渋茶のアカネ:アカネの採用秘話

 サキ先輩の退職騒動が収まってくれて嬉しかったんだけど、サキ先輩の抜けた穴を埋めるのは大変。マドカさんはアカネも通った下働き修業過程で役に立つどころか、足を引っ張るばっかりだし。

 でもサキ先輩もアカネが足を引っ張りまくっていたのを、文句ひとつ言わずに支えてくれてたんだと良くわかったもの。そうそう、サキ先輩が抜けちゃった後にマドカさんから言われたんだけど、

    「アカネ先輩はこれで麻吹先生の筆頭弟子ですね」

 マドカさんはいくら言ってもアカネを『先輩』って呼ぶから困ってる。麻吹先生も他人行儀だからツバサ先生って呼ぶように言っても、

    「それはマドカが麻吹先生に認めて頂いてからにさせてもらいます」

 赤坂迎賓館スタジオの徒弟修業って『どんだけ』って思うぐらい。オフィス加納はそんな堅苦しいところじゃないといくら説明してもムダみたい。筆頭弟子もそうで、サキ先輩がいなくなりゃ、ツバサ先生の弟子は二人しかいないんだから、筆頭と二番しかいないだけなんだけどなぁ。筆頭弟子になにか意味があるのか聞いたんだけど、

    「弟子の頂点でプロに一番近い地位です。なにより先生に直接指導して頂けます」

 撮って持ってきゃ、ツバサ先生はホイホイ見てくれるっていくら言っても、

    「それはアカネ先輩だからです」

 こういう教育もアカネの仕事なんだろうか。マドカさんから見るとアカネはよほどの扱いを受けてるように思えるらしくて、

    「だってオフィス加納に、他のスタジオ経験なしで入門を許されるなんて信じられません」
 これも言われてみて気が付いた。マドカさんもそうだけど、サキ先輩も、カツオ先輩も他のスタジオの経験者だものね。ツバサ先生はアカネの何を見込んで弟子にしてくれたんだろう。

 そりゃ、さあ、誰でもホイホイ弟子にするスタジオだったらわかるけど、ツバサ先生も、サトル先生もなかなか弟子を取らないじゃない。アカネの前だって二人だけだし、アカネの後もマドカさんだけ。昼休みの時にツバサ先生に聞いてみた、

    「一つ聞いてもイイですか」
    「なんだい」
    「アカネのどこを見込んだのですか」

 そしたらツバサ先生は笑い出し。

    「アカネは拾いものだった」
    「はぁ?」
    「あの時に面接に呼び出したのはアカネじゃなかったんだ。それがどこをどう間違えたのか来たのはアカネ」

 なんだって、なんだって、アカネは間違って呼ばれてたなんて、

    「事務の方も追い返しましょうかって言われたんだけど、さすがに失礼過ぎるんじゃないかって話になって、形だけでも面接だけはやろうって話になったんだ」

 形だけってなんちゅう扱い。そういえば部屋に通されてからエライ待たされたんだけど。

    「ああ、あれ。サトルがせめて応募の写真でも見ておこうって言い出したんだけど、とっくにボツにしてたみたいで探しても見つからなかったんだ」

 えっ、えっ、アカネは本当はボツだったってか。

    「仕方がないからロー画像を見たんだけど、サトルが妙に興味を持ってね」

 たしかにそんな感じだったけど。

    「なにか光るものがあったんですね」
    「ちがうよ。アカネも緊張してたんだと今なら思うよ」
    「どういう事ですか」
    「そっか、未だに気づいてないのか」

 ツバサ先生の部屋に連れたかれたんだけど、しばらくあれこれ探して、

    「あった、あった、これだよ」
    「これは弟子入り志願の時に持ってきたロー画像ですが」
    「そうなんだけど、いっぱい他にもあったんだ」
    「あっ、ダメ、絶対ダメ、それを見たらダメェェェ・・・」

 なんちゅうこと。USBで持って行ったんだけど、他の写真もテンコモリ。それもアカネの百面相写真じゃない。

    「笑うのをこらえるのに苦労したから、とりあえず外に撮りに行ってもらったんだ」

 えっ、えっ、あれは写真を評価したんじゃなく、笑うのをこらえるのが大変だったから、アカネに席を外させただけだとか。

    「それじゃ、アカネの採用は外で撮って来た写真が決め手になったんですよね」
    「ちがうよ。あれじゃ評価の内にも入らない素人写真」

 ギャフン。

    「決め手は百面相写真。あれってホントに百枚ぐらいあったじゃない。あれだけの百面相を工夫できる点が面白いと思ったんだ」
    「どういうことですか」
    「写真の技術ぐらいなら後からでも叩き込めるじゃない。プロが本当に必要なのはユニークな発想力だよ。それをアカネに教えてもらった気がしてる」

