ツーリング日和9(第3話)行くぞ

 草木も眠る丑三つ時、

「南港ルートで行くで」
「らじゃ」

 結局早立ち渋滞回避作戦にしたのだけど、三時は早すぎ。遅くとも七時までには渋滞発生市街地ゾーンを通り抜けたいからそうなったけど、さすがに眠いよ。でも少しでも遅くなると朝のラッシュだから仕方ないのよね。

「ああそうや。とにかく回避したいゾーンが広すぎるわ」

 南港ルートとは、さんふらわあで志布志に行くために乗った時に使ったルート。神戸から大阪に下道で向かうとなれば国道二号か国道四十三号になる。山手幹線使うのもありだけど、最後は国道二号と合流するからね。

 国道四十三号は通称ヨンサンって呼ばれるけど阪神高速神戸線の下にある道。車線は多いのだけど交通量が多くて渋滞が頻発する道だし、けっこう信号も多い。だから出来るだけ回避したいぐらいかな。

 そのためにまず神戸大橋からハーバーハイウェイに乗る。原付無料の嬉しい道なんだ。湾岸線もそうだけど、海岸沿いの人工島を結んでいる路線と思ってもらえれば良いかな。人工島と言えばポーアイと六アイが有名だけど、小野浜、摩耶埠頭、灘浜、住吉浜、魚崎浜、深江浜、芦屋浜、西宮浜、甲子園浜、鳴尾浜と数珠繋ぎに並んでるんだよ

 ハーバーハイウェイを下りるのは高羽ランプ。地図だけ見てると次の住吉浜まで行けそうだけど、そこまで行くと、湾岸線に乗るか、六甲アイランドに行くかの二択になっちゃうんだよ。前にコトリが突っ込んで六甲アイランドをぐるっと回る羽目になったもの。

「ウソつけ、突っ込んだのはユッキーやろうが。止めたのに行ってまいやがって」

 まさか住吉浜に下り口がないとは思わなかったんだもの。そんなことはともかく、高羽ランプからはヨンサンに戻る。さすがにこの時間帯は空いてるな。これぐらい空いてれば嬉しいけどね。

 さて次は深江浜から県道七二二号、五七三号と走るんだよね。通称無料湾岸。阪神高速湾岸線の側道みたいなものだけど、湾岸線には負けるだろうけどかなり快適な道。でも鳴尾浜でおしまい。

 この先は側道が切れてるんだよ。たく兵庫県知事も大阪府知事もケチりやがって。だから再びヨンサンに逆戻り。ここから南港に行くルートの説明は省略するけど、ヨンサンで大阪に突入する。

 中島川を渡るところで阪神高速神戸線の高架とお別れするけど、安治川を渡ると今度は西大阪線の高架下に入る。さらに木津川を越えると、

「あの信号右や」
「らじゃ」

 今度は阪神高速堺線の下を南下だ。文字通りの下道で、ほとんど阪神高速の高架の下の道を走っているようなもの。やっとこさ、高架下の道が終わると大和川を渡って堺だ。さらに真っすぐ進んで、

「ここを左折や」

 石津北ってなってるな。この辺は完全に未知の道。

「つまらん冗談言うな」

 ほっといてよ。ここもずっと市街地だな。堺も大きな街だもんね。仁徳天皇陵とか見えないのかな。

「ちょっと北側やから見えんへんやろ。周囲はラブホが多いそうや」

 なんて覚え方をしてるのよ。これで向かってるのは、

「泉北高速や」

 えっ、それって難波から出ている電車じゃない。

「電車もあるけど泉北ニュータウンを作った時に出来た道やそうで、地元の人は道の方も泉北高速って呼んでるそうやねん」

 名前は快適そうな道だけど、へぇ、高架になってるんだ。二車線で中央分離帯もしっかりあって、なるほど信号も無いから高速みたいな道だ。途中から真ん中を走っているのが電車の方の泉北高速だね。

「泉が丘のとこで大阪狭山の方に行くで」

 泉が丘のIC下りても四車線なんだ。この辺はニュータウンの道だね。丘を登ってだけどまだ六時か。坂を下って大阪狭山市だ。やっと堺を抜けられた。とりあえず難所はクリアで良いかも。

