ツーリング日和16(第30話)試写会

 議会向きの試写会だけど、これもアリスは呼ばれたんだよ。原田プロデューサーから、

「最悪の場合、これが最後の上映になるかもしれません」

 えっと思ったけど、市議会で予算が否決されればそうなるって。試写会は映画館を借りて行われ、参加したのは議員と市長、市の幹部、それとアリスも含め関係者ってやつだった。

 まだ完成じゃないから、オープニング映像なしに本編に入って行った。最初は少弐屋敷のシーンだったけど、宗盛明の設定は苦労した。サキ監督と何度も練り直したのだけど、どうしてもネックになったのは宗助国の年齢がわかってしまってること。

 ついでに言えば宗盛明は対馬太郎と呼ばれた長男みたいだったんだ。でもそれじゃあ、四十歳ぐらいになってしまうのよね。そこで盛明は後妻の正室の子にすることにした。兄はいるけど側室の庶子にして、なおかつ後妻の正室は少弐氏から迎えたことにしたんだ。

 家督相続は長幼、本人の資質、正室か側室か、さらには母の出自の力関係がからむのだけど、宗家にとって主家にあたる少弐氏の娘の息子なら、兄を押しのけて嫡子になる理由が出来るぐらいだ。

 それと宗家は助国が初代みたいで守護代に任じられてるんだ。これを利用して、少弐氏では次期守護代候補を少弐屋敷で養育する設定にした。この辺は無理やりなところも多いのだけど、そうでもしないと少弐景資、宗盛明、平重隆の幼馴染設定が出来ないものね。

 清姫を巡る三角関係も年齢の壁に苦労させられた。今と違って女の結婚年齢が早いのよ。だってだよ高校生か下手したら中学生で結婚しちゃうのだもの。だから許嫁設定にしたら幼馴染ラブが成立しないのよ。

 だから守護代は守護である少弐氏屋敷に定期的に挨拶に行っていることにした。これも対馬の守護代は助国だから困ったのだけど、高齢で病気がちとして、代理人として盛明が行っていることにしたんだ。

 少弐景資、宗盛明、平重隆は幼馴染で仲が良い設定にしてるから、挨拶の時に旧交を温め、そこに景資の妹である清姫が座持ちに現れ、盛明と景隆が一目惚れする流れだ。盛明と景隆は恨みっこなしで同時に求婚し、清姫は盛明を選び、景隆は潔く引いて祝福するんだよ。

 書けば煩雑な設定なんだけど、スピーディかつ印象的に撮れていた。さすが短編映画の名手だと思ったもの。この人間関係が物語を大きく動かすのだから、撮影の時にあれだけ時間をかけていたのが良く分かったもの。

 対馬に戻った盛明だけど、そこでヒシヒシと感じるのは元帝国の脅威だった。対岸の高麗は元帝国の属国になり、その鉾先は日本に向かっているんだよ。鎌倉から異国警固の命もあり、守護代屋敷も防備を固めてる様子も描かれる。

 高麗で日本遠征のための大船団建設の噂が流れ緊張が高まって行く中で、海から大きな太鼓の音が不気味に聞こえ出すんだよ。なにごとかと浜まで出て来た盛明だったけど、霧の中から現れたのは元の大船団だった。

 そうそうこの頃の厳原は府中と呼ばれていたのだけど、湊に入って来た元船から船が下ろされ、そこに元兵が満載されているのを見て、これは使節ではなく侵略軍と悟った盛明は守護代屋敷に戻るんだ。

 盛明の報告を受けた助国は臨戦態勢に入るのだけど、上陸した元軍は守護代屋敷に迫ってくる。懸命の防戦をするのだけど元軍は圧倒的な大軍だ。先に女たちを逃げさせようと盛明は屋敷の中に行くんだよ。

 母たちのいる部屋に入った時に盛明は絶句する。そこは血の海になってるんだ。逃げて捕まり辱めを受けるよりもと、一族の女は自害してたんだ。辛うじて息のあった盛明の母は、

「なにをしておる、盛明殿こそ落ち延びなされ。落ち延びてお家を守るのじゃ」

 助国の下に戻って戦うも元軍はついに守護代屋敷に乱入してくる。血路を開いてなんとか佐須浦に逃げ出すのだけど、元軍の執拗な追撃を受けることになる。追いつかれそうになった時に、盛明の兄弟や、郎党たちが一人、また一人と、

「一矢馳走仕って参る」

 引き返して元軍と戦うんだ。狭い山道だから時間稼ぎだ。ここでだけど助国は高齢の上に病もあり、これ以上は足手まどいと判断し、残った手勢を率いて反撃に出ようとする。盛明も一緒に戦い死のうとするのだけど、

「壱岐の景隆殿、さらに博多の景資殿にこの様子をしかと伝えよ」

 泣きすがる盛明に、

「命は使いようがある。ここで一緒に死んでは、ここで起こった事を伝える者がいなくなる。そちの命はこれを伝えるために使うのじゃ。生きて伝え、この無念を晴らせ」

 助国たちは奮戦したが多勢に無勢、一人また一人と討ち取られ全滅。命からがら佐須浦に逃げ込んで小舟で壱岐を目指すんだ。自分を使者として送るために、親兄弟のすべてを犠牲にした無念さが画面から溢れるようだった。


