バイク待ち14ヵ月

 相変わらず音沙汰無しです。もっとも来る時には突然連絡が入るわけですから、前兆はないのですけどね。ちなみに待っているうちに2023年度のニューカラーが発表されていまして、そっちの方が良いと思ったりしていますが、このまま待ち続けているうちに変わったりしてなんかも妄想しています。

 なにかバイク関連の話を書きたいのですが、電動バイクって普及するのだろうかは関心はあります。クルマは流れとして電動化は確実にありますから、バイクもにもなっても不思議とは言えないでしょう。電動バイクには興味は無いのですが、普及が進めばガソリンスタンドが減って給油にも難儀しますからね。

 電動のクルマもバイクも走行性能は実用レベルに達しているそうですが、最後のネックはバッテリーになりそうな気がします。ここもあえて一つに絞れば、

    充電時間
 ほかにもバッテリーの劣化問題もありますが、とりあえず充電時間になりそうな気がします。ここも改良は進んでいるようですが、現時点ではガソリン給油に較べると遥かに長いはずです。実情に疎いところもありますが、仮に30分になっても長すぎる気がします。

 それと充電場所の問題もあります。家庭でもコンセントにつなげば充電できるのはメリットでしょうが、一軒家なら出来ても集合住宅では難しいと思います。バイクなら電動自転車のようにバッテリーを取り外して家の中で充電も可能かもしれませんが、ここもバッテリーのサイズ問題が出てきます。

 この辺は電動車の普及は充電ステーションの普及とセットになるはずで、ステーションでは充電時間の有効利用のために休憩施設や買い物施設と一体化したものが登場すると予想できますが、充電時間が長いと広大なスペースが必要そうな気がします。

 充電待ちも乗り物文化が変れば、意識も変わり、充電のための待ち時間も、

    それは当たり前
 そうなって行くでしょうが、これから迎えるのは過渡期です。つうか過渡期を経験しているうちに寿命が怪しくなります。寿命は大げさといても、バイクに乗れる体力は確実に怪しくなります。

 個人的にはバイクはガソリン仕様で良い気もしていますが、バイクだけガソリン仕様で生き残ってもガソリンスタンドの減少は避けられません。需要が少ないですからね。

 なんだかんだと言っても世の流れは一度傾きかけると猫も杓子も状態になります。たとえは悪いかもしれませんが、レコードが滅び、レコードに取って代わったCDもネット配信に衰退しているのをこの目で見ています。カセットがあったなんて言っても昔話も良いところです。

 はてさて十年後はどうなっていることやらです。もっとも十年もすれば、わたしの体力の方がバイクに無理になってますけどね。もし長生きすれば、昔はクルマもバイクもガソリンで走っていた時代があったなんて話をしているのかもしれません。

ツーリング日和10 あとがき

 念願の北海道ツーリングをさせてみました。北海道はバイク乗りの憧れの地であるのは、情報として知っていましたが、書くにあたりあれこれ調べてみると、北海道の人が言う内地とは別世界なのが良くわかりました。

 とにかく広いですし、広大な平野が広がっています。そこも内地なら田んぼや畑で埋め尽くされ、さらに民家が密集するのですが、とくに道北や道東は原野を道がひたすら真っすぐにあるのに圧倒されました。

 そりゃ、バイク乗りなら走りたいだろうとしか思えませんでした。どこを走っても、内地なら余裕の絶景ロードです。その絶景ロードの中のさらに絶景があるのですから、毎年のように北海道にツーリングに出かける人の気持ちもよくわかります。

 北海道と言っても小学校の時に家族旅行で一度行っただけで、あの時はうろ覚えですが、千歳から登別に泊まり、洞爺湖を見て、積丹半島を回って、札幌に行ったはずです。記憶も断片的なんてものではないのですが、洞爺湖のエピソードに少し反映させています。

 ところで、このツーリング日和シリーズも十作目になり、そろそろ打ち止めを考えています。とりあえず残っているのは信州ぐらいしかないからです。別に行かせても良いのですが、それより出会った人とのエピソードがタネ切れです。

