ミサトの不思議な冒険:因縁の宗像

 ツバサ杯が学生のオープン・コンクールになって焦っているのはメディア創造学科みたい。学内程度なら無敵だったけど、外部からの参加もあれば、他の大学の写真部だけではなく、写真関係学科の学生だって挑んで来るかもしれないじゃない。

 さらにだよ、一般からの参加だって、写真学校のビシバシ連中だけでなく、西川流なら赤坂迎賓館スタジオの在籍者も参加して来る可能性だってあるのよね。赤坂迎賓館スタジオになると実質的なプロであるA級だよ。

 焦っているのはメディア創造学科だけじゃないみたいで、もっと焦っているのは公認写真サークルだって。ツバサ杯はグランプリと準グランプリの計三名がハワイへの副賞が付くけど、それ以下にも特選、入選、佳作があって、そこに公認写真サークルはなんとか食い込んでるみたいだけど、平田先輩は、

 「ああそれか。結構問題になってるらしくて、公認サークルの地位問題になってるのはホンマや」

 西宮学院の公認写真サークルは成績がイマイチらしいのよね。あの写真ならそうなるのはわかるけど、特別待遇の準部活として認めて良いかにまで話がなってるそうなのよ。あの程度の成績なら同じ公認でも補助金なしの普通の公認サークルでイイんじゃないかって。

 「そういう声は前からあったらしいけど、ツバサ杯の入賞実績でなんとか釈明してたらしいのよね・・・」

 オープン・コンクールになるとツバサ杯の入賞さえ危うくなるってことか。

 「だから今年の新入部員の勧誘は必死やったらしい。なんとかツバサ杯に入賞できる選手を呼び込もうって」

 西宮学院には写真部出身者もいるのよね。もちろん写真教室で頑張っている人も。すんなり公認写真サークルに入った人もいるけど、そうじゃない人もいるし、写真以外のサークルに入った人もいたみたいだけど。

 「入ってない奴はかなり強引に引っ張り込んだらしい。それだけやなくて、他のサークルに入っていた奴の引き抜きまでやったんや」

 かなり強引な手法で、それこそ十人ぐらいで取り囲んでウンと言うまで延々と続けたとか。横目で見てた事があるけど、なんか体育会系の勧誘みたいで怖かった。公認サークル代表会議でも問題になったらしいけど、聞く耳もたなかったって話らしい。

 「それでも公認写真サークルの連中は満足してへんらしくて、トンデモない提案を出して来たんよ。ツバサ杯のための校内予備予選をやると言いだしたんや」

 そんなもの聞き流しといたら良さそうなものだけど、これは西宮学院のサークル事情にからむ話らしい。サークルには公認と未公認があるとしたけど、さらに非公認があるって言うのよね。加茂先輩は、

 「それほど大層な差じゃないよ、未公認は大学に届出したもので、非公認はそれもしてないだけ」

 届出はサークル名と会員氏名、名前と活動内容を書いて提出すれば良いだけらしい。一応審査があるそうだけど、トンデモじゃなければだいたい通るらしい。ヒサヨ先輩が、

 「その時にケイコに引っ張り込まれたの」

 これもまたたいした理由じゃなくて、会員数が最低三人必要だったからで良いみたい。届出が受理されると、後は年に一度、会員名簿を提出すればOKぐらい。それにどういう価値があるかだけどケイコ先輩は、

 「公認サークルへのステップかな」

 未公認サークルを維持するだけなら会員名簿を提出するだけでOKだけど、公認サークルを目指すところは他に活動実績とかも提出するらしい。そうやって実績を積み上げて行って公認を目指して行くぐらいかな。

 「校内の部室は欲しいところが多いのよ」

 あった方が活動しやすいものね。ただ未公認サークルになると正式の部活の支配下に入るんだって。ここは平田先輩が補足してくれて、

 「要は大学を代表して出場する時に、複数の代表があったら良くないぐらいや」

 もっとも殆ど問題というか、意識もされてないもので良さそう。体育会系がわかりやすいけど、正式の部活でビシバシやってる連中にサークルが勝てるわけないものね。というか、代表を争うより、部活の方に入っちゃうもの。ケイコ先輩は、

 「あれは支配権と言うより、正式の部活が大学代表であるのに異議を唱えませんぐらいの意味なんだけど」

 これを受けて加茂先輩が、

 「そうなんだけど、そこを拡大解釈してきたのだよ」

 なにを狙っているのか意図がミサトにはつかみにくかったのだけど、公認写真サークルは部活並の扱いなのを正式部活動同然とまず主張したみたい。この辺ももめたそうだけど、規則に、

 『なになにに準じる』

 これを強烈に押しまくられて、押し切られたぐらいかな。

 「学生課にも問い合わせたけど、間違ってないで終りさ」

 部活やサークル活動を統括しているのが学生課。

 「それでだよ、ツバサ杯がオープン化されて、学校対抗戦になったから、出場するのは学校代表で、それは公認写真サークルだって言いだしたんだ」
 「そうなのよ。学校を代表するからには恥しくない作品が必要だってね。そこから上から目線で、まるでお情けを与えるように、これまでの経緯を考慮して、

 『予備予選で出場に値する実力を示せば、公認写真サークルの認可の下に出場権を与える』

 ふんぞりかえって宣言したんだよ」

 そういうことか。公認写真サークルに入らなかったのにはもう一つ理由があって、あのインチキ野郎の宗像がいやがったんだ。級位至上主義の公認写真サークルだから、B2級の宗像は入部した時から別格扱いで良いみたい。そりゃ、顧問の先生だって師範資格は持ってるけどB2級だものね。

 宗像はミサトの実力を知ってるはず。もしミサトがツバサ杯に出場したら、グランプリはともかく入賞は確実と見たに違いない。その時にミサトが宗像の上であれば、

 「そういう事か。未公認サークルに公認サークルが負けたら、降格問題の再燃必至だよ」

 宗像も変わらないね。本当に姑息なインチキ野郎だ。ミサトは宗像が野川部長に行った仕打ちを忘れるものか。あいつは写真の才能はあったとは思うけど、そっちを伸ばすより周囲を潰すことでラクするのを覚えちまいやがったんだよ。

