ツーリング日和(第18話)ありえない能力

 オレはレーサーもやっているモト・ブロガーだから、ライディング・テクニックの番組も作っている。よくある質問として公道とサーキットでは走りの何が違うかはある。走りの基本は広い意味では同じだが、レベルが違うぐらいが説明になる。

 それと意外に思われるかもしれないが、高速道路よりサーキットの方が走りにくい。サーキットは高速を出しにくい構造になっている。たとえばストーレートだが、大昔は六キロなんて化物があったそうだ。

 だがそんな長いストレートを、モンスターに乗ってプロのレーサーが走り抜けると途轍もない高速になる。ストレートの次にはコーナーが来るが、そこで曲がり切れずにドッカンだ。そういう死亡事故を重ねた末に二キロ未満に制限されている。

 二キロのストレートさえ存在しているサーキットは数えるほどで、実際に走ると次々に迫ってくるコーナーをクリアし続けることになる。二キロと言っても二百キロで走り抜けたら三十秒ほどだからな。

 コーナーだって高速道路のコーナーじゃない。どっちかと言わなくとも峠道のコーナーして良い。それぐらいの急カーブだ。そうやってマシンのスピードを抑え込んでいるのがサーキットだ。

 だからコーナーをいかに早く走り抜けるかが勝負の重要なポイントになる。それが出来るのがレーサーであり、素人が見るとサーキットをぶっ飛ばしているように見えるって事だ。

 高速道路とサーキットのもう一つの違いは、高速道路のような巡航状態はサーキットにはない。サーキットであるのは加速と減速だけだ。可能な限り加速し、必要最小限の減速をするのがサーキットの走りだ。

 ここもポイントを絞れば減速をいかに小さくするかが勝負の分かれ目になる。その減速が必要になるのはコーナーだ。コーナーの曲がり方の基本はサーキットも一般道も同じだ。コーナーを曲がれるだけの減速を行い、コーナーに進入する。

 だがそこからが違う。一般道ではそこから安全速度で旋回するだけだが、サーキットではコーナー進入前の減速が終わればひたすら加速なのだ。レーサーがコーナーで目一杯倒し込むのはそのためだ。

 コーナーをクリアする流儀はコーナーにより、またライダーにより異なるところがあるが、オレの基本はバイクを倒し込むことにより得られる遠心力への抵抗力で、フル加速する事だ。つまりフル加速しても吹っ飛ばされないギリギリの減速を行う。

 コーナーからの脱出速度はその後に続くストレートの加速に差が付く。これの積み重ねがレースだ。オレが出るようなレースはマシンの差が殆どない。その中のセッティングの争いはもちろんあるが、互角のマシンが争うようなものだから、コーナーごとのタイムの削りあいがレースの本質と見て良い。

 レースとなると熾烈で、それこそ1キロ刻みで争われる。モトGPクラスのコーナーへの進入速度なんて、オレから言わせると狂気みたいなみたいなものだ。よくあれで吹っ飛ばないものだと寒気がするぐらいだ。


 広大生の取材で謎のバイクのあの速さの秘密の一端はわかった。超軽量の車体に強力エンジンを搭載していたのだ。だが謎はまったく解けていないに等しいところがある。軽量化とエンジン出力のアップはスピード・アップの基本に過ぎない。

 これは当たり前の事がわかっただけだ。そんな軽量化が出来た理由も、小型のエンジンをそこまでパワーアップ出来た理由も皆目見当が付かないからだ。車体重量が二十キロってなんなんだよ、ママチャリぐらいしかないんだぞ。そこにエンジンまで組み込んで、あまつさえオレのバイクを振り切るってなんだよそれ。

 石鎚の時のオレは飛ばしていたわけじゃない。ユーチューブに上げる関係で、法定速度厳守とまで言わないが、見るからに違反しているような速度で走らせる訳にはいかないからだ。インプレッションを取るために攻める時もあるがそこは編集だ。

 オレは抜かされたのだが、レーサーのサガみたいなもので、抜き返してやろうと思ったのだ。あんな小型バイクに追い抜かれたこと自体が驚きでもあったからな。どこにしようかと思ったのだが、もうすぐ大きなブラインド・カーブがあるのを思い出した。

 オレはこのコースによく来るし。そのブラインド・カーブも良く知っている。見かけないバイクだから、おそらく相手は知らないはずだ。相手が知らないブラインド・カーブなら無理をしないはずだから一挙に抜き返してやろうってな。

 謎のバイクは先行していたが、十分に減速して無理せずにコーナーに進入していた。これはバカにしている訳じゃないぞ、一般道ではあれが正解の走りだし、オレだって公道の時はそうしている。ましてや初めて進入するブラインド・カーブならそうするべきだ。

 ただ減速からコーナーへの入り方は見るからに素人だった。だから、余裕だと思った。オレはブレーキングで差を詰め突っ込んで行った。これも断っとくがサーキット・レベルじゃない。当たり前だが、路面も違うし、タイヤも違うし、バイクも借りものだからな。そこも十分にマージンを計算した上での突っ込みだ。

