ツーリング日和3(第18話)呼ばれたで

 うちが帳場におる時やった。電話があってんけど、

「コトリ様ですね。ご予約でしょうか」

 ひったくるように受話器を奪い取ったわ。そしたらやっぱりコトリはんやった。要件はすぐにわかったから、爺さんのとこにすぐに行ったで。

「明日も明後日もうちも清次も休むさかい、板場は爺さんに任せるわ」
「なに言い出すんや。明日は土曜日やぞ」

 事情を説明したら、

「ワシが行った方がエエんちゃうか」
「コトリはんが頼んだんはうちと清次や」

 しばらく押し問答になってんけど、

「ホンマか」
「なんでウソいわなあかん。娘が信じられへんのか」

 ホンマは爺さんに頼みたそうやったけど、無理やり押し切ってやっかたから正真正銘のホンマや。ここは譲れるかい。

「それやったら行って来い、板場の事は心配するな」
「むちゃくちゃ心配やけど任せたわ。客減らしなや」
「アホぬかせ。清次ごときにまだまだ負けん」

 板場のみんなゴメンな。爺さんが板場立ったら鬼将軍どころか閻魔大王になるからな。それでも腕はまだ確かや。あれはあれでエエ勉強になる。留守は任せたで。清次は、

「お嬢はん、新幹線で行ったらどないだす」
「こんぐらいバイクですぐや。準備せい」

 コトリはんたちはツーリング中のはずや。そこにバイクで行かんとどうするねん。朝から気合入れて出発や。阪神高速から名神乗って北陸道にまっしぐらや。

「お嬢はん、飛ばし過ぎでっせ」
「お前が遅いんや。しっかり付いて来い」

 たく、二五〇CCのアメリカンなんか乗りやがって、そんなバイクじゃ付いて来れへんってあんだけ言うとるのに。二五〇CCやったらせめてスポーツ・タイプにせえよな。それより何より、

「清次、大型にせい」
「免許がありまへん」
「それやったら、早う取れ」

 うちとのバランス悪いやんか。ノミのカップルのツーリングやと何回冷やかされたか。これが逆やったら普通やけど、今のままやったら変やろが。やっぱり男が大きいのに乗って、女が小さいのに乗ってこそカップル・ツーリングやろ。

「そない言いますけど、お嬢はんのバイクより大きいのはありまへんやんか」

 だから大型免許を取れと言うてるやんか。

「大型いうてもリッター買うても無理でんがな」

 あのな、大型あったら世界中のどんなバイクでも乗れるんや。上限なしやからな。リッターで間に合わへんかったら、もっとデカイのに乗れば済む話や。

「ハーレーでも無理ちゃいまっか」

 理屈ばっかり並べるな。そんなもん、

「ボスホスかグンブスに乗れ」
「どないして買いまんねん」

 そんなもん輸入なりなんなり出来るやろ。

「それにあげな大きいもん。乗れまへんで」

 根性だしたら乗れるわい。あれぐらいやのうたら、うちのバイクが可愛く見えへんやんか。夫婦茶碗かって男の方が大きいに決まっとる。うちのバイクと釣り合わせるなら、それぐらいでちょうどエエんじゃ。

「それよりお嬢はんこそ、体に合わせてもう少し小さいのに変えはったらどうでんねん」
「これはうちのお気に入りじゃ、なんで変えなあかん」

 こんなもん女が合わせてどないするねん。黙って男が合わすもんやろが。それぐらい気配りせい。

「他のことならまだしも、お嬢はんのバイクと並んでも可愛く見えるバイクなんて無茶でんがな」
「無茶やない。免許さえ取ったら、ちゃんと売ってるやんか」

 それにしても夢かと思たわ。コトリはんからの電話やで。それもや、うちに頼み事やんか。これですぐ駆けつけへんかったら女が廃るわい。

「お嬢はん、ちょっと休憩入れまひょ」

 二時間ぐらい続けて走れんのか! この軟弱者が。だから二五〇CCやったら長距離ツーリングに無理が出る言うとるんじゃ。うちは一分一秒でも早う会いたいのに。

「そない言いましても、早う行ってもおりまへんで」

 つまらん御託並べるな。うちが早う行きたい言うてんのや。たくちょっと飛ばしたら付いて来れへんやんか。そうこうしとるうちに、やっと福井ICや。料金所の手前でバイクを停めて、

「清次、道の駅一乗谷あさくら水の駅ってどこやねん」
「ちょっと待っておくれやす」

 IC下りて国道一五八号を西に走るみたいや。

「清次、任せたで」
「へい」

 へぇ、高速の高架潜ったっらいきなり田んぼか。待ち合わせの道の駅は市内ちゃうんかいな。まあエエわ、とりあえず二車線の真っすぐの道で気持ちエエわ。

「右に曲がりまっせ」
「おう」

 ちゃんと道路案内出とるな。あの信号やな。

「橋渡って左どす」

 清次は道案内をさせたら大したもんやねん。そやからうちのナビ外したぐらいやねん。ここが道の駅か。あっちに三連水車が見えるから水の駅って言うんかいな。さすがに広々しとるわ。駐車場は横長やけど、玄関に近いとこがエエやろ。しばらく待っとったら、ついに見えた。赤と黄色の忘れもせんあの原付。

「似たバイクは多いでっせ」
「見間違えるはずないやろ」

 こっちに気が付いてくれた。覚えてくれてはったんや。バイクを降りて、メットを取ったら、うちはもう我慢できへんかった。

「コトリはん、ユッキーはん・・・」

 抱き着いたら涙が止まらんようになってもうた。どれだけ会いたかったか。

「ちいと落ち着きいな。まず紹介しとくは、こっちが井筒和彦さんや」
「こいつが清次や」

 井筒さんもコトリさんたちと一緒にツーリングしてるぐらいやからタダ者じゃないはずや。

「これに乗って来たのですか」
「そや、大阪からひとっ走りや」

 さすがに目が高いわ。バイク好きやったっら飛びつくわな。

「これって、トライアンフ。それもロケット・・・本物が動いてるのを見れるなんて感動です」

 滅多に走っとらへんもんな。そうや五十年前の骨董品や。そやけどちゃんと整備してある。まだまだ今どきのバイクに負けへんで。