ツーリング日和3(第31話)若狭焼コンクール

 ここがお台場公園やけど、駐車場は漁港の方か。そっちにバイクを回した時に、

「フェスティバルの実行委員の田中と申します」

 こんな声をかけられてん。話を聞くと若狭焼コンクールの審査員の依頼やった。そんなもんを行きずりの観光客がやってもエエんかと聞いたんやけど、

「それは逆です・・・」

 出店するのは地元の店ばかりやから、小浜の市民が審査すると妙なシコリが出てまうそうや。そやから小浜の市民だけやのうて、福井県民も審査員にせえへんねんて。なおかつ、

「一般の方の審査ですから、コンクールの結果の優劣が後に尾を引かないと言うのもありまして・・・」

 ああそういうことか。本気のコンクールやのうて、あくまでも宣伝のお祭りってことやな。若狭グジのPRがメインで、そのために形だけコンクールしとるぐらいやろ。これやったら気楽に審査員が出きそうや。

 コトリらが目を付けられたんは審査員の構成もあるようや。五人やねんけど、年齢性別のバランスがあって、若年層は他の審査員の都合で若い女性がエエみたいやねん。こういうのも気を遣うやろな。

「で、誰にするねん」
「ロケットに乗っておられる方に是非にと思いまして」

 こいつもバイク好きやな。そやけど、マイが審査員になってまうとガチやぞ。とはいえコトリもユッキーも肩書ばれたら大変や。ここは無難に遁辞を構えて、

「なあなあ、審査員になったら出された若狭焼は食べ放題なん」
「それは審査のために当然です」
「なんか審査員特典はないの?」
「それは・・・」

 なになに割引してくれて、とくに美味しいもんを紹介してくれるって。それやったら悪ない話や。要はバレずに無難に済んだらエエだけやん。そこから田中さんの案内で若狭お魚センターへ。

 さすがは地元の人間や、どの店も顔が利くわ。あははは、マイと清次さんの目が真剣やんか。食材選ぶとなったっら本業の血が騒いでまうのやろ。

「清次、これはどうや」
「それより、こちらの方が・・・」

 店の人があきれとるわ。まあ、誰が選んどるか知ったら腰抜かすやろけど。お目当ての鯖のへしこや小鯛のささ漬けをゲット。他にも干し物や珍味で面白そうなんをお土産に買ったとこで田中さんは仕事があるから言うておらんようになったんよ。


 コンクールまで時間があったから、会場に出てる屋台で食べ歩きをしようとなって、あれこれ食べとってん。

「マイは食べんへんのか」
「食べてるわい。そやけどコトリはんらみたいに食べれるかい。うちは審査員もせなあかんねんで」

 焼き鯖食べさしてくれる屋台はテーブルもあるとこやってんけど、隣のテーブルのおっさんに声かけられた。もてる女の宿命やと思たけど、

「そういうけど、おっさんじゃない。コトリにはちょうど良いかもしれないけど」

 一言多いで。

「審査員に選ばれたのですか」

 選ばれたんはマイやけど、

「ほれでしたら知っとられた方が良いと思う」

 若狭焼コンクールは十年前に始まったそうやねんけど、思うとった通り、若狭グジの宣伝のためのお祭りやったそうやねん。

「それが去年から様相が変わりまして・・・」
「話すのならあこからが良いと思う」

 お魚センターの向かいにはフィッシャーマンズ・ワーフがあるんやけど、そこが五年前に買収されたんやて。

「買収したのは中西建設ですが・・・」

 小浜ぐらいやったらありふれた話やけど、中西建設の社長は市会議員や。それも市会のドンみたいなもんで、市長かって中西社長の言いなりみたいな感じでエエみたいや。小浜市の有力者、実力者みたいな感じやろな。

「買収した後にリニューアルちゅうことで、今まであったレストランとの契約を打ち切りにして中西社長の三男が経営する海潮苑がオープンしたのです」

 そやけど海潮苑の評判はイマイチ、イマニ、イマサンぐらいやったらしいわ。ああいうとこのレストランはそうなりがちやが、

「去年のコンクールの時に・・・」

 審査員は五人やけど審査委員長は有名人を招待するそうやねん。MCやないけど、審査員の意見を上手いことまとめて、場を盛り上げて、なおかつ優劣の差が付かへんように誘導するぐらいの役目で良さそうや。

「その人選が問題視されて・・・」

 これまでは実行委員会が適当に選んどったらしいけど、公平性を高めるために人選のための第三者委員会を作れって話になったそうや、それにしても公平性言うても、ガチのコンクールやってるわけやないのにな。

「第三者と言うても・・・」

 なんか話が見えて来た。審査委員長の人選に文句が出たのは市会筋や。モロに言うたら中西社長や。第三者いうても中西社長の息のかかったんが選ばれて、

「呼ばれたのが豪田太」

 あいつか。いわゆるグルメ評論家やけど、とにかく毒舌で気に入らん店を酷評するので有名や。それが忖度がないってされて、東京の方で売れっ子になっとるわ。知名度だけやったら申し分はなさそうやけど、

「去年のコンクールで豪田の毒舌が出まして・・・」

 なんちゅう、わっかりやす。豪田は次々と毒舌でコンクールに出て来た店の若狭焼を酷評し、その代わりに海潮苑を手放しぐらい大絶賛しとる。当然のように海潮苑が優勝や。そのために審査委員長を選んだんやろ。

 後はお決まりや。コンクール優勝店であり、あの豪田が絶賛したと市の観光パンフレットにまで大々的に掲載し、観光バスが立ち寄って昼食する定番になり、それ以外にもあの豪田が褒めた海潮苑の若狭焼を食べようと客が押し寄せたそうや。

「客寄せの常套手段だけど、ちょっとやり過ぎね」

 結果として海潮苑もフィッシャーマンズ・ワーフも大繁盛になったぐらいや。ほいでもやり過ぎやと感じるのはユッキーの意見に賛成や。飲食店が競うのは味とサービスや。権威を借りる手段もありやけど、それこその付け焼刃、メッキにしかならん。

「あれが小浜の若狭焼の代表やと思われたら悔しいのです。どうか公平な審査をお願いします。失礼した、一市民の声ぐらいに思うとくんね」

 小浜で若狭焼いうたら、小浜の誇りみたいなとこはあると思う。若狭焼は小浜だけの郷土料理やないけど、若狭の誇りみたいなもんや。コンクールの権威で無理やり海潮苑が一番にされてるのに反感の声ぐらい出るやろ。

 それと地方政治にありがちやけど、中西社長は小浜市の利権を牛耳っとるでエエと思う。そのために市会議員やっとるからな。それぐらいは、どこでも多かれ少なかれあるんやけど、利権が土木だけやのうて若狭焼まで手を出したのに反感を越えて反発になっとるんやろな。

「マイ、どうするんや」
「そんなもん、審査に出て来た若狭焼ご馳走になるだけや」

 まあそうやねんけど、やっぱり遁辞かまえて逃げとったら良かったかな。

「それもありだと思うけど、美味しい若狭焼は大事よ」

 そこは譲りにくいとこや。

「審査員やるのはうちや、まかせといて」

 こいつが一番不安やねんけど。まあエエか。マイが立ち往生したらなんとかしたったらエエだけやしな。

「コトリ」
「そやな」