流星セレナーデ:氷の女神

 今日は例の料亭での密談です。行く前にコトリ副社長から、

    「ミサキちゃん、今日は覚悟しときや。いつもと違うものが見れるよ」

 今日呼ばれたのは四女神と佐竹本部長、さらにフィルも呼ばれています。話は冒頭から宇宙船団対策になりました。ここまでの展開は事前に予測した通りになっています。次の展開としては宇宙船団が地球側に何らかのコンタクトを取るだろうぐらいですが、

    「フィル、そろそろ話してくれても良いと思うんだけどな」
    「なんの話ですか」
    「本当の事だよ」

 えっ、なんの話。ユッキー社長はフィルがなにか隠し事をしていると考えているとか。コトリ副社長も、

    「コトリもそろそろ話してくれても良いと思ってる。自分から話してくれたら嬉しかったのだけど」
    「知っている事は、すべてお話しています」
    「あら、そう。やっぱりエランでも神は神か」

 ユッキー社長の顔が見る見る厳しいものになります。あれは厳しいを通り越して怖い顔です。それもこれ以上はないぐらい怖い顔としか言いようがありません。その顔を見てるだけでミサキの背中に冷汗が流れるぐらいです。

    「フィルよ、お前の扱いは執行猶予であることを思い出せ。いつでも処刑に切り替えることは可能だ。今すぐでも支障はない」

 どうなってるの。フィルを処刑するってどういうこと、

    「コトリもユッキーと同じ意見よ。それとも二人を相手にしても逃げきれる自信でもおあり。それとも勝つ気とか」

 うわぁ、コトリ副社長まで、

    「待ってください。お二人には私が見えるはずです。戦って勝つどころか、逃げる事すら不可能なのはわかっているはずです。私のどこに不審があるというのですか」

 フィルがそういうのはミサキでもわかる。社長と副社長があそこまで言うのはミサキでも理解できません。

    「フィルよ、騙せると思っていたのか。たしかにお前の力の使い方は巧妙だった。一目ではわたしですら見抜けなかった。だがな、首座の女神の眼は節穴ではない」
    「コトリの眼もね」

 お二人は何かを見抜いておられるんだ、でもそれはなに?

    「話したくないのなら、尋問はこれで終りだ。コトリ、始末して」
    「フィル、コトリも楽しかったけど、これでお別れね。でも死んでもらうのはフィルの中の神だけだから安心してね」

 この急展開はなんなのよ。するとフィルの態度が変わります、

    「わかった、私の負けだ。でもどうして気づいた」
    「お前の作り話は下手過ぎる。エランのテクノロジーは高度に発達しているようだが、人としての知能は並以下だ」

 そこまで言うかと思ったけど、

    「そこまで下手だったか」
    「あれだけ雑な話で気づかれないと思っている方がおめでたい」
    「まずどこだ」
    「お前が乗ってきた宇宙船だ」

 あの宇宙船はフィルのグループが作ったと言ってたけど、

    「エランには宇宙船製造技術も、長距離宇宙航海技術もある」
    「証拠は」
    「地球の上に飛んでいる。これだけの船団をお前の探索のために派遣するぐらい健在だってことだ」

 言われてみれば

    「間違いなく作った」
    「そうだ作った。お前は出来上がっていた宇宙船で逃げたに過ぎない」

 ミサキにもようやく話が見えてきた気がします。フィルの宇宙船建造話はリアリティがあるようにも感じましたが、よくよく考えるとご都合主義が散りばめられてる気がします。あれほどの研究工場がフィルの描写するエランの状態で無事だったのもそうですし、三世代も生き延びられるだけの物資やエネルギーが貯蔵されていたのも不自然です。

    「秘密研究所など存在しない。お前の政府が作らせたのだ。長距離宇宙航海技術はそれほど甘いものではない」
    「それは地球の常識でエランは違う」
    「甘くないからお前の宇宙船は故障を起こした」

 フィルの顔が蒼白になっているのがわかります。

    「フィル、隠したいのだろうが無駄だ。あれは緊急脱出用ですらない。逃げ場を失ったお前がやむなく使ったに過ぎない」
    「隠しても無駄か、その通りだ。私はエランでの居場所がなくなっていた」
    「逃げて来たのもお前一人だな」
    「そうだ、良く気付いたな」

