天使と女神シリーズ外伝1 リンドウ先輩
どうしても母校を甲子園に連れて行きたい熱血野球少女のカオルは、四人まで部員が減ったヘッポコ野球部にGMとして入部。しかし部員をかき集め、監督を引きずり込んでも余りにも遠過ぎる甲子園。もし可能性があるとしたら、あの男の協力を得るしかない。カオルが繰り出した秘策とは。 |
この作品は『天使と女神』のスピンオフ作品となっています。『天使と女神』がラブロマンスだったのですが、同じような路線では次回作の構想がさっぱり浮かばず、路線転換を図っています。 青春野球ドラマなんてこの世に掃いて捨てるほどあるのですが、マンガ…
「カズ君、こっちもあるんだ」 「こりゃ、凄い。栄光のメンバーのアルバムやん。じゃ、ひょっとすると」 「お目当てはこっちでしょ」 私はパラパラとアルバムをめくるとお目当ての写真を探し出してあげました。 「こりゃ、目が潰れるな」 「大げさな」 「い…
ボクは古城明。今日は夏の予選も終ってから二週間後ですが、三年生の追い出し会になっています。これも一悶着あって、水橋さん、春川さん、夏海さん、秋葉さん、冬月さんの五人は県予選の決勝の翌日に退部届を出されたのです。自分たちは単なる助っ人に過ぎ…
ここは慰労パーティ会場。勝ってれば大祝勝会の予定だったけど、負けたんで竜胆監督がささやかにやろうって。そうしていたらお好み焼き屋の大将が特大ブタ玉を三十枚ぐらい持ってきてくれて、 「エエ試合やった、感動した。でも、あの敬遠は男のすることか・・…
相手は極楽大附属、ウチが進学の時に狙とった学校や。ここがうちの野球部の最後の関門になるとは皮肉なもんや。 一塁側のうちの応援スタンドは超が付くほどの満員。こんなこと二度とないかもしれへんもんな。それでも明石球場じゃ一万二千人収容と言っても内…
学校はもう大騒ぎ。そりゃなんと言っても決勝進出です。後一つ勝てば夢の甲子園なのです。なんかウチはかえって茫然と見てたわ。ウチがなにもしなくたって、応援団が動員されて、応援グッズもぴっちりそろってるやん。応援バスだって何台出るんよ。 あの丸久…
準決勝の結果を受けてのマスコミ報道は大変な事になったんだ。もちろん無名の明文館が強豪SSU附属を破って初めて決勝進出したこと、延長戦の末、大丸キャプテンの劇的なサヨナラ・ホームランで勝ったことでも十分すぎる話題性があるんだけど、この程度な…
「SSU附属戦のラインナップを発表する」 監督は初めて打順を組み替えた。それだけでなくライトの里見を古城に代えた。古城は合宿の時からライトの練習をやらせていたが、里見よりは守備も打撃も格段に良い。その上で四番に水橋を据えた。新打線は一番ボク…
「おいダイスケ、あのピッチャーどう思う」 「どう思うも、こう思うもあらへんやん。なんでまあ、これだけごっついピッチャーが次から次へ湧いてくるんやろ」 第一試合で正徳高校に勝ってから、スタンドで次の対戦相手になりそうな第二試合のSSU附属の試…
準々決勝の相手は正徳高校。いわゆる古豪で前身の正徳実業時代に何度か甲子園に出場してるんだよ。でも今度はうちが勝つんじゃないかの空気が学校中にパンパンに膨れ上がってる。それぐらい明舞学院戦のユウジの投球が凄かったんだ。 さてやねんけど、明舞戦…
ブロック代表はベスト十六になるんやけど、ここで組み合わせ抽選が行われた。大丸キャプテンが引き当てたのは明舞学院。もちろん屈指の強豪で優勝候補の一角。つうかここまでくればこんなんばっかり。その五回戦は七月二四日からの予定のはずやったが、こん…
「ススム、ちょっと話があるんや」 ボクは冬月進、親しい仲間からは『ススム』と呼ばれてる。秋葉とは中学野球部からの親友。 「ススムはリンドウさんのことタイプやないと言ってたよな」 「そうだけど」 「今も変わらんか」 「ボクの恋愛対象ではない」 秋…
名前だけの顧問の先生が、 「竜胆君、少し話がある」 あれ珍しいと思って職員室に行くと、城翔学園戦の応援がPTAの方で少し問題になってるって言うの。タイガースの私設応援団のトランペット部隊が頑張ったのが拙かったかと思ったんだけど、 「それもある…
チームの方は駿介監督に任せるとして、ウチがやりたいのは応援の動員。二回戦は豊岡で一人ぼっち、三回戦も尼崎の記念公園野球場だった上に月曜日のド平日。まだ夏休み前だから一般生徒を応援に動員して欲しいと校長に談じ込んだんだけど、さすがにアカンて…
