目的の波賀城も見れたから帰るのだけど、来た道って都市までいかなくても市街地走行が多かったのよ。来た時は朝早くからだったから空いてたけど、今からなら混みそうなのがちょっと憂鬱だな。だってあの距離だもの。
「それはボクもそうです」
あれっ、まだ一宮だけど曲がるのか。神河に行けるとなっていて、県道八号って書いてあるけどどこに行くんだ。そうそう瞬さんもボヤいてたな。市町村合併が全部悪いとは言わないけど、覚えてた地名がわからなくなると言うか、
「山崎だって、一宮だって、波賀だって今は宍粟市なんですよ。こんなデッカイところを宍粟市って言われたってイメージできないじゃありませんか」
神戸だって広いけど、それでも市街地として続いてるものね。北区とか、西区はさておきだけど。これが宍粟市となると、そもそもどこが中心なんだろ。
「市役所は山崎ですからそこになるのでしょうが、マップによっては宍粟市って表記が波賀になっているのもあります。波賀は宍粟市の真ん中ぐらいには位置しますが、あんなところを中心とされたら変な誤解をされそうな気がします」
市町村合併って色んな理由はあるみたいだけど、住民に宍粟市民なんて意識なんてあるのかな。そんなものは時間とともに慣れるって言われればそれまでだけど、
「出来ないところは出来ない気がします。たとえば兵庫県がそうではないですか」
あははは、そうかもね。マナミも兵庫県で生まれ育ってるけど兵庫県民って呼ばれてもピンと来ないもの。これじゃ、わかりにくいか。他の県の人と話すと最後のところでどうしてもギャップというか違和感があるのよね。
もちろん都道府県で温度差はあるだろうし、すべての都道府県の県民意識を知ってるはずもないけど、
「それわかる気がします。漫才とかで県をイジったり、自虐ネタが出てくる時がありますが、あれのどこがそんなに面白いのか最後のところがわからないのですよね」
大学の時も他の県からの入学者がいたけど、出身県を自慢したり、逆に謙遜してるのを聞いても何が言いたいのだろうって思ったぐらい。
「わかります。出身を聞かれたって兵庫県がすぐに頭に浮かばないですからね」
瞬さんもそうなんだ。今は神戸に住んでるから神戸って言っちゃうし、出身地ってなったらまず故郷が浮かんで、それから、そんなとこ知らないだろうから、あれこれ考えて・・・
「マナミさんのところだったら、神戸の近くぐらいにするのじゃないですか」
そんな感じ。兵庫県ってのもどこかにあるけど、なんかそう答えるのが変な感覚になるのよね。
「おそらくですが、兵庫県なんて使うのは住所を書く時ぐらいじゃないでしょうか」
たぶんだけど他の県の人から見たら妙だとか、変だと思われるんだろうな。兵庫県は明治に現在の都道府県が形成された時に、神戸港を発展させるために周辺の地域をかき集めて作られたなんて話を聞いたことはある。
「そもそもですが、兵庫県の名前の起こりのはずの兵庫津も、今では神戸市の区名に過ぎませんし、神戸市民ですら柳原のえべっさんとノエビアスタジアムぐらいしか知らない人が多い気がします」
神戸のえべっさんもノエビアスタジアムも兵庫区だったのか。それは知らなかった。もちろん小学校の社会ぐらいで兵庫県も授業で習うのだけど、せいぜい自分が住んでるところが兵庫県ってところの一部ぐらいしか思わないものね。
てなことを話してるけど、道は田舎道だ。この辺はどこを走っても田舎道だけど、そんな田舎のさらに田舎を走ってる感じ。信号も無いから快適だけど、道は段々と細くなってるな。それでもクルマも殆ど走ってないから問題ないし、こっちはバイク、それも小型バイクだから問題なしだ。
だけどこの先は心配だ。瞬さんが選んでるからだいじょうぶと思うけど、知らずに入り込んだら行き止まりを心配しそうな道だものね。そんな事を言ってるうちに山道に入ったぞ。うわぉ、ヘアピンの連続じゃないの。これはキツイぞ。
ヒーコラ走ってたら、ここは坂の辻峠って書いてある。でも通行止めはなさそうだ。だって何台かバイクとすれ違ってるものね。クルマだって前から来てるし。それでもやっと登りは終わってくれたんだけど、登れば下るのがこの世の定めだ。あれっ、さっきの別れ道だけど峰山高原リゾートって書いてあったぞ、
「スキー場です。夏場はキャンプ場もやってるはずです」
ひぇ、冬に雪が積もってる時にこんなところを登って来るかのか。スキーが好きな人って根性あるな。バイクじゃ絶対無理だ。そもそもバイクでスキーに行くやつなんていないだろうけどね。
それにしても登りはエンジンの限界に挑戦してますって感じだったけど、下りは下りで怖い。こっちもヘアピンぐねぐねだもの。こういう時には必殺エンジンブレーキなんだけど、それはそれでやっぱりエンジンの限界に挑戦してますだし、ブレーキの耐久試験をやってます状態だ。
六甲山トンネルだって相当な峠道だし坂はキツイ。だけどここまでのヘアピンの連続はないし、それよりになにより距離がもっと短いはずだ。それでも家が見えてきたからそろそろ終わりみたいだ。
坂を下り切ったらウソみたいに快適な道になってくれた。でもこんな道で要注意なのはネズミ捕りだ。小型だって注意しておかないとヤバイのよ。その辺は瞬さんもわかってるみたい。
峠道の緊張が解けたら腹が減ってきた。もうお昼だものね。それにそろそろ生理現象が・・・ちょっと一休みしたいけどなんにもなさそうだな。道が空いててクルマが少ないってことはお客さんも少ないになるものね。家だってまばらだもの。
