ツーリング日和19(第35話)帰り道

「今日はどうするの」

 とりあえず天橋立ビューランドに行こう。

「こっちはケーブルカーじゃなくてモノレールなのか」

 こっちにも股のぞき台があるぞ。

「コウキはやっぱり体が硬いよ」

 面目ない。傘松公園は天橋立を北西側から見下ろしているけど、ビューランドは南東側から見る感じだな。

「それに天橋立の東側の浜も見えるよね」

 これだけ見れば天橋立観光も十分だろう。でもって帰ろう。来た道を引き返しながら、

「♪帰り道は遠かった、来た時よりも遠かっただねぇ」

 そういうこと。来る時はテンションが上がるけど、帰る時は下がるもの。余裕をもたせないと事故るもの。

「あら、チサのテンションは上がりっぱなしよ」

 ボクだってバツイチだし、元嫁以外にも少ないけど経験もある。チサなんて・・・それは言うまい。要は初心な童貞じゃないし、処女でもない。だけど肌を合わせるってこれだけ関係が変わるのにちょっと驚いてる。

「そらそうよ。女と男が肌を合わせたら変わらない方がおかしいでしょ。それぐらい肌を合わせるって大きなことだよ」

 その通りだけど、

「とくに女はそうかも。肌を合わせるって、単に合わせてるだけじゃなくて、女からしたら受け入れるになるのよね。受け入れるたって、あんなのが入って来るんだよ。半端な覚悟じゃ出来ないよ」

 入れる方の男にはワクワク感しかないようなものだけど、入れられる方の女は違いそうなのはなんとなくわかるけど、

「全然違うって。いくら経験を積んでも入れられるのはどこか怖いのよ。とくに初めての男ならそうよ。そもそもだけど、スタートからトンデモ世界じゃない」

 トンデモ?

「そうじゃない。すべて脱がなきゃならないよ。それも脱ぐだけじゃなくて全部見せなきゃならいじゃない。隠すどころか、進んで見せなきゃいけないでしょ」

 たしかにそうだ。

「そこからだって驚異の世界みたいなもの。服の上からでもオッパイやお尻をジロジロ見たらセクハラって言われるでしょ。ましてや口に出そうものなら軽蔑されるだけのところじゃないの。それなのに、オッパイやお尻どころか、あそこだって好き放題にさせなきゃならないのよ」

 そ、そうだよな。

「さらにだよ、そうされて感じて反応した姿も見られてしまうのよ。勃ってしまった乳首だとか、濡れてしまったあそこをだよ。喘ぎ声だって聞かれてしまうし、それを出すまいとして耐える姿だってそう。それを見られたり、感づかれてしまうのがどれだけ恥ずかしいかわかる?」

 男も反応した姿を見られるのが恥ずかしい時があるけど、そんなレベルじゃないのだろうな。

「そこから入れられるじゃない。それも入れやすいように足を開かされるけど、あれだって抵抗することさえ許されないじゃない。それどころか、入れてもらうのに協力まで求められるでしょ」

 それをするためにやる行為ではあるけど、女からすればそういう見方になるのもわからないでもない。

「入れられたってそれで終わりじゃないでしょ。そこから男が満足して果てるまで続くじゃない」

 具体的に順を追って説明されるとそうなるな。

「初体験だとか、まだ経験が浅かったからそこまでだけど、男に感じたら果てさせられるじゃない。そんな姿も全部見られちゃうのよ」

 たしかに。そんなにチサも嫌だったのか。

「そうじゃなくて、それぐらい覚悟を決めて女は肌を許すってこと。そうすること、そうされること、そうなってしまう姿をすべて知られ、気づかれ、見られる覚悟をね。こんなもの誰にでもホイホイ見せたいと思う?」

 それはないのはわかる。

「肌を許すって知られるって意味でもあるのよ。すべてを知られた男に特別な感情を抱くのは当たり前じゃないの」

 秘密の共有みたいな感覚か。

「当たらずといえども遠からずぐらいかな。その中でも別格なのが最後ね。あれをどう受けるかの覚悟もいるの。この歳でも妊娠のリスクはあるからね」

 避妊対策は必要だよな。チサは不妊症だからゴムも使わなかったけど、

「本当に欲しいのは生よ。生で受け止めてこそ意味がある」

 チサはそうなのか。

「コウキはそうじゃなかったの? チサのすべてを征服したって思ってくれなかったの? チサはついにコウキのものになれたってあんなに嬉しかったのに」

 そう思ったし心が震えるぐらい感動した。

「女だってそうなの。だってゴムなんか使ったらコウキに染めてもらえないじゃない」

 生が良いのか悪いのかは状況によって変わるだろうけど、チサは欲しいのだろうな。どうしたってチサには過去の負い目が残るじゃないか。そんな忌まわしい過去を染め直して欲しい気持ちがありそうだもの。

 チサがされたことは人として、女として極北みたいなものだし、それで男狂いの淫乱にもされている。だけどチサはもともとそうなれる素質もあった気もしてるんだ。これは悪い意味じゃないぞ、どう言えば良いのかな、男に感じて果てられる素質だ、

 女は男に誰でも果てれるものじゃないぐらいは知っている。この辺は男の問題もあるけど、一度も男に果てることがない女だって珍しいとは言えないはずだ。ましてや、何度でもとか、精魂尽きるまで果てられる女は限られてると思うんだよ。

