エレギオンHDは世界三大HDの一つに数え上げられる日本一の大会社。それぐらいはアカネでも知ってる。そして、これを率いる小山社長はまさに雲の上の人。調べてみて腰が抜けそうになった。まさに数々の伝説に彩られた氷の女帝。
伝説の始まりはクレイエールの社長就任。秘書からのいきなりの大抜擢で社長だよ。クレイエールは世襲会社じゃないし、当時だって神戸でも指折りの大会社。この時にまだ二十八歳と言うから驚くしかないじゃない。
社長に就任した年に彗星騒動、さらにその八年後に宇宙船団騒動が起ってる。アカネはまだ生まれてなかったけど、お父さんやお母さんに聞いたらリアル・パニック映画の世界そのものだったって。
日本は比較的平穏だったらしいけど、世界中で大規模な暴動が頻発し、この世を悲観するあまり投げ売り一色となり経済は大混乱だったらしい。そりゃ彗星激突で地球が吹っ飛ぶとか、謎の宇宙船団が頭上を十隻も何ヶ月もグルグル周回されたら、そうなるよね。
そんな時に小山社長は機敏に動いたってなってる、国家予算規模の借り入れに成功し、手当たり次第に会社・株・債券・不動産を底値、いや捨て値というかタダ同然でゴッソリ買い込んでるんだ。
彗星騒動も宇宙船団騒動も実害としては殆どなかったんだけど、騒動が終わった後に反動で空前の好景気になったんだ。そう、小山社長が『これでもか』と買い込んだ会社・株・債券・不動産は天文学的な価値に膨れ上がり、エレギオン・グループを形成してるんだよ。
これだけでも十分に伝説的なんだけど、神戸空港に着陸した宇宙船団の代表に対して、地球側全権代表となって交渉に当たってるんだ。理由なんてわかりようもないけど、エラン語を小山社長は話せるだけでなく、読み書きも出来たそうなんだ。ちなみに今でもエラン語は読みも、話せも出来ないとされてる。そりゃそうよね、宇宙語なんてわかる方がどうかしてる。
小山社長のプライベートは謎に包まれていて、どこに住んでいるのかさえ不明なんだ。顔写真とかが、ネットでもさっぱり見つからないのはエレギオンHDの力と見て良さそう。いわゆる財界活動は最小限らしいけど、政界への影響力は巨大らしい。この政界ってのも日本だけじゃなくて世界って感じで、アメリカ大統領でも、ロシア大統領でもいつでもサシで話が出来るなんて評判さえあるもの。
マスコミでさえ相手にならないと見てもイイかもしれない。マスコミったって広告収入が命みたいなものだから、エレギオン・グループを敵に回す度胸があるところはないだろうし、敵に回して生き残れるところなんてあるはずもないぐらい。
これだけだったら影の支配者みたいな感じだけど、小山社長はちゃんと会社には出勤してるし、社員は小山社長にも会ってるし、話もしてるみたい。だから小山社長の画像はなくても、小山社長がどんな容姿かの情報はある。
小山社長は今年で六十四歳のはずだけど、誰もが口をそろえて二十歳過ぎにしか見えないって言うのよね。そりゃ怖い人みたいだからお世辞もあるとは思うけど、お世辞も限度ってのがあるじゃない。女性に若く見えると言えば喜ばれるかもしれないけど、六十四歳を二十歳過ぎなんてすれば普通は嫌味になるよ。
この若く見えるに関連してるんだけど、全然歳を取らないとも言われてる。そうなの加納先生と同じ不老現象が小山社長にもあるとしか考えられないの。でもそれだけ若く見えたら、たとえどこかで会ってもアカネでもわからないと思う。
及川氏は小山社長に会えと言ったけど、どうやって会ってイイのかさえわかんないのよ。でもただ一つだけ手がかりはあるの。ツバサ先生がホテル浦島に行った時に、小山社長となぜか同席してる。意を決してツバサ先生に頼んでみた。
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「小山社長と会うことは出来ますか」
「無理だろうね。あっちは雲の上の人だよ」
これでオシマイ。そうこうしてたらサトル先生から、お酒に誘われた。連れて行かれたのは、
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『カランカラン』
そうあのバー。サトル先生も知ってたんだ。
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「アカネ君はツバサ先生のことをあれこれ調べて回っているようだね」
「そりゃ、お師匠様ですから」
サトル先生は優しくて怒った顔なんて見たことがないとまで言われてるけど、今日のサトル先生の顔はちょっと厳しい、いや真剣ってした方がイイかも。アカネはよほど拙いことをしたかと思ってたら、
