ツーリング日和23(第31話)モンキー乗りのつぶやき

 最後の峠越えはちょっと厳しかったけど、今日のツーリングの最大の難所を越えた気分かな。このルートはこれからも使えるのじゃないかな。

「途中でバイクに抜かされました」

 赤いバイクだろ。大型のスポーツバイクだった。こっちだってチンタラってほど遅くはなかったと思うけど、あの道路状況とあのバイクなら追い抜くだろ。ネズミ捕りがいるような気配すらなかったもの。

 抜かれてちょっと先にS字風の連続カーブがあったのだけど、あのバイクは鮮やかに走り抜けてた。ああいう走りは、

「モンキーならやらない方が賢明です」

 腕の差もあるだろうけど、やっぱりタイヤが違うよ。モンキーのタイヤの能力が格別低いとは言わないけど、

「格別高いとも思えません」

 というかモンキーはオンロードモデルにしか見えないのだけど、なぜかブロックパターンなんだよな。ブロックパターンのタイやってオフロード用のはずなんだけど、あれってモンキーはオフロード能力もありますってアピールのためなんだろうか。

 それに比べると大型スポーツのタイヤはゴリゴリのオンロード、それもスポーツモデルなんだよな。スリックじゃないけどスリックもどきの雰囲気がプンプンするぐらい。それにとにかく大型だから大きいし太い。

「それ以前にこの道を走り慣れています」

 そんな感じだった。バイク乗りならコーナーを鮮やかに走り抜けたがるものだ。だけどレース場と一般道は違う。路面からして違うし、一般道にはエスケープゾーンなどない。転べば大怪我を覚悟しないといけない。

 だからカーブも初見で度胸一発のバイク乗りもいるだろうけど、何回も走って安全マージンを取りながら限界を探るのも多いはずだ。

「それでも剛紀は追いかけようとしてギアを下げていました」

 それは違うぞ。あんなバイクなんか追っかけられるものか。スピードを上げようとしたけど、あれは五速では伸びなかったからだ。峠道の麓で緩やかだったけど登りに入っていた。

「そうでした。モンキーの限界です」

 そうなんだよな。ギアは単純には上げた方が速度は出る。だけど登りになるとエンジンが息を吐きだす。だからギアを下げるのだけど、そうすれば回転数が上がってトルク感が出て来るけど、

「今度はエンジンが悲鳴を上げ出します」

 追い抜いて行った大型バイクなら、あの程度の登りなんて気にもならないだろうけど、非力なモンキーのエンジンではそうは行かない。モンキーのエンジンはピーキーじゃないと思うけど、ギア毎にカバーできる速度の範囲は絶対的には狭いんだよ。

 だから路面状況に合わせて頻回のギアチェンジが必要になる。これはモンキーだけじゃなく、小型バイクの宿命みたいなものだ。

「ハイパワーエンジンなら一速で百キロまで出ます」

 らしいな。モンキーなら五速を全部使い、なおかつフラットの十分な直線じゃないと百キロなんて到底無理だ。小型ほどじゃなくても、中型でもそれなりにギアチェンジは求められる。美玖はそれが嫌いか?

「とっても楽しいです」

 バイク乗りだな。だけど頻回でなくてもギアチェンジを嫌う人も多い。これも語弊があるな。せずにすむなら、そっちの方が良い人だ。だからクルマではATばかりになりMTは絶滅危惧種扱いになっている。

「ATの方があれこれ安全運転機能が盛り込めるのもあると思います」

 それもあるよな。クルマが目指してる自動運転なんてATが前提だもの。だけどさ、だけどさ、ギアチェンジをする方が自分で操縦している感が強いじゃないか。

「モンキーにはタコメーターもありませんから、エンジン音、トルク感で判断します」

 さらに言えば道路状況の先読みも入ってくる。登りのヘアピンなんかがそうで、ヘアピンに入る前にギアを落としておいて、そこから走行状況に合わせてギアを変えて行く。バイク乗りってそういう操作がピタッと決まった時に心地よさを感じる人種のはずだ。