 とはいえ神戸から三時間走りっぱなしはさすがにくたびれてきた。それより何よりお腹空いた。度の過ぎた早出はこういう時に困るんだよ。開いてるのはコンビニぐらいだものね。

「マクドに入るで」

 えっ、もう開いてるの。こういう時はコンビニよりマクドの方が嬉しい。朝マックってやつだな。コトリがベーコンエッグマックサンドでわたしがソーセージエッグマフィン。

「ポテトとナゲットとコーヒー」

 さすがに一休みだ。後はノンビリで良いはずなんだ。コトリはえらい真剣に地図見てるな。ここからはしばらく一本道のはずだけど、

「ああそうや。マクドの次の交差点を右に曲がったっら国道三一〇号で、五条まで基本的にそれで行く」

 基本的?

「いやぁ、ここまで来たら見ときたいねん」

 ああそうだった。でもそのルートは確認したんじゃ。

「いや、ちょっと想定外なことがわかってもて・・・」

 なになに、通ろうと予定していた道が二輪車通行止めだって。それじゃ行けないじゃない。

「なんか行けそうやと思ってたらやっぱりアカンみたいやねん。そやから、迂回路を確認しとってんや。少々遠回りになるけど仕方あらへんな」

 三十分ほど休憩して河内長野にGO。そろそろクルマも増えかけてるかな。それでも二十分もしないうちに河内長野に到着。

「右曲がるで」

 そこから十分もしないうちに観心寺に到着だ。ここも由緒あるお寺で役行者が雲心寺として開いたの伝承が残されてるぐらい。観心寺の寺号にしたのは空海で、高野山との関係も深い寺なんだよね。

「それよりなにより楠木氏の菩提寺や」

 正成は金堂の外陣の造営を勅命により行ってるけど、

「たぶん正成が手掛けた建造物で唯一残ってるんもんやと思う」

 正成が手掛けた建造物があって、これが今も残っている方が驚くよ。ここが山門か。朱塗りで左右が築地塀となってるけど、立派と言うより瀟洒な山門だな。でも閉まってるじゃない。どうやって入るかと思ったらコトリがどこかに電話。そしたら門が開くって、

「しょうがあらへんやん。拝観は九時からやねんから。頼んどいた」

 こういう時だから許す。山門を潜ると緩やかな石段。

「あれが金堂、国宝やで」

 これが十四世紀から残っている金堂か。鮮やかな朱塗りだから、定期的にメインテナンスされてるって事だよね。これはなかなか立派じゃない。その金堂の傍らにあるのが建掛堂だね。

 これも正成が建てたものだけど、建武の新政の成功を祈願しての三重塔の予定だったそうなんだ。ところが正成が湊川の合戦で戦死してしまったから二階以上の建設を中止して仏堂に改造したとか。

 言われてみれば変わった形になってる。屋根の垂木なんかは三重塔みたいだけど、屋根自体は茅葺なんだよね。いかにも途中で改造しましたに見えるもの。でも正成が残した建造物は金堂だけのはず。

「惜しいけど再建やねん」

 観心寺は南北朝時代に後村上天皇の行在所になったりもしてるから南朝関連の遺跡も多いのよね。それにしても、こんなところにと思うほど立派な寺だよ。

「よっしゃ、次は今日のメインや」

 コトリのね、わたしも好きだけど。国道三一〇号をしばらく走ったところで、

「南河内グリーンロードの方に入るで」

 道の名前は快走路だけど、実際のところは田舎の山道。農村を抜けながら高度を上げていく感じ。

「突き当りを右、金剛山の方や」

 曲がると二車線の道になり、しばらく走るとなんか駐車場が多いし、お茶屋さんみたいなのもあるけど、

「この辺が金剛山の登山口になるからな」

 そういうことか。だからハイカーも多いんだ。今日は金剛山に登るのじゃないから、

「この辺にバイクを停めとこ」

 こういう時に小型バイクは便利なのよね。

「ここからや」