ツーリング日和19(第3話)出会い

 灼熱の夏のツーリングは熱中症になりに行くようなものだから控えてたけど、秋を感じるようになったから北へのツーリングをスタート。それなりの距離を走るツーリングで必要なことはバイクの長時間走行に体を慣れさせるのもある。

 これも実際に走ってみて学んだようなものだけど休憩時間は大事なんだ。理想的には五十分走って十分休憩ぐらいかな。学校の時間割みたいだけど、しっかり休憩を取るのは欠かせないぐらい。

 ちょっとした計算なんだけど、神戸から六甲山トンネルを超え六甲北有料道路で三田まで一時間ぐらいじゃない。仮に七時に神戸を出発すれば八時ぐらいだから、三田で休憩時間としてモーニングを食べるのが良いはずなんだ。

 そこでだけどモーニング事情を調べてみた。パッと思い浮かんだのが二十四時間ファミレスの利用。ファミレスなんて長い間行ってなかったから知らなかったけど、かつてはいくらでもあった二十四時間ファミレスが絶滅状態なのに驚かされた。

 ここもよく考えるとファミレスが二十四時間対応なんてする必要がどれだけあったのかの疑問もあるけど、それだけの需要があったから二十四時間対応をしていたはず。でも時代の変化で経営的にペイしなくなったところにコロナ禍があったぐらいみたいで良さそうだ。

 それでも七時からモーニングを対応しているファミレスが近所にあったので行ってみたんだ。あれはオッサンには驚きの体験になったかな。まずオーダーがテーブルのタブレットからだった。

 それぐらいは知ってたけど、料理を運んできたのがロボットだったのには驚かされた。そして会計は自動精算機。これも各種カードからスマホ決済まで対応してるのは良いのだけど、初見ではオッサンが少々まごつかされたのは白状しとく。この手の体験をボクの知人もしたらしいのだけど、

『若いころに自動券売機で立ち往生していた高齢者を助けたことがあるけど、もうすぐ自分が助けれそうな気がした』

 ボクもそう思ったもの。とりあえず使えて良かった。


 そういうことで神戸を七時にスタート。オッサンの朝は早いんだよ。六甲山トンネルまでの峠道はエンジンをフル回転させて駆け上り六甲山トンネルに。これを抜けたら北区だけど肌寒いんだ。

 肌寒いのは北区の方が日当たりの関係もあって気温が低いのもあるけど、標高で五百メートルぐらいあるものな。さて料金所だけど小型バイクはなんと十円なんだ。普通車が二百十円だから安いのは嬉しいけど現金で払うのがとにかく面倒。十円だったらタダにしろと思ってしまうもの。

 料金所を超えると唐櫃に向かって下って行くのだけど、ここに有名な唐櫃のホテル街がある。ホテルと言ってもラブホだけど、神戸の人なら唐櫃と聞けばラブホって思い浮かべるぐらい有名だったはず。

 というのも寂れてるんだよ。廃墟化してるラブホも多いし、営業してるところも老朽化を厚化粧で誤魔化している感が見え見えだもの。おそらくだけどバブルのころに競って建てられた最後の生き残りって感じがする。

 そうなってしまった理由も色々あるだろうけど、単純に利用者の減少だろう。どう考えてもラブホの主力利用者は若者だろ。それこそ六甲山で夜景を楽しんで唐櫃のラブホに連れ込むパターンはあったはずなんだ。

 その若年層は人口ごと減ってしまってるし、今の若者はクルマを欲しがらないんだよね。クルマどころか運転免許さえ欲しがらないとも聞くもの。そうなるとクルマじゃないと行けない唐櫃じゃなく市内のラブホを使うよな。

 市内のラブホなら夕食で一杯飲んでからだって使えるじゃないか。つうか、ボクたちの頃のように若者が無理算段してクルマを調達していた時代の方が異常だったかも。クルマがあるからデートはドライブだし、ドライブだから郊外のラブホが栄えたぐらい。

 唐櫃のラブホ街も十年先には消滅して廃墟マニアのターゲットになってるかも。そんなことを思っているうちに降りてきて六甲北有料道路だ。ここもトンネルを二つばかり抜けると有野の料金所がある。

 ここで二十円を払って三田を目指す。六甲北有料道路のクルマの流れも速すぎてモンキーには辛いな。バイクで高速を快適に走るには二百五十CCでも厳しいそうなんだ。それこそ、

『大型は良いぞ』

 この排気量マウントが出てくるぐらいだとか。それでも時間の短縮と距離を稼ぐにはありがたい道なのは間違いない。道だって悪くない、左右の視界は高すぎる防音壁とかで遮られていないから良いもの。ただ軽自動車にも置いて行かれそうになるのがなんともだ。

 観覧車が見えてきたからフルーツフラワーパークだ。あれが見えてきたからもうすぐ大沢の料金所はずだ。山陽自動車道への分岐を超えたらあったあった。ここの通行料は十円だ。ちなみにクルマで同じところを走ると六百三十円だから小型バイクは格安なんだ。往復しても小型バイクなら八十円だから料金だけ考えると使いやすいもの。

 大沢の料金所を超えると二車線だったのが一車線になる。走り続けると信号が見えてきて六甲北有料道路は終点になる。ここは三田でもウッディタウンになり、ひたすら道なりに走ることになる。

 神戸電鉄公園都市線の高架を潜り、中央公園を超え、市民病院の前を過ぎ、JR福知山線の高架を潜ると国道一七六号に出会うことになる。国道一七六号を左折するとすぐにあるのがコメダだ。ここでモーニングを食べながら休憩するのが今日の第一目標になる。


