及川氏は結局間に合わなかった。日本に帰ったら葬式済んでたんだ。
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「ツバサ先生、ルシエンの夢は結局叶わなかったですね」
「いや叶った。小次郎はきっと見に来てたよ」
「えっ」
「わたしが脱いだ瞬間ぐらいが死亡時刻になる」
言われてみれば、そんなものかも。
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「写真より生が見たかったんじゃない。ついでにアカネもオマケに付けといたから喜んだだろう」
やだ見られたかも。
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「及川氏は神だからまた出会うかもしれませんね」
「出会うかもしれないが、わたしのことを覚えてない」
「えっ」
ユッキーさんの話らしいけど及川氏は神であっても記憶は継承しないだろうって。
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「そういうタイプが生き残ってるのは希少例だそうだ。神の存在自体が希少だが、その中でもさらにってところだ」
「いつ及川氏は神になったのですか」
「ユッキーが言うには胎児からだそうだ。それと使徒の祓魔師程度なら、なにかキッカケがないと神は眠ったままのことも多いらしい」
キッカケは父親の急死による急遽の社長就任か。
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「だからツバサ先生はルシエンの夢を」
「そうだ、神は甦っても小次郎とは二度と会えないからな」
そうだそうだ、
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「今日はこれからサトル先生とですか」
「ああ、ドレス合わせ」
ついにサトル先生は勇気を振り絞ってツバサ先生にプロポーズしたんだよ。ツバサ先生もそれを受け入れたから結婚式の準備中。
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「式はやはり聖ルチア教会ですか」
「わたしも女だからね」
「じゃあ、輝く天使のウェディング」
「そっちにしたかったけど、サトルが微笑む天使がイイってさ」
どっちでも似合うだろうな。この際だから冷やかしてやろうっと。
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「やった御感想は」
「あは、まだだよ。アイツは堅物だから、ファースト・キッスは指輪の交換が終わってから、燃えるのは初夜からだってさ」
「それもロマンチックでイイじゃありませんか」
「まあな。結婚すれば公認でやり放題だけど」
ちょっとツバサ先生、あまりにもモロすぎる。
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「ツバサ先生バージン説なんてありましたが」
「あん、その方が男も喜ぶだろ。この体では初めてだよ」
「えっ」
やはり、ツバサ先生をサトル先生はずっと待ってたんだ。
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「でもサトルにわかるかな」
「わかりますよ。きっと感動してくれるはずです」
ツバサ先生はニヤッと笑って、
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「女神は技能を受け継ぐのは知ってるね。それだけじゃなく、アレの感度も受け継ぐんだ」
「じゃあ、加納先生の時からの・・・」
「技能や感度は記憶の継承がなくとも蓄積され受け継ぐんだとよ。わたしの記憶はまだ百年足らずだけど、アレは一万年だってさ」
「一万年・・・」
「ははは、とにかく楽しみにしてる。久しぶりだし」
それにしても、この一年はいろいろあり過ぎた。念願のプロとして専属契約を結べたのにもビックリしたけど、この体もなんなんだ。親にアカネだと認めてもらうのも大変だったんだから。でも、結果オーライかな。来年はどんなことが待ってるんだろう。とにかく犬にだけはなりたくない。