天使と女神シリーズ36 ツーリング日和16

 シナリオライターのアリスが狙っているのは元寇映画のシナリオコンペ。とはいえ、歴史物はお世辞にも得意と言えません。行き詰っていたアリスはバーで出会ったコトリとユッキーに誘われたのもあって、対馬壱岐にシナリオハンティングのツーリングに出かけます。

 ツーリングではコトリとユッキーの暴飲暴食に呆れながらも、歴女のコトリの元寇の見方に興味が惹かれます。というのもコンペに大物シナリオライターが参加しているので、定番ものじゃ勝負にならないと考えていたからです。

 考えに考えた末に新機軸の元寇シナリオを書き上げますが、その行方はどうなるのか。

ツーリング日和16 あとがき

対馬と壱岐のツーリングは随分前に一度構想をしたのですが、とにかく遠くて棚上げ状態になっていました。作中でもやらせましたが、新門司から博多へのフェリーの乗り継ぎが必要になるからです。 それだけ苦労して行かせても、申し訳ありませんが、ツーリング…

ツーリング日和16(第33話)エピローグ

「映画が儲かって良かったね」 ホンマやで。サキのやつムチャしよってからに。こっちまでハラハラさせられたもんな。よう完成まで漕ぎつけられたもんや。撮影期間のスケジュールなんて完全無視で、製作費かって打ち出の小槌でもあると勘違いしとるかと思った…

ツーリング日和16(第32話)メガヒット

公開前からあれだけ揉めたら注目はされてたけど、公開されるや空前とも言える大ヒットになったんだ。映画館は連日長蛇の列と言いたいけど、今は予約による座席指定システムが多いから、都市部では長蛇の列は出来なかったな。 その代わりみたいにネットでは悲…

ツーリング日和16(第31話)これが映画だ

あまりの手に汗握る展開に誰もが固唾を飲んでたのだけど、そこで映像は終わっちゃったのよ。だから議員連中から口々に、「この続きはどうした」 「故障なら早く直せ」 「もったいぶるな」 そしたらサキ監督は席から立ちあがり、「この先は皆様のお心一つで決…

ツーリング日和16(第30話)試写会

議会向きの試写会だけど、これもアリスは呼ばれたんだよ。原田プロデューサーから、「最悪の場合、これが最後の上映になるかもしれません」 えっと思ったけど、市議会で予算が否決されればそうなるって。試写会は映画館を借りて行われ、参加したのは議員と市…

ツーリング日和16(第29話)撮影迷走

撮影が始まったのだけどオフィス加納だったからヒマがあったらのぞきに行っていた。シナリオの点検の時に通い詰めてたから今や顔パス状態になっている。でもオフィス加納ってどうなってるんだと思うぐらい不思議なところだ。 オフィス加納と言えば光の魔術師…

ツーリング日和16(第28話)クランクイン

シナリオの再点検も終わりいよいよクランクイン。記者会見は福岡であったのだけどアリスも呼ばれた。これはシナリオコンペのグランプリ受賞者だから。そうそう作品タイトルもあれこれ案があったのだけど、『蒙古襲来』 これは元寇を使うと弘安の役までイメー…

ツーリング日和16(第27話)手直し

それからオフィス加納に日参しながらシナリオの総点検と手直しに明け暮れた。「映画は本がすべてだ」 滝川監督みたいに台本無視が平常運転みたいなのもいるけど、サキ監督は撮影前に少しでも完成度を上げたいタイプで良さそうだ。この辺は製作費の問題も大き…

ツーリング日和16(第26話)サキ監督

ビックリした、ビックリした、元寇博の映画のシナリオコンペだけどまさかのグランプリだよ。そりゃ、獲る気で頑張って仕上げたけど、あの風祭光喜に勝っちゃったんだ。そしたらサキ監督ら連絡があってシナリオの確認がしたいって連絡があったのよね。 サキ監…

ツーリング日和16(第25話)居酒屋

武藤課長は審査会議が長引き、山之内市長を長時間拘束してしまっただけではなく、明日の延長戦の出席までさせなければならない羽目になり、会議後も関係部署への根回しに走り回されました。ようやく一段落がつき原田プロデューサーと居酒屋へ、「私も脚本を…

ツーリング日和16(第24話)会議室

ここは福岡市役所の会議室。元寇博記念の映画シナリオのコンペの審査が行われています。コンペには多数の応募があり、既に一次審査、二次審査を経て最終審査の段階に入っています。 出席者は福岡市側からは山之内市長と企画担当責任者の武藤課長、他にはプロ…

ツーリング日和16(第23話)主役は誰だ

フェリーを下りたら神戸だ。楽しかったし、仕事のためにもなった。コトリさんたちに感謝だな。一人で行っても、これだけの収穫があったかと言われると、絶対になかったと思う。さて旅行代金の清算をしないといけないけど、「ユッキーとも話をしたんやけど、…

ツーリング日和16(第22話)高麗

そう言えば元軍の士気が低かったから勝ったとするのもあったけど。「鎌倉武士より低かったかもしれんけど」 「元軍の置かれた状況は特殊なのよね」 どういうこと?「半島から対馬、壱岐と経由して北九州に来てるじゃない。感覚としてすっごい遠いところにい…

ツーリング日和16(第21話)勝因

阪九フェリーも名門大洋カーフェリーに負けず劣らずのデラックス版だ。お風呂なんか露天風呂まであるんだもの。夕食も終えて部屋に戻ると、どうしても聞きたいのが日本軍の勝因だ。「仮説とか、推測の積み重ねやで・・・」 合戦となった時に国内戦なら相手の戦…