 そんな手法がいつまでも通用すると思うなよな。そんなことをしたってプロなんかになれるはずないよ。本当のプロ世界のレベルがいかに高いか、その中で生き残る事がどれぐらいシビアなものか麻吹先生たちを通じてミサトも学んだもの。

 宗像がやりそうなことは、まず審査員の買収。絶対やってくるはず。加えて写真のすり替え、どこかのプロに頼んで撮らせてくるのは、摩耶学園時代もやったものね。どっちも掟破りだけど、これを覆すとなると案外難しい。

 「宗像はそこまでやったのか」
 「ええ、だから校内予選会の時は大変な騒ぎになりました」

 校内予選で宗像のインチキを覆せたのは麻吹先生と辰巳先生がタッグを組んでくれたから。でも今度の予備予選では期待するだけ無駄だろうし。それにしても、こんなミエミエの手を仕掛けてくるのに対応できないなんて悔しいじゃない。加茂先輩は、

 「なるほど。予備予選を持ちだしたのは尾崎さん排除のためか」
 「でも、前科があるのならやりそうよ。一番確実と言えば、確実な方法だもの」

 ミサトには奥の手はある。その気になれば新田先生だって、麻吹先生だって連絡は取れるし、最後の最後にはエレギオンの女神だっているもの。でも、こんな事で助けを呼びたくない。そうしたら、加茂先輩はあちこちに連絡を取り始めて、

 「明日の夕方に居酒屋タイガー堂に未公認写真サークルの代表が集まる事になった。尾崎さんも出席してくれ」

ミサトの不思議な冒険:ツバサ杯

 ミサトとナオミ、それに寺田さんが入って八人になったフォト・サークル・北斗星ではさっそく新歓コンパが開かれたんだよね。近所のチェーン店の居酒屋だったけど加茂先輩は、

 「今年はなんと三人もの新入会員が加わって頂いています。それも摩耶学園の尾崎さんと陸奥高校の寺田君と写真甲子園メンバーが二人も加わっています。我がサークルのレベルはこの二人だけなら一番です」

 ドット受けてた。やっぱり未公認サークルの運営は大変らしい。公認サークルであれば、学内に活動拠点があるし、学内で公然と新入会員の募集も出来るけど、未公認だとそれも満足に出来ないみたい。

 ただやっているのが写真だから、その点は活動しやすいとしてた。学生対象のコンテストもあるけど、別に写真部とかサークルに所属していなくても、個人の資格でも参加できるところが多いのが写真だものね。

 だからミサトも学生になったら、写真以外の事をやりながら、個人の資格で写真を楽しもうかと思ってたぐらいだもの。それでもってサークルの当面の目標だけど、

 「ツバサ杯や」
 「それって」
 「写真好きには夢みたいなもの」

 西宮学院は春に学祭があるのだけど、秋に学部祭みたいなものをやることろもあるみたい。これは、専門に上がると別のキャンパスに別れるところもあるからだそうだけど、ツバサ杯は本部で夏休みに行われるらしい。

 「メディア創造学科の主催で、学科の学生だけじゃなく、他の学生の参加も自由なコンテストだよ」
 「そのツバサ杯って、もしかして麻吹つばさ先生に因んでのものですか」

 これはミサトも初めて聞いたのだけど、麻吹先生はメディア創造学科出身なんだって。もっとも四年の時に中退してるから卒業生じゃないけど、今は名誉博士になってるらしい。麻吹先生は名誉博士を授けられた時に、感謝の印として、ツバサ杯を贈られただけではなく、

 「副賞がハワイ旅行なんだ」
 「それだけじゃなくて、その時にオフィス加納の先生方の直接指導も受けられるのだよ」

 げっ、麻吹先生や、新田先生の指導だって。もっとも、摩耶学園の時みたいな特訓じゃないだろうけど。

 「尾崎さんは麻吹先生の指導を受けたんだよね」
 「あ、はい・・・」

 写真サークルやってるぐらいだから、一昨年の写真甲子園のことも良く知ってるのよね。優勝が摩耶学園だっただけでなく、麻吹先生が監督として出場したことも。ケイコ先輩も、

 「あの大会はミュラー先生や、ロイド先生の参加にも驚いたけど、あの麻吹先生が監督として出場していると聞いてビックリしたなんてものじゃなかったもの」

 だろうね。ミサトだって部室に麻吹先生だけじゃなく、新田先生や、泉先生が当たり前のように現れたのは今でも信じられないぐらい。みんなの興味はどんな指導をしてたかなの。そりゃ、聞きたいよね。

 「あれは・・・」

 麻吹先生はプロへの指導じゃなく、素人の高校生に合せたものと言ってたけど、ミサトにしたらまさしく容赦無しのものだった。もっとも新田先生に言わせると、

 『アカネ先生は手加減が無さすぎます』

 そう、あれでも高校生だから手加減されてたみたい。そうなるとオフィス加納のお弟子さんにやってる指導になると想像すらできなかったぐらいだもの。これが最初っから最後まで手抜きなしで続いたぐらいかな。

 「そんなにか」
 「麻吹先生の指導はいつも真剣勝負で、教わる方も魂を常に燃え上がらせておかないと話にならないぐらいです」

 麻吹先生の当初の目標は校内予選の対戦相手を凌ぐ事だったはずだった。なんと言ってもB2級とB3級で構成されたチームだったし、こっちは野川部長がB3級、ミサトがB4級、残りはズブの素人だったし。

 「そんな相手が校内予選の相手だったのか」
 「ドリームチームみたいなものじゃない」

 どの時点で相手のチームを凌いだかはわからないけど、少なくとも夏休みの強化合宿が終了した時点でミサトだけでなく、藤堂副部長やアキコだって上回っていたと思う。

 「そんな短期間でB2級を上回るって冗談だろ」
 「この辺はまだ序の口で・・・」

 二学期になってから麻吹先生が目指されたのは打倒村井プロ。イブの学内予選は対戦相手が反則による失格になったけど、辰巳先生はミサトたちが反則無しでも勝っていたと講評してくれたものね。