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「ツバサ先生がアカネ君にどうして教えないのか不明だ。だから知らない方が良いのかもしれない。でも、知っておいても良いと思う」
なんだろ、聞くのはなんとなく恐いけど。
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「オフィス加納が復活した時のスタッフなら全員が知っていることだ。ツバサ先生は加納先生だ」
ああ、やっぱり。
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「でも知っているのはそれだけだ。どうしてシオリ先生が麻吹つばさとして復活したのか、いつからそうなってるのかも誰も知らない」
「サトル先生でもですか」
「そうなんだ」
ずっとアカネが抱いていた疑問の答えは出たけど、そうよね、本当の謎はどうしてそうなってるかだし、どうして歳を取らないかだものね。
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「ところでサトル先生はエレギオンHDの小山社長を御存じですか」」
サトル先生が知ってるとは思わないけど、
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「ああ、知っている。小山社長は加納先生の古い友だちで、加納先生の葬儀を取り仕切ったのも小山社長だ」
熊野古道の写真を撮ってる時にタマタマ出会ったのが五人組の若い女の子のグループ。ガイド役とカメラ係を頼まれて大喜びでやったそうなの。そのうえだよ、その日の宿が一緒だったので夕食まで一緒に食べたんだって。
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「その時に加納先生に」
「そうなんだ。それだけじゃなく、残りの四人はあのエレギオンHDのトップ・フォーだったんだ。後で知ってビックリしたなんてものじゃなかったよ」
オフィス加納の復活の時にも小山社長はかなり協力をしたで良さそう。そうそうサトル先生は三十八歳で未だ独身。アカネがオフォス加納に入ってからも女の噂一つ立ったことがない。でも、たぶんホモじゃない。古いスタッフ曰く、
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『サトル先生が愛した女性は唯一人、加納先生だけだよ』
加納先生もまたサトル先生に特別な感情はあったと思ってる。だって引退から現役復帰しただけではなく、オフィス加納まで復活させてる。そして八十三歳で亡くなるまでサトル先生のみを弟子として育成されてる。
それだけじゃない。加納先生の死後にオフィスの経営が危機に瀕した時に。大学を中退してまでオフィス加納に復帰し、経営立て直しに活躍されてる。これは自分が作ったオフィスを見殺しに出来ないだけでなく、サトル先生を見殺しに出来なかったからだと考えてる。
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「サトル先生、やはり今でも」
「あははは、そうだよ。ボクは加納先生に恋をした。笑っても構わない、母親どころか祖母ぐらい年上の加納先生に恋をした。でも叶わぬ恋だった。でも甦ったシオリ先生なら・・・」
こりゃ複雑な恋だ。見た目に騙されたとまで言わないけど、五十五歳も年上の女性に恋をした訳じゃない。その女性は死んだはずなのに、他の女性の中に甦ってるのよね。だからまた恋をしてるんだけど・・・まあ、誰を好きになるのも自由だけど、
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「ツバサ先生は二十九歳ですから、行ったらイイじゃないですか。加納先生はお会いしたことありませんが、ツバサ先生も素敵すぎる女性です」
「今のツバサ先生が素晴らしい女性であるのは言うまでもないよ。でも不安なんだよ」
「もたもたしてたら、誰かにさらわれちゃいますよ」
「それはそうなんだが・・・」
サトル先生の不安は、定番の告白しても相手にされないのもあるみたいだけど、歳も取らないし、こうやって甦ってくる女性の相手として自分が相応しいというか、資格があるのだろうかもあるみたい。
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「でも、加納先生は結婚されてますし、聞く限りでは旦那さんは普通に歳取って死んでますよ」
「それはそうなんだが・・・」
ええぃ、煮え切らない。サトル先生は間違いなくイイ人なんだ。男前とまでいわないけど、見た目だってそんなに悪くない。でも優柔不断なのが欠点かも。まあ、それでもなんとなく不安感を覚えるのぐらいはわからないでもない。言い方は悪いけど魔女に恋してるようなものだもんね。