 じゃあ、三隻で旅立ったとか、一隻に三千人の意識と共に来たってのも全部ウソだったんだ。

    「気づかれないと思う方がどうかしてる。お前にはかつての仲間を悼む気持ちがない。それだけでも十分すぎるぐらいだ」

 ちょっと待ってよ。じゃあ、フィルって誰なのよ。

    「私がクレイエールに来たのは偶然か」
    「偶然ではない、招き寄せた。お前の如き成績で、奨学金給付生になったのに疑問も抱かないのなら大間抜けだ」

 クレイエールでは文化事業の一環として世界の有名大学の学生に奨学金を給付しています。ただ予算の問題もあり広く薄くになっており、西オーストラリア大学では学年に一人しか選ばれていないはずです。

    「では、あの年に二人になったのは」
    「だからエランに居場所がなくなるのだ」

 シドニー支社の強化ってそういう目的だったんだ。そうだ、思い出した。シドニー支社の落成式には社長も副社長も出席されていたし、その後にオーストラリア視察旅行もやってたんだ。その中には奨学金を出している大学への表敬訪問も含まれていたはず。その時に社長も副社長もフィルを見つけていたんだ。

    「社長、フィルは誰なのですか」
    「三座の女神よ、お前の思っている通りだ」
    「まさか・・・」
    「そうだ独裁者だ」

 フィルは急に笑い出し。

    「私が独裁者のはずがないじゃないか。仮に独裁者としても、わざわざ地球までエランから探索隊を送り込むのは大げさ過ぎるだろう」
    「大げさ過ぎない。一万年以上の罪の累積があるからな。お前は存在するだけでエランの脅威なのだ。あの宇宙船団はお前の生死を確認するまで地球にいる」

フィルはお手上げって感じで、

    「しかしお前たちには関係ない話だろう」
    「関係する。わたしたちはお前が星流しにした流刑囚の生き残り。それだけで理由として十分だ」
    「お前たちには殺せない。死刑は禁止だ」
    「地球の神には関係のない話だ」
    「では殺すのか」

 ここでコトリ副社長が、

    「フィルの話は面白かったわ。お蔭でコトリも母星の話をいっぱい聞けたもの。それも残念ながらもうオシマイ。コトリが始末しても良いけど、もうすぐ来るよ。フィルが好きな方を選ばせてあげても良いけど、あの船団の人たちの話も聞きたいな」
    「お前たちだって無事では済まないぞ」
    「どうかしら。とりあえずやってみる? 逃げるなり、戦うなり、お好きな方をどうぞ」

 ガックリと肩を落としたフィルを冷ややかに見下ろしながらユッキー社長は、

    「首座の女神より告す。独裁者アラルガルは宇宙船団に引き渡すべし」

 それにしてもユッキー社長は怖かった。あれがエレギオン時代の首座の女神であり、氷の女神であるのは良くわかりました。エライもの見せられたと震えています。

    「ところでミサキちゃん、社長室のカーペットだけど」
    「ダメです」
 それとこれとは話が別。

流星セレナーデ:船団、周回軌道に

 NASAがあらゆる天文台の反論を押し潰して、

    『あれは小惑星群である』

 こう頑張っていたのを撤回し、

    『他星系からの宇宙船である』

 こう認めた瞬間に世界中がパニックになったとしても良いと思います。さっそく宇宙船饅頭、宇宙船煎餅、宇宙船チップス、宇宙船ビール、宇宙船ソーダ、宇宙船ハム、宇宙船ソース、宇宙船味噌・・・と続々と便乗賞品が売り出されましたが、彗星騒ぎの時ほどは盛り上がりってないようです。やがて宇宙船団は悠々と地球周回軌道を回り始めました。その意図を巡って、

