天使と女神シリーズ12 渋茶のアカネ
アカネはフォトグラファーとして順調に成長。そんなアカネにシオリは課題を与えます。その課題の壁のあまり高さ、厚さに苦悩するアカネ。さらに課題にまつわる様々な因縁や出会い。アカネは課題を克服できるのか、ひたすら写真に打ちこむアカネの物語です。 |
写真家の世界を描いてはいますが、あれは完全なフィクションです。そりゃ、見たことも聞いたこともないからです。唯一の手がかりは旧友が写真でメシを食ってて、 「写真はシャッター押すだけで撮れるから競争が激しくて」 この言葉を想像力だけで広げた代物…
及川氏は結局間に合わなかった。日本に帰ったら葬式済んでたんだ。 「ツバサ先生、ルシエンの夢は結局叶わなかったですね」 「いや叶った。小次郎はきっと見に来てたよ」 「えっ」 「わたしが脱いだ瞬間ぐらいが死亡時刻になる」 言われてみれば、そんなもの…
流木を拾い集めて焚火にしながら夕食。今夜はレトルトのカレー。食べ終わってから、 「やはり及川氏と」 「まあな、あの時もここでテント張ったんだ」 及川氏と付き合って三ヶ月ぐらいの事だそうで、旅行に誘われたんだって。どこに行くのかと思ってたらツバ…
数日後に、 「アカネ、海外取材だ」 「関空ですか、成田経由ですか」 「いや、神戸から飛ぶ」 神戸からも国際便は出てるけど、香港ぐらいのチャーター便しかなかったはず。 「それと二人で行く」 「二人だけですか」 「そうだ、オーストラリア・ドルに変えと…
トンデモないクレイエール・ビル三十階での一夜だったけど、朝、洗面所に寝ぼけ眼で顔洗ってたら、 「誰ぇぇぇぇ」 心臓止まりそうになった。そりゃ、アカネに似てるといえば似てるけど、なんかビックリするような美女がボサボサの髪で歯を磨いてるんだもの…
ここまで和やかに話は進んでたんだけど、急に猛烈な不安に襲われたのよ。永遠の女神が現代にも実在するなんて、知ってはならない秘密じゃない。それをこうもアッサリ話すってことは口封じもセットのはずだって。 たとえばコンクリート詰め。それだけじゃない…
豪華なテーブルに豪華な食事がテンコモリ。それにしても立派な台所、いやあれだけになると厨房だな。 「アカネさん、頑張って作ったんだけどお口に合うと嬉しいわ」 「アカネ、ここのルールは遠慮なく食って、飲むこと。足りなきゃ、いくらでも出て来るから…
エレギオンHDは世界三大HDの一つに数え上げられる日本一の大会社。それぐらいはアカネでも知ってる。そして、これを率いる小山社長はまさに雲の上の人。調べてみて腰が抜けそうになった。まさに数々の伝説に彩られた氷の女帝。 伝説の始まりはクレイエー…
アカネがブレークした及川電機のカレンダーだけど、あれはまだ仕事としては未完成。残り半分をなんとしても完成させなきゃいけないんだ。それこそルシエンの夢なんだよ。でもそれにはツバサ先生の協力が必要なんだけど、これが難物。 イヤなのも心情的にわか…
「ユッキー、なんか用か。わざわざここに呼び出しって大層やんか」 「そうよ大事な用事よ」 なんやろ。大学や大学院通ってる間はお互いフリーが原則やねん、用事があるとしたら女神の仕事、そうイタリアでやった天の神アンの残党騒ぎクラスや。 「また変なん…
「男が欲しい」 もとい恋人とか彼氏が欲しいの意味だけど、真剣に考えるべき課題である。たしかに仕事が忙しいから出会いのチャンスは少ないけど、この状態が改善されるわけないじゃないんだ。そうなのよ、忙しくても一時的なものなら、そこだけ我慢してもイ…
アカネを幹部社員じゃなく専属契約にした理由を聞いたことがあるのだけど、ツバサ先生は、 「あん、経営やりたいの?」 アカネには無理だろうって。ごもっともで、幹部社員ってエラそうな肩書付くけど経営もやらなきゃいけなものね。おかげで写真に専念出来…
ここがクレイエール・ビルだな。ここはアカネでも知ってるエレギオンHDの本社ビル。そりゃ、世界三大HDの一つだもんね。エレギオン・グループからの仕事も多いから失礼ないようにしとかないと。 今日は及川氏からカレンダーの件で話がしたいとのこと。か…
わけわかんない世界に放り込まれた気分。このアカネが『先生』なんだよ。もっとも照れくさすぎるからオフィスではなるべく呼んでくれないように頼んでるけど、外に出れば、 『泉先生』 もっとも、 『渋茶先生』 こう呼ぶのもいる。クソ、いつまでも祟るんだ…
