怪鳥騒動記:アカネの冒険

    「アカネ、前のワイス化粧品の仕事だけど」
    「なにか問題でも?」
    「ないけど、単純な奴だな」

 なんのこっちゃ。

    「ちょっとぐらい押さえたらどうだ」
    「なにをですか」
    「やりまくって幸せってのをだ」

 なんちゅう言い方。

    「そうじゃなくて、新婚でルンルン気分が出てるだけです」
    「そうは見えん。毎晩燃えまくりのオーラを感じる」
    「気にしすぎですよ」

 結婚ってこんなにイイものだとアカネは心の底から感じてるのはホントのこと。だってさ、家に帰ったら、ちゃんとお風呂も沸いてて、美味しい御飯も出来てて、部屋もピカピカに掃除してあって、洗濯も出来てるんだよ。それで、

    『お帰りなさい』

 こうやって愛するタケシが出迎えてくれるんだものね。食卓にはさりげなく花なんか飾ってあって最高って気分。食事が済んでからも、あれこれ気を使ってくれてさ、

    「あれ食べる」
    「こんなのもあるんだけど」

 それからちょっとお酒も入って、ほろ酔いぐらいになったら、

    「アカネ。寝ようか」

 これをタケシが顔を真っ赤にして言うんだもの。アレも最初はさすがに痛かったよ。みんなが痛い、痛いってあれほど言うから覚悟はしてたけど、やっぱりね。でも、そんな時期は遠い昔。今はルンルン。毎晩待ち遠しくいぐらい。夫婦だから、どんだけ燃えようが文句を言われるスジ肉はないし、

    「違う、それは筋合いだ」

 たくツバサ先生は小うるさい。そりゃ、メルヘンがこれだけあんころ餅してたら、

    「違う、それはメンタルが安定だ」

 イイじゃない、似たようなものじゃないか、

    「全然違うし、なにを取り違えてるかさえわかりにくい」

 そうかな。少しは写真に出ちゃうのは仕方がないじゃない。

    「あれが少しか! 写真から大噴火しているぞ」

 焼かない、焼かない、

    「違う、妬かないだ。燃やしてどうする」

 はて、焼くじゃなかったのか。よくオスが同じなのにわかったな。

    「違う、オスじゃなくて音。それとだな、これだけつき合わされれば、嫌でもわかる」

 そうなんだ。

    「わたしはタケシを尊敬するよ」
    「アカネも愛してます」
    「よく、これで切れないものだ」

 ギャフン。ツバサ先生こそ切れすぎだぞ。それはともかく、

    「メキシコの鳥のニュース見ました?」
    「ああ、見た。でもあれってCGじゃないのか」

 アカネもそう思ってサキ先輩に聞いてみたんだけど、

    『今のCGと実写の区別は難しんいんだけど、これだけのレベルのCGを作るのは大変なんだよ』

 技術的なことは良くわからなかったけど、簡単にはPCであれだけのものを作るのは容易じゃないぐらいかな。

    『そういう意味で実写の可能性が高いと見てる。ただ、あれだけの鳥が実在するかと言われると・・・』

 そう世界中に衝撃を与えた動画に映ってた巨大な鳥。牧場の牛を襲うシーンだけど、いきなり舞い降りて来て、鷲掴みにして飛んでったんだよ。相手は牛だぞ、牛。信じられなかった。

    「ニュースでは御開帳は十メートル近いとか」
    「違う」

 あれ、違ったっけ。

    「御開帳してるのはアカネのあそこだ」

 ツバサ先生が他人のことを言えるか、

    「翼開長と言ってな、翼を広げた時の大きさだ」

 鳥は翼を広げたら全長より大きくなるのが殆どだから、そっちで大きさを示すんだって。しっかし十メートルって言えば恐竜並だ。

    「どうするのでしょう」
    「国際合同調査団が調査中だ」

 それも聞いた。出来たら捕まえたいって。うん、捕まえたら見てみたい。もし生け捕り出来たら鳥かごで飼うんだろうが、どれぐらい大きさが必要なのかな。

    「はははは、あの鳥用の鳥かごか。大阪ドームぐらい、いるんじゃないか」

 かもしれない。

    「しかしホントにいるのなら、突然変態でしょうか」
    「それはアカネだ」

 はぁ?

    「それを言うなら突然変異だ」

 ちょっと間違っただけじゃない。

    「だから珍しくメキシコの仕事なんて受けたんだろう」
    「たまたまですよ」
    「ウソつけ、急にねじ込んだクセに」
 バレたか。えへん、それでも見つけたら撮って来てやる。このアカネ様が撮ったら大ニュースなんてものじゃなくなるかも。そしてメキシコに。でもさすがに遠かった。だって関空から成田に行って、そこからでも十四時間だよ。

 とりあえずホテルに行って、明日からの仕事の打ち合わせ。撮るのは向こうのスターらしいけど、アカネは見たことも聞いた事もない。まあ誰だって構わないけど。どこで撮るのかも向こうのスタッフ任せ。言われたってチンプンカンプンだし。

 チャプルテペック城とか、フリーダ・カーロ美術館とか、ソチミルコとか、ソカロと言われたってわかんないもの。こういう時は連れて行ってもらって、その場で適当に撮る方針にしてる。

