ツーリング日和(第15話)幻を追って

 謎のバイクの特定だが手がかりが少ない。ビデオを何度も見直したがナンバープレートの文字や数字は読み取れなかった。情けない話だが追い抜かれた後も距離を詰めるなんて無理だったからだ。原付のナンバー・プレートは小さいしな。今日も加藤と一緒だが、

「土小屋テラスでも撮れてへんな」

 土小屋テラスの時はライダーの方を見てたからな。だがナンバー・プレートのデザインに特徴があり、神戸ナンバーであることだけはわかった。

「こっちも一瞬やな。ピントもイマイチや」

 そうはじろじろ見れないだろう。カメラはメットに付けていたからな。あくまでも目を向けた程度にしている。もちろんゆっくりとはいえ走ってるのもある。

「これじゃ、指名手配写真にもならへんぞ」

 オレの記憶には残っているが、この画像では無理があるのはわかる。

「これで探せは無理あるで」

 あれからツーリングの時にも気を付けてはいるが、同じ色のバイクだけではこれまた無理がある。だいたいだが、出会う確率が低すぎる。それと出会ったとしても、石鎚スカイラインの走りをしてくれないとわからない。

「顔だってメット被ってるとわからんしな」

 ではあきらめるかと言われると、あきらめ切れない。あんな化物バイクをもう一度見てみたい。それだけじゃない、出来たら乗ってみたい。もちろん、あれだけの走りを出来る理由を知りたいんだよ。これはライダーとしてはもちろんだが、モト・ジャーナリストとしても興味がありすぎる。

「その気持ちはわかるぞ。ユーチューバーとしてもヒット間違いなしや」

 そこから、あれこれ二人で知恵を絞ったが、加藤は突然、

「杉田。あのバイクを見つける特徴はあるで」

 ほとんどノーマルだぞ、

「いや、あのリア・ボックスはそうはあらへん」

 オレもあまりにもバイクにマッチしていたから見落としていたが、加藤の指摘は鋭いと思った。そうなんだ。リア・ボックスにも塗装がしてある。あのバイクのリア・ボックスに純正オプションはなく、汎用品であれだけマッチしたカラーリングの物はない。

 塗っている者もいるが、自分で塗るか、業者への特注になる。ここら辺は詳しくないが、汎用品のリア・ボックスは塗装が難しいらしく、特注するとかなり費用がかかるらしい。そのせいかカラーリングされているものは少ない。

「それとオイル・クーラーの組み合わせになるともっと珍しいで」

 あのバイクのサード・パーティのパーツにあるが、オイル・クーラーまで付けているのはたしかに少ない。正直なところ付けてもそれほどの効果が期待できる代物じゃないからな。それと趣味にもよるが、オシャレというより武骨な気がする。若い女の子が喜んで付けたくなるようなものじゃない。

「それで目を剥くほどの美人やったんやろ。かなり目立つからインスタとかに上がっているかもしれへんで」

 そうなんだがテキストと違い画像から探し出すのは骨だ。あのバイクは結構なロング・セラーだし、見た目が可愛いからブログなりに写真を上げてるのも多い。

「こりゃ、多いわ」
「ここから見つけ出すのは根性だよな」

 なにかもう少し絞り込まないと、

「神戸ナンバーだからツーリングなのは間違いないやろ。それに石鎚スカイラインで杉田が会った日もわかってる」

 石鎚スカイラインでオレ以外に撮ったのはさすがにいないだろう。だがツーリングだから観光もしているはずだ。それを撮られている可能性もある。そうなると、どこを回ったかになるかだが、実はこれにも謎がある。

 あの二人組が神戸から来たとしたら、やはりフェリーが有力なはずだが、フェリーの到着は六時だ。そうなんだ、あの二人組は六時過ぎには石鎚スカイラインの入り口の大鳥居に着いているはずなのだ。

 そうなると前泊をして石鎚スカイラインを目指した事になるが、道後温泉からでも七十キロ近くある。それもだ国道四九四号は半端な道じゃない。どんなに急いでも一時間半ぐらいはかかるからだ。

