ツーリング日和8(第11話)今治へ

 今日はとにかく走るツーリングや。観光もクソもあらへん、ひたすら走る。今回の予定やけど昔やったしまなみ海道ツーリングに近いとこがある。小豆島から高松に渡ってどこが似とるんやと言われそうやけど、基本は西に向かうツーリングやねん。

 しまなみ海道の時に懲りたんは尾道までの下道や。あの頃はエンジンの過熱問題があったにせよ、延々と九時間もかかったもんな。

「時間もそうだけど、それより道がウンザリさせられた」

 未だに残るトラウマみたいなもんや。そやから西に下道で向かうのにその次は山陰に回ったぐらいや。マイと出会ったツーリングや。それをやっても良かってんけど、ユッキーが北四国を走ったらどうやと言い出したんや。

 それやったらオレンジフェリーを使う手もあってんけど、北四国を走るんやったら、小豆島に寄ろうって話が出てきてしもてん。コトリもユッキーも行ったことなかったからな。そやけど小豆島に立ち寄った関係で、高松から今治まで走り抜けなあかん羽目になってもとる。

 とにかく計画立てとるうちにグシャグシャになっとるとこがあって、今日なんかは移動しか予定があらへんぐらいやねん。そやから結衣を道連れにしとうなかったんよ。

「それもツーリングじゃない」
「楽しいじゃありませんか」

 今日の移動が新たなトラウマにならんように祈ってるわ。とにもかくにも今治目指すで、まずは高松市内を抜けながら県道三十二号に入る。

「今治までどれぐらい」

 ナビで百四十キロやから四時間か四時間半ぐらいと踏んどる。県道三十二号は国道三十七号に続くんや。そこから観音寺市内を抜けたら今度は国道十一号や。観音寺の次は四国中央市やねんけど、

「それってどこなのよ」

 ユッキーが言いたい気持ちはわかる。大雑把には西が川之江、東が伊予三島や。

「適当な地名つけやがって。四国の中央と言えば白地でしょうが」

 四国中央市はせいぜい讃岐と伊予の間ぐらいやもんな。ほいでも四国中央市を抜けると、

「三島を抜けたと言え」

 へいへい、

「新居浜だ♪」

 高松から九十キロぐらいやけど、ちょっとホッとするな。別子銅山見に行ったもんな。ここから先は前に走った道になる。十時ぐらいやからだいたい予定通りや。新居浜から西条もすぐや。

「結衣、せめて石鎚神社の本社ぐらいお参りしとく」
「予定にないのなら結構です」

 エエんかいな。今日は移動距離こそ長いけど、時間は余裕あるし、ここまでも順調やから寄れるで。

「ついて行かせてもらっていますから」

 ここら辺も懐かしいで。湯之谷温泉に泊まって、石鎚スカイラインからUFOラインまで走ったもんな。言うとる間にあそこやな。

「国道一九六号に入るで」
「らじゃだけど、腹減った」

 たく餓鬼か。

「私もです」

 餓鬼2か。そやけどコトリも餓鬼3や。予定は順調やから昼は今治やな。

「しまなみ海道に入ってからにしないの?」

 なにを寝ぼけたことを。そやから結衣を道連れにするのをあれだけ渋ったんやろうが。しまなみ海道は原付でも自転車でも渡れるのが魅力や。

「クルマでも大型バイクでも渡れるじゃない」

 中型バイクでもな。そやけどコトリらの小型と結衣の大型は走るとこが違うやろうが。コトリらは高速が走られへん。

「結衣のKATANAでもなんとか走れるんじゃない」

 だからそれは禁止や。しまなみ海道はマスツー出来へんのや。そやから今治で昼飯食わんとアカンねん。もちろん今治も美味しいもんはある。基本は海鮮やな。来島海峡で釣れた鯛は明石や鳴門に負けへんはずや。