 女だって、どうせならそうなりたいはずなんだ。そうなれてこその女の喜びってやつになるはずだ。チサをそうしたのは外道野郎だけど、そうなれたチサが外道野郎を追いかけてしまった気持ちがわかる気もする。

 チサの場合はそこから叩き堕とされて女の生き地獄でのたうち回らされたけど、あれが外道野郎じゃなく、もっとまともと言うか、チサを本当に愛し大切にする男だったらチサの人生は変わっていたはずだ。

 考えてもみろよ。チサがどこを取っても最上級の女であるのはボクも知ることが出来た。そんなチサがあれだけ反応出来たら男ならチサに溺れ込むしかないだろうが。男と女というか、夫婦関係のすべてがあれとは言わないぐらいは知ってるけど、あれが充実して悪いことなんて一つもあるものか。

 チサには相手を喜ばせ、幸せにする天与の素質が与えられているんだよ。それなのに、それなのに、それが活かされたのはヤクに頼らず淫乱になれたとか、ヤクに頼らなかったから奴隷屋敷から生還できたぐらいになってしまっている。

 今だってそうかもしれない。チサは苦難どころか地獄の底を這いまわった末に助け出されている。だけどだよ、救世主役が選りにもよってボクなんだ。チサほどの女ならブサメンのボクじゃなくて白馬の王子様に助け出されるべきだろうが。この手の昔話の定番の、

『助け出されたお姫様は、お城で王子様といつまでも幸せに暮らしました』

 こうなるべきはずなんだ。チサを幸せにし、チサの過去を染め直すのは白馬の王子様がやるべきだ。それが苦難を忍び抜いたチサに与えられるせめてもの御褒美だ。それですべてが帳消しにはならないけど、せめてそれぐらいじゃないと可哀そうすぎるよ。

 これってまだチサに苦難の道が続いているのじゃないだろうが、そうだよ、きっとそうだ。チサは誤った男にまた染められようとしてる。チサを染めるべき男はボクじゃないはず。ボクの役割は、チサを本当に救う白馬の王子様へのつなぎ役がせいぜいだ。

「なにアホな事を考えてるのよ。白馬の王子様って言うけど、そう思ったのはお姫様の主観だけ。あくまでもお姫様にはそう見えただけのお話よ」

 でも映画なんかでもイケメンの、

「だからお姫様にはそう見えただけ」

 じゃあ勘違い?

「そうじゃないって。お姫様には心の底から白馬の王子様に見えてるし、それは死ぬまで変わらないよ。わかんないかな。お姫様は白馬の王子様がイケメンだから惚れたのじゃなくて、窮地から救い出してくれたから惚れたのよ。そんなもの、顔がガマガエルであろうが、乗っているのが馬じゃなくてロバであろうが、イケメンの白馬の王子様にしか見えないの」

 そんなものなのか。

「あったり前じゃない。女が男に心の底から惚れて愛したらそうなるの。チサにはコウキのモンキーが美しい白馬にしか見えないもの。もちろん跨っているのはイケメンの王子様よ」

 それは言い過ぎだろ。

「言い過ぎなもんか。たとえれば敵軍にビッシリ包囲され孤立無援でどうしようもない状態。今日にも敵軍に捕らえられ、敵軍の男たちに好き放題にされるのよ。そこにコウキが単身で助けに来てくれて、バッタバッタと敵を薙ぎ倒してくれたようなもの」

 そ、そうだっけ。

「絶望の淵に立ち、すべてを諦めて堕ちようしていたチサをコウキが救い出してくれた。どれだけ感謝してると思ってるのよ。魂のすべてを捧げ尽くしても全然足りないぐらい感謝してるの」

 感謝と愛は別だろ。

「ああ、もう、どうしてわかってくれないのよ。魂を捧げるって、好きとか、惚れたとか、愛してるってレベルじゃないの。チサにとってコウキは永遠に世界一イケメンの白馬の王子様よ」

 最後のところにどうしても実感が湧かないけど、

「もう! すぐにわからせてやるから。とりあえず唐櫃に寄るわよ」

 あそこはやめておこう。チサにあんなうらぶれたラブホは似合わない。

ツーリング日和19(第34話)翌朝

 長距離ツーリングの疲れもあったから後は眠りに落ちてた。目を覚ますと朝の光が部屋に差し込んできてる。ふと傍らを見るとチサの寝顔だ。なんてあどけない顔なんだよ。たまらくなってキスしたら。

「コウキのキスで目覚められるなんて最高の朝だ。おはよう」

 それにしても現実感がどこかにない気がしてる。それぐらい昨日は劇的すぎる一日だった。天橋立までチサと二人でツーリングに来ただけでも十分に劇的なのだけど、プロポーズ、チサのカミングアウト、そして二人の初夜だぞ。チサはボクのプロポーズを受けてくれた。ちょっと変わった形になってしまったけど、

「ちょっとどころじゃないよ。男を受け止めながらだよ、それで果て尽きながら絶叫で返事した女なんてチサぐらいじゃないかな」

 さすがに拙かったかな。

「そんなことない。最高のプロポーズだったし、最高の返事が出来たもの」

 もう愛おしさしかなくなってチサを抱きしめた。そしたらチサは、

「こんなに幸せで良いのかな。別にセフレでも良いのよ」

 あのな、まだ言うか。チサが織り成した運命はチサだけじゃなく周囲にさえ禍を及ぼしてるのを忘れたのか。チサはそのための贖罪をやらないといけないんだよ。それがボクと結婚して幸せになることだろうが。