 差は詰まったし、コーナーワークも満足が行くものだった。あのコンディションなら最高だったと思っているぐらいだ。後は立ち直って加速すれば簡単に抜き去れるはずだった。それぐらいコーナーからの脱出速度に差があった。

 だがそこからオレは信じられないものを見ることになる。謎のバイクも直線に入ったので加速したのだが、脱出速度で完全に上回っているはずのオレを、いとも簡単に突き放したんだよ。まるでロケット・ブースターが付いているかのようだった。

 謎のバイクがウサギとすればオレはカメだ。まるでオレが止まっているのじゃないかと思うほどの圧倒的な加速力だった。あれは悪夢を見ているようだった。以後も同じだ。謎のバイクは安全速度でコーナーを回るから、その時に差は詰められるが、直線加速で話にならないぐらいに突き放された。

 そうだよコーナーで差をオレが血眼になって詰めるより、立ち上がりで謎のバイクに離される方がはるかに多かった。ビデオを見た加藤にも、

『遊んでるんか』

 こう言われたぐらいだが、言いたくなる気持ちはわかる。レーサーが乗る大型バイクが、素人の原付に歯が立たないんだからな。


 あのバイクの馬力がどれぐらいだったかを推測するカギの一つにパワー・ウエイト・レシオ(PWR)がある。これはマシンの加速力の指標の一つで、車体重量を馬力で割ったものだ。オレのバイクは車体重量が二百キロで馬力が二百馬力だからPWRは一・〇になる。ここまで書けばわかると思うがPWRが小さいほど加速力が上になる。

 PWRが一・〇がどれぐらいの代物だが、スーパーバイク選手権と言うのがある。市販の一〇〇〇CCバイクによる世界選手権だ。バイク・レースの最高峰はモトGPだが、スーパーバイク選手権との差は小さく、時に上回る事があるぐらいだ。

 市販車がベースのレースだから、元の市販車の能力が高められるのは当然で、それがPWR一・〇だ。スーパー・スポーツ・クラスと呼ばれるがオレのバイクもそうだし、石鎚で試乗していたバイクもそうだ。

 ここはシンプルには市販車最速のバイクのPWRが一・〇として良い。余裕で怪物だし、オレはレーサーだ。それをあんな素人の走りで余裕でぶっちぎる化物が謎のバイクだ。今思い出しても寒気がするほどの加速だった。


 あの加速がどれぐらいのPWRで出来るかだが、加速はPWR以外にもギア比などのセッテイングやエンジン特性、タイヤなどもからんでくる。そんなものは推測しようがないから、あくまでもPWRをベースに考えてみる。

 ここでだがクルマではドライバーの体重はそこまで大きく考えない。F1でも七百五十キロぐらいはあるからな。だがバイクは大型でも二百キロぐらいしかない。とくに謎のバイクは常識外れの超軽量だから人込みのPWRで考える必要がある。

 ライダーの体重だがオレで七十キロだ。謎のバイクの女性は細身だったから仮に四十キロと考えてみる。そうするとオレのバイクで人込みのPWRは一・三五になる。

 謎のバイクで同じPWRにするには四十五馬力が必要になる。これだって一二五CCのバイクでは途轍もないパワーだが、これではオレの乗っていたバイクと同じPWRになり、それではあの加速は無理なことぐらいはわかる。

 では人込みのPWRがどれぐらいならあれほどの加速力が得られるだが、仮に一・〇としたら謎のバイクは六十馬力必要になる。PWR〇・三五の差で、脱出速度で遥かに上回っていたオレのバイクをぶっちぎれるかどうかは疑問だが、少なくとも六十馬力以上はあると考えて良いはずだ。


 ではそんなバイクを現実に作れるかと言えば不可能だ。車体の軽量化の話は置いといても、小型高出力のエンジンとなるとレース用になるが、現在のバイク・レースの規格は二五〇CC・六〇〇CC・一〇〇〇CCだ。メジャー大会は世界も日本も同じだ。

 草レースなら他のカテゴリーもあるが、メーカーが力を注ぐのはこの三つのカテゴリーのみってことになる。当たり前だがメーカーもこの三規格のレース用エンジンしか作らない。他の排気量のエンジンなんて使い道がないからだ。

 二五〇CCのレース用エンジンで五〇馬力だ。これでも謎のバイクの馬力には足らないが、もっと問題なのは六十馬力とか七十馬力のレース用の小型エンジンが世界中探し回っても存在しないんだよ。モト2の六〇〇CCなら百三十馬力ぐらいになるが。エンジン重量だけで百五十キロぐらいなるから論外だ。

 そうなると市販エンジンのチューンになるが、四〇〇CCでも四十馬力程度だから、一・五倍以上の出力アップが必要になる。だが四〇〇CCのエンジンでも六十キロぐらいはあるはずだから、元のエンジンだけで謎のバイクの重量の三倍になってしまう。