一ヶ月も休むと、 『久しぶり』 こういう感じがするもんだね。 「おはようございます」 「やっと元気になったねぇ」 もうコリゴリだ。 「そうだそうだ、サトル先生が呼んでたよ。出勤してきたらすぐに顔を見せて欲しいだって」 ヤバイ、お説教かな。そりゃ、…
うわぁ、良く寝た。あれ手にチューブが付いてる。なんか変なところにもチューブが。なんだ、なんだ、ここはどこ、私はアカネよね。うん、ここはアカネのアパートじゃない、どこだろう。 「泉さん気づかれましたか」 「え、はい、ここは」 「病院です」 えっ…
東京出張から帰られたアカネ先輩はそれこそ寝食を忘れる勢いでカレンダーに取り組んでおられます。いつもの陽気でお茶目な様子は完全に翳を潜め、眼はランランと輝き、殺気さえ漂う感じです。 今は追い込みに入っているはずですが、カレンダー製作に使われて…
遊園地の仕事の良いところは、仕事にかこつけて、乗り放題が出来る点よね。でもさすがに乗り過ぎた。しばらくは、もう行きたくない気分。何事にも限度があるもんね。それでもイイ気分転換になったし、締切も伸びたし。 でもツバサ先生はニヤニヤしてたけど、…
アカネ先輩と麻吹先生がなにやらもめています。 「堪忍して下さいよ。アカネに時間がないのはツバサ先生が一番良く知ってるじゃないですか」 「だから、気分転換と思って」 「でも一週間は困ります。締切が迫ってるのですから」 「ああ、それ。わたしが頼ん…
マドカが写真に魅せられたのは写真好き父の影響もありましたが、父に感化された兄が近くの写真教室に通いだした時に、一緒に入れて頂いたのが始まりとなります。兄の方は中学に入ると陸上部に熱中してしまいましたが、マドカの方は写真に熱中しました。大学…
相変わらず打倒! 加納志織に悪戦苦闘中なんだけど、カメラはアカネ2がメインになってきてる。同型機のはずだけど、どうにもこっちの方が良い気がしてる。どういうのかな、撮った画像のヌケが格段にイイ気がするんだ。 どうしてだろうと思うのよね。どうし…
アカネの手元にはオーバーホールの終わった愛機が。それにしてもピカピカに磨き上げられてる。修理期間も通常は十日以上かかるんだけど三日で仕上がってた。お代を払おうとしたんだけど、 「すみません。修理中にカメラに傷をつけてしまい、帳消しということ…
アカネの愛機の不調は微妙なもので、トコトン使い込んでるからわかると思ってた。シャッターの切れ具合、写し取った画像の映え具合が想定したものと微妙にずれる感じ。オーバーホールすればマシになるんだけど、しばらくするとまた悪くなる感じ。 カメラマン…
ツバサ先生に紹介されたのは及川小次郎氏、御年九十一。経歴も調べたんだけど、父親の急死により二十六歳の若さで社長を継ぎ、町工場に毛の生えた程度だった及川電機を今の規模に育て上げた立志伝中の人でイイみたい。 及川氏で有名なのはカメラ関係なら及川…
アカネのカメラは中学の時に親を拝み倒し、泣き落とした末に手に入れたいわゆる入門機。それ以来ずっと愛用してる。高校の時に東野の野郎に散々バカにされたけど、ちゃんとリベンジを果たしてくれたおりこうさん。でもさすがに買い替えの必要性を痛感してる…
サキ先輩がいなくなってから、アカネはサキ先輩がやっていたオフィスの収入になる本気の仕事もかなり任されるようになってる。評判も悪くないみたいで、なんか仕事がドンドン増えてる気がする。ツバサ先生からの指摘やアドバイスはもちろんあるけど、 「アカ…
サキ先輩の退職騒動が収まってくれて嬉しかったんだけど、サキ先輩の抜けた穴を埋めるのは大変。マドカさんはアカネも通った下働き修業過程で役に立つどころか、足を引っ張るばっかりだし。 でもサキ先輩もアカネが足を引っ張りまくっていたのを、文句ひとつ…
サキ先輩は次の日も休んで来なかった。ツバサ先生には追うなと言われたけど、あれだけお世話になってるんだ、このままには出来ないじゃない。仕事が終わってからサキ先輩のアパートを訪ねたんだ。玄関に入ったらビックリした、ビックリした、部屋中段ボール…
オフィス加納では弟子育成の方針として、とにかく真剣勝負の場に放り込んで鍛えるのが基本で、アカネがやっている商店街の仕事もその一環。あんな小さな仕事を受けてるのは近所づきあいの意味もあるけど、弟子の育成用のためでもあるでイイと思ってる。 でも…
まさかやらされる羽目になるとは思わなかったのよ。だってだよ、アカネは端くれでもプロだし、東野の腕は落ちてるし、そのうえアマチュア。勝って当然だし、インチキされて負けでもしたらアホらしいって頑張ったんだけど、 「こういう修羅場もイイ経験だよ」…