ツーリング日和20(第8話)バイク女子になるぞ!

 今日はサヤカに相談と頼みがあって会ってる。

「バイク女子ねぇ・・・」

 あきれたように答えるな。女がバイク乗って何が悪い。

「マナミに似合ってない」

 バイクに乗るのに似合うとか似合わないなんか・・・無いとは言えないだろうけど、そもそも似合う女ってどんなだよ。

「格好の良い女だよ」

 あれか、スタイル抜群で、皮のツナギぐらいをびっちり着込んで、

「金髪のブロンドでレイバンのサングラスでっかいハーレーに跨ってる」

 うん、あれは似合ってると思うけど、そんなバイク女子なんかホンマにおるんかいな。いないとは言わないけど、それって単にモデルみたいな女がバイクに乗ってるだけだろうが。

「マナミにハーレーは似合わない」

 ほっとけ。これだって親からの遺伝だからどうしようもないだろうが。マナミは顔がブサイクなのは自覚があるけど、スタイルだってよろしくない。まず背が低い。女だから高ければ良いってものじゃないけど、

「チンチクリンよね」

 うるさいわ。そこまでチビじゃないぞ。それとだけどスリム体形でもない。

「子豚型かな」

 殺したろか。が、言い返しにくい。どうにも肉が付きやすい体質なんだよな。そりゃ、日ごろの努力が足りないと言われればそれまでだけど、

「結婚時代の痩せてた写真も見せてもらったけど、あれって細くなって良くなったというよりゾンビみたいだった」

 そこまで言うか。親友だろうが。もうちょっと言葉を飾りやがれ。マナミが悪いなりにもマシに見えるのは今の、

「子豚型」

 口をワイヤーロープで縫い付けてやるぞ。それとも溶接してやろうか。とにかくハーレーは乗らない。

「それは賛成だけど、バイクに乗りたいって死にたいの」

 バイクが危険そうな乗り物であるのも否定はしない。そりゃ、クルマと比べたら体を剥き出しにして走ってるものね。あんな状態で転んだら痛いだろうし下手すりゃ死ぬかもしれないけど、ホントに危険の塊だったら販売どころか製造だって禁止されてるはずだろ。

 そもそもだよ、バイクに比べたら安全そうなクルマだって年間でどれだけ死んでるかじゃないの。バイクに乗れば死ぬのだったら、そもそもあれだけ走ってるわけがないだろうが。

「そりゃ、電車だって飛行機だって事故があれば死ぬけど、選りもよってバイクとはね」

 うるさいわ。とにかくバイクに乗りたいの。

「わかった秋野瞬にかぶれたんだ」

 うむむむ。バレたか。秋野瞬はツーリング小説で大人気なんだ。マナミだけでなくあれを読んでバイクを乗りたくなったのは多いはず。それぐらいバイクやツーリングの魅力を紹介してくれているんだもの。

「わからないでもないけど、流行物に弱いね」

 ほっとけ。サヤカだってそうだろうが。そんなことは置いといてサヤカにわざわざ相談に乗ってもらっているのは、どのバイクにするかを選ぶのに付き合って欲しいからなんだ。だって一人で行くのは寂しいじゃないの。

「バイクって言うけど、そもそもマナミは免許持ってないじゃない」

 そうなんだよね。学生の頃にクルマの免許を取るように親に勧められたけど、あんなものが必要とは思わなかったのよね。クルマも田舎に行けば生活必需品で、一家に一台どころか一人に一台なんだけど、都会ではもてあますとしか思えなかったんだもの。

 バイク女子になりたいのなら自動二輪の免許を取らないと行けないのだけど、クルマと違ってバイクには普通免許みたいなものはないぐらいは調べた。クルマにだって中型とか大型免許はあるけど、

「あれってバスとかトラックのためのものじゃない。普通免許があれば軽自動車からランボルギーニまで乗れるから欲しがる人なんて少ないと思うよ」

 そうだと思う。問題の自動二輪免許だけどあれはエンジン排気量での区分になってる。

 原付・・・五〇CC未満まで
 小型・・・一二五CC未満まで
 中型・・・四〇〇CC未満まで
 大型・・・制限なし

 ここも正確には小型と中型は普通自動二輪免許で、大型は大型二輪免許だし、原付も五十CC未満が原付一種、小型は原付二種になる。自動二輪免許でクルマの普通免許に近いのは強いて言えば大型二輪免許だけど、