 アカネが評価されたのは写真の腕じゃなかったんだ。

    「でも、さすがに手がかかった」
    「そんなに下手だったんですか」
    「そりゃ、次の年に弟子を取れないぐらい手間がかかった」

 これまたギャフン。だから拾いものか。ちょっと待って、ちょっと待って、『拾いもの』ってことは今は良くなってるってことだよね。

    「先生、今はどうなんですか」
    「うん、わからないかなぁ。前にアカネが高校の同級生と喧嘩したじゃない」

 けしかけて写真勝負まで持って行ったのはツバサ先生だけど、

    「あの男の写真の評価は低かっただろ」
    「そうなんですよ、あんなヘタクソになってると思いませんでした」

 ツバサ先生は笑いながら、

    「それほど悪い写真じゃないよ。あの男も祝部先生のところで、ちゃんと勉強していたんだ。ちなみにあの写真教室ではダントツだよ」
    「なんちゅうレベルの低い写真教室」
    「そうじゃないよ、アカネがそれだけ伸びてるってこと」

 実感ないけどなぁ、

    「まだわかんない。マドカとあの男とどちらが上だ」
    「そりゃ、マドカさんの方がずっと上です」
    「それぐらいマドカの写真は上手いって事だよ、わたしが見込んで弟子にするぐらいにね。あれだけ撮れればどこのスタジオでも一発合格するよ。そんなマドカの写真をイマイチって感じるぐらいにアカネはもうなってるってこと」
 へぇ、上手くなってるみたい。

渋茶のアカネ:なんとかしなくちゃ

 サキ先輩は次の日も休んで来なかった。ツバサ先生には追うなと言われたけど、あれだけお世話になってるんだ、このままには出来ないじゃない。仕事が終わってからサキ先輩のアパートを訪ねたんだ。玄関に入ったらビックリした、ビックリした、部屋中段ボール箱だらけ。

    「サキ先輩これは・・・」
    「明日にも退職届を持っていくつもりだけど、この際だから心機一転で引っ越ししようかと思ってさ。ここにいると写真への未練が残っちゃうし」
    「辞めたらダメです」
    「そうだ、そうだ、イイものあげよう。えっと、どこだったっけ、あった、あった。中古で悪いけど、良かったら使ってくんない」

 出されたのはサキ先輩の愛用のカメラとレンズ、

    「いやぁ、アカネのカメラは気になってたんだ。あれも悪いとは言わないけど、やっぱり道具は大事だよ。弘法は筆を選ばずって言うけど、やっぱり少しでも良い道具を使う方が上達も早いと思うよ」
    「そんなもの、もらえません。それにカメラがなくなったら写真が撮れなくなるじゃないですか」
    「プロにならないんだったら、こんな御大層なカメラはかえって不便ってこと。もっと軽いのにするわ」

 ここまで割り切るのにどれだけかかったんだろう。串カツ屋でアカネに話をするまで悩みまくってたに違いないもの。

    「そうそう、サキもアラサーだから男を探さないとね。アカネも気を付けときなさいよ。カメラに熱中するのもイイけど、適当に見つけとかないと大変だから、あははは」
 ツバサ先生はサキ先輩に写真の才能は無いって言ってたけど、アカネはそうは思えないのよ。でも、ここまで割り切ってしまってるサキ先輩に泣き落としをしても通用しないだろうし、それでたとえオフィスに戻っても辛いだけだろうし。どうしたら、どうしたら。

 部屋の中は引っ越し準備中で、物が散らばってる状態。ふと見ると一枚のDVDが目についたんだ。なになに映研文化祭記念って書いてあるけど、

    「先輩、これは」
    「あ、それ、高校の時のやつ。片付けてたら出て来たんだ」
    「映研って、映画研究会ですよね」
    「あれ、話してなかったっけ。うちの高校に写真部はなかったんだけど、なぜか映研はあったんだよ。写真部の代わりってわけじゃないけど、似たようなもんだろうって入ってたんだ」

 映画と写真は似てるけど違うと思うけど、映研しかなければアカネも入ってたかもしれない。

    「映画も撮ってたんですか」
    「小さな部だったから何でも屋だよ。撮影が多かったけど、監督・脚本・演出から、役者もやってた。でもさぁ、なぜかヒロイン役はさせてくれなかったんだ」
    「こんなに綺麗なのに」
    「あははは、お世辞でも嬉しいよ」

 高校とはいえかなり熱中してたみたい。

    「おもしろかったですか」
    「そりゃね。おもしろくなければ、トットと辞めてたよ」

 そこから高校時代の映研の話で盛り上がり、

    「・・・でさぁ、でさぁ、編集はパソコンでやるんだけど、あのソフトってムチャクチャ重いのよね。部室にあったパソコンじゃ能力が低すぎて、何回フリーズしたことか。フリーズしたら、そこまで編集した分がパアになっちゃうじゃん。文化祭の前日に三回もフリーズしやがって、徹夜でやってたよ」
 なるほど、大昔みたいにフィルムで録ってる訳じゃないから、ビデオとパソコン編集だけでもかなりのものが作れた感じかな。せがんで見せてもらったんだ。これがね、良く出来てるの。

