続バイクも恋も若葉マーク(第5話)サンセットライン

 道の駅うずしからは北上するのだけど、淡路島の西岸を走ることになる。

「どうしてサンセットラインって言うのだろ」

 それは西側に海が広がってるから、そっちに太陽が沈むからだろうが。

「それでもなんとなくサンセットラインって雰囲気もあるよ」

 その理由も歴史街道マニアの梶本先輩に教えてもらったじゃない。古代の淡路は南海道に属していたんだって。南海道って四国四県と淡路と和歌山なんだけど、奈良に都がある時は、五条から紀ノ川に出て、そこから河口まで下って、加太から対岸の由良に渡ってたらしい。

「平城京からスタートならまず南下するのかって思ったな」

 加えて南海道を巡るルートだって考えたらそうなるとも言ってたな。平城京から南海道の和歌山への最短ルートは奈良盆地の南下だって。加太の西の海は紀淡海峡になるけど、友ヶ島もあるから島伝いに次の淡路に渡りやすいぐらいかな。

「淡路に寄る意味もあるものね」

 そういうルートだから加太から渡った先が由良になるけど、淡路で目指すのは淡路国府になるはず。この淡路国府の場所だけど、

「未だに特定されてないらしいけど、三原の方だったとはなってるから・・・」

 淡路って南の方に東に洲本平野、西に三原平野があって、三原平野の方に国府があったで良さそう。由良からなら洲本の方に海岸線沿いに北上して、そこから西に向かって淡路国府ぐらいだったはずだって。

 淡路国府からは徳島に渡ることになるけど、淡路国府からなら福良を目指すしかなくなって、福良から撫養とも呼ばれる鳴門に渡ったで良いみたい。だけどこのルートを朝廷の事情で変化したんだよ。

 桓武天皇は長岡京からさらに平安京に都を遷したじゃない。そうなると街道の起点も変わるから、加太まで南下するルートじゃなくて、古代山陽道の明石から岩屋にルートにチェンジしてるみたい。だから、

 明石 → 岩屋 → 洲本 → 淡路国府 → 福良 → 徳島

 これがメインルートになったぐらいだ。このルートは後世も受け継がれ、江戸時代には淡路往還と呼ばれていたとか。だけど江戸時代は四国と畿内のメインルートにはならなかったみたい。

 航海術の発達は徳島から大坂への直通便を成立させてしまったぐらい。だから徳島のお殿様の参勤交代ルートも淡路をスルーして大坂直行になってるんだって。

「商品輸送も大坂への直行便の方が有利そうだものね」

 人の往来もそうだろ。この辺は鳴門海峡も、明石海峡も潮の流れが激しいところだから、紀淡海峡から大阪湾に入った方が航海もやりやすかったのもあったかもぐらい。そんな交通の流れがまた変わったのが明治以降だってさ。

 汽船時代になると鳴門海峡や明石海峡を渡るのも容易になり、さらに輸送の主力がトラックにシフトしたぐらいで良いはず。そこで復活したのが淡路往還ルートで良いみたい。

「そう言えば神戸なり、大阪なりから徳島へのフェリーなんてないよね」

 あったかもしれないけど、淡路経由ルートに負けたんだろうな。そういうルートシフトの集大成が、

「明石大橋、大鳴門橋になる」

 淡路往還は国道になり整備されたけど、サンセットラインの整備は遅れたんじゃないかって。それは今日のツーリングでもなんとなくわかる気がする。道の駅うずしおから北上してサンセットラインを目指したけど、

「なんかゴチャゴチャしてたよね」

 アワイチは淡路島の外周を巡るルートだけど、道の駅うずしおから慶野松原までは一車線半だったものね。クルマはたぶんだけど、福良から三原平野を北上するから違うのだろうけど、

「バイク乗りもそうだけど、サイクリストの人も海岸線沿いを走りそうだけどね」

 架橋前は福良から岩屋に向かう国道は渋滞の名所みたいになってたそうで、これを回避するための裏道としてサンセットラインは使わてたかもしれないぐらい。だけど、こうやって走って見る限り、

「鄙びた田舎道だよね」

 裏道としてそれなりに栄えていたら、それらしい廃墟とかもありそうじゃない。当時の大型ドライブインの廃墟みたいなやつ。でもそんなものがあった気配をあんまり感じないのよね。