「そういう意味で大型より小型の方がバイクの醍醐味を味わえます」

 それは言い過ぎだろう。その代わりに無いものがテンコモリぐらいある。それでも入門機としては良く出来ていると思うぞ。

「モンキーを入門機とするのは侮辱です」

 それぐらいのプライドはあった方が良い。小型にはどう言い繕っても限界がある。モンキーを入門機として中型、さらに大型とステップアップするのもバイクライフだ。一方でモンキーに自分のバイクライフの在り方を見出すのも余裕でありだ。

「どう走ろうと自由なのがバイクです」

 今日だって大峠を小型のスクーターでツーリングしてたのはいた。あの登りをあのスクーターなら大変だとは思ったけど、あれで楽しいと思えばそれで良いのがバイクだ。

「大型で豪快に走り抜けるも良し、小型であくせくしながら登るのも良しです」

 それでもあれこれ言うのはいる。そりゃ、長距離ツーリングだけを考えれば小型より中型、中型より大型が良いぐらいは知ってるよ。あの大型バイクに抜かれて羨ましいとは思ったもの。

「小型バイク乗りには強がりも必要な要素です」

 そうかも。バイク乗りにも軽く見られるのが小型バイクだ。それでも気軽に乗り出せるメリットは絶対にあると思う。世の中にはダウンサイズして小型に乗るのもいるんだよ。そういう連中が必ず口にするメリットは乗り出しやすさだ。

「バイク乗りはバイクで走れてこそ意味があります」

 それは真理だ。大型バイクなら起こりやすいそうなんだけど、乗り出しが大変過ぎて乗らなくなってしまうのもあるそうだ。小型ならそれこそコンビニに行くのだって気楽に使える。

「サスは気なりましたか」

 モンキーのサスもあれこれ言われるところだ。一般的に走り屋系のバイク乗りは硬いサスを好む。コーナーリングで差が出るそうだけど、そんな走り方をする訳じゃないから、こんなものだぐらいにしか感じたことはないな。

 もっとも初代モンキーのサスはかなり柔らかったらしい。ちょっとしたギャップでも底を突くとか。乗ったことがないからわからないけど、二代目モンキーはその点は改善されたらしいの話も聞いている。

 モンキーのサスが柔らかい理由だけど、どこかでこんな話があったのは覚えてる。小型バイクなら普通はタンデム出来るのだけど、モンキーは一人乗りなんだ。タンデムは乗る重量が二人になるのを想定してるから硬いけど、モンキーは一人だから柔らかいとかだ。

「サスの改善も二代目の時にあったそうですが、振動もあるはずです」

 ああ、それな。初代の時はあれこれカスタムに励んでたのは多かったものな。グリップエンドを変えたり、バーを付けたりとかだ。

「アイドリング中はミラーが見れないとか」

 これも初代に乗ったことがないからわからないけど、美玖はそんなに気になるか?

「ちっとも」

 ボクもだよ。クラッチレバーの遠さも、そんなものだとしか思えなかったもの。それでも気になる人は気になるだろうからカスタムして改善したら良いと思うよ。それもまたバイクの楽しみ方だ。

「ですがあのツールボックスは最低です」

 美玖も開けようとしたのか。モンキーは物が本当に載らないバイクなのだけど、数少ない収納場所としてツールボックスがある。その中の車載工具が入っているのだけど、

「あれを車載工具と言いません」

 御意だ。それでもスペースと活用したいじゃないか。だけど、

「二度と開けたくありません」

 そうだった。なんじゃ、これってぐらい開けにくいし、閉じにくい。だからだけじゃないけどリアボックスを付けたのだけど、

「あれこそ神のボックス」

 ウソつけ。これでは郵便配達だ、宅配ピザだ、ホカ弁の配達だ、ウーバーイーツだって貶しまくったのはどこのどいつだ。

「さて行きましょう」