「だったら鯛めし」

 それも名物ってなっとった。串に刺さへん今治スタイルの焼き鳥もあるそうやが、昼飯やからな。結衣の意見はどうや。

「今治と言えば焼豚玉子飯でキメ」

 なんじゃそれ。聞くとご飯の上に焼豚を敷いて目玉焼きを乗せたもんやそうや。いわゆる焼き豚丼とはちゃうんか。

「基本はそうですが、目玉焼きとタレとの取り合わせが絶品です」

 B1グランプリでも上位に入賞したとかで、わざわざ食べに来るのも多いそうやねん。

「鯛めしなんか神戸でも食べられるじゃない」

 焼き豚丼もそうやけど、ツーリングのメシやったら、

「焼豚玉子飯」

 ハモるな。まあエエわ、コトリも食べとうなってきた。

「結衣、おすすめの店は」
「重松飯店、白楽天、大黒屋飯店」

 即答やな。もともとは中華料理屋のまかないから出て来たメニューなんか。それやったら間違いないかもな。どうせやったら一番の店がエエけど、

「どこが一番かは好みが別れると思いますが、パイオニアとされてるのが重松飯店です」

 元祖か、そこしかないやろ。結衣には四国観光を我慢してもうてるようなもんやから、昼飯ぐらいは希望を叶えなあかんやろ。問題はどこにあるかやけど、えっと、えっと、今治城の北側の方やな。

 西条からは国道一九六号、通称今治バイパスを走って行くんやが、とりあえず国道三一七号を曲がったら良さそうや。今治バイパスは快走や。そろそろ今治に入って来たんやけど、あれやな。

「今治市役所の方でイイの」
「そや」

 こりゃ市街地の道やな。市役所に向かうんやったら、そうなるか。しばらく直進したら突き当りやな。

「左や」
「らじゃ」
「了解です」

 さて問題はここからや。重松飯店なんて案内看板はあらへんやろうからな。どっかで右に入るんやろうけど、こりゃわからんな。たしか神社があったはずやが、宗忠神社はまだ近いからちゃうやろ。また神社かいな。

「ちょっとストップ」
「また迷ったの」

 迷う以前の話や。もうすぐはもうすぐやねんけど、どの角を曲がるかの確認や。

「これわかりにくそうだけど、BIGって衣料品店の次の角ぐらいが目安になりそう」

 そやな。問題はそんなにわかりやすい店かどうかや。行ってみるか。

「コトリ、これがBIGだ」

 そやったらあの信号を右やな。あちゃ、ただの住宅地やんか。こんなとこにホンマにあるんかいな。

「あったぁ!」

 へぇ、いかにも町の中華屋さんでございやな。

「こういう小汚い店が美味しいのよ」

 いつの時代の基準やねん。ほいでもピカピカの新築の中華屋はなぜか不味そうに思えてまうとこがある。なんでやろ。店の中は小上がりの座敷とテーブルか。テーブルが空いとるから座らせてもうて。ここやったら、

「満腹セット」
「わたしも」
「私はCセットでお願いします」

 満腹セットは焼豚玉子飯にラーメンに焼き飯にサラダ。結衣が頼んだCセットは焼き飯が抜きや。

「結衣、このラーメンは今治ラーメンか」
「たぶん違うと思います」

 今治ラーメンはイリコだしらしい。津軽ラーメンに似とるんかな。そこのとこだけ残念やけどこのラーメンもあっさりして美味いやんか。さて目的の丼やけど、なるほどご飯の上に焼豚って言いたいけど、ダブルの目玉焼きで見えへんやんか。

「これは焼豚玉子飯の小だからダブルみたいだよ」

 ホンマやトリプルのもあるやんか。これを崩しながら食べるんやな。焼豚もビッシリ敷いてあってご飯が見えへんやん。

「タレが決め手だね」

 継ぎ足し継ぎ足しの秘伝のタレやろな。これが目玉焼きと焼豚にからまってたまらんな。こういうグルメもツーリングならではで楽しいし、美味しいわ。結衣を道連れにして正解やったかもな。