 高校生の作ったものだから手作り感に溢れてるけど、ストーリー展開が意外性に富んでるし、演出だってオーバーアクションでおもしろいと思うのよね。なによりその映像。どう言えばイイのだろう、写真で言うなら構図が秀逸。写真と違って動画は動くんだけど、登場人物が活きてるんだ。

    「先輩が撮ったのですか」
    「さっきヒロイン役が当たらなかったって言ったけど、撮影役を押し付けられちゃったからなのよ。ついでに演出もね。脚本だって結局サキが書いてたようなものだし」
    「じゃあ、ほとんど先輩が作ったようなもの」
    「所帯が小さかったからね」
 この時にアカネは閃いたの。これはまだまだ構想段階なんだけど、オフォスでも動画部門に進出すべきじゃないかの意見があるのよね。IT時代に写真一本で食べていくのは厳しいんじゃないかって。

 メインはあくまでも写真というか静止画だけど、動画や音響を組み合わせていくのも今後は必要になっていくんじゃないかって。それって映画じゃないかと思わなくもないけど、動画的な要素が求められていくのはなんとなくわかる。

 ただやるとなると機材もそうだけど、人がいないんだ。そりゃ写真スタジオだから、写真の専門家はいても動画の専門家はいないもの。ツバサ先生ぐらいなら出来ちゃいそうだけど写真で手いっぱいだし。

    「サキ先輩、辞めないで下さい」
    「明日にも退職届持っていくつもりだけど」

 そりゃ必死になって宥めまくった。

    「サキ先輩には絶対に才能があります。アカネを信じて下さい」
    「アカネがそこまで言うなら、ちょっとぐらいは待ってもイイよ」

 拝み倒すようにDVDを借りて帰った。翌日の仕事が終わった後にツバサ先生のところに、

    「先生、見てもらいたいものがあります」
    「写真か」
    「いえ、動画です」

 『?』って感じだったけど、アカネの気迫に押されたのかそれ以上は何も言わずに見てくれた。どうもパロディーらしいんだけど、アカネじゃモトネタ知らないのが多くて、どこが面白いかわかんなかったけどツバサ先生は涙流して笑ってた。

    「そうそう、こんな感じ」
    「いやぁ、このシーンはよく再現できてるね」
    「おっと、こう来たか。あの頃はこれで泣いてたんだよね」
    「いやぁ、懐かしい。みんなこれやってたものね」

 ムチャ受け。映画が終わって。

    「サキが撮ったものだね」
    「はい」
    「アカネは行ったんだね」

 背中に冷汗がベットリ。追うなって言われたのを破ってるから怒鳴られるのを覚悟していたら、

    「わたしとしたことが、この才能は見抜けなかった。サキの才能は静止画じゃ死んじゃうんだ。動いてこそ生きて来るんだ。サキの写真に対する違和感の原因はこれだったとやっとわかった」
    「ツバサ先生、サキ先輩に動画を担当させて下さい」

 アカネは土下座して頼んだんだ。そしたら、

    「アカネの目はユニークだよ。人が思いつかないものが見えるんだ。いや、見ようとしないものが自然に見えるとした方がイイかもしれない」
    「ではサキ先輩は」
    「ああ、頑張ってもらう」

 サキ先輩はオフィス加納の動画部門の担当者になったのだけど、

    「とりあえず専門学校で勉強して来い。知識と技術のアップデートをしないと始まらない。ここでするには機材が無さすぎるし、わたしも指導まで手が回らない。楽しみに待ってるよ」

 サキ先輩は留学扱いになって専門学校で一年間ほど勉強して来ることになったんだ。しばらく会えなくなるのは残念だけどサキ先輩は、

    「アカネ、イイ機会だから男も捕まえてくるね」

 そういって颯爽と出て行かれました。それを見送りながら、

    「サキ先輩なら必ず期待通りの働きをされます」
    「そればっかりは、やってみないとわからないけど、イイもの持ってるよ。あれだけの才能はそうそうは転がってないぐらいは言える」
 ツバサ先生もサキ先輩を相当買ってるよう。

渋茶のアカネ:サキ先輩の憂鬱

 オフィス加納では弟子育成の方針として、とにかく真剣勝負の場に放り込んで鍛えるのが基本で、アカネがやっている商店街の仕事もその一環。あんな小さな仕事を受けてるのは近所づきあいの意味もあるけど、弟子の育成用のためでもあるでイイと思ってる。

 でも間違っても練習用じゃない。アカネの初仕事もそうだったけど、イイ仕事のためには足が出るのも厭わないんだ。サキ先輩やカツオ先輩に聞いたら、やり直しは当たり前だって聞いたし、それでも気に入らなければツバサ先生やサトル先生が自分で撮ってたって言うもの。

 信じられる。あのツバサ先生がスーパーのチラシ用の特売の牛乳パックの写真を撮るんだよ。そりゃ、弟子はそうさせないように必死になるのは当然じゃない。オフィス加納での真剣勝負の場での育成とはそういうことなの。