 「相手はプロだって・・・だから写真甲子園で優勝できたのか」
 「いえ、そこからがありまして」

 一月から始まった地獄の特訓。ミサトはヘロヘロだったし、野川部長なんて半殺し状態だったよ。そこまでやって、ようやく初戦審査会、ブロック審査会を突破出来たけど、

 「まさか、まだあるのか!」

 あったよ。エミ先輩が『雨とモノクロ』ってロマンチックに呼んでたけど、決勝本番で撮影条件が悪い時に備えての特訓みたいなもの。雷鳴轟く中で『弾ける笑顔』をモノクロで三十分で撮って来て、三十分で組み写真にするなんてトレーニングをひたすらやらされた。これを五月から七月までみっちりと。

 「写真甲子園で優勝するためには、そこまでやらなアカンのか」
 「ちょっと違うと思います」

 麻吹先生は、はっきりとは言わなかったけど、どうもミュラー先生や、ロイド先生のチームがサプライズで参加することを知ってたみたい。だから開会式でサプライズで参加して来ても涼しい顔をしていたし、その後の緊急監督会議でも、あの上から目線。

 あそこまで徹底的にやらされたのは、たとえミュラー・チームや、ロイド・チームがどれだけの準備とトレーニングを重ねてこようと蹴散らせる力を付けようとしたに違いないと思ってる。

 「尾崎さんはプロ並みね」
 「そうや、写真見てビックリしたもんな」
 「違います。本物のプロはあんなものじゃありません」

 これも教え込まれたようなものだった。ミサトたちの技量は、高校生にしたら桁違いに上がってた。ミサトは部長になって、あちこちのコンクールで賞をさらえる様に取ったし、全日本写真展の高校の部金賞まで取ったのは間違いない。

 それでも麻吹先生や、新田先生の写真には遠くおよばないもの。指導中にお手本の写真も撮ってくれたけど、どれだけミサトの写真が下手に見えた事か。これは、野川部長もそう言ってた。だから指導されている間は、そんなに自分の技量が上がってる実感はなかったもの。

 「相手が麻吹先生とか、泉先生だとか、新田先生ならそうなるかもな」
 「でも羨ましいね。一度でイイから直接指導を受けてみたいものね」
 「そうやな。一生の思い出になると思う」

 写真甲子園を目指した時間はミサトにとっても忘れられない宝物。これからの人生で、あれだけ一つの事に集中して、魂を燃やし続けることが二度とあるかないだよ。いや、もうないかもしれない。


 話は、ツバサ杯に戻ったんだけど、やはり強いのはメディア創造学科の学生。当然と言えば当然なんだけど、

 「今年はもっと厳しくなるって話や」

 これまでは学内からの応募だけだったけど、麻吹先生の意向で外部の学生にも門戸を開くんだって。麻吹先生らしいと言えばそれまでだけど、

 「あの噂は本当かしら」
 「はっきりせんとこもあるけど、妙に日程が被りそうやもんな」

 二年前から始まったのが世界三大メソドの学生対抗戦。写真の上達技術は、

 アメリカのロイド流
 ヨーロッパのミュラー流
 日本の西川流

 この三つが競い合ってるし、西川流のお膝元の日本でも、ロイド流や、ミュラー流もあるし、西川流だって海外進出してるぐらい。その学生レベルの世界一決定戦がハワイで行われているのよね。

 「あの三つはたしかに世界三大メソドだけど、幻のメソドがあるのが写真界の定評や」
 「幻って?」
 「尾崎さんが学んだ麻吹流だよ」

 そんなものないけど、二年前の写真甲子園の結果が世界の写真界に衝撃を与えたって言うのよね。あの時も世界三大メソドがそろったけど、優勝したのは麻吹先生率いる摩耶学園。さらに、

 「そうなんよ。ミュラー流も、ロイド流も敢闘賞に沈んでもたやろ。西川流は辛うじてぐらいは面目を保ったけど、もし麻吹流が世に出たら大変なことになるぐらいや」

 だからあれは無理だって。麻吹先生の指導は偉大だったけど、完全なオーダーメイドの指導だもの。どれだけの面子がコーチしてくれてたと思ってるのよ。

 「そこに、ツバサ杯優勝者が参加するとか」
 「そういう噂が出てる」

 でもまあ、参加したら面白そうかも。ハワイ旅行はやっぱり魅力的だものね。

ミサトの不思議な冒険:大学のサークル

 西宮学院はその名の通り西宮にあるのだけど、歴史のある名門校。港都大は国立だけど、西宮学院は私学の雄って感じで、同じく西宮にある関西学院と張り合ってるぐらいかな。広いキャンパスに歴史のある校舎って感じで、なかなかイイ感じ。

 大学生はもちろん勉強も大事だけど、キャンパス・ライフも充実させたいじゃない。すぐに友だちも出来て、

 「ミサト、おはよう」
 「おはよう、ナオミ」

 彼女の名前は島原尚美。他にもいるけど、ナオミが一番気が合うかな。このナオミがやりたいのが写真。高校の時もやりたかったみたいだけど、高校に写真部もなくて、

 「見て、見て、やっと買ってもらったの」

 カメラもなかったってこと。待望のデジイチを手に入れて熱中してる感じ。あれこれ撮ってはミサトに見せようとするのよね。

 「やっと夢のボケ写真が撮れたのよ♪」

 ボケ写真はまず誰でも撮りたがるけど、あれを撮ろうと思えばスマホじゃまず無理。撮れる条件は色々あるけど、単純にはイメージセンサーが大きくないと撮れないものね。ナオミは写真投稿サイトにもアップしてるんだけど、

 「もっと上手な写真を早く撮りたいよ。ねえ、ミサトも写真やろうよ」

 ミサトも写真を続けたい気もあったけど、大学では他の事もやりたい気持ちもあったから、高校では写真部だったのをナオミには伏せてるんだ。それでも大学の写真サークルはどんなところかぐらいは興味があったから、ナオミの見学に付きあうことにした。


 大学には高校と同じように部活もあるけど、高校と違ってサークル活動も盛んなの。位置づけは。部活は大学が公式に認め補助も出るところで、サークルは学生が自主的に作った同好会みたいなものでイイかな。そこでだけど西宮学院には写真部はないのよね。ナオミは真剣に写真をやりたいから調べてたみたいで、