「だから信じられないの。これからコウキと結婚して幸せになるのに、それのどこが贖罪になるのよ。チサにとって良いことばかりじゃないの」

 そんな事はない。なによりの罰はボクと結婚しないといけない事だ。チサならイケメンのもっと良い男と幸せになれたはずなのに、ブサメンのボクと結婚しないとならないのだぞ。こんな重い罰が他にあるものか。

「そんな事ない、絶対にあるものか。どれだけ嬉しいか。こんな日がチサに来るなんて・・・」

 だから泣くなって。チサは笑顔が似合うのだから、

「ありがと。本当に感謝しまくってるのだけはわかって。チサだってコウキを幸せにするためだったら何でもする。チサのすべてはコウキのものよ」

 それは間違ってるぞ。チサはボクのものだけど、ボクだってチサのものだ。ようやく泣き止んで落ち着いたチサは悪戯っぽく微笑みながら、

「昨夜はひたすら嬉しかったのだけど、ちょっと妙な感じだけあったんだ」

 やっぱりか。チサは男を知り過ぎてるから下手過ぎて呆れられたのだろうな。

「呆れてなんかないって。別れた旦那までの男なんか五分と続かなかったんだから」

 チサ相手ならそうなるのは昨夜わかったし、だからチサは女の喜びを、

「あの最低野郎は凄腕だったよ。それだけは認めるし、あれより上手かったのはいなかったもの。だけどね、コウキに抱かれながらやっと思い出したんだ。心の底から愛して抱いて欲しいと思う相手とはこんなに違うんだって」

 そんなに違うのかなぁ、

「そりゃ、もう全然。昨夜はコウキと初めてじゃない。だからもっとお淑やかにしようと考えてたのよね。でもコウキが来たら、もうどうしようもなくなったもの。男が女を喜ばせるテクニックなら体に染み込むぐらい知ってるけど、コウキは次元が違う。この世で最高って太鼓判を百個ぐらい押してあげる」

 そりゃどうも。だったらなんだったの、

「コウキはチサに高校時代の面影を見てるところがあるじゃない。でもチサにだってあるのだよ。だからコウキじゃなくて、高校の時の広川君に抱かれてる感じがしちゃったのよ。同級生に抱かれてるって思うと妙に気恥ずかしくてさ。コウキはどうだった?」

 同級生ラブと言うか同級生となんかチサが初めてだけど、言われてみればどっか違う感じがあったような、なかったような。なんと言うか、あの、その、

「これって友だち感覚が残ってるからじゃないかな」

 なるほど。同級生は濃淡こそあっても友だち関係ぐらいは言えるはず。これは恋人関係になる前の友だち関係とかなり違う。なにが違うってそこにラブの要素がない友だち関係になるはずだ。そういうラブ要素がない友だち関係時代を経験した相手なら、

「もうベッドだからやることはやるのだけど、友だち相手にそうされるって思ってしまうと、どこか妙な感覚が出てくるって感じかな」

 それって幼馴染ラブならもっと強いかも。

「チサも経験ないけどそうかもね。だって大人になる前から知ってるよね」

 それこそ子ども同士で一緒にお風呂に入ったことだってあるのが幼馴染のはずだよな。そこから相手に男なり、女を感じて恋人関係になるのだけど、

「抱かれながら思い出すのはまだ恋なんか知らなかった子ども時代かもよ」

 どうなんだろう。やっぱりそうなるのかな。こればっかりは経験しないとわからないな。まあ他人のことはどうでも良いか。百のカップルには百のストーリーがあるだけって話だろ。

「そうだね。でさぁ、チサはどう思ってくれた。やっぱり友だち感覚とか出た?」

 あれを友だち感覚って言うのかな。とにかくチサは憧れの特別の人だから妙な感覚というより現実感がなかったかも。なんていうか、絶対に見れるはずがなく、触れるなんて以ての外のモノに接してた感じかな。こんなもの夢にだって見れるものじゃないよ。

「夢なんかじゃないし、今だってチサは裸だよ」

 それはわかってるし、今だってチサの肌とベッドで触れ合ってるのが信じられないもの。この世の幸せがすべてこのベッドに集まって来てるとしか思えないぐらい。

「それは言い過ぎよ。でもそれぐらい喜んでくれるのは素直に嬉しいな。やっぱりさぁ、ガッカリされたら悲しいもの」

 チサこそボクに失望を、

「する訳ないじゃないの。太鼓判百個じゃ足りないのなら、もう百個押してあげようか。あれだけ素晴らしい夜は初めてだし、これからも続くのでしょ。そっちの方がチサには現実感が無さすぎる」

 チサはちょっと悔しそうな顔になり、

「やっぱりミサの予言に素直に従っておけば良かった。そうしてたらチサのヴァージンだって捧げられたし、この体だって隅から隅までコウキに開発されてるじゃない。余計な遠回りをしたばっかりに・・・」

 チサの唇を塞いでから、

「今から、いや昨夜から心の底からチサに満足してる。こうやって二人は始まったじゃないか。過去は取り戻せないけど、未来はいくらでも作れる」

 それから一緒にお風呂に入ったけど、これこそ神が作った傑作じゃないのかな。

「天橋立のこと?」

 チサだよ、チサ。朝の光の中で改めて見るチサはまさに美の化身そのもの。人は見た目じゃないのはわかったつもりだけど、チサクラスになると存在するだけで魂が吸われるのがよくわかる。桁が違うとか、別次元ってこういう事なんだろう。

