ユウジが放課後に屯しているのはロック研。あいつのアジトみたいなところや。
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「ユウジ」
「断る」
「まだ何も言ってないやん」
「カネ無し依頼は断る」
「だから」
「聞きたくない」
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「何を断るっていうのよ」
「カオルのカネ無し依頼や」
「どうしても」
「お前に関わってロクなことは一度もあらへんかった」
「そんな言い方せんでも、感謝してるんやで」
「感謝はいらん、カネ払え」
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「ウチの夢のために協力してえな」
「夢はカネで買え」
「ウチの頼みでもアカンの」
「カネ払えるなら聞くだけ聞いたる。カネ見せろ」
ここまで来たらアレを使うしかないか。さすがのウチでも、これが野球部のためであってもさすがに躊躇われるのよね。それこそ口に出すのも恥しいけど、もう他にユウジを説得できる材料が思い浮かばへん。それに、もう時間もあらへん。ウチが出せるすべてやぞユウジ、心して受け取れ、
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「ユウジ、カネはない」
「じゃあ、帰れ」
「カネ以外で支払うんやったらどうや」
「なんで、払うつもりや」
「ウチやったらどうや」
「どういう意味や」
「そのままや」
「カオルの体か」
「そうや、ウチの体や」
「お前、バージンか?」
「もちろんそうや、キスだってファースト・キッスやぞ」
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「お前の体じゃ支払いにはならんわ」
「ウチの体に価値ない言うんか」
「あらへん、あらへん、誰が売れ残りにカネ払うか」
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「カオルもいちおう女やから、体を差し出すってのは覚悟がいったやろ。そこだけは褒めたろ。それに免じて試合だけは見に行ったるわ。場所と日時が決まったら連絡寄越せ」
「わかった。来てくれるだけでも嬉しい」
「お前と関わるとロクなことにならんから、ホンマは行きたないんやけどな」
やっぱウチも女やからな。あのユウジであっても、あそこまで言われると傷つくわ。ウチはユウジの唯一の女友達やないか。ちょっとぐらい物の言いようもあるやんか。選りによって『価値ない』とか『売れ残り』ってなんやねん。
ユウジが『お前、バージンか?』って聞いた時には脈あると思たんやけど、よう考えたらウチがバージン以外にあり得へんことを一番よく知ってるんはユウジやないか。ウチだって悔しいけど、彼氏らしきものさえいたことさえ一回もないからな。ユウジの野郎、ウチにあんな恥しいこと、わざと口に出させやがったんだ、コンチクショウ。
もうユウジはあきらめんとしょうがないか。ウチの交渉術でもこれ以上はどうしようもあらへん。もう出せるもんがあらへん。もっと美人に生まれたてたら、結果は変わったかもしれへんけど、持って生まれたものは変えようがあらへんし。駿介監督にユウジとの交渉が成立しなかったことを話していると、そこに冬月君が顔を出してきて、
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「リンドウさん、水橋君の選手登録はしておいて下さい」
「あかんて、どう頑張ってもカネ無しじゃアカンの一点張りやった」
「それでも見に来るんでしょう」
「見に来るだけよ」
「来てたら、出る可能性はゼロじゃないですから宜しくお願いします」