    『地球侵略の準備』
    『友好関係の模索』

 どちらかの論争が果てしなく続いています。ユッキー社長とコトリ副社長は、

    「まず情報収集だろうね」
    「征服にしろ、なんにしろ言語と地球の情報がないと始まらないし」

 フィルも言ってましたが、母星に残されている地球情報は一万年前のものですから、まずこれを更新しないと始まりません。

    「フィル、大きさはどう」
    「あれは標準船サイズです」

 ここも補足すると、フィルがいた秘密研究所にあった宇宙船の設計図は一種類で『長期用標準船』となってたそうです。

    「形はどう」
    「ほぼ設計図通りで良いと思います」
    「作ったのか、一万年前から保存されていたものか、どっちだろうね。あれへの武器の搭載は」
    「ありません。これもどうやらですが、母星が探査した中で曲がりなりにも知的生命体が存在したのは地球だけだったようです」

 そうそうフィルはクレイエールの危機管理委員に任命されています。

    「離着陸能力は」
    「そういう仕様にすれば可能です。ただ問題があります」
    「どんな問題?」
    「再離陸仕様にすれば荷物の搭載量が減るのと、エランでは燃料の調達が厳しくなっています。それと離着陸自体が荒業です。あのサイズですし」
    「でも、とにかく離着陸は可能ね」
 宇宙船団は悠々と地球周回軌道を回ります。船団はやがて集団から散開に変わります。これは探査範囲を効率化すると同時に、監視範囲を広げるためと見て良さそうです。不気味な動きですが、地球側はなす術もありません。

 アメリカを始めとして各国は宇宙船団の侵略に備えて最高レベルの警戒態勢を取っています。日本ですらそうで、自衛隊が各地に展開しています。国連でも対策会議が連日のように行われていますが、お手上げ状態ってところでしょうか。もちろんコンタクトを取る試みも行われていますが、ここまでのところは反応なく手詰まり状態です。

    「フィル、エランでの言語は一種類だったの」
    「統一政府が出来てから言語の統一が行われてます」
    「地球に統一政府が無いのはバレバレね」
 地球全体に重苦しい空気が広がっています。彗星騒ぎの時も似たような空気はありましたが、あの時は諦めにも似た開き直りみたいなものもありました。しかし今回はひたすら重い感じです。おそらく彗星の時は当たれば生きるか死ぬかの一発勝負みたいな感じだったのが、今回は異星人による支配が始まり、延々と続く苦難が待ち受けている感じとすれば良いでしょうか。

 誰がどう考えてもテクノロジーの差は圧倒的です。太陽系以外から宇宙船で地球に来ているというだけで懸絶する技術の差があり、それも一隻ではなく十隻です。ただの調査とか、探査とは思えません。友好使節か侵略軍かの議論も、侵略軍の見方にドンドン傾いていきます。

 そうなってくると戦っても勝てるのかの議論にどうしても傾きます。ICBMを改造して撃ち落とそうの意見も出ていましたが、ICBMは宇宙船を攻撃するために作られているのではなく、あくまでも地表攻撃用です。到底無理そうになっています。

 次の議論の焦点は、宇宙船が着陸する前に撃ち落そうです。着陸されてしまえば、超兵器で武装した侵略軍が上陸するだろうから、その前に地球上の戦闘機をフル動員してでも落としてしまおうです。

 これについては地球の兵器が通用するかの問題もありますが、根強く残っている友好使節の可能性が重大視されています。宇宙船団は地球周回軌道にこそいますが、未だに敵対行動を取っていないからです。下手に攻撃すると、友好使節であったはずが報復軍に変わる可能性の指摘です。果てしもない議論が国連を中心に行われています。国連だけではなく、各国政府もそうですし、会社の中、学校の中、家庭の中でも行われています。

 街も軍事色が強くなっています。最高レベルの警戒態勢が長期化せざるを得なくなり、日本ですら緊急事態に備えての避難訓練とかが定期的に行われています。神戸市内でも迷彩服に武装を固めた自衛隊員の姿は日常化し、街角に自衛隊車両があるのに違和感がなくなってきています。

 そんな状態になってもクレイエールは動いていかないと行けませんが、ミサキですら新作のコンセプトには驚かされました。打ち出されたのは、

    『質実剛健』
 かなりどころでないミリタリー色の濃いものです。作りも丈夫さと実用性重視で、いくらなんでもと思いましたが大ヒットしています。クレイエールのヒットに釣られて他社も追随しましたから、あっという間に街行く人の装いもミリタリー色の濃いものに染まってしまいました。

