ツーリング日和3(第29話)ついてくるんかい

 朝風呂入って朝食や。

「コトリはんの今日の予定は」

 まだ付いて来るんかいな。

「レインボーライン走って、天空のテラスに寄る予定やが」

 そんために水明湖畔の宿に泊まっとるんやろ。

「そんだけ?」

 あのな、コトリらの休みは今日までやねん。こっから神戸まで二百キロあるから、走りっぱなしでも五時間かかるんや。そないにウロウロできへんやんか。

「三方五湖の遊覧船は」

 そやから時間があらへんのや。行きたかったら清次さんと二人で行ったらエエやんか。

「清次、残念やな」
「そうでんな」

 コトリのせいにするな! なんでそんなに付いて来たがるんよ。夫婦二人で楽しくツーリングやったらエエやんか。

「お昼は?」

 天空のテラスのリフトが動くのが九時やから、あそこで一時間として十時やろ。そこから小浜まで四十分ぐらいや。この辺は実際に走ってみんとわからんけど、もうちょっと西に走ったぐらいでお昼やろな。ユッキーも、

「予定通りに走れたら舞鶴ぐらいかな」

 それぐらいやろな。舞鶴から篠山抜けて、三田から北六甲有料道路で六甲山トンネルぐらいになるわ。

「さすがはコトリはんや、ちゃんと予定立ててはるんや」

 当たり前や。日帰りやったらともかく、ロング・ツーリングの時は道に迷たら目的地に着かんようになってまうやんか。あてずっぽうに走ってる訳やあらへん。下道ツーリングを舐めたらあかんで。

「清次、今日の泊りは神戸や」
「へい」

 待たんかい。今日も一日付いて来るって言うんかい。マイたちやったら舞鶴から高速使えるやんか。

「なに言うてるんよ。うちらは明日も休みやねん」

 だから言うてコトリらを付け回すことあらへんやんか。それにやで、わざわざ神戸に泊まらんでもエエやんか。大阪の人間が神戸に泊まってなにが楽しいんや。

「それ誤解あるで。神戸はオシャレな街や。大阪の人間にとって憧れの街やねん。そりゃ、近すぎるから、なかなか泊まりに出来へんけど、こういうチャンスは活かさんと」

 首都圏に較べたら近畿圏はコンパクトで、新快速使うたら三ノ宮から大阪まで二十分ほどやし、大阪から京都までも三十分ぐらいやねん。つまりって程やあらへんけど三ノ宮から京都でも五十分ぐらいで着いてまうんよね。

「あれはギャグみたいなところがあって、神戸空港から三宮までポートライナーで二十分ぐらいかかるのに、三ノ宮から大阪も時間は同じぐらいになっちゃうのよね」

 ポートライナー遅いからな。それはともかく神戸から京都は余裕で日帰り圏内やねん。往復二時間ぐらいやからな。ここでやけど神戸の人間は京都に憧れはあるねん。そりゃ、日本一の歴史と文化の街やもの。神戸なんか明治維新後にポッと出来た街やから、

「兵庫津の歴史は古いじゃない」

 兵庫津は神戸のルーツの一つやけど、今の神戸は幕末に開港場として居留地が置かれたとこから始まってるとしてエエねん。そやから早くから海外文化を取り入れたモダンな都市として発展してるし、マイが持つオシャレな街のイメージが出来とる。

 どうも話が脱線するけど、神戸の人間は京都に憧れを持っとるんよ。そやから京都にもよく遊びに行くけど、京都ってテンコモリの見どころがある街やんか。日帰り観光を四回や五回したところで、お上りさんの定番コースぐらいしか回れへんねん。

 それに日帰りやったっら夕暮れの京都は見られへん。見られへんことないけど、帰りの時間との兼ね合いでバタバタして楽しむには無理があるんよね。そやから京都に泊まりで旅行してみたい言うのはどこかにあるねん。

 そやけど近いやん。あんな近いとこに泊まりって贅沢すぎるし、もったいないやんか。そやから、余程の理由があらへんかったら泊りにはせえへんねん。

「コトリはん、長いし、言い訳がましいけど、大阪から神戸もそんな感じやし、近いからなおさらやねん」

 長いのと言い訳がましいのは、ほっとけ。こんな感覚は住んでるもんやのうたらわからんやろが。

「マイ、神戸に泊まるのは良いとしても、どこか行きたいところでもあるの?」
「ちょっと気になる店があって・・・」

 ああ、文月か。気にはなってる店やねん。ジャンルは、

「あの店って和食か?」
「店の作りはそうみたいだけど」

 なんかフレンチと和食の融合が売りみたいやけど普通の和食やないのはたしかや。評判は高い、ウルサ型と呼ばれる食通が絶賛しとる店でもある。そやから気になるんやけど、

「フレンチと和食って遠いイメージがあるやんか。そやけど、ヌーベル・キュイジーヌからフレンチにも和食の流れを取り入れてるやろ。そやったら和食にもフレンチの流れを入れても面白いと思てるねん」

 そういう試みで成功している店とマイは見てるわけか。

「文月は夜しかやってへんやんか。うちも清次も営業時間がモロかぶりやから、こういう機会でもあらへんかったら行かれへんやん」

 たしかにそうやな。マイも清次さんも店の要や。一人ずつやったらまだしも、二人そろってとなると、そう簡単にはいかへんやろな。

「文月ね。この際だから一緒に行こうか?」

 ユッキー、そんな事を言ってもたら、

「やろ、やろ、どうせやったっら四人で行こうや」

 ほらそうなる。あのな、マイとマスツーやったら今日の稚児行列みたいなもんやらんとあかんやんか、

「まあね。でも慣れたんじゃない」
「コトリはあんまりやけど」

 そやけどこのメンバーで行くのは、

「マイだって関白園の女将として行く気はないでしょ」
「悪いけどもろバレやねん。つうか知り合いやねん」

 そういうことか。あかん、ユッキーがその気になってもた。仕方があらへん今日もマスツーにするか。

「旅の仲間は多い方が楽しいじゃない」

 ユッキーはマイを気に入ってるもんな。

「コトリだってそうでしょ」