 今回だって、北海道ツーリングをさせながら、どんな人に出会わせ、どんな事件を起こすかで完全に行き詰まり、切羽詰まった挙句、ずるずると宗谷岬から知床、さらには納沙布岬までツーリングさせてしまったぐらいです。

 そこまでツーリングさせて、やっとこさ閃いたのが八耐です。ですが八耐に参加させようと思うとハードルが高すぎます。夏にツーリングさせている関係もあります。だったらとばかりに四耐です。

 ですが四耐も調べるのが大変でした。まあレースなんかやったこともありませんし、今の四耐がどうなってるのかなんて完全に浦島太郎状態です。まあわからない事を調べるのは面白いですから、それはそれで楽しめました。

 しばらくツーリング日和シリーズに熱中していましたから、今度はラブコメでも出来れば挑戦したいと考えています。

ツーリング日和10(第36話)六花と杉田さん

「御期待に副えずに申し訳ありませんでした」
「なに言うてるねん。あれで十分でお釣りが出るわ」

 ライダーズ・ウェアは大ヒットは言い過ぎだけど、スマッシュ・ヒットぐらいにはなってくれたから、余裕でモトは取れたものね。あの分野は今まで専業メーカーの独壇場だったのよね。

 専業であるだけに機能性は十分あったのだけど、デザインがどうしてもバイク乗り、それも男性ライダー視線のものしかなかったんだよ。つまりは少々武骨ってとこかな。そういう指向になるのがバイク乗りなのはわかるけど、

「そこにファッション性を求めるのもおるはずやんか」

 とくにバイク女子ならね。そこにファッション専業のクレイエールに本気で切り込ませたのが今回の企画なの。元がニッチなマーケットだから大儲けには程遠いけど、コスパは良かったからミサキちゃんも満足してくれた。これで接待費に出来たし、次の長期休暇の布石になってくれるはず。


 鈴鹿の四耐だけど最後に六花が二位まで上がり、首位にも手が届きそうだったのよね。けれど残り二周でマシントラブルが起こっちゃったんだよね。失速しながらも六花は懸命にマシンを走らせて完走はしたけど五位だった。

 トラブルの程度も重くて、ゴールラインこそ越えたけど、メインストレートで止まってしまったぐらい。押してピットに戻ったのだけど、その後が大変だった。六花は泣いて謝って土下座までしてた。

 マシントラブルの原因はギヤボックスだったのだけど、トラブルを起こしたのは自分の操作ミスだってね。

「あのミスさえなければ優勝でしたのに」
「もう何度も言っただろ。あれは六花の責任じゃない。チームの限界だったんだよ」

 四耐参加チームも三つぐらいのグループに分けられるのよね。上位から優勝を目指すチーム、完走を目指すチーム、参加する事に意義があるチームぐらい。もちろんステップアップはある。

 参加する事に意義があるから完走を目指すのは誰でも狙うもの。だけど入賞から優勝を争うのは四耐と言えども大変なのよ。そりゃ、四大ワークスがバックアップしているチームまでいるからね。

 杉田さんの今回の基本戦略は優勝とか上位進出じゃなく、まずは完走の戦略だったはず。初出場だからまずは完走して、次回以降があればステップアップかな。

「その通りです。予選を見ただけでわかりました」

 上位は四大ワークスのバックアップチームだけじゃなく、ヨシムラやモリワキが支援するチームがいるぐらい強力で、明らかな差はあったのはわかったみたい。だから、中位でキープしながら完走を目指し、上位チームの脱落で順位を上げる作戦のはず。

「その通りです。後は展開の波乱待ちです」

 上位チームは速いけど、上位チームにもトラブルは発生するのがレース。マシントラブルもあるし、コースアウトもあり得るのがレースだし、とにかく耐久レースだものね。それでも順当に穏やかにレースが展開してしまえば歯が立たないから、戦力的に波乱待ちにならざるを得ないぐらいだよ。