「だから県道のままだとか」

 そこまではわかんないよ。そんな話をしながらサンセットラインを北上してたんだけど、

「あれってなんだよ」

 大型のロードサイド店なんだけど、こういうのはあんまり見たことないな。道路の海側にとにかく横に長いのよ。

「気分はウェストコーストって事かな」

 なんかそういうコンセプトみたいなのが何軒もあるじゃないの。そうなったのは山が海に迫る地形なのもありそうだし、

「どうせなら海を見ながら飲み食いしたいはずよね」

 さらに繁盛してそう。駐車場はクルマで溢れてそうだもの。寄り道してみたいとは思ったけど、クルマの多さと、さすがにヘバッて来たのでパスだ。

「ここって岩屋からなら近いはずだから、ここだけ目指して来るのもアリじゃない」

 そういうお客さんも多い気がするな。やがて道にさらに海が迫るようになり、海沿いに道だけって感じになった。

「この辺の道路整備が遅かったかもだね」

 そうかも。どうみたって難所ぽいもの。今だってなんとか二車線だけど、昭和の頃なら一車線半も怪しかったかも。トラックとかになると敬遠したのかもしれないな。

「明石大橋だ♪」

 ついに淡路の北側まで来たぞ。岩屋はそこを回り込んだぐらいのところのはずだから、

「フェリーターミナルに到着。これでアワイチ達成者に名前を刻めたぞ」

 どこに刻むんだよ。それでもアワイチをしたことがあるって言うのは、バイク乗りにとってちょっとした勲章になるかも。たいした勲章じゃないだろうけど、

「呑吐ダムに行った事あるより上だ」

 バイク乗り同士の会話って、どうしたってどこに行った事はあるは出て来るんだよね。これは行ったらどうだったかとか、どうやって行ったかのの情報を知りたいのもあるけど、どこかにそこまで言ってるんだの自慢は入ってると思うんだよ。マウントを取るまで行かなくても、ちょっと自慢したくなる気持ちもわかるのよね。

「北海道まで行った先輩がいたけど、素直に羨ましいと思ったもの」

 そうだったよね。北海道なんて飛行機で行くだけでも羨ましいけど、自分のバイクでだものね。どこに行った自慢もやり過ぎると嫌味だけど、有名なツーリングコ―スを走ったことがあるのは、

『あそこに行ったんだ』

 とくに若葉マークだから、ちゃんとツーリングも楽しんでるぞってぐらいになるぐらい。全国に名ツーリングコースとされるところは幾つもあるけど、アワイチもその一つぐらいに数えられるはず。走ってみてなるほどって実感した気がする。快走路でもあるけど、とにかくあれだけ海が見えるのが良いよ。

「淡路島バーガーも美味しかった」

 淡路だから魚も美味しいはずだよね。また来ても良いかな。次の時はもうちょっと観光しても良いかも。岩屋からフェリーで明石に渡って、

「さてどうしよう」

 三時半ぐらいだけど、来た時とは道路状況が違うはず。国道二号も、さらに国道四十三号での神戸市街横断も、

「混んでるだろうな」

 休日の昼下がりで、そろそろ早めに家路に向かう人も多いはずだものね。あの辺を回避しようと思えば、

「国道一七五号に入って西神から山麓バイパスルートになるけど」

 それはアワイチを計画した時から検討はしたけど、

「正直なところ自信が無い」

 国道一七五号に入るには、フェリー乗り場から国道二号を西に走って行けばクロスするはずだし、国道一七五号を北上して行けばどこかで西神中央に行く道が示されてるはず。でもまだ走った事ないのよね。

 ミルと協議の末に来た道を帰ることにした。今から迷子はさすがに堪忍状態だもの。とはいえ、やっぱり予想していた通りに混んでた。

「垂水のアウトレットモールのところをなんとかしろよな」

 たっぷり渋滞も経験させられ、ヘトヘトになりながら神戸市街を横断。休日の市街地走行はウンザリだ。

「アワイチの帰りのルートも要検討だ」

 ツーリングのベテランの人ってあれこれ裏道とか、抜け道を知っていて、道路状況であれこれ使い分けるそうだけど、カノンたちの手持ちのルートはまだまだ少ないのよね。

「それを極めて行くのがバイク女子の醍醐味だ」

 醍醐味と言うより、若葉マークからの卒業過程だろ。

「淡路だってもっと道があるはずだものね」

 とにもかくにも、事故せずに無事に帰れて良かったよ。

続バイクも恋も若葉マーク(第4話)ランチタイム

 淡路島バーガーをパクつきながら気になる事を、

「先が長いのよね」

 南村先輩は三年で就活に励んでるけど、春になれば四年で来年は卒業だ。一方のミルはその時点で三年だから、卒業までまだ二年ある。この状況で最短となると、

「ミルの卒業の時で社会人三年目になるけど、まだ無理だろ」

 南村先輩の就職先にも依るだろうけど、社会人三年目でミルを専業主婦に出来るかと言われたら難しそうだ。そうなると共働きになるけど、

「それには何の不満もないけど、そうなると五年はラクにかかるじゃない」

 五年したって二十四歳だって言えない事もないけど、そこまで関係を続けなければならないのか。彼氏さえ出来たことが無いカノンには完全なる未知の領域だ。

「ミルだってそうだよ。歳だけなら二十五歳でも、二十六歳でも問題ないけど、その時点まで仮に関係が続いていても、結婚しようと言うパワーがあるかどうかの話になるじゃない」