「さらに言えば国道四九四号は夜道になるぞ」

 あの日はオレも通ったが、よく通るオレだってあの道を夜に走るのはラクじゃない。街灯どころか人家もないし、道だって狭いところは一車線ギリギリで、クルマとすれ違うのも大変なぐらいだ。それとあのワインディング。


 話はずれるが、神戸から四国に原付が渡るのもお手軽なものじゃない。陸路だけで渡れるのは、しまなみ海道のみだ。後は瀬戸大橋ルートも、淡路ルートも原付は走れない。

 そうなるとフェリーだが、一番近そうな淡路ルートは明石海峡は渡れても、鳴門海峡が渡れない。神戸から徳島に行くには、和歌山港から南海フェリーを使うしかない。

「徳島へは東京からのフェリーもあるのにな」

 皮肉なものでそうなっている。このルートを利用してのツーリングもあり、代表的なのは室戸岬を回って高知に入り、四国カルストを抜けて愛媛に向かうものだ。そこからしまなみ海道を走るのだが、

「尾道から帰るのは地獄みたいなものだろうな」

 原付だから根性はいると思うし、オレも原付ではやりたくない。原付のしまなみ海道ツーリングで良く使われるのはオレンジ・フェリーだ。あれは大阪南港から東予か新居浜に着く。東予からしまなみ海道を走るのも多いが、

「往復するのも多いな」

 尾道から神戸に走りたくない気持ちはわかる。

「高松にも渡れるぞ」

 ジャンボ・フェリーは神戸と高松を結ぶ。これを利用しての讃岐うどんツーリングはある。西に足を延ばしてしまなみ海道にも行ける。

「小豆島経由はさすがにな」

 これは小豆島へのツーリングの応用編みたいなものだ。小豆島へのフェリー航路は多い。代表的なのはオリーブ・ラインだが、高松からだけでなく、岡山からも、姫路からも結んでいる。さらに神戸からジャンボ・フェリーもある。

「そういう目で見ると小豆島はフェリーのハブだな」

 神戸からと考えるとジャンボ・フェリーで小豆島に渡り、そこからオリーブ・ラインで高松に渡るルートが出来ることになる。小豆島と高松をセットで回るのならありかもな。

「原付なら、しまなみ海道を手軽に利用できるところに住んでいないとツーリングは大変だよな」

 その通りだと思う。原付でのしまなみ海道ツーリングは魅力的だ。景色は良いし、料金だって安い。大型バイクであれをやるのは高くつくし魅力では負ける。だが走るのは神戸からでも容易じゃない。

 話の焦点はシンプルで、尾道でどうするだ。走って来るのも大変だし、走って帰るのも同じだ。高速を使わずなるとオレでも嫌だ。だからと言って、フェリーを使うために、しまなみ海道を往復にするかどうかは悩むところになる。


 それはともかく、あの二人組は神戸から来て、早朝に石鎚スカイラインを走っている。土小屋テラスから先はやはりUFOラインのはず。あそこまで来てUFOラインを走らないわけがない。

「UFOラインを下りれば西条だが、素直にオレンジ・フェリーとは言い切れないな」

 あの時刻に土小屋テラスだから、西条には八時に着いてしまう。さらにオレンジ・フェリーの乗船は夜の八時で出航は十時だ。

「高松に回ったか、しまなみ海道を抜けるよな」
「しまなみ海道は走りたいだろうが、帰り道を考えると往復か」

 あの二人組のツーリーング先をあれこれ考えているのは、もし写真に撮られるとしたらバイクを置いて休憩とか、観光をしている間しかないからだ。そうだなキャプションとして、

『こんなバイクを見かけました』

 これでブログなり、FBなり、インスタに上げるパターンだ。

「石鎚スカイラインの前となると・・・」

 あの時刻に石鎚スカイラインに来ようと思えば、久万高原あたりに宿泊したぐらいしか考えられないが、

「それはそれで、そこまでのロング・ツーリングをするかどうかや」

 ありそうなのは高知から四国カルストを抜けて久万高原泊だが、それをやろうと思えば、和歌山から徳島に渡る必要が出てくる。原付だぞ、そこまでやるか。

「地道に調べるしかないな」
「誰か撮っていてくれていることを願うのみだ」