 「写真学科が出来た時に廃部になったらしい」

 写真学科も発展拡大されて、今では学芸学部メディア創造学科になってる。どうして写真部が廃部になったのかはさすがのナオミも知らなかったけど、たぶん本気で写真をやりたいなら、そっちに進学しろみたいな感じかな。

 ひょっとしたら、写真学科より写真部の方が、レベルが上だったら都合が悪いみたいな理由かもしれない。そりゃ、専門学科が写真部に負けたら存在価値無くなっちゃうもの。

 ただ正式の写真部が無い代わりに、公認写真サークルはあるのよね。これも説明がいると思うけど、西宮学院のサークルにも大学公認のものがあるのよね。公認されるには、会員数、活動実績、活動年数から、活動報告書や、顧問の先生の確保とかの条件がずらずら並んでる感じ。

 それだけ手間かけても大学からの活動資金は出ないのだけど、公認を取得すると新入会員獲得の時に有利になるらしい。新入生にちゃんとしてるとか、信用できるのアピールをしやすいぐらいかな。

 もっと価値あるものとして校内に正式の活動拠点が与えられるのも大きいみたい。いわゆる部室ってやつ。さらに学祭の時に出展スペースを与えられるのもメリットらしい。公認サークル以外は、残されたスペースの奪い合いになるらしい。


 写真サークルにも公認があるけど、名称が笑ったけどモロで、

 『公認写真サークル』

 ただ公認写真サークルは他の公認サークルとは別格の扱いになってて、活動資金も正式の部活に匹敵するぐらい貰ってるらしくてナオミによると、

 「廃部になった時の交換条件だって話で、準部活とか部活並って扱いになってるらしいよ」

 そのせいかもしれないけど、公認写真サークルの連中は他の公認サークルを『平公認』と見下してるって話だった。ナオミと見学に行ったら、さすがは空前とも呼ばれる写真ブームのお蔭か、入会希望者がけっこう集まってた。

 そこでサークルの活動内容を説明されたのだけど、ミサトは聞いてるだけでウンザリ気分。顧問は西川流の師範資格を持ってるそうだけど、活動の中心に級位取得があるみたい。武道系で段位取得を目指す感じかな。

 『うちのサークルは実力主義になっています』

 そう言えば聞こえはイイけど、実際のところは級位至上主義みたいで、サークル内では学年や年齢より級位が優先されて、ビッシリと序列関係を築いてるみたい。つまりナオミみたいな初心者が入ると、雑用係に回されて、そこから級位を取得して上がっていくまで続く感じ。

 ミサトはミサトで展示されてる作品を見てたんだけど、どうにもイマイチ。新入会希望者に見せるぐらいだから、会員の中でも上手な作品と思うんだけど、パッとしない感じ。それなのに、

 『ここで頑張ってもらえば、これぐらいのレベルになるのも夢ではありません』

 口には出さなかったけど、頑張ってもこれぐらいじゃ夢が無さすぎるよ。もっとウンザリしたのが顧問の先生の作品。さすがに会員より上手だとは思うけど、言ったら悪いけど摩耶学園写真部の田淵部長先生の方がマシぐらい。

 ミサトも通ったことがあるから知っているけど、公認写真サークルがやってることは写真教室と同じ。ナオミぐらいがちょっと上手になるにはイイと思うけど、ミサトには向かないのよね。

 ミサトは麻吹先生たちに西川流の長所も短所も教えてもらってるのよね。どちらかと言わなくても麻吹先生は西川流のやり方は好きじゃなく、

 『プロになるには弊害が多すぎるところがある。辰巳も頑張って改革したが、級位が上がるほど同じ写真になる傾向は残っている』

 ミサトが持ってるのはB4級だけど、今さらB3級を目指す気はないもの。見学には行ったもののナオミは雑用係から始まる話にゲッソリし、ミサトはレベルの低さにウンザリして、

 「考えさせて頂きます」

 これで帰ろうとしたんだよ。その時に、

 「もしかして、摩耶学園の尾崎さんじゃありませんか」

 誰かと思ってよくよく見れば、写真甲子園の時に同宿だった陸奥高校の寺田隼人さん。懐かしかったからナオミと三人で大学正門前にある喫茶店北斗星に行ったんだよね。寺田さんは一年上だけど、浪人して合格したみたい。よくまあ、陸奥高校から西宮学院なんて入ったものと思ったけど、

 「父の転勤の関係で」

 もとは関西の出身だったんだけど、父親が小学校から仙台支店に勤務になり、中三になる時に父親は神戸本店に栄転になったそう。

 「逆単身赴任みたいなもので」

 子どもの進学の都合とかで父親が単身赴任になるのはよく聞く話だけど、寺田家の場合は母子が仙台に残り、父親が神戸に単身で赴任したらしい。陸奥高校を卒業した寺田君は、父がいる関西を目指したぐらいかな。ここでナオミにバレちゃった。

 「ミサトは写真部だったの」
 「いちおうだけど」

 そこに寺田さんの追い討ちがキッチリと、

 「そんなものじゃありません。写真甲子園の伝説の大会の優勝メンバーです」

 たった二年前だけど、もう伝説化されてるみたい。それもわからなくもなくて、世界の写真界の大御所のミュラー先生とロイド先生が、自らの写真学校の精鋭部隊を率いてサプライズの招待参加。

 それだけでも伝説になりそうだけど、摩耶学園の監督はあの麻吹先生。さらに表彰式の時には西川流の総帥の辰巳先生まで出て来られて、あれが高校生の大会かと思うほど豪華絢爛な大物の競演になってたものね。

 「それだけじゃないですよ。摩耶学園が決勝で作り上げたシンフォニーは、写真甲子園の不滅の傑作とされています」

 そうあのファイナル・ステージも伝説になりかけてるみたい。誰が思いついたか知らないけど、空前にしておそらく絶後になると言われてる八時間の超ロングラン撮影。だって夜明け前から昼までだよ。

 撮影時間が長いと良い写真を撮れるチャンスも増えるけど、撮られる枚数も膨大なんだよね。それだけ撮影時間が伸びてもセレクト会議は二時間で変わらなかったから、どこも悲鳴があがってたもの。