オレは硬派や。硬派の証拠に中学は野球部やった。軟派の野球部もあるかもしれんが、オレの中学の野球部は間違いなく硬派やった。オレがこの学校に進学したのは肘を痛めてもたから野球を断念するのも目的やったけど、県立の旧制中学以来の伝統校であるのもあ…
オレからみた水橋は野球の神じゃないかと思ってる。初めてバッテリーを組んだのは丸久工業戦だったが、あの時に水橋は、 「ちょっと早めの球投げるから、踏ん張っといてくれ」 「サインは」 「お前の構えたところに投げるから、目瞑ってても大丈夫や」 オレ…
合宿費用もロック研からの百万円はあったけど実は結構厳しかった。とにかく急だったもんで父兄からそんなに取れなかったのよね。実費全部取るなんて言ったら、払えないから行けないって言われてもしかたないもの。その辺は駿介監督もわかってて、ロック研の…
駿介監督の強化計画とは合宿なんや。短期間で守備と打撃を少しでもレベルアップするには一番効率的なのは間違いないのはわかる。ただ駿介監督も悪いと言ってたけど、持ち出したのが二回戦直後なんよね、これが。駿介監督の腹案では七月十七日の三回戦まで一…
うちの県予選はとにかく出場校数が多いんで、まず十六ブロックに分けて、そこを勝ち抜いたら再び抽選があるってシステムなの。ブロック予選の決勝までは二回か三回戦う事になるんだけど、フルでやったら八回勝たないと甲子園にたどり着けないのよね。キャプ…
サッカー部との交渉成立で駿介監督もある程度、思い通りの練習が出来るようになったんじゃないかと思ってるの。ただ予選開始まで一か月余、とにかく時間が限られてるんよね。駿介監督の練習法は見ようによっては『そんなことするんだ』の創意工夫に富んだも…
わが弱小野球部が強豪丸久工業に勝ったニュースは月曜日には学校中にワッと広まってん。サッカー部とのグランド交渉も無事、とは言えないけど契約振りかざして無理やり成立させたった。グチャグチャ泣き言垂れよったけど『再交渉なし』も押し付けたった。こ…
さてやねんけど、帰り道はユウジと一緒やねん。家が近所やからそうなるし、今までも帰りが一緒やった事は何回かあるねん。ほいでも今日の帰り道は特別。ウチはドキドキが高まるのをどうしようもなかってん。それも楽しい方やないで。 今日のユウジも完璧に仕…
試合当日は快晴、絶好の野球日和になりました。試合は午後二時からですが、やっぱり丸久工業は強そうです。あれから少し調べたのですが、今年の丸久工業は秋季大会こそ不振でしたが、春からは上向きのようで、練習試合でも強豪相手に健闘しているようです。…
練習試合は五月の最後の日曜日に決まった。ウチはてっきり丸久工業のグランドに出向くとものと思ってたけど、そうじゃなくてうちが迎え入れての試合になるんだ。これは近所のレフト工業のグランドを特別に貸してくれることになったからなんだ。レフト工業の…
ユウジが放課後に屯しているのはロック研。あいつのアジトみたいなところや。 「ユウジ」 「断る」 「まだ何も言ってないやん」 「カネ無し依頼は断る」 「だから」 「聞きたくない」 ユウジに頼みたいのはタダでの助っ人。日参してるんだけど、毎日こんな感…
ユウジは性格こそ偏屈の変わり者だけど、とりあえずスポーツ万能だし、なかなか格好もイイんだよ。当然もてるはずなんだけど、今まで彼女がいたって聞いたことが無いんだよね。まあ、あの性格と付き合うのは半端じゃないから、それなりに納得できる部分もあ…
もう一人のピッチャーだけど、いるんだよね。でもやりたくないんだ。ユウジの野郎の説得をやらにゃアカンからなんだ。ユウジの名前は水橋裕司。幼稚園からの腐れ縁なんだけど、なんとも嫌味な野郎なんだよ。とにかく唯我独尊で天邪鬼、人の言うことを聞かな…
オレは秋葉浩、『ヒロシ』と呼ばれてる。ポジションはキャッチャー。それなりの覚悟を決めて野球部に入ったけど、外から見てた以上にヘッポコ野球部なのにあきれてる。あの竜胆監督が、よくこんなチームを引き受けたもんだと感心してるわ。それぐらいガタガ…
フォア・シーズンズの四人が文化祭の後に野球部に入ってくれるって聞いて、小躍りして喜んでもた。駿介叔父に部員が十一人になって、四人がブランクこそあるもののバリバリの経験者だっていったら、ついに駿介叔父は監督を引き受けてくれることになったんよ…
「お前ら三人、正気か。ブランクが二年以上もあるんだぞ。それに夏の予選まで二か月ぐらいしかなんいだぞ」 「わかってるよリュウ、それでもボクらは野球をやる」 「あのヘッポコ野球部だぞ。オレらが入学してから勝ったことがないんだぞ」 「正確には十年連…