ツーリング日和20(第10話)納車だ!

 サヤカに免許が取れたって報告したら、

「やっとなの。もうあきらめたかと思ってた」

 うるさいわ。どれだけ苦労したと思ってるんだ。これこそ血と涙と汗の結晶だ。

「血も流したってことは、転んだの?」

 うっ、急制動でやらかした。結構痛かったし、擦りむいた。これでモンキーが納車されたらバイク女子の出来上がりなんだけど、あれだけ教習所に時間がかかったのにまだなんだ。半年なんて余裕で過ぎ、

「もう来ないんじゃない?」

 サヤカにさんざん言われながら待ち続けていたら、それこそ忘れそうになった頃にバイク屋から連絡があった。あんまり遅いから忘れられてるのじゃないかって不安になって、時々だけど催促には行ってたものね。催促したって来るものじゃないけど、こっちは忘れてないぞのアピールぐらいだ。勇んでバイク屋に受け取りに行ったのだけど、素直な感想は、

「ちっさいな」

 買うのを決めた時にも見てるのだけど、この辺は教習車がCB125Fだったのもあると思う。この教習車ってCB125Rを教習用に改造したものだけど大きいのよ。だって全長だけで二メートルだ。

 二メートルと言っても実感ないと思うけど、CB125Rの兄貴分のCB250Rと同じぐらいあるのよね。なんであんなドでかいバイクを教習車にしてるんだろ。お蔭で引き起こしの時に地獄を経験させられた。

 それに比べるとモンキーは百七十センチぐらいしかない。三十センチも短いからちっちゃく見えた。デザイン的にも大きく見せようって感じじゃない気もするな。一通り操作方法の説明を聞いて受け取りスタートだ。

 ここからは慣らし運転になる。慣らし運転も今のバイクなら不要の意見もあるみたいだけど、マナミの場合はまずモンキーに馴染まないと先に進まないのよ。それ以前に教習所以来のバイクだから不安はテンコモリ。

 発進こそエンストしなかったけど、そこから先はギッコンバッタン状態になってしまった。そうなるのは教習所を卒業したばかりの初心者なのもあるけど、それよりモンキーのクセを体で覚えないといけない。

 AT車だってあるだろうけど、MT車のクセは遥かに強いんだ。クラッチだけでも同じメーカーでも車種が変われば違うのがMT車だ。とりあえずモンキーのクラッチはかなり遠い気がする。遠いから半クラも遠い気がするだけでなく狭い気がする。

 シフトもギア比の設定が違うのよね。カタログに数値は書いてあるけど、あんなもの見たってわかるものか。どの速度でそのシフトにするかは体で覚えるしかないのがバイクだ。これだって加速するときは割と簡単だけど減速するときは難しいのよ。

 それとメーターだって違う。デザインの違いは当然だけど、表示される情報量がCB125Fに比べるとプアなんだよ。一番の違いはタコメーターとシフトインジケーターがないこと。だって教習所の時はそれ見てクラッチ合わせとか、シフトチェンジやってたもの。

 タコメーターとシフトインジケーターはバイク屋にも相談に行ったんだ。どうしても欲しければカスタムとして取り付けるのは出来るとは言ってくれた。そうそう、時計も無いからこれも欲しかった。

 でもね、当たり前だけどタダじゃない。工賃も含めると結構なお値段になるんだ。工賃を節約するために自分で付ける人もいるけど動画を見ただけであきらめた。あんなもの出来る訳がないだろうが。そしたら店員さんが、

「タコとかシフトインジケーターなんか見るのは最初だけでっせ。すぐに音と感覚で出来るようになりまっさかい」

 簡単に言うな! とは言うものの財布と相談してあきらめた。それでも慣れって怖いもので、乗ってるうちにそれなりにわかる気がするようにはなってくれた。今だって欲しい気は残ってるけど財布には勝てないものね。

 財布と言えば、他にカスタムしたいところがあったんだよね。バイクってね、とにかく荷物が載らない乗り物なんだよ。クルマならポルシェだってトランクがあったり、助手席とかあるじゃない。でもバイクにはない。

 スクーターになればメットケースもあるけどモンキーにはあるはずも無い。そうなると荷物を載せたければリュックを背負うぐらいしか手が無くなる。実際にもリュックを背負って乗ってる人もいるもの。

 さらにみたいな話だけどバイクに乗る時にはメットを被るじゃない。バイクを停めて休憩とかする時にメットをどうするかの問題は大きいのよ。メットホルダーもあるけど使いにくいし、使ったってバイクにぶら下げてるだけじゃないの。

 バイクを離れている間に盗まれたり悪戯されても嫌だし、とはいえ持って歩くには大荷物過ぎる。だからスクーターのようなメットケースが欲しくなったんだ。そんなものあるのかって、それがあるんだよ。

 これもスクーターなら良く付けてるリアのボックスだ。このボックスについても賛否両論はあるんだよね。反対派の意見はシンプルで、

『格好が悪くなる』

 その通りだと思う。通勤とか買い物用のスクーターならともかく、見た目九割のバイクだものね。一方の賛成派の意見はやたらと説得力があった。

『一度付けたら手放せなくなる』

 それぐらい実用性があるってことだ。これもバイク屋に相談したんだけど、タコメーターとシフトインジケーター時とは対応が違った。前向きだったってこと。大きさはメットを入れられてプラスアルファぐらいだと言ったら、カタログをあれこれ見て選んでくれた。

