シオリの冒険:あとがき

 今回の主役はシオリ。とにかく登場人物が同じで、きっちり歳を取らせているもので、作中で寿命が来てしまうのです。シオリには考え無しで主女神を宿らせてしまっていたのですが、この宿主代わりをそろそろやらないと拙いってタイミングです。

 宿主代わりはコトリで一度やったのですが、今回は初めて宿主代わりをする体験を前半のテーマとして置いています。宿主代わり後も四女神と合流させる案もあったのですが、やはり別の方が使いやすそうなので、引き続きフォトグラファーをやらせたのですが、そのお蔭でカメラマンというか写真家の世界を描く羽目になっています。

 これも完全に知らない世界で全部想像です。なんとなく古臭い徒弟制度がある世界だろうぐらいで適当に書いてます。一人だけ知り合いがいるのですが、忙しそうで取材する余裕もありませんでした。

 そうそう表紙は麻吹つばさのイメージです。年齢的には加納志織よりもう少し若くしてあるのでこれぐらいかと。それとスタイルはグラマーを強調していますが、見返りポーズなので誤魔化せてるぐらいです。

シオリの冒険:機内にて

 シベリア鉄道で帰ると頑張るコトリを無理やり飛行機に押し込んでの帰り道。

    「そんなに怒らなくとも」
    「怒るわい」
    「帰り道もお話したかったし」
    「話やったら、日本に帰ったら幾らでもできるわい」
    「そりゃ、そうだけど、せっかくだし」
    「あのなぁ、朝食に痺れ薬仕込んだのはどこの誰やねん」
    「あら、そうだったの。誰でしょうねぇ、イタリアって怖いわね」
    「ユッキーの方がもっと怖いわ」

 やっぱり怒ってるか、

    「こっち向いてよ」
    「やだ、なにされるかわからん」
    「わたしが信用できないの」
    「信用したから、ここにいる羽目になってる」

 こうなったら、

    「あっ、イイ男」
    「なになに」

 コトリの口の中にケーキをドサッ、

    「やりやがったな」

 やっとこっちを向いてくれた。

    「ユダが抱えているイエスだけど、ソロモンかもしれない」
    「最近の人やな」
    「それでね、ソロモンの前はエジプトでラーやってたらしいからラムセス二世もかも」

 コトリが疑わしそうに、

    「だから太陽神ウツってか」
    「あれだけユダが別物として話ながら、妙に詳しいからそうだと見てる」

 今回の騒動で謎だったのはユダが抱えているイエスの反応。これがあったばっかりにフェレンツェのシオリの助けに行ってあげられなかった。まあ、あれだけ強大になってたら結果としては助太刀なんか不要だったけど。

    「でもなんとも言えんで。ウツならアンが復活したら一味になるために蠢動しても理屈は通るけど、ソロモンからイエスまでの千年は長いし」

 そうよね、ユダの話だし、

    「シオリはどうなるんだろ」
    「だんだんに元に戻るやろ。そうなるって書いてあった」
    「そうなんだけど、眠ってるの、起きてるの」
    「起きてるやん。だから麻吹つばさやんか」

 これがコトリと二人で出した今回の事件の結論。シオリに記憶の継承を行った時にやはりイナンナは目覚めたんだろうって。目覚めたけど、イナンナにならずシオリになった。たぶんだけど、ある条件の宿主になったときにそうなる仕掛けがあった気がしてる。

    「アンとの絡みは偶然?」
    「見えてた可能性はゼロとは言えん。ユッキーだって、とんでもなく遠くが見えることがあるやんか。たとえば、ユッキーがエレギオン時代に今を見たみたいに」

 でもこれで目覚めたる主女神時代に戻ったことになるけど、

    「シオリちゃんが暴れたら一蓮托生なるだけの話やろ」
    「一蓮托生と言うより、鎧袖一触かも」
    「なんか不満か」
    「ちっとも」

シオリの冒険:三女神の雑談

 ローマに着いてツバサ先生は、アカネをしげしげ見て、

    「これじゃ、拙いか」

 連れて行かれたのはリナシェンテ。トレビの泉の近くにあるデパートで、上から下まで一揃い買ってもらったんだけど、

    「こりゃ、まさに馬子にも衣裳だわ」

 大きなお世話だ。ホテルは相変わらずの安宿。夕方になってアカネは買ってもらった服に着替えたんだけど、

    「もうちょっと化粧と髪型をなんとかしないと。サキ、手伝って」

 ツバサ先生とサキ先輩の二人がかりで、

    「これでちょっとはマシになったやろ」

 うぅ、セットされた髪が引っ張られて痛い。そのまま夕食に。慣れないヒールが辛いんだけど、

    「ここだよ」
 なんとゴージャスな。こんなゴージャスなホテルのゴージャスなレストランに入るから、アカネの服もゴージャスに整えてくれたんだとやっとわかった。さすがにTシャツにジーパン、スニーカーじゃ敷居が跨げない感じ。