 ちなみに次のステップはサキ先輩がやってる仕事。簡単にはオフィス加納の本気の収益業務のグンと依頼料の高い仕事。見てて羨ましいし、アカネも早く撮れるようになりたいって頑張ってる。


 この弟子の修業期間は、とくに決まってはいないみたいだけど、サキ先輩が聞いたところでは五年ぐらいが一応の目安らしい。それぐらいでモノにならなければ他の道を探すように言われるぐらいかな。

 これは必ずしもカメラマンをやめろって意味じゃなく、フォトグラファーの世界を目指すのは無理だって意味で良さそう。カメラマンも色んな方向性があるから、たとえば報道とか、珍しい花とか動物を探し出して撮るとか、写真館みたいなところで結婚式とか成人式、七五三を撮るとかもあるの。

 そういう方向性なら求められるのは技術で、技術だけならオフィス加納に五年もいれば鍛え上げられると見て良さそう。フォトグラファーになるのが難しいのは、技術は当然だけど芸術が求められる点なのよね。画家とか彫刻家みたいなものと似ているで良さそう。絵が上手い人は世の中にたくさんいるけど、プロの絵描きで食える人はほんの一握りだもんね。ツバサ先生の言い方だったら、

    『最後の関門は自分の世界を切り開けるかどうか』
 これは言い換えれば他人には撮れない写真を撮れるようにならなきゃいけないとも言える。わかりやすいのはツバサ先生の光の写真。あれは亡き加納先生とツバサ先生しか撮れないウルトラ・テクニック。

 サトル先生の渋い写真もそう。とくに女性の写真なんて凄くて、華やかじゃなく艶やかなんだ。まさに写真から色気が匂い立つって感じ。アカネもちょっと真似したことあるけど、渋いのはある程度は真似出来ても、どうしたらあんなに艶やかになるのか理解不能だもの。

 芸術系の宿命で最後の最後は本人が持っている才能になる気がしてる。努力だけで越えられない壁としても良いかもしれない。たぶんだけど五年頑張っても自分の世界を切り開ける目途も立たなければ、何年やっても同じぐらいとされてる気がする。アカネにそんな才能があるかどうかだけど、今はあると信じて頑張ってる。


 サキ先輩はアカネより入門年次が一年早いから四年目。さっぱりした姉御肌で面倒見が良くて、アカネもどれだけお世話になったかわからないぐらい。歳はバラしたらいけないかもしれないけど、きっちり大学を卒業されて、他のスタジオで四年間勉強されてるからもう三十歳になられる。

    「アカネ、ちょっと付き合って」

 週末の仕事帰りに商店街の串カツ屋に。学生相手の店で、安くてボリュームがあって美味いので、いつも大賑わいのお店。串カツにビールは最高の組み合わせとアカネは思ってる。さてなんだけどサキ先輩の表情がちょっとどころやなく暗い。

    「もう四年目なんだ・・・」

 アカネが三年目だからそうなるけど、

    「アカネを見ていてわかった気がする」
    「なにがですか」
    「サキはしょせん押しかけ弟子だって」

 サキ先輩は情熱家でもある。なにしろ入門のためにオフィスの玄関で一ヶ月籠城してるんだもの。そのせいで、オフィス加納では押しかけての弟子入り志願はタブーになってるぐらい。

    「そんなことありませんよ、あれだけ上手なのに」
    「上手か・・・今だけならアカネより少し上手だけど、こんなもの差じゃないよ。時間の問題でアカネは追いつける」
    「その時間の間にまたサキ先輩は先に進むじゃないですか」

 あれっ、サキ先輩、ちっとも箸が進んでいないじゃない。

    「アカネ、先に進んだらどうなると思う」
    「どうなるって、ドンドン進んで・・・」
    「そう壁にぶち当たる。最大の壁にね」

 ふと気が付いたようにサキ先輩はアスパラのベーコン巻を口にして、

    「入門の時にツバサ先生にはっきり言われたの。サキにプロは無理だって。でもいつまでも籠城されたら迷惑だからって、お情けで弟子にしてもらったようなもの」
    「そんなぁ」
    「うふふふ、サキだって真に受けてた訳じゃないよ。絶対に才能はあるはずで、ツバサ先生に目に見えてないだけだって」
    「そうですよ、絶対にありますよ」

 今夜のサキ先輩は変だ。こういう時にこそ少しでも励まさなきゃ。

    「自分の才能はどこにあるんだろうって、ずっと探してた」

 アカネの才能ってなんだろう。考えたこともなかった。

    「それでね、やっとわかった気がする。才能は探すものじゃなくて持ってるんだって。カツオ君もそうだけど、それよりなによりアカネにね」

 えっ、アカネが、

    「柴田屋の仕事を見せてもらって痛感したのよ。こんなに差があるんだって。それだけじゃないわよ、ペンギンとかライオンもビックリした。あれはサキもやったけど、絶対に敵わないと思ったもの」
    「あんなのはアイデアだけのものです」
    「コロンブスの卵は、最初にやったコロンブスが偉大ってこと」