 そうそう彗星騒ぎの時は新興宗教団体が跳梁跋扈しましたが、今回は左翼団体が初期の頃は頑張っていました。定番の、

    『戦争反対、自衛隊は街から出て行け』
 これもごく初期にはそれなりに注目を集めましたが、頭の上に宇宙船団がいる状態では支持はジリ貧で、今ではすっかり大人しくなっています。自衛隊がいても宇宙船からの攻撃を防げないかもしれませんが、自衛隊ぐらいしか頼れるものがありません。そりゃ、話し合うにもコンタクトすら取れない状態じゃ左翼団体の訴えは虚しく響くだけだったぐらいです。

 彗星騒ぎの時は、開き直っての乱痴気騒ぎも起りましたが、今回はひたすら自粛ムードです。なんというか、

    『この非常事態に!』

 この声はネット上でも溢れかえり、芸能人のバラエティ番組すら自粛傾向が著明です。娯楽系のイベントも次々に中止となり、行きつけのバーのマスターも、

    「干上がりそうです」

 神戸でも屈指の繁盛店なのですが、週末だというのにガラガラ。

    「マスター、その服は」
    「ご時世ですから」
 バーテンダーの服装と言えばベストなんですが、マスターはえらい地味というか、実用的過ぎるいでたちになっています。ここまで自粛ムードが広がれば不況色が濃くなっています。政府も非常事態に備えて物資の備蓄を始めていますし、市民も奢侈品よりも実用品重視で買い物をします。

 クレイエールも主力のクレイエール・ブランドこそミリタリーの味付けでヒットを飛ばしたものの。高級品のクール・ド・キュヴェもジュエリーも不振どころか開店休業状態、ブライダル事業の落ち込みも著明です。

    「ミサキちゃん、しばらくはしゃあないわ」
 コトリ副社長はそういって笑い飛ばしていましたが、日に日に戦時色が濃くなる街を見ながらミサキの心も重くなっています。

流星セレナーデ:戦略と戦術

 ユッキー社長が、

    「意見は一致したで良いかしら。フィルはどう」
    「同意する」

 ミサキはちょっと不安で、

    「ホントにイイの」
    「前に社長やコトリが四千六百年にわたってエレギオン人を統治した話を聞いた。その間に外寇こそあったが、内乱やクーデター騒ぎは殆どなかったと聞いた。しかし独裁政府はそうでなかった。常に反乱やクーデターが準備され、実際に起っていた。エラン人で独裁政府に好意を持つ人間は少ないよ」
    「でも今でも最大の政府でしょ」
    「どこにでも熱狂者はいるさ。それとね、あんな状態に母星がなっても、独裁政府以外のエラン人は決して合流しようとしないのだ」

 フィルもコチコチの反独裁政府主義者みたい。

    「さてやけど、ユッキーもそうすると思う」
    「戦術的にはそうよねぇ、地球の技術じゃ、そうされても手も足も出ないもの」

 船団は地球周回軌道にます進出して来ると見られてるようです。SFパニック映画によくあるパターンですが、それが常套戦術であるのはミサキも御意です。

    「次は言葉を覚えて勧告かな」
    「それともいきなりぶっ放すかも」

 地球周回軌道に進出してやりそうなことは、そこから国連なりに降伏勧告を送るパターン。各国政府かもしれない。そのためには言葉を覚える必要があるぐらい。それに伴ってやらかしそうなのが地球周回軌道からの攻撃。いわゆる威嚇攻撃だけど、

    「でもあるかな」
    「無かったら嬉しいけど」

 母星のテクノロジーは凄いけど、宇宙兵器の開発まで果たして行われたかがあるのよね。今の母星には新たな技術開発力は失われていると見て良いから、独裁政府が見つけたもう一つの宇宙船基地にあったかどうかがカギになりそう。

    「フィル、どう思う」
    「無い気がする。まずエネルギー波みたいな武器だけど、地球周回軌道からとなると、相当なエネルギーが必要で、それだけの戦闘用のエネルギーを、ここまで運んでくるのが大変すぎる」
    「なるほど、無から有は生じないか」
    「ミサイルの可能性もあるけど、これもまたかさばるし、重いしで、長距離宇宙旅行には邪魔過ぎる。そんなものより、指導者なりの肉体を優先すると考えたい」