    『少しぐらい、調べて行け』

 なんでこんなところまで、ツバサ先生の声が聞こえる気がするんだろう。でも予備知識はあった方がイイかもしんない。

    「ところで撮るのは男ですか、女ですか」

 かなり沈黙されてから、

    「男です」

 これだけ知ってれば楽勝。夕食はその男性芸能人とやらと顔合わせの晩飯。三日間の予定だけど、アカネの関心は鳥だから聞いてみた。

    「メキシコシティーにも鳥は現れますか」
    「さすがにここには」

 ただ鳥の話題はメキシコでもホットみたいで、

    「メキシコで牛と言えばハリス州、ベラクラス州、チアバス州で・・・」

 要はかなり離れてるってことで良さそう。ちょっとガッカリ。

    「そう言えば大きくなってるって話が・・・」
    「とは言うものの目撃証言だけだし・・・」
    「それでも・・・」

 アカネがいるうちにメキシコシティの見物にでも来てくれないかな。翌日はなんとか城に行ったんだけど、なんか出来そこないの中世の城みたいなもの。ただかなり高いところにあるから、見晴らしは抜群。仕事に熱中している時に、メキシコ人スタッフが急に、

    「クェ・エス・エセソ」
    「エス・ウン・アビオン」
    「エソ・エス・ウン・パシャロ」

 なに言ってるか、さっぱりわかんないけど、とにかく指さす方を見上げたら

    「と、鳥だ! 急いで望遠持って来て」

 このためにデッカイ望遠レンズをわざわざ抱えて来たんだ。

    「三脚も早く」
 そりゃ、撮りまくったんだ。しばらく市内の上空を旋回してたんだけど、こっちに飛んできた時はスタッフも悲鳴を上げてた。こりゃ、デカいわ。十メートルどころやないもの。近づいてくれたから鳥の姿もバッチリ。

 そうしてたら、どこかに降りて行くんだ。どうも観光だけが目的じゃなさそう。そしたら再び舞い上がったんだけど、さすがのアカネも驚いた。足に掴んでるのは象じゃない。となるとあの鳥は、どれだけデカいんだ。

 もうメキシコシティーは大騒ぎ。仕事なんてやってられる状態じゃなくなっちゃった。市内にはたぶんパトカーだと思うけど、そこらじゅうを走り回ってる。どうも屋内に避難しなさいの緊急命令が出たみたい。まあ、そんなこと言われても、みんなカメラ抱えて撮ってたみたいだけど。

 ホテルに帰っても同じ。テレビもなに言ってるかわかんないけど、えらい興奮したアナウンサーがしゃべってるし、ホテルの中も落ち着かない感じ。スタッフが日本との連絡を取ろうとしてたけど、

    「回線が混雑しすぎて、電話どころかネットもつながりそうにありません」

 次の日もこれからの仕事をどうしようかと思ったんだけど、朝食中にいきなり、

    「パシェロ」
    「パシェロ・エノルメ」
    「モンストロウ」

 アカネだって鳥がパシェロって覚えたから窓から見たら、

    「いる・・・」
 ビルの谷間から鳥の姿が見えたんだ。市内はパニック状態。鳥は象だって襲うってわかったから、人だって襲うかもしれないじゃない。とにかくこの日は警察だけでなく軍隊まで出て来たよ。

 仕事は完全にお手上げ。向うのスタッフからもそういう申し出があったみたいだし、こっちだってこれじゃ撮るに取れないものね。そうなれば日本に帰るんだけど、

    「アカネ先生、空港が閉鎖されています」

 鳥が飛行機を襲うかどうかは、わかんないけど、なにしろあのサイズだから、ぶつかったら墜落しかねないものね。飛行機が使えないとなると陸路だけど、

    「もう大渋滞で全然動かないそうです」
 完全にホテルに缶詰め状態。空には空軍のジェット機まで飛んでたよ。鳥が現れたばっかりに仕事はパーで、メキシコ観光もゼロ。それでも鳥の出現は二日で終り、二週間後にはなんとか日本に帰れた。


 成田にようやくたどり着いたら、なんか知らないけど報道陣のヤマ、ヤマ、ヤマ。誰か有名人の来日でもあったのかと思ったら、なんとアカネの取材。

    「泉先生、向こうはどうでしたか」
    「鳥は見られましたか」
    「どんな鳥でしたか。撮られましたか」
    「鳥に襲われませんでしたか」
    「鳥の感想は」

 現地にいたけど、情報途絶状態だったんだよ。スペイン語のニュースもなに言ってるかサッパリわからなかったし、ネットも落ちてたもんね。日本ではどうやら、

    『世界的にも有名な写真家、渋茶のアカネこと、泉茜さんがメキシコシティに取り残された』

 渋茶は余計だけど、こんな感じだったみたい。日本でもメキシコシティの鳥騒動は連日の大ニュースだったみたいで、この報道陣になったで良さそう。もみくちゃにされてる時に、

