ツーリング日和22(第14話)バイク乗りのボヤキ

 次回のツーリングで相談したいからと初鹿野君から連絡がありロイホに。ロイホならゆっくり相談できるぐらいだろう。わかってきたのだけどプライベートの初鹿野君との話はとにかく脱線しやすい。

 さらに無駄口も多い。無駄口というより、ごく自然に話が出来る。なおかつ、それが妙に心楽しい。だから呼びされても、ウンザリじゃなくウキウキしながら出て来てるぐらいなんだ。

「とにかく都市部はパス」

 これは信号地獄もあるけど、それより困るのは駐輪場所だ。バイクだって駐禁に引っかかるんだよ。もっともクルマに比べると取り締まりは緩やかだけど、

「それぐらい駐輪場所は少ないです」

 明石城公園に行った時も往生した。ちゃんと調べて行ったんだよ。

「あそこは自転車競技場のところにありますが・・・」

 初鹿野君も行ったのか。駐輪場に行くには明石城公園の東側の住宅街を登るのだけど、

「案内表示が無いのですよね。わたしは行き過ぎてしまいターンして戻りました」

 実はボクもそうだった。その道を進めば自転車競技場の北側の駐車場の入り口には出られるのだけど、

「あれを見つけろというのに無理があります」

 だよな。まずその駐車場には駐輪できないし、そこにも駐輪場の案内はない。初鹿野君も一度はそこであきらめて帰ったのか。気持ちはわかる。ボクはもう少し調べていたから、突き当りまで進んだんだ。

「あそこだって車両進入禁止の表示がこれでもかとあります」

 そうなんだよ。車止めのアーチみたいなものが道路に埋め込まれていて、絶対に通しませんの雰囲気をプンプンさせている。それでもそこまで行けば、

「あれなんなのですか」

 右手の奥の方に遠慮深そうにバイク仮置場の看板が見えるのだよ。

「あそこって正しい行き方はどうなのでしょうか」

 なにが正しいかはわからないけど、そこは小型バイクのメリットを活かして押して行ったよ。でもって、仮でもバイク置場なのにただの公園の道なのだよな。駐輪区画の線さえ引いていない。なんとなくあまり集まってもらっても困るから、知る人ぞ知るぐらいにしている気もするけど、

「あの仮置場って随分前からそうだったみたいです」

 仮って言うぐらいだから、正式のバイク駐輪場を整備する予定のはずだけど、ひたすら後回しにされてるぐらいで良さそうだ。駐車場に駐輪場を併設してるところもあるけど、あれだって知っていないと利用するのは容易じゃない。そりゃ、その駐車場にバイクが停められるかを知っておく必要があるからな。

「部長は魚の棚の駐輪場を使ったことがありますか?」

 あるよ。便利な場所にあるとは思ったけど、あれはあれで気を遣わされた。あそこは原付専用だからモンキーはもちろんOKだ。だけど駐輪スペースの幅が狭いんだよ。狭いと言ってもモンキーだから問題なさそうなものだけど、

「サイドスタンドだからかと」

 それはあると思う。バイクを停める時にはサイドスタンドとセンタースタンドがあるけど、モンキーにはサイドスタンドしかない。傾けて停める分だけ車幅は広くなるとは思うけど、

「二台分のスペースが必要になります。あそこの駐輪場って、センスタのスクーターしか想定していない気がします」

 ボクもそう思ったけど、センスタのスクーターでも並んで停めると鮨詰め状態だぞ。そんな事をしたら、

「出す時には横に立たないと動かせません」

 バイクの横に立てるスペースがあるとは思えなかった。クルマで例えればドアが開かないのと同じだ。それぐらい狭いんだよ。それでも駐輪場を作ってくれてるだけマシと言うか感謝しないといけないか。

 最優先されるのはクルマの駐車スペースの確保で、そこに駐輪場を併設する発想は少ないんだよ。そりゃ、バイク、それも小型バイクだからどこでも駐輪できると言えばそれまでだけど、マナーとして良くないし、

「長時間駐輪して悪戯されるのも嫌です」

 クルマに比べたら剥き出し見たいな構造だものな。ただでも都市部はツーリングで避けたいのに、駐輪場所も困るとなれば余計に避けたくなる。もっとも駐輪場に困るのは都市部だけで郊外に出れば問題は少なくなる。