「なに言ってるのよ。どんなに頑張ってもオバサンよ」

 そこから朝食を頂いて出発だ。

ツーリング日和19(第33話)二人の初夜

 エラい話になってしまった食事なんとか終えて部屋に戻って来た。この宿は新しそうなのもあるけどオシャレで上品な部屋になっていて、恋人同士とかが泊まるのならロマンチックで最適の感じがするかな。

 そういう宿と部屋を期待して選んだのだけど、やっぱり空気は重いな。あれだけのカミングアウトをして軽くなるはずないか。チサの顔色も暗いもの。あれじゃ、これからベッドに臨んでも人身御供を抱くようなものにしかならないじゃないか。

 それにしてもいくら覚悟を決めていたとはいえ強烈だったな。チサが人に言えない職業まで手を染めていたぐらいまでは予想してたけど、まさかあそこまでとは・・・そこまで経験した女の方が少ないのじゃないのかな。

 でもって動揺したかだけど、そんなものするに決まってるだろ。そこまでの聖人君子じゃないぞ。だってだよ、今でさえ男を搾って暮らしているなんて聞かされて動揺しないはずがないだろうが。

 それにかつては、それこそ四六時中男に犯され続ける生活をしてたと言うし、それを苦難として耐え忍んだというより、そんな生活を受け入れ楽しんでいたとさえしてる。こんなもの淫乱だし、色情狂以外にどう思えって言うんだよ。

「やっぱり抱けないよね」

 そんなに暗い顔で言うなよな。なにが普通かしらないけど、普通だったら抱けない男が多いかもな。これもおかしいか。そういう女を買う男はいくらでもいるから、この場合は結婚相手に考えて抱けるかどうかだろ。

 ミサがボクに何を見たのかは永遠の謎だけど、ひょっとしたらこういう心の持ちようなのかもしれない。あれだけ壮絶な話を聞かされても、動揺こそしまくったけど決心は変わっていない。そういう意味で変人かもな。そうなるとまず返事の確認だな。

「えっ、返事ってまさかあのプロポーズとか」

 もちろんだ。

「そんなものチサがどんな女かを知れば・・・」

 知ったよ全部。その上で聞いてるのじゃないか。

「そんなもの無理に決まってるじゃない」

 そうかな。もし今でもミサの予言を信じる気持ちがあるなら答えはそうでないはずだ。

「ミサの予言は疑う余地すらないけど・・・」

 だったらチサに断る選択肢はないぞ。チサはミサの予言に逆らったし、逆らったがためにチサ自身だけではなく、ボクやミサにも禍が及んでしまってる。これをなんとかしたいという気持ちすらないと言うのか。

「だから今さら・・・」

 そうだよ、今さらでもだ。失った時間を取り戻すことは出来ない。それでも残された時間を活かすことは出来るのだよ。それを出来るのはチサだけだ。チサの決心がボクだけでなくミサも救うってわからないのか。

「それってチサは断れないって意味に・・・」

 まだミサの予言に逆らいたいのか。そうやって死ぬまで禍を振り撒きたいとでも言うつもりか。

「だってもう穢れ過ぎた女じゃない」

 それは聞いたって。そんな過去の黒歴史はもうどうしようもないじゃないか。そんな女にされていたのはわかったよ。でも大事なのは今のチサだ。ボクが見えているのは今のチサだけだ。ボクには昔のチサと同じにしか見えないよ。

「そんなことを言われたってチサはもう・・・」

 もうなんだよ。チサがやらなければならないのはやはり贖罪だ。

「だからまた堕ちて」

 そうじゃない。堕ちるのじゃなく浮かび上がることだろうが。チサが浮かび上がらないとボクもミサも沈んだままになってしまうのがわからないのか。チサがやらなければならない贖罪は幸せになることだ。

 それはボクがそうさせてみせる。ボクがそう出来るのはミサの保証付きなんだぞ。そこまで言われてもまだわからないのか。

「わかんない、わかんないよ。でも。でも、チサだって幸せになりたい。それもコウキと一緒になりたいよ」

 ミサ、これで良いのだよな。ミサこそボクの真の友人だ。そんなミサが見えた世界にチサを導くのがボクへの使命だろ。時間はかかったけど、やっと果たせそうだ。なぜかミサの声が聞こえる気がするな。

『この愚図の下郎めが。どれだけわらわを待たせれば気が済むのじゃ。それでも褒めて遣わそう。これでわらわもやっと肩の荷が下せたと言うものじゃ』

 たく、どこまで行ってもデレ抜きのツン女だよ。こうなってしまったのはミサのせいだからな。ミサがその気になっていれば、ここにいるのはチサじゃなくミサだったかもしれないじゃないか。またミサの声が聞こえる気がするぞ、

『下郎がなにをほざく。うぬ如きがわらわに釣り合うとは増長慢も極まれりだ。うぬはチサで満足しておれ。友よ託したぞ。そちどもの幸せを願うておる。では今度こそさらばじゃ』

 さて話は決まったな。

「コウキは本当にそれで良いの。こんなチサで」

 チサを抱きしめてあれこれ言いたがる唇を塞いでやった。チサに似つかわしいのは笑顔であって泣き顔でも暗い顔でもない。チサを常に微笑みにするのがボクの仕事だ。泣きじゃくるチサを二階のベッドに連れて行き、二人の初夜だ。

