ツーリング日和3(第19話)思い出のバイク

 そこから今日の打ち合わせや。

「任せといておくれやす。うちと清次であんじょうやります」
「やり過ぎんようにな」

 アホ言うな。うちが来たからにはタダでは済ません。コトリはんが予約取ってくれてはるから幸楽園にマスツーや。懐かしゅうて涙が出て来るわ。こうやって一緒にツーリングする日が来るのをどれだけ夢見たか。コトリはんが先行してくれはった。

「お嬢はん、あれが前に聞かせてもうたバイクでっか?」
「そや、うちのロケットを石見銀山から仁摩に向かう道でぶち抜いたバイクや」

 見ても信じられへん気持ちはわかるで。どう見たってノーマルに近い原付やからな。そやけど見た目やない。それは人も同じや。清次にも乗せてやりたいわ。あの自転車みたいな軽さと、訳のわからんパワーが出てくるエンジンをな。

 軽さなんて乗ったもんやないと絶対わからん。とにかくうちでも持ち上げられるからな。その代わり直進安定性は冗談みたいにあらへんかった。

「そがいに乗りにくそうに見えまへんけど」

 そうや、コトリさんやユッキーさんが走らせたら、ごく普通に走っとるようにしか見えようがあらへん。そやけど、それがどんだけ難しいか。

「飛ばした方がラクなんでっしゃろか」
「冗談も休み休みにせえ、あのバイクで飛ばすなんて狂気の沙汰や」

 ロケットさえ鼻息で吹き飛ばしそうな加速力やねんで。そりゃ、ヒラヒラ曲がれそうな気はするけど、低速トルクがスッカスカのクセに、ちょっと回したらドッカン・エンジンや。あのスロットル・ワークやりながらコーナーに突っ込んだら死ぬで。

「低速でも高速でも難しいってことでっか」
「世界一、走らせにくいバイクちゃうか」

 清次は少し考えてから、

「なんでそんなバイクなんでっか」

 その辺は口を濁して教えてくれへんかったが、とにかくトンデモナイ代物や。ちょっとチューンしたレベルやあらへん。見た目は限りなくノーマルに近いけど、果たしてオリジナル部品がネジ一本でも残ってるかどうかも疑問や。

 だってやで、そうやなかったら、どうやったらあがいな軽量化が出来るんや。原付いうても、オリジナルは百キロぐらいあるんやで。軽量ホイールに変えたぐらいやったら、焼け石に水もエエとこや。

 それにあのエンジンパワー。うちもフルパワーがどんなもんかまで確認しようがあらへんかったが、とにかくなんぼでも回りそうやった。

「やっぱりボア・アップでっか」

 そんな小手先のもんとは到底思えん。だってやで、オリジナルのエンジンはカブに近いロング・ストロークやで。出力の出方も、回転数の上がり方も完全に異質や。うちが乗った感じやったら、エンジン換えとるはずや。

「そやけど、どう見ても単気筒エンジンですし、大きさも変わらん気がしまっけど」

 清次の言う通りやねん。エンジン換えてパワーアップしたら、当たり前やけどエンジンはデカくなる。そやけど、どう見てもそうやない。

「それにしても、そがいに軽くて馬力があるんでしたら、ホイール・スピンとかウイリーしそうなもんでっけど」

 とにかく難儀なスロットルに悪戦苦闘してる時に、そうなるんやないかとヒヤヒヤしたけど、そうなりそうな感じがなかったんよな。

「まさか原付にトラクション・コントロールが付いとるとか」

 清次がそう考えるのはわかるんやけど、トラクション・コントロールはホイール・スピンには有効やが、ウイリーには無力や。なんか仕掛けがありそうやけど、さっぱりわからんかった。

「それにしても大きなオイルクーラー付いてまんな」

 あのバイクを見分ける一番の特徴や。あのバイクのカスタムやってるやつの中にオイルクーラーを付けとるのはおる。そやけど、あんな大きなオイルクーラー付けてるのは見たことあらへん。あんだけデッカイのを付けとるのに、

『すぐ油温が上がるさかい気を付けといてな』

 こういわれたからな。これもバイクの何かの秘密やろけど理由はさっぱりわからん。一番わからんのが、

「それにしてもゆったり流しまんな」

 そうやねんよ。ツーリング中の基本はこれやねん。それこそ安全運転で、いっつもこんな感じの、のんびりツーリングやねん。そやけど本気出したら凄いで。津和野から匹見に走った時なんか、二車線の直線でも付いて行くのがやっとこさやった。