 そういうレース戦略からすれば序盤は作戦通り、いやそれ以上だったかもしれない。十五位前後にいれば、

「上位入賞の可能性は残ります」

 四耐も六位までトロフィーをもらえるのだよ。

「笑うほどの賞金もあるで」

 八耐も優勝してもペイしないレースだけど四耐もかなりのもので、

「賞金総額七十万円、優勝者にはなんと三十万円や」

 六位の賞金なんてたった三万円だよ。タイヤ一本分ぐらいじゃない。優勝賞金でも四耐参加のための諸費用にも足りないもの。もっとも賞金のために走っているというより、鈴鹿の四耐を走りたいから走ってるのだけどね。でもトロフィーぐらいは欲しいかな。

 レース展開は色んなパターンがあるけど、やはり実力のあるチームが、どこかの時点で抜け出していくのが多いそう。他のレースでもそうだろうけど、優劣の差が時間と共に広がっていく感じかな。

「ですが今年は思わぬ展開になりまして・・・」

 四強の実力が拮抗しすぎていたのがまずあったみたい。拮抗しすぎるとお互いに牽制しあうから、そこから独走の一人旅になりにくくなり、序盤は思ったほど後続集団との差が開かない展開にまずなったで良さそう。

 それとコトリも指摘した通りに荒れる展開になっていった。イエローフラッグも三度出たけど、そのうちセーフティカーも二度出るぐらい。

「あれも先頭集団ばかりが不利益を被るものになったのはラッキーでした」

 これもその日の展開の綾としか言いようがないのだけど、四強でもやはりカルカッタ・ホンダとジャカルタ・スズキが優位だったみたいで、中盤から抜け出す試みを何度もしていたものね。現実に二台で独走態勢を築きかけていて半周はラクに離していたもの。

「残り四十分でのセーフティカーが出たのがチャンスになりました」

 セーフティカーが出るとマシンは速度を落とすことが求められ、追い越し禁止になるんだよ。そうなると開いていた差が一挙に縮まるんだよね。レースがリセットされてしまうとして良い。

 セーフティカーがいなくなると再びカルカッタ・ホンダもジャカルタ・スズキが引き離しにかかったのだけど、その頃にはタイヤが限界に達していたみたい。

「これを千載一遇のチャンスと思わないのならレーサーじゃありません」

 杉田さんのチームはそこまでじっと耐えてた気がする。四時間でワンセットしか使えないレースだから、タイヤマネージメントはシビアなんだよ。カルカッタ・ホンダやジャカルタ・スズキは先に勝負に出たツケが最終盤の競り合いに出たはず。

「まあカルカッタ・ホンダやジャカルタ・スズキよりマシ程度ですけどね」

 杉田さんは最後のライダー交代の時に、

「あそこまで上がれば、六花にGOを出しています。だから六花には何の責任もありません」
「でもトラブルを起こしたのは・・・」
「六花もレーサーならわかっているはずだ。勝利にはリスクが必要だ。カルカッタ・ホンダに迫るためには、六花のあの走りが必要だったし、あの走りをするにはリスクが高くなる」

 六花も勝つための綱渡りを行い、悔しいが渡り切れなかったと見るのか。

「なにを仰いますか。完走しただけではなく五位になったのですよ。胸を張って良い立派な成績です。むしろあそこまで傷んでいたマシンを完走させた六花を褒めてやって下さい」

 杉田さんは変わったな。これまでのステディ杉田ならタナボタの三位キープを狙ったはず。初出場で三位なら堂々と胸を張れる成績だもの。でも今回の鈴鹿の杉田さんは三位を守るのをヨシとせず逆転優勝を狙う賭けに出たもの。

「ああ立派に剥けてそそり立ち、六花を貫き通してるわ。牙を剥くステディ杉田になっとるで」

 あのぉ、どうしてそんなにコトリは下品なのよ。杉田さんも六花も顔が赤くなってるじゃない。でもそうなってると思う。待つ時には耐え忍び、チャンスがあれば猛然と牙を剥けるステディ杉田にね。守って三位より、牙を剥いての五位の方が余程価値があると思うもの。

 そこに加藤さんが加わって来たのだけど、十勝で強引に杉田さんと六花を一緒にした後だけど、松山に帰ってもしばらくはギクシャクはあったみたい。そんなにすんなり行かないか。

「そうでんねん。なんちゅう手間がかかるやっちゃと思いましたで」
「加藤には世話になった」
「アホンダラ、杉田と六花ちゃんが転んだら、こんだけの企画がオジャンになってまうやろが。遊びでモトブロガーやっとるんやないで、わいは体張ってるんや」