    「アカネ、倒れろ」

 やっぱり疲れてるのかな。ツバサ先生の声が聞こえる気がする。

    「いいからここで倒れろ。後はなんとかする」

 ふと見るとツバサ先生が、

    「アカネは喋らない方が良い」

 なるほどって思って、バッタリと。そこから騒ぎはさらに大きくなって救急車まで登場。都内の病院に御入院。ツバサ先生が報道陣の矢面に立って、

    「泉茜は極度の緊張による心労で休養が必要です」

 こう言って追っ払ってくれた。数日後に羽田に手配されてた例のプライベート・ジェットで神戸に一直線。機内で、

    「アカネ、よく食われなかったな」
    「アカネじゃ、あの鳥にしたらメザシぐらいです」
    「炙ったメザシは旨いぞ」
 生きて帰れて良かった。

怪鳥騒動記:四座の女神の恋

 交際は順調。釘付けもしたいけど、やっぱりここはステップも大事よね。

    「シノブちゃん、そやで。真の恋愛の楽しみは積み上げていくステップにあるんよ。そりゃ、やるのは楽しいけど、それだけが目的やないからな」
    「そうよ、やるのは結婚したら好きなだけ出来るんだし、積み上げた末についに結ばれるプロセスがロマンチックなのよ」

 よく言うよ。デートから帰る度に、

    「まだか、まだか」
 そりゃ、もう聞きまくって煽るんだよ。それにだよ、二人とも本当に女神の男にしたい相手には、どれだけ時間をかけることか。ユッキー社長なんて未だに初夜にロスト・バージンが夢みたいなところが確実にあるもの。もっとも割り切って男遊びもするのは置いとく。五千年も女やってるから、さすがにそこまで単純じゃない。


 さてなんだけど四女神の関係はユッキー社長とコトリ先輩が血の絆で結ばれた盟友であり、戦友であり、親友なのはわかりやすい。口ではあれこれ言うけど、二人が無条件に信用しているのはお互いだけなのはよくわかるもの。

 それに較べてシノブやミサキちゃんはちょっと違う。前にミサキちゃんも言ってたけど、元は次座の女神から別れたのだから、コトリ先輩とは親子関係に近いものがどこかにある。もちろんコトリ先輩が母親面なんて間違ってもやらないけど、どこか娘を見る目があるのよね。

 じゃあ、ユッキー社長はどうかというと、優しい伯母さんの感じがあるのよね。そう、親子でもないし姉妹でもない。と言って他人でもない。ミサキちゃんに言わせると、

    「お二人はアラッタの主女神が作り出された姉妹と見て良い気がします」

 記憶の始まりが大神官の娘と、そこに買われてた女奴隷だから、お二人の仲に姉妹意識なんてどこにもないだろうけど、シノブから見ればミサキちゃんの見方は合ってる気がする。この辺はシノブとミサキちゃんが次座の女神から作り出されてるけど姉妹意識がないから似たようなものかも。

    「でも伊集院さんとの時はコトリもユッキーもビックリしたんや」
    「四座の女神の失恋なんて無かったんじゃない」
 もちろんシノブにだって失恋の経験はあるけど、ほとんどは女神になる前の人時代の結崎忍の時。人時代の結崎忍はどこにでもいる、とくに目立つこともない普通の女の子。人並みに恋をして、人並みに付き合って、人並みに失恋経験もある。

 微妙なのはツトムの時。ツトムとは人時代に付きあいが始まって、プロポーズを期待するところまで進んでいたのは認めるよ。ツトムとの仲が壊れちゃったのはシノブが女神になってから。

 ユッキー社長がシノブに女神を移す時のミスで、山本先生に異様なぐらいに魅かれちゃったのよね。そのお蔭でツトムへの思いが冷え切っちゃたんだ。あれも失恋だけど、振ったのはシノブだものね。

 シノブが女神になって最初の恋はやっぱりミツルだよ。コトリ先輩からの紹介だったけど、山本先生への思いがまだあったのに、それさえすっかり洗い流してくれるぐらい夢中になってゴールインだものね。ミツルの最後は可哀想だったけど、それでも愛し抜いていたと胸を張って言えるもの。

    「まあな、四座の女神の恋はとにかくストレート。好きとなったら脇目も振らず一直線や。相手の男に脇目を使わせる余裕もない感じかな」
    「そうだった、そうだった。後だしジャンケンみたいだけど、伊集院さんの時の恋の様子はちょっと違和感があったのよ。四座の女神の恋にしたら、なんか回りくどいって」
    「まあ、四座の女神の恋って言っても、記憶の継承が一旦リセットされてるから、少し変わったぐらいにしか、あん時は思わんかったけど、今から思たら、どこか調子が変やったよ」

 愛梨にはデュエロで勝ったけど、結局譲っちゃったものね。あれだけ奪い返してやるって燃えてたのに、愛梨の気持ちを知ったら醒めちゃった気がする。

    「こんなん慰めにならんと思うけど、伊集院さんはシノブちゃんの男に相応しい器量はあったかもしれへん。そやけど、赤い糸はつながってなかったんやろ。それをどこかで薄々感じてたんかもしれへんで」
    「わたしもそんな気がする。だから今度の平山博士の話を聞いてると、今度は間違いないと思ってるよ」

 伊集院さんに失恋した時には、シノブは終ったと思ったし、女神を取り上げられてもイイと思ったけど、今となったらそこまでじゃないものね。そうなると今度こそ運命の男だよ。

    「まだ会ったことあらへんけど、コトリもそんな気がするで。そやからだいじょうやと思うで」
    「私もそう思うよ。そりゃ、驚くだろうけど、シノブちゃんが本気で欲しいなら、最後は気にもならないよ」

