ツーリング日和8(第12話)別行動

 メシ食いながら午後の打ち合わせや。しまなみ海道はマスツー出来んからな。まず結衣の意思を再確認や。これからも一緒にマスツーするんか。

「もちろんです。地の果てまでも付いて行きます」

 付いて来んでもエエわ。それはともかく、しまなみ海道を渡るんやが、コトリらは原付道やから尾道まで三時間と見とる。混んではあらへんはずやけど、島を抜けていくのはどうしたって時間がかかるからな。

 結衣は走り抜けるだけやったら一時間ぐらいで行ける。もちろんそんな愛想ないことをする必要はあらへん。途中下車して島巡りやったり、尾道で聖地巡礼するのも自由や。どのみち宿のチェックインは午後の三時やから、急いで行っても時間だけ余るからな。

「落ち合うのは宿ですか?」

 そうや。そやけど尾道やけど市内やのうて向島や。尾道の対岸の島になる。場所やけど、向島のICを下りてやな・・・

「あれ、コトリ」
「こんなんもおもろいで」

 コトリも初めて使うタイプの宿や。

「ライハですか?」

 似たようなもんやけど民泊や。民泊ってなんやになるが、シンプルには家の部屋を貸してくれる宿泊施設みたいなもんや。たぶんやけど小豆島のライハも分類やったら民泊になる気がする。帳場がなかったからな。

「料金は?」

 一人三千五百円や。小豆島のライハより高いけど、あのライハより安いとこになると、

「西成の五百円ぐらいしかないよ」

 やろな。規模も小そうて四人しか泊まれん。これは寝室が二つでベッドが四つの関係や。どうも二階の部屋に泊まるみたいで家の住人は一階に住んどるようやけど、ベランダがあって見晴らしは悪くないみたいや。

 メシは出えへんけど二階にもキッチンがあるらしいから自炊も可能みたいや。それとやが、小豆島のライハより嬉しいのは風呂に入れるこっちゃ。ツーリングの後はやっぱり風呂に入りたいわ。

「シャワーじゃどうしてもね」

 後は、

「結衣は犬はだいじょうぶか」
「好きなぐらいですが」

 家でトイプードル飼っとるらしい。

「おもしろそうですね」

 バイク乗りのツーリングに向いてるかもしれん。とくにコトリみたいな可愛いライダーにはな。

「起きてるように見えるけど寝言なの?」

 うるさいわ。自炊はさすがにメンドウやから外に食いにいくから、五時までに宿に来て欲しいな。これぐらいの打ち合わせを済ませて重松飯店から今治ICまで一緒に行って、

「気を付けて行きや」
「安全第一よ」

 颯爽と走って行きよった。高松からだいぶ下道を我慢させたから、しまなみ海道を楽しんでくれたら嬉しいな。コトリらは、さらに北上して自転車バイク用の入り口や。

「ボチボチ行こか」
「こっちも安全運転ね」

 高速と違って登ったり下りたりが原付のしまなみ海道ツーリングやからな。しまなみ海道は寄り道しながらのツーリングもおもろいけど、走るだけでも気持ちのエエとこでもある。そりゃ、どこを走っても海と島や。高速走る結衣でも景色はエエはずやねん。

「島の中はバイクと言うより、原付に合ってるものね」

 そういうこっちゃ。生口島まで来たから半分ぐらいやな。ちょっとお茶でもしょうか。

「少しだけ寄り道しようよ」

 北回りするんか。たいした寄り道やあらへん。へぇ、ここか、ジェラートが専門みたいやな。メニューはこれやな、

「プレミアムジェラートのトリプル」

 へぇ、三杯もあるんか。一杯目は、

「レモンとデコポンも良いけど伯方の塩がおもしろいね」

 スイカに塩かける応用やな。次があちゃ、もろスイカやんか。組み合わされてるんがチョコチップなんか。ほいでもって最後はピスタチオか。なかなかのボリュームやし、コスパもエエやん。

「結衣はおもしろいね」

 ああ、何者やろ。ダーツのハッタリ勝負も鮮やかやったけど、今日のツーリング中も見事に尻尾出さんな。ありゃ、相当なキツネでエエやろ。

「コトリがそういうぐらいだから相当ね」

 昨日も偶然やないやろ。

「そりゃそうよ。全部計算に入れてたじゃない」

 こういう時は敵か味方になるけど、

「どっちでも良いんじゃない。肝心なのは楽しめるか、楽しめないかだもの」

 そういうこっちゃ。今治の焼豚玉子飯を食べれただけでも、楽しめたもんな。なにか企みがあったとしても、気になるようなもんやあらへんやろ。

「人相手ならそうなんだけど、どう見てる」

 その線か。そんなことやるやろうか。平和共存しとるのにチョッカイ出すとは思えへんけど。そやけどタッグで来られたら少々厄介そうやけど、あいつら組むか。

「もし組まれたら、ちょっとシンドイかな」

 そうなったら時の運や。互角の時は、ちょっとした油断や偶然が生死を分けるからな。ユッキーと組んで負けるのがそうそうはおると思わんけど、あいつらがタッグを組んでになると紙一重やろ。

「負けたってかまわないようなものだけど。ミサキちゃんや、シノブちゃんを残すのは気になるところなの」

 戦うんやったら、その前に記憶の継承を封印してまいたいけど、それだけのヒマがないかもしれん。それやったら勝たなアカンか。

「シオリは放っておいてもだいじょうぶだけどね」

 フォトグラファーやらせといたら勝手にやりよるからな。

「ところで宿を変えたのはわかるとして、前のところと変えたのは」

 そんなもんメシの関係や。前の時は尾道ラーメン食べに行ったけど、今日は昼に食べてもたやないか。

「そうだった。ついでに焼き飯もだよね。さすがに連チャンは避けたい」

 ついでに言うたら、向島には焼き肉屋が多いみたいやが、これもパスや。これも昨日の晩にオリーブ牛を食い過ぎた。さらに言うたら明日の宿は、

「しまなみ海道に来て食べなきゃウソだよ」

 そういうこっちゃ。

「コトリもちゃんと考えてるんだ」

 当たり前やろが。それを考えもなしにKATANAに乗っとる結衣を道連れにしやがって、予定の修正が大変なんやぞ。

「そんなアクシデントも旅の楽しみでしょ」