 そこまで長い関係ってどんな感じになってるんだろうな。少なくともフレッシュさは無い気がする。あるとしたら腐れ縁の雪崩れ込みとか。

「どうしたってそうなりそうじゃない。それより、やっぱりそこまで関係が続くかは不安過ぎる」

 南村先輩はイケメンだものね。卒業してしまえば職場ラブだって花開きそうだ。ミルだって南村先輩が卒業してしまえば、

「そんな気なんて今はまったくないけど、ミノルが社会人になって逢う機会が減れば怖いよ」

 愛情って逢っていてこそ保たれそうなのは同意だ。社会人も新人の頃はとにかく忙しいって言うものね。逢う機会が減ってしまうとフェードアウトだってありそうだ。でもだぞ、そんな長い春を乗り越えてのカップルはいくらでもいるじゃない。南村先輩はどう言ってるの?

「それがね・・・」

 愛してると言ってくれるけど、その先についてはノラリクラリか。この辺は付き合ってからまだ半年ぐらいなのもあるだろうな。それに南村先輩だって結婚の時期を同じように計算してるかも。

 この辺は実感もクソもないけど、たとえば社会人五年目ぐらいを考えてたら、今から七年も先の話になるのよね。そうなるとミルとの関係だってどうなるかは不確定要素が多すぎるか。とりあえず今は第一候補だろうけど七年先になると。

「なんかそんな空気を感じてしまうことがあるのよ。同棲はまだ早いのはわかるけど、だからと言っていつ頃がノラリクラリなんだよ」

 そこに踏み込むと腐れ縁からの雪崩れ込みを心配してるかも。でもそれって、

「わかんないよ。とにかくミノルの卒業の時点が節目になりそう」

 恋人関係と結婚は連動こそしてるけど、その間は必ずしも一直線じゃないのよね。聞いただけでも紆余曲折の末ってケースはいくらでもあったはず。

「幼馴染ラブってこんな感じなのかな」

 そっちより高校生ラブに近いかも。高校生ラブも永遠に未経験になっちゃったけど、高校生ラブから結婚するのだって、それぐらい時間がかかりそうじゃない。ミルなら乗り越えられるよ。

「その気はあるのだけど、なんかさ、ホントにミルだけ見てるのだろうかって不安になることがあるのよ」

 それってあの噂を聞いてしまったとか。

「そりゃ、耳に入るよ。ミノルはモテるし、ミノルを狙ってる女だっていくらでもいるじゃない」

 ああ見えて南村先輩はプレイボーイで、泣かされた女が何人もいるって話だろ。でもそうじゃないって噂もあったぞ。ミルはどう感じているんだよ。

「だからわかんなくなって来てるのよ。ああいうものって、その気になって見ればそうかもしれないって受け取れてしまうじゃない」

 あちゃ、ミルはそうなってしまってるのか。彼氏なんか出来たことないからわかんないけど、女と男って難しいな。なんかもっとシンプルなものだって思ってた。

「そういうケースも多いんだろうけど、そうでないケースも多いぐらいのはず」

 そうなるのだろうけど、聞いてるだけでシンドイな。

「カノンだって時間の問題で経験するよ」

 カノンはシンプルなのが良いな。真っ直ぐな愛を正面からバチンと受け止める感じ。

「ミルもそうだと思ったんだけどね。あれかな、ミノルにしたらもっと軽いものだったつもりなのに、重そうだって敬遠し始めてるとか」

 カノンじゃ相談されても手に負えないよ。そりゃ、ミルは十九だし、まだ未経験だった。そういうところを軽く楽しみたかっただけの可能性はあるかもしれない。けどさぁ、十九でも結ばれたら次を考えるのはおかしくないだろ。

「ミノルが何を考え、何が欲しいのかってね」

 困ったな。もっとラブラブノロケを聞けるって思ってたのに。

「なにを期待してたのよ」

 そりゃ、生々しいやつ。そうだな、朝起きたらお日様が黄色く見えるとかだ。

「そっちの方なら・・・」

 げっ、南村先輩ってそんなに激しいの!