「あっ、あっ、あっ、うっ・・・こ、これがコウキなんだ嬉しい・・・」

 チサの体は息を呑むほどに素晴らしい。道理でクズ野郎に目を付けられる訳だ。クズ野郎だけじゃない、どれだけの男が群がったかだ。そりゃ、群がるよな。群がらなきゃウソだ。でもそれがチサに不幸を招き寄せてしまったのかもしれない。

 それこそ運命だとしか言いようがないけど、チサに群がった男にロクなやつがいない。クズ野郎にひたすら群がられたチサは堕ちるだけ堕ちざるを得なくなったぐらいだ。そんな未来をミサは見てたはず。

 それをあまりにも不憫だと思ったはずなんだ。ミサはあれで本当に心優しいからな。チサが堕ちるのを防ぐ手段は、クズ男たちから守れる男に巡り合い愛することだったのだろう。そこでミサが選んだのがボクになる。

 だけどさぁ、ボクにそんな特別な能力があるかどうかは今でさえ疑問だ。ボクを選んだ理由はミサが使える男がボクしかいなかったのが真相の気がするのだよな。それぐらいミサは付き合いにくい女だし、男どころか女にだって信頼を置ける友だちなんかいなかったはずだもの。

 だってだぞ、ボクにそんな特別な能力があるのなら、もっと素直に結ばれていたはずじゃないか。そうだよ、ミサはチサを救うためにボクに術を施し特別な男に仕立てたに違いない。あんにゃろめがボクを道具扱いしてるぐらいは知ってるからな。

「あぅぅ、うぅぅ、あっ、あっ、あっ・・・コウキ、これだけは昔のチサじゃなくなってるの。頼むから笑わないで、呆れないで、嫌いにならないで・・・うぅ、もうダメぇぇぇ」

 なるほどこりゃ凄いわ。元嫁となんてチサに比べればお儀式みたいなものだったもの。チサが満足するまで感じたら良いよ。どれだけ悶えて乱れてもチサへの愛は変わらない。

「ホントなの。信じて良いの」

 ああ、信じる者は救われるって言うだろうが、

「嬉しい、信じられないぐらい嬉しい。ああダメ、まただ、また来ちゃう、本当にダメ、お願いだから嫌いにならないで、ダメぇぇぇ」

 だから気にもならないって。そんなチサも全部含めて惚れたんだから。それしても乱れに乱れるチサがどれだけ魅力的か。これほどの女をボクだけのものに出来るなんて夢だよ。

「またよ、また来る、こんなもの、どうしたら、あっ、あっ、もうダメ、本当にダメ、あぁぁぁ」

 チサはまた大きく体をのけぞらせて果てた。でもこんなもので終わらないだろうな。イイよ、今夜は二人の初夜じゃないか。こんな夜が死ぬまで続くから。

「あぁ、もう止まらない。チサはコウキを信じる。だから、だから・・・」

 もう一度聞くよ。

「あっ、あっ、あっ、チサのすべてはコウキのもの」

 まだ返事になってないぞ、

「お願い、もう本当にダメ、これ以上になったら、あっ、あっ、あっ、もうこれ以上は・・・」

 聞きたいのは返事だって。

「あっ、あっ、あっ、止まらない・・・」

 チサ言うんだ。するとチサは体をのけぞらせ、

「ダメェェ」

 チサに返事をさせるまで、もうちょっとなのに悔しいけどボクが限界だ。チサの体こそまさに奇跡の産物だ。チサの体は数えきれないぐらいの男によって荒らされている。それこそありとあらゆる行為をされて来ている。

 たとえば爆上がりしてる感度だ。一方でそれだけ使われまくられたら、どうしたってそれなりになっていると予想してたんだ。だけどボクはチサに入った瞬間に驚く以外に反応のしようがなかったもの。

 これって話に聞く名器ってやつなのか。そんなレベルじゃない。名器は名器でも国宝級とか、世界遺産級だと思う。こんなものがこの世に存在するのが信じれないもの。チサはどこを取ってもまさに最上級の女だ。

 だからこれまでチサを弄んできた男たちに嫉妬した。嫉妬もしたけど恨んだよ。どうして大事にしなかったんだよ。それがチサの悪い運命の結果としても怒りしか出てこないじゃないか。

 そんな事を考えてる場合じゃない。すぐにでも炸裂させられそうになるのを耐えに耐えた。そうやってなんとかここまで頑張って来たけどもう無理だ。なんとかチサの返事を聞きたかったけどタイムアップになってしまう。だが待てよ。チサの体は開発され切っているはずだ。

 それはよくわかったけど、それならばラストチャンスがあるはずだ。ボクだって話に聞いただけで実際には見た事はないけどチサならそうなれるかもしれない。もうそれに賭けるしかない。ボクは最後のラッシュに入った。やっぱりそうだ、きっとそうなるはず。ボクにも最後の瞬間が来る。

「はぁ、はぁ、はぁ、コウキが来てくれる。来て、来て、チサに思いっきり来て」

 こんな事をチサに出来るなんて男冥利に尽きる。ボクが目指すのはチサの最奥部だ。もうそこしかあるものか。渾身の力でボクはそこにすべてを解き放った。それを受け止めたチサはここまででも最高の反応を見せながら、

