黄昏交差点

 平穏な結婚生活を送っていた康太の日常は突然崩れ去ります。それはよもやの妻の浮気。その現場に居合わせ離婚になります。親権も譲った康太はアラフォーで突然独身になってしまったのです。

 結婚なんてコリゴリと思う一方で、はるか初恋の思い出が蘇ってきます。まだ人を恋し、愛することがなんであるかをよく知らなかった、甘酸っぱい青かった恋の思い出です。

 それは懐かしむことは出来ても、二度と同じ時間を過ごせない相手です。ところが康太の離婚をキッカケにするように、あの時のあの時間が動き出します。

黄昏交差点:あとがき

今回の作品の大きなテーマとして天使と女神シリーズから一度離れたかったのがあります。それと大人のラブ・ロマンスも書いてみたかった。処女作に近い天使と女神の時に一度書きましたが、原点に戻るぐらいの気持ちかもしれません。 モチーフに使ったのは自分…

黄昏交差点:黄昏の交差点

初めて乗ったけどたったの四両しかないのにまず笑った。四両しかないのに女性専用車両もあるのもね。それにしても空いてるな。座れるどころか、寝そべることも出来そうじゃない。それで一時間に一本しかないから廃線になる話も出るよね。 しっかし揺れるな。…

黄昏交差点:味半の夜

「お代わりください」 今夜は夕方から味半で独りで飲んでる。もう何杯目だったっけ。途中からわかんなくなってるよ。ここの冷酒は枡の中にコップを入れといて、一升瓶からじゃぶじゃぶ継いでくれるスタイル。一杯一合ぐらいのはず。 そう言えば龍田川やレス…

黄昏交差点:レストランテ・カナタニ

あいつとメシ食ってるのはレストランテ・カナタニ。ここはハンター坂にある店だけど、真ん中に厨房があって、店に入って右側がテーブル席で、左側がカウンターになってるんだ。店はレストランテを名乗ってるけど、テーブル席がレストランテで、カウンターが…

黄昏交差点:由佳の部屋

それから数日してから、お願いして由佳の部屋を訪ねさせてもらった。ちょっと渋られたけどOKもらって部屋に入って驚いた。片付いているというより何にもないんだよ。 そりゃ、商売用の衣装とかはあるけど、日用品が必要最小限しかなくて、テレビやビデオさ…

黄昏交差点:カルチェ・ラタンでの出会い

恵梨香の住んでるマンションは繁華街の裏通りみたいなところ。お水の商売らしい女も住んでるよ。通勤に便利だものね。それで近所にカルチェ・ラタンってスナックがあるんだよ。 スナックって水割り飲んでカオラオ歌うところと思われてるし、そういうところが…

黄昏交差点:悔し酒

手際よく修の奥さんがあれこれ準備してくれて、「うちの主人は神保さんが来るのを楽しみにされてたのですよ。今日だって絶対に泊ってもらうから準備しとけってね。だからゆっくりして下さいね」 まずはビールで乾杯して、「永遠のリサリサにカンパイ」 人が…

黄昏交差点:リサリサ

今日は故郷に向かう電車。前に修に会った時に、ぜひ遊びに来いと誘われたんだけど、どうしても修に相談したいことがあって、お言葉に甘えることにしたんだ。修の家に行くには、あの駅の一つ前の駅に降りる必要があるんだ。 この駅も変わったな。もっとゴチャ…

黄昏交差点:これが智子か!

今日は会社の後輩と三人で飲みに来てた。異動の歓迎会みたいなものだったけど、一軒目で新しく来た子が酔い潰れちゃったんだよな。そしたら、もう一人が送って帰るってさ。酒弱いなら、そう言ってくれれば良いのに。恵梨香に合わせて飲んだら、弱かったらあ…

黄昏交差点:プチ同窓会

実家に帰ってからはブラブラさせてもらってる。家事手伝いってところかな。この先どうするかも考えないといけないけど、今すぐはね。ちょっとノンビリする時間が必要だと思ってる。 智子が未亡人になって実家に舞い戻って来てるのもボツボツ知られてるで良さ…

黄昏交差点:回想

智子の結婚生活のスタートは順調だったのよ。秘密にするような事じゃないけど、智子の処女は旦那に捧げたし、旦那も感動してくれたもの。子どもが出来なかったのは義父母からイヤミを言われたけど、旦那はしっかり守ってくれたし、不妊症の検査結果だって前…

黄昏交差点:ラウンジ

「美晴さん、三番テーブルお願いします」 「誰なの」 「指名で加島社長です」 墓石屋さんか。なら今夜は楽しそう。やっぱりこういう商売でも、客によって変わるのよね。たとえば口説き落として一発やりたいのもいる。口説かれるのは適当にあしらうのはまだ楽…

黄昏交差点:旧友

いきなりの電話だったんだけど、「康太か、修や」 「久しぶりやんか」 電話をかけて来たのは森田修。高校の時に文芸部で一緒だったやつ。どうしたんだと聞いたら、神戸に出てくる用事があるから久しぶりに飲まないかだった。ここも正確に言うと高校卒業以来…

黄昏交差点:動き出した時間

二か月ぶりにあいつとメシ。こんなに空いたのは初めてだよ。恵梨香の代わりに泥棒猫と食ってるんだろうな。だが、まだやってない。それぐらいはわかるよ。ま、やってたら恵梨香は誘われないはず。「いらっしゃいませ」 二か月も空いたから、あいつも奮発して…