「まあね。長いのなら、金曜の夜から月曜の朝までもあったぐらい。月曜の朝はマジでお日様が黄色く見えたもの。でもあれだって・・・」

 愛し合ってるなら、どれだけ求め合っても良いのは良いだろうけど、

「なんかさ、ミルをトットと楽しみ尽くそうとしてるように感じちゃって」

 女と男が愛し合えばドッキングを目指すのはカノンだってわかる。もし彼氏が出来たら目指さないはずないだろ。つうかさ、そんな事も考えもできない相手を愛せるはずないじゃないの。

 ドッキングすれば熱中するのもわかる気がする。さすがに未体験だから感じるとか、ましてや感じ過ぎてどうなるかまではわかんないにしても、求められたら応じるはず。そうやってドッキングを重ねることで愛を深めていくはず。

 だけどだ。永遠に熱中できるものでもないのもまた知ってる。同棲が長くなれば頻度は減って行くって言うし、レス夫婦なんてこの世にいくらでもいるはずだもの。それでも個人差、カップル差は大きいはずだけど、

「そりゃ、相手によって違うのだろうけど、ああいうのって、もっと時間をかけて行くものだと思ってたんだ」

 カノンもそんなイメージだよ。さっきの頻度が減る原因は、シンプルには同じ相手では飽きが来るからのはずよね。飽きが来る要因としては回数だろ。それだけ激しいと飽きが来るのも早そうな気だけはする。

 わかんないよ。単に南村先輩ってそういう愛し方をするだけの人かもしれないもの。ただミルの気持ちにすきま風が吹きかけてるのだけはわかるんだ。男にとって女は永遠の謎って言う人もいるけど、女にとっても男は謎が多すぎる。

「そろそろ行こうか」

続バイクも恋も若葉マーク(第3話)お花見ツーリング

 後期試験が終わると大学は春休み状態。

「追試がなくて良かったよ」

 やばいところもあったものね。それはともかく気温も上がって来たからツーリングの季節の到来だ。厳寒の中でもツーリングを楽しむ人も多いけどカノンには無理だ。

「ミルだって御免被る」

 バイクって体剥き出しで、ひたすら風を浴びまくるから、全身が冷えまくるものね。もっとも夏は照り焼き地獄になるのもバイクだ。お花見と言っても桜前線の関係も出て来るけど、冬の間にミルと練っていたプランがあるのよ。

「夢のフェリーツーリングだ」

 まずは国道二号で明石を目指す。この道も渋滞ロードで有名だそうだけど、この時間帯なら大丈夫のはず。

「須磨のシーワールドだ」

 いつかデートで行きたいな。その前に彼氏だけどね。須磨浦公園のところで海が見えたけど、後はひたすら市街地走行みたいだな。

「明石大橋だ」

 間近で見ると迫力あるな。もっともモンキーには縁の無い道だ。トコトコ走って行くと明石市街に入ったみたいだ。明石も大都会だな。

「魚の棚まで四百メートルって出てたから、そろそろよ」

 たぶんあの信号だけど道路案内が出てないのは不親切だな。左折して、えっとえっと、あそこが魚の棚商店街って出てるから次の信号を右のはずだ。ここも道の両側が商店街になってるけど、そろそろのはず。

「明石港前って出てるからここを左で良いはず」

 曲がってみるとあった、あった。ジェノバライン、岩屋行き乗り場だ。ここがそうならバイクはこの前を左に行って、バイク乗り場はあそこみたい。

「ここに停めて置いたら良いはずよね」

 カノンたちを合わせて五台目か。良かった。淡路に小型バイクで渡れる唯一のフェリーだけど、なんと一度に八台しか乗れないそうなのよ。もし九台目だったら一時間待ちだったもの。

「ターミナルビルの方に行ってみようよ」

 ビルねぇ。鉄筋だからビルだけど、へぇ、ここから屋根付きの通路で行けるのか。乗船券を買って、

「なんにもないな」

 観光案内みたいなカウンターもあるけど、時刻のせいか誰もいないものね。それにいかにもありそうなお土産物売り場とか、食堂みたいなものもなくて、あるのはベンチだけ。後はフェリーを待つだけ。

「あれじゃないかな」

 待つことしばしで、見えて来たのがフェリーで良いよね。

「他になんて言うんだよ」

 フェリーと言ってもクルマは乗らなくて、小型以下のバイクと自転車だけみたい。乗り込みとなってバイクを押して行き、船に渡された板を渡り、へぇ、こうやってバイクを固定するのか。それが済んだら船内に。