 ギクシャクが続く二人を見かねて加藤さんが杉田さんのところに乗り込んだのか。

「ちょっと背中を押してやりましてん」
「あれが、ちょっとか。ボロクソ言われたぞ」

 コトリの短小包茎インポ野郎までは言ってないと思うけど、加藤さんは血相を変えて杉田さんを怒鳴り倒したのか。

「加藤はオレのことを、短小包茎のインポ野郎、一生童貞で布団でマスかいて死ぬだけの能無しの臆病者だと罵りやがったんだ」

 えっと、えっと、コトリより酷いじゃない。

「もうちょい長いんでっけど、コトリさんやユッキーさんの前で下品ですから控えときま」

 関西人だからさぞモロで強烈だったんだろうな。それでも杉田さんは煮え切らなかったみたいで、

「杉田が六花ちゃんをいらんと言うなら、わいがもらうと言うたんですわ・・・」
「あれは何度も悪かったって言っただろう」

 加藤さんの言葉に杉田さんは激昂、

『お前なんかに六花を渡すか!』

 加藤さんの首を吊るし挙げぶん殴ったそう。

「壁まで吹っ飛ばされて歯が折れましたわ」
「だから何度も謝ったじゃないか」

 加藤さんを殴り倒した杉田さんは、その勢いで六花の部屋にって・・・六花、どうなったの。

「物凄い形相で拓也が部屋に来たのです。てっきり、またチームから追放されると覚悟したのですが・・・」

 杉田さんはドアを乱暴に押し開き、六花の顔をにらみつけ叫んだそうだけど、

『オレと結婚してくれ!』

 ちょっと、ちょっと、なんなのこの急展開。不和からの喧嘩状態からいきなりプロポーズって飛び過ぎじゃない。六花はどうしたの。

「その夜に結ばれました」

 はぁ、六花も六花だよ。ああ、なんて不器用な恋なんだ。高校時代にお互いが一目惚れして付き合い始めたのは良いとして、別れてから十年以上しても、その相手としか恋愛できないって冗談みたいな関係じゃない。加藤さんは苦笑いしながら、

「まったくやで。エライ手間かかりましたわ」

 やっぱり加藤さんは漢だよ。過去のしがらみに囚われ続ける杉田さんを体を張って解き放っているんだもの。加藤さんがいなかったら、二人は結ばれなかったもの。でも結ばれて良かったと思うよ。ところで次のステップは、

「さすがに緊張しました」

 やっぱりもう行ってたか。嫁さんの実家への挨拶はタダでも緊張するけど、杉田さんにとって長年のコンプレックスの源みたいなところだものね。

「ですが案ずるよりなんとやらで・・・」

 あははは、六花の父親はバイク好きだけでなくレース好き。若い頃は四耐にも出たことがあるそう。だから六花がバイクに乗り、レーサーになることも反対どころか後押ししたぐらいだったのか。

 六花の父親から見れば杉田さんはバイク界の超が付く有名人になり、それこそ下へも置かない扱いになったのか。そりゃ、なるだろう。娘が連れて来た彼氏はスターどころかヒーローみたいなものだもの。