 案内されたテーブルには若い女性が二人。うへぇ、この二人も素敵で綺麗。ツバサ先生と三人並ぶと美の競演って感じ。アカネは・・・言わんとこ。アカネだってね、アカネだってね、可愛いって言ってくれた人もいたんだよ。保育園の時だけど。

    「ユッキー、こっちは仕事」
    「まあね」
    「こちらはコトリね、久しぶり」

 どういう関係なんだろ。見た目はツバサ先生と同じ二十歳過ぎだけど、ツバサ先生のは見た目だけで実は二十八歳。でもタメ口だから同級生とか。じゃあ、この二人も歳より若く見えるとか。

    「こちらの可愛い方は」

 ほらみろ、ほらみろ。見える人にはアカネの真価はわかるんだ。

    「わたしの弟子。渋茶のアカネ」

 ツバサ先生、『渋茶』は余計だ、

    「へぇ、そうなの。ここではユッキーと呼んでね」
    「うちもコトリでエエから」

 見た目だけならアカネも同じぐらいのはずだけど、どうにも年上の感じがする。それもずっと上の感じ。

    「ユッキー、見えるってこんな感じなの」
    「そうよ、おもしろいでしょ」

 何が見えてるって話なんだろ。

    「記者会見場のは、どれぐらいだった?」
    「そうねぇ、コトリちゃんよりちょっと暗い感じかな」

 見えてるのは明るい暗いなのか。いわゆるオーラってやつかな。

    「それは相当よ」
    「そうなの? たいしたことはなかったけど」
    「だろうね。わたしの五倍ぐらいは確実にあるもの」
    「そんなに! でもどうしてあそこで襲われたの」

 ユッキーと呼ばれる女性は少し考えてから、

    「イナンナはアンを砕いたけど、トドメを刺すとこまで行かなかったようなのよ。おそらく一撃を使ったと考えてるけど、使ったイナンナも冥界に引きずり込まれたしまったんじゃないかと考えてる」

 アンって誰なの赤毛のアンとか、

    「エレシュキガルは冥界には繋ぎとめるけど、殺しはしない。でもアンにはイナンナと共にある秘法を施していたで良さそう」
    「なんなの」
    「叙事詩ではイナンナは七つのメーを冥界に持って行ったとなってるけど、あれは砕かれて七つの部分に別れたアンが再び一つになるのを防ぐメーと見て良いと考えてる」

 メーって牛か、いやヤギか、それともトトロに出てくる女の子? あれはメイか。

    「パリの事件の時にエレシュキガルの軛を逃れたアンは地上に復活したんだろうが、メーの存在に気づいたんだと思う。これを外せるのはイナンナかエレシュキガルのみ」
    「でもフェレンツェで襲わなくとも。それもあんな白昼堂々」
    「本当のところはわからないけど、イナンナをようやく見つけたのがフェレンツェだったのはあると思う。神だって見る範囲しか見えないでしょ」

 神だって・・・ドラゴンボールの世界かここは、

    「おそらくだけど、七つのうちで神のパワーが充電できるのは一つだけ。残りの六つは放電すれば終り。焦ったんじゃない。それに白昼堂々でやっても飛んだら終りだよ」
    「でもわたしを殺そうとしてた」
    「メーを外せるのはエレシュキガルかイナンナだけだけど、殺したって外れるんじゃないかしら」

 なんか話が殺伐としてきた。美女同士の会話じゃないよこれは。

    「初代主女神が遺していた粘土板があってね」
    「だからコトリちゃんはエレギオンに行ったのか」
    「そうよ、HDが全面支援したのも、そのため」

 エレギオンって港都大が発掘調査に行ってたやつのことね。ニュースで見たことあるけど、あの調査の支援をしたのは、えっと、えっと、エレギオンHDだ。

    「神韻文で書かれていて解読が大変だったんだけど、驚きの五重構造でビックリした。普通はせいぜい多くても三重ぐらいなのよ」
    「でも教えてくれて助かったわ」
    「当然よ。でも誤算だったのはフェレンツェだったこと。ローマだと確信してたんだけどなぁ。だからコトリにも来てもらって、出来ればシオリを巻き込まずに始末する予定だったのよ」