「ボクと結婚するか」
「あっ、あっ、あっ」

 ダメだったか。

「チサと結婚して! うっ」

 大絶叫で返事をしてくれた。ついに聞けた。もう死ぬまで離すものか。

ツーリング日和19(第32話)ミサの影

 それにしても、そこまで堕ちていたのにホテトル嬢とは言え良く戻れたものだ。とくに男狂いの淫乱に狂わされてしまった体なんか、どうやって克服したんだよ。

「あれは不思議だったというかある種の運命かもしれない。捕まった時にやっと思い出したのよ。チサにだって希望があったことをね。その希望をどうしてチサは捨て去ったかに後悔しかなかったもの。その希望を思い出したら男への飢えが不思議なぐらいに消えて行ってしまったもの」

 だからと言ってホテトル嬢は。

「あれはチサに与えられた終わらない罰よ。それぐらいは当然でしょ」

 どうしてチサが罰を受けなくちゃならないんだよ。罰なら前科が付いただけでも十分すぎるじゃないか。それとだけど、その希望ってボクのことだよね。

「そうだよ。だから再会した時には夢かと思ったもの。チサの失われた希望が突然目の前に現れたんだよ。こんなものどうしようもないじゃないの」

 だったら、あのからかってるとしか思えなかったホテルへの誘いも、

「からかうはずなんかあるものか。会った瞬間からひたすらコウキが欲しかった。コウキがその気になってくれていたら大喜びでホテルに駆け込んでた」

 それにしても、どうしてボクなんだ。

「イワケンの事件の後にミサに呼び出されたんだよね。そしたら、コウキに礼をしたかって聞かれたのよ。したのはしたけど塩対応で追い払われた感じだと言ったら、

『礼は返さねばならぬ。それはそなたのすべてを捧げても足りぬものだと心得よ。そなたがすべてを捧げた時のみ道は開く』

そんなことを言われたって悪いけどあの頃のコウキはヴァージンを捧げるどころか、恋人にするにもちょっと過ぎたのよね」

 それはわかるな。あの頃のボクはガリ勉陰キャ野郎も良いところだったもの。あんな情けない男と付き合うとか、ましてやヴァージンを捧げるなんて誰が思うものか。だからイワケン事件の後は何もなかったのはわかるけど、

「卒業式の日にもミサに呼び出されたのよね。あの時のミサは震え上がるぐらい怖かったのをよく覚えてる。ミサはね、

『そなたはわからぬであろうが、良からぬ未来しか待っておらぬ。その運命を避けるには一つしか方法が無い。わらわはそちのために救いの希望を整えてやった。もう一度だけ言う、わらわの言葉に従え。従わぬ時の悪しき運命を受けたいのか』

これってコウキとの交際の事のはずだけど、あの頃のコウキとミサは付き合ってる噂を聞いてたんだ。変人同士みたいなカップルだけど、あれはあれで破れ鍋に綴じ蓋みたいな組み合わせだから、そうかなって思っていたぐらい。

『だからこそわらわはあの男を選びそちの希望とした。そちがわらわの言葉に従わぬならそちだけでなく、あの男にさえ不幸は降り注ぐ。それを心せよ』

そう言われてもね。だけどミサの予言は恐ろしいほど当たったよ」

 その話は聞いたことがあるぞ。ミサは誰かが悪い運命になりそうになった時にそれをなんとか避けさせようとしてた。そのためにボクはあれこれ訳の分からないことをさせられたのだけど、あんなことで本当に避けれるのかって聞いたんだ。そしたら、

『運命の流れが良くないとしてもあの程度は一時的なものじゃ。だからうぬが恥をかく程度で十分なのじゃ』

 だったらもっと悪い状態ならどうなるのだと聞いたら、ミサは難しい顔になってたな。

『暗き運命の大いなる流れになってしまえば変えられるものではない』

 それってミサでもお手上げなのかと聞いたのだけど、

『難しいが救う術はある。女なら男だな。女の不幸への流れを男と組み合わせることにより変えることは出来る事がある』

 それって単に彼氏を作る話なのかと思ったけど、

『そういう意味でもあるが、そうではない。それが出来る男でなければならぬ。だがそんな男はそうそうにはおらぬのじゃ。だからこそ難しいと言っておる』

 さらにミサはそういう男を配するのにも工夫がいるとしていた。

『この術の難しいところは、そんな男を選び配しても女が自分の意志で選び迎え入れなければならぬのじゃ。もし女が拒めば男にも術を行ったわらわにも禍が及ぶ』

 もしかしてミサはチサのために、

「そうだったはず。ミサはこうとも言ってたもの、

『わらわが選びし男であるぞ。その力を信ぜよ。そちのために譲るのであるからな』

あの時はコウキを譲られたって困るとしか思えなかったのよ。だいたいだよ、彼氏って譲るとか貰うってものじゃないでしょ。でもさぁ、チサはあんな目に遭ったし、コウキだって離婚したって聞いてミサの予言がどれだけ恐ろしいものかを思い知らされた。

ミサの予言の恐ろしさはそれだけじゃない。チサがコウキを思い出して救いの希望と思い出してから運命は良い方に変わり始めてるじゃない。もうどれだけって思ったし、コウキにどれだけ悪いことをしたかと思ったら後悔しかなかったもの」