 適当にシートに座ってしばしの船旅だ。もっとも十五分もかからないみたい。明石大橋の下を潜り岩屋港に到着。船を下りて押して行き、

「こっちのフェリーターミナルの方が立派だ」

 たしかに。ここからだけど、ここを回って、あれじゃないかな。アワイチの起点のモニュメントだ。写真を撮ったけど、これって自転車用のモニュメントよね。

「ミルたちだって第二種の原付自転車だ」

 あははは、それもそうだ。さてまずは洲本を目指す。この道も時間帯によっては混むみたいだけど、

「そのために早起きしてる」

 その成果はバッチリのはず。洲本をまず目指したのは、

「海だ、海だ」

 左手に海が見えるから。今日は天気も良いし、風も穏やかだから気持ち良いぞ。

「なんか淡路って活気がありそう」

 ロードサイドにオシャレそうな店が目に付くものね。まさに快走って感じでやがて洲本の市街地に入り、

「こっちのはず」

 こんなところに立派な旅館街があるぞ。

「あのね、♪ホテルニュー淡路を知らないの」

 あそこってこんなところにあったのか。ただ道は段々と怪しげになっていき、

「クルマは洲本から福良の方に行くんだろうな」

 目指してるのは由良だけど、あんまりクルマでは走りたくないかもね。だってモンキーでも前からクルマが来て欲しくないもの。だけどアワイチを目指すならこの道のはず。アワイチってサイクリストから出た言葉みたいで、

「淡路もサイクリストのための整備に力を入れてるみたいだものね」

 ところどころにアワイチの走った距離とか、後どれぐらいの看板があったものね。乗って来た船だって、二十台ぐらい自転車はいた気がする。

「ここまででもかなり追い抜いたよ」

 アワイチって淡路島一周の意味で、それも海岸線沿いに一周の意味になるはず。そのためにはこの狭い道を走り抜けないとならないはずだもの。とは言え、由良の街の中の道は一段と狭いな。

「由良の街を通り抜けたらすぐらしいよ」

 そう言われたってどこなんだ。海がチラチラ見えるけど、

「あそこだ。生石公園って出てる」

 ホントに由良の街を出た途端だな。左に入ったけど、これまた怪しすぎる道だ。これって山道を無理やり舗装しただけじゃないのかな。路面もイマイチだし、落ち葉だってあるじゃない。木も鬱蒼としてなんか暗いし、それより何よりどんだけ登るんだよ。えっこらえっこら登って行き、さらに少し下ったところに、あれか、あれのはず。へぇ、ちゃんと駐車場もあるし、トイレだって立派そう。

「こりゃ、絶景だよ」

 ついでに桜も綺麗だ。ここが絶景なのはある意味当然なんだとか。この辺には大阪湾を守る砲台群があったそうなんだ。敵の艦隊が攻めて来たら撃って沈めるためだろうな。そんな要塞群は由良だけじゃなく、淡路から和歌山に連なる島々にもあったとか。

「こうやって見ると島伝いに和歌山まで橋が架けられそう」

 そんなプランもあったのはあったそうだけど、たぶん作られないだろうな。花見と絶景を堪能したら元に戻って、

「淡路にもこんな峠道があるなんて・・・」

 ホントだよ。さっき追い抜いたサイクリストの人なんて自転車から下りて押してたもの。乗って登ってる人だって、渾身の力を振り絞ってる感じがした。結構すぎる峠道を下ると、

「これって御褒美だろ」

 完璧すぎるシーサイドコースだものね。サイクリストの人もあの峠道を越えたら、この道があるから頑張ってたのかも。沼島を見ながら走って行くと、これってどっちだろ。

「そんなものアワイチルートを走るべし」

 ありゃ、また峠道だ。これを下ると、

「帆船だぞ」

 さすがにいないだろ。形こそ帆船だけど、あれは渦潮観光の遊覧船じゃないかな。福良の道の駅で生理現象をスッキリさせて、ルートのチェック。福良の街の北側ぐらいから入れば行けそうだ。

「さっきのところのはずだよ」

 みたいだね。福良の街に入らずに直進で良かったみたいだ。目指すは道の駅うずしおだ。ここも登りかよ。登り詰めると下って行って、

「あったあった」

 リニューアルされたとかで綺麗だな。ここに来た目的は、

「淡路島バーガーに決まってるじゃない」

 だいぶ並んだけどゲットできたから大鳴門橋を見ながらランチだ。

続バイクも恋も若葉マーク(第2話)就活の話

 お泊りツーリングは良いけど、ミルは一緒に行くの?