 そうシノブにとって最後の難関。シノブが女神であることを知ってもらうこと。これは現代の女神にとって初めてのものでイイと思う。だってさ、ユッキー社長もコトリ先輩もずっと売れ残りだし。

    「そこまでいうか」
    「わたしはジュシュルに売却済って言ったでしょ。コトリと一緒にしないで。カズ坊とだって籍こそ入れなかったけど心の夫婦だったのよ」

 ミツルの時は女神になってたけど、付き合い始めた時はまだ女神の自覚がなかったし、二人でコトリ先輩の天使を追っかけてたものね。だからシノブが四座の女神とわかった時にも予備知識がしっかりあったから、

    『やっぱりそうか』
 これぐらいで、それほどの驚きとか関門の感じはなかったもんね。せいぜい天使と思っていたシノブが実は女神だったぐらいかな。

 ミサキちゃんの場合も似てるのよね。マルコはエレギオンの金銀細工師だから、ユッキー社長とコトリ先輩を除けば古代エレギオンの知識は世界でも指折りぐらいあったんだよ。ミサキちゃんは山本先生のマンションに行く前に打ち明けたそうだけど、これもすんなり受け入れてもらったと聞いたことがあるんだ。

 ディスカルに至っては、最初から地球の神と紹介されてから交際が始まってるから、そもそも何の障害もないものね。

 シオリさんと山本先生は、最後まで伝えなかったんだよね。その辺はシオリさんが女神であることを知らされても、記憶を受け継がないタイプだったので、女神であることにあんまり関心がなかったのもあったで良さそう。

 星野君の時は、まず星野君が八十歳の加納志織に恋して、加納志織が亡くなった後に現れた麻吹つばさがシオリさんであることを突き止めて、再び恋をしたぐらいだものね。これまた問題になる余地は無し。


 今回のシノブは今までの例とは違うのよね。マモルはシノブをエレギオンHDの専務であるのは受け入れているけど、シノブが女神であることは一切知らないし、マモルがエレギオンの女神にさして興味がある訳じゃないんだよね。

 シオリさんと山本先生の時のように知らせずに結ばれるのもあるけど、その時とは状況が違いすぎると思うんだ。やっぱり女神の実在を知って、受け入れてもらわないといけないんだよ。シノブが言ってもイイんだけど相談すると、

    「いつでも連れといで。コトリとユッキーがあんじょうやったる」

 二人は悪戯も大好きだけど、やらなければならない時はキッチリやってくれるものね。少なくとも座興で他人の恋を潰したりしないはず。

    「あのなぁ、シノブちゃん。女神にとって恋は楽しみであり、生きがいであり、何者にも代えがたい大事な、大事な至上のものなんや。座興で潰したりするかい」
    「そうよ、平山博士が来られた時には女神の仕事としてやるわよ」

 ここは首座と次座の女神に頼ろう。なんてったって、人生経験も、恋愛経験も、そういう厄介な修羅場の経験も桁違い。この二人が女神の仕事として取り組んで失敗するとは思えないもの、

    「シノブちゃんの言う通り、これからの女神の恋のためには必ず通らなければならない関門になるわ」
    「そうや。この関門を不幸の関門なんかにするものか。知恵の女神の本領を期待しといて」
 マモル、頑張って受け入れてね。シノブは確かに女神で普通の人とはちょっとだけ違ったところはあるけど、体は間違いなく人だし、心だってそう。子どもだってちゃんと出来るのはミツルが証明してくれてる。その日はきっと近いはず。その時には、その時には・・・

怪鳥騒動記:売れ残りの会

    「シノブちゃん、それって公私混同やで」
    「そうよ、仕事相手を口説き落とすってなによ」

 でも目が笑ってる。

    「ユッキー社長、コトリ先輩。エラそうに仰られますが、柴川教授を口説いた時は公私混同じゃなかったのですか」
    「あっ、それは・・・」
    「あの時は、つい・・・」

 なにが『つい』よ。二人してポーズ取って誘惑したのは知ってるんだから。

    「それはさておきでやな」

 さておきで逃げるな、

    「告白したん」
    「もちろん」
    「チューは」
    「もちろん」
    「やったん」
    「もうすぐの予定」

 さすがにあの夜にベッドはね。やっても良かったけど、そっちぐらいはマモルに誘って欲しいじゃない。

    「逃がしたらアカンで」
    「そうよ、バッチリ釘づけしときなさい」

 釘付けしたって逃げられるときは逃げられるけど、今度はトットとガッチリやるつもり。白い糊でも赤い印でもなんでも来いだ。

    「シノブちゃんも今年で三十一歳になるから、エエ相手やと思うで。相手もそんなシチュエーションやったら真剣やろ」
    「アカネさんが今年だから、シノブちゃんは来年ぐらいかな」

 式となればそれぐらいかかるものね。

    「釘づけする時に乱れ過ぎんようにな」
    「そうね、シノブちゃんは集中しすぎるから、いきなり全開になりそうだし」

 そこは注意しておかないと。

    「これで売れ残りの会もコトリとユッキーだけになってまうな」
    「わたしは入っていないわよ」
    「なに言うてるねん。もう七十九やんか」
    「だから売れ残ってないって。ちゃんと売却済みよ」