 だいたいだぞ、謎のバイクのオリジナルの車体に付いていたエンジンだけでも三十キロぐらいあるはずなんだ。それを車体重量で二十キロにしているって、どんなマジックだ。マジックと言うよりもう魔術だよ。

 これがどれだけバカらしい重さかと言えば二五〇CCで世界最速であるモト3でも、車重は八十五キロぐらいはあるんだよ。こんなもの、オレだって話に聞いただけならホラ話にしか思わない。冗談にもならないレベルだ。

 だが謎のバイクの重さは実際に持ち上げた者の経験談だ。謎のバイクの驚異的な加速力はオレがこの目で見たものだ。さらにビデオもある。ホラ話をしているのではなく、この世に存在しているバイクの話だ。

ツーリング日和(第17話)取材

 オレは松山市、加藤は東温市だから松山駅で落ち合った。広島大だが広島市にあるわけではない、元は七つの学校が統合されて新制広島大になっているが、散らばっていたキャンパスが東広島市に集められている。

 松山からなら御薗宇バイパスで今治に出てしまなみ海道を渡り、西瀬戸自動車道、山陽道で百六十キロぐらいで、ほとんど高速だから楽勝だ。西条ICを下りた時点で連絡を取りサイゼリアで落ち合うことになった。駐車場で待っていると、二台のバイクが入ってきて、

「スギさんとカトちゃんじゃのぉ」

 スギさんがオレ、カトちゃんが加藤のユーチューバー名だ。名刺も渡して一通り挨拶をしてサイゼリヤに。まずは女二人組ことを聞いてみたが、

「神戸のOLで一人はコトリさん、もう一人はユッキーさんぐらいじゃ・・・」

 苗字も連絡先も聞いてないとは、コイツら本気でナンパしたのかよ。それと期待していた写真も無しだって! あの夜の泊りも聞いたが、

「実は・・・」

 偶然だったそうだが、やはり湯之谷温泉だった。写真も含めて、その辺の事情をなぜ伏せたかだが、

「頼まれたんじゃ」

 同意もなしに写真を上げるのは良くないにしろ、あそこまでしたのは、

「その代わりにじゃ・・・」

 しまなみ海道観光をやっているが、入場料とか昼食代、途中の飲み食いに至るまですべて支払ってくれたそうだ。それだけじゃない、湯之谷温泉も素泊まりの予定だったのに、夕食も朝食も強引にご馳走してくれた上に、宿代も払ってくれたと言うから豪儀だ。

 石鎚スカイラインにタチの悪い走り屋が早朝にいるのを知っていながら同行したのも、たらふく飲み食いした後で断り切れなかったのと、どうしても行くと言うあの二人を放っておけなかったぐらいのようだ。

 謎のバイクの性能だが、しまなみ海道の観光中は男二人組が先導だったので不明としていた。それじぁ、石鎚スカイラインに行く途中は、

「国道四九四号で付いていけんようなって、石鎚スカイラインでも鳥居の次に会うたのが土小屋テラスの前じゃった」

 土小屋テラスからUFOラインに回ったそうだが、それこそのんびりツーリングで、宿に帰って朝食を食べたらサヨナラだったそうだ。つまりはあの走りを一度も見ていないのか。というか無理だろうな。オレでも振り切られそうだったからな。

 バイクについても聞いてみた。見た目はノーマルに近いが、カラーリングされたリア・ボックス、前輪のダブル・ディスク、オイル・クーラーがあったのは確認できた。他はどうだったかだが、

「なしてかキックで、セルはないじゃった」

 はぁ? ノーマルはセル・オンリーなのに、セルを外してわざわざキックにしたのはどういう事だ。なにか秘密があるのだろうか。

「メーターも変わっとった」

 指針式にしてたのか。これはサード・パーティでもあるが、

「帰ってから同じメーターを探したんじゃが見つからんじゃった」

 形式はタコとスピード・メーターが並列するスタイルで、スピード・メーターにはオド・メーターとトリップ・メーターか。だがデジタルじゃなく、ダイヤル式とは珍しいと言うか、今どきどこも作ってないぞ。

 フューエル・メーターは当然だろうが、油温計も一体として組み込まれていただと。それぞれ単体ならサード・パーティ品にもあるが、そこまで一体となっているのはオレも見たことがない。

「給油の時も驚いたんじゃ」

 給油口はハンドルの手前のタンクの上にあるが、

「そうなんじゃが、そこへの給油が終わるとじゃが・・・」

 キー操作でシートが開いたってか。あれはオリジナルではネジ止めされている。開けるのはかなり面倒だが、まるでスクーターのシートのように手軽に開いたらしい。

「シートの下がじゃな・・・」

 ああ見たことがある。バッテリーが半分ぐらいを占めて、残りは空のボックスになっている。とにかく物をしまうところがないバイクだから、必要書類の収納に使うぐらいのスペースだ。

