天使と女神シリーズ7 氷姫の恋

 
『天使と女神』のサイドストーリー。不幸な生い立ちから固く心を閉ざし、氷姫とまで呼ばれてた木村由紀恵。彼女の心を開き、心からの笑顔を見たいと願う人々。さらに氷姫が一途に突き進む恋の行方は。

氷姫の恋:あとがき

今回の主人公はユッキー。これまでさんざん苦しい時のユッキー頼みをしてきたので、ユッキーを主人公にしたくて書いたものです。ユッキーの経歴らしきものは、これまでの作品で書き散らしており、書き散らし過ぎて、書くのはある程度ラクでしたが、これまで…

氷姫の恋:ある日のクレイエール

コトリの記憶封印も剥がれかけたみたいで、三年後にカズ君のマンションで再会。この時はビックリしたけど四座の女神を宿らせた結崎忍だけではなく、三座の女神を宿らせた香坂岬まで一緒だったよね。シオリに宿らせてた主女神と合わせて四百年ぶりの五女神そ…

氷姫の恋:コトリとシオリ

カズ坊のウチを失った悲しみは想像以上だった。改めてここまで愛してくれたことに感謝した。でもこれじゃ、シオリであれ、コトリであれ、しばらくはアプローチさせるわけにはいかないわ。そんなことをさせたら、カズ坊は冷たく二人を突き放すのは丸わかり。 …

氷姫の恋:タイム・リミット

カズ坊とは時間の許す限りデートした。デートするたびにしっかりと結ばれていくのも実感してた。一方で百日がカウント・ダウンされていくのもわかった。カズ坊と結ばれて一か月後ぐらいにそれを感じた。感じただけじゃなくすべてが見えた。カズ坊には出来る…

氷姫の恋:可愛いユッキー

ウチはユッキー、ユッキー様じゃないよユッキーよ。この世のすべてがバラ色に輝いて見える。 「おはよう」 声をかけた医局員が変な顔してる。看護師も事務員もそう。 「部長、312号室の森本さんですけど」 「わたしが今朝に話をしといたから、もうだいじ…

氷姫の恋:奇跡

カズ坊のリハビリのスケジュールは順調に消化されていった。もちろんカズ坊の回復も順調。ウチもホンマに心配しとったけど、後遺症は残りそうにないみたい。相変わらず顔を合わせれば漫才やってるけど、肝心の結ばれそうな兆候はどこにもないのよこれが。ま…

氷姫の恋:シオリじゃないぞ

シオリはあれから毎日見舞いに来てる。ウチはシオリとは顔合さんようにしてる。せっかくの二人の時間を邪魔するほどウチは落ちぶれてないつもり。カズ坊のリハビリにも熱が入ってくれてる。やっぱり女の力は凄いわ。ウチではいくら頑張っても、ああはいかへ…

氷姫の恋:シオリ

カズ坊もICUから一般病室に移り、さらにリハビリに取りかかることになってくれた。リハビリも辛いと思う。初日なんてホンマに辛そうで脂汗流しながら懸命にやってくれてた。でもここも乗り越えなくちゃならない壁なのよ。カズ坊もよくわかってるはずだけ…

氷姫の恋:ICUにて

カズ坊の状態はホンマに悪かった。ウチがICUに籠りきりになってる時に、うちの救命救急センター主催の勉強会があったのよ。そこには加賀教授も来てた。ただウチが出てなかったのを不審に思ったらしく。 「木村先生は」 山川先生は言いにくかったみたいで…

氷姫の恋:大事件

ウチがエレギオンの首座の女神であるのにどんな意味かを思い出してる時に、途轍もない大事件が起こったのよ。その夜も救命救急当直やってたんだけど、交通事故の搬送依頼があったの。クルマとスクーターの衝突事故って触れ込み。よくある話だけど被害者の男…

氷姫の恋:甦る記憶

今年でウチも二十九歳になってもたけど、医者にしたらまだまだ若手で中堅すらなってへん。それが病院の部長やで、それも市立南病院いうたら神戸どころか全国でも有数の大病院やんか。異例の出世とも言われるけど、正直なところエライ事になってもてるって感…

氷姫の恋:氷の女帝

日本に帰り、ウチも桐山名誉教授の家を出た。そうそう桐山教授はウチがアメリカ留学に出た年に定年退官を迎えられ名誉教授になりはった。留学費用は実質的に海外勤務みたいになったから、収支としてはだいぶやないぐらいプラス。アメリカの給料はやっぱりエ…

氷姫の恋:アメリカ留学

二年目は権田原とバチバチやってるだけじゃなかったの。教授から、 「USMLEを取れ」 こんな指示が出たのよね。アメリカの医師免許試験だけど、教授に逆らう気もなく受けたけど、ステップ1、ステップ2、ステップ3ってあって、そのたびにアメリカに行…

氷姫の恋:権田原講師

実力至上主義の加賀教授の下でウチが頭角を現した煽りを食ってるのが講師の権田原。はっきり言わんでもウチも好かん。桐山教授が言っていた、男尊女卑のセクハラ・パワハラ野郎のステレオタイプ。 権田原が救命救急科に来たのはヘルプで出入りして云々となっ…

氷姫の恋:加賀教授

二年目になっても仕事は相変わらずやったけど、ウチの医局での地位は特殊なものになっていた。経歴上は二年目の研修医やねんけど、救命救急科内の実力では赤城准教授に匹敵するかそれ以上の評価が定着していた。赤城准教授に言わせると、 「教授のムチャクチ…