「置いてかないでよ」

 置いてかれるのはこっちだ。ミルには彼氏が出来てしまってる。歴研の南村先輩だけど、その後はどうなの?

「感動の初体験」

 それは聞いた。時間の問題でそうなるものだけど、そうなれば女の友情より彼氏が最優先になるだろうが。

「就活で忙しいみたい」

 二年先輩だからそうなるか。大学を卒業したら目指すは就職になるものね。良いところに決まりそうなの?

「それがね・・・」

 まずだけどどんな職種に向いているかを決めないといけないのか。これはどんな仕事をしたいと連動してるはずだけど、

「やりたい仕事と、向いてる仕事と、それを合わせて勤めたい会社と・・・」

 なるほどね。子どもの時から何になりたいかは、ずっと問われて来たようなものだけど、これってシンプルだけど簡単に答えが出せない気がする。

「高校の時も大学進学で先送りしたようなものだし」

 高校の時になんとか決めたのは理系か、文系かだけど、あれだって理系科目が苦手だからみたいなもの。だからと言って文系科目が得意ってわけでもない。比較的マシな科目を選んでいたら文系になっただけ。

「ミノルの事は言えないけど、こっちは大学に入っても、なんとなく会社員になるぐらいなんだよね」

 南村先輩ぐらいならもう少し絞ってるだろうけど、それでもどこに勤めるかは問題だし、そこに採用してくれるかもある。

「どんな会社かの空気もあるってさ」

 出来れば少しでも名が通った大手が良いだろうけど、そういうところは競争が激しいはずよね。だから会社説明会とかもあれこれ出るのだろうし。

「ああいうところって、自分の会社の悪いところは伏せるはずよね」

 わざわざうちの会社はブラックですなんて言うはずないもの。とにかくあれこれ情報を集めて、一番とか、二番とか志望を決めてく感じぐらいかな。大学入試もそうだけど、一番ってこっちが決めても採用するかどうかは会社だから、

「あれこれ戦略があるみたいだよ」

 だからあれだけ就活、就活って言うんだろ。どの辺で決まるものなの。

「勝負は早いみたいで、四月の時点で半分以上、六月には九割ぐらいが内定をもらうんだってさ」

 そんなに早いのか。そうなると今は就活本番の真っただ中って感じみたい。他人事みたいに言ってるけど、

「二年先には来るんだよね」

 だからじゃないけど、

「同棲どころじゃないのよね」

 したって良いだろうけど、就活で内定でももらえないと落ち着かないってところかも。まあ、就職が内定したって卒論もあるよね。そう考えると学生ライフも短いな。

「そうなるよね。二年までに就活のターゲットを決めておかないといけなさそうだ」

 いよいよツケを払う時期が来たってことかも。高校でも就職組はこれを潜り抜けてるはず。こうやって考えると、高校でこれが出来たのは凄いかも。

「そうだろうけど、カノンも聞いてるでしょ」

 高卒就職組もまさにピンキリで、家庭の事情で進学をあきらめた人もいるし、単なる勉強嫌いで進学しない人だっていた。それに就職したって半年どころか、三か月も経たないうちに辞めちゃったのもいるのよね。


 こんな仕事は合わないとか、こんなとこで働いてられるかぐらいだったかな。これだって本当にそんなとこだっかもしれないけど、

「そのままニートになったのだっているもの」

 いるね。親とかが次の勤め先を探してきてくれても同じ理由ですぐ辞めちゃうみたい。そんなのは大卒だっているけど、

「やっぱりさ、何になりたとか、どうなりたいをそれなりに決めておかないといけないはずよね」

 結局はそこになりそうだ。それでも大学に進めば、そのうち自然に決まるだろうぐらいだろうって高をくくっていたけど、タイムリミットまで二年もなくなっってるとはシビアだね。

「新卒で就職したら、出来たらずっといたいよね」

 才能と成績で転職する時代になってるとは言われてるけど、あれだって出来る人と出来ない人がいるはず。

「そりゃそうよ。転職して歓迎されるのは、前職までの実績でしょ」

 そんなものがホイホイ残せたら誰も苦労しないもの。というか、そんなものが残せる自信なんてありゃしない。とはいえ気に入らないからってすぐに辞めようものなら、

「それはそれで負の実績として一生ついて回るって話だよ」

 正の実績を積み重ねてる人は華麗に転職して高給を手にするだろうけど、負の実績まみれの人はたとえ再就職できてもランクがどんどん下がり、お給料だって減って行くんだろうな。転職勝ち組には入れそうにないから就活はやはり重要だ。人生の決戦場だよ。