「そこのバッテリーがじゃ・・・」

 無かったって! どういうことだ。バッテリー・レスにしているとか。

「バッテリーを小型化したんじゃと」

 小型化? 無くなるほどの小型化をしようと思えば・・・冗談だろう。EBバッテリーに交換したとか。EBバッテリーなら単四乾電池サイズになるが、いくらすると思ってるんだ。あれだけでバイクを買ってお釣りが出るじゃないか。

「そこに二つ目のガソリンタンクがあったんじゃ」

 な、な、なんだって。そんな改造は見たことも聞いたこともないぞ。

「どうも燃費が良うないらしゅうて、二つ積んでも二百キロぐらいしか走らにゃあと笑いよった」

 どれだけ燃費が悪いんだ。いや、そうじゃない、そうのはずなのだ。あれだけのハイパワーを出すにはガスを食うはずだ。やっと謎のバイクの秘密の一端がわかった気がする。だが二つのタンクの切り替えはどうしてるのだろう。

「それか。コックが付いとって手で切り替えるみたいじゃ」

 エンジン音が違うのは二人とも感じていたようだ。だが思い当たるものがないのは同じだった。そりゃ、オレや加藤だって知らないぐらいだからな。

「もう一つ、こりゃ驚いた言うより仰天させられたんじゃが・・・」

 石鎚スカイラインのレースの後に勝因を聞いたそうなんだ。そりゃそうだよな。あんなバイクで勝つ方が不思議過ぎるからな。そうしたら、バイクを持ち上げてみろと言われそうだ。

「それが持ち上がるんじゃ」

 えっ、えっ、小さいと言っても百キロあるんだぞ。

「女の子用に軽量化しとる言いよったが、そうじゃのぉ、二十キロもない気がしたで」

 ば、ば、化物だ。性能アップのために軽量化は誰でも考えるが、二十キロはありえない。だいたいだぞ、一二五CCのエンジン重量だけでも三十キロぐらいあるじゃないか。それにエンジンはどう考えてもトンデモなく強化されているはずだ。

「軽すぎて、かえって不安定で走りにくいと笑うとられた」

 そりゃ、それだけ軽量の車体に強力エンジンを積めば速いだろうが、扱いにくいなんてものじゃないはずだ。羽根付けたら空だって飛びそうじゃないか。サイゼリヤで取材のお礼にお昼をご馳走して帰り道、

「謎のバイクの速さの秘密は、軽量車体に強力エンジンなんやな」
「それはわかってないに等しいじゃないか。どうしたら、そんな軽い車体が作れるのか、どうしたら、そんな小型の強力エンジンを作れるのか」

 謎がますます深まっただけだ。

ツーリング日和(第16話)手がかり

 オレだって仕事があるから、謎のバイクばかりを追いかけていられない。それでもヒマがあったらあの日の前後のSNSやブログを読んで回っていた。加藤だけじゃなく、モト・ブロガー仲間にも協力してもらっている。

 だが雲をつかむような話で、探しても、探しても見つからなかった。残念だが、たったこれだけの手がかりじゃ無理があったかとあきらめかけていた。そんな頃に加藤から連絡があった。

「これ怪しいぞ」

 読んでみると学生のツーリング日記のようなブログだ。学生のバイクはあのバイクだな。一日目はしまなみ海道ツーリングか。日付はあの日の前日だ。写真も掲載されているが、

「男二人組の写真しかないじゃないか。それにバイクも自分たちのしか写ってないぞ」
「あわてるな。よう読んでみい」

 なになに因島水軍城で女二人組に声をかけたのか。かけた理由は同じバイクだからとしてるがナンパだろうな。そこから四人でしまなみ海道の観光やりまくりか。よくまあ、これだけ回れたもんだな。

 ちょっと待てよ、因島水軍城で出会って南に下ったということは、尾道から女二人組は来たことになるじゃないか。それも観光やりまくりなら、往復の復路じゃないはず。

「美人って書いてあるやろ」

 ブスなら声をかけないだろうが。それに美人、美人と言ってもピンキリある。文字だけじゃ、どれだけ美人かわからん。それにだぞ、美人とツーリングしたのなら、記念写真ぐらいは撮るだろうが。

「その理由はわからんが・・・」

 その日は、へぇ、今治城まで立ち寄ってるのか。

「おい、今治城で別れて湯之谷温泉に泊まったとなってるぞ。これは関係ないじゃないか」
「そう思てんけど、次の日、読んでみ」

 これ冗談だろう。朝飯前に石鎚スカイラインを走りに行っただと。

「そうや朝の四時に宿から出発や」

 石鎚スカイライン入り口の大鳥居まで湯之谷温泉からなら七十キロ以上あるし、国道四九四号は完全に夜道じゃないか。そんなムチャをする必要がどこにある。事故りに行ってるようなものだ。

 夜の峠道が怖かったの話とか、定番のパワー不足の話があって、大鳥居に到着か。この頃には夜が明けて、石鎚スカイラインからUFOラインの景色の素晴らしさを褒めて下山して宿に帰って朝食か。平穏に終わってくれたようだな。