 フィルの分析も冷静。SFアニメとかなら無限に近いほどエネルギー波を撃ちまくったり、どかどかミサイルを乱射するけど、実際に運ぶとなれば大変すぎる話になるものね。

    「フィル、地上兵器はどんな感じ」
    「侵略するつもりなら持ってくるだろうが、これも限定的過ぎる気がする。携帯兵器ならまだしも、戦車とかもそうだし、コイン機程度でも重すぎるし、かさばり過ぎる」
    「携帯兵器の質は」
    「質は地球の兵器より高いだろうが、それよりも初期戦力としての問題がある」
    「それはなに」
    「肉体が少ないんだよ。船団全部で千人もいないと思う。エラン人だって鉛玉に当たったら死ぬ」

 ユッキー社長とコトリ副社長は顔を見合わせた後に、

    「そうなると、あれしかないか」
    「だよねユッキー」

 船団の目的をいきなりの地球征服と見るから無理があるとの見方です。船団の目的は地球征服よりも、まず肉体の確保です。そのためには、国を一つ取るだけで十分です。友好を装い平和裏に着陸し、その国の首脳部の連中に意識を宿らせればやすやすと肉体は確保可能となります。

    「大国である必要もないよね」
    「小さすぎると困るけど、一千万人もいれば十分じゃない」

 狙われそうな国はやはり独裁国家じゃないかとしています。そういう国なら、独裁者とその周辺さえ取り込んでしまえば、国民はどうとでも出来ます。

    「そういう戦術と戦略で来るとなると」
    「弱点も見えてくるね」

 弱点はやはり意識を移し替える装置と見ているようです。地球の神は自らの能力と意志で宿主を変えられるというか、そう出来るものが生き残っていますが、母星の神は装置を使わないと無理なのはフィルの話からでもわかります。

    「ではその装置を破壊すれば良いのですね」
    「ミサキちゃん、弱点だけどそうは簡単には破壊できないよ」
    「そうよ、相手だって大事なものだからがっちりガードするはずよ」
    「でもお二人の力なら・・・」
    「そりゃ、目の前にあれば壊すことは出来ると思うけど、神戸空港に降りて来ても難しいの。周辺は政府がびっしり警備してるだろうから、近づくことも出来ないよ」

 言われてみればそうだ。さっき言ってた独裁国なんかに降りられたら、入国すらできないものね。

    「では、どうするのですか」
    「どうしようもないってこと」
    「そんなぁ」

 コトリ副社長が、

    「それでもね、ミサキちゃん、これだけでも活用できる事はあるのよ。たとえばね、まず日本には来ないってことでしょ」
    「今の見方ならそうなりますが」
    「時間が出来たじゃないの。ここですべての解決策が見つかればそれに越したことはないけど、それほど簡単な話じゃないのもわかったじゃない。いきなり、日本にこられてドンパチやられたら逃げるしかないけど、時間が出来て、新しい情報が手に入れば対応策もきっと見つかるよ」
    「そうだよミサキちゃん。今ここで考えた相手の出方だって、実際に来てみないとわからないの。わかっているのは、降りて来てからが勝負って事だけみたいなものなの。戦いはこれからってところ。それでもね・・・」

 ここからは船団上陸後に備えてのクレイエールの対策の話になりました。ここの主担当はシノブ専務と佐竹本部長になり、

    「・・・では、そうしていくから、シノブちゃん、佐竹君頼んだわよ」
    「お任せ下さい」

流星セレナーデ:小惑星群接近

 彗星騒ぎの記憶も生々しいのに新たに飛び込んできたのが、

    『小惑星群が地球に接近する』

 地球から観測される小惑星はかなりの精度で観測されているはずですが、突如という感じで出現したと報じられています。それも出現位置も地球接近コースも前回の彗星と非常によく似ているとされます。さらにその数も複数で、同じような大きさの小惑星が十個ぐらいの集団になっている可能性があるとされています。

    「社長、これってもしかしてフィルが言っていた・・・」
    「ミサキちゃん、料亭の予約しておいて。それとフィルも呼んどいてね」

 ユッキー社長の顔に緊張感が見られます。これほど緊張した社長の顔を見るのは初めかもしれません。コトリ副社長に料亭での密談を伝えたのですが、

    「わかった」

 こう一言だけ仰られて難しい顔をされていました。いつものメンバーにフィルが加わって料亭で落ち合ったのですが、とにかくユッキー社長とコトリ副社長の表情が尋常じゃないので、部屋中に緊張が走ります。

