ツーリング日和5(第34話)マスツー

 淡路のツーリングは、明石までの往復がウンザリさせられるけど、淡路島の中のツーリング自体は快適なのよね。九割ぐらいは余裕でシーサイド・ツーリングになるし、信号も少ない。ついでに交通量もクルマは高速走ってくれるから多くないもの。ジェノバ・ラインも久しぶりだな。

「日帰りやけどフェリーを使うのも乙やろ」

 ちょっとした特別感かな。十五分ほどの船旅だけど、明石海峡も潜るし、淡路についに上陸したって言えば大げさかな。乗り場は明石だけど、ここまで来るのが我慢みたいなところもあるから、ツーリングを楽しむぞって気分がここでより高まるんだよね。

「朝御飯はやっぱり」
「タコのプレス焼き」

 あれじゃなくっちゃね。明石大橋を潜って岩屋港が見えて来た。フェリーが桟橋に着いたから下船だ。今日はどんな楽しい日になってくれるかな。あれっ、マスツーの団体さんがいるけど、

「コトリ、あれって」
「ああ声かけたら一緒にマスツーしようって話になってな。あいつらジェノバ・ライン使われへんから、ここで待ち合わせや」

 それは話が逆で、わたしたちが高速使えないからでしょ。でも懐かしい顔がいるじゃない。

「お久しぶりです」
「笹岡君と原田君ね。ササハラ・コンビのモトブログも人気チャンネルになったじゃない」

 この二人に出会ったのは高松に向かうジャンボ・フェリー。高松から宇和島までマスツーしたのは楽しかった。モトブロガーとしてこれだけ成長してくれて嬉しいな。

「杉田さんと加藤さんを蹴落とせそうじゃない」

 そしたら、

「そんなに簡単に蹴落とさないで下さい」

 杉田さんと加藤さんも二人そろって会うのは阿蘇以来か。わたしたちのバイクの秘密にあれだけ迫ったのはこの二人だけだものね。でもお世話になってるよ。笹岡君と原田君を目覚めさせてくれたし、カケルの時にも無理聞いてくれたものね。

「あんなもの無理でも何でもないですよ」
「何かあればいつでも喜んで御用承ります」

 コウも来てたのか。淡路にもストリート・ピアノがあったっけ。

「淡路夢舞台とハイウェイ・オアシスにありますが、今日はツーリングに専念します」

 ユリもますます綺麗になって。今は侯爵様だよね。

「やめてくださいよ。メンドクサイのですから」

 今日はこの六台と合わせて八台のマスツーね。これだけの規模のマスツーなんて初めてだよ。

「ユッキーはん。わざと無視するなんてイケズやわ」

 無視したくても真っ先に目に入ったよ。今日は杉田さんと加藤さんがリッターSS、コウに至っては一八〇〇CCのハーレーだよ。でもそれさえ圧倒してしまうのがマイのロケットだもの。

「清次さんもますます腕を挙げられたと聞いてるわ」
「そやから・・・」

 マイもますます綺麗になってるよ。福井の幸楽園、小浜の若狭焼コンクール、カケルの店のことでもお世話になって感謝してるんだから。

「ユッキーはん・・・」

 だから泣かないの。マイも大切な旅の仲間だよ。これで十台か。それにしてもデコボコ・マスツーで福井から神戸にツーリングしたのを思い出すね。そりゃ、マイのロケットに付き従うお稚児さんみたいだとコトリはボヤいてたもの。バランスが悪すぎるって。