「やっぱりブランド大卒は有利だってさ」

 山学はFランじゃないけど、そこまでのブランド大じゃないものね。とは言え、もっと上を目指せたかというと、

「勝負って生まれ育った場所から始まってる気もする」

 それはある。カノンの故郷みたいなところと神戸でも差があり過ぎる。これが東京とかとなったら、

「孟母三遷の教えは今でもあるよ」

 どうしてもね。とは言え、今から出来る事はもう限られてる。

「今さら受験勉強して港都大とか目指せるものか」

 なんか二年先の就活を考えると気が重くなってきた。

「だから玉の輿だ♪」

 それは他力本願過ぎるだろ。それよりツーリングだ。

「お花見が良いな」

 まずそこからだ。

続バイクも恋も若葉マーク(第1話)プロローグ

 ちょっとと言うより、だいぶ田舎から神戸の山之上学園大学に進学して来たカノンだよ。この山の上学園だけど名前に因み過ぎた坂の上にあるのよね。山之上学園も昔は女子大で当時は山女と呼ばれてたんだけど、大学に上がる坂は、

『山女坂』

 ここだけど大学の略称としては『やまじょ』なんだけど、坂は『やまおんな』なんだよね。駅から歩いて登るのだけど、こんな坂を毎日登らされたらホントに山女になりそうなぐらいの激坂なんだよ。

 そこで一年の夏休みに小型バイクの免許を取ってバイク通学に切り替えたんだ。その時に選んだのがモンキーだ。スクーターにしなかったのはバイク女子もやってみたかったから。一年の後期からツーリングデビューも果たしてる。

 愛車となったモンキーだけどお気に入りだ。ただ自慢するのが大変過ぎるところもある。まずだけど小型バイクなんだよね。この辺は体格から二五〇CCのサイズと重さにビビったのは間違いなくあるね。

「軽さこそ正義は金言」

 口を挟んだのはミル。大学で出来た友だちで、この子もバイク女子を目指してダックス乗ってるし、カノンのマスツー仲間でもある。バイクってクルマと違って自分の力で動かす部分がとにかく多いから軽いのはメリットなのは間違いないかな。

 もっとも何事もトレードオフがあって、軽さと引き換えに走りを犠牲にしている部分はしっかりあると思う。

「あのね、たったの一二五CCだよ。こんなのがリッターの大型より走ったらホラーだ」

 バイク乗りは多かれ、少なかれパワーとスピードに憧れがあると思ってる。それを突き詰めたようなものがリッターのスーパースポーツぐらいかな。クルマで例えたらポルシェとかフェラーリみたいなものかも。それにくらべると小型バイクは、

「軽より劣るかな」

 純粋の比較なんて出来るものじゃないけど、軽なら走れる高速や自動車専用道も小型は走れないものね。

「バイクはね、自分が満足するのがすべての乗り物だ」

 ミルは割り切ってるな。でもカノンもそんな気がしてる。モンキーでバイク女子を目指してからわかって来たことなんだけど、バイクって二種類あるのよ。一つはスクーターとかスーパーカブみたいな実用バイクだ。

 通勤や通学、近所のお買い物とか、宅配とかに使われるのが実用バイクだよ。もう一つはツーリング用バイクだ。言うまでもないけど実用バイクでツーリングしても良いし、実際にやってる人もいるけど、

「軽トラで旅行してるような感じかな」

 そこまでは言い過ぎだろうけど、端的にはYAEH!をされにくいかな。YAEH!ってバイク乗りの挨拶みたいなものだけど、あれってツーリングしてるバイクにしかしないものね。実用バイクでツーリングしてると、なんか近所のお買い物とかに出かけてる様に見られてしまうぐらい。

「そう思うからYAEH!しないのはあるけど、YAEH!はツーリングをしてるバイク乗りしか知らないし、やらないのも大きいからじゃないかな」

 YAEH!したら人情として返して欲しいものね。初めてYAEH!をして返してもらった時は嬉しかったもの。なんかバイク乗りの仲間として認めてらったって感じかな。けどさぁ、小型バイクって排気量的には実用バイクに入るのよね。だけどカノンのモンキーが実用バイクかと言えば違う気がする。

「ミルのダックスもそうだけど、笑うほど実用性が無いものね」

 ミルが言う実用性ってシンプルには荷物をどれだけ載せられるかだ。その点については皆無として良いと思う。スクーターと較べたらわかりやすいけど、

「メットボックスだけでも天と地ぐらい差がある」

 他にもスクーターならフロントのところにポケットとか、コンビニフックとか、足元にだって荷物を積めるものね。モンキーって見ようだけど、もっと大きなバイクの究極のミニチュアモデルみたいなとこがある感じ。