 付けたのは大きめのリアボックスとボックスを載せるためのリアキャリアだ。それなりのお値段はしたけど満足してる。乗り降りが少しやりにくくなったけど、これは便利だし実用性も高い。雨具だって入っちゃうもの。

 スタイルは・・・悪くないと思う。ちょっと大きめのリアボックスが小さいモンキーに微妙にミスマッチなところが気に入ってる。たしかに使い出すと手放せなくなるのは実感させてもらった。まあ、ボックスが気に入らない人は付けなければ良いだけだものね。


 そうこうしているうちに慣らし運転の目標の五百キロになりオイルとフィルターの交換だ。あんまり慣らし運転になってなかったかもしれないけど、こっちはだいぶ馴染んでくれてる。

 そうだそうだ時計も付けた。これもカスタムパーツまで売ってるけど、一番安くてお手軽なものにした。みんな大好きチーカシを巻き付けるだ。だけどね一筋縄では行かなかったんだ。

 ハンドルの真ん中ぐらいに巻き付けたら一丁上がりだと思ってたけど、ハンドルって人間の腕に比べたら細いのよ。あんなに細いと時計バンドじゃ無理だった。だからあるサイトを参考にして工作を加えてみた。

 時計バンドは穴で長さを調整するのだけど、そんなんじゃダメだからマジックテープを貼り付けた。それもそのままじゃ長すぎるからハサミで切って長さを調節したんだ。チーカシだから出来たと思ったもの。

 だけどさ、それでもまだ不十分だったんだ。時計の本体の裏は平らなんだけど、そこがバンドで締めても不安定だし、そのままじゃ振動で傷が付きそうなんだ。だから時計の裏に隙間防ぎ用のテープを貼り付けてやった。

 クッションみたいになるから、締める時にも良いはずだと思ったらその通りになってくれた。バイクで使うから完全防水の時計が良いとは思ったけど、チーカシだって五気圧の防水だし、とにかくあのカシオの製品だからもっと機能が良いはず。

 付けた感想はグッドだ。時間を見るだけなら腕に巻いても良さそうなものだけど、実際に乗る時はグローブも付けるし、さらにライディングジャケットも着込むから見にくいのよね。さすがに夜は見にくいけど昼間しか走る気がないからノー・プロブレムだ。

 時計ってあれば便利なのよね。時刻を見れるのは当たり前だけど、休憩時間を取る時の目安にもなってくれる。これも実際に走ってみてわかったんだけど、バイクって疲れるんだよ。マナミの場合は肩、とくに左肩が凝ってくる。腰と尻は案外だいじょうぶなんだけどね。

 最初の頃は走らせるのが楽しくて休憩なしで走り回っていたのだけど、やっぱり肩が痛んでくるのよ。長時間になると尻だって痛くなる。これを防ぐ方法はシンプルで休憩すること。

 マナミなら一時間に一回ぐらいかな。これをやるとやらないでは大違いなんだ。その時に便利なのが時計だ。バイクを走らせてると楽しくて時間を忘れそうになるのだけど、時計を見てそろそろ休憩ぐらいにしてる感じかな。

 というか、それぐらいの時間になれば積極的に休憩場所を探すとした方が良いと思う。多いのはコンビニかな。ジュース休憩って感じだけど、トイレだって借りれるじゃない。生理的欲求をどこでするかも女の子には重要過ぎる問題だからね。

 だってだって男だったら、最悪どこでも出来るじゃない。マナーの問題はさておきとしてもだ。だけど女がそんな事が出来るものか。さらに言えば薄汚れた公衆便所も可能な限り避けないもの。

 トイレ問題は女には大きいんだよ。だから郊外型のスーパーとかドラッグストア的なところも使うことがある。そういうところなら駐車場は広いし、トイレだって完備してるもの。できるだけ何かを買うようにはしてるけどね。

 トイレ問題と言えば嫌な運動が拡がってる。LGBTQってやつ。あれも何をしたいのかよくわかんない運動なんだけど、トイレで言えば男が性自認たらで、

『女だ!』

 こう言いさえすれば女性用トイレに入らせろなんだ。理由はそう言いさえすれば女扱いされるのが権利だってさ。権利どころか、そうされないと虐待とかなんとか頑張ってる運動家がいるのよね。

 女が性自認たらで男性用トイレに入っても男はそんなに困らない気がするけど、男が性自認たらで女性用トイレに侵入されたたら女は困るなんてものじゃない。そんな男がいたら入れないし、入って来られてもギョッとするどころの話じゃない。

 今のところ幸いそんなのに出会った事ないけど、あんな運動が拡がったらますますトイレ問題に困るじゃないの。ホント世の中、変な事をやりたがるのが多すぎると思うもの。なに考えてるんだとしか思えないもの。

 そんな事はともかく、モンキーにもだいぶ慣れてきたから、バイク女子の本領を発揮したくなってきた。そう、ロングツーリングだ。さすがにお泊り付きはまだとしても、日帰りで出来るだけ走ってみたいんだ。それをやるために免許も取り、モンキーを買ったんだもの。