「先導はまず杉田がやらせて頂きます」
「わたしたちを置いてかないでよ」
「はい、清次さんとユリさんのバイクに合わせますから御心配なく」

 清次さんがやっても良いけど、ここはプロレーサーの杉田さんかな。

「加藤、殿はまかせたぞ」
「よっしゃ」

 並びは杉田さんの後ろをコトリとわたし、その後を清次さんとマイ、さらにコウとユリで、その後ろを笹岡君と原田君か。カメラ四台が笑いそうになるけど。

「まずは東浦の道の駅に行きます」

 お腹減ったよ。すぐに到着して待望のタコのプレス焼きだ。感想を聞くならやっぱりマイだよね。

「美味いに決まってるやん。食べてるお客さんの顔見ただけでわかる」

 お腹がタコまみれになって出発。こりゃ、なかなかの迫力だよ。大規模マスツーは避けてたけど、これはこれでおもしろいかも。

「ルートとメンバーによるけど、淡路やったらエエかもしれん」

 わたしもそう思う。下道だから大きさによる差が出にくいものね。洲本を通り抜け、由良を過ぎた頃に、

「コトリ、今日も」
「成ケ島見せたりたいやん」

 わたしも賛成。あれは絶景だよ。他のみんなも満足してくれてた。お昼と言えば淡路島バーガーを今回は食べれるかな。

「無理やろな。あれはすぐに売り切れる」

 みたい。そうなるとお昼は福良になるけど、これだけの大人数となると、

「心配せんでもエエ、ちゃんと予約してある」

 ここか。いかにも大衆食堂って雰囲気が嬉しいじゃない。バイク乗りにピッタリだよ。座敷に上がり込んで、

『カンパ~イ』

 ビールと言いたいところだけどコップの水で乾杯。でも、こりゃ安くて美味しいよ。みんなパクついてるけど、見ようによっては物凄いメンバーだものね。有名モトブロガーが四名、有名ピアニストに関白園の板長と女将、さらに現役の侯爵様。そこにツッコミが、

「なにを言われますか、一番の大物は」

 それは言わないお約束。その顔で付き合ってるんじゃないからね。みんなバイク仲間、旅の仲間だもの。

「コトリ、今日はどうして」
「たまたま都合が合うてんや」

 どうだか。コトリの事だから強引にかき集めたんだろうけど、

「声かけられたら飛んで来ますよ」
「まさかと思いましたもの」
「また一緒にツーリング出来るなんて夢見たいです」
「いつでも飛んでくるで」

 加藤さんが、

「オレなんか初めてやで」

 そうなるか。久礼には来れなかったものね。ここから大鳴門橋に移動。やっぱり淡路島バーガーは売り切れか。縁がないものは縁がないものね。そしたらなんといたんだよ。あの時のドカの排気量マウンティングおっさん。あっちは忘れてたみたいで性懲りもなく、

「そんな小さなバイクじゃ・・・」

 言わなきゃイイのに、今日はメンバーが悪いよ。

「おっさん、そんなちっこいバイクでなにイキってるんや」

 マイと七坂八峠で初めて会った時も同じような啖呵切ってたものね。そりゃ、マイのロケットからみれば、リッタークラスのバイクなんて小さいバイクになっちゃうもの。大鳴門橋からサンセット・ロードを北上して幸せのパンケーキ。

「あの階段を登り切る日はまだまだ来そうにないね」
「そやな。ブランコで遊んどれってことやろ」

 ここでみんなとはお別れ。他のメンバーは高速じゃないと淡路島から出られないし、わたしたちはジェノバ・ラインじゃないと帰れないからね。コトリと岩屋を目指しながら、

「旅の仲間も増えたね」
「ロング・ツーリングするたびになんでか知らんけど増えるからな」

 だよね。でも気持ちの良い仲間じゃない。

「おっと、今日はメーテルごっこはなしや」
「どうしてよ」
「コトリもユッキーもメーテルはとっくの昔に超えてもとる」

 メーテルの母は雪野弥生であり女王プロメシュームか。雪野弥生が育った時代なんてたかだか昭和だし、銀河鉄道999の設定も二二二一年。あははは、たった千年にも満たない短い期間のお話だものね。

 メーテルにも仲間はいたけど、わたしの方が恵まれてるかもね。そうでもないか、この仲間たちともすぐにサヨナラだものね。それでもね、仲間たちのの思い出を胸にまた明日に向かって走るだけ。