「おかしいやろ」

 朝四時に石鎚スカイラインを目指したのは妙だが、

「あの日のあの時刻に起こった事は杉田が見てるし、走り屋からも聞いてるやんか」

 そういうことか! あの日のあの時刻に石鎚スカイラインを走って土小屋テラスにいたのはオレとあの女二人組だけだ。地元なら例の走り屋が鳥居あたりに屯しているのを知っているからな。オレは顔で通れるが普通は避ける。

 観光客と言うか余所者が走ろうとすると、あの走り屋連中が賭けレースで絡んでくる。あの日もそうだ。あの女二人組も土小屋テラスに上がってきたが、レースを挑まれてだ。学生二人が無事に上がって来れるはずがないよな。

 待てよ。レースをやったのは女二人組と走り屋だが、女二人組は四人連れだった。残りの二人はレースに参加していない。時刻から考えて学生二人組と考えるべきだろう。そうなると宿は分かれたが、示し合わせて石鎚スカイラインを目指したとか。

「その可能性は残るがおかしいところがある。ブログのずっと前のエントリーやけど」

 なんだって! あの走り屋集団の話を知ってるじゃないか。それなのにわざわざ、あんな無理をして石鎚スカイラインに行ったのか。ほんの一時間ほど遅らせれば良いのも知ってるのにだ。

「それとやけどこのブログを書いたのは、あの走り屋への証文を書いた男のはずや」

 そうだった、そうだった。レースに負けた走り屋連中はトイチの証文にサインまでさせられている。それを書いたのは女二人組に同行していた男だ。

「オレは見なかったが」
「そりゃ、そうだろう。男のバイクはオリジナルの普通のバイクや。杉田のバイクどころか走り屋連中に付いて来れるもんか」

 オレは走り屋連中が来たのを見てUFOラインに行ったが、男の方は走り屋連中の後から上がって来たんだろうな。スタートが同じならそうなる。あんなバイクじゃ、誰が走らせても走り屋たちのバイクに追いつけるはずがない。

「それに女二人組は神戸から来てるとなってる」

 そう書いてあった。これも驚くが神戸から延々と下道ツーリングで尾道まで来たとするしかないだろう。

「ブログは伏せてることがあるな」

 たしかにそうだ。一見、どこにでもあるツーリング記録のような話だが、あの日の事情を知っている者からすれば不自然なところがあり過ぎる。同行した女二人組の写真が無いのもそうだし。走り屋がいるのを知っているのに、わざわざ四時なんて無茶苦茶な時刻に早朝ツーリングに出かけている。

「それと杉田が聞いた事件を丸ごと伏せとる」

 なんのためだ。

「とりあえずやけど、女二人組も湯之谷温泉に泊まったと考えてる」

 可能性は高いな。今治で別れたとなっていたから、道後温泉にでも泊まったと考えていたが、同宿して、しかも女二人組の希望で早朝ツーリングに行ったとする方が妥当そうだ。もちろん男二人組は止めただろうが、なぜ行ったのか。

「聞くしかないな」
「とりあえず広大生みたいや」

 キャンパス・ライフのエントリーもあるからな。ターゲットは絞られたが、広大生ではまだ多すぎる。

「いや手はある。どうもやが、杉田のチャンネル見てるみたいや」
「加藤のはどうなんだ」
「もちろんや」

 さっそくコメントをブログに入れてみた。ほとんどコメントなんて入らないブログだから、すぐブログ主のレスが付いた。何回かやり取りしておいて、会ってみたいのメッセージを入れたら食いついて来てくれた。

「加藤も行くか」
「ここまで噛んでおいて、置いてきぼりはないで」

ツーリング日和(第15話)幻を追って

 謎のバイクの特定だが手がかりが少ない。ビデオを何度も見直したがナンバープレートの文字や数字は読み取れなかった。情けない話だが追い抜かれた後も距離を詰めるなんて無理だったからだ。原付のナンバー・プレートは小さいしな。今日も加藤と一緒だが、

「土小屋テラスでも撮れてへんな」

 土小屋テラスの時はライダーの方を見てたからな。だがナンバー・プレートのデザインに特徴があり、神戸ナンバーであることだけはわかった。

「こっちも一瞬やな。ピントもイマイチや」

 そうはじろじろ見れないだろう。カメラはメットに付けていたからな。あくまでも目を向けた程度にしている。もちろんゆっくりとはいえ走ってるのもある。

「これじゃ、指名手配写真にもならへんぞ」

 オレの記憶には残っているが、この画像では無理があるのはわかる。

「これで探せは無理あるで」

 あれからツーリングの時にも気を付けてはいるが、同じ色のバイクだけではこれまた無理がある。だいたいだが、出会う確率が低すぎる。それと出会ったとしても、石鎚スカイラインの走りをしてくれないとわからない。

「顔だってメット被ってるとわからんしな」

 ではあきらめるかと言われると、あきらめ切れない。あんな化物バイクをもう一度見てみたい。それだけじゃない、出来たら乗ってみたい。もちろん、あれだけの走りを出来る理由を知りたいんだよ。これはライダーとしてはもちろんだが、モト・ジャーナリストとしても興味がありすぎる。