黄昏交差点:ジムにて

「ひぃぃぃ」 クロストレーナーって何回やっても地獄みたいなもんだな。とにかく苦しいったらありゃしない。それでも予定通り三十分頑張ったから、次はトレッド・ミルを一時間だ。こっちはテレビが付いてるから、ちょっとは気がまぎれるから助かるわ。 恵梨…

黄昏交差点:願い

気まぐれだけど、久しぶりに故郷に行ってみた。結婚して以来だよ。駅が変わっていないのは笑ったけど、寂れたね。実家に帰る気なんてなかったから、ふらふらと商店街の方に。ありゃ、角の散髪屋も閉店になってるよ。道向かいの美容院も閉まってるし、あの辺…

黄昏交差点:転落人生

もうすぐ三十九歳か。とんでもない人生になったもんだよ。由佳はとにかく早く家を出たかった。継母と折り合いが悪くてね。向こうも由佳も努力をしたつもりだけど、ダメなものはダメだったってこと。 だから高校卒業したら結婚してくれる相手を探し回ってた。…

黄昏交差点:帰郷

この駅も変わらないな。でもないか。高校の時まではまだ駅員さんがいて、切符売ってたものね。自転車置き場も無くて、この駅からのスロープにビッシリって感じ停めてあったものね。あの頃は放置自転車って言葉もなかったし。 そしてこの交差点。ここが智子の…

黄昏交差点:情報収集

泥棒猫が出現してから、あいつとメシ食う回数が確実に減ってる。減った分は泥棒猫と会ってるはずだし、あいつは隠しもしない。顔にだってアリアリじゃない。ただ、まだやってないで良さそう。 男女の仲で体の関係を持つのは一つのポイント。不倫ならそれだけ…

黄昏交差点:泥棒猫の出現

あいつが妙にうれしそうな顔をしてやがる。話を聞くとFBで高校時代の友だちと連絡が取れたらしい。それ自体は問題ないんだけど、相手が女なのが気に入らない。それもだよ、どうも久しぶりに会うって言うんだよ。 あいつの高校時代は智子に明け、智子に暮れ…

黄昏交差点:あいつ

あいつは恵梨香より年上だけど、ほんまにボンボン。あいつとの関係は飲み友だち、食べ友だちにしてるけど、それだけで満足してるんだから信じられないよ。こういうのってあくまでも『最初は』で下心バリバリのはずだし、それが目的でない男なんているとは思…

黄昏交差点:恵梨香

恵梨香だよ、フルネームは浜崎恵梨香。たく、あいつはボクで済まそうとするけど、名前は神保康太。あたしもあのバーは長いから顔だけは知ってたんだよね。あのバーは週末は賑わって入れないこともあるぐらいだけど、平日は空いてるんだよ。 あの日は有休消化…

黄昏交差点:由佳と智子

「由佳はわかりやすいね」 「そうなのか」 「たく、鈍いやつ」 恵梨香が言うにはすべて計算づくだったと言うんだよね。「確認するけど由佳と智子は仲が良かった?」 う~ん、良く知らない。仲が悪かったとも聞かないけど、特別仲が良かったとも聞いたことが…

黄昏交差点:智子の気持ち

ペンケース事件の後だけど、さしたる進展もなく高校生活は進んでいったんだよな。相も変わらず駅から智子の家までの短距離デート。あえて覚えてるエピソードとしては、智子に誕生日のプレゼントを贈ろうとしたことぐらいの気がする。 とは言うものの、友だち…

黄昏交差点:意外な推測

『カランカラン』 食事も終わりいつものバーに。「前の話だけど・・・」 二十五年前の淡い初恋話。「あれでわからないとは鈍すぎるよ。智子はね、妬いてたんだよ。妬いたから、あんたから逃げようとしただけ」 「あの智子が嫉妬だって。そんなことがあるはずな…

黄昏交差点:龍田川

龍田川は北野坂を西に一本入ったところにある和食屋さん。グルメの恵梨香のお気に入りの店の中でも、一番ってぐらいで良いと思う。カウンターが十席ぐらいで、行ったことはないけど、奥に個室もあるらしい。 店内の特徴はとにかくカウンターの後ろが狭くて、…

黄昏交差点:再びの初恋

「ところでさ、初恋の智子はそれっきりだったの」 智子も山岸も無事合格して同じ高校に進んでる。それだけじゃなく、一年で智子は再び同じクラスになってくれた。高校は旧制中学以来の伝統校で、男は学生服、女子はセーラー服だった。智子の背はあれから伸び…

黄昏交差点:バーにて

『カランカラン』 このバーのドアにはカウベルが付けてあって、入ると音が鳴る仕組み。もう通い始めて何年になるかな。「お待たせ」 「来たばっかりよ」 いるのは恵梨香。元嫁との離婚騒動でゲッソリしている最中に、このバーで偶然知り合い、愚痴を聞いても…

黄昏交差点:セカンド・ラブ

塾の中三クラスに六人目が入って来たのだけど、これが西村由佳。これまた小学生から同じ。家は地区の線引きの都合で別地区だけど、ほんの近所で智子の家よりずっと近いところ。 由佳とは中学で同じクラスになったことはないし、小学校は・・・・・・忘れた、覚えて…

黄昏交差点:初恋

ボクはオクテだった。当時だって小学生時代から異性を意識していたのはいたけど、ボクは全然興味がなかった。つまりはガキだったってこと。男と違う女がいるぐらいは知っていたけど、仲良くなろうとか、友だちにしたいともまったく思わなかったぐらい。 それ…