ツーリング日和23(第30話)大峠越え

 ツーリングの楽しみ方はバイク乗りによって様々なんだ。あえて基本と言うなら、目的地を決めて、目的地へのルートも調べてから走るツーリングかな。これは長距離ツーリングになるほどしっかり調べるはず。

 理由は道に迷って時間を喰い過ぎると目的にたどり着けなかったり、走行時間が長くなり過ぎて大変な目に遭うからだ。最近ならナビを積んでいるのも多い。

「あれは便利です」

 ボクも美玖もバイクには直接積んでないけど、ツーリング前のルートチェックにも使うし、休憩中に現在地の確認とかにも使う。ロードマップを持って行くより荷物にならないのもバイク乗りにはありがたい。

「マップルなんて持って行けません」

 あれって今でもあるのかな。ロードマップもクルマには必需品の時代が長かったけど、ネットに地図情報がこれだけ充実すると売れないだろうな。

「だと思います。ですがスマホの画面では本当に迷子になれば大変な気がします」

 とはいえバイクじゃ持って行くのにかさ張り過ぎる。そうそう、これはボクの感想に過ぎないけど、クルマ乗りに比べるとバイク乗りの方がルートの調べ方が甘い気がする。甘いはちょっと違うな、

「良く言えばチャレンジ精神、悪く言えば道を舐めています」

 世の中には国道を酷道、県道を険道、市道を死道と揶揄される道路がある。酷道の情報はそれなりにあるけど険道ましてや死道となると、走ってみないとどうなっているのかわからないところはゴマンとある。今日もそうだ。

 そういう道路の走破能力は基本的にバイクが勝る。理由は単純で車幅が小さいことに尽きる。もちろんバイクでも走れないところだって出て来るが、そういう時でもクルマよりターンがはるかに容易だ。

「容易だから性懲りもなくまた突っ込みます」

 そうなる傾向はバイク乗りの方が高いんだよな。逆にクルマ乗りは懲りて無難な主要道を走るようになりやすい。もちろんバイクも大きくなるほどクルマの感覚に近づくだろうけど、

「二百キロを越える大型バイクで狭い脇道に突っ込むのはまずいないでしょう」

 だと思う。取り回しだけでも大変そうだけど、転倒させたら引き起こすのだって容易じゃなさそうだもの。その点で言えばこっちは小型バイク、さらにその中でも小さい方のモンキーだからプレッシャーは遥かに少ない。

 死道はともかく険道にバイク乗りがチャレンジする傾向が多いのは他にも理由がある。これも言い方が間違ってるな、県道なのか険道なのかの見極めへのチャレンジだ。それをしたいのは、

「クルマが集まらない道を走りたいからです」

 県道もそれこそピンキリで、冗談みたいな道もあれば、地方整備の一環でウソのように快適な道もある。実際はどうなのかは走って見ないとわからない部分は多々ある。

「ストリートビューですべて確認するのは手間がかかり過ぎます」

 他にそういう道のドライブやツーリング動画もあるけど、あれはあれで編集者の主観が強すぎる部分もある。どう言えば良いのかな、険道を強調し過ぎるのもあるし、逆に走れたから問題ないとしたり、

「走れたことを強調したい余り険しい部分をカットしたりもあります」

 この辺は乗っているのがオンロードモデルなのかオフローダーなのかでも変わってくる。とくにオフロード好きになると感覚はかなり違うと思う。

「ここは直進します」

 クロスしているのが国道三七二号で右が篠山、左が加東で、直進が黒石か。

「黒石ダムを目指します」

 今日はダム巡りツーリングだな。それにしても気持ちの良い道だ。クルマも殆どいないもの。それでいて二車線あるし、見晴らしも良い。

「バイクの方が多いぐらいです」

 つうかバイクしか見ない気もする。どう見てもツーリングに来ているバイクだから地元のライダーが知っている穴場的なコースなのかも。ただ両側の山が段々と迫って来ている感じがするから、この先は峠があるかもだ。そんな事を思っているうちに山道だ。

「ねじき蕎麦をご存じですか?」

 聞いた事がないな。さっきからそんな幟が目に付くけど、この辺の特産の蕎麦なのだろうけど、その割には売店みたいなのはないな。というか、この先に蕎麦屋がありそうな感じだけど、

「蕎麦屋の所在地はディープな感じがします」

 言えてる。丹波に蕎麦屋が増えてるらしいけど、所在地がディープと言うかわかりにくいところが多いんだよ。もちろん幹線道路沿いに店を構えているところもあるけど、そこからさらに入り込んでみたいな店も少なくない。

「水を求めてとか」

 蕎麦打ちは水にもこだわるそうだから、それもあるかもしれないけどわかんないな。それでも繁盛しているみたいだから、

「蕎麦好きの世界もディープそうです」

 麺類好きはその傾向がある気がする。ラーメン好きもそうだろ。

「香川のうどんも相当です」

 ボクも美玖も蕎麦好きだし、ラーメンも好きなんだよな。うん、あれじゃないかな。こんなところに店を開くとはなかなかだぞ。

「そのうち食べに来ましょう」

 そうだな。この道も一車線半か。うん、これは、

「黒石ダムです」

 こっちのダムの方が規模は小さそうだけど景色は良いぞ。さて分かれ道か。右が篠山方面で国道一七六号に向かうで、左が西脇方面で国道一七五号に向かうか。右で良いはずだ。

「はい」

 これは結構な登りだ。ヘアピンぐねぐねじゃないけど、しっかり山道の登りだ。ほぉ、展望台があるじゃないか。

「大峠展望台と書いてあります」

 そうなるとここは大峠って言うんだな。三台ぐらいの駐車場もあるしベンチも置いてあるからちゃんとは作ってあると思うけど、

「展望が開けていません」

 山と山の間の隙間しか見えないよな。作ってあって悪いと言う気はないけど、なんのために作ったのだろうかと素直に疑問だ。

「サイクリストのためだと思います」

 ああいたな。さて、ここからは下りみたいだけどかなり下るな。そんなに登ったっけ。下って来ると茶畑みたいなのもあるけど、特産地・・・だろうな。聞いた事ないけど、

「あそこに寄りませんか」

 なんだあれ。長屋門みたいな建物だけど、お茶屋って幟が上がってるから喫茶店もやってるみたいだ。入って見ると、

「門の天井のところに格子絵があります」

 ふへぇ、これは手が込んでるな。煎茶セットを頂いて休憩だ。