 今回も色々あったな。杉田さんも六花も幸せそうだもの。きっと仲の良いお似合いの夫婦になれるよ。うん、これは、コトリやったな。

「旅の仲間やんか。コトリからのお祝いのオマジナイや」

 春になったらマスツーも良いかも。

「是非、ご一緒に」
「都合つけるで」
「また淡路でっか」
「逆回りで天使のパンケーキを狙うのもありますよ」
「淡路で解散にせずに夜は宴会とか」

 気持ちの良い仲間たちだよ。そうよわたしは永遠の時を旅する女。その旅の途中で出会う人こそ喜び。これがある限り、わたしは先に進んでいける・・・邪魔されずに言えたぞ、

「チンチクリンのメーテルはやめへんか」

 ほっといてよ! このスタイルはわたしのお気に入りなんだから。

ツーリング日和10(第35話)陽だまりツーリング

 もう師走だ。紅葉の季節も過ぎ、木々にはしがみつくような枯れ葉が残るのみ。それでも永遠の旅人を宿命付けられた者に休息はない。今日も愛車と当てもなく走る。

「あそこにすると言うたんはユッキーやろが」

 漂泊の旅人がひと時の安らぎを得るところ。

「神戸から一時間ちゃっとやから我慢せい。今日はそないに寒ないで」

 まあね。覚悟して完全防備で出て来たけど小春日和。暖かすぎて拍子抜けしたかな。

「余裕で陽だまりツーリーングで気持ちエエやんか」

 今日も六甲山トンネルを越えたけど、有野で下りて西へ、西へ、

「そこまで言うほど遠ないで」

 気分じゃないの。丹生山系の北側は丘陵地帯で日本でも屈指のゴルフ場の密集地帯。そのゴルフ場を縫うように走るコースはなかなか気持ち良いのよ。そりゃ、北海道の大平原を突っ走るのと比べると可哀想だけど、隠れたツーリングロードだよ。

「いかにもって日本の風景や。こんなとこまでって感じで田んぼがあるもんな」

 どうしても田んぼに出来ない丘の上にゴルフ場がある感じだもの。まあゴルフ場へのアクセスのために道路が整備されたのはありそうに思うよ。適度なワインディングとアップダウンを繰り返しながら田舎道を快走。鄙びた駅前に着いたから、

「あそこやな」
「らじゃ」

 駅の横手から鉄橋を潜って加古川を渡る。ここも絵に描いたような田園地帯。見えて来た、見えて来た、あの森のところだよ。ここは日銀第六代総裁松尾臣善の別荘だったところなんだ。松尾臣善と言っても誰も覚えていないような人だけど、

「そやな日露戦争の時の日銀総裁で、戦費の調達に尽力したぐらいや」

 日露戦争の戦費調達と言えば高橋是清が有名だけど、松尾臣善は国内で頑張っていたぐらいかな。まあ国内にいたって海外からの戦費が調達されるわけじゃないから、名前は誰も知らないぐらいマイナーなのは仕方ないか。

 松尾臣善は後に男爵になっているから功績もあったんだろうけど、その松尾臣善が別荘として建てたのがこのお屋敷。姫路の郷士の出身らしいけど、どうしてここに別荘を建てたのかな。

「松尾臣善に聞いてくれ」

 あんまり風光明媚とは言いにくいところなのよね。加古川を臨むとぐらいとは言えるけど、どこにでもありそうな風景じゃない。それでも堂々たる明治の建築だよ。別荘と言うより隠居所だったかもしれないけど、今は、

「いらっしゃいませ。皆様、お待ちしています」

 料理旅館になってるんだ。今日はここにお泊り。それにしても壮観と言うか、面白味があるというか。

「これだけバイクが停まっているのは、この店が始まって以来ちゃうか」

 リッター・スーパースポーツに、それさえ小さく見えるロケットにハーレー。250CCが小さく見えますの世界だものね。ただでも小さいわたしとコトリのバイクが隠れてしまいそうなぐらい。こんな料理旅館にわざわざ泊りがけで来る理由は、

「鴨や」

 わたしもだけど、コトリはとくに鴨は好きなんだ。だからフランス出張の時はトゥール・ダルジャンで釣れるぐらい。トゥール・ダルジャンの鴨料理も絶品だけど、

「こっちの方が上や。トゥール・ダルジャンに鍋料理はあらへんからな」

 あったら笑うけど、日本人にはこっちの方が良いかもね。

「ネギがあってこその鴨や」

 神戸も美味しい料理屋さんは多いけど、ほとんどが合鴨。というか鴨料理を売りにしている店が少ないのよね。やはり神戸となれば、神戸ビーフとか瀬戸内海の海鮮が中心になるものね。

