天使と女神シリーズ29 ツーリング日和9
本州四隅征服の最後の難関は潮岬。電車でもクルマでも、中型以上のバイクなら、神戸からでも一泊二日で余裕の観光地ですが、これが小型バイクでとなると話が変ります。 渋るコトリを説き伏せて潮岬に向かう途中で出会ったのが皇宮警察官の男。話を聞いていると複雑な事情の恋をしているのです。聞くからに厄介そうな状況ですが、それならばとコトリが繰り出した策略は・・・ |
今回は本州四隅を目指す旅で最後に残った潮岬です。ここはさすがに行ったことがありますが、それでも学生時代ぐらいが最後です。潮岬になると記憶の端にも残っていません。ですがエルトゥールル号事件の遭難碑はなぜか記憶にあるのです。 行ったのは家族旅行…
「すべてが計算どおりに行かんわ」 だったね。コトリも粘りに粘ったけど、さすがの綾乃妃殿下でもあれは無理でしょ。でもさぁ、宮様にするのはどっちでも良かったんじゃない。あれはコトリの歴女としての趣味みたいなものじゃない。「なに言うんや。最初から…
喬子様との結婚ですが、これでも通常の皇族女性ものと違います。皇族女性との結婚式は、朝見の儀が終わった後は一般の結婚式とほぼ同じなのです。そうですね、ホテルで神前式を挙げ、そのまま披露宴のスタイルです。たとえば明治神宮で式を挙げられた皇女も…
ボクが宮内庁でシゴキ挙げられているうちに世間が動きます。陛下の思わぬお言葉が発表されたのです。『天皇家が二つに分かれた時代はまさに悲劇でありました。幾多の血が流され、多くの民草が塗炭の苦しみを味合うことになりましたのは遺憾とするところで御…
ボクは鴛淵肇。皇宮警察に勤め侍衛官を拝命し甘橿宮家の警衛を担当しています。そんなボクに赤坂護衛署長から呼び出しがあり、「皇宮本部長のところに行ってくれ」 なにか失態でもあったのかと思いましたが、「こんな事は異例なのだが、呼び出し理由は不明な…
マスコミ報道にはなんとか筋として報道されるものが多い。政府筋とか、なんたら省筋とか、権威筋とか、消息筋とか。これは取材源の秘匿とされてるけど、よく考えなくても誰が言ったのかわからない代物。 本当に匿名を条件に重大情報を得たケースがあったのを…
今回の出張はコトリがため込んだツケを払いに行ってるようなものだから長いのだけど、「その通りや。小杉親子の動きが迫っとったから急ぐ必要もあったんや」 動きとは喬子様との婚約の発表。甘橿宮家も天皇家もこれ以上は延ばせなくなっていたのよね。だから…
全体の構図はこれで良いとしてどこまでやる気なの。「善人なおもって往生を遂ぐ。 いわんや悪人をや」 それ悪人正機だけど意味が違うでしょ。「そうでもないで・・・」 まさかコトリ相手に仏教論争するとは思わなかった。仏教用語の悪人とは苦しんでる人であり…
妃殿下の協力が得られたので菊のカーテンの向こうの甘橿宮家の実情の情報はかなり入ってきた。肇さんの情報で大筋は合っているけど、肇さんでも知る事の出来ない話がかなりあったよ。喬子様と小杉慶太の出会いはありきたり。大学のテニスサークルだった。「…
この南朝秘史だけど、原本は西陣南帝の企画が挫折したあたりで終わっているで良さそう。「続きがあったかもしれんが、残っとらへん」 南里漂山の調査はその後の鴛鴦宮家にも及んでるのよ。だけど鴛鴦宮家が具体的にどこに住んでいたのかははっきりしないそう…
「でもこれは正史や。歴史には必ず裏がある。それを伝えているのがこれや」 なになに南朝秘史だって。聞いたことがないな。それしても古いと言うかボロい本よね。中身は旧カナ遣いになってるじゃない。出版されたのは明治ってなってるけど。「これはな・・・」 …
「コトリ、なに躍起になって調べてるの」 「大嫌いな太平記の時代や」 コトリは歴女だけど南北朝時代は嫌いなんだよね。学者じゃなく趣味の歴史好きだから構わないようなものだけど、「なに言うてるんや。学者なんか専門の時代以外に興味あらへんやろが」 た…
日本で暮らし始めた絹子様御夫妻に起こったのは、「不倫騒動やで、信じられへんかった」 旦那の不倫が発覚したのよ。絹子様御夫妻は大喧嘩の末、絹子様が夫妻のマンションを飛び出し、「実家に帰るんやのうて新たな超高級マンションに住みよった」 あれもア…
「それでもNYで静かにしとったら話は収まったはずやってん」 そうなのよね。ここまででも不祥事スレスレ、いやもう立派過ぎる不祥事だけどさすがにNYは日本から遠いじゃない。マスコミだってNYに記者を張り付けてまで追跡取材をやれるところは多くない…