 あの時は必死だったから気にもしなかったけど、あれは厳しいどころか無謀な条件設定だったと思うもの。そんなムチャクチャな条件の中でエミ先輩はあのシンフォニーを紡ぎあげちゃったのよ。出来栄えは審査会で池本審査委員長が絶句してしまうほどのものだったものね。

 「寺田さんはあのサークルに入られるのですか」
 「迷ってます」

 寺田さんも写真は続けたいみたいだけど、もうちょっと気楽にやりたいってさ。ナオミもそうみたいだった。そうなると未公認の写真サークルになるけど不意に、

 「だったら、うちに入らない」

 喫茶店のウエイトレスから突然声を掛けられたのよね。そうしたら、隣の席の学生さんも立ち上がって寄って来て、

 「フォトサークル北斗星の代表の加茂繁です。摩耶学園の尾崎さんが入ってくれるなら大歓迎です」

 なにがどうなっているのか面食らったけど、未公認サークルは学内に公式の活動拠点を与えられないので、この喫茶店を活動拠点にしてるんだって。だからサークルの名前も北斗星。ここを拠点に出来るのは、

 「私は副代表の上林恵子。ケイコって呼んでね。この店の娘だよ」

 そういう事らしい。もうちょっと聞くと、ケイコ先輩が入学した時に加茂先輩と二人で立ち上げたサークルらしくて。

 「あは、出来てまだ三年目のヒヨッコ・サークルだよ」

 会員だって加茂代表、ケイコ副代表と、

 「三年の大石寿代です。ヒサヨって呼んでね」
 「二年の三井智里です。チサトでイイですよ」
 「同じく二年の平田雅樹です」

 そうたったの五人。なんか摩耶学園の写真部を思い出しちゃった。あそこもミサトが入った時は、野川部長と藤堂副部長しかいなくて、ミサトとアキコが入ってようやく四人だったものね。

 どうしようかと思ったらナオミが乗り気になってたし、寺田さんもそうみたいだったんだよ。そりゃ、あれだけ熱心に勧誘されたらね。

 「ミサトも付きあってよ」

 ここで入らないとナオミと別れ別れになっちゃうし、場のノリってものがあるじゃない。

 「よろしくお願いします」

 こんなので良いのかなぁと思う部分はあったけど、公認写真サークルに入るよりマシと思うことにした。気楽そうだし。そしたら先輩たちは小躍りしてた。

 「甲子園メンバーが二人も入ってくれるとは」
 「寺田君も嬉しいけど、摩耶学園の尾崎さんなんて夢みたい」

 ナオミがむくれそうだったけど、

 「島原さんも楽しんでね。わたしたちで出来る範囲ならいくらでも教えてあげるから」
 「飲み会要員でも大歓迎だし」

 まあ、そんな雰囲気。

ミサトの不思議な冒険:ユッキーさん

 怪鳥騒動が拡大するにつれユッキーさんが家庭教師に来てくれる日は少なくなってた。でも、しかたないよね。経済は大混乱だし、ユッキーさんの本業だって大変だと思うもの。ユッキーさんは、

 「ゴメンね。しばらく来れないの」

 もともとボランティアだし、あくまでも好意でやってくれたんだから納得してた。でも、オーストラリアでついにリー将軍に怪鳥は倒されたから、もう少し落ち着いたらまた来てくれると思ってたんだ。


 怪鳥が倒されてからしばらくしてから、若い女の人がうちを訪ねて来たんだ。ミサトに用があるって話で親父と応対に出たのだけど、渡された名刺を見て親父の腰が抜けそうになってたんだよ。そこには、

 『エレギオンHD常務 霜鳥梢』

 ミサトもビックリしたもの。あのエレギオンHDだし、それも常務と言えば押しも押されぬおエライさんじゃない。霜鳥常務はそれだけじゃなく、あのエラン船事件の時にECO副代表も務めた有名人で、世界のVIPと渡り合った人なんだ。どう考えたってうちに来るような人じゃないもの。

 そんな人がどうしてミサキに用があるって言うんだろ。どう考えても無関係もイイところじゃない。親父は慌てまくって家に上がってもらおうとしてたけど、霜鳥常務はこれを丁重に断って。

 「小山が尾崎美里さんの家庭教師を引き受けておられましたが、大変申し訳ありませんが、その業務を打ち切りにさせて頂きたいと存じます」
 「えっ、ミサトの家庭教師は木村さんですが」
 「それもお詫び申し上げます。あれは偽名で、本名は小山恵です。小山の家庭教師は打ち切りにさせて頂きますが、弊社の責任で引き続き家庭教師は派遣させて頂きます。どうかそれで御了承頂きたく存じます」

 うちの親父もだけどミサトも仰天するしかなかったもの。小山恵と言えばエレギオンHDの社長さんだよ。霜鳥常務も有名人だけど、小山社長となれば世界のVIPいやスーパーVIPじゃない。あのユッキーさんがエレギオンHDの小山社長だったなんて信じろと言う方に無理がある。親父がなんとか気を取り直して、

 「もともとボランティアの家庭教師でしたから、打切りに異存など滅相も御座いません。それに後任の家庭教師まで手配してもらうなんて、それは行き過ぎた御配慮です」

 そうしたら霜鳥常務は、

 「ありがたいお言葉ですが、これは小山の遺言になります。どうか御受取り頂きたいと存じます」

 遺言ってなによ。それって、それって、それって、思わず、

 「ユッキーさんが死んだって言うの、そんなのウソに決まってる!」

 あれだけの著名人が亡くなってマスコミ報道にならないわけがないじゃない。

 「詳細はここでは申せませんが、小山の死はまだ公表されておりません。いずれ発表されますが、どこで亡くなり、なにが原因であったかも伏せさせて頂く事になっています」
 「本当にユッキーさんは亡くなったのですか!」

 信じられないミサトは霜鳥常務に詰め寄るぐらいの勢いだったけど、ふと見ると霜鳥常務の目が赤い。

 「小山は私が見ている前で間違いなく亡くなっております。小山はミサトさんの家庭教師が中断してしまうのを大変気にされていて、この遺言を私に託しております。どうかお受け頂くようにお願いします」

 ミサトはヘナヘナと崩れ落ちちゃった。霜鳥常務がウソをつくような人には見えないし、これだけ重大な事にウソをつく必要すらないもの。もう涙が、涙が・・・ミサトへの伝言も預かっていて、