「その気持ちはわかるぞ。ユーチューバーとしてもヒット間違いなしや」

 そこから、あれこれ二人で知恵を絞ったが、加藤は突然、

「杉田。あのバイクを見つける特徴はあるで」

 ほとんどノーマルだぞ、

「いや、あのリア・ボックスはそうはあらへん」

 オレもあまりにもバイクにマッチしていたから見落としていたが、加藤の指摘は鋭いと思った。そうなんだ。リア・ボックスにも塗装がしてある。あのバイクのリア・ボックスに純正オプションはなく、汎用品であれだけマッチしたカラーリングの物はない。

 塗っている者もいるが、自分で塗るか、業者への特注になる。ここら辺は詳しくないが、汎用品のリア・ボックスは塗装が難しいらしく、特注するとかなり費用がかかるらしい。そのせいかカラーリングされているものは少ない。

「それとオイル・クーラーの組み合わせになるともっと珍しいで」

 あのバイクのサード・パーティのパーツにあるが、オイル・クーラーまで付けているのはたしかに少ない。正直なところ付けてもそれほどの効果が期待できる代物じゃないからな。それと趣味にもよるが、オシャレというより武骨な気がする。若い女の子が喜んで付けたくなるようなものじゃない。

「それで目を剥くほどの美人やったんやろ。かなり目立つからインスタとかに上がっているかもしれへんで」

 そうなんだがテキストと違い画像から探し出すのは骨だ。あのバイクは結構なロング・セラーだし、見た目が可愛いからブログなりに写真を上げてるのも多い。

「こりゃ、多いわ」
「ここから見つけ出すのは根性だよな」

 なにかもう少し絞り込まないと、

「神戸ナンバーだからツーリングなのは間違いないやろ。それに石鎚スカイラインで杉田が会った日もわかってる」

 石鎚スカイラインでオレ以外に撮ったのはさすがにいないだろう。だがツーリングだから観光もしているはずだ。それを撮られている可能性もある。そうなると、どこを回ったかになるかだが、実はこれにも謎がある。

 あの二人組が神戸から来たとしたら、やはりフェリーが有力なはずだが、フェリーの到着は六時だ。そうなんだ、あの二人組は六時過ぎには石鎚スカイラインの入り口の大鳥居に着いているはずなのだ。

 そうなると前泊をして石鎚スカイラインを目指した事になるが、道後温泉からでも七十キロ近くある。それもだ国道四九四号は半端な道じゃない。どんなに急いでも一時間半ぐらいはかかるからだ。

「さらに言えば国道四九四号は夜道になるぞ」

 あの日はオレも通ったが、よく通るオレだってあの道を夜に走るのはラクじゃない。街灯どころか人家もないし、道だって狭いところは一車線ギリギリで、クルマとすれ違うのも大変なぐらいだ。それとあのワインディング。


 話はずれるが、神戸から四国に原付が渡るのもお手軽なものじゃない。陸路だけで渡れるのは、しまなみ海道のみだ。後は瀬戸大橋ルートも、淡路ルートも原付は走れない。

 そうなるとフェリーだが、一番近そうな淡路ルートは明石海峡は渡れても、鳴門海峡が渡れない。神戸から徳島に行くには、和歌山港から南海フェリーを使うしかない。

「徳島へは東京からのフェリーもあるのにな」

 皮肉なものでそうなっている。このルートを利用してのツーリングもあり、代表的なのは室戸岬を回って高知に入り、四国カルストを抜けて愛媛に向かうものだ。そこからしまなみ海道を走るのだが、

「尾道から帰るのは地獄みたいなものだろうな」

 原付だから根性はいると思うし、オレも原付ではやりたくない。原付のしまなみ海道ツーリングで良く使われるのはオレンジ・フェリーだ。あれは大阪南港から東予か新居浜に着く。東予からしまなみ海道を走るのも多いが、

「往復するのも多いな」

 尾道から神戸に走りたくない気持ちはわかる。

「高松にも渡れるぞ」

 ジャンボ・フェリーは神戸と高松を結ぶ。これを利用しての讃岐うどんツーリングはある。西に足を延ばしてしまなみ海道にも行ける。

「小豆島経由はさすがにな」

 これは小豆島へのツーリングの応用編みたいなものだ。小豆島へのフェリー航路は多い。代表的なのはオリーブ・ラインだが、高松からだけでなく、岡山からも、姫路からも結んでいる。さらに神戸からジャンボ・フェリーもある。

「そういう目で見ると小豆島はフェリーのハブだな」

 神戸からと考えるとジャンボ・フェリーで小豆島に渡り、そこからオリーブ・ラインで高松に渡るルートが出来ることになる。小豆島と高松をセットで回るのならありかもな。

「原付なら、しまなみ海道を手軽に利用できるところに住んでいないとツーリングは大変だよな」

 その通りだと思う。原付でのしまなみ海道ツーリングは魅力的だ。景色は良いし、料金だって安い。大型バイクであれをやるのは高くつくし魅力では負ける。だが走るのは神戸からでも容易じゃない。