 サキ先輩のあんな寂しそうな顔を初めて見る気がする。

    「ツバサ先生にさ、ここのところずっと言われてるのは、
    『サキ、これで満足してるのか』
    サキなりに創意工夫の限りを尽くしたつもりだけど、言われたらわかるのよね。単に上手く撮っただけの写真だって。何かが足りないのよね。何が足りないかずっと考えていたんだけど、アカネの写真を見てわかった気がする」
    「アカネのはマグレ当たりです」
    「才能とは足りないものを最初から持ってるんだって。凡人は足りないことだけは気づくけど、それを得ることはできないんだろうって。アカネ、あんたの写真は悔しいぐらい光ってるよ」

 そうかなぁ。アカン、アカン、ここでアカネが喜んでどうするの。今日のアカネはサキ先輩を励ます役なんだ。

    「たったの四年じゃないですか。大器熟成って言葉もあるし」
    「それを言うなら『大器晩成』。ツバサ先生がアカネを弟子にした理由がよくわかったもの。ここまで見えてるんだって。アカネはプロになれるよ。でもサキは・・・」
    「サキ先輩も必ずプロになれます。アカネが保証します」
 アカネが保証したどころでサキ先輩が元気になるはずもなく、この夜は大変だった。アカネがいくら止めてもベロベロになるまで酔っ払い、カツオ先輩にも頼んでサキ先輩のアパートまで担ぎ込んでもらったのよ。もちろん心配だから朝まで介抱してた。だって、あんなに酔っぱらったサキ先輩を初めて見たんだもの。


 サキ先輩は週が明けても出勤してこなかったんだ。心配で見に行こうとしたらツバサ先生は、

    「ほっとけ。それより仕事だ」

 冷たいと思ったけど、ここでアカネまで抜けると仕事が回らなくなるのは現実で、アカネもサキ先輩の穴を埋めるためにフル回転。そしたら夜になってツバサ先生に呼ばれた。

    「・・・サキはそんな事を言ってたのか」
    「ツバサ先生、サキ先輩には才能がありますよね」

 ツバサ先生はじっと考え込んでから、

    「誰にでも才能はある。でもね、アカネ、その才能が写真に向いているとは限らないってこと」
    「アカネはサキ先輩に才能があるって信じてます」

 ツバサ先生はゆっくり立ち上がり窓に手をかけ、

    「サキには悪いことをしたと思ってる。あの時にホースで水をぶっかけてでも追い払っとくべきだった」
    「そんなぁ」
    「三年間もサキの人生を浪費させてしまったと反省してる」

 振り向いたツバサ先生は、

    「アカネ、だから追ってはいけない。ここに居たって悲しい思いをするだけだよ」
    「どうにか、ならないのですか」
    「アカネも覚えとくんだ。プロの世界は才能があってもダメな時はダメなんだ。才能のあるものが死に物狂いで競い合って生き残った者だけが食える世界だよ。そこに才能の無いものを引きずり込むのは罪深いことなんだ」

渋茶のアカネ:写真勝負

 まさかやらされる羽目になるとは思わなかったのよ。だってだよ、アカネは端くれでもプロだし、東野の腕は落ちてるし、そのうえアマチュア。勝って当然だし、インチキされて負けでもしたらアホらしいって頑張ったんだけど、

    「こういう修羅場もイイ経験だよ」

 勝負の場は祝部写真教室って事になって、ツバサ先生もどうしても付いて行くっていうのよね。そりゃ、付いて来てくれたら心強いけど、なんか子どもの喧嘩に親が顔を出すみたいな感じじゃやない。だから止めたんだけど聞いてくれなくて、

    「アカネ行くよ」
 見てビックリした。ツバサ先生、変装してるの。あれじゃ、余程知ってる人じゃない限りツバサ先生ってわかんないぐらい。なに考えてるんだろ。さて勝負の場になる祝部写真教室は元町六丁目の古いビルの中。

 元町商店街もかつては栄えていたんだけど、西の方から順番に寂れて行って、三丁目ぐらいまではまだしもなんだけど、六丁目ともなるとかなりって感じ。そのせいで古いビルの家賃が下がっていて、ビル全体が若手芸術家のアトリエみたいになってるところもあるのよね。祝部写真教室もそんなビルの一角にある感じ。

 入っていくと写真教室の生徒みたいなのがずらり。やな感じ、なんか道場破りに来ている気分。アカネがやってるのは写真であって武術じゃないんだけど。そしたら東野が、

    「アカネ、逃げなかったのは褒めてやる」
    「ふんだ、これぐらいのアウェイのハンデをあげても勝負になんかならないわよ」
    「言うか」
    「なにを」

 そこに祝部老人が、

    「勝負は人物写真とする。モデルは当教室の生徒だ。撮影条件はこちらで設定したものを使ってもらい、変更は禁止だ。つまり与えられた条件でカメラだけで撮ってもらう」

 えらい不利な条件じゃない。どうせそのモデルで、この撮影条件でトレーニングしてただろうし。それにアカネはペンギンとか、ライオンとか、トラとか、カルガモは撮ったことあるけど、まだ人物写真を仕事で撮っていないし。

