一月の学年末テストが終わると事実上の休校。次は二月末の卒業式までみんなは私学の入試に明け暮れることになる。うちは私学の受験はしないから二次試験までやることがない。進学先もちょっともめた。お父さんは東大かせめて京大に行って欲しかったみたい。
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「医師は医師免許さえ取れば、たしかに医師だが、確実に学閥はあるし、研修する病院や勤務できる病院も違ってくる。由紀恵がより立派な医師になりたいと思うのなら東大か京大に進むべきだ。慶応だってあるんだぞ」
ウチにしたら東大や慶応は論外だった。京大でさえ遠すぎる。この家はウチの家、家にはやっと、やっと手に入れた世界最高のお父さんとお母さんがいる。やっと手に入れたウチの大切な大切な居場所と家族。三人で過ごす時間はウチにとって何物にも代えがたい大事な時間。港都大なら六年間すべては無理かもしれないけど、少しでもお父さんやお母さんと過ごせる時間が長くなるんだもの。
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「お~い、由紀恵、そろそろ出かけるぞ」
「は~い」
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「付添不要」
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「木村さん、合格したわ。ありがとう」
「良かったね」
「みんな木村さんのお蔭よ」
「テルミが頑張ったからだよ」
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「ユッキー」
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「ユッキーと呼んで良いのはカズ坊だけ、カズ坊と呼んで良いのはユッキー様だけよ」
「あちゃ、やってもた。でも、まあエエやん」
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「コトリも合格したで、ありがとう」
体育館に移動して式が始まり、卒業証書を受け取った。ウチが卒業生を代表して答辞した。思えばこの役もずっとやってた気がする。入学式の時も代表だったし、去年は在校生を代表して送辞を贈る役だったものね。最後にプログラムになかったんやけど、
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「校長特別賞の授与」
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「木村由紀恵殿 あなたは、明文館入学以後、定期試験、実力模試、宿題考査、そのた小テストを含めてすべて満点でした。この空前にしておそらく絶後の偉業を称え、校長特別賞を授与します」
式が終わるとあちこちで記念写真。あいかわらず加納やコトリはエライ事になってたし、坂元だってポーズ取りまくっていた。ウチはお父さん、お母さんといっぱい撮ってた。そしたら、テルミたちがやってきたの。もちろん記念写真も撮ったんだけど、
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「委員長、お願いがあるの」
「な~に」
「もう一度、やって欲しいの」
「なにを」
「一年の氷姫。あれだけは五組のみんなの心残りになってるの」
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「えっ、今から」
「木村さん、お願い」
「でも衣裳が・・・」
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「これから旧一年五組の仮装行列を行います。テーマは氷姫です。宜しければ御観覧ください」
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「これよこれ」
「これが見たかったの」
「あの時にこれが出来てたら三組にも勝てたのに」
「そうよ女神様や天使でも絶対勝てたのに」
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「委員長ありがとうございました」
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『委員長がいなくなったら、クラスが大変な事になる』
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『木村さん、ボクは生徒会長だからね』
そう考えると去年の送辞も、今年の答辞もなんでウチやったんやろう。あれは生徒会長の役割やと思うけど、当たり前のようにウチのところに来たもんな。この学校のわからんところや。
胴上げが終わって、みんなで集合写真を撮って、衣裳を着替えてから卒業式のウチの最後のプログラムに向かったんや、
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「ユッキー、今まで・・・」
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「ほんじゃな、生きてりゃまた会えるわ」