高校時代のコーヘーはパソコンオタク。顔はブサメンじゃない程度のフツメンの下の方ぐらい。スタイルだって良く言えばインドア派、運動部なんか入ってもいないから、だらしないは言い過ぎかもしれないけど、お世辞にも引き締まったとか逞しいには程遠かった。
勉強も出来なかったな。追試の常連に毛が生えた程度。コソ勉もしてなかったのは志望大学を落ちたどころか、大学にも進まず専門学校だったのでお察しだ。キャラはオタクではあったけど陰キャではなかったよ。
さりとて陽キャでもない。そうだな、学園ドラマならモブ生徒ぐらいだ。毒にもクスリにもならない、その他大勢の一人ぐらい。渚から見れば、コーヘーがクラスメイトにいたぐらいは知ってるけど、別に友だちとか、ましてや憧れの人じゃない。
そんなコーヘーだけど、同窓会SNSで連絡を取って来たのは、参加こそしてないけど同窓会の魔力のせいかもしれない。同窓会に期待するものはあれこれあるだろけど、やっぱり青い時代へのノスタルジーだと思うのよ。
たぶん出席していたら、あの青い時代の時間を共有した思い出話、昔話に花が咲いてたはず。それを呼び覚ますのが同窓会だし、それは同窓会SNSだけでも出てたものね。そんな青い時代の思い出の中に恋もある。
オクテなら初恋もあるだろうし、初恋でなくてもまだまだ恋愛初心者だし、大人の恋とは質が違ってた。どう言えば良いのかな、まだまだ恋に恋してた年代だった気がする。とにかく彼氏なり彼女が欲しかったけど、具体的にどうしたら良いかとか、なにを目指すのかわかってなかったと思ってる。
そこまでバカにするなと言われそうだけど、おぼろげな手順は知ってるよ。そんなもの好きな相手に告白して恋人になってもらうだ。告白をするまでにどうしたら良いかのノウハウも初心者だけど、だったら恋人関係になって何をしたいかは曖昧なんてものじゃなかった気がする。
ここだって恋人関係になれば目指すものは一つだろうと言われそうだし、現実的に大人の恋でもそうだ。女と男が愛し合えば目指すのはドッキングになる。もちろんドッキングに至るまでのノウハウとか、駆け引きはあるにせよだ。
高校生で恋人関係になってからのドッキング率なんて知らないけど、とりあえず高校生の初体験率が五十%なんてデータもあるから、それなりの確率でドッキングまで行くカップルは多いのかもしれない。
でね、めでたくドッキングにたどり着いたとして、次はどうするだ。もちろんドッキングをさらに重ねるはあるとは思うけど、恋愛ってドッキングがゴールじゃないのよね。誰だってドッキングの次を考えるだろうが。
これだって高校生なら知識として知ってる。ベタだけど結婚だ。大人だってセフレとか、愛人とか目指すのは少ないだろうが。結婚が次の目標になるから、それをエサに結婚詐欺とか、二股三股かけられたりするだろう。
ここのポイントだけど、ドッキングをしたからにはパートナーは一人ってのがある。恋人同士なら当たり前の話なんだけど、お互いにその相手しか愛さないの最終形態が結婚して夫婦になるぐらいで良いとも思う。
でもさぁ、高校生なら結婚する現実的な意味を実感できないんだよね。結婚するだけなら十八歳になれば赤い紙をお役所に提出すればなれるのはなれるけど、そんな簡単なものじゃないのを知ってるのが大人の恋だ。
たいした話じゃないのだけど、結婚して夫婦になれば自活しなくちゃならないのよ。当たり前すぎる話だけど、高校生が自分で稼ぐ実感を持つのは難しいのよね。そりゃ、生まれてからずっと親に養ってもらってるもの。
なんとなくさ、おカネってどこかから勝手に湧いてくるぐらいに思ってるところがあるのよね。おカネを手に入れる難しさは高卒就職ならすぐに叩き込まれるけど、大学進学したらまだ甘い気がする。
せいぜい結婚して新所帯をもったら、その生活のために働いておカネを稼ぐ必要があるぐらいはわかっても、あの大変さはやっぱり社会人にならないと実感するのは難しいと思うんだ。
だから結婚して夫婦なるイメージは曖昧と言うか、ひたすらバラ色の世界に思ってしまうのが青い時代の恋の気がする。これってね、バカにしたり、見下したりしてるわけじゃないのよ。だってさ、社会人になって結婚となれば、相手の収入をどれだけ重視する事か。
けどさ、青い時代の恋って、そっちがドリーム状態だから、ホントに相手が好きになるかどうかがすべてみたいなものじゃない。いくらおカネ持ちの家の息子だって、おカネで評価する部分は少ないはずだもの。