 えっ、えっ、ツバサ先生を『シオリ』って呼んでる。

    「コトリちゃん、わたしってどう見えるの」
    「自分は見れへんから、わからへんと思うけど、前にいるのも怖いぐらいやねんよ」
    「わたしはイナンナになっちゃったの。愛欲と戦いと残忍な野心家の神に」
    「そうならへんと思う。そのイナンナには戻らないとなってた」

 ツバサ先生は、なにか考えこんでるから聞いちゃえ、

    「ちょっとイイですか」
    「アカネちゃんだったね。可愛いね」
    「ありがとうございます」

 嬉しいけど、そうじゃなくて、

    「シオリ、この子は見込みあるの」
    「あるから弟子にしてる」
    「で、どうなの」
    「頑張ってるよ。これから怠らずに精進したらサトルに匹敵するほどになってもおかしくない」
    「だから渋茶なんだ。なるほど」
 だから渋茶は余計だって。でも、そこまでツバサ先生はアカネのことを評価してくれてたんだ。あれっ? なにを聞くつもりだったっけ。

シオリの冒険:フェレンツェ騒動

 フェレンツェでの撮影は妙なことばかり起ったのよ。フェレンツェではイタリア人女優の写真を撮る予定だったんけど、これが変な奴。ことごとくツバサ先生の仕事にケチ付けるのよ。撮影場所だって、

    「ここじゃ、私の魅力が発揮できない」
 最初の予定ではドゥオモと呼ばれるサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂とか、ウッフィツィ美術館とか、ヴェッキオ橋だったんだけど全部ボツ。アカネも楽しみしていたからコンチクショウだった。

 そのクソ女優が行ったのは変なところばっかり。わざわざ観光名所を外してる感じ。フェレンツェ自体は治安が比較的良くて、安全な街なんだけど、どんな街だって夜になれば危なくなる。

 でもクソ女優は夜も撮影を要求するんだ。アカネもヤバいと思ってたら、見るからに胡散臭そうな連中が出てきて絡んできたんだ。男性スタッフが対応しようとしたら、突き飛ばされて迫って来た時にはオシッコちびりそうになったもの。そしたらツバサ先生は、

    「どきやがれ、テメーら邪魔だ」
 そう怒鳴ったら、その連中はフニャフニャと座り込んじゃったのよ。クソ女優もこれに懲りてホテルに帰るかと思ったら、そのまま撮影続行。カッシーネ公園に行くと言い出したのよ。

 これは後で知ったんだけど、昼間は市民の憩いの場でもあるそうだけど、夜になると麻薬の密売人も出没するヤバイところらしいのよ。そしたらここにも変なのがいた。訳が分からんこと言いながら・・・もともとアカネはイタリア語がわかんないから訳わかんないんだけど、あれは襲ってきたでイイとおもう。そしたらツバサ先生はまたまた、

    「どきやがれ、テメーら邪魔だ」

 その連中もヘタヘタと座り込んで動かなくなっちゃったのよ。なにがどうなってるのかわかんなかった。次の日はさらに散々だった。クソ女優の気まぐれは続いて、

    「ツバサ先生、これでイイのですか」
    「女優って、あんなものだから」

 歩いて移動してたんだけど突然ワゴン車が止まり、人相の悪そうな男どもがワラワラと。なんだコイツらと思っていたら、クソ女優とツバサ先生に向ってまっしぐら、これって誘拐と思ったらツバサ先生はこれまた、

    「どきやがれ、テメーら邪魔だ」

 男どもはツバサ先生に触れるだけでヘナヘナと座り込んで動かなくなり、さらにツバサ先生はクソ女優を連れ去ろうとする連中に手をかけると、男どもは

    「うっ」
 そう言いながら倒れちゃったのよ。さすがに警察呼んでの大騒ぎになっちゃった。どうも狙われたのはクソ女優で、やはり身代金目当てだったみたい。さすがにこの日はこれで撮影はオシマイになったんだ。