とはいうものの生理現象は待ってくれないよ。だけど、なんとかしてくれって瞬さんに頼んだって、どうしようもないものね。瞬さんだってトイレ抱えて走ってないもの。当たり前か、とにかく無いものはどうしようもないってこと。
それにしてもどの辺を走ってるのだろう。一宮から東向きに走ってるのだけはわかるけど、ここがどこで、どこに向かっているのかさっぱりわかんないもの。それでも、それでもだ。なんとなく街っぽくなってなってる気がする。
「左側の駐車場に入ります」
あそこか。おお、天は我を見捨てなかった。立派なトイレがあるじゃないか。ようやく生理現象を解消して見回すと、なんて言うかミチチュア版の道の駅みたいな感じのところみたいだ。トイレの隣に店みたいないところがあるけど、
「お昼しにましょう」
こっとん亭ってなってるけど、そばうどん定食か。バイク乗りにはぴったりだ。店に入ってメニューを見ると、どうも山芋が名物みたいだな。二人で手打ちそばとろろごはんセットにしてみた。ところでここはどこなんだ。
「神河町です」
それは道路標識にも書いてあったけど、
「神崎町と大河内町が合併したところって言えばわかりますか」
聞き覚えはある地名だけど具体的にどこになるかと言われるとイメージないな。
「神河町で有名なところとなると、そうですね、ススキで有名な砥峰高原があります。さっき見た峰山高原の北隣です」
砥峰高原もいつか行ってみたいけどあれってどの辺だっけ。
「どういえば良いでしょうか。福崎の北側で、もうちょっと北に行けば生野になるぐらいのところです」
なるほど、少しはイメージできた。お昼ご飯を堪能して出発だけど、福崎に下るのじゃなくてまた東に走るみたいだ。コメリとかマックスバリュがある街っぽいところを抜けたらまた郊外だ。
郊外と言うより田舎道なんだけど、ここも空いていて見晴らしも良いから走りやすい。だけどさぁ、前に見えるのは山だ。どう見たってそっちに向かってる。またさっきみたいな峠道ってことはないだろうな。
あちゃ、こういう悪い予感は当たるんだよね。また峠道だよ。でも、トンネルがあるぞ。ということはトンネルを抜けたら・・・下りだ。さっきの坂の辻峠よりはるかにマシだ。峠を下ってきたら、だいぶ街になってるけど、
「多可町です」
県民だから地名ぐらいは知ってるけどどこだっけ。だいぶクルマも増えて来たけど、どこだ、どこをマナミは走ってるんだ。なんとなく南に向かってるけど、西脇って書いてるじゃない。ごちゃごちゃした市街地を抜けると、
「この信号を右折したら一七五号バイパスです」
そうなってるのか。というか、どうもここから国道一七五号のバイパスは始まってるみたい。片道二車線だから流れが速いな。そうこう言ってるうちにここは見覚えがある滝野だ。ラーメン屋さんに行く時に走ったもの。
やがて滝野ICを潜って完全に見覚えのある道に戻って来た、ここまで来たら小野から三木を走って目指すは西神中央だ。そこまで行けば、山麓バイパスに繋がってるから神戸まで一直線みたいなもの。
ふぅ、やっと神戸に戻って来たぞ。瞬さんともバイバイして家路に着いたけど今日は走ったぞ。なんとなんと二百六十キロだよ。さすがにくたびれた。そうだそうだガソリンも入れて帰ろう。
随分前から給油サインになってるものね。さ~て、どれだけ入るのかな。満タンで五・六リットルのはずだけど・・・ウソでしょ、冗談でしょ。あれだけ走って四リットルも入らないじゃない。
これもモンキーの欠点と言うかクセみたいなものだけど、どうにもこうにも給油サインが出るのが異常に早い。今日だって一時間以上前に点いてるぐらい。そりゃ、早く点けばガス欠を起こしにくいだろうけど、どう考えたって早すぎるだろ。そうそう、そのせいか燃料計が減るのも異常に早いものねえ。まさに見る見る減って行く。
それにしても二百六十キロ走って四リットルってことは、えっと、えっと、リッター六十六キロじゃないの。モンキーの公称燃費が七十キロぐらいのはずだから、ほぼそれぐらい走ってることになる。
これだって帰りに走った二つの峠、とくに坂の辻峠がなければもっと伸びてたはず。まさにバケモノみたいな燃費だ。誰かがモンキーの燃費を、
『こいつはガソリン使って走ってるのか!』
こうしてたけど今日は実感した。最近はクルマの燃費も良くなってるらしいけど、一般的にはバイクの方が良いはず。もちろんバイクの燃費だってピンキリだろうけど、それはクルマだって同じだ。
それでもリッターで三十キロも走れば良い方じゃないのかな。もっとも五十CC時代のスーパーカブはリッター百キロなんて代物だったらしくて、そんなスーパーカブの故障で多かったのが、
『ガス欠』
あまりにも燃費が良すぎて、ガソリンが無くなったら走らないのを忘れてたって話さえ残ってるぐらい。今でもやってるかどうかは知らないけど、エコランてな競技もあった。要するに燃費競争で、あれこれ車体は作ってたけど、エンジンはカブエンジンだったらしい。
その辺はエンジンから作るとなったら手に負えないからだろうが、それぐらいカブエンジンの燃費は優秀だったことになる。だから世界の名車なんだろうけど、さすがに一二五CCになったからそこまでは走れなくなったみたいだ。それでも余裕でバケモノだ。