 『あなたなら必ず合格するから自信をもちなさい』

 もう号泣するしかないじゃない。ユッキーさんが、あのユッキーさんが死んじゃったなんて。あっ、ユッキーさんが小山社長なら、もしかして、もしかして、

 「これもお詫び申し上げます。お察しの通り、立花は月夜野うさぎであり、結崎は夢前遥です」

 親父はもう絶句を通り越した状態で、酸欠の金魚のように口をパクパク。

 「これは私からのお願いですが、小山、月夜野、夢前の肩書と本名を伏せて頂ければ幸いに存じます。亡き小山も北六甲乗馬クラブで過ごす時間を大切にされていました。月夜野も、夢前もです」

 オープニング写真の課題の時に、エミ先輩が大障害の練習をしてた頃を思い出してた。あの時には日が暮れるのが早いからと言って、照明車まで持ちこんでたけど、あんなことがアッサリ出来たのはエレギオンHDの社長や副社長だったからだ。

 でもね、そんな素振りは全然見せなかったんだよ。エミ先輩を一生懸命応援してくれたし、アキコのフラッシュモブの告白の時にもノリノリで協力してくれたもの。ミサトの家庭教師だってそう。本業は多忙なんてレベルじゃないはずなのに、怪鳥事件が起こるまでちゃんと来てくれてた。

 これはエミ先輩から聞いた話だけど、甲陵倶楽部との団体戦には三人とも出場して勝っちゃってるのよ。会長杯の時なんて、わざわざ馬まで買って出場して優勝してるんだよ。ミサトも見たことあるけど、デッカイ金杯もらってたもの。

 さらにだよ、地震でクラブハウスが倒壊しときにも助けてくれたそうだし、温泉が出た時に権利獲得に走り回ってくれたのもユッキーさんだって話だもの。ユッキーさんの、

 『これぐらいでお代は要らないよ』

 そりゃエレギオンHD社長だから家庭教師代なんて小銭みたいなものだろうけど、そのためにミサトに使ってくれた時間は、いくらするかわからないほど貴重な時間だったんだ。ミサトはなんて人に教えてもらっていたかと思うと震えが来てた。

 「もちろん誰にも言いません。あれだけお世話になったユッキーさんのためです」
 「それは感謝いたします。その代わりと言えば失礼かもしれませんが、なにかミサトさんにお困りの事があれば、私なり、月夜野なり、夢前にご相談ください。出来る範囲の事であれば御協力させて頂きます」

 霜鳥常務が帰られた後もミサトは茫然としてた。あんなに可愛らしくて、優しいユッキーさんが死んじゃったなんて信じられなかった。数日後にユッキーさんの死は発表されたけど、そりゃ、もう、日本中がひっくり返るような騒ぎになったもの。

 ミサトも良く知らなかったけど、ユッキーさんは二十八歳でクレイエールの社長に就任し、一代で世界一とも呼ばれるエレギオン・グループを作り上げ、エレギオンHD社長として五十年近くも君臨してたんだよね。

 それだけでも凄すぎる業績だけど、エラン宇宙船騒ぎでは、エラン人代表との間で外交交渉をまとめ上げてるんだよ。これって相手は異星人だよ、文化も、文明も、言語も違う異星人相手にどうやって交渉したって話なんだよ。

 もう目眩がするほど凄い人だってわかるけど、ミサトが一番ビックリしたのはその年齢。何度も見直したけど七十九歳ってなってるんだよ。親父にも聞いてみたんだけど、

 「ああそれか。エレギオンHDにはトップ・フォーと呼ばれる女性重役がおられて、エレギオンの女神とも言われているが、誰もが異常に若く見えることでも有名なのだよ」
 「異常って、あんなもの異常じゃすまないよ。どう見たって二十歳過ぎだよ」

 でもユッキーさんたちが女神なのはわかる気がする。エミ先輩も摩耶学園のリボンのシンデレラと呼ばれるぐらい素敵な人だったけど、霜鳥常務も含めて、女の私から見ても息が止まりそうになるぐらい綺麗な人。あれこそ女神の美しさだ。

 親父は町工場ぐらいの社長だけど、クラシック・カーのレストアやってる関係で、いわゆる金持ち連中との付き合いもあるのよね。そりゃ、クラシック・カーを買って、それの修理費用を出すぐらいだからね。

 もちろんクラシック・カーが好きだからある意味同好の士だし、レストアしたって、また修理が必要になるから、自然と親しくなるぐらいでイイと思う。ユッキーさんというか、小山社長の話のソースはそこだと思うけど、

 「ミサトは小山社長のことをユッキーさんと呼んでるな」
 「そうだよ。月夜野副社長はコトリさんだし、夢前専務はシノブさんだし」

 親父はウンウン唸りだしちゃったんだ。

 「これは伝説みたいなものだが・・・」

 ミサトには信じられないけど小山社長は氷の女帝と呼ばれるぐらい、それはそれは怖い人だって言うのよね。要するに気軽に声なんて掛けられない人ぐらいだったで良さそう。だけど、特別に認められた人だけが『ユッキー』と呼べるんだって。

 「特別って誰なの?」
 「それもよくわからなくて・・・」

 とにかくプライベートも謎に包まれた人らしくて、交友関係は愚か、住所さえ不明だって言うのよね。

 「でも北六甲乗馬クラブの人も、お客さんもみんな『ユッキーさん』って呼んでたよ」
 「だから驚いてる」

 その時にわかった気がした。ユッキーさんがどれほど北六甲乗馬クラブを愛して大事にしていたか。どれだけあそこで過ごす時間を大切にしていたかを。そこから親父は噛みしめるように、

 「ミサトにはちょっと早いかもしれないが、この際だから知っておいても良いかもしれない」

 親父はゆっくりと話し出したんだけど、

 「エレギオンとの取引は、それは、それは、厳しいものだそうだ。ちょっとでも手落ちがあったり、まして手抜きなどしようものなら、必ず見つけ出すって言うぐらいだ。だからエレギオンの担当になった者は命を削るとまで言われているらしい」