 翌日は朝から大変で、撮影が不十分だとか、襲われたのはこっちの責任だとか大騒ぎ。クソ女優なんか完全にヒステリー状態で、ついにツバサ先生に殴りかかったんだよ。いや、クソ女優だけでなく、クソ女優のマネージャーとか、付き人みたいな連中も一斉にだよ。

 なにがどうなってるのかわかんないアカネだったけど。不思議な光景をまたも見せられる事になった。襲い掛かった連中はツバサ先生に触れるだけで次々にぶっ倒れるんだ。比較的がんばったのはクソ女優だったけど、

    「うぎゃぁぁ」

 こう絶叫して倒れちゃった。またもや警察騒ぎ。白昼堂々、衆人環視の下の事件だったから、ツバサ先生は間もなく無罪放免で帰って来た。

    「あ~あ、これじゃギャラは取れそうにないよ」
 そういう問題じゃないと思ったけど、イタリアでは有名女優だそうで、芸能記者みたいなのがテンコモリ来て大騒ぎ。昨日は誘拐騒ぎもあったもんね。ツバサ先生は記者会見まで開かされたんだ。

 そしたらまたもや大事件発生。記者会見中にレスラーみたいな大男が突然乱入してきたんだよ。記者会見場にはガードマンもいたけど、それこそ一捻りって感じでツバサ先生めがけて突っ込んできた。記者会見場は大混乱。

 でもツバサ先生は座ったまま。アカネとサキ先輩は、ツバサ先生が腰でも抜かして茫然自失状態と思いこんで駆け寄り、

    「先生、逃げましょう」

 こう言って手を取って逃げようとしたんだけど、

    「たぶんあれがラスボス。ここで騒ぎは終らせる」

 なんとだよ、ツバサ先生は大男が襲ってきたのをガッシと組みとめたんだ。途端に記者会見場の照明が次々に爆発。後から聞いたらホテル中どころか、近所一帯がそうだったみたい。二人は組みあいながらなにか言い合ってたけど、あれは何語だったんだろう。アカネは床にしゃがみこんでたんだけど、目を上げるとツバサ先生が一人立ってて、

    「また警察か。昨日から三度目だよ。もう、うんざり」

 大男はぶっ倒れてた。もうこんな街にはいたくなかったんだけど、ツバサ先生が警察から帰って来たのは夜。

    「ははは、取り調べの警官が三回とも一緒だってさ、またお越しですかって言われたよ」
    「冗談じゃありませんよ、なんなんですか昨日からの騒ぎは」
    「なんだろうね。海外に出ると色々起るもんだねぇ」
    「そういうレベルじゃないでしょ。アカネなんて何年寿命が縮んだことか」
    「わたしに怒っても仕方ないだろ。喉乾いたから、お茶淹れてくれない。渋くないやつでね」

 普通の濃さの紅茶を入れたんだけど。

    「おっ、紅茶でもこれだけ渋くなるのか」
    「今日のは渋くありません」
    「いや、アカネが淹れるだけで化学変化が起るんだよ」

 それしてものツバサ先生のクソ度胸。怖くなかったのかなぁ、

    「記者会見場でラスボスとか言ってましたが・・・」

 ツバサ先生は、

    「フェレンツェの騒ぎでローマの仕事もキャンセルになっちゃたんだ。もちろんドタキャンだからキャンセル料は全額しっかりもらうけど。ところでローマで友だちとメシ食う約束してるんだけど、一人連れてってもイイと言ってくれてる。アカネ、サキ、行きたいか」
    「御馳走ですか」
    「期待してイイと思うよ」
 ジャンケンでアカネが勝った。やったぁ、本場で本物のイタ飯だ。それもA級グルメだ・・・と思う。

シオリの冒険:ローマの夜(2)

    「コトリ、だったらイナンナの冥界下りの真相は・・・」
    「七つに砕いたアンを冥界に送り込むためやったかもしれん」
    「じゃあ、ミサキちゃんが見た七つの門は、アンの残骸を封じた場所」

 ミサキちゃんの話によると、冥界の最奥部でナルメルを倒し帰る時には七つの門は廃虚と化していたとなってる。これはアンを封じていた最後の力が失われたって事を意味するでイイと思う。

