ツーリング日和2(第33話)一件落着

 うちは龍泉院舞香。親が押し付ける結婚から逃げとる真っ最中や。その途中で知り合ったんがコトリはんとユッキーはん。うちから声かけたんは女一人のソロツーは怖かったからやねん。

 それにしても不思議過ぎる二人や。石見銀山で追手に見つかった時の鮮やかなまき方。津和野のあの策略。さらにやで、うちが龍泉院舞香やと突き止めてしもたやないか。それにあの不思議過ぎる余裕。うちの追手が来ても悠然とツーリングしながら観光する根性はタダ者やあらへん。

 タダ者やないのは二人のバイクもそうや。なんやねんあれ、アホみたいに軽いし、冗談みたいに馬力があるやんか。あれ原付やで。少々改造したぐらいでああなるもんか。石見銀山の時も、うちがロケットで全力で走ったのにあっさり追いついてもたぐらいや。でも敵やあらへん。間違いのう味方や。

「マイ、朝飯食いに行くで」
「朝はバイキングだよ」

 不思議と言えばとにかく凄まじく食って、飲むねん。二人前ぐらいペロリやもんな。

「コトリ、やっぱりダメだった?」
「まだ電波が入らん」

 港が近づいて下船準備してる時にコトリはんに着信。

「ギリギリやけど間に合うたみたいや」
「良かった。これで一件落着ね」

 港に下りて、

「マイ、これでお別れや」
「仕事があるからね」

 お別れって、マイはこれからどうしたら、

「ツーリングが終わったら家に帰るやろ」
「だいじょうぶだよ。帰ればわかるから」

 騙されたように説き伏せられて、こわごわ家に帰ってみたんや。家に着くと玄関で爺さんが出迎えてくれた。

「マイ、苦労をかけた。そやけどもう心配あらへん」

 そういう爺さんの顔はマイが見たことがないぐらい厳しい顔やった。そこからは大騒動になった。マイがわかったんは白羽根が綺麗サッパリ手を引いてもたことや。理由はわからへんけどフェリーの夜に一方的にそうしてしもたらしい。爺さんはマイが帰った夜に一族会議を開いたんやけど、

「マイ、お前も龍泉院の娘やから、根性決めて聞いとけ」

 一族会議は親父の糾弾から始まった。裏バクチに手を出してること。愛人を囲ってること。さらの裏バクチの負けた分や、愛人囲うために会社のカネに手を付けてること。さらに会社のカネの穴埋めに白羽根と手を組んでるどころか賄賂までもらってること。全部証拠付きで突き付けて、

「お前のような奴に龍泉院の名は相応しゅうない」

 離縁を申し渡されて関白園からも身一つで叩き出されてしもうた。横領や背任の件はこれから弁護士が処理するそうや。これで終わりかと思たら、次の矛先はお袋に向かったんや。お袋も会社のカネの着服やっとんてんよ。理由はホスト狂い。

「お前は勘当じゃ。二度と龍泉院の敷居を跨がせん」

 お袋は親父が浮気をしていたからやと泣き落としにかかったけど、誰も同情せんかった。そりゃ、生々しいホストとの密会写真だけやなく、モロのビデオまで出て来たもんな。娘でも引きまくったわ。そりゃ、

『来て、来て、イイ、イイ、イクッ』

 こんな轟くような嬌声が座敷の中に響き渡ったからな。半狂乱になったお袋はビデオを止めようと暴れまわったけど、親族に取り押さえられて最後までキッチリ流されてもた。それもやで相手は一人やない、三人のホストを相手に何回戦やってるんよ。


 板場の方は爺さんが経営者に復帰し、提島さんと清次を呼び戻してくれた、この二人だけやのうて、あの時に辞めた連中も帰って来てくれた。板長には提島さんがなり、清次は一番立板や。しばらくしてから清次との婚約が発表されて結婚も決まったんや。結婚式も近づいた頃に提島さんから折り入っての話があった。

「これを機会に・・・」

 関白園を辞めるって言うのよ。うちもビックリしたけど、

「この一年、清次には教えられることはすべて伝えさせて頂きました。関白園の板長としてどこに出しても恥ずかしゅうありまへん」

 これは爺さんとも相談の上やったらしいけど、うちと清次が結婚したら清次が名実ともに板長になるねん。そのために結婚するようなもんやもん。

「これで関白園の味を無事受け継がすことが出来ました。これ以上は清次の邪魔になるだけどす」

 そんなぁ、と思たけど、板場に板長は一人でエエと言われ、今度は関白園みたいに大きなところやなく、

「カウンターで気心の合う客と店やってみるのが夢でしてん」

 店の名前はってきいたら、

「鬼瓦です」

 ワロタ、さすがは関西人や。提島さんが板場を去る時はみんな泣いてたな、

「泣くな。今から板長は清次じゃ。関白園の味を守れんかったら許さへんからな」

 一回も振り向かんと提島さんは去って行ったわ。泣き顔を見せとうなかってんやと思う。ずっと後になってから爺さんになんで白羽根が急に手を引いたんか聞いたんやけど、

「そのうち知るかもしれんけど、今は知らんでエエ」

 どうもやけど、親父やお袋の横領や背任の証拠も全部そろえて爺さんに渡されたで良さそうや。そやそや、コトリはんやユッキーはんに立て替えてもうた旅費やけど、

「それも精算しといた。それとやけど」

 マイにロケットのカギくれた。

「さすがにもう乗れんわ」

 今ではマイの愛車や。結局、コトリはんやユッキーはんが誰やったかわからんままになってもた。爺さんは知ってそうやけど教えてくれそうもあらへんねん。そやからマイは時々ロケットでツーリングに行ってるねん。


 おっと今日は清次との結婚式や。もちろん和式で、披露宴は関白園や。白無垢で三々九度やねんけど、本音で言うたらかなり面倒なんよ。腐っても公家の出やからあれこれ煩いんよな。はっきり言うとエンドレスみたいな披露宴になってもてるわ。

 それでも昔は三日三晩やっとったらしいけど、今は今日だけ頑張ったら晴れて清次と夫婦や。そうそう清次もバイクが好っきゃねん。そやからデートでツーリングもよう行った。これも清次は二五〇CCやから、いっつも乗っとるバイクが逆や言うて揶揄われるわ。

 清次とのツーリングは楽しいんやけど、うちはもう一つ目的があるんや。あの赤と黄色の原付に会えへんかってな。そいでな、また一緒にツーリングするんが夢やねん。あんな逃避行みたいなツーリングは二度とゴメンやけどな。