もっともだけど青い時代に熱中した恋が交際にまで進むのはそんなに多くない気がする。渚の頃とはまた時代は変わってるとは思うけど、告白、交際どころかそれ以前で終った恋も多いはずなんだ。
とにかく好きになる相手は被りまくるからライバルもゴッソリ状態じゃない。そんな儚い恋も高校卒業とともに終わり、そこから大人の恋を覚えて行くことになる。青い恋はセピア色の思い出として残されていく感じだ。
それでもどこかに青い時代のピュアな想いは残るんだよ。それに火が着いてしまうのが同窓会かな。だから同窓会ラブも起こることはあるし、同窓会ラブが暴走しての不倫騒動も良く聞く話じゃない。
もちろん全員がそうなるわけじゃない。時期にもよるけど憧れの相手が結婚していたりもあるし、高校時代とは良くない意味で変わってしまってる事だってある。だから同窓会で再会して、人知れず青い恋のピリオドを打ってる人も多いのじゃないかな。
でもってコーヘーだ。コーヘーだって青い恋をしたはずだ。結果から見ればわかるけど、どう見たって渚が対象だったで良いみたいだ。これを気色悪いと言う気なんてないよ。もしそう感じたなら誰がマスツーなんてするものか。
じゃあ、渚はどうなんだになってくる。まず恋愛対象に出来るかと聞かれたら困るな。せいぜいクラスメイトぐらいなんだよね。悪印象はなかったけど、一目惚れには遠すぎる。この辺は高校時代のコーヘーのイメージが強いのもあるだろうな。
その辺は青い恋の名残もあるだろうけど、社会人としてコーヘーと渚では釣り合っていなさすぎる。釣り合うどころか棲む世界すら違ってしまってる。マスツーでタメ口出来たのも、あれはあくまでも同窓会乗りの延長だっただけ。
それこそ実社会となれば、そもそも会えないもの。もし話す機会がたまたまあっても、それこそ敬語の塊でしか話せないのよね。いくら同窓生でもタメ口なんかで話そうものなら、上司から大目玉を喰らうよ。
成金、成金って言ったけど、コーヘーの棲む世界って完全にセレブの世界だ。セレブと庶民でも恋は成立するけど、同級生だから同い年だ。仮にコーヘーが結婚まで考えているなら渚なんて完全にアウトオブ眼中にしかならないじゃないの。
コーヘーの持つ地位と富なら、いくらでも若い女は選び放題だもの。そうなのよね、コーヘーが渚に目を止めたのは青い恋の余韻を楽しみたかっただけ。コーヘーに見えてる渚はすべて幻想なんだよ。
だからこの関係をどうソフトランディングさせるかが社会人としての嗜みになるだろうな。リアルなら接待だな。取引相手の御機嫌を取るってやつ。接待の時の基本は相手を喜ばすだ。ぶっちゃけ、相手のして欲しいことをやってあげるのが接待になる。
そういうとすぐに過激なものを想像するのも多いけど、たとえば接待相手が好きな料理のジャンルを選ぶのもある。そりゃ、そうだろう接待相手が苦手とか、嫌いな料理を食べさせられたんじゃ、機嫌は悪くなるだけだもの。
お相手する人間もそうだ。誰だって苦手とか、虫の好かない人はいる。こっちが接待する側だったら我慢するしかないけど、接待される側だったら同じ時間を過ごすだけで苦痛になる。そういうのを調べておくのが接待なんだよ。
渚はKST社長のお気に入りとして接待担当に選ばれて、社長は渚とタメ口を利くのが御所望ぐらいの設定でどうだ。まあ本当の接待と違って接待費はもらえないけど、一緒にマスツーを楽しめるので良いとしておこう。
いつまでだけど、コーヘーが青い恋の思い出にケリを付けてくれるまでかな。そのうち、渚が幻想の憧れじゃなく、タダのオバサンと気づくはずだもの。そうなっても、マスツー仲間として続いてくれたら上首尾ぐらい。
渚の勤めている会社だってKSTと取引があるから、コーヘーに不快な思いをさせて、会社に損害なんてもたらそうものなら、こっちが左遷させられてしまうのがリアルだもの。そんなことはコーヘーならしないと信じたいけど、とにかく相手は成金だ。
でもね、本音で言うと楽しんでる部分はあるんだ。マスツーしたけど評価は合格点だったもの。だから次も約束したんだよね。なんかマスツーの楽しさに目覚めかけてる感じ。こういう感覚が同級生同士の感覚かも。
うだうだ考えたけど、次はどこに行くつもりなんだろ。考えてみれば、男友だちと出かけるなんて久しぶりだものね。もうちょっと良い男なら恋も楽しめたかもしれないけど、それは贅沢だよね。