    「なにか質問は」
    「相手のカメラをチェックさせて頂いて宜しいですか」

 先に撮ってるかもしれないものね。

    「御心配には及ばん。ここに新品のSDカードを用意してある」

 ほぅ、祝部老人もわかってるじゃない。目の前で開封して、マークを書きこんで、

    「双方のカメラをここに」

 そこで東野の野郎が、

    「あははは、アカネ、まだそんな初心者用カメラを使ってるのか」
    「悪いか。これで負けたら赤っ恥だぞ」
    「せいぜい頑張りな」
    「お前こそな」

 チクショウ、良いカメラもってやがる。これも勝負の前にツバサ先生に相談したら、

    『あん、アカネはプロだから、それぐらいハンデあげなきゃ』

 どんだけハンデあげるんだよ。アウェイだし、相手はトレーニング済みの撮影条件だし、カメラもアカネのは八年前の入門機だし、審判の爺さんだって東野の先生だし。

    「時間は三十分ずつとする。先攻は泉君でイイかな」

 またハンデ。撮影は教室の真ん中に座ってるモデルを撮るんだけど、全員が見てる前で撮るから、先に撮った方は相手の狙いとか見ることが出来るのよねぇ。それ以前に後攻だったら、東野が撮ってる間に作戦を考える時間があったのに。ツバサ先生を見ると涼しい顔してる。

    「始め」
 エエイ、ヤケクソだ。人物写真だから被写体の魅力を引き出すのがテーマだよね。さて、この女の魅力がどこかになるんだよね。あちゃ、ここでもハンデか。ニコリともしやがらない。そっか、そっか、どんな表情しようがモデルの勝手ってわけか。きっと東野の時にはニコニコ微笑むつもりなんだ。

 仏頂面のモデルが相手となると・・・うんと、うんと、そう言えばいたよそんな奴。あの時にツバサ先生がどう撮ったかというと・・・その手で行くか。時間もあんまりないから、真似させてもらおう。

    「終り」

 ふう、ふう、ふう。なんとかなったはず。それにしても一度ぐらい笑えよな。祝部老人にSDカードを渡して椅子に座ったんだ。ツバサ先生は相変らず涼しい顔。

    「始め」

 東野の番になったら、予想通りモデルの女は微笑み始めたよ。勝つためにそこまでやるかと思ったけど、東野の野郎、エライ緊張してるな。どうして、こんな座興みたいな写真勝負にあそこまで緊張するのか不思議だ。ありゃ、汗までかいてやがる。あんなに緊張したら、肩に力が入り過ぎるから良くなんだけど。

    「終り」

 東野の野郎、滝のような汗をかいてるじゃない。なんか変な病気か。東野も祝部老人にSDカードを渡して、さあぁ判定だけど。あの爺さん、いきなり、

    「判定は泉君の勝ちじゃ」

 えっ、えっ、写真も見てないじゃない。東野が抗議してる。そりゃ、するよね。逆の立場だったら、アカネだってするもの。祝部老人は東野の抗議を一切無視して、ツバサ先生のところに歩み寄り、

    「麻吹先生、本日は御多忙の中、座興に付き合って頂きありがとうございました」
    「お互い弟子を鍛えるのは大変ね」
    「ごもっともです」

 東野の野郎が豆鉄砲喰らった鳩のようになってた。

    「麻吹先生って、あの麻吹つばさ・・・」
    「そうじゃ、泉君はその愛弟子で、既に渋茶のアカネと呼ばれるほどのプロじゃ」

 渋茶は余計だ。でも、なぜ知ってるんだろう。帰り道で、

    「祝部さんはどうして写真も見ずに判定が下せたんですか」
    「あれだけ差があれば、プロならわかるよ」

 そうかもしれない。東野の奴、緊張の余りか、ロボットみたいな動きになってたものな。しっかし、ホームで、インチキ同然の必勝条件をあれだけそろえて緊張しすぎだろ。

    「東野の奴は緊張しすぎですよね」
    「あれ、こういうシチュエーションなら、あれぐらいは誰でも緊張するさ」
    「でもアカネは・・・」
    「アカネはあれぐらいじゃ、プレッシャーなんて感じないようにしてある」

 たしかに。それにしてもツバサ先生は、祝部老人の事を知ってたみたいだけど。

    「そりゃ、狭い世界だからね」

 まあ、プロとして食えてるのは少ないけど、

    「でもよく先生のことがわかりましたねぇ」
    「だからプロだって。これぐらいの変装ならわかるよ」

 そう言われれば、そうかもしれない。なんとなく祝部老人とツバサ先生が組んだ芝居を演じさせられた気がしたけど、これで高校以来の因縁の東野にリベンジ出来たようなものだからヨシとするか。