 郊外のロードサイド店なら広い駐車場があるから駐車スペースにバイクを停めても気にならないし、駐車スペースを避けても、それ以外のスペースにも余裕もあるから、適当にどこにでも停められる。

 他のところだって小型バイクだから、それこそヒョイと道端に停めても問題にまずならない。警察だってバイクどころかクルマの駐禁の取り締まりにも来ないはずだ。それぐらい周囲になんにもないところは珍しくもないからね。

「部長は後で駐輪場があるのに気が付いた経験はありませんか」

 あるに決まってるじゃないか。あれは三木の道の駅だったかな。生理現象も迫ってたから入ったんだ。いわゆる第一駐車場が空いてなかったから第二駐車場に停めたのだけど、お手洗いを終えて帰る時に駐輪場があるのに気づいた。

「案内が無かったり、あっても目立たない小さなものが多いと感じます」

 それぐらい片手間と言うか、どうでも良い扱いなのがバイクの駐輪場だと思ってる。バイクの駐車問題は都市部でこそ一部問題になってるけど、あれだって停めるなの規制だけで、停めるスペースの整備にはひたすら不熱心の気がする。行われても対象は自転車だ。

「需要と供給の関係で話はすべて終わってしまいます」

 そこなんだよな。クルマの駐車場は集客でペイする計算もできるかもしれないが、バイクなんて集めたところでペイなんかしようがない。バイクの駐輪場整備に予算を費やすより、切り捨てる方が効率も良いぐらいだろ。

「クルマとは使い方がだいぶ違います」

 そこはあると思う。明石もそうだけど、あれだけクルマの駐車場が整備されているのは、不法駐車を防ぐの意味もあるだろうけど、買い物客を集めるためもあるはずなんだ。バイク乗りだって買い物をしないわけじゃないけど、

「クルマに比べるかなり落ちると思います」

 駐輪場の件はこれぐらいにして、初鹿野君ならモンキーの魅力をどうプレゼンする。

「えらく話が飛びますね。魅力と言うよりこの走りを楽しいと思うかどうかがすべてでしょう」

 そう来たか。でも本音で言えばそこに尽きるだろ。バイクは走って楽しむ乗り物だけど、モンキーの走行能力は高くないと言うより低い。とにかく非力だからな。バイク乗りでもスピード指向があるものには不満しか出ないと思う。とくに若者はそうなるはずだ。

「それでも体感的にはそれなりに走ってくれます」

 体感とも言えるし主観でも良いと思う。だけど客観的にはスクーターにも負けそうになるし、軽自動車にも遠く及ばない。

「百キロ出すのも大変過ぎます」

 だから高速も自動車専用道路も走れない理由がわかってしまうぐらいなんだ。けどな、走っていて楽しいバイクだと思う。それだってボクの主観に過ぎないけど、

「見た目九割、主観がすべての世界です」

 あははは、そういう事だ。こんなもの理屈で納得する世界じゃない。ただ小さいが故に怖い時もあるのは確かだ。

「遅いから抜きたくなるのまでは理解はしますが・・・」

 やっぱりそういう経験はあるよな。クルマは小さいバイクを見れば抜きたくなる習性が確実にある。これは遅いクルマがいればそうなるのと基本的に同じのはずだが、クルマに比べたら車幅も小さいから抜きやすいのは確実にある。

 だけど、たとえそれなりの速度で走っていても強引に追い抜こうとするクルマは決して少なくない。あそこまでするかってやつだ。だからだと思うのだが、

「昔からバイクは排気量が同じでも車体が大きい方が好まれます」

 そうなんだよな。大きい車体の方が走行安定性は良いと言うのもあるけど、それより大きい方がクルマに抜きたくなる気持ちを少しでも抑えられる効果を期待している部分はあるはずだ。それぐらい強引にクルマに追い抜かれるのは怖い時は怖い。

「だからマスツーが好まれる一因にもなってるのかも」

 そこはどうなんだろう。バイクであっても一台より二台の方が追い抜きにくいのはある。もっと大集団になればなおさらだ。

「話を本題に戻しますが・・・」

 こりゃ、いかん。プライベートの初鹿野君との話は無駄話にどうしても花が咲いてしまう。こんなどうでも良さそうな雑談に楽しそうにしている初鹿野君を見たら、うちの連中は口をアングリさせるだろうな。