氷姫の恋:救命救急科

救命救急科は三年前に出来た。今年で四年目。加賀教授は港都大出身なんだけど、救命救急を志して大学を飛び出し国内外、とくにアメリカで長いこと仕事してはった。日本に帰ってからは西北大学に招聘されて救命救急科の立ち上げに成功し、母校の港都大に招か…

氷姫の恋:医師に

桐山教授と奥様の美知子さんには本当に感謝している。お父さんと、お母さんを続けて亡くした悲しみを受け止めて癒してくれた気がする。アルバイトぐらいして少しでもおカネを入れたかったんだけど、とにかく美知子さんはおカネの話はさせてくれないし、遊び…

氷姫の恋:桐山家での新生活

桐山教授の家は立派だった。いわゆる洋館作りなんだけど、美知子さんに言わせると、 「広いけど、古くて大変」 戦災も潜り抜けた旧男爵家ってところ。華やかなりし頃は使用人も大勢いたはずやけど、今は美知子さんが一人で切り盛りしてはります。息子さんや…

氷姫の恋:ウチはどうなるの

桐山教授のところには何回もお伺いした。教授はいつも歓迎してくれ、出来るだけ時間を割いてウチの質問に答えてくれた。つれづれの話でお父さんと教授は高校一年と三年が同級で、サッカー部でもあったらしい。 「はははは、そうだよ。木村がキーパーでキャプ…

氷姫の恋:能力の謎

「・・・それでね、由紀恵。大聖歓喜天院家は蘆屋道満の末裔ってぐらい古い家なんだけど、今に継承される不思議な能力を伝え始めたのは十七世紀の初めぐらいだそうなの」 「関ヶ原の合戦の後ぐらい」 「そうみたい。その頃は兵庫津で大聖歓喜天を祀る寺の住職み…

氷姫の恋:大学

入試は落ちるなんて夢にも思ってなかったけど、面接試験だけはちょっと緊張した。高校三年間でほとんど普通に戻ったはずだけど、気に入らない相手だとすぐに氷姫になっちゃうから要注意。明文館ならともかく、港都大で氷姫キャラが面白がられるとは思えない…

氷姫の恋:卒業

一月の学年末テストが終わると事実上の休校。次は二月末の卒業式までみんなは私学の入試に明け暮れることになる。うちは私学の受験はしないから二次試験までやることがない。進学先もちょっともめた。お父さんは東大かせめて京大に行って欲しかったみたい。 …

氷姫の恋:ラスト・クリスマス

夏休みが明けると恒例の宿題考査。 「カズ坊待たんかい」 「ユッキー、いや、その」 カズ坊がウチの前からそそくさと逃げかけてる。ウチをなめたらあかんで、 「あら、みいちゃん」 この声に釣られた低能バカが振り返った瞬間に睨みで金縛りにしたった。 「…

氷姫の恋:受験勉強

二年以上もこの学校で暮らしているとわかるんだけど、とにかくオンとオフをバチッと切り替えないと生きていけない学校だって。浮かれて遊ぶ時にはトコトン遊び、勉強する時には死に物狂いで集中する。校風の『自主性』と『自由闊達』やけど、より重いのは自…

氷姫の恋:それでもウチはユッキー様

虫垂炎騒ぎでそのまま冬休み。年が明けて、 「カズ坊、おはよう」 「おおユッキー、元気になったな。自分の盲腸で焼肉パーティでもやったか」 「アホ抜かせ、もつ鍋に決まっとるやろ」 や ら れ た。今回こそはウチの異常に気が付いてくれて保健室に連れて行…

氷姫の恋:秘められた過去

虫垂炎から退院したら、伯父夫婦は退院祝いをしてくれた。毎度毎度、ここまで大げさにしなくてもと思うけどしてくれた。だってさ、テルミたちまで呼んでの盛大な物だったのには参った。テルミたちが帰り、家の中が静かになった頃に伯父が話があるって言いだ…

氷姫の恋:プレゼント

十月のある日にカズ坊に図書館のミーティング・ルームに誘われた。考えれば二人っきりになるのはスタンツの練習以来。スタンツの練習の時はそこまでドキドキしなかったけど、今日は妙に意識してまう。それにしてもなんだろ、漫才の新ネタの練習かな。 「ユッ…

氷姫の恋:みいちゃん

聞き捨てならないことを聞いてしまった。カズ坊に好きな女がいるらしい。その女の名前は高梨美似子、普段は『みいちゃん』と呼ばれてるらしい。ウチは嫉妬心を抑えきれずにこっそり見に行った。 地味などこにでもいるような田舎の女子高生ってところ。田舎の…

氷姫の恋:ユッキー様の誕生

スタンツは大成功だった。始まると『あの氷姫が』のハイテンションに誰もが驚き、つかみは完璧だった。後はひたすら乗るだけ、途中でカズ坊がアドリブを入れて来たから、ウチも入れ返してやった。そうしたらしばらくアドリブ合戦になって、ここが受けに受け…

氷姫の恋:スタンツ

うちの学校では二年に宿泊訓練があるの。こういうものは一年の時が多い気がするけど明文館では二年の六月。学校によっては異様に厳しいところもあるみたいだけど、そこは明文館、ほとんど遊びみたいなもの。宿泊訓練の目玉がスタンツで、そこで何をするかが…