先輩と、そこは違うって思ってるの。

    「会うのさえ大変だものね」

 東京まで出かけて逢うのは逢ってるけど、釘付けするような甘い雰囲気になりようがなくなってるんだ。マモルも東京ではとにかく、会議、会議、会議、ひたすら会議に引っ張り出されて、専門家の意見って奴を聞かれまくられるみたい。もうクタクタって感じで、慰めて、愚痴聞いてあげて、励ますぐらいで終わっちゃうんだ。

    『意見って言われても、正体不明だし』

 どういう鳥に近くて、どういう習性を持ってるかなんて答えようがないとボヤいてた。この辺は聞く方だって、

    『なんとかしろ』

 この要求に追い回されッぱなしってのがあるけど、まさにゲッソリって感じ。でもね、でもね、シノブの事はちゃんと考えてくれてて、

    「とにかく、この騒ぎが落ち着かないと何もできないよ。その代り、落ち着いたら必ず迎えに行く」
    「それって、そう受け取ってイイの」
    「それ以外になんの意味もない」
 ちょっと不愛想だったけど、あれはプロポーズとして良いはず。帰りのジェットの中で幸せな気分に浸ってた。それにしても鳥が縁で出会えたから文句も言いにくいけど、鳥が二人が結ばれるのを邪魔してるのは憎たらしい。


 そうそうアカネさんが空港で倒れたのは演技だったけど、神戸では本当に倒れちゃったのよね。メキシコからずっと緊張してんだと思うし、東京でもあの状態で、なんとか神戸までたどり着いた時に緊張の糸が切れたんだと思う。結局、十日ぐらい入院してたよ。シオリさんも心配してたし、猛烈に怒ってた。

    「アカネをあんな目に遭わせた鳥は、丸焼きにしてくれる」

 コトリ先輩に、

    「コトリちゃん、火焔放射って出来ないのか」
    「怪獣みたいに火焔放射は無理やけど、火着けるぐらいは可能や」
    「教えてくれ」

 そこにユッキー社長が、

    「シオリはやらない方が良い。コトリだって最初の頃は丸焼きになりそうに何度もなってるんだから。シオリがやったら、このビルぐらい簡単に燃え上がっちゃうよ」
    「そうやで、マッチぐらいの火を着けようと思たら、いきなり火炎瓶状態になったんよ。シオリちゃんならナパーム弾になるで」

 うん。やって欲しくないと思った。とにかくシオリさんは主女神だからパワーは強力なんだけど、コントロールが初心者。危険な技を無暗に使われると巻き添え被害が甚大だものね。

    「とにかく情報を待とう。この状態じゃ動きようがないよ」

 本業の方もとにかく忙しい。エレギオン・グループは世界展開してるから、あちこちで問題が噴出するし、その対応に二十四時間体制みたいなもの。いつもは五時になれば三十階で遊んでるユッキー社長や、コトリ副社長も残業どころか、二十四時間体制を余儀なくされてる感じ。

    「とうぶん、しゃ~ないやろ」
    「お肌に良くないけど」

 それにしてもタフ。ずっと寝てないんじゃないのかな。

    「シノブちゃんもじゃない」
 叙事詩では不眠不休でエレギオンの大城壁を守ったってなってるけど、女神は本当にそんな事が出来るのがわかったのが今回の発見かな。そういえばミサキちゃんもラ・ボーテ事件の時に鉄人と呼ばれるぐらい働いてたものね。

怪鳥騒動記:アカネの冒険

    「アカネ、前のワイス化粧品の仕事だけど」
    「なにか問題でも?」
    「ないけど、単純な奴だな」

 なんのこっちゃ。

    「ちょっとぐらい押さえたらどうだ」
    「なにをですか」
    「やりまくって幸せってのをだ」

 なんちゅう言い方。

    「そうじゃなくて、新婚でルンルン気分が出てるだけです」
    「そうは見えん。毎晩燃えまくりのオーラを感じる」
    「気にしすぎですよ」

 結婚ってこんなにイイものだとアカネは心の底から感じてるのはホントのこと。だってさ、家に帰ったら、ちゃんとお風呂も沸いてて、美味しい御飯も出来てて、部屋もピカピカに掃除してあって、洗濯も出来てるんだよ。それで、