    「フィル、これぐらいは送れる?」
    「独裁政府も大損害を受けて小さくはなっていますが、母星で政府として成立している唯一の集団です」
    「二十万人ぐらいって前の話ではなっていたけど」
    「これも実際のところ、良くわからない部分が多いのです。もっと少ないという説がある一方で、百万人ぐらいはいるという話もありました」

 フィルも聞いた話としていましたが、母星全体で生き残っているのは五百万から一千万人ぐらいじゃないかの推測はあったそうです。とにかく統括する国際機関がなく、互いのコミュニティの交流も汚染地域が阻んでいるので、他のグループの情報は非常に乏しいとしています。

    「これは秘密研究所の資料にあったとされる記録で、私の時にはその記録が記憶装置の故障により読めなくなっていたものです。その記録には、
    『より大規模な技術保存施設の建設の必要を認める』
    こう書かれていたとされます」
    「つまりもう一ヶ所あった可能性があるってことか?」
    「否定はできません」

 コトリ副社長は、

    「フィルのいた秘密研究所には出来上がった宇宙船はなかったのよね」
    「はい、作れるだけの生産基盤はありましたが、あったのは原料と生産設備だけです」
    「ひょっとすると、もう一ヶ所の施設の方は出来上がった宇宙船の保管施設であった可能性もあるわね」

 つづいてユッキー社長が、

    「フィルのグループは宇宙船の打ち上げテストはしたの」
    「していません。生産設備だけあって、宇宙船技術者がいたわけではありませんから。とにかく設計図に近いものを作るのが精いっぱいで、出来上がった頃には既に資材も尽きています。一発勝負で打ち上げています」

 コトリ副社長が、

    「独裁政府は他のグループに較べると技術の保持や、情報は多く持ってるって話だったよね」
    「はい、そういう話になっています」
    「気づいて、探して、発見した可能性はあるね」

 コトリ副社長の見方は、まず長距離宇宙航海技術が母星では失われた技術になっている点です。フィルの話を信じれば、一万年前の地球への流刑船が最後で、以後は封じられてしまったとなっています。フィルは宇宙航海時代があったこと自体を神話と話していましたから、独裁政府もそうであった可能性があるとしています。

    「でもコトリ副社長、独裁政府の指導者は記憶を継承するのでは」
    「いや、一万年前のユダの見た指導者は入れ替わっている。何度も指導者が入れ替わる権力闘争が行われたとなってるから、宇宙航海時代の記憶を持つ者がいなくなった可能性は否定できないよ」

 それでもフィルでも神話として知っており、フィルのグループが打ち上げを行ったので、現在でも宇宙航海が可能なことを独裁政府が気づいたんじゃないかとしています。

    「ところでフィル、どうして三隻だったの」
    「それだけしか作れなかったのと発射台が三隻分だったんだ」

 ユッキー社長が

    「前回のフィルの宇宙船は大きな尾を引いていた。これは故障によるものと考えて間違いない。それに比べると、今度のものは尾を引く様子がない」
    「社長、それって」
    「船団で地球に着陸し、集団で上陸してくると見て良いと思う」

 独裁政府にフィルのグループのように女性人口の減少による絶滅の危機が迫っていた証拠はありませんが、同じ星の上ですから同様の状態に陥っている可能性は高いと見るのが妥当です。むしろ、そうなっているので地球に宇宙船団を送り込んで来たと見る方が自然です。

    「目的は地球侵略?」
    「無いとは言えないが・・・フィルの意見が聞きたい」

 フィルは難しい顔をしながら、

    「戦乱を戦った国々はどこも軍事国家でした。そうでない国もあったようですが、真っ先に滅ぼされています。最後まで生き残った独裁政府はコチコチの軍事国家です」
    「そうなるだろうな」
    「独裁政府も最盛期には遠いかもしれませんが、母星では最高の技術力を持っています。軍事力もそうです。こういう国が地球人の憐れみにすがっての移住を願うとは考えられません」
    「これもそうなるのは同意。それに独裁政府の船団が平和目的であっても、あの中には何十万人もの肉体の無い意識が積んで来ているに違いない。平和移住と言っても、その人数分の地球人の肉体が必要になるわけで、そんなものの提供に応じる国はないだろう」

