ツーリング日和(第17話)取材

 オレは松山市、加藤は東温市だから松山駅で落ち合った。広島大だが広島市にあるわけではない、元は七つの学校が統合されて新制広島大になっているが、散らばっていたキャンパスが東広島市に集められている。

 松山からなら御薗宇バイパスで今治に出てしまなみ海道を渡り、西瀬戸自動車道、山陽道で百六十キロぐらいで、ほとんど高速だから楽勝だ。西条ICを下りた時点で連絡を取りサイゼリアで落ち合うことになった。駐車場で待っていると、二台のバイクが入ってきて、

「スギさんとカトちゃんじゃのぉ」

 スギさんがオレ、カトちゃんが加藤のユーチューバー名だ。名刺も渡して一通り挨拶をしてサイゼリヤに。まずは女二人組ことを聞いてみたが、

「神戸のOLで一人はコトリさん、もう一人はユッキーさんぐらいじゃ・・・」

 苗字も連絡先も聞いてないとは、コイツら本気でナンパしたのかよ。それと期待していた写真も無しだって! あの夜の泊りも聞いたが、

「実は・・・」

 偶然だったそうだが、やはり湯之谷温泉だった。写真も含めて、その辺の事情をなぜ伏せたかだが、

「頼まれたんじゃ」

 同意もなしに写真を上げるのは良くないにしろ、あそこまでしたのは、

「その代わりにじゃ・・・」

 しまなみ海道観光をやっているが、入場料とか昼食代、途中の飲み食いに至るまですべて支払ってくれたそうだ。それだけじゃない、湯之谷温泉も素泊まりの予定だったのに、夕食も朝食も強引にご馳走してくれた上に、宿代も払ってくれたと言うから豪儀だ。

 石鎚スカイラインにタチの悪い走り屋が早朝にいるのを知っていながら同行したのも、たらふく飲み食いした後で断り切れなかったのと、どうしても行くと言うあの二人を放っておけなかったぐらいのようだ。

 謎のバイクの性能だが、しまなみ海道の観光中は男二人組が先導だったので不明としていた。それじぁ、石鎚スカイラインに行く途中は、

「国道四九四号で付いていけんようなって、石鎚スカイラインでも鳥居の次に会うたのが土小屋テラスの前じゃった」

 土小屋テラスからUFOラインに回ったそうだが、それこそのんびりツーリングで、宿に帰って朝食を食べたらサヨナラだったそうだ。つまりはあの走りを一度も見ていないのか。というか無理だろうな。オレでも振り切られそうだったからな。

 バイクについても聞いてみた。見た目はノーマルに近いが、カラーリングされたリア・ボックス、前輪のダブル・ディスク、オイル・クーラーがあったのは確認できた。他はどうだったかだが、

「なしてかキックで、セルはないじゃった」

 はぁ? ノーマルはセル・オンリーなのに、セルを外してわざわざキックにしたのはどういう事だ。なにか秘密があるのだろうか。

「メーターも変わっとった」

 指針式にしてたのか。これはサード・パーティでもあるが、

「帰ってから同じメーターを探したんじゃが見つからんじゃった」

 形式はタコとスピード・メーターが並列するスタイルで、スピード・メーターにはオド・メーターとトリップ・メーターか。だがデジタルじゃなく、ダイヤル式とは珍しいと言うか、今どきどこも作ってないぞ。

 フューエル・メーターは当然だろうが、油温計も一体として組み込まれていただと。それぞれ単体ならサード・パーティ品にもあるが、そこまで一体となっているのはオレも見たことがない。

「給油の時も驚いたんじゃ」

 給油口はハンドルの手前のタンクの上にあるが、

「そうなんじゃが、そこへの給油が終わるとじゃが・・・」

 キー操作でシートが開いたってか。あれはオリジナルではネジ止めされている。開けるのはかなり面倒だが、まるでスクーターのシートのように手軽に開いたらしい。

「シートの下がじゃな・・・」

 ああ見たことがある。バッテリーが半分ぐらいを占めて、残りは空のボックスになっている。とにかく物をしまうところがないバイクだから、必要書類の収納に使うぐらいのスペースだ。

「そこのバッテリーがじゃ・・・」

 無かったって! どういうことだ。バッテリー・レスにしているとか。

「バッテリーを小型化したんじゃと」

 小型化? 無くなるほどの小型化をしようと思えば・・・冗談だろう。EBバッテリーに交換したとか。EBバッテリーなら単四乾電池サイズになるが、いくらすると思ってるんだ。あれだけでバイクを買ってお釣りが出るじゃないか。

「そこに二つ目のガソリンタンクがあったんじゃ」

 な、な、なんだって。そんな改造は見たことも聞いたこともないぞ。

「どうも燃費が良うないらしゅうて、二つ積んでも二百キロぐらいしか走らにゃあと笑いよった」

 どれだけ燃費が悪いんだ。いや、そうじゃない、そうのはずなのだ。あれだけのハイパワーを出すにはガスを食うはずだ。やっと謎のバイクの秘密の一端がわかった気がする。だが二つのタンクの切り替えはどうしてるのだろう。

「それか。コックが付いとって手で切り替えるみたいじゃ」

 エンジン音が違うのは二人とも感じていたようだ。だが思い当たるものがないのは同じだった。そりゃ、オレや加藤だって知らないぐらいだからな。

「もう一つ、こりゃ驚いた言うより仰天させられたんじゃが・・・」

 石鎚スカイラインのレースの後に勝因を聞いたそうなんだ。そりゃそうだよな。あんなバイクで勝つ方が不思議過ぎるからな。そうしたら、バイクを持ち上げてみろと言われそうだ。

「それが持ち上がるんじゃ」

 えっ、えっ、小さいと言っても百キロあるんだぞ。

「女の子用に軽量化しとる言いよったが、そうじゃのぉ、二十キロもない気がしたで」

 ば、ば、化物だ。性能アップのために軽量化は誰でも考えるが、二十キロはありえない。だいたいだぞ、一二五CCのエンジン重量だけでも三十キロぐらいあるじゃないか。それにエンジンはどう考えてもトンデモなく強化されているはずだ。

「軽すぎて、かえって不安定で走りにくいと笑うとられた」

 そりゃ、それだけ軽量の車体に強力エンジンを積めば速いだろうが、扱いにくいなんてものじゃないはずだ。羽根付けたら空だって飛びそうじゃないか。サイゼリヤで取材のお礼にお昼をご馳走して帰り道、

「謎のバイクの速さの秘密は、軽量車体に強力エンジンなんやな」
「それはわかってないに等しいじゃないか。どうしたら、そんな軽い車体が作れるのか、どうしたら、そんな小型の強力エンジンを作れるのか」

 謎がますます深まっただけだ。