 駐車場があって、玄関の横が二輪車置き場だな。バイクを停めていたらもう一台入ってきた。へぇ、赤のダックスじゃないか。ダックスも五十CCを百二十五CCにした復刻版みたいなモデルだけど人気が高いんだよな。

 人気は高いけどモンキーよりさらに見ないというか、初めて見た。結構大きいというか、昔のダックスより長くなってる気がするな。隣に停めたからしげしげ見てたんだけど、ダックスのライダーがメットを取って振り向いたものだから目が合ってしまったんだ。まずいよな。しかも女性ライダーじゃないか。慌てて視線を逸らそうとしたのだけど、

「広川君じゃないの!」

 えっとボクの苗字は広川だけど・・・えっ、えっ、えっ、嘘だろ冗談だろ、見間違いじゃなければダックスの女性ライダーは御坂さんじゃないか。御坂さんは高校の同級生。と言っても高二の時だけど、

「卒業以来よね」

 同窓会には顔を出していないからそうなる。それにしても変わってないのに驚かされる。ボクらの年代はオッサン、オバサンになってしまってるけど、変化の度合いがそれこそ大きすぎるんだよ。

 高校の同窓会はパスしてるけど、中学は出席してるんだ。一目で誰だかわかるのもいるけど、誰だかさっぱりわからないのもいるんだよ。あれはロビーで同窓会会場に入るのを待ってた時だけど、いかにもそれ風のいかついのがやって来たんだ。

 来たからには同窓生だろうけど、どう見たって関わりたくない業種の人にしか見えなかったもの。だから素知らぬ顔をしてやり過ごそうと思ってたのだけど、なんとそいつがこっちに来やがった。

 同窓会でカツアゲとか堪忍して欲しいとしか思えなかったけど、そいつは近寄るなりボクの肩を親しげに叩いて、

『コウキやんけ』

 心臓が止まるかと思ったよ。だけど話してみると小学校の時によく遊んでいたやつだった。もちろん本職なんかじゃなく建設関係のまともな会社員だった。変われば変わるものだと思ったもの。

 男連中もそんな感じだったけど女連中もそうだった。甘酸っぱい憧れのイメージを残してるのもいたけど、名前を聞くんじゃなかったと思うのもいたものな。あれだったら会わずにいた方が幸せだった感じだ。

 御坂さんは昔のイメージがそのままに残っているというより、より魅力的になってるとしか思えないよ。

「広川君もお世辞が上手になったものね。いくら褒めたってなにも出ませんよ、それよりコメダでモーニングでしょ。一緒に行こうよ」

 御坂さんと一緒にモーニング・・・状況的には不自然じゃないし、このまま別々に食べる方が変なのもわかるけど、そんなことがこの世にあっても良いのかな。

「なによ大げさな。一人で食べるより二人で食べる方が美味しいじゃない」

 それは相手によりけりでボクなんかと一緒に食べたら、

「行くよ」

 足が地に着かないとはこんな状態かもしれない。テーブルに向かい合わせに座ったのだけど、こんな状況が出現しているのが信じられないよ。御坂さんは高校時代に三大美人の一人に数えられてたほどの美少女だったもの。

 後二人は藤原さんと青木さんだったけど、藤原さんはよく言えば物静か、悪く言えば無口な方で話しかけるのも大変なタイプだったし、青木さんは・・・ちょっと気が強いというか、ギャル風なところがあって、陰キャだったボクには近寄りがたい雰囲気があったんだよな。

 純粋と言うのも変だけど美人さだけなら藤原さんや青木さんの方が御坂さんより上だったかもしれないけど、それを吹き飛ばすような快活なキャラの持ち主だった。あえて分類すれば陽キャになるのだろうけど、誰にも優しくて、陰キャのボクにも挨拶をしてくれるぐらいだったもの。

 だから御坂さんはそこにいるだけで場が華やぐだけじゃなくて、常に笑いが絶えない感じだった。休み時間ともなれば男も女も集まっていたものな。もちろん憧れる男子は多数でボクもその一人だった。

「へぇ、広川君もそんなことを思ってたんだ」

 思ってたし、今でも心臓がバクバクしてるぐらいだって。御坂さんがコメダに来たのは、

「ウッディタウンでモンキーがいるのを見つけたんだよ」

 モンキーも珍しいから追いかけてたのか。御坂さんもコメダでモーニングの予定だったみたいで、メットを取ったら同級生だったぐらいみたいだ。同級生は間違いないけどボクでガッカリしたろうな。

「まさかのビックリはあったけど、ガッカリなんかどうしてするのよ」

 だってだよ、同級生と言っても同じ教室にいただけじゃないか。

「あのね、怒るよ。広川君はピンチを助けてくれた恩人じゃないの」

 はて、ピンチ、助けた、なんのことだろう。

「まさか覚えてないって・・・ショックだ」

 あるはずないのだけど。そうこうしているうちにモーニングが来たのだけど、これからどうしよう。どうしようも、こうしようもモーニングを食べ終わればツーリングを続けるのだけど、

「今日はどこに行くつもり」

 篠山まで行く予定だけど。これは天橋立まで足を延ばす計画の第一いや第二段階ぐらいだけど、

「奇遇ね、チサも篠山なんだ」

 御坂さんは一人称に自分の名前を使ってたけど今でもそうなんだ。それと奇遇って程じゃないだろ。御坂さんもボクと同じように六甲山トンネル、六甲北有料道路と来たで良さそうだ。時刻こそ早いけど三田から一番近い有名観光地なら篠山だろう。御坂さんはバイクに乗り始めてまだ日も浅そうだもの。

「だったら一緒に行こうよ」