ツーリング日和3(第30話)三方五湖

 八時半になったから出発や。マイたちともインカム調整して話せるようにしといた。虹岳島温泉からそのまま北側に走れたらレインボーラインは近いんやけど、残念ながら行き止まりやねん。

 そやからまずは昨日来た道を引き返す。そやけど国道二十七号まで戻る必要はないから、昨日宿の看板に騙されそうになった看板を、

「レインボーラインは左ってなってるよ」

 これが若狭鯖街道って呼ばれとるらしい。これをひたすら北上していくんやけど、突き当たったら左に曲がって県道二四四号や。そこからすぐに、

「コトリはん、若狭鯖街道は右折ってなってるで」
「直進や。これをまっすぐでレインボーラインにぶち当たる」

 二分もせんうちにあの信号を左折や。ほら料金所が見えた。

「コトリ、ここってレインボーラインの途中じゃない」

 まあそうやねん。ここは有料区間の始まりで、正式のレインボーラインの始まりは後ろに見えてる山の向こうからや。そやけど、そこに行こうと思たら、さっきの信号を直進して日向湖沿いを走って行かなあかんねん。あそこは道が狭いんや。

 それこそ湖畔沿いの漁港みたいなところを走らなあかんし、そこまで回り道をしても無料区間のレインボーラインは単なる山越えの道や。走ってもエエんやが、マイのロケットには辛いやろ。

「マイに優しいのね。それより料金高くない!」

 普通車が千六十円で二輪車が七百四十円は割高やな。

「ほんまや、ボッタクリやんか」

 マイが言うな。お前のバイクは二五〇〇CCもあるやろが。ボッタクリと感じるのはこっちの方や。原付やのにマイのロケットとなんで同じ料金やねん。観光道路やからしょうがあらへんけど。まあ行こか。

 とりあえず登りやな。結構登るな。林間道路ちゅうより峠道の軽めのワインディングの感じやけど楽しいな。視界が広がってきて左手に見えるのは水明湖やな。ここからもひたすら登りか、おお右手に見えるんは若狭湾やろ。うひょ、ヘアピンか。

「このへんのパーキングで景色は見ないの?」
「もうすぐのはずやねん」

 あった、あった。あの角や、

「右に入るで」
「らじゃ」
「ほいきた」

 駐車場にバイクを停めて。あれやな。こりゃ景色ええやろ。インフォメーション・センターでチケット買ってやけど・・・九百円とは安うないけど、これ上がらんと来た意味ないもんな。そこから階段上がって、何で狸がおるんやろ。民話大名たぬき角兵エってなんやねん。まあ、エエわ。

「リフトに乗るの?」
「いや登りはケーブルカーにする」

 リフトでもエエんやけど、リフトって山側向いて座るやんか。そしたら景色見えへんやん。可愛いケーブルカーやけど・・・おお、見えて来た、見えて来た、若狭湾や。天気もエエから海の蒼いこと。

 ケーブルカー下りたら天空のテラスや。山頂部分を丸ごと展望公園にしてある。ここは順番にと思たけどマイが行ってもた。ここはどこからでも絶景やからな。

「コトリはん、ユッキーはん、こっちこっち」

 丸いソファーが置いてあって、クッションが二つか。こりゃ、まるで、

「昭和の回転ベッド」

 ようそんなもん連想するな。マイと清次やったらピッタリやが、

「わたしたちだってピッタリよ」

 そんなん聞かれたら誤解されるやろ。この丸いソファは人気あるんやな。横に砂時計が置いてあって譲り合いでよろしくか。そこからマイははしゃぎながら次に行くんやが、こんなとこに神社があるやんか。和合神社って、後ろに幸せの鐘、なるほどそういうことか。マイと清次さんが嬉しそうに鳴らしとるわ。

「ユッキー、なに必死になって拝んでるねん」
「ここの御利益は男女和合なのよ」

 う~ん、縁結びと言うより夫婦円満の神さんみたいやけど、コトリも祟られんようにちゃんと拝んどこ。若狭テラスに向かったんやけどマイが、

「かわらけ投げやろうよ」

 かわらけ投げもあるんや。カウンターテラスで絶景を楽しんでたんやけど、

「コトリはん、なんでレインボーラインって言うんや」

 ああそれか。三方五湖は海水、汽水、淡水になっとって、湖面の色が微妙にちゃうからやねん。マイもよう見てみ。

「言われて見ればやけど、虹色には見えんな」
「ものは例えや」

 ここは料金払うだけの価値はあるな。もっともレインボーラインの通行料から積みあがってまうけど、これを見んかったら、わざわざ来る意味なくなってまうぐらいやと思うわ。仕上げは美浜テラスや。

「ここが一番じゃない」
「足湯があるからやろ」

 存分に堪能したわ。これやからツーリングはやめられん。そしたらマイがチラシを取り出し、

「これ寄って見いひん」

 なになに、御食国若狭フェスティバルてっか。いまいち語呂が悪いけど、

「とくにこれやねん」

 若狭焼コンクールとは面白そうやな。

「昨日の宿でグジの若狭焼出んかったやろ。若狭まで来て、本場の若狭焼食べられへんの悔しいやんか」

 自分とこで焼いたらエエやんとも思たけど、この時代でも若狭と大阪では鮮度が違うかもな。そう言われたらコトリも食べとうなってきた。ユッキーも、

「メイン会場は小浜のお台場公園で、隣接して若狭フィッシャーマンズ・ワーフとか若狭お魚センターもあるから、鯖のへしことか小鯛のささ漬けもお土産に買っても良さそうじゃない。それと鯖街道走ったら浜焼き鯖も食べたくなっちゃった」
「そうやで、コンクールの後には出店した店からの若狭焼の振る舞いもあるって書いてあるやん」

 こらこら、次から次へと誘惑されたらコトリが我慢できへんやん。そやな、今ら小浜に行って、お土産物を買って、ちょっと早めの昼食を食べても時間的には・・・五時ぐらいには帰れるか。そうなると六甲山トンネルが混みそうやけどしゃ~ないか。

「じゃあ、決まりね」

 寄り道ツーリングがコトリらのツーリングの基本やし、グジの若狭焼と浜焼き鯖の匂いがもうする気がしてきた。

「ほな、行こか」
「らじゃ」
「よっしゃ」

 この乗りの軽さはやっぱり板場の天使には見えん。