 売却済みって影も形もないじゃない。

    「誰やねん相手は?」
    「ジュシュル」

 ジュシュルは十二年前に訪れたエラン宇宙船の船長であり、エランの総統。

    「ジュシュルも八年前に亡くなってもたやないか」
 ジュシュルは地球から人類滅亡兵器対策のためと大量の血液製剤と、浦島夫妻を連れて帰ることに成功したんだけど、母星では副総統のザムグが裏切り、ジュシュルはエランに帰った直後から戦乱に引き込まれちゃったんだ。

 一年の苦しいゲリラ戦を戦い抜いたものの、頽勢の挽回は困難と判断し、地球から預かった浦島夫妻を地球に送り届ける最後の作戦を展開してる。

    「あの時にディスカルの乗った宇宙船を援護するためにアダブが亡くなったのは間違いないよ。これはディスカルも見ていたもの」
    「そんなん言うけど、ジュシュルは二十倍ぐらいのザムグ軍に完全包囲されたんやで」
    「でもジュシュルの死を見た者は地球にいないわ」

 最後の作戦はジュシュルが囮になってザムグ軍の主力を引きつけ、それで手薄になった宇宙船基地をディスカルとアダブが別働隊を率いて襲撃する作戦。

    「コトリ、ジュシュルは首座の女神が認めた漢よ」
    「それは知ってるけど、気合で兵力差は覆せんで」

 ユッキー社長はまるで遥か彼方のエランを見るように、

    「ジュシュルは決してあきらめる男じゃない。どれだけの苦境に立っても、最後まで希望を燃やし続けられる男だわ」
    「どんなに立派な男でも矢に刺されば死ぬし、切り殺されれば死ぬ。どれだけそれを見て来た思てるねん」

 古代エレギオン時代の女神の男たちは高潔で勇敢。それこそ男の中の漢だったのは叙事詩にも謳われてるし、シノブも何度か聞かされたことがある。

    「イッサや、リュースやって魔王の前では無力やってんや。バドだって・・・」
    「コトリ、バドの話はやめましょう。コトリの言う通り、最後の作戦でジュシュルが勝つことはありえない。最後の作戦で生き残った将兵がいるかどうかも疑問だわ」
    「だったら」
    「だからジュシュルは英雄なのよ!」

 ユッキー社長の顔が紅潮してる。

    「ジュシュルは最後の賭けを行ったはず。それにさえ勝てればザムグを倒せる」

 どういうこと。部隊が全滅したら倒せるはずないじゃない、

    「ジュシュルだって、そこまで苦労を伴にした将兵を死に追いやるのは心苦しかったと思うわ。でも、あれ以上、戦力が減ると浦島たちを地球に送り返せないと判断したでイイと思う」
    「ユッキー、まさか」
    「そうよ。極限状態にジュシュルは自分を追い込んだのよ」

 コトリ先輩は気づいたみたいだけど、どういうこと。

    「シノブちゃん、地球の神がどうして自力で宿主移動できるようになったかなのよ」

 これはミサキちゃんに聞いたことがある。浦島夫妻が宇宙船の故障で地球に取り残された時に、最初の頃は意識移動装置で命をつないでたって。だけどそれもついに動かなくなり絶望の中に放り込まれたんだって。そりゃ、そうだろう。そして絶望の中で悶え苦しんだ末に自力で宿主移動が出来るようになったらしい。

    「じゃあ、ジュシュルはあえて完全なる死地に向かったとか」
    「それ以前にも試していたはずなんだ。でも出来なかったでイイと思う。ジュシュルはそれぐらいでは足りないと考えたんだと思ってる」

 最後の作戦にそんな意図が込められていたなんて。

    「仮にジュシュルが自力での意識移動が可能になったとして、ザムグに勝てるのでしょうか」
    「ジュシュルはかなり強かったよ。浦島たちさえ上回るぐらい。さらにだよ、エランへの宇宙旅行の二年もさらにプラスされてる。エランから離れたことがないザムグが勝てるわけないよ」

 でもたとえジュシュルがザムグを倒したとしても地球に来れる宇宙船がないはず。

    「もうエランにあれだけの宇宙船を作れる力は残っていないとディスカルは言ったわ。その言葉にウソはないと思うよ。でもね、作らないとエランは滅ぶのよ。ジュシュルなら必ず作り地球に来るわ」

 ここでコトリ先輩が、

    「ジュシュルなら出来るかもしれん。意識移動も宇宙船建造も。あれだけの男はそうはおらんからな」

 これもミサキちゃんに聞いたんだけど、ユッキー社長はジュシュルが地球人をエランに連れて帰ろうとしているのを察知し、これを阻止するために怖い顔と睨みまで使ったそうなのよ。怖いたって半端なものじゃなくて、ミサキちゃんでも震え上がったって言ってた。でもジュシュルはその怖い怖い顔と怖ろしい睨みを昂然と睨み返し、

    『社長は強い。それはわかったが、エランの総統として、どうしても地球人を連れて帰らなければならない。これがエランに残された最後のチャンスなのだ』

 それこそ部屋中がビリビリするような物凄い気迫で言い放ったって。その姿にミサキちゃんも痺れまくたって言ってた。聞いただけのシノブもそうだもの。

    「とりあえずユッキーは売れ残りの会から除名や」
    「ありがとう」
    「百年ぐらい待つ気か」
    「二百年は待ちたいな」
 ユッキー社長が一途なのはコトリ先輩から何度も聞かされたけど、ここまで一途なんだ。たしかにユッキー社長の思い通りに事が進めば、再びジュシュルは地球に、いやこの神戸に戻って来るはず。

