ツーリング日和19(第9話)多田銀山

 今日は三回目のツーリング。コンビニで待ち合わせをして、

「遠回りにならない?」

 御坂さんの希望なんだけど、やっぱり六甲山トンネルを超えるのはキツイって。たしかにそうだから今日は迂回するルートで走ってみる。まずは新神戸トンネル五十円也だ。箕谷料金所から、

「だいじょうぶ?」

 六甲山トンネルを越える代わりに岩谷峠を越えることにした。これは丹生山山系の帝釈山と稚児ケ墓山の間を通り抜ける峠なんだ。走ってみると、

「これなら許容範囲かな」

 この峠道は下ると淡河になり道の駅の近くに出ることになる。

「豊助饅頭の店の近くだね」

 そのまま道なりに走って行くと、

「へぇ、吉川インターチェンジのところに出てくるのか」

 そこから市之瀬を抜けて走って行くと、

「めんたいパークなんてあるのね」

 その看板が見える交差点を左折して、ここは注意が必要だけど、あった、あった、神戸三田インター北の交差点を左折だ。

「こんなところに出てくるのか」

 そうなんだ。六甲北有料道路の終点に到着するってこと。

「時間もあんまり変わらないね」

 あんまりじゃないけど、これぐらいなら許容範囲だろ。さてコメダでモーニングだけど、

「あちゃ、並んでるよ。待つしかないか」

 えへへへ、そんなこともあろうかと思って準備はしておいた。ちょっと引き返すことになるけど、神戸電鉄を潜ったところで右に曲がり、あったあった、

「ここなの」

 アロハカフェ・パイナップルだ。ここのモーニングもなかなかで、

「トーストに卵に、サラダとパイナップルまで付いてコメダより五円安いのか」

 御坂さんに喜んでもらえたみたいだ。今日は迷子ツーリングのリベンジも兼ねてるんだ。だから走るのは北摂里山街道だ。迷子ツーリングの時は千刈で引き返したけど、この道は猪名川まで通じてるんだよ。

「ここが道の駅いながわなのか。大きいね」

 そこから南に下って、またも曲がるところが重要だけど、あれだ。この辺はニュータウンなんだな。そこを走り抜けていくと、

「あそこみたいよ」

 ローソンの先みたいだな。目指すは多田銀山だ。

「埋蔵金ロマンの里だね」

 あははは、そうだった。ここが多田銀銅山悠久の館か。

「資料館ね」

 無料なのが嬉しいな。係の人にパンフレットもらってバイクなら行けますかって聞いたら、

「行けますよ」

 さらに奥に進むと、

「こんなところに・・・」

 たしかにこれはお屋敷だよな。多田銀山が栄えていたころの中心地だったかもしれないな。まずのお目当ては青木間歩。

「川の向こうなのね」

 多田銀山で唯一見れる坑道の跡になる。ここも無料公開なのは泣かせるよな。五十メートルほどだけど見学させてもらってさらに奥に。

「見て見て、たまごパック誕生の地だって」

 これは知らなかった。今でも工場みたいなのがあるから作ってるみたいだ。さらに奥に進んだけど舗装が切れてるな。もうちょっとだけ行ってみよう。これぐらいならモンキーでもダックスでも走れるはず。

「この崖みたいなのが大露頭なの」

 そうなってるな。台所間歩の入り口まで行ったところで引き返し金山彦神社を参拝。

「多田銀山じゃなくて多田銀銅山なのね」

 史跡指定された時にそうなったみたいだけど、もともとは銅山だったみたいで大仏建立の時に銅を献上した伝説が残ってるらしい。これは怪しいとされてるようだけど、

「ホントだったんじゃない。鉱山として掘り出したのじゃなく自然銅を献上したのはありだと思うもの」

 本格的な鉱山となったのは十一世紀ぐらいから官営になり、天正年間には秀吉の支配下に置かれてる。

「瓢箪間歩と埋蔵金伝説よね」

 そうなる。瓢箪は秀吉の馬印だから力を入れていたのはわかるし、銀も掘り出しているけど年間で七十六キロぐらいなんだ。これがどれぐらいかわかりにくいと思うけど、同時期の生野銀山は約十トンとパンフレットには書いてある。

「秀吉は掘り出した銀を大坂城じゃなく多田銀山のどこかに軍資金として隠したって話よ」

 銀が取れたのは本当の話で江戸時代の最盛期には五トン以上も取れてるけど、主力はやはり銅だったみたいなんだよ。秀吉が埋蔵したとしてもどれだけあったのか。

「それが今に至るまで見つかってないからデマってする人も多いけど、ああいうものは見つからないからロマンなのよ」

 あははは、そうかも。

「そうよ。徳川埋蔵金伝説なんかテレビが壊しちゃったじゃない」

 徳川埋蔵金伝説は謎めいた地図と伝承があって、それに基づいて延々と掘り当てようとしてる人がいたものな。指し示している場所は曖昧だったし、掘る方だって手掘りだから、いつかはなんて夢を追う話だったもの。そこにテレビが介入してしまう。

「あの番組がヒットしたのはわかるけど・・・」

 手掘りで探してるときは、それこそピッタリ当てないと探り出せないことになる。そりゃ、1メートルずれたらわからないだろ。あの番組も最初のうちはそんな感じで掘っていた。でもシリーズ化するほどのヒットになったものだから、

「ユンボを大量投入して根こそぎみたいに掘り返しちゃったじゃない」

 あれであの地域に徳川埋蔵金は絶対に無いってなってしまったもの。それはそれで無駄な手間をなくしたとは言えるけど、

「探してる人のロマンとは少し違うと思うのよね」

 そもそもみたいな話になってしまうけど埋蔵金なんて時の権力者がするだろうかはある。秀吉だって多田銀山に隠すより大坂城に運び込んだ方がよっぽど安全だし使い道だってあるじゃないか。

 それにだよ、隠すとしても現場で隠した人はどこにあるか知ってることになってしまう。そうなったら自分で掘り出して我が物にするに決まってるじゃないか。

「ロマンがないけど、お家再興の資金にするにも、掘り出して、保管して、奪われないようにする力が無いと使えないものね」

 そういうこと。でも、

「それでもがロマンじゃない」

 御坂さんにそんなところがあるのだな。

「人はね、夢を追えるうちが華だと思うの。悟りきった仙人みたいな状態になったらオシマイだと思ってる」

 夢か。子どもの時はあれこれあったはずだけど、成長するにつれて磨り減って行くもの。この辺は社会の現実を知ってしまうからだと思うけど、

「それは仕方ないよ。この歳になってプリキュアになるとか、セーラームーンになるはさすがにないもの」

 そうだよな。

「それでもね、最後の夢であっても持ち続けるのは大事だと思わない? それがどんなにささやかな夢であってもよ」

 ところで御坂さんの夢は、

「帰りに唐櫃に寄って帰る」

 あのね。そんなもの夢じゃないだろ。