    『お帰りなさい』

 こうやって愛するタケシが出迎えてくれるんだものね。食卓にはさりげなく花なんか飾ってあって最高って気分。食事が済んでからも、あれこれ気を使ってくれてさ、

    「あれ食べる」
    「こんなのもあるんだけど」

 それからちょっとお酒も入って、ほろ酔いぐらいになったら、

    「アカネ。寝ようか」

 これをタケシが顔を真っ赤にして言うんだもの。アレも最初はさすがに痛かったよ。みんなが痛い、痛いってあれほど言うから覚悟はしてたけど、やっぱりね。でも、そんな時期は遠い昔。今はルンルン。毎晩待ち遠しくいぐらい。夫婦だから、どんだけ燃えようが文句を言われるスジ肉はないし、

    「違う、それは筋合いだ」

 たくツバサ先生は小うるさい。そりゃ、メルヘンがこれだけあんころ餅してたら、

    「違う、それはメンタルが安定だ」

 イイじゃない、似たようなものじゃないか、

    「全然違うし、なにを取り違えてるかさえわかりにくい」

 そうかな。少しは写真に出ちゃうのは仕方がないじゃない。

    「あれが少しか! 写真から大噴火しているぞ」

 焼かない、焼かない、

    「違う、妬かないだ。燃やしてどうする」

 はて、焼くじゃなかったのか。よくオスが同じなのにわかったな。

    「違う、オスじゃなくて音。それとだな、これだけつき合わされれば、嫌でもわかる」

 そうなんだ。

    「わたしはタケシを尊敬するよ」
    「アカネも愛してます」
    「よく、これで切れないものだ」

 ギャフン。ツバサ先生こそ切れすぎだぞ。それはともかく、

    「メキシコの鳥のニュース見ました?」
    「ああ、見た。でもあれってCGじゃないのか」

 アカネもそう思ってサキ先輩に聞いてみたんだけど、

    『今のCGと実写の区別は難しんいんだけど、これだけのレベルのCGを作るのは大変なんだよ』

 技術的なことは良くわからなかったけど、簡単にはPCであれだけのものを作るのは容易じゃないぐらいかな。

    『そういう意味で実写の可能性が高いと見てる。ただ、あれだけの鳥が実在するかと言われると・・・』

 そう世界中に衝撃を与えた動画に映ってた巨大な鳥。牧場の牛を襲うシーンだけど、いきなり舞い降りて来て、鷲掴みにして飛んでったんだよ。相手は牛だぞ、牛。信じられなかった。

    「ニュースでは御開帳は十メートル近いとか」
    「違う」

 あれ、違ったっけ。

    「御開帳してるのはアカネのあそこだ」

 ツバサ先生が他人のことを言えるか、

    「翼開長と言ってな、翼を広げた時の大きさだ」

 鳥は翼を広げたら全長より大きくなるのが殆どだから、そっちで大きさを示すんだって。しっかし十メートルって言えば恐竜並だ。

    「どうするのでしょう」
    「国際合同調査団が調査中だ」

 それも聞いた。出来たら捕まえたいって。うん、捕まえたら見てみたい。もし生け捕り出来たら鳥かごで飼うんだろうが、どれぐらい大きさが必要なのかな。

    「はははは、あの鳥用の鳥かごか。大阪ドームぐらい、いるんじゃないか」

 かもしれない。

    「しかしホントにいるのなら、突然変態でしょうか」
    「それはアカネだ」

 はぁ?

    「それを言うなら突然変異だ」

 ちょっと間違っただけじゃない。

    「だから珍しくメキシコの仕事なんて受けたんだろう」
    「たまたまですよ」
    「ウソつけ、急にねじ込んだクセに」
 バレたか。えへん、それでも見つけたら撮って来てやる。このアカネ様が撮ったら大ニュースなんてものじゃなくなるかも。そしてメキシコに。でもさすがに遠かった。だって関空から成田に行って、そこからでも十四時間だよ。

 とりあえずホテルに行って、明日からの仕事の打ち合わせ。撮るのは向こうのスターらしいけど、アカネは見たことも聞いた事もない。まあ誰だって構わないけど。どこで撮るのかも向こうのスタッフ任せ。言われたってチンプンカンプンだし。

 チャプルテペック城とか、フリーダ・カーロ美術館とか、ソチミルコとか、ソカロと言われたってわかんないもの。こういう時は連れて行ってもらって、その場で適当に撮る方針にしてる。