 ミサのあんにゃろめ。そこまでやってたのか。全部わかったぞ、不自然なぐらいなんだかんだとミサと一緒になり、気が付いたら友だちどころか恋心まで抱かされていたものな。あれは全部ミサが仕組みやがったんだ。あのツンデレ女め、好きだったら好きと言えば良いじゃないか。

 それと最後のところはわからないけどミサはボクに特別の物を見ていたはずだ。そうじゃなくちゃ、あの頃のボクに誰であれ恋心など持ちようがないぐらいはわかってる。なんだろうな、オーラってやつだろうか。それって、えっと、えっと、

「そのはずよ。あのミサが選び抜いた男には理由があるはずだもの。それこそ邪悪を払う特別の力があるはず。そんな男をミサは自分の物にしていたはず。それはその男と結ばれ自分が幸せになるため。

そこまでミサが大切にしていたコウキをミサは譲ってくれたのよ。そこまでチサのためにすべてのお膳立てを整えてくれていたのに、それをすべて拒んでしまった。その結果をチサは受け続けたけど、コウキまで巻き込んでしまったもの」

 術を行ったミサにも禍があったはずだけど・・・そっか、そっか、ミサは先に代償を払っていたのか。ミサは今でも独身のはずだ。ミサが実は美人であるのは良く知ってるけど、とにかくあのクソややこしいキャラだ。

 そんなミサを愛し、幸せに出来る男など滅多にいるとは思えない。それが出来る男をミサは見つけ出して自分の物にしてたのか。それをチサに譲るということは女の幸せを禍の代償として差し出してることになるのだろう。それだけじゃない、二度とそんな男を見出すことが出来ない禍を今も受け続けているのかもしれない。

「コウキに再会してすべてがわかったのよ。チサのすべての希望だって。それだけの男になってるものね。ミサにはすべて見えていたはずよ」

 だったらミサの計画通りに、

「そんなもの出来るわけがないでしょ。どれだけの人を不幸にしてるのよ。今からだってチサだけ幸せになるなんて許されるはずがないじゃないの。だからすべてを隠して抱いて欲しかった。昔のチサの幻影だけをコウキに楽しんでもらいたかったのよ。それがチサに出来るせめてもの贖罪」

 でもそんなことをしたら、

「そうよ、また堕ちるの。あの男にまみれ、男に明け暮れさせられた世界にね。そこも前は狂わされたチサが男を貪れるところだったけど今度は違う。チサは希望を知ってしまったから」

 わかりにくいけど、

「チサが受け入れたいのは希望だけ。他は絶対に嫌なんだ」

 だったら、

「だから贖罪の地。どんなに嫌であっても男に体を開き、男をひたすら満足させることがすべての世界。それが途切れることがない毎日がチサの暮らしのすべてになる。すべてはチサのワガママ。せめてチサの希望を体で感じ刻み込みたかったの。それさえあれば堕ちた世界でも生きていけるはず」

 なんかミサと最後に話した日のことを思い出してしまった。ミサはあの時にボクのことを初めて『友』と呼んだんだよ。出会ってから十二年間すっと『そち』とか『うぬ』とか『下郎』だったのにだよ。

 あれって本当は『友』以上に呼びたかったはず。あのシチュエーションで想像するのも難しい部分があるにせよ、ミサはあの時に本当は愛の告白をしたかった気がする。あの時のボクがそれを受け入れるのは・・・・

 それさえも違うか。チサの件がなければ、あんにゃろめはもっと違う展開に持ち込んでいたはずなんだ。そうだな、ボクがミサを呼び出して告白させるようにしていたはずだ。それをミサが受け入れる・・・どうにも現実感に乏しすぎるのがネックだな。

 それでもミサはボクをどうにかしようとはしていた。やっぱり彼氏かな。少なくとも高校卒業後も関係を切りたくなかったはずなんだ。そんな想いをすべて抑え込み、あきらめて出たのが『友』とあの別れの言葉だったのだろう。

ツーリング日和19(第31話)そして今に至る

 チサを恨む女たちからはなんとか逃れたようだけど、初犯だから執行猶予が付いたものの実刑になったのか。

「そういうこと。執行猶予は終わったけど前科者になっちゃった」

 明るく言うな。

「でもさぁ、さすがにこの時は反省した。こんな事をいつまでやってるんだってね。信じてもらえないかもしれないけど本気で更生ってのに取り組んだ」

 そんなもの信じないわけないだろうが。だから今のチサがある。

「そこまで立派な更生じゃないよ。それでも無暗やたらに男が欲しくなるのは克服できたかな。でもさぁ、チサには背負ってるのもが多すぎた。だって食べていかないといけないでしょ」

 だから正業に就いて、

「就けるものか。チサは大学こそ卒業してるけど、結婚したのは早かったし、そこからは専業主婦じゃない。離婚した後だってやったのは性奴隷と売春婦とせいぜい調教師だけだもの。チサなら中途採用になるけど、あれってそれまでの職歴で身に着けたスキルを評価されてのものじゃないか」

 そうなるよな。

「それでもコンビニとかスーパーのパートみたいなのはありそうだけど、前科者にもなってるから誰が雇ってくれるものか」

 社会の現実は厳しいな。でもチサはダックスだって買ってるじゃないか。あれって小型のAT免許を取るところから始めたらしいから、乗り出すまでにモロモロ含めて七十万円ぐらいは必要のはず。