「だったらそれ取ったら良いじゃない」

 簡単に言うな! こんな区分があるってことは、当たり前だけど上位免許ほど取るのに難度が上がるだけじゃなく、時間もおカネもかかるんだ。それとだぞ、クルマは普通免許さえあればランボルギーニはともかくアルファードだって、エルグランドだって運転できる。

 これじゃわかりにくいか。アルファードやエルグランドみたいな大きなワゴン車だって体格とか体力に関係なく運転できるんだ。でもバイクはそうじゃない。バイクは乗り手を選ぶんだよ。

「たしかにね。マナミにハーレーは物理的に無理よね」

 あんなものに乗れるわけがないだろうが。だから乗りたいバイクに合わせて自動二輪の免許取得を考えることにしたんだ。そのためにはまずどのバイクに乗るか決めないと話が始まらないだろうが。

「話はわかった。付き合ってあげる」

 持つべきものは友だと思った。サヤカを誘ったのは別にバイクに詳しい訳じゃない。サヤカの持ってるコネが欲しいだけ。

「連絡はしといたよ」

 サヤカとバイク屋に。初めて入るな。自信はないけどかなりの大型店で良さそうだ。だって街で見かけるバイク屋はもっとこじんまりしてるものね。サヤカが店長から挨拶を受けてるな。これでド素人でも鄭重に扱ってくれるはず。

 こっちが大型バイクか。これは大きいよ。見るからに重量感があるし、エンジンだってゴツイ。これぞバイクって感じだし、いかにも走りそうだけど、

「マナミには無理そうね」

 御意だ。バイクは走らせる時はエンジンだけど、クルマとの最大の違いは人力で動かさなければならない部分があるところなんだ。たとえば駐輪場から引っ張り出すとか、停車してる時だって自分の足で支えないといけない。だけど大きくなるほど車体だけじゃなく重くなるから、

「こっちが二五〇CCだけど、こんなもの乗れそう?」

 む、無理そうだ。日本では色んな規制の関係で二五〇CCの人気が高いらしいけど、それでもこんなに大きいんだ。街中で見た時にはそこまで感じなかったけど、近くで見るとタンクの存在感なんて半端ないわ。

「スーパーカブって今でもあるんだ」

 何を言ってるんだ。スーパーカブはホンダの、いや日本が誇る世界の名車だぞ。今だって郵便配達とか、新聞配達に使ってるだろうが。とはいえスーパーカブはパスだ。どうしてもね。

「スクーターにしておけばお手軽なのに」

 だから目指しているのはバイク女子なんだって。バイク女子がやりたいのはツーリングだ。そりゃ、スーパーカブやスクーターでツーリングをしてる人も知ってるけど、ここは形から入りたい。

「これなんか良さそうじゃない」

 クロスカブって言うのか。なになに、ホンダは小型バイクのバリエーションを増やすためにカブエンジンの派生モデルを展開してるのか。クロスカブも悪くないけどこっちのハンターカブもなかなか良いじゃないの。

 だけど無骨だな。無骨さがアピールポイントだと思うけど、バイク女子が乗るのだぞ。もうちょっとオシャレっぽいのはないのかな。

「だったらこれは。愛嬌あって可愛いじゃない」

 ダックスと言うのか。名前の通りダックスフントをモチーフにしてるデザインみたいだ。これなら女の子が乗っても似合いそうな気がするけど、こっちにもあるぞ。

「これも可愛い」

 モンキーって言うのか。猿というか小猿って意味だろうけど、これも見るからに可愛い感じがする。どこが猿なのかわからないけど、スタイルはオーソドックスな感じなのがまた良いよ。

 やっぱりバイクは丸目が良いと思う。タンクカバーも丸みを帯びたのがあって、リアにはショックアブソーバーがにょっきりみたいな感じ。こんなもの個人の好みだけの話だけど、

「グロムとかCB125Rは一目で却下だったものね」

 こんなもの見た目九割で選ぶものだろうが。モンキーのデメリットはタンデムが出来ないのか。言われてみればシートが少し短いかも。タンデムなんかする気もないから、よっしゃこれに決めたぞ。