渋茶のアカネ:アカネの実力

 柴田屋のアカネ極渋茶の仕事の成功で、アカネにも仕事が定期的に回ってくるようになってくれた。と言っても、商店街の仕事だけど張り切ってやってた。相手は特売のパックの牛乳とか、洗剤だったけど、カネを稼ぐプロの仕事だもの。そしたらツバサ先生が、

    「そろそろ動くものを撮ってみようか」
 こう言ってくれたの。なんだろうと思ったら動物園のペンギンの撮影だった。あれも難しいんだ。とにかくオフィス加納の看板を背負わされてるから、ありきたりのものじゃツバサ先生が納得するはずないじゃない。

 ライオンとかトラはもっと難しかった。とにかく動いてくれなくて、開園から閉園まで頑張ってもダメ。頼み込んで閉園後から休園日まで頑張って、なんとか思うものが撮れた。水族館の大水槽の仕事もあったし。カルガモ追っかける仕事もあった。ツバサ先生のアカネの今の評価は、

    『アイデアの泉』

 泉はアカネの苗字に引っかけてのもの。作品が出来上がると、指導や指摘も入るけど、その前に、

    「おもしろいね。狙いがイイ。これは何を撮るかをしっかり理解していないと思いつかない」
 最近気になってるのはアカネの実力。どれぐらい付いてるんだろうってところなの。オフィス加納内では単純で、マドカさんの上ぐらい。つまりは下から二番目。外部の評価で手っ取り早いのはコンクールだけど、オフィスの内規で加納賞にも、麻吹賞にも応募できないのよ。まあ、これはわかるけど。


 そんな時にヒョッコリ会ったのが東野滋。こいつは中学の時から知っている。背は高いし、アカネの好みじゃないけど甘いマスクのイケメンってやつ。そのうえアカネが大苦戦した英語がペラペラ。教師よりよっぽど上手かった。

 理由は帰国子女ってやつ。中学校に入る前の三年ぐらいアメリカに住んでたみたい。ほいでもってスポーツも出来る。いわゆる本場仕込みのバスケってやつで、県大会まで行ってたし、県選抜にも選ばれてたはず。

 家も金持ち。東野工業っていえば二部上場の名の通った会社で、そこの跡取り予定。次期次期社長ってところかな。父親のアメリカ赴任に引っ付いて東野も行ってたぐらい。平たく言えばお金持ちのボンボン。

 高校は私学に行くと思ってたら、なんとアカネと同じ県立高校。もっともアカネは泣き泣き滑り込みで入ったけど、東野の野郎は余裕の単願。もっとも同じ学校だったけど、高校までは殆ど接点はなかったんだ。


 アカネは中学の時になかった写真部が、高校にはあったから勇んで入部したんだけど、なんと東野の野郎がいやがるんだ。アイツならバスケ部と思ってたけど、

    「あんな汗臭いものは中学までで十分。日本じゃプロになる意味もないし」
 まあ他人の勝手だけど、東野が入部したっていうだけで写真部の入部者が三倍になったって話だった。でもさぁ、でもさぁ、写真の腕で負ける気はなかったのよ。だってアカネは小学校からの筋金入りだし、東野は高校から始めたド素人みたいなものじゃない。

 でも悔しいぐらい東野には、写真の才能もあったと認めざるを得なかったの。アッと言う間にアカネどころか先輩たちも追い抜いてしまった感じかな。アカネも頑張ったけど、アカネが唯一賞を取った神戸まつり協賛写真展でも、一般の部の神戸市長賞を取ってたぐらい。ちなみにアカネは高校の部の入選。

 他にも県文化祭や、全国高校写真展なんかにずらりと入賞。ただの入賞じゃなくて、特選とか、なんとか賞とかゴッソリ。でもプロにはならなかった。

    「写真でメシを食うってか。夢見るほどバカじゃない」

 大学もアカネは辛うじて三明大、東野は余裕で港都大。二度と会うこともないと思ってたんだけどバッタリって感じで会っちゃったんだ。なんとなく大学を中退したのが言いにくくて適当に話を合わせていたんだけど、

    「アカネも写真続けてるのか」

 テメェに『アカネ』と呼び捨てされる筋合いはないと思ったけど、

    「部長も続けてたんだね」

 そう、東野は三年の時の部長。

    「今度、個展やるんだけど見においでよ。アカネの勉強になると思うよ。まあ、アカネのレベルじゃ、参考にもならないだろうけど」

 そう言われて案内状を渡されちゃってバイバイ。オフィスに帰ってからもムカムカしてた。東野を嫌いな点は才能を鼻にかけるところ。ちょっとは謙虚になればイイのに。出来ないやつを見下しやがるんだ。あの野郎の口ぐせは、

    『人間はサルより進化してるはずだけど、そうでもないのがいるのが良くわかる』
 そういや、カメラも散々バカにされたっけ。アカネのカメラは中学の時に泣き落としで買ってもらったもので、いわゆる初心者向けの入門機。でもデジイチだし、ちゃんと撮れるし、今だって使ってる。買い替えるカネがないのもあるけど、アカネのお気に入り。