 そんなに厳しいところと無理に取引しなくとも、

 「どこも必死になって取引関係を結ぼうとしてるよ」

 どうもエレギオンと取引しているというだけで、どの業界でも飛躍的に信用が高くなるんだって。逆に切られようものなら、一遍に信用を落とすぐらいで良さそう。小山社長は外にも内にも氷のような信賞必罰で、その判断に義理人情の余地がゼロとまで呼ばれてたらしい。

 「でもそこまで怖い人に付いて行けるの」
 「エレギオン・グループの小山社長への求心力は想像を絶するほどで、鋼鉄の団結とまで呼ばれてるそうだ」

 二重人格みたいな人だな。

 「その点は誰もが不思議がっていたが、お父さんはやっとわかった気がする」

 お父さんが言うには仕事では氷の女帝だけど、温かい血が確実に通っていたからだろうって。その温かい血とは、

 「ミサトも知ってるユッキー先生だよ。あれこそが本当の小山社長の姿で、どんなに氷の女帝をやられても、自然に伝わったんじゃないかなぁ」

 加えて、ユッキーさんが『ユッキー』と呼ばせている人も二種類いるんだろうって。一つは肩書も名前も伏せて付きあっている人々で、北六甲乗馬クラブがわかりやすいかな。もう一つは小山社長だと知って呼ばせていた人々。えっ、それって、それって、

 「わかってくれたみたいだな。霜鳥常務は小山社長の正体を知らせた上で、ミサトに小山社長だけでなく、月夜野副社長や夢前専務の肩書を伏せてくれるように頼んでるだろ。あれはミサトをそれだけ信用したからだ」

 そこまで信用されても・・・だったら、もしバラしたりしたら、

 「女神は逆らう者を決して許さない。逆らった者の末路は悲惨だそうだ」

 そんな脅迫みたいなものはイヤだよ。一方的に押し付けて、破ったら制裁なんて、聞かされたミサトが損なだけじゃない。そしたら親父はミサトを羨ましそうに見て、

 「女神は信用した人間に対して確実に恵みを与えてくれる」
 「それって困った時に助けてくれるって霜鳥常務のお話」
 「そうだ。女神の言葉に裏表はない。口に出したことは必ず実行するそうだ。これはたとえアメリカ大統領相手でも同じと言われてる」

 ここで親父は一息置いてから、

 「ただ安易に頼るな。そういう種類の人間は一番嫌われるそうだ。だがミサトが本当に困り、他の助けではどうにもならない時は、エレギオン・グループの総力を挙げても助けてくれる」

 親父の話を聞きながら、ユッキーさんがミサトに授けようとしたものが、わかった気がした。ユッキーさんはミサトの家庭教師が中途半端になったことを悔やまれていたんだ。だから埋め合わせをしたいと考えて、女神の恵みを与えようとしたに違いない。

 それが困った時の助け。でも、それをするには自分の本名と肩書を明かすだけでなく、困った時に駆け込めるようにコトリさんや、シノブさんの正体まで明かし、霜鳥常務まで使者に立てたんだよ。

 ミサトはタダの高校生だよ。家庭教師だって、エミ先輩のついでだし、ボランティアじゃない。なのに、なのに、そこまでユッキーさんはミサトのことを。

 「うぇ~ん」

 霜鳥常務の約束通りに家庭教師が手配された。エレギオン・グループが選び抜いたはずだから優秀なんだろうけど、ユッキーさんと較べたらプロとアマぐらいの差があった気がする。それでも頑張ったよ。勉強は自分でするものだってユッキーさんも言ってたもの。そしてついに、

 「ミサト、合格だ」
 「やったぁ」

 心の中で何回も、何回もユッキーさんに頭を下げたの。だってユッキーさんのお墓がどこにあるかさえ教えてくれなかったもの。コトリさんや、シノブさんにも知らせたかったけど、怪鳥事件以来、北六甲乗馬クラブにも顔を出されていないみたいだから連絡のしようもなかったんだ。

 よほどポートアイランドのエレギオンHD本社に行こうかと思ったけど、さすがに敷居が高すぎた。そう思った時に気が付いた。エレギオンの女神の助けを必要にする困った事のレベルを。その敷居を乗り越えてでも助けが欲しいぐらい困った時なんだよきっと。

ミサトの不思議な冒険:ミサト

 みんな覚えてる? ミサトだよ、尾崎美里。二年前の写真甲子園の優勝メンバーのミサト。翌年はミサトが部長になって頑張ったけど、残念ながらブロック予選で敗退。あれは悔しかった。

 「ミサト、おかえり」
 「今度はなに」
 「シルビアのS13だ」

 ミサトの家は尾崎自動車なんだけど、クルマの販売やっている訳じゃなくレストアやってる変わり種。爺さんの時は普通に販売・整備・修理やってたらしいけど、親父が手がけたクラシック・カーのレストアが評判を呼んで、今やそれ専門。

 クラシック・カーのレストアはとにかく手間とヒマがかかるんだよね。パーツだって、とっくの昔に売られていないものだから、八方手を尽くして探さないといけないし。それでも手に入らなければ自作までやらなきゃならないみたい。

 傷んでるというか、下手すりゃ鉄くずみたいな状態だってよくあるから、なんかクルマを作っているように見える時さえあるもの。

 「状態は良さそうじゃない」
 「イイや、錆はかなりだ」

 そんな状態でもレストアしてしまうのが親父の腕だし、それを見込まれての依頼も多いけど、こなせる仕事の量が限られてるから経営はラクじゃなさそう。

 「ミサト、おやつは置いてあるからね」
 「は~い」

 お母ちゃんは事務・会計担当。親父のレストアの腕は確かなものだけど、さすがに一人じゃすべて出来ないんだよね。だから従業員を何人か雇ってるけど、こういう商売だから誰もが専門の職人さん。

 はっきり言わなくても気難しいところがあるみたいだけど、それをまとめているのがお母ちゃん。お母ちゃんも変わっているところがあって、ガチガチのクルマ好きで、親父が手がけたレストア車に感動して結婚したって聞いたことがある。

