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「ススム、ちょっと話があるんや」
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「ススムはリンドウさんのことタイプやないと言ってたよな」
「そうだけど」
「今も変わらんか」
「ボクの恋愛対象ではない」
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「ススムはオレの友達やんな」
「今さら、どうした」
「助けて欲しい」
「なにを」
「オレはリンドウさんが好きだ」
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「リンドウさんは、そりゃ、二年の加納なんかに較べたら落ちるかもしれへんけど、オレは美人やと思てる」
「否定はしないよ」
「リンドウさんのことを考えると夜も眠れんぐらいになる」
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「ススムもエエ女やと思わへんか」
「そりゃ思うさ。リンドウさんがいなければ、今の野球部はないからね。そういう意味では彼女の行動力に感謝してる」
「オレは女としてもリンドウさんが好きなんだよ」
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『オレたちは必ずリンドウを甲子園に連れて行く』
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「ヒロシの気持ちは良くわかった。でも今は予選の真っ最中じゃないか。交際を申し込むにしても、せめて予選が終わってからにしてからの方が良いんじゃないかな」
「ススムの言いたいことはわかるけど、オレは聞いちまったんだよ」
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「カネがなければ絶対に助っ人を引き受けない水橋が、なんで野球部の助っ人を引き受けたかを聞いちまったんだよ」
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「だからオレが恋人になって、そうはさせないようにしたいんだ。オレはマジだからな。オレはリンドウを絶対に幸せにしてみせる。リンドウの大事な体を、そんな賭けみたいなもんで穢させてなるものか。相手が水橋でもオレはリンドウを守ってみせる」
とはいえ、こういう状態になってしまった秋葉を『なあなあ』では収めきれないのも知っている。こうなったらリスクは高いけどあの話をするか。これもかなり危険な話なんだが、ボクでも他の手段が思い浮かばない。うまく納得してくれれば良いが、ダメなら甲子園の夢が吹き飛んでしまう。
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「でもヒロシよ、水橋の条件はいくら何でもと思わないか」
「いや、水橋は必ず払わせる。それも即金ですぐにだ。それはススムもよく知ってるじゃないか」
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「ボクたちも水橋の助っ人稼業を何度も見てるけど、カネ以外の条件は初めての気がするんだ」
「どういうことや」
「リンドウさんが成功報酬として体を差し出したんだけど、体は相手が好きじゃなければ意味ないんじゃないかと」
「リンドウさんだぞ、誰の不服が出るものか」
「ヒロシの気持ちはわかるが、ボクもリンドウさんの体には興味がない」
「なにを! たとえススムでも許さへんぞ・・・」
「落ち着け、ヒロシ」
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「リンドウさんが野球部のGMになってから、水橋は何をしていたか知ってるか」
「知らんけど」
「水橋は毎日走って通学してた」
「おい、おい、走って通学って簡単に言うけど、水橋の家って五つも向こうの駅で、電車はトンネル通るけど途中に結構な峠まであるし、駅からだってあのニュータウンの丘の上やぞ」
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「水橋はなんでも出来る怪物だけど、野球部を甲子園に連れて行くとなると、スタミナが必要なんだ。一試合だけのリリーフの助っ人じゃないからね」
「じゃ、リンドウさんが野球部のGMになった時から、助っ人の準備をやっていたって言うのか」
「もっと前からかもしれない」
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「水橋はリンドウさんが好きってことか」
「ボクはそう考えてる」
「じゃ、リンドウさんは」
「水橋が好きだと思うよ。好きじゃなきゃ、あんな条件出さないよ」
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「負けたな」
「ヒロシもそう思うか」
「そりゃ、そうや。うちのチームの中で準備OKだったのは水橋だけやんか。オレたちだって未だに準備不足のままやもんな。水橋は、いつかリンドウさんの甲子園の夢をかなえるためにずっと準備してたんや」
「そうなる」
「そこまで準備して待っていた男に勝てへんわ」
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「ススム、でもこれでホントに甲子園に行けるかもしれない」
「そりゃ、行きたいが」
「オレはずっと水橋のスタミナ心配してたんや。その心配がないんやったら、絶対に行けるはずや」
「行きたいな」
「いや、行ってみせる」