ツーリング日和25(第34話)阿蘇神社

 絶景の連続に似つかわしくない話題で盛り上がりながら、やまなみハイウェイを走り抜けて、ここは阿蘇市って言うのか。まんまの市名だな。コータローの趣味に付き合って阿蘇神社を参拝。

「そうやって人のせいにするな」

 ここも古い神社みたいで七代の孝霊天皇の頃からあるとなってるけど、

「七代目の天皇なんか欠史八代の一人や」

 要は古代の伝承の集大成のはずの古事記や日本書紀でも、活躍があやふやで実在が疑問視される天皇ってことか。あの辺の古代史ってどうなってるの?

「オレがわかるかい」

 ごもっともです。それでも阿蘇神社の神主の家は古いなんてものじゃなく、

「いわゆる神様の後裔の家柄や」

 この手のトンデモなく古い神主の家は日本には幾つか残っているらしくて、

「しまなみ海道にあった大山祇神社の神主もそうや」

 その中でも格段に古いのが出雲大社の神主の家らしくて、

「神話やで」

 アマテラスとスサノオが誓約により、

「姉と弟が励んだってことや」

 そんな言い方をするな。そりゃ、そうしないと子どもなんて出来ないけど息子が五人と娘が三人生まれてる。

「娘が宗像三女神で厳島神社の祭神や」

 息子のうち長男の家系が今の天皇家の直系になるけど、出雲大社の神主家って次男の直系ってなんじゃらホイの世界だよ。良くさあ、古い家柄の人は先祖がどれだけ昔からいるかを自慢するけど、

「出雲大社の神主の家やったら、天皇家は兄さんの家になるって言うんかな」

 阿蘇神社はそこまでじゃないけど、伝承と言うか伝説として、神武天皇が東征でいなくった後に留守番してた家って話もあるとかないとか。日本もそうやって考えると古いよね。

「そうやな。カエサルの子孫が神主の家として残ってるようなもんや」

 ここでコータローが笑いながら、

「これも神話になるんやけど・・・」

 ニニギなんたらって人が天孫降臨して、大山祇の娘であるコノハナサクヤヒメと結婚してるのだけど、その時にお姉さんもセットとして嫁に出してるんだって。姉妹で嫁入りって今の感覚なら異常だけど、とにもかくにも神話だ。

 だけどお姉さんはブサイクでニニギは追い返してしまったのか。これに怒った大山祇はニニギもその子孫も死すべき者としてしまったとか、なんとか。

「なんか指輪物語の話とも似とるけど、それは置いとく」

 ニニギからは不死の神じゃなくなって今に至るって話になるけど、出雲大社の神主家は、

「あの辺がどうなっとるのかわからんねんけど・・・」

 まずだけど出雲大社の神主家は、天皇家の元祖の弟の家ではあるけど、ニニギの子孫じゃないのよね。

「つうかや、ニニギの前の神さんは生きてるはずやろ」

 そうだよ、アマテラスだって生きてるから伊勢神宮に祀られてるはず。うん、うん、これって、

「整理が悪い神話やと思わんか」

 天皇は現人神ともされるけど、実際は人の子だから歳も取れば、病気にもなるし、当たり前だけど死ぬんだよね。神であるはずの天皇が死ぬ理由として大山祇の呪いの話が盛り込まれているかもしれないけど、それで天皇が神であるのに死ぬ理由は説明できても、

「ニニギ以外に四系統の神の家が少なくともあることになるやんか。しかもやで、そのうちの一つが今でも残ってるやんか」

 そ、そうなるか。もちろんだけど出雲神社の神主家の人間だって死ぬのよね。当たり前か。でもさぁ、でもさぁ、どうして死ぬのかの説明がないと言えばないか。強引に説明しようとしたら、ニニギから後の神の子孫は、系統に関わらず根こそぎ大山祇の死の呪いにかかったぐらいだけど、

「どんだけ力をもった神様やねん。閻魔大王も真っ青やんか」

 そうなるよね。コータローに言わせると、そういうエエ加減なところが神道じゃないかと笑ってた。

「神道って変わった宗教で、普通やったらある経典とか、聖書とか、コーランみたいなものがあらへんねん」

 無いは言い過ぎかもしれないけど、宗教って教祖とかのお言葉なりをまとめた経典とか聖典がまずあって、教義はそこに典拠したものになるし、

「その経典からあれこれ理屈をこねまわして大系みたいなものに練り上げたり、その解釈を巡って血の雨が降りまくったりするやんか」

 そんな感じだ。だけど神道にそんなものがあるかと言われればないそうなんだ。それでもだよ、

「千草の思う通りでエエと思うわ。あるとしたら古事記だけや。あれ以上古いもんはあらへんし、別系統の話さえ残ってへん。そやけどな、古事記は経典やのうてあくまでも歴史書や」

 そうなるのか。とにもかくにも阿蘇神社の神主家の先祖は死ぬ時代の神の子孫だから、普通に歳を取れば、普通に死ねる理屈だけはあるよね。それとさ、神代の不死の神は生きてることになってるけど、神話でも代替わりがあるじゃない。

「代替わりと言うか、歳月が経てば活躍する神は変わるもんな。活躍せんようになった神は隠居しとるんやろか」

 あははは、神の隠居か。だったら隠居できないアマテラスは生涯現役とか。

「ご苦労さんなこっちゃな」

 世界では信じる宗教が違うと言う理由だけで、今だって殺し合いが起こるのよね。中東辺りではポピュラーじゃない。それに比べたら神道は平和で良いよ。別に仏教を信じようが、キリスト教を信じようが、

「神道からしたら八百万の神さんの一人ぐらいにしか思うてへん気がする」

 日本人はよく無宗教って呼ばれるけど、あれだって違うと思うんだよね。千草は日本人が信じる神はお天道様だと思ってる。

「オレもそうやと思うねん。一神教の宗教観の人間が考える信仰とか、無宗教とは別物や。そやからやと思うけど、第二次大戦後にGHQが神道を圧迫しても、天皇に人間宣言をさせても、ショックを受けた人間は限られてたと思うわ」

 コータローに言わせるとあれは一神教の人間が考える精神改造だったんだろうって。

「だってやで、国家神道言うても普通に坊さんはおったやん」

 だものね。千草も家は浄土真宗だけど、こうやって神社に来たらちゃんとお参りするし・・・と言うかさ、阿蘇神社の神さんのご利益ってなんなの?

「ホームページ読んでもわからんかった」

 まあ、なんでも良いか。