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『カランカラン』
今日はツバサ先生とバーに。ここも付き合い長くなって、先代のマスターの時からになる。代替わりはしてるけど、しっかり昔からの雰囲気を守ってくれてるから、ツバサ先生もお気に入り。
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「タケシはどうだ」
「それが、なかなか」
タケシが頑張ってるのは認めるけど、発想が固いんだよね。これは殆どの弟子がそうだったし、今までの弟子もペンギンをなんとかクリアしても、個展まで行きつかなかった者が殆どなんだよ。
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「そう言うな。アカネが異常過ぎたのだよ」
アカネがどうも『そうらしい』のも弟子を持ってやっとわかった気がする。だってアカネに言わせれば、なんであんなツマラナイ写真を撮りたがるか理解できないもの。
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「やはりタケシもここまでか」
「いや、ちょっと違う気が」
表面から見ればそうなんだけど、タケシは何か持ってる気がするんだよ。
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「難しいところだな。持ってると思っても、実は持ってなかったのが殆どだ。その点でアカネはラクだった。剥きだしだったからな」
それでもツバサ先生がタケシを気にしているのは良くわかる。ツバサ先生とてイイ手があるわけじゃなく、しばらく、あ~だ、こ~だと話している時に、
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『カランカラン』
二人の女が、
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「あらシオリとアカネさんじゃない」
「来てたんか」
なんと女神どもの御来臨。もっともツバサ先生もいるけど。
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「ユッキー、シノブちゃんは」
「それがね・・・」
これが聞いて驚いた。シノブさんが恋に落ちたそうなんだ。まあ、それだけなら『また先を越される』だったけど、なんと振られたんだって。
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「女神が振られる事なんてあるのですか」
「あるよ、カズ君はシオリに持ってかれた」
「またその話か」
「じゃあ、サトルをさらっていったのは誰だっけ」
これも知ってる。なぜか最後にさらっていくのはツバサ先生だって。でもさぁ、でもさぁ、コトリさんや、ユッキーさんが敗れたのは相手が主女神を宿すツバサ先生だからじゃ、
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「そうでもないで。ユウタも相本教授に持ってかれた」
あれはコトリさんが振ったんだと思うけど、そうは言えない事もない。とにかくシノブさんは落ち込んじゃって大変だったらしいんだけど、やっと元気が少し出て来たらしい。
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「とにかく気を使って疲れるんや。腫物に触るみたいなもんやんか」
だろうな。だから二人で息抜きに来たわけか。そんなシノブさんだけど、馬に凝ってるらしい。凝ってるってレベルじゃなくて、日本でも有数のレベルを誇る乗馬倶楽部と果し合いみたいな団体戦に参加して勝ってしまったらしい。ここでツバサ先生が、
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「そりゃ、凄いな。相手は甲陵倶楽部だろ」
そこに乗馬倶楽部があるのは知ってる。馬で障害物競争みたいなものをやってたのを見たことがあるけど、たしかオリンピック候補選手もいたはず。要するにそれぐらいレベルの高い乗馬倶楽部。
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「甲陵もプライド高いとこやんか。そやからリベンジ・マッチを仕掛けて来てるんや」
「また果し合いですか」
「いや、デュエロや」
デュエロって言えば、
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「へぇ、サーカス勝負になったのですか」
「それはピエロだ」
「じゃあ、ラベル・プリンター勝負」
「それはテプラだ。だいたいどうやってそんなもので勝負するのだ」
「そっか、揚げ物料理勝負だったんだ」
「だから天ぷらじゃないし、テプラじゃなくてデュエロだ」
ここもよく聞くと、デュエロとはフランス語で決闘の意味らしい。それだったら一緒だと思ったけど、要するに馬術競技でタイマン勝負をやるらしい。もう、回りくどい言い方をしなくても良いのに。
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「ユッキー、もしかしてそのデュエロって会長杯のことか。いや、あれは会員以外の参加は認められていないはずだが」
「ピンポン。今回は特別に外部招待選手を呼んでやるつもりなの」
ツバサ先生がどうして知ってるかだけど、以前に乗馬に嵌ってた時期があったのよね。甲陵倶楽部で乗るために、わざわざ馬まで買ってやってたけど、とにかく時間がないから続かなくて、今は馬も売り払っちゃってる。そうそう何度か写真も撮らされた。
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「甲陵の競馬大会と言えば」
「競馬じゃない馬術大会だ」
似たようなもんじゃないか。
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「そんな依頼が入ってましたよね」
「あれも誰にさせようか悩んでいる」
「指名依頼じゃなかったんですか」
「急な依頼だったので別枠になっている」
そこで指名はしないが、なんとか四人のうちに誰かに撮ってもらいたいの依頼が入ることがある。これだって四人とも撮影スケジュールがビッシリ詰まってるから無理がアリアリなんだけど、かなり吹っかけて請ける時がある。これが特別枠でオフィスでは別枠と呼んでる。
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「まあ甲陵の依頼だから断りにくくてな」
わかる。たしかにあそこの会員はウルサ型が多いし、
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「アカネ、タケシにやらせてみるか」
別枠は『なるべく』四人でだから、弟子にさせることもあるんだけど、
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「ツバサ先生、それはいくらなんでも。試合ですからワン・チャンスじゃないですか。失敗でもしたら後がウルサイし」
「そこまで追い詰めればタケシの真価がわかるかもしれない」
出たぁ、ツバサ先生の得意技。逃げ場のない修羅場に叩きこんで、本人の自覚と成長を期待するって手法だ。そりゃ、アカネとマドカさんの時には成功したけど、その後は失敗の山しか築いてないじゃないか。
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「そこでだ、保険を掛けておく」
やっぱりね。こういう点でツバサ先生はシビアなんだよね。
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「でもバレますよ。同じ日に撮ればバカでも気づきます」
「その点だが・・・」
ここでツバサ先生はユッキーさんに向き直り、
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「ユッキー、頼みがあるんだけど」
「そういうことか。イイよ」
こらっ、それだけで話を終わらせるな。聞いてる方がわかんないじゃないか。
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「それでアカネもイイな」
「イイも悪いも、なんのことだかわかりません」
「アカネにわかりにくかったかな」
あんだけでわかる方がおかしいだろ。聞くとエレギオンHDというか、その社長のユッキーさんから依頼を出してもらうんだって、
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「シノブちゃんが出るから、ユッキーから撮影依頼があってもおかしくないだろ」
「そうですね」
「そうなると同じ日に特別枠がダブルことになる。二人も出せないから、エレギオンHDを優先させたといえば甲陵も文句は言いにくくなる」