 あんなに小さいのに五速ミッションだし、倒立フォークだし、前後ともディスクブレーキだし、リアだってスイングアームにツインショックがニョッキリだ。このまま大きくすれば中型とか大型のネイキッドモデルそのままみたいな感じ。

「それでいて可愛いじゃない」

 小さいからだろ。まあ、武骨さはクスリにしたくても無いよね。軽量小型も良いところだから通学での取り回しは言うことないけどとにかく非力だ。

「何を言ってるのよ。心臓はホンダが世界に誇る名機カブエンジンだ」

 手は加えてあるはずだけど、実用エンジンの金字塔みたいなエンジンだものね。だから実用域では文句ない性能を発揮する。低中速なら日本中どこでも走れる気がするぐらい。

「下道の王者だ」

 もっとも高速走行は無理があるし、峠道でも苦戦する。

「何を言うか、山女坂を登れるんだぞ」

 山女坂だけじゃなく、登れなかった峠道はなかったよ。もっとも、

「峠を攻めるバイクじゃないけどね」

 大型バイクに抜き去られたもの。パワーが違い過ぎるから当然だけど、ああいうのを見るともっと大きなバイクが欲しくなる気持ちがわかったかな。あっという間に見えなくなったものねぇ。

「だったら欲しい?」

 でもないな。あっちの世界も上には上があり過ぎる。あんなパワーもあれば嬉しいけど、なくたってちゃんと走ってくれる。モンキーはね、あんな世界を目指すバイクじゃないと思うんだ。モンキーの真価はゆったり走って楽しいバイクのはず。

「パワーとスピードを求める代償は、カネもあるけど、大きさと重さだものね」

 どっちを目指すかは自由だけど、カノンはモンキー道がお似合いだ。とは言えだ、

「ついに載せたのね」

 だいぶ悩んだけどリアキャリアを付けてボックスを載せたんだ。これは実用性の向上のためだ。

「ミルは無い方が格好も良いと思うけど」

 だから悩んだんだよ。でも付けたらもう手放せないよ。だって、だって、これにメットも収納できるし、雨具も常備できる。勉強道具も入れられるし、蓋も出来るから雨にも濡れずに済む。

「買い物にも威力を発揮しそう」

 発揮してるよ。大きめのにしたからスーパーの買い物ぐらいなら余裕でOKだ。格好だって小さなモンキーとのミスマッチなところが気に入ってるんだから。

「見てたら便利そうだものね」

 ああ、とっても便利だ。バイクに小さいけどトランクが一つ付いたようなものだ。

「夢のお泊りツーリングにもバッチリだものね」

 お泊りツーリングはバイク女子として目指しているものだ。もっともお泊りになると日帰りとは荷物の桁が違ってくる。

「バイクキャンプをしてる人なんて、荷物が走ってる様に見えたよ」

 キャンプもお泊りツーリングのやり方の一つだし、テントを張ってキャンプは楽しそうに見えるのは見えるのよ。でもさぁ、キャンプだから全部持って行く必要があるのよ。パッと思いつくだけでも、テントに、グラウンドシートに、寝袋に、

「炊事道具だって必要だ」

 キャンプ用にコンパクトにはなってるだろうけど、それでもあの大荷物だものね。モンキーでもやってる人を動画ではみたけど、なんか荷物の間に挟まって走ってる様に見えたもの。たしかに宿泊費を安くは出来そうだけど、

「あの一式をそろえる費用だけでも半端ないはず」

 それだけじゃないぞ。あれを部屋のどこかに置いとかないといけないじゃない。ただでも広くない下宿の部屋が圧迫されるじゃないの。やってる人をどうこう言う気はないけど、

「そこまでアウトドア派じゃないのよね」

 ツーリングってアウトドアには分類されるだろうけど、イコールでキャンプ大好きとは言えないよ。だから無難に宿に泊まるプランが良いよ。

「お風呂にだって入りたいじゃない」

 キャンプのお風呂ってどうしてるんだろ。バイクで風を浴びまくって、キャンプの設営とかで汗を流して、そのまま寝るのはあんまり嬉しくない。それにこっちはうら若き乙女だ。

「そうよ。テントなんてナイロン一枚だから、変なのに襲われたくないよ」

 キャンプをする人は良い人が多いかもしれないけど、どんな世界でも不心得者がいるものだ。お風呂も出来たら温泉が良いな。

「そしてもっと美人になる」

 もうすぐ春だね。

「その前に後期試験だ」

 言うな。楽しい気分が台無しだ。