 でもかぼそ過ぎる希望なのよね。それでも希望があれば、そしてそれが愛する男であればいつまでも待ち続けるんだ。これこそ首座の女神の恋かもしれない。

怪鳥騒動記:突撃

 今夜も平山先生と。もう三回目。そして今から入るのは、

    『カランカラン』
 行きつけのバー。ちなみに二人でディナーを食べてから、バーに来たコース。最初の二回はお昼ご飯だったけど、三回目で夕食まで漕ぎ着けた。エヘヘヘ、順調、順調、とりあえず、そういう仲になってる。だから鳥以外の話しもいっぱいしてるんだ。

 平山博士の名前は守っていうんだよ。卒業は港都大。港都大は鳥類研究も強くて、花鳥センターもその一環みたいなところで良さそう。今回、合同調査隊に加わらなかったのは、カネもなかったけど、日本で送られて来た情報の分析主任みたいな役割を任せられたと見ても良いと見てる。

 それとね、タダの学者バカじゃなくて、学生時代はアメフトやってたんだ。それもQBで、関西の二部だけどベストQBに選ばれたことがあるぐらい。

    「翌年は一部に上がったんだけど、全敗。関学や立命戦なんてエライ目に遭ったよ」
 でもね、でもね、スポーツマンらしく爽やか。背も高くて、顔もかなりのイケメンでシノブ好み。なんかラガーマンだったミツルを思い出しちゃった。ミツルもスタンド・オフだったものね。

 もう間違いない、シノブは平山博士に惚れてる。恋してるし、愛してる。はっきり言うと夢中。早く次の段階に進みたいけど、大事な点は確認しとかないと。まずは独身で未婚。バツイチだってかまわないけど、とにかく奥さんはいない。さすがに不倫愛で泥沼の略奪愛までやりたくない。後は付き合っている彼女がいるかどうか。

    「これでも学生の時は、もててたんだよ」

 だろうな。これで彼女の一人も出来てなかったらウソだもの。

    「どうも卒業してから、誰も振り向いてくれなくなって・・・」
 平山博士が鳥類学の俊英なのはウソでもなんでもないんだけど、そのために卒業後は研究に打ち込んだで良さそう。それぐらいしないと学者として生きていけないし、それだけ打ちこんだから山科教授に目を懸けられてるのだけど、冗談抜きで女どころじゃなかったのは信じよう。

 でも、ここは肝心な点だから念を入れて聞いたんだ。そりゃ、伊集院さんを愛梨にさらわれたのはシノブにもトラウマだもの。彼女じゃなくとも、密かにあこがれ続けてるとか、親し過ぎる女友だちとか。

    「いないよ、いれば夢前さんとこんなところに来ないよ」

 いいや、伊集院さんは来てた。

    「夢前さんも疑い深いな」
    「そういうけど・・・」

 思い切って言っちゃった。伊集院さんとのこと、

    「えっ、伊集院さんって、あの伊集院教授のこと・・・堅物で有名な伊集院教授がウルトラ美人でお金持ち御令嬢の神崎さんをゲットしたのは驚いたけど、夢前さんが競り合っていたなんて」
    「負けちゃったけど」
    「ならボクはラッキーかも。そこで夢前さんが勝ってたら、こうやって一緒にご飯なんて食べられなかったろうし」

 そうとは言えるけど、

    「私が勝ってたら、隣は神崎さんだったかもしれないじゃありませんか」
    「いや、ボクだったら夢前さんの方が百倍イイよ。伊集院教授の趣味は変わってるよ。神崎さんは美人だけど近寄りがたくて。家でもあんな感じなのかなぁ」
 あははは、そうだよね。それは今だって変わらない。冷たいぐらいの近寄りがたい雰囲気があるものね。あの愛梨が実は純情ツンデレの極致で、家では旦那ラブに熱中しまくってるって聞いたら驚くだろうな。

 愛梨が結婚して、もう一年になるけど、あの異常なほどの旦那ラブは衰える様子すらないんだものね。ちょっと前だっていきなり電話がかかってきて、

    『愛梨は取り返しの付かない過ちをしてしまった』
 もう半狂乱の泣き声で、かけてきたのは実家からだった。何をやらかしかたと思ったら、旦那のシャンプーを切らしてんだってさ。だから伊集院さんは愛梨のシャンプー使ったみたいだけど、それを聞かされた愛梨はいきなり家を飛び出して実家に帰っちゃったんだ。

 これを伊集院さんが愛梨の実家まで迎えに行って、泣きじゃくる愛梨を連れて帰るのに一騒動。シノブまで結局付きあわされたものね。それだけ旦那ラブするのは悪いこととは言わないけど、あの相手は半端なことじゃ出来ないよ。


 愛梨の事はともかく、シノブは平山博士の言葉を信じる。平山博士は伊集院さんに負けないぐらい、いや伊集院さんよりもっと素敵だよ。二十代で結婚出来なかったのは悔しかったけど、待っただけの甲斐がある男だ。