コトリが持ち出した絹子様事件があったのは今から八十年ぐらい前のこと。これも菊のカーテンがあって、今でもよくわからない部分が多いのだけど、皇室にとって大きな痛手を受けた事件だし妃殿下が汚点とまでされるのは良くわかる。 宮家の内親王として生まれ…
「悪いなユリ」 「これぐらいはお安い御用です」 綾乃妃殿下への謁見にはユリも付いて来てくれた。あは、さすがはユリだね。入る時から出迎え付きじゃない。控室で待っていると定刻キッチリに呼び出された。ユリから紹介してもらったのだけど妃殿下は、「田…
肇さん十一時ニ十分の東九フェリーに乗るからそれを見送って、「昼は徳島ラーメンだ!」 行くのは王王軒。徳島ラーメンもバラエティが広がってるけど、王道は濃厚こってりスープの茶系だと思うの。白系や黄系も美味しいけど、一杯だけなら茶系のこってり濃厚…
肇さんは聞きたそう。「あのぉ、月夜野社長、如月副社長とは、もしかしてあのエレギオンHDのですか」 「そうや。そやけどツーリングはプライベートやさかいコトリでエエで」 「わたしもユッキーでね」 そう言われても呼びにくいだろうな。だけどゆっくり話…
樫野崎のケマル・アタチュルクの騎馬像とお別れして駐車場に戻って出発だけど、コトリと肇さんが今日のツーリング・ルートの確認してるな。肇さんのメットにインカム無いものね。えっと、えっと、とりあえず目指すのは、「和歌山市しかあらへんやん」 それは…
朝だ、良く寝た、夜這いはやめた。さすがに相手が喬子女王様なら譲ってあげるよ。わたしだって首座の女神だけど現世ではさすがにね。コトリも、「肇さんは喬子様の漢や。他人の漢に手を出すほど落ちぶれとらへん」 あれこれ昨夜はあったけど今日はツーリング…
喬子様は甘橿宮親王殿下の三番目の子どもなんだ。ちなみに上は兄二人の末娘。たしか大学を卒業した後にケンブリッジに留学したはず。ロマンスの影は大学の時からあったはずだけど、ケンブリッジ留学で一度は消えたはずだけど、「いえ、続いております」 ここ…
ところで肇さんは赤坂護衛署でどんなお仕事なのかな。「主に甘橿宮家の警衛です」 警衛? 聞きなれない言葉だけど、皇宮警察では皇族の身辺を守るのを警衛とし、皇族以外の身辺を守るのを警護と呼んで区別してるんだって。「侍衛官を勤めさせて頂いておりま…
本州最南端潮岬の征服が終わったから今日の宿に出発。潮岬周遊線を進んで行く。目指すのは潮岬の東隣の紀の大島。串本節に、『ここは串本、向かいは大島、仲を取り持つ巡航船』 と謡われた島なんだ。串本から近くて目の前にある感じだけど、今は巡航船ではな…
公衆便所の決闘の後はひたすら国道一六九号から南下して熊野に。一時間ちょっとで鬼が城に着き熊野灘の眺望を休憩がてらに堪能して、今度は国道四二号で潮岬に向かってひた走り。七里御浜を左手に見ながら、「ユッキー、肇さんって京都署勤務やろか」 コトリ…
今日はついに潮岬だ。この日のためにどれだけ準備を重ねた事か。「電車やったらすぐやのに」 バイクで行くのに値打ちがあるのでしょうが!「プラン立てたんはコトリやで」 まあそうだけど。「朝一で元気なうちに難所を突破するで」 洞川温泉から国道三〇九号…
天河大弁財天社の傍を流れる川は天の川と呼ぶからこの辺を天川村って呼ぶで良さそう。その天の川沿いの道を戻って、そこから登り直したところにあるのが今日の宿の洞川温泉なんだ。 洞川温泉自体は歴史も由緒もない最近ボーリングで掘り当てた温泉だ。だから…
コトリがナビとニラメッコ。「ここは急がば回れやな」 吉野から今日の宿へのナビ上の近道はあるみたいだけど、「この辺の県道は険道やろ」 だろうね。奈良盆地の中ならまだしも、吉野川から南側は近畿の屋根みたいな険しい山岳地帯だから、国道でも酷道にな…
千早城から下りてきて金剛山登山口のお茶屋さんで一服してから出発。まず国道三一〇号に戻って五条を目指す。一車線半の峠越えだけど快調に走り抜け三十分ほどで五条に到着。混んでるな、「もう昼や」 十一時だものね。五条と言えば、「智弁学園やろ」 こん…
道路からいきなりあるのが石段。それもかなり急勾配。「最後までこんな感じらしいで」 これぐらいなんてことはないけど、目指すは千早城。二十分ぐらいひたすら石段を登ったら千早城ならぬ千早神社。そう石段は神社の参道だったのよね。でも千早神社のあたり…
草木も眠る丑三つ時、「南港ルートで行くで」 「らじゃ」 結局早立ち渋滞回避作戦にしたのだけど、三時は早すぎ。遅くとも七時までには渋滞発生市街地ゾーンを通り抜けたいからそうなったけど、さすがに眠いよ。でも少しでも遅くなると朝のラッシュだから仕…