    『少しぐらい、調べて行け』

 なんでこんなところまで、ツバサ先生の声が聞こえる気がするんだろう。でも予備知識はあった方がイイかもしんない。

    「ところで撮るのは男ですか、女ですか」

 かなり沈黙されてから、

    「男です」

 これだけ知ってれば楽勝。夕食はその男性芸能人とやらと顔合わせの晩飯。三日間の予定だけど、アカネの関心は鳥だから聞いてみた。

    「メキシコシティーにも鳥は現れますか」
    「さすがにここには」

 ただ鳥の話題はメキシコでもホットみたいで、

    「メキシコで牛と言えばハリス州、ベラクラス州、チアバス州で・・・」

 要はかなり離れてるってことで良さそう。ちょっとガッカリ。

    「そう言えば大きくなってるって話が・・・」
    「とは言うものの目撃証言だけだし・・・」
    「それでも・・・」

 アカネがいるうちにメキシコシティの見物にでも来てくれないかな。翌日はなんとか城に行ったんだけど、なんか出来そこないの中世の城みたいなもの。ただかなり高いところにあるから、見晴らしは抜群。仕事に熱中している時に、メキシコ人スタッフが急に、

    「クェ・エス・エセソ」
    「エス・ウン・アビオン」
    「エソ・エス・ウン・パシャロ」

 なに言ってるか、さっぱりわかんないけど、とにかく指さす方を見上げたら

    「と、鳥だ! 急いで望遠持って来て」

 このためにデッカイ望遠レンズをわざわざ抱えて来たんだ。

    「三脚も早く」
 そりゃ、撮りまくったんだ。しばらく市内の上空を旋回してたんだけど、こっちに飛んできた時はスタッフも悲鳴を上げてた。こりゃ、デカいわ。十メートルどころやないもの。近づいてくれたから鳥の姿もバッチリ。

 そうしてたら、どこかに降りて行くんだ。どうも観光だけが目的じゃなさそう。そしたら再び舞い上がったんだけど、さすがのアカネも驚いた。足に掴んでるのは象じゃない。となるとあの鳥は、どれだけデカいんだ。

 もうメキシコシティーは大騒ぎ。仕事なんてやってられる状態じゃなくなっちゃった。市内にはたぶんパトカーだと思うけど、そこらじゅうを走り回ってる。どうも屋内に避難しなさいの緊急命令が出たみたい。まあ、そんなこと言われても、みんなカメラ抱えて撮ってたみたいだけど。

 ホテルに帰っても同じ。テレビもなに言ってるかわかんないけど、えらい興奮したアナウンサーがしゃべってるし、ホテルの中も落ち着かない感じ。スタッフが日本との連絡を取ろうとしてたけど、

    「回線が混雑しすぎて、電話どころかネットもつながりそうにありません」

 次の日もこれからの仕事をどうしようかと思ったんだけど、朝食中にいきなり、

    「パシェロ」
    「パシェロ・エノルメ」
    「モンストロウ」

 アカネだって鳥がパシェロって覚えたから窓から見たら、

    「いる・・・」
 ビルの谷間から鳥の姿が見えたんだ。市内はパニック状態。鳥は象だって襲うってわかったから、人だって襲うかもしれないじゃない。とにかくこの日は警察だけでなく軍隊まで出て来たよ。

 仕事は完全にお手上げ。向うのスタッフからもそういう申し出があったみたいだし、こっちだってこれじゃ撮るに取れないものね。そうなれば日本に帰るんだけど、

    「アカネ先生、空港が閉鎖されています」

 鳥が飛行機を襲うかどうかは、わかんないけど、なにしろあのサイズだから、ぶつかったら墜落しかねないものね。飛行機が使えないとなると陸路だけど、

    「もう大渋滞で全然動かないそうです」
 完全にホテルに缶詰め状態。空には空軍のジェット機まで飛んでたよ。鳥が現れたばっかりに仕事はパーで、メキシコ観光もゼロ。それでも鳥の出現は二日で終り、二週間後にはなんとか日本に帰れた。


 成田にようやくたどり着いたら、なんか知らないけど報道陣のヤマ、ヤマ、ヤマ。誰か有名人の来日でもあったのかと思ったら、なんとアカネの取材。

    「泉先生、向こうはどうでしたか」
    「鳥は見られましたか」
    「どんな鳥でしたか。撮られましたか」
    「鳥に襲われませんでしたか」
    「鳥の感想は」

 現地にいたけど、情報途絶状態だったんだよ。スペイン語のニュースもなに言ってるかサッパリわからなかったし、ネットも落ちてたもんね。日本ではどうやら、

    『世界的にも有名な写真家、渋茶のアカネこと、泉茜さんがメキシコシティに取り残された』

 渋茶は余計だけど、こんな感じだったみたい。日本でもメキシコシティの鳥騒動は連日の大ニュースだったみたいで、この報道陣になったで良さそう。もみくちゃにされてる時に、

