フォア・シーズンズの四人が文化祭の後に野球部に入ってくれるって聞いて、小躍りして喜んでもた。駿介叔父に部員が十一人になって、四人がブランクこそあるもののバリバリの経験者だっていったら、ついに駿介叔父は監督を引き受けてくれることになったんよ。
ウチは駿介叔父の監督就任の学校との交渉にかかったんや。なんやかんやと言われたけど、最後は校長室で二時間ぐらい粘ったらなんとかなったわ。ホンマ、ボランティアの監督就任だけで、なんであれだけぐちゃぐちゃ言われるか理解できへんわ。でもって駿介叔父に聞いたんよ、
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「駿介叔父さん、どう思う」
「カオルちゃん、ここはグランドやから監督って呼んでくれる」
「はいわかりました。では駿介監督、うちのチームの現状をどう思われますか」
フォア・シーズンズについては、駿介監督は一年から続けていれば強豪校のレギュラーだって可能だって。ただブランクが二年もあるので、これをたった二か月程度でどれだけものになるかって。まあ穴の六人よりは使い物になるってところかな。駿介監督は春川君のピッチングにも注目してたんやが、
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「春川、ファーストもやってくれ」
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「やはり肘悪いみたいやな。最悪の時のリリーフも考えてるけど、うちの戦力的に野手もやってもらわんと、どうにもならん」
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「カオルちゃん。もうちょっとグランドなんとかならんか」
それが長年の不振とサッカー部の繁栄でこんな狭いところに押し込められちゃったってところかな。おかげでシートノックもフリーバッティングも出来へんねん。野手の連係プレーも駿介監督は色々アイデアを凝らしてやってくれてるんやが、この狭さじゃ限界があるもんね。GMたるウチの出番なんやけど、サッカー部との交渉は遅々として進まないのよね。あっちはずらりと実績を並べ、部員の数を誇示し、既得権を頑として譲らないってところなんよ。
そんな時に練習試合の話が出てきたのよ。相手は駿介監督の友達が監督してる丸久工業。けっこうな強豪でシード校の常連。ちょっと強すぎるんじゃないかって聞いたら、
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「あのなぁ、うちみたいに弱いところを相手にしてくれるところが、そもそも無いんだって」
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「試合はやってみないとわかりません」
「そうだよなぁ、一回コールドか、二回コールドか、はたまた試合放棄かは、やってみんとわからへんもんな」
「うちが勝つかもしれませんよ」
「ワハハハ、ダハハハ、ワハハハ、笑い殺しにするつもりかいな、リンドウさん。冗談もほどほどにしといてえな。百万が一でも丸久工業に勝ったら裸で校内走り回ったるわ」
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「あなたが校内を裸で走るのは見たくありませんが、もしうちが勝ったらグランドの使用取り決めをこれでOKにしてくれますか」
「エエとも、エエとも。その代り、負けたら、二度と再交渉は無しな」
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「では交渉成立で。サインお願いします」
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「無理言うな」
「でもこれぐらいの不利な条件を乗り越えないとグランドは無理です」
「まあ、そうやねんけど」
ほんじゃ、古城君が完投したらって聞いたら、よくもって七回ぐらい。ただうちのバックは穴だらけだから、五回も難しいかもしれないって。うちの穴はフォア・シーズンズが入っていないセカンドと外野全部。いやフォア・シーズンズだってブランクが大きくて、他の穴よりマシって程度なんよ。穴だらけなんですが、とくにあのセカンドは悲惨の一言。
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「カオルちゃん、どうしても勝ちたいんやったら、もう一人ピッチャーがいる。いうても、その辺に転がってるわけやないし」
春川君は肘さえ完璧なら古城君以上だったかもしれないけど、今の春川君じゃ丸久工業相手に古城君とのリレーで勝つには甘すぎるのもわかるのよね。だから勝ちたいんやったら『もう一人』調達が必要っていうのが駿介監督の希望やけど、丸久工業に通用するピッチャーがそこら辺に転がってたり、購買部に売ってるわけやないもんね。
でもね、うちの高校にそんな奴が一人だけいるのよ。そう五人目のあんちくしょう。これがガチガチの難物中の難物。こいつを説得するのに比べたら、校長と直談判したり、フォア・シーズンズを説き伏せるなんて、子どもの遊びに見えちゃうぐらい厄介至極。
説得とか交渉はなんちゅうか、ある程度の常識とか、義理人情とか、共通する感情みたいなものがベースに必要なの。そのベースからあれやこれやと積み上げてく感じかな。そんなものは誰だって多かれ少なかれあるんだけど、アイツは違うのよ。
アイツは普通やないの、つうか普通の部分がない異常の塊みたいな野郎なのよ。そういう野郎だから逆に協力させる方法も実はあるんだけど、その手が使えないのよ。使えりゃ話は簡単なんやけど、その手を使わずに協力させるとなると、ウチでも途方に暮れてしまう超が付く難物。
どうしたものか。このウチでさえ、どうしたら良いかわからへんのよね。でもなんとかするのがGMの仕事、他の誰でもないうちの夢のためなんだ。わかってるけど、さすがに自信ないなぁ。弱音はアカンと言いきかせても、どうしたものやら。