 そうだよなぁ、フィルの船だって三千人ぐらい、いたとなってるけど、平和裏に交渉しても誰も応じるとは思えないもの。フィルには悪いけど、フィル一人だったから大事にならなかったとも言えるものね。

    「フィルのグループはどうするつもりだったんだ」
    「言いにくいが、拡散しようだった」

 それぐらいしか方法はないし、

    「フィルには悪いけど、コトリもユッキーも五千年これやってるんだけど、正直なところ不毛だよ。神と神が結ばれて子どもを産んだこともあるようだけど、生まれてきたのは地球人の普通の子ども。神の能力を持つ子供は生まれないんだよ」
    「コトリ、そうなのか!」

 ありゃ、副社長のことを『コトリ』って、二人はそこまで。ま、そうなるか、

    「意識こそ自分の物だけど、体はしょせん借りものってこと。アクシデントや殺し合いで減ることはあっても増えることはないのだよ。独裁政府の連中が地球人に宿っても同じ運命をたどるだけ。意識をもって宿主を移り歩くって寄生虫みたいなもんってことよ」
    「コトリは放置する意見なの?」
    「うんにゃ、アイツらいらん」

 コトリ副社長の意見は、神の存在は人あってこそのもの。人に住まわしてもらってる感謝を基本としてる。その住まわしてもらってる人の社会を良くするのが神の役目だって。タマタマか必然かは不明だけど、そうしようと思った神だけが生き残ってると。

    「イスカリオテのユダは」
    「アイツだってヴァチカン守ってるやないか」

 カネを儲けるためにヴァチカンが必要だからって理由だけど、結果としてそうなってると言えるかも。

    「今度来る連中はそうではないから、いらない」
 ミサキも不要としか思えませんでした。話は戦術戦略論に続きます。

流星セレナーデ:フィル

 料亭の後のフィルは母星のフィルになってます。どうやら、フィルに乗り移ってから表に出てきたのは、あの料亭の時が初めてだったようで、一旦表に出てしまうと引っ込めなくなったのはウソでないみたい。オーストラリアの御両親に会いに行くときに困ると思うんだけど、

    「フィルの記憶も残ってるから、なんとかなると思う」

 どうも人格融合型のようだけど、知らず知らずではなくて、スイッチを切り替えるように変わるみたい。とりあえずフィルは地球の生活を楽しめてるみたい。それだけ母星の生活は大変だったようで、普通に空気を吸えるだけでも嬉しいって感じかな。食べ物についても、

    「母星も食糧難で、たとえればエッセンス食みたいなもので、味も素っ気もなかった」

 想像しにくいんだけど、どうも完璧に計算されたある種のパンみたいなものらしいのだけど、

    「昔は様々な形態でバラエティに富んでいたってことになっているが、私が知っている範囲ではいつも同じものだった。食糧生産機の機能の維持が難しかったようだ」

 母星の食事はミサキの理解するところでは、食材を機械に放り込み、そこで様々な栄養素に分解して再構成するものだったみたい。再構成して出される食事は、本来なら様々なメニューになるはずみたいだけど、フィルの知ってる時代では同じものしか作れなくなったみたい。そのせいか、

    「最初は食材が原形のままで出て来たのに非常に驚いた」
    「不味かった?」
    「最初は違和感があったが、それより食べ物の味がバラエティに富んでいるのに感動した」
 母星のテクノロジーの進化はすべて自動化されている点のようにミサキは感じてます。食糧生産機もそうですが、原料をすべて一旦分解してから再構成する手法が確立していたようです。それは、それで凄い技術と思いますが、高度の技術である分だけ、これをメインテナンスする技術も高度そうです。

 社会が安定していれば問題ないのでしょうが、星ごと潰してしまいそうになる戦乱が起ると、高度すぎる技術の維持が難しくなったぐらいの理解で良さそうです。フィルの話も、かつてはこうであった、昔は出来ていた話が多く、