    「アカネ、倒れろ」

 やっぱり疲れてるのかな。ツバサ先生の声が聞こえる気がする。

    「いいからここで倒れろ。後はなんとかする」

 ふと見るとツバサ先生が、

    「アカネは喋らない方が良い」

 なるほどって思って、バッタリと。そこから騒ぎはさらに大きくなって救急車まで登場。都内の病院に御入院。ツバサ先生が報道陣の矢面に立って、

    「泉茜は極度の緊張による心労で休養が必要です」

 こう言って追っ払ってくれた。数日後に羽田に手配されてた例のプライベート・ジェットで神戸に一直線。機内で、

    「アカネ、よく食われなかったな」
    「アカネじゃ、あの鳥にしたらメザシぐらいです」
    「炙ったメザシは旨いぞ」
 生きて帰れて良かった。

怪鳥騒動記:四座の女神の恋

 交際は順調。釘付けもしたいけど、やっぱりここはステップも大事よね。

    「シノブちゃん、そやで。真の恋愛の楽しみは積み上げていくステップにあるんよ。そりゃ、やるのは楽しいけど、それだけが目的やないからな」
    「そうよ、やるのは結婚したら好きなだけ出来るんだし、積み上げた末についに結ばれるプロセスがロマンチックなのよ」

 よく言うよ。デートから帰る度に、

    「まだか、まだか」
 そりゃ、もう聞きまくって煽るんだよ。それにだよ、二人とも本当に女神の男にしたい相手には、どれだけ時間をかけることか。ユッキー社長なんて未だに初夜にロスト・バージンが夢みたいなところが確実にあるもの。もっとも割り切って男遊びもするのは置いとく。五千年も女やってるから、さすがにそこまで単純じゃない。


 さてなんだけど四女神の関係はユッキー社長とコトリ先輩が血の絆で結ばれた盟友であり、戦友であり、親友なのはわかりやすい。口ではあれこれ言うけど、二人が無条件に信用しているのはお互いだけなのはよくわかるもの。

 それに較べてシノブやミサキちゃんはちょっと違う。前にミサキちゃんも言ってたけど、元は次座の女神から別れたのだから、コトリ先輩とは親子関係に近いものがどこかにある。もちろんコトリ先輩が母親面なんて間違ってもやらないけど、どこか娘を見る目があるのよね。

 じゃあ、ユッキー社長はどうかというと、優しい伯母さんの感じがあるのよね。そう、親子でもないし姉妹でもない。と言って他人でもない。ミサキちゃんに言わせると、

    「お二人はアラッタの主女神が作り出された姉妹と見て良い気がします」

 記憶の始まりが大神官の娘と、そこに買われてた女奴隷だから、お二人の仲に姉妹意識なんてどこにもないだろうけど、シノブから見ればミサキちゃんの見方は合ってる気がする。この辺はシノブとミサキちゃんが次座の女神から作り出されてるけど姉妹意識がないから似たようなものかも。

    「でも伊集院さんとの時はコトリもユッキーもビックリしたんや」
    「四座の女神の失恋なんて無かったんじゃない」
 もちろんシノブにだって失恋の経験はあるけど、ほとんどは女神になる前の人時代の結崎忍の時。人時代の結崎忍はどこにでもいる、とくに目立つこともない普通の女の子。人並みに恋をして、人並みに付き合って、人並みに失恋経験もある。

 微妙なのはツトムの時。ツトムとは人時代に付きあいが始まって、プロポーズを期待するところまで進んでいたのは認めるよ。ツトムとの仲が壊れちゃったのはシノブが女神になってから。

 ユッキー社長がシノブに女神を移す時のミスで、山本先生に異様なぐらいに魅かれちゃったのよね。そのお蔭でツトムへの思いが冷え切っちゃたんだ。あれも失恋だけど、振ったのはシノブだものね。

 シノブが女神になって最初の恋はやっぱりミツルだよ。コトリ先輩からの紹介だったけど、山本先生への思いがまだあったのに、それさえすっかり洗い流してくれるぐらい夢中になってゴールインだものね。ミツルの最後は可哀想だったけど、それでも愛し抜いていたと胸を張って言えるもの。

    「まあな、四座の女神の恋はとにかくストレート。好きとなったら脇目も振らず一直線や。相手の男に脇目を使わせる余裕もない感じかな」
    「そうだった、そうだった。後だしジャンケンみたいだけど、伊集院さんの時の恋の様子はちょっと違和感があったのよ。四座の女神の恋にしたら、なんか回りくどいって」
    「まあ、四座の女神の恋って言っても、記憶の継承が一旦リセットされてるから、少し変わったぐらいにしか、あん時は思わんかったけど、今から思たら、どこか調子が変やったよ」