 話の焦点はシンプルで、尾道でどうするだ。走って来るのも大変だし、走って帰るのも同じだ。高速を使わずなるとオレでも嫌だ。だからと言って、フェリーを使うために、しまなみ海道を往復にするかどうかは悩むところになる。


 それはともかく、あの二人組は神戸から来て、早朝に石鎚スカイラインを走っている。土小屋テラスから先はやはりUFOラインのはず。あそこまで来てUFOラインを走らないわけがない。

「UFOラインを下りれば西条だが、素直にオレンジ・フェリーとは言い切れないな」

 あの時刻に土小屋テラスだから、西条には八時に着いてしまう。さらにオレンジ・フェリーの乗船は夜の八時で出航は十時だ。

「高松に回ったか、しまなみ海道を抜けるよな」
「しまなみ海道は走りたいだろうが、帰り道を考えると往復か」

 あの二人組のツーリーング先をあれこれ考えているのは、もし写真に撮られるとしたらバイクを置いて休憩とか、観光をしている間しかないからだ。そうだなキャプションとして、

『こんなバイクを見かけました』

 これでブログなり、FBなり、インスタに上げるパターンだ。

「石鎚スカイラインの前となると・・・」

 あの時刻に石鎚スカイラインに来ようと思えば、久万高原あたりに宿泊したぐらいしか考えられないが、

「それはそれで、そこまでのロング・ツーリングをするかどうかや」

 ありそうなのは高知から四国カルストを抜けて久万高原泊だが、それをやろうと思えば、和歌山から徳島に渡る必要が出てくる。原付だぞ、そこまでやるか。

「地道に調べるしかないな」
「誰か撮っていてくれていることを願うのみだ」

ツーリング日和(第14話)謎のバイク

 オレは小さな頃からバイクが好きで、好きが昂じてレースにも出ている。まあプライベーターだが、それなりの成績ぐらいと思ってもらえば良い。あれは石鎚スカイラインに行った日のことだ。クルマがいない時を狙って早朝に出かけたのだが、

「杉田さん、おはようございます」
「またやってるのか。エエ加減にしておけよ」

 あいつらも懲りないやつらだ。鳥居を潜って、長尾尾根展望台まで走って休憩した。あそこで御来光の滝を見るのが好きでな。また走り出したら下からバイクが上がって来たのだ。

 あいつらかと思ったがバックミラーに移るのは赤と黄色の二台の小型バイクだ。その二台だが、オレを一瞬で追い抜きやがったんだ。さすがにムカッと来て追いかけようとしたが、なんだよアレ。このオレが必死になって追いかけようとしても追いつけないんだよ。

 見た目はリア・キャリアに大きなボックスを付けたツーリング仕様。それだけじゃなく、あのバイクは走りを目指したスポーツ・タイプじゃなく、ニーグリップも出来ないノンビリ走りを楽しむタイプだ。

 乗車姿勢も前かがみになって抵抗を減らすのじゃなく、体を起こして乗るタイプだ。前を走る二人もそんな姿勢でツーリングを楽しんでいるようにしか見えない。だが追い抜くどころか、逆に離されて行ってしまうのだ。

 信じられないのだが、加速が違う。オレがカメだとすれば、あっちはウサギぐらい違う感じだ。ひょっとしてオレのバイクにエンジントラブルが起こっているのじゃないかと思うぐらい違う。

 土小屋テラスで止まったから声をかけようと思ったが、そこにバイクの集団。ややこしい奴らが上がってきた。あいつらまた賭けレースやってやがるのか。関わり合いになりたくなかったから、オレはUFOラインに去って行った。


 走りながら考えていたのはあのバイクだ。あれはノーマルなら一二五CCで十馬力程度のはずだ。エンジンが強化されているとしか考えられないが、少々ボア・アップしたところで普通なら十五馬力が関の山だろう。だが、そんな馬力じゃあれだけの加速は無理だ。

 よほど大きなエンジンに換装しているとしか考えられないが、見た目はノーマルサイズだ。というか、バイク全体に改造している気配すら感じられないんだよ。それに大きなエンジンを積めば、当たり前だがエンジン重量も増える。増えればフレームからの再設計も必要になる。

 これも言うのは簡単だが、作るとなれば半端な手間じゃない。バイクはクルマより、その辺の影響が造りがシンプルな分だけ大きいのだ。だが、あの走りはそんな影響をまったく感じないものだった。

 エンジンと言えば、あんなエンジン音を初めて聞いた気がする。なんだろうあれは、口で説明するのは難しいが、オレが聞き馴染んだ音とはあきらかに異質だ。だがガソリン仕様であるのだけは間違いない。