 壱岐にたどり着いた盛明は守護代屋敷に行き景隆と再会。驚いた景隆は壱岐の手勢をかき集め、元軍の来襲に備えようとする。景隆は盛明に博多に行けと言うのだけど、ここで戦わないと武士の名折れとする盛明と口論しているうちに元軍が来襲。

 景隆は陣を敷いて戦うものの、地面を埋め尽くすような元軍に敵うはずもなく守護代屋敷に敗退。ここすら支え切れないと判断し、夜陰に紛れて庄の三郎城まで落ち延びるんだよ。ここで景隆は盛明に、

「盛明殿の御加勢は天晴れ武士の誉れであった。だが壱岐での戦いは無念だがここまでだ。盛明殿はこの状況を博多の景資殿に伝えて頂きたい」

 ここで一緒に死ななくしてどうすると激昂する盛明に、

「これは異国の者との戦い。この様子を景資殿に伝えることを一番の功名手柄と心得よ。そして博多で我らの無念を果たしてくれることこそが本望だ」

 それでもと食い下がる盛明に、

「そこもとの御父上殿たちはなんのために命を投げ出されたのじゃ。壱岐では景隆がそうするだけのこと。ここで死んでは、死んでいった者たちになんと言うつもりだ」

 厳しい顔で叱りつけるように言った後、

「清姫殿は任せたぞ。もし泣かせたりすれば、地獄の閻魔を打ち倒して戻って来るからな」

 景隆は部下に無理やり盛明を浦まで連れて行かせ、翌朝に城を枕に全滅。その断末魔のような悲鳴を背に盛明は博多に落ち延びて行くんだよ、元軍は対馬でも壱岐でも略奪、さらに虐殺を行い船団は松浦、鷹島、さらに博多湾の能古島まで姿を現して来るんだ。


 一方で対馬、壱岐での敗北を知ったた景資は、じりじりする思いで大宰府で兵が集まるのを待っていた。だけど集まってくる兵の顔色も良くないのよね。元軍の圧倒的な強さを噂に聞いて口には出さずとも恐怖の影を感じているとして良い。

 大宰府に集まっている日本軍の雰囲気の重さ、暗さが画面いっぱいに伝わるもの。そこに次々に入って来る元軍の動き。景資は兵力不足を感じ、もうすぐ来るはずのさらなる援軍を大宰府で待つか、博多に出て迎え撃つか悩むんだ。

 軍議が開かれるのだけど、元の大軍の猛威を誰もが感じてる。そのために軍議は決戦を挑むと言うより大宰府をいかに守るかの意見が大勢を占め出すんだよね。そういう流れから、

「かなたは大軍、こなたは小勢。水城に拠って戦うのが上策かと」

 この意見に軍議は決まりかけるのだけど、盛明は憤然として立ち上がり、

「不甲斐なき者共よ。あれしきの防塁など元の大軍の前にどれほどの意味があろうか。我らが力が出せるのは防塁では御座らん。馬巡らせてこそ本領では御座らぬか」

 さらに続けて、

「対馬、壱岐で先に行った者共に笑われたいのか。あの者共はここにいる我らの勝利を信じて死んで行ったのだぞ。彼らの無念がわからぬのか」

 盛明の気迫は軍議の場を圧倒し、

「我ら武士が守らねばならぬ民草を、むざむざ異国の輩に殺されるままにされたのだぞ。ここで小さく守ってなんとする。我らの命の使いどころは、博多で迎え撃ち、彼奴らを海に葬り去る以外に御座らん」

 盛明の気迫に押されるように博多に向かう日本軍。大宰府の都門を出る時に門の上に清姫が姿を現すんだよ。そして、

「元の輩を必ずや打ち破ると信じております。どうか御武運を」

 さらに日本軍の目に留まったのが、無邪気に遊ぶ子供たちの姿。我々が敗れれば、あの子たちも殺されてしまう。負けてはならぬ、負ければすべてを失うの思いが全軍を覆いだすんだ。

 博多に到着した日本軍の下にまたもや急報。元軍が博多湾の西側に上陸してくるのを予想し、赤坂に派遣していた先遣部隊からの報告で、

「元軍、赤坂に迫りつつあり」

 この時も、赤坂を越えて博多に下って来た元軍を迎え撃とうの意見が出るのだよ。博多で戦えば敗れても水城を最終防衛戦に出来るぐらいの意見だ。それに対して景資は、

「受け身の戦いで勝った験しなど聞いたことが無い」

 こう言って退け、床几から立ち上がり、大きく息を吸い込み、

「敵は赤坂にあり」

 大宰府から景資は、これだけの大軍同士の決戦の重圧に喘いでいたんだ。だから緊張のあまり青白い顔をしてたんだ。だけどここに至って、顔を真っ赤に紅潮させ、気迫を満身にみなぎらせ、全軍に轟くような大号令を下すんだよ。さらに馬に跨り陣頭に立とうとする景資に、

「御大将が出られるとはなんとされる」
「まずは赤坂に増援を送られるべきかと」

 こんな声が上がり、これを止めようとする者が出て来るんだ。景資はこれを振り払い馬上から高らかな声で、

「命が惜しい者はここに残れ。そうでなく名を惜しむ者は我に続け」

 さらに、

「雌雄を決するは、もののふの荒肝のみ。元の奴輩に馳走せん」

 それに応えて、

「おう」

 どうするのかじっと待っていた全軍から地響きのような叫びが湧き起こるんだ。景資を先頭に全軍が動き始めて・・・