 ところがところが東野の野郎は、毎年のように最新機種に買い替えてた。レンズだってアカネは基本セットのズームレンズ一本きりだったけど、あの野郎はカメラを買い替えるたびにゴッソリ買ってやがった。別にカネがあるから勝手だろうけど、

    「アカネ、腕の差もあるけど、そんなカメラじゃ、あははは」

 ウルサイわいと思たけど、勝てないから言い返せないものね。なんか東野ことを思い出すとムカムカして、オフォスで愚痴ってたらツバサ先生が、

    「アカネ、自分の今の実力を知りたいって言ってたね」
    「え、ええ」
    「その個展を見ておいで。アカネの実力がわかるから」
 そう言われちゃったからシブシブ見に行った。それにしても相変わらずカネ持ってるねぇ、イイとこ借りてるもの。ナンボしたんやろ。素人の趣味で開くには贅沢すぎるやろ。まあそれは置いといて、どれどれ、ふ~ん、こんな感じか。

 たしかに基本は守ってるし、小綺麗に撮ってるけど、東野の写真ってこんなもんだっけ。これもそうだけど、ピントの切れが甘いし、色の映えもイマイチ。こっちは構図がありきたり過ぎるし、こんなんじゃ、なにがこの写真のテーマかボケちゃってるよ。

    「アカネ、来てくれたんだね。勉強になるぐらいは写真の腕は上がったかい」

 だからあんたに呼びつけで呼ばれる筋合いはないって。カチンと来たから、お世辞抜きのホントの事を言ってやった。

    「大学に行って下手になったんじゃない。アカネだったらこんな写真を人様に見せて個展なんてやる度胸は無いよ」
    「アカネに何がわかる」
    「アンタじゃわかんないよ」
    「これは祝部先生が認めたものなんだ」
    「誰よそのハフリベって」

 大声の口論になったものだから人だかり、

    「そこまで言うならアカネの写真を見せてみろ。いや、撮り較べで勝負だ」
    「やだよ。そんなにアカネはヒマじゃない」
    「三流私大が忙しい訳ないだろう。尻尾を巻いて逃げる気か。この口だけ女」
    「なにを! 留年決定だからカメラで遊んでるんだろう。この高慢ちき男」

 同級生同士だからヒートアップしたところに一人の男がツカツカと。いくつぐらいだろ、頭は禿げちゃって、ヒョロッと細くて白い髭まで蓄えたご老人。なんか仙人みたいにも見えなくはない。

    「東野君、落ち着き給え」
    「はい、先生」

 名刺をもらうと祝部写真教室の校長って書いてあった。東野の写真の先生ってこのジジイだな。それにしても『ハフリベ』じゃなくて『イワイブ』とか『シュクブ』じゃないのかな。ようわからん。

    「この諍い、この老人に預けて頂けんかな」
    「どう預かるって言うのよ」
    「後日、撮り較べで決着はいかがかな。あなたも東野君の個展を乱したのだから、それぐらいは協力してもらっても良いはずじゃ」

 なんだ、なんだこの展開は。どっかの安っぽい料理勝負漫画みたいじゃない。でも、たしかに東野の個展を乱したのは間違いないから、その責任ぐらいはアカネにもあるのは、わからないでもないけど。でも、どうしよう。そうだ、適当に逃げを打っとくか

    「では追って祝部さんにご連絡で宜しいですか」
    「それで結構」
 ふんだ。こんなもの連絡しなければ、これでオシマイ。ああ気分悪かった。帰り道に思ったんだけど、東野も下手になったものやな。よくあの程度で個展を開こうなんて厚かましいにも程があるってもんだよ。

 それと、あの祝部って老人も勝負なんかさせる気ないやろ。本当にその気だったら、アカネの連絡先ぐらい確認するものね。まあ、勝負を条件にしないと東野の野郎も収まりが悪いぐらいだよ、きっと。ああいうのを年の功っていうんだろ。


 翌日になってツバサ先生から、

    「アカネ、どうだった」

 東野があんまりヘタクソになっていて参考にもならなかったって言ったら、

    「アカネはそう感じたのね」
    「そうですよ、時間の無駄でした」

 そこから東野と口論になった話をしたら、

    「へぇ、弦一郎ってまだ生きてたんだ。で、写真教室の校長か。まあ、それぐらいだろうな。それで写真勝負ってか。出来の悪い漫画のストーリーみたいじゃない」
    「そうなんですよ。勝負って言っても判定が祝部って人なら、東野の肩を持つに決まってるし」
    「まあ、普通はそうなるけど・・・おもしろそうだから、やってみたら」
    「ツバサ先生、冗談じゃないですよ」

 あちゃ、こういうもめ事は嫌いじゃなかったんだ。

    「そうだな、勝負だから立会人もいるよな・・・」

 まずい、ツバサ先生がその気になっちゃった。まさか喧嘩をやらかす気とか。

    「えっと、えっと、勝負会場に塩なんて置いてないだろうから・・・」
 うわぁ、その気マンマンだ。