 愛梨にはデュエロで勝ったけど、結局譲っちゃったものね。あれだけ奪い返してやるって燃えてたのに、愛梨の気持ちを知ったら醒めちゃった気がする。

    「こんなん慰めにならんと思うけど、伊集院さんはシノブちゃんの男に相応しい器量はあったかもしれへん。そやけど、赤い糸はつながってなかったんやろ。それをどこかで薄々感じてたんかもしれへんで」
    「わたしもそんな気がする。だから今度の平山博士の話を聞いてると、今度は間違いないと思ってるよ」

 伊集院さんに失恋した時には、シノブは終ったと思ったし、女神を取り上げられてもイイと思ったけど、今となったらそこまでじゃないものね。そうなると今度こそ運命の男だよ。

    「まだ会ったことあらへんけど、コトリもそんな気がするで。そやからだいじょうやと思うで」
    「私もそう思うよ。そりゃ、驚くだろうけど、シノブちゃんが本気で欲しいなら、最後は気にもならないよ」

 そうシノブにとって最後の難関。シノブが女神であることを知ってもらうこと。これは現代の女神にとって初めてのものでイイと思う。だってさ、ユッキー社長もコトリ先輩もずっと売れ残りだし。

    「そこまでいうか」
    「わたしはジュシュルに売却済って言ったでしょ。コトリと一緒にしないで。カズ坊とだって籍こそ入れなかったけど心の夫婦だったのよ」

 ミツルの時は女神になってたけど、付き合い始めた時はまだ女神の自覚がなかったし、二人でコトリ先輩の天使を追っかけてたものね。だからシノブが四座の女神とわかった時にも予備知識がしっかりあったから、

    『やっぱりそうか』
 これぐらいで、それほどの驚きとか関門の感じはなかったもんね。せいぜい天使と思っていたシノブが実は女神だったぐらいかな。

 ミサキちゃんの場合も似てるのよね。マルコはエレギオンの金銀細工師だから、ユッキー社長とコトリ先輩を除けば古代エレギオンの知識は世界でも指折りぐらいあったんだよ。ミサキちゃんは山本先生のマンションに行く前に打ち明けたそうだけど、これもすんなり受け入れてもらったと聞いたことがあるんだ。

 ディスカルに至っては、最初から地球の神と紹介されてから交際が始まってるから、そもそも何の障害もないものね。

 シオリさんと山本先生は、最後まで伝えなかったんだよね。その辺はシオリさんが女神であることを知らされても、記憶を受け継がないタイプだったので、女神であることにあんまり関心がなかったのもあったで良さそう。

 星野君の時は、まず星野君が八十歳の加納志織に恋して、加納志織が亡くなった後に現れた麻吹つばさがシオリさんであることを突き止めて、再び恋をしたぐらいだものね。これまた問題になる余地は無し。


 今回のシノブは今までの例とは違うのよね。マモルはシノブをエレギオンHDの専務であるのは受け入れているけど、シノブが女神であることは一切知らないし、マモルがエレギオンの女神にさして興味がある訳じゃないんだよね。

 シオリさんと山本先生の時のように知らせずに結ばれるのもあるけど、その時とは状況が違いすぎると思うんだ。やっぱり女神の実在を知って、受け入れてもらわないといけないんだよ。シノブが言ってもイイんだけど相談すると、

    「いつでも連れといで。コトリとユッキーがあんじょうやったる」

 二人は悪戯も大好きだけど、やらなければならない時はキッチリやってくれるものね。少なくとも座興で他人の恋を潰したりしないはず。

    「あのなぁ、シノブちゃん。女神にとって恋は楽しみであり、生きがいであり、何者にも代えがたい大事な、大事な至上のものなんや。座興で潰したりするかい」
    「そうよ、平山博士が来られた時には女神の仕事としてやるわよ」

 ここは首座と次座の女神に頼ろう。なんてったって、人生経験も、恋愛経験も、そういう厄介な修羅場の経験も桁違い。この二人が女神の仕事として取り組んで失敗するとは思えないもの、

    「シノブちゃんの言う通り、これからの女神の恋のためには必ず通らなければならない関門になるわ」
    「そうや。この関門を不幸の関門なんかにするものか。知恵の女神の本領を期待しといて」
 マモル、頑張って受け入れてね。シノブは確かに女神で普通の人とはちょっとだけ違ったところはあるけど、体は間違いなく人だし、心だってそう。子どもだってちゃんと出来るのはミツルが証明してくれてる。その日はきっと近いはず。その時には、その時には・・・