    「その言葉、信じてイイよね」
    「もちろんさ」

 これで気持ちは確認できたよね。ここで平山博士の告白を待つのもあるけど、今回は待たない。待って失敗したのを忘れるものか。

    「でしたら、どうか付きあって下さい」
    「えっ、このボクと」

 伊集院さんの時は待ちすぎた。待ちすぎて逃がしちゃった後悔は今もあるんだ。だから、一目散に突撃する。

    「夢前さんは専務、それもエレギオンHDの専務。それに較べてボクは花鳥センターの研究員」
    「それがなにか。平山博士は男、私は女。それ以外になにかありますか。私は博士の好みではありませんか」

 これが女神の口説き文句。世の中、どうしても釣り合いを考えちゃうじゃない。でもね、でもね、エレギオンHDの専務になっちゃってるから、釣り合いなんか言いだしたら相手がいなくなっちゃうじゃない。平山博士はしばらく考えてから、

    「なんか夢見てるみたいだけど、ボクでイイのかい」
    「申し込んだのは私です」

 その夜からマモルって呼べるようになったし、

    「じゃあ、ボクはハルカって呼んでイイのかな。なんか照れくさいけど」
    「ハルカはやめて」
    「じゃあ、夢前さん」

 もうシノブは決めてる。

    「シノブって呼んで」
    「どうしてハルカじゃなくて、シノブなんだ」
    「お願い、理由はそのうち話すから。でも私のことをシノブって呼ぶのは特別の意味があるぐらいに思ってくれたら嬉しい」
 そうハルカじゃなくて、シノブと呼んでくれる男になって欲しいんだ。その夜の帰りに熱い口づけももらった。マモルには言ってないけど、夢前遥のファースト・キスだよ。今度は逃がさない、今度こそシノブの運命の男。

 伊集院さんの時にはエレギオンHDの専務だったことを伏せたのも結果として失敗だったと思ってる。今回は始まりが始まりだったから、そこは問題にならなかったのはラッキー。最後の難関を二人で突破しよう。運命の男ならきっと出来るはず。

怪鳥騒動記:平山博士

 シノブは最高情報責任者(CIO)で率いてるのは戦略情報本部。これはクレイエール時代の情報戦略本部を引き継いで発展拡大したもの。ユッキー社長も非常に重視されてて、

    『情報を制する者は世界を制す』

 クレイエール社長に就任してからずっと力を入れてられて、エレギオン・グループが発展するのと比例して充実して、今や世界中にネットワークを張り巡らせた一大組織ってところ。CIA並とか噂されることもあるけど、それはちょっと大げさ。もっともコトリ先輩に言わせると、

    『そう思われるだけでも情報戦は有利に立てるんや』
 戦略情報本部の活動は多岐に渡るのだけど、エレギオンHDの中では調査部と呼ばれてる。調査部も本来は本部の下のセクションの一つだけど、どうしてもここの活動が目立つからね。

 メキシコの怪鳥の情報も通常の情報活動の一環として入るのだけど、ユッキー社長の指示もあったから、重点項目に格上げして調べさせてる。とは言うものの、今のところはメキシコにあるエレギオン・グループの系列会社から上げてもらってるものが主体だけどね。

 やはり怪鳥の画像や映像は合成やCGによるニセモノが多いというか、溢れてるみたいで良さそう。いくつか『決定的』とされたものがニセモノとされて、怪鳥騒動が終りそうになった時期もあったんだけど、それでも新たな目撃情報や被害情報が出て来るんだ。

 エレギオン・グループの社員でも目撃したり、不鮮明な画像や映像を撮ったりしたのも出てる。ここまで来ると、メキシコの怪鳥は実在している可能性が高いと見て良いかもしんない。

    「アメリカが出てきたやん」
 コトリ先輩が嬉しそうに言ってたけど、アメリカだけでなく他の国々も参加した国際合同調査隊が結成されて調査活動が始まったんだ、日本からも山科教授のチームが参加してる。

 これでシノブの仕事がちょっとラクになった。エレギオン調査部と言えども、怪鳥調査チームを送り込むのは大変だからね。今は国際合同調査隊の集めた情報をハックするのに専念してる。

 国際合同調査隊は現地の目撃情報や、新たに集められた画像や、映像の分析を進めるのと同時に現地調査を行ってるんだ。その情報を見る限り、やはり鳥は実在しているで良さそう。後は決定的な画像とか映像が欲しいのと、国際合同調査隊では捕獲も検討されてるみたい。


 シノブは専門家の話を聞きに行ったんだ。行ったのは山科教授の愛弟子と言われている平山博士。とにかく山科門下の俊英として有名みたいで三十五歳。ただね、メキシコの怪鳥騒ぎ以来、マスコミの取材が多くてウンザリしてたみたい。

 まあ、マスコミ取材って聞くだけ聞かれて、時間は取られるわ、ゼニにはならないわ、言った事と違った記事にされるわで、仕事の邪魔にしかならないものね。そのクセ、エラそうで厚かましい。