ツーリング日和16(第20話)壱岐ツーリング

温泉旅館だから朝風呂に入って朝食だ。アジの開きがメインだけど、このでっかい豆腐は、「壱州豆腐やて」 これも壱岐の特産だってさ。そうそう、ずっと気になっていたのだけどお互いの呼び名。アリスはコトリさん、ユッキーさんって呼んでるけど、こっちは呼…

ツーリング日和16(第19話)重装弓騎兵

赤坂から麁原山の戦いで日本軍が勝ったのは良いとしよう。勝ったから負けた元軍が撤退したの説明はとにかく合理的過ぎるのもの。でもどうして勝てたのよ。そんなに日本軍はたくさんいたの。「それもわからん」 「五千人ぐらいって説もあるけど」 五千って、…

ツーリング日和16(第18話)文永の役

部屋に戻っても酒盛りの続き。壱岐を占領した元軍は、「松浦半島に攻め込んどるな」 なんか西に向かってるけど、「理由はあれこれあるんかもしれんけど、半島から北九州に来る時の伝統的な航路やったぐらいちゃうか」 「魏志倭人伝もそうでしょ」 直で博多を…

ツーリング日和16(第17話)温泉だ

樋詰城跡から勝本に寄って、「この辺一帯から元軍は上陸したのよね」 ここから上陸した理由は、やはり水先案内の高麗人が良く知ってる港だっからだろうな。博多に行く時も当時はここで泊まってから行ってた気がする。この港を知ってると言うことは守護代屋敷…

ツーリング日和16(第16話)古戦場跡

フェリーは芦辺港に定刻通りに十一時五分に到着。壱岐に上陸したのは嬉しいけど、なにか寂しい港だな。「フェリー乗り場はこういうとこ多いよ」 「一日二便じゃ栄えようがないじゃない」 それもそうだ。さて壱岐を走るぞ、「まずメシや」 ちょっと早いけど、…

ツーリング日和16(第15話)集団戦法

朝食はホテルのビュッフェで食べて、七時半過ぎにはフェリーターミナルに到着。チケットを買って待機。やがて乗り込みが始まり定刻の八時五十分に出航だ。到着は十一時五分となってるから、二時間半ほどの船旅だ。 とはいえ対馬にも来る時にも乗った航路だか…

ツーリング日和16(第14話)厳原二泊目

厳原戻って来たら道の駅で土産物漁り。またあの宿坊なの、「連泊するほどの宿やあらへん」 「ああいうところは泊まったことがあるで十分でしょ」 アリスも宗派が違うものね。厳原にもホテルや民宿、さらにペンションもあるけど、基本はビジネス対応みたいで…

ツーリング日和16(第13話)ここも端っこ

国道を北に北にと快走してたんだけど、「コトリ、腹減った」 「ユッキーは走る腹時計か」 いやアリスも空いてきた。コトリさんはそうじゃないの。「ああ考えてある」 コトリさんが調べたところでは、厳原から離れるとなんにもないのが対馬みたい、佐須浦もそ…

ツーリング日和16(第12話)北へ

金田城跡の入り口を過ぎて、ようやく国道三六二号に戻ってきた。別に三六二号って付けなくても対馬で唯一の国道なんだけどね。ところで対馬って一つの島よね。「付属の小島を除くとそうやった。そやけど対馬って真ん中にくびれみたいなところがあるやんか。…

ツーリング日和16(第11話)弘安の役と石築地

コトリさんの元寇の見方がおもしろい。だってまさかの二段階戦略だって言われて目を剥きそうになったもの。「フビライかって英雄やからな」 そこまで壮大な戦略を立て、それを実行させたのはたしかにタダ者じゃない。それでも第一段作戦の文永の役は失敗し、…

ツーリング日和16(第10話)威力偵察説

コトリさんの先行ペースは、アリスでも無理なく走れるものになってくれた。ちょっと悪いと思ったけど、「これがマスツーや」 「仲間と走るってこういう事よ」 お言葉に甘えておこう。事故は嫌だ。運転に余裕が出来たから元寇の話を。これもどこかにあったけ…

ツーリング日和16(第9話)不思議なバイク

佐須浦からどうするのだろうと思ったら、県道二十四号を北上するのか。これも結構な山道だ。二車線のところもあるけど、山に入ると一車線じゃないの。それもまあクネクネと、「ワインディングロードや」 「楽しいでしょ」 バイク乗りはワインディングロード…

ツーリング日和16(第8話)八幡蒙童訓

朝食はお寺の朝食だったけど上品だったかな。まさか座禅体験とかやらかすかとヒヤヒヤしたけど、「宗派が違うのよ」 だったら泊まるなよ。やっと本格的な対馬ツーリングだけど、アリスがまず行きたいのは、「みなまで言うな。わかっとる、わかっとる」 だい…

ツーリング日和16(第7話)アリスの狙い

化物の飲み食いに付き合って、宿に戻ってきた。ここも由緒あるらしくて、朝鮮通信使の宿舎にもなっていたとか。「ホンマは以酊庵やねんけど、あれこれあって・・・」 「というか以酊庵の跡を継いだだけで・・・」 歴女の会話はスノブすぎる。「わたしは歴女じゃな…

ツーリング日和16(第6話)厳原

五時間足らずの船旅を終えて、「対馬に上陸だ!」 とはいえもう午後の三時だ。「厳原の市内観光だけでもやっとこ」 フェリーターミナルから厳原大橋を渡って突き当りだけど、道路案内を見てもチンプンカンプンだ。これは対馬だからじゃなく、「地名を見ても…

ツーリング日和16(第5話)古代対馬

対馬と言えば国境の島になるけど、昔から日本の領土だよね。「ああそうや、古事記にイザナミが産んだ大八島の一つに挙げられとるぐらいや」 「魏志倭人伝に使訳ができる国って紹介されてるよ」 使訳ってなんだと聞いたら、言葉が通訳付きでも通じて交流があ…