 ここも誤解して欲しくないけど合鴨だって美味しいのよ。聞かされずに食べてわかる人なんて殆どいないんじゃないかな。

「合鴨の方がはるかに扱いやすいし、野鴨より美味い場合はなんぼでもある。合鴨にハズレは少ないからな」

 野鴨はジビエだから当たりハズレがあるのよね。言うまでもないけど合鴨の方が格段に安いんだよ。コスパ的には合鴨は優れてるのは間違いない。だけど当たりの野鴨は、

「合鴨を遥かに凌ぐわ」

 コトリとあちこち探し回った末に見つけたのがこのお店。年に一度か二度ぐらい来るかな。もうちょっと来たいのだけど、距離が近い割に交通が便利とは言いにくい。飲むから電車と言いたいのだけど、

「一時間に一本しかあらへんし、一時間半ぐらいかかるもんな」

 バイクやクルマより時間がかかるぐらいだし、こんなところだから夜にタクシーも呼びにくいのよね。

「だから料亭やのうて料理旅館にしとるんやろ」

 そんな気がする。そりゃ、来ようと思えば電車なりバスでも来れるけど、けっこうな高級店じゃない。ゴルフ帰りとかも多いみたいなのよ。この辺にゴルフに来るとなればクルマだものね。

「夜に酒無しで鴨鍋は辛いで」

 夕食に鴨鍋を堪能して翌朝に帰るパターンだよ。今日はクルマじゃなくバイクだけど、同じパターンになってるぐらい。これで温泉でもあれば言うこと無いけど、ボーリングしてまで掘ってくれないだろうな。

「旅館はついでやしな」

 この店はもちろん野鴨だけど、良いのを仕入れてるのよね。鴨の仕入れ先は近くに鴨池って呼ばれるところがあって、そこの鴨の時も多いみたいだけど、無ければ他のところからの良い仕入れルートも持ってるみたい。

「今までにハズレなしやもんな」

 わたしもそう思う。通されたのは大広間だけど、みんな来てるな。

「コトリさん、ユッキーさん遅いですよ」
「目の前に御馳走並べられてお預けは辛いです」
「腹減って目が回りそうや」

 今日はちょっと早いけど旅の仲間の忘年会だよ。とにもかくにも、

「カンパ~イ」

 良く集まってくれたものだよ。宴は盛り上がってくれて嬉しいな。

「今日は経費で落ちるし」

 そういうこと。これはミサキちゃんでもすんなり認めてくれた。いわゆる接待費。その接待相手の杉田さんと六花がビールのお酌に来てくれたから鈴鹿の話になったよ。あの暑かった鈴鹿の話だ。

ツーリング日和10(第34話)勝者は・・・

 これがレースが動くって意味か。レースに転倒やコースアウトは付き物だけど、その時間帯を上手く活用できるかどうかも駆け引きのうちなんだ。その後もバタバタとライダー交代があり、しばらくすると、

「六花は八位に上がっとるで」

 周回遅れも増えてきて、誰が何位かよくわからないよ。さっき転倒事故もあったけど、コースアウトしてストローバリヤに突っ込んだり、マシントラブルなのかピットに入ったまま動かなくなるマシンも出て来てる。まさにサバイバル戦だ。そういえば先頭集団と六花の差は、

「五秒言うとこかな」

 開かなくなったな。

「前半のツケが出始めたんかもしれん」

 先頭集団の四台は速いけど、そこはSTクラスだから圧倒的に速いわけじゃない。第二集団に較べて相対的に少し速い程度だと思う。

「先頭集団二台が抜け出したみたいや」

 でも六花との差が変らないと言うことは、

「二台は先頭争いから脱落したみたいや」

 なにかトラブルがあったのかも。間もなく脱落した二台が第二集団に吸収されたけど、第二集団からも脱落が相次いで今は五台だ、

「こんな展開も珍しいな。もうこの時点やったら、だいぶ勝負が見えてるはずなんやが・・・」

 一周ぐらい先頭と差が付いている展開も多いらしい。そうなっていないのは、

「荒れとるな」

 あれからもイエローフラッグが出たし、救急車も来てたものね。イエローフラッグが出るとペースは落ちるから、誰かがぶっちぎりの展開になれないのかもしれない。そうだね、まるでマラソンみたいな展開だ。そんな時に六花がピット入り、杉田さんが出てきてまたもや第二集団を形成だけど。