 だからかもしれないけど、経営がラクじゃないのも苦にしないぐらいかな。レストアが終了するたびに飛びあがって喜んでるぐらいだもの。娘から見ると、うちの商売は完全に道楽で、道楽だからこそあれだけ熱中してるように見えちゃうのよね。そのせいかもしれないけど、ミサトについては基本的には放任教育。口癖のように、

 「ミサトは好きなこと、やりたいことをやればイイ」
 「ただしカネはない」

 だからミサトがカメラに熱中しても文句ひとつ言ったことが無い。摩耶学園への進学はさすがに言いだしにくかったけど、

 「心配するな。ミサトが行きたいのなら、それぐらいはなんとかする」

 ちょっと不安だったけど、親父も母ちゃんもレストアしやすい依頼に切り替えてた。そうすると収入は良くなるのだけど、さすがにミサトの心が痛んだよ。親父もお母ちゃんも好きなのは、とにかく手強いクルマ。この尾崎自動車でしか出来ないレストアが趣味みたいなものだったから。

 「お父ちゃんも、お母ちゃんもレストアが好きで、これさえやってれば文句はないけど、ミサトには迷惑かけてると思ってる。そやから、ミサトが大学出るまでは商売でやる。これでも親やからな」

 そうそうミサトは一人娘。エミ先輩のところとちょっと似てるけど、お母ちゃんはミサトを産んだ後に子宮頚癌になっちゃって、子宮を取らざるを得なくなっちゃったんだ。

 「死なずに良かったわ」

 お母ちゃんは笑い飛ばしてるけど、その頃は大変だったって親父に聞いたことはある。

 「兄弟姉妹がいないのは寂しいと思うが、母無し子にならなかったから良かったとしといて」

 ミサトも進学を考えているけど、志望は西宮学院。内部進学で摩耶学園大もありだけど、中学から摩耶学園だから他の世界も見てみたいぐらいかな。ただ内部進学をやらないとなると、受験勉強が必要になるのだよね。

 エミ先輩は港都大を目指していて、家庭教師まで付いてたのよね。そのせいか学年でもトップ・クラスの成績になってるのよ。どんな先生か聞いて見たら、

 「うちのお客さん。お願いしたらボランティアでやってくれたの」

 ミサトも紹介してもらって頼んだら、

 「ついでだから、やってあげる」

 ユッキーさんって言うのだけど、歳の頃なら二十歳過ぎで大学生かと思ったら社会人。それも会社員ではなくて、学生の頃からベンチャーやってて社長さんって聞いてビックリした。

 このユッキーさんの家庭教師だけど、親切で優しいのだけど、そりゃ、もう厳しいのよね。やり方はシンプルで、ミサトの学力に合せた宿題をさせていくのが基本だけど、少しでも手を抜くと全部見抜かれちゃうの。

 「ミサトさん、手抜きをすると辛くなるのはあなたよ」

 その代わり、真面目にやれば見る見る学力が付いてくるのはヒシヒシと実感するぐらい。家庭教師をやってもらっていたのは、エミ先輩の北六甲乗馬クラブだったけど、親父も気を使って、

 「ボランティアではいくらなんでも」
 「これぐらいはお代のいるような仕事ではありませんから」

 このユッキーさんの家庭教師だけど、高一の二学期の終りから始まったのだけど時々、

 「悪いけど、次は仕事があって無理だから・・・」

 ボランティアだし本業は社長だからしかたがないと思ってた。もちろん休んだ分の埋め合わせもしてもらってた。これはエミ先輩が卒業して港都大に進学してからも続き、その頃にはミサトの家に変わってたけど、親父とお母ちゃんの会話が耳に入ったんだよ。

 「どうも似てる気がする」
 「他人の空似じゃない。それにあんなに若いし」
 「でも、若く見えるって言うし」
 「いくらなんでも若過ぎでしょう」

 ユッキーさんが誰に似てるって言うのだろう。そりゃ、ユッキーさんはびっくりするほど綺麗な人だけど、芸能人に似てるのはいたっけと思ったぐらいだった、


 さてだけどミサトが高二の正月頃から世情は騒然とし始めてた。高二になった頃から興味本位で騒がれていたメキシコの怪鳥の実在が確認されたからなのよ。この怪鳥だけど化物のように巨大化して、今や怪鳥と言うより怪獣みたいなもの。

 別に火を噴いたり、怪光線を発射したり、無暗に街を破壊したりしないけど、とにかく猛烈に食べるし、そのうえ頭が良いらしい。それと人間の食糧ばかり食べ漁るのよね。そうなると退治しようになるけど、これがムチャクチャ強い。メキシコ軍も大損害を受けたし、アメリカもNORADが襲われたりしてた。

 メキシコを食い尽くした怪鳥は南米に移動したけど、そこでも食べる。食べる。ブラジル軍も、アルゼンチン軍も頑張ったけどまったく歯が立たず、このままでは世界の食糧危機が来るのは確実って感じになってた。

 アメリカも南米から北上されたら大変な目に遭うから、核を使ってでも退治しようと東太平洋に艦隊を展開させてたけど、これも怪鳥に襲われて大損害を喫したらいしいって。世界は怪鳥が南米からどこに動くか注目してたけど、これが西に動いたのよね。

 ニュージーランドもオーストラリアもひどい目にあったんだけど、次に怪鳥がどこに動くかで世界はパニック状態になったとしてもイイと思う。タイの米を狙うって説も出てたし、インドのカレーも有力だったし、中国で中華料理を楽しむはずの説もあった。

 というか、あの勢いで食べられたら、いずれは自分の国に飛んできて、食糧を食い尽くされて飢えるのは間違いないもの。日本の順番は遅いのじゃないかと期待する声もあったけど、日本も食糧輸入国だから、この調子だったら日本に怪鳥が来る前に飢え死にしちゃうものね。

 世界中がパニック状態になってたのだけど、怪鳥はオーストラリアでついに倒されたのよ。アメリカは怪鳥退治のためにオーストラリアに大軍を派遣し仕留めちゃったの。この怪鳥派遣軍を率いたのがロジャー・リー将軍。

 リー将軍は世界を救った英雄として称えられた。ニューヨークの凱旋風景は世界中に中継されて、英雄リー将軍を一目見ようとミサトもテレビにかじりついてた。格好良かったし、しびれたよ。これで世界に平和が戻ったはずだったんだけど。