 それにボクと何度か夜の会食に付き合ってくれたけど、原則は割り勘主義だった。チサはそれだけの収入を得るところまで更生してるはず。

「残念でした」

 まさかまた売春に手を染めたているとか、

「あれって淫乱男狂いから醒めたら、どうしてあそこまで男が欲しかったのかわからなくなったのよ。逮捕されてからは誰ともやってない。お願いだからそれだけは信じて」

 もちろん信じるけど、

「もし次があるとしたら、チサが愛して抱いて欲しいと心から願う男だけにしたかった。贅沢過ぎる願いだけどね」

 どこが贅沢なものか。当たり前すぎる話じゃないか。でさぁ、今は何してるんだよ。

「チサが教え込まれたスキルの活用よ。そう男を喜ばせるテクニック」

 えっと、えっと、

「ホテトル嬢よ」

 えっ、それって男を搾る仕事。

「使ったことがあるんだ」

 いや、ああいうところは、えっと、その・・・

「わかるよ。離婚してるし、どうもコウキにはセフレもいないみたいだから出しに行ってるのでしょ。コウキだって男だものね」

 面目ない。でもああいうところは、

「本番無しのところだよ。そこだけは信じて欲しいな」

 もちろん信じる。それでも、

「後ろもなしよ。ついでに言えば上も無し。そういう意味ではお上品かな」

 それって、M専科ってやつか。

「良く知ってるね。コウキってそういう趣味だったんだ。だけど惜しいけどハズレ。裸になってマッサージをして、最後に搾ってスッキリのホテトルよ。マッサージも得意になったからやってあげようか」

 M趣味はないけどマッサージならして欲しいかな。どうも肩が凝りやすくなってるし。

「だからダックスだってチサが男を搾り取ったもので出来ているようなものよ」

 チサは黒歴史を吐き出してすっきりしたのか、

「コウキが望むのならなんでも応じられるよ。さすがに一人だからレズプレイは無理だけどオナニープレイなら見せられる。ちゃんと最後まで果てるよ。一度で満足できないなら望む限り何度でも」

 どうしてチサにレズプレイをさせたり、ましてやオナニープレイをさせなきゃならないんだよ。そんなもの見たくもない。

「そっち系は好きじゃないのか。だったら縛りはどう。ロープで縛るのはあれで難しいから拘束具がお手軽かな。身動きを取れなくしておいてのオモチャ責めだって喜んで受ける」

 あの、えっと、

「前と後ろにバイブを突っ込んで、トドメで電マは何回やられても強烈だし慣れるものじゃないから、チサが悶え喜ぶ姿を楽しんでもらえるよ。でも悪いけどかさばるから持って来てないの。バイクだからね。コウキは持って来てくれてる?」

 どうしてそんな道具をわざわざ持ってくるって言うんだよ。そもそも持ってないし、あったって使う気なんかあるものか。ボクがそんな変態に見えるって言うのか。

「人は見た目によらないのは良く知ってるからね。そっち系も趣味がないのなら基本はノーマルね。ノーマルも色々あるけど、そうだそうだ、チサのどこに入れても良いからね」

 どこって言われても、

「上と前と後ろよ。上と前はコウキでも知ってると思うけど」

 うぅ、知ってないとは言えないけど、

「上ぐらいなら普通にやってるカップルは多いじゃない。それでも、飲むまでになるとちょっとだけディープかな。チサならしっかり味わって飲めるところも見せれるよ」

 チサにそんなことをさせるわけがないだろうが。

「後ろはディープそうに思うだろうけど、入れたがる男は多いのよ。前と違った感覚らしいし、より完全にその女を征服した感覚が出るぐらいかな。コウキだってビデオで見たことぐらいあるでしょ」

 な、ないとは言えないけど、よくあんなところに入るものだ。

「慣れよ慣れ。なんだって最初は大変だけど、数を経験すれば果てることだって出来るようになれるものよ。もっともさすがに受け入れられる女は少ないかな。売春やってる連中だって後ろはNGが多いもの」

 そりゃそうだろ。あそこは入れるところじゃなく排泄に使うところだ。いくら商売でも受け入れられる女がいる方に驚くよ。

「チサならウェルカムだし、もう一人いれば前後からサンドウィッチで二本刺しだって出来るし、三人いれば上も使えるから三本刺しだってOKよ。チサはバイブより男の方が好きだから乱れまくるチサを楽しめるよ」

 三本刺しって・・・今夜はボク一人なんだぞ。ていうかさ、チサの後ろをどうして使わないといけないんだよ。ボクってチサは欲しいけど使わせてもらうのは前だけだ。それだって、どれだけ畏れ多いことか。自分を誰だと思ってるんだよ。

「チサはコウキの知ってる昔のチサじゃない。そんな事だって当たり前のように出来る女に変えられてしまってる」

 もういい。話さなくて良いから、

「チサの体を通り過ぎた男は多すぎた。冗談抜きで数えきれないぐらいだもの。そんな男たちにチサの体は穢され尽くし、そうよ、体の芯の芯まで腐ってる」

 チサ・・・

「あははは。ここまで聞かされて抱きたい男なんていないよね。用を足すにしてもコウキなら汚れ切った公衆便所じゃなくて、もっと綺麗なところをいくらでも使えるもの。チサは誰もが嫌がる汚れた便器のなれの果てのような女」

 ああ聞いちまった。ある程度は予想してたけど、ボクのチャチな予想を二段か三段ぐらい越えてるよ。さすがに辛いな。ここからどうしようか。