「また一つ落ちたな。これで六位や」

 六花もそうだけど杉田さんも第二集団の中にキッチリいるのよね。先頭の二台はまたピッチが上がったんじゃない。

「頭取った方に優勝が見えるから・・・」

 先頭争いをする二台と第二集団との差がまた開いてきた。あれっ、わかりにくいけど、

「第二集団も三台になってもた」

 これで杉田さんは五位だけど、おそらくピッチが上がった先頭の二台を追いかけたからじゃないかな。

「こういう展開になるとホンマの消耗戦や。どれだけ余力を残し取るかが勝負の分かれ目になりそうや」

 おそらく最初に先頭集団を形成していた四台は先行逃げ切りを狙っていたはず。そのために序盤から飛ばしていたんだろうけど、三度のイエローフラッグで減速を余儀なくされたから、思ったような逃げ切り体制に入れなかったんだ。

 第二集団は入れ替わりや脱落も多かったけど、六花や杉田さんは無理に先頭集団を追おうとせず、集団の中でスリップストリームを存分に利用し、ペースメイクもしてもらって力を温存してたのかもしれない。

「その作戦もリスクが高いけど、今日は結果的に当たってるな」

 耐久レースとは言え離され過ぎると挽回は難しくなる。あのまま先頭集団の誰かが突っ走っていたら周回遅れにされててもおかしくないものね。でもレース展開でこうなってしまうと、

「先頭の二台のタイヤはもうヤバいんちゃうか」

 コトリだってレーサーやった事ないから聞いた話と推測だけど、先行逃げ切り作戦の狙いはタイヤの状態が良いうちにリードを広げる点にあるで良さそう。後続のマシンはいくら力を温存すると言ってもレースやってるだけで消耗するのがポイントみたい。

「ペース上げて追いかける言うても、その時にタイヤも消耗するやんか。差が開きすぎると追いつけへんあきらめも出るぐらいちゃうか」

 そもそも四時間をワンセットのタイヤで走り切るだけで目いっぱいみたいなところがあるのが四耐。終盤戦になると多かれ少なかれダマし、ダマしの走りになるから、その状態になるまでに大きな差を持っておこうぐらいの作戦で良いはずよね。

「競馬みたいに追い込み馬がポピュラーなわけやない。むしろ逆や」

 追い込み型のレースをするにも、先頭との差をある程度までにしておかないと、さぁと言ってもタイヤが既に許されなくなってるぐらいで良さそう。

「もちろん先行逃げ切りもリスクがある。前半にタイヤを使い過ぎると、完走さえ出来んようになる」

 タイヤマネージメントが勝負を大きく左右するのがわかるよね。強豪チームは常套戦術として先行逃げ切りを採ることが多いそうだけど、その他のマシンとの差の兼ね合いを常に計算しておかないとならないみたい。

 残り三十分を切ったところで六花だ。六花のペースが上がってる。第二集団を抜け出して先頭の二台を追いかけてるよ。

「いや先頭は集団やない。一つ遅れてもた」

 ホントだ。後は六花が追いつくかどうか。先頭はホンダのチームだよね。

「ああ、カルカッタ・ホンダや」

 六花が追いかけてるのは二位になった、

「ジャカルタ・スズキや。もう三周ぐらいで追いつきそうや」

 そんな感じがする。こうなると時間との勝負になりそう。六花のラップタイムはカルカッタ・ホンダより速いから、

「そやな、残り三周ぐらいで追いつくかもしれん」

 ついにジャカルタ・スズキの後ろに迫って来てる。この周回が帰ってくる頃には・・・行けぇ、六花ぶっちぎれ!

「抜いたでこれで二位や」

 六花は確実にカルカッタ・ホンダに迫ってるけど、時間は、時間は、

「残り五分やから三周やな」

 四耐は先頭が周回中に四時間を走り、そこからゴールするまでになる。たとえば残り一分でゴールラインを通過すれば、その周回が終わってゴールラインを越えた時が優勝になるんだよ。

 残り五分あれば二周は回れるから三周目がファイナルラップになるはず。この差だったっら勝負はファイナル・ラップになるかも。六花、ここまで来たんだ、カルカッタ・ホンダを抜いちまえ。行けぇ、行けぇ、死ぬ気でぶっ飛ばせ。

「あぁ・・・」