    「地球が遅れているのは間違いないが、はるかに暮らしやすい」
 それと母星は資源危機問題をテクノロジーで乗り越えたとしていますが、これもシンプルにはエネルギー効率を極限にまで良くしたぐらいに思えました。フィルのグループは秘密研究所に立て籠もれる幸運に恵まれましたが、そこにあったエネルギーだけで三世代を支え、さらに宇宙船まで打ち上げているからです。


 そんなフィルなんだけど、あの日からフィルの能力は急速に上がってます。それまでもそれなりに優秀だったけど、今ではジュエリー事業部でも屈指どころか、ミサキにも迫る勢いかもしれない。神としての能力が発揮されているぐらいでイイと思うのだけど、ユッキー社長は気になっているようです。

    「ミサキちゃん、フィルなんだけど、ちょっと変わってる」
    「そりゃ、地球人じゃありませんから」
    「もちろんそうなんだけど、神としての能力の出方がちょっと気になる」

 それ以上は口を濁らせておられました。ミサキが気になっているのはコトリ副社長とフィルの関係。コトリ副社長はエレギオン発掘隊長をやられた時に柴川君を恋人にしていましたが、結局のところ別れたようです。副社長と大学院生では会うのも難しかったぐらいでしょうか。ユッキー社長にも聞いてみたのですが、

    「お互いの恋愛には口出ししないのが二人のルール」
    「でも敵対する可能性については」
    「その時はデイオルタスと同様に始末する」

 思い切ってフィルに聞いてみました。

    「夢のようだった」

 あちゃ、さすがコトリ副社長、早いわ。ただ気になったのは母星でも地球のような恋愛関係があったかですが、

    「あったとは聞いている。だが、私の頃には女性が貴重過ぎて変わっていた」
    「どうしてたのですか」
    「まず厳重に審査された男性に生殖権が与えられる」
    「生殖権?」
    「そうだ。これが簡単には取得できないのだが、これを取得できた男性を女性が選ぶ制度だった」

 フィルの話では女性人口減少の歯止めが利かなくなっており、既に二割を切りそうだったとしています。そこまでになると、選ばれた男性を女性が指名する方式になっても不思議ないかもしれません。女性は子どもを産むために存在している訳ではありませんが、ここまでになると絶滅種の保護繁殖みたいな状況にも感じます。

    「地球は良い。私には縁がないもの思っていた」

 そりゃ、良いでしょう。コトリ副社長は地球の女の中でも最上級になりますから、副社長で満足できなかったら・・・後はユッキー社長ぐらいか。ここまでオープンならとコトリ副社長にも聞いてみました。

    「フィルは童貞みたいですけど」
    「それでもいいわ」

 コトリ副社長は童貞なら童貞なりに、ベテランならベテランなりに楽しめるものね。

    「デイオルタスの時みたいに燃えられているのですか」
    「近頃少し」

 あれ? 変な返事だなぁ

    「母星の神はやはりちがいますか?」
    「地球の男に、あきたところよ」

 やられた。それにしてもピンクレディのUFOを踊りながら出してくるとは不意打ちでした。でも副社長とフィルが恋愛関係なのは都合が良いかもしれません。コトリ副社長は燃え出すと強烈ですし、溺れこむように相手を愛しますが、そこまで熱中していても相手を冷静に観察するのは忘れません。デイオルタスの時に思い知らされています。

    「でもね、気になる」
    「社長もそんな事を仰られていましたが」
    「コトリも同じ意見よ。とりあえず初期成長ぐらいに見れる可能性は残るけど、注意は怠れないわね」

 一万年前に送られた母星からの流刑囚は、なんらかの理由によって人に移れる能力が発生し、それ以外にも様々な能力を獲得しています。これはコトリ副社長の仮説ですが、とくに能力の方は、いきなり現在の能力を獲得したのか疑問が残るとしています。ここ何千年間は変わっていないのは、魔王やデイオルダスから確認できますが、能力を獲得した初期には成長期があった可能性をコトリ社長は指摘されています。

    「仮に成長したら、どうなるのですか」
    「料亭で見た時はミニチュア神程度だったけど、使徒の祓魔使ぐらいになってるわ。このペースだと・・・」
 ここでコトリ副社長も口を濁らせてしまいました。