ツーリング日和(第16話)手がかり

 オレだって仕事があるから、謎のバイクばかりを追いかけていられない。それでもヒマがあったらあの日の前後のSNSやブログを読んで回っていた。加藤だけじゃなく、モト・ブロガー仲間にも協力してもらっている。

 だが雲をつかむような話で、探しても、探しても見つからなかった。残念だが、たったこれだけの手がかりじゃ無理があったかとあきらめかけていた。そんな頃に加藤から連絡があった。

「これ怪しいぞ」

 読んでみると学生のツーリング日記のようなブログだ。学生のバイクはあのバイクだな。一日目はしまなみ海道ツーリングか。日付はあの日の前日だ。写真も掲載されているが、

「男二人組の写真しかないじゃないか。それにバイクも自分たちのしか写ってないぞ」
「あわてるな。よう読んでみい」

 なになに因島水軍城で女二人組に声をかけたのか。かけた理由は同じバイクだからとしてるがナンパだろうな。そこから四人でしまなみ海道の観光やりまくりか。よくまあ、これだけ回れたもんだな。

 ちょっと待てよ、因島水軍城で出会って南に下ったということは、尾道から女二人組は来たことになるじゃないか。それも観光やりまくりなら、往復の復路じゃないはず。

「美人って書いてあるやろ」

 ブスなら声をかけないだろうが。それに美人、美人と言ってもピンキリある。文字だけじゃ、どれだけ美人かわからん。それにだぞ、美人とツーリングしたのなら、記念写真ぐらいは撮るだろうが。

「その理由はわからんが・・・」

 その日は、へぇ、今治城まで立ち寄ってるのか。

「おい、今治城で別れて湯之谷温泉に泊まったとなってるぞ。これは関係ないじゃないか」
「そう思てんけど、次の日、読んでみ」

 これ冗談だろう。朝飯前に石鎚スカイラインを走りに行っただと。

「そうや朝の四時に宿から出発や」

 石鎚スカイライン入り口の大鳥居まで湯之谷温泉からなら七十キロ以上あるし、国道四九四号は完全に夜道じゃないか。そんなムチャをする必要がどこにある。事故りに行ってるようなものだ。

 夜の峠道が怖かったの話とか、定番のパワー不足の話があって、大鳥居に到着か。この頃には夜が明けて、石鎚スカイラインからUFOラインの景色の素晴らしさを褒めて下山して宿に帰って朝食か。平穏に終わってくれたようだな。

「おかしいやろ」

 朝四時に石鎚スカイラインを目指したのは妙だが、

「あの日のあの時刻に起こった事は杉田が見てるし、走り屋からも聞いてるやんか」

 そういうことか! あの日のあの時刻に石鎚スカイラインを走って土小屋テラスにいたのはオレとあの女二人組だけだ。地元なら例の走り屋が鳥居あたりに屯しているのを知っているからな。オレは顔で通れるが普通は避ける。

 観光客と言うか余所者が走ろうとすると、あの走り屋連中が賭けレースで絡んでくる。あの日もそうだ。あの女二人組も土小屋テラスに上がってきたが、レースを挑まれてだ。学生二人が無事に上がって来れるはずがないよな。

 待てよ。レースをやったのは女二人組と走り屋だが、女二人組は四人連れだった。残りの二人はレースに参加していない。時刻から考えて学生二人組と考えるべきだろう。そうなると宿は分かれたが、示し合わせて石鎚スカイラインを目指したとか。

「その可能性は残るがおかしいところがある。ブログのずっと前のエントリーやけど」

 なんだって! あの走り屋集団の話を知ってるじゃないか。それなのにわざわざ、あんな無理をして石鎚スカイラインに行ったのか。ほんの一時間ほど遅らせれば良いのも知ってるのにだ。

「それとやけどこのブログを書いたのは、あの走り屋への証文を書いた男のはずや」

 そうだった、そうだった。レースに負けた走り屋連中はトイチの証文にサインまでさせられている。それを書いたのは女二人組に同行していた男だ。

「オレは見なかったが」
「そりゃ、そうだろう。男のバイクはオリジナルの普通のバイクや。杉田のバイクどころか走り屋連中に付いて来れるもんか」

 オレは走り屋連中が来たのを見てUFOラインに行ったが、男の方は走り屋連中の後から上がって来たんだろうな。スタートが同じならそうなる。あんなバイクじゃ、誰が走らせても走り屋たちのバイクに追いつけるはずがない。

「それに女二人組は神戸から来てるとなってる」

 そう書いてあった。これも驚くが神戸から延々と下道ツーリングで尾道まで来たとするしかないだろう。

「ブログは伏せてることがあるな」

 たしかにそうだ。一見、どこにでもあるツーリング記録のような話だが、あの日の事情を知っている者からすれば不自然なところがあり過ぎる。同行した女二人組の写真が無いのもそうだし。走り屋がいるのを知っているのに、わざわざ四時なんて無茶苦茶な時刻に早朝ツーリングに出かけている。

「それと杉田が聞いた事件を丸ごと伏せとる」

 なんのためだ。

「とりあえずやけど、女二人組も湯之谷温泉に泊まったと考えてる」

 可能性は高いな。今治で別れたとなっていたから、道後温泉にでも泊まったと考えていたが、同宿して、しかも女二人組の希望で早朝ツーリングに行ったとする方が妥当そうだ。もちろん男二人組は止めただろうが、なぜ行ったのか。

「聞くしかないな」
「とりあえず広大生みたいや」

 キャンパス・ライフのエントリーもあるからな。ターゲットは絞られたが、広大生ではまだ多すぎる。

「いや手はある。どうもやが、杉田のチャンネル見てるみたいや」
「加藤のはどうなんだ」
「もちろんや」

 さっそくコメントをブログに入れてみた。ほとんどコメントなんて入らないブログだから、すぐブログ主のレスが付いた。何回かやり取りしておいて、会ってみたいのメッセージを入れたら食いついて来てくれた。

「加藤も行くか」
「ここまで噛んでおいて、置いてきぼりはないで」