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「おそらくだけど、すべてを知っているのは小山社長の気がしてる」
及川社長もそう言ってたけど、
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「だったら聞きに行ったらイイじゃないですか。とりあえず知り合いだし」
「それはそうなんだが、知るのが怖い気がしてる」
ええい煮え切らん男だな、
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「サトル先生はツバサ先生が好きなんでしょう」
「そうだ」
「そこで、どうしても気になるのがツバサ先生の謎なんでしょう」
「そういうことになる」
「知らなきゃ、プロポーズ出来ないんでしょ」
「いや、あの、その、プロポーズというか、まずは・・・」
たく、イライラする。
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「知らなきゃ、プロポーズ出来ないのなら、知るしかないでしょうが。ツバサ先生だって待ってる気がします」
そこからサトル先生はグダグダと渋りまくったのだけど、アカネが頑張ってるうちに話が変な方向に転んじゃったのよね。
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「・・・だったら、アカネ君が聞いてきてくれないか」
「どうしてアカネなのですか、直接の当事者はサトル先生じゃありませんか」
「いやアカネ君だって当事者だ。そりゃ、ツバサ先生の弟子だもの。アカネ君だって知りたいだろ」
ここでミスった。
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「そりゃ、アカネだって知りたいですけど」
「だろ、だろ、だろ・・・」
はめられた。アカネも知りたい誘惑があったから押し切られちゃった。二週間ほどしてから、サトル先生から連絡があり、クレイエール・ビルに行って欲しいって。そうすれば小山社長に会えると。一階の受付で来意を告げると、
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「渋茶の泉先生ですね」
渋茶は余計だ、
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「御案内させて頂きます」
なんか変だなぁ。制服じゃないから本来の受付の人じゃなさそう、歳の頃は二十代半ば過ぎだけど、超が付く美人の上に惚れ惚れするぐらいのナイス・バディ。着やせするタイプみたいだけど、アカネにはわかる。社長秘書さんぐらいかな。エレベーター・ホールに来ると、何人かの社員が待っていたのですが、
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「申し訳ありません。これからお客様を社長のところにお連れしますので、ご遠慮ください」
なんだ、なんだ、乗り込むのは二人だけとか。なにやらパネルを操作するとエレベーターはどこにも止まらず三十階に。えっ、あの噂の三十階じゃないの。なにやら不安と期待がモコモコ湧き上がってくる感じ。ドアが開くと、
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『コ~ン』
なんじゃ、なんじゃ、あれって、なんだっけ、竹に水がたまって鳴るやつ。さらに目の前には池があって木橋がかかってる。その橋の向こうに・・・なんでビルの中に家が建ってるんだ。さらに中に案内されると広々したリビング。う~ん、豪華だ。部屋の中には誰かいるけど、まさか、
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「来たね、アカネ。ついにここまで。まったくサトルの野郎も自分で来りゃ、イイのに。そんなんだからオフィスを潰しそうになるんだよ」
「ツ、ツ、ツバサ先生」
そうしたらもう一人見知った顔が、
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「いらっしゃい、ローマ以来かな。渋茶のアカネさん」
だ か ら、渋茶は余計だけど、えっ、えっ、えっ、この人が小山社長だって。
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「あなたは、あの時のユッキーさん」
「あら嬉しい、覚えてくれていたなんて。ユッキーと呼んでね」