    「ユダがエンキドゥの秘法の痕跡を見つけたって言ってたけど」
    「あれは、誰も見たことがなく、やれる者もいないよ。おそらく冥界から脱出するアンの痕跡やと思うで」
    「じゃあ、あの時の最後の縦穴の崩壊が」
    「その方が話に合う」

 知らなかったとはいえ、取り返しの付かないことをやってしまってたんだ。

    「ユッキー、なに心配そうな顔してるんや」
    「だって・・・」

 コトリはニッコリ笑って、

    「初代主女神が死ぬ前に遺した言葉を覚えてるやろ」
    「もちろんよ、神々の時代は要らないって」
    「あれは神が人に対して、どれだけの事をしてたかの意味やないか」
 そうかもしれない。神と言うから深遠な存在と思っちゃうけど、あれはエラン人の意識、いやエラン人とした方がイイだろう。シュメール神話では、神が働く代わりに人を作ったってなってるけど、あれはそうじゃなく、エラン人が地球人を支配し搾取してたんだ。

 その地球人だって混血率はわかんないけど、エラム基地の末裔である意味エラン人。後から来たエラン人が先に住んでいたエラン人を支配してたと見ることも出来るものね。

 アンは天の神としてシュメールに君臨してたのは間違いない。巨大すぎるアンの力は神々、すなわち流刑囚組のエラン人の平和をもたらしたけど、先住していたエラン人にとっては刃向う事の出来ない疫病神だったんだわ。

    「ユダの言葉を信じれば、イナンナはエランでは革命の女神とまで呼ばれてたそうや」

 イナンナはその矛盾に気づき革命家の血が騒いだで良さそう。革命家ってある種の理想主義者だから、エラン人がエラン人を支配し搾取する世界をぶち壊そうと考え、絶対支配者であったアンに立ち向かったぐらいだよ、きっと。アンが倒された後にエンリルやエンキが台頭するのも同様に許せなかったから倒したんだわ。

    「でも、どうしてあれだけ扱いにくかったの」
    「当り前やんか。革命家ってのは動乱の時代でこそ光るけど、平時には役立たずどころか、むしろ邪魔になるもんに決まってる。倒す相手がいてこそ光るのが革命家ってこと」
 そうかもしれない。革命家って理想家でもあるけど、見方を変えれば現体制に極度の不満を持つ不平家だものね。それも穏当な手段じゃなく、自分の理想のために暴力も肯定してしまう人種だもの。そんな連中は平和な時代の秩序の中では浮くしかないよね。

 エンメルカルから逃げた本当の理由はわからないけど、おおらくシュメールやエラムの地では自分の理想が実現しないと考えたと見て良さそう。イナンナの理想もわからないけど、ひょっとしたら原始共産主義的なものだったのかもしれない。

 そう考えるとキボン川流域の豊かな地を選ばず、ビソン川流域の不毛の地にエレギオンを建国したのもわかる気がする。イナンナは富こそ不公平をもたらし、理想を妨げると考えていたのかもしれない。だから、イナンナに取ってエレギオン建国時の苦労は楽しかったのかもしれないわ。

 イナンナが記憶の継承を封じた理由もよくわからないけど、後も合わせて考えるとエレギオンの栄えが見えてしまったのかもしれない。それを見たくがないために、あえて封じたぐらいかも。でもこの辺は、もうわからないな。

    「コトリ、イナンナはシオリで復活するの」
    「そうやろ」
    「だいじょうぶ?」
    「だいじょうぶって書いてあるやん」

 そうだけど。

    「アンって強いのよね」
    「そうなってる」
    「シオリで勝てるの」

 コトリちゃんはビールをグイッと飲み干して、

    「あの時に主女神は、その力の半分をコトリとユッキーに分けたになってるけど、あれは神の言葉でイイと思う。主女神はもっと強大な力があり、それを封じてるんや」
    「そんなもの見えたことないよ」
    「そりゃ、見えへんよ。力の差はそれほど違うってことや」

 どんだけ! いや、だからアンにも勝ったのかもしれない。

    「シオリちゃんがフォトグラファーなのは、ちょうどイイ気がする」
    「どういうこと」
    「あれも芸術の一つやんか。芸術ってゴールのない理想を追い続けるようなものやから、革命家にピッタリっておもわへん」
    「なるほどね、既存の美を乗り越えて革命を起こし続けるのが芸術とも言えるからね」

 わたしもビールをお代わりして、

    「シオリちゃんはいつ来るの」
    「明日ぐらいのはずだけど」