 そのせいかシノブが訪れた時も胡散臭そうな顔してたのは良く覚えてる。とりあえず挨拶して、名刺を渡したんだけど、

    「エレギオンHDが何の用事ですか?」

 ぶっきら棒に言われたもの。まあマスコミ以上に関係ないと言えば、関係ないところだもの。だから初対面の第一印象は良くなかったんだけど、

    「鳥の話を教えて頂きたくて」
    「鳥ねぇ・・・」

 そこから名刺とシノブの顔を何度も見比べるのよね。

    「なにか顔に付いてますか」
    「いや、その専務さんなんですか」
    「ええ、そうなってますが」

 肩書で態度が変わるタイプの人かと思ってたら、感極まったような表情で、

    「これは世界一美しい専務さんだ」

 これを大真面目に言うんだよ。さらにだよ、

    「こんなに美しい専務さんが存在するのは犯罪的だ。世の中、絶対間違ってる」
    「専務が綺麗だったらおかしいのですか」

 そしたら、ちょっと困った顔して、

    「その通りだ! こんな美人がボクの目の前に現れるのが間違ってる」

 あんまり大真面目だから、シノブもこらえきれずに笑っちゃったら、平山博士も大笑いになって、そこから親しくなった感じ。平山博士も合同調査隊に参加したかったみたいだけど、

    「あははは、カネがなくて」

 学者は貧乏だもんね。

    「若手の俊英ってのも堪忍して下さい。実態はほら」

 大学の研究室にいても食べられないから花鳥センターに勤務してるとか。ここは鳥に重点を置いた動物園ぐらいのもので、平山博士はそこの主任研究員ぐらいの肩書。実態的には飼育員も兼務してられるで良さそう。

    「・・・ボクのところにも山科教授経由で情報が送られるのだけど、メキシコの怪鳥は実在してると見て良さそうだ」
    「あんな大きな鳥がですが」
    「そうなんだけど、現地の情報ではさらに大きいのじゃないかとも見られてる」

 五メートルより、さらに大きいってことなの。

    「そんな大きな鳥が飛べるのですか」
    「現実に飛んでいるのは間違いない」
    「翼竜の生き残りとか」

 ここで平山博士はニッコリ笑って、

    「そういう説は学者の間でもある。中世の龍は翼竜の生き残りであったと考える人もいるし、中世に生き残っていたら、現在のメキシコの出現する可能性もゼロじゃないからね」
    「まさか! 平山博士もそう考えてるとか」

 平山博士は楽しそうに、

    「ボクは違うと見てる。たしかに翼竜ならサイズとして合うが、翼竜の飛行能力はさして高いとは考えられない。とくにだ、大型の犬を掴んで飛び去るのは不可能として良い」

 さらに付け加えて、現在の画像情報からして明らかに現在の鳥類の特徴を備えており、翼竜と見るのは無理があるとしてる。

    「でも鳥であっても、あれほどのサイズとなると飛ぶのも大変では」
    「そうなんだよ。現在の最大のワタリアホウドリでも翼開長で三メートル強ぐらいだ。大きくなれば飛行に必要な筋肉も重くなり、飛ぶのが難しくなる」

 それなのにメキシコの怪鳥は高度な飛行能力を持っていそうだものね。

    「そんな鳥は古代も含めていないのでは」

 悪戯っぽく笑った平山博士は、

    「ラルゲユウスを主張する学者もいるよ」

 古代鳥の一種で、かつてその存在が学会でも議論になったものだって。ほんの少ししか化石がなく、それが独立した種なのかも問題となり、当時の有ある名な古生物学者が主張した、

    『翼開長は最大で十メートルに達する可能性がある』

 これについても大激論が巻き起こったとか。現在は他の化石が入り混じったニセモノぐらいの評価かな。

    「ところで、さらに大きくなったとは、どれぐらいですか」
    「うん、七メートル以上の情報もあるそうだ」
    「それって、プテラノドン・クラス。翼竜も含めて過去最大級ですね」

 平山博士はニコニコと笑いながら、

    「プテラノドンは有名だけど、過去最大級ならケツァールコアトルスがいる。あれには翼開長十八メートル説があるぐらいで、ミネソタ州にはその説に基づいた展示を行っている博物館もあるよ」
    「そんなに大きいのが・・・」
    「もっとも発見されてるのは十二メートルクラスになり、体長はキリンぐらいになる」

 こんな話を教えてもらったんだけど、これで終わるのはなんだか惜しい気がしたんだよ。そう、これで終わったら絶対に後悔するって強い思い。シノブの中で確実に何かが反応してる。

    「もし御迷惑じゃなかったら、これからも鳥の話を聞かせてもらえれば嬉しいです」
    「えっ、次もあるのですか」

 ダメかと一瞬思ったんだけど、

    「ではボクからの提案ですが、こんなむさくるしいところじゃなくて、他のところでお話するってのはどうですか」

 この時に平山博士の顔を見たらガチガチ。平山博士もシノブに何か感じてくれてるんだ。

    「それは願ってもないことです」

 そこから平山博士はモジモジしながら、

    「これは先に断わっておくけど、エレギオンの専務さんを満足させるような店は無理だよ」
    「かまいませんよ。松屋の牛丼でも喜んで」
    「それはひどいな。いくら貧乏でも、もうちょっと期待してよ」
    「じゃあ、サイゼリア」
    「もうちょっと頑張る」
    「御心配なく交際費でなんとかなります」
    「さすがは専務さんだ」
 そうして定期的に会うようになったんだ。