ツーリング日和25(第28話)お出かけツーリング

 千草たちの家からツーリングに出かける定番の新神戸トンネルだけど、箕谷から御坂ぐらいまでは変えようが殆どない。

「岩谷峠を越えるか、木見の方に行くかぐらいやろ」

 他は押部谷に行くぐらいだものね。御坂から志染小学校の信号を曲がりネスタリゾートの前を通るのも、これしかないになる。突き当たって左に曲がり豊地に出るのも定番だけど、今日は右に曲がってオリムピックゴルフクラブのとこを通り抜けるのか。そうなると殿畑から、

「桾原で上久米に行くで」

 なんか複雑そうだけど、何回もツーリングしてるうちに見つけた道だ。このルートなら上久米で左に行けば社に出られるからね。このルートを取るのはカントリーロードで快適なのもあるけど、

「ジョイフルでモーニングや」

 今どき珍しくなった二十四時間営業なのがありがたい。あそこでコーンスープを飲みながらの朝食は好きなんだ。ファミレスだからシートもゆったりしてるのも嬉しいかな。そこから滝野社ICの南側の交差点で国道百七十五号バイパスを今日は北上だ。

 新西脇大橋を渡ったところの信号を左に曲がり国道四二七号に入る。西脇市内を抜けるのはゴチャゴチャしてるけど覚えたよ。これを走って行くと多可町に入り、

「この角も見落としやすいよな」

 千草もうっかりして見落として直進したことがある。ここも進んで行くと足立醸造って言う醤油屋さんがあるけど、

「なんだかんだで買った事あらへんよな」

 だって醤油なんて嵩張るし、重いし大荷物になるじゃない。ここで県道八号に入り神崎に行くルートもあるけど、

「今日は真っすぐ行くで」

 ここからが今日のハイライトだ。北上していくのだけど、路側帯もしっかりある二車線の快走ルートとして良さそうだ。なにより空いているのが良いよ。ここんなところに道の駅があるのか。

「杉原紙の里ってなっとるな」

 生理現象の解消をして出発だ。道の駅からすぐに急に登りになったけど、

「ああそうや。それも播州峠って言うらしいわ」

 なんか大層な名前の峠だな。地理的に峠の南側が播磨で、

「播州トンネル潜ったら丹波ぐらいでエエと思うで」

 国境の峠ってことだろうな。見えてきたのが播州トンネルで、それを潜ると当たり前だけど下りになる。さっきの道の駅にもかなりバイクが停まってたけど、この道なら走りたくなるのはわかるかな。ここはこのまま進んで行くと青垣から福知山まで行くらしいけど、

「あそこで左や。生野の方に行くで」

 国道四二九号とクロスしてるのだけど信号もないのか。それにしても国道なのに大型車通行困難はたいした道だよ。

「いわゆる酷道や。シニクって呼んでる奴もおるそうや」

 死肉ってやめてよね。それほどでもなさそうだと思ったのも束の間で、この先は大型車通行困難の派手なサインがあったところからいきなり酷道になりやがった。これのどこが国道なのよ。ただの林道、それも険しいを付けても良いぞ。

 それにキツイよ。三速フル回転でやっとこさだ。そのせいだと思うけど、クルマにも出会わなかった。あの狭さならバイクでもあんまり出会いたくなかったから助かったぞ。そりゃ、クルマだって走らないだろ。ヒーヒー言いながら走っていたら。

「ここが青垣峠で、この先が但馬や」

 そうなると千草のモンキーもついに但馬に轍を刻んだことになるのか。それは嬉しいけど、峠を越えたらだいぶ道が広くなってくれたのと、あんだけ登ったはずなのに、あんまり下らないな。つうかさ、こんなとこに田んぼだけじゃなく、民家もあるじゃないか。

「立派やけどかなり古そうやな」

 良く住んでると感心した。だってさ、その後にまた山の中の道になったもの。なんかさ、隠れ里って言葉が頭に浮かんだけど、

「あんまり聞いた事はあらへんけど・・・」

 播州峠は播磨と丹波の境の峠だけど、青垣峠は但馬と丹波の境目の峠じゃなかったみたいなんだって。古代の街道は遠坂峠が境目で山陰道として整備され駅家まであったそう。遠坂峠の先には和田山があるし、但馬国府は豊岡の南の日高にあったんだとか。

 遠坂峠を但馬から丹波に下りてきたところが青垣になるみたいで、ここは古代よりそれなりに栄えてたとか。

「高源寺ぐらい知ってるやろ」

 天目楓を見に行ったことがあるよ。播州峠はおそらく古代の山陰道に繋ぐ道だったんじゃないかとコータローは見てるみたいだ。

「杉原かって古墳群があるぐらい古代は栄えとったと見て良いはずやねん」

 青垣峠は但馬でも生野を繋ぐ峠になるけど、生野の鉱山の始まりこそ平安時代まで遡るそうだ。もっとも本格的になったのは戦国時代になるらしい。但馬の守護大名の山名氏の主導だそうだけど、

「採れた銀は軍資金として山名氏のもんになるやろ」

 その後は秀吉の但馬進攻によって支配者は変わるけど、獲れた銀は、

「市川下って飾磨から大坂に銀を運び込んでんやろ」

 つまり青垣峠を越える需要が生まれなかったと見て良いみたいなんだ。これは今でさえそうで、国道指定されてもあの酷道ぶりだものね。青垣峠を越えた但馬側の道が比較的良いのは、

「銀山湖作ったからやないか」

 かんなり走ってやっと銀山湖が見えてきた。あれっ、船で釣りをしてる人がいるぞ。

「銀山湖はフイッシングでも有名らしくて、大会も開かれるねんて」

 それにしてもあの船をどうやって湖に持ち込んだのかと思ってたら、なんだなんだ、クルマがテンコモリ停まってるぞ。えらい年季の入った建物があるけど、レンタルボートって看板が上がってる。

「そっか、そっか。銀山湖にレンタルボートがあるってなっとったけど、観光用やのうて釣り用やったんか」

 ここから桟橋に下りてボートに乗るみたいだ。釣りが好きな人も多いからね。

「ここに入るで」

 生野ダムってなってるけど、バイクは走れないけど歩いては渡れるみたいだ。これが銀山湖か。けっこう大きいし綺麗だよ。休憩も兼ねてしばらく景色を楽しんで、ここからどこ行くの。

「そんなもん生野銀山しかあらへんやろ」

 そうなるよね。ダムから程なくして着いたけど、ここも久しぶりだ。なんかさぁ、銀山って言うだけでロマンあるよね。

「金山やったらもっとやろ」

 ダイヤモンド鉱山ならなおさらだ。今でも銀貨って作ってるの?

「記念硬貨ぐらいやろ」

 天皇なんたら記念とかってやつか。あれは金貨もあったはず。一枚ぐらい欲しいかな。そうだ、そうだ、腹減ったぞ。

「突然思い出すことやないろが」

 生野銀山にあるレストランでお昼にした。オムハヤシライスにしてみたけど、ハヤシライスの上にオムレツが乗っかってる。これはこれで美味しいと思う。食べ終わったから生理現象の解消に行ったんだ。