 オレはレーサーもやっているが、それじゃ食えないから、バイク・ジャーナリストもやっているし、モト・ブロガーとしてユーチューバーもやっている。自分で言うのもなんだが、なかなかの人気でそっちの収入でレースも参加できてると思えば良い。

 またそのためにも業界にも顔が広い。あの日に乗っていたバイクもメーカーから試乗インプレッションを依頼されたものだ。だから走行風景も車載カメラで撮っていて、何度もあの二台の走りを見直した。ライダーの腕は素人だ。あれはやはりバイクが化物だ。

 モト・ブロガー仲間の加藤にも見てもらった。加藤は大阪出身で、オレは東京だ。あれこれあって二人とも愛媛に住んでいる。ビデオを見た加藤だがCGじゃないかと言われたぐらいだ。オレだって知らずに見せられたらそう思うだろう。レース用の特注車の可能性も考えたが、

「ナンバー取ってるから改造車と見る方が妥当やろ」

 それもそうで、見た目は限りなくノーマルに近い。あえて違う点はオイルクーラーが付いているぐらいだ。

「その程度のカスタムはあるもんな」

 他は加藤が目を凝らした末に見つけたもので、前輪のディスクがダブルだ。これはまず見かけない改造だが、あれだけのパワー対策ぐらいしか感想が出なかった。いくつでも疑問が湧いてきたが、

「そこなんよな。そこまでの走りを追及するのに、ベースがどうしてあのバイクなんや」

 あれのノーマル版はオレも試乗したが、一言にすれば楽しいバイクだ。あれだけ小さいのにそれなりに走るし、走るのが楽しくなるバイクぐらいに言えば良いかもしれない。いかにも昔ながらのバイクの印象のスタイルだ。それでいて可愛いぐらいかな。

「それは同じ意見や。たしかに良う出来たバイクやが、走りの能力的にはあれはあれで精いっぱいや。そやからカスタム言うてもドレスアップがメインやもんな」

 パワーアップの改造バイクを市販車から作るなら、ベースには車体に余裕があるのを選ぶ。あのバイクはあれで完成品のようなバイクで余裕がなさすぎるから、選ぶことはまずない。加藤はしばらく考え込んで、

「杉田の言う通り、ライダーの腕は素人や。だが、そのためか、あのバイクの能力の極限で走ってない気がするわ。たとえは悪いが、大昔によくあった初心者のポルシェと軽四の対決みたいな感じや」

 そういう企画は昔からよくある。初心者はポルシェのパワーを持て余してコースアウトやスピンもやったりするが、直線のスピードが話にならず、少し慣れたらプロドライバーの軽四をぶっちぎってしまう。

「あいつらにも聞いたんやろ」

 気になってあの連中に聞いてみたら、これも信じられないような話だった。あのバイクは四人連れのツーリングだったようだ。賭けレースとして一人頭につき五万円を吹っかけているのだが、レース自体は女二人組とあの連中になったようだ。

 結果はあいつらの惨敗だ。だから賭け金を取れずに山を降りようとしたそうだ。ああいう連中の流儀は勝てば取り、負ければ去るぐらいだ。いや、負けても相手によっては因縁を付けたりさえする。

「なんかやらかしたんか」

 鳥居に引き返そうとしたところを呼び止められ、逆に賭け金として一人頭五万円を要求されて呑んでいる。

「そんなアホな。あいつらがそんな要求を受け入れるか! 十人もおってんやろ。それに受け入れたって払えるもんか」

 オレもそう思ったが、

『怖ろしい目で睨みつけられて、ピクリとも動けんようになった。ありゃまさに蛇の前のカエルじゃった。生まれてからあんな怖ろしい目にあったんは初めてじゃ。あそこで逆らうなんてがいに、がいに』

 財布を取り上げられ、ポケットも全部裏返しにされて小銭もすべて巻き上げられた末に、まだ足りないとして、指定された二台を谷に突き落とされる寸前まで行ったそうだ。最後はトイチの証文で許してもらったらしい。

「信じられへんな」

 加藤が信じられないのはわかるが、余程怖かったようで、ションベンちびるどころか、ウンコを漏らしたのもいたそうだ。話を聞いた時点でも、顔に恐怖がありありと浮かぶどころか、途中から震えだし泣きそうになっていた。


 加藤に相談したのは、謎のバイクの正体を知りたいのもあったが、あまりにも突拍子のないビデオだから、これをユーチューブにアップするかどうかの相談もあった。

「やめた方がエエ」

 やっぱりそうか。こういう動画を競って挙げていた時代もあったようだが、今はコンプライアンスがうるさい。理由は誰がどう見てもスピード違反だからだ。下手すればオレも捕まりかねないし、そこまで行かなくとも炎上しかねない。それはわかっていたが、謎のバイクの情報を集めるにはネット情報が必要なんだ。

「バイク仲間のSNSまでやな」

 これもリスクはある。あれこれ話し合ったが保留にはなった。とりあえずモト・ブロガー仲間にも声をかけて情報を集める事にした。

「石鎚の幻やな」
「でも幻じゃない実在する」