 コーナーなんか死ぬかと思たもんな。それでもコトリはんたちはまだセーブしとった気がするねん。何遍も振り返って、うちがちゃんと付いて来てるか確認しとったもの。

「コーナーはともかく、直線もでっか」
「あんなもん、その目で見んと誰も信じんと思うわ」

 そんなことを清次と話しとるうちに福井駅や。まずはバイクを停めて、電車に乗るんやないで、着替えるためや。さすがにライダー・スーツじゃまずいやろ。しっかしトイレで着替えなんか高校以来やな。

「お嬢はんはそんな事をしてはったんですか」
「制服で街をうろついたら、うるさい学校やってん」

 なんであんなお嬢さん学校に放り込まれてんやろ。校則、校則で往生したわ。学校の帰りにお茶するのも禁止ってなんやねん。中坊やあるまいに。映画見るんも制服着て親と一緒って小学生か。

 そやから学校済んだら、駅のコインロッカーに入れとった私服にトイレで着替えとったんや。みんなそうしとったで。さすがにミナミに出てもたら、制服でも着てへんかったら教師連中にまず見つからんからな。


 信じんやつも多いけど、うちは高三の時に試験場で免許取ってるねん。もちろん大型のMTや。あんな高校行っとって教習所なんか行けるもんか。四月生まれやったから十八歳になったらすぐに取りに行ったで。

 そんなんできたんは爺さんのお蔭や。親父もお袋も反対やってんけど。爺さんはうちがバイクに興味があると知ったら、親バカならぬ爺バカでトコトン肩入れしてくれた。その代わりって程やないけど、バイクの練習はずっと爺さんのロケットやった。

 うちもロケットが乗りたくてバイクが好きになったようなもんやから、大喜びやってん。それでも大変やったんは認める。それでも慣れれば慣れるもんや。これもロケットのお蔭やけど、試験場のバイクがえらい軽くて小さいと思たもんや。さすがに一発合格は無理やったけどな。

 そうそう、免許取ったんがばれて学校では大騒動になったんや。退学処分なんて話も出たぐらいやってん。あの時も爺さんが頑張ってくれた。実は学校の校則に穴があってんや。原付や普通自動二輪の免許の取得は禁止やったけど、大型禁止は校則になかってん。

 たぶんやけど女子高でいきなり大型免許を取る生徒なんか出てくると思てなかったみたいや。爺さんは、

『校則を守って免許を取って何が悪い』

 これで押し切ってまいよった。とにかく校則、校則で辞書みたいにあった学校や。よう箸の上げ下ろしまでいうけど、冗談みたいやけどそれも校則に書いてあったんよ。信じられるか。他にも便所の入り方とか、質問の手の挙げ方までや。

 そこまでガチガチに校則で締め上げてる学校やったから、校則にないことは学校が認めとるに決まっとると言い切りやったんよ。あれはあまりにも校則で規制しすぎた反動みたいなもんで他にも前例はあったからな。

 髪飾りの校則もそうやった。あれも何々を許すにしたら良いようなものを、具体例の列挙にしとったから、ティアラ付けて来よったやつがおってん。教師連中が騒いだけど、ティアラは校則にあらへんかったから結局お咎めなしや。

 下着戦争もあったそうや。色付き下着は禁止やってんけど、素直に白だけ許可にしときゃエエもんを、色指定にしたもんやから、校則にない色の下着を争って着て来たそうや。結果として、うちが入学した時には千六百万色以上の禁止色が校則にずらずら並んどったわ.

 うちの大型免許もすったもんだの末に、校則に無いから校則違反やないとされてお咎めなしや。今は校則になっとるやろ。とにかく変な学校やった。

「清次、なに見てるんや」
「コトリはんやユッキーはんはツーリング中やってのに、あんなベベをどこからと思いまして」

 井筒はんは福井の人やから家に取りに行ってんやろけど・・・でもそれぐらい、あの二人にとっては朝飯前や。たとえ着物でも驚かへんわ。

「あの二人を誰やと思てんのや」

 正体は知れんでもあのツーリング中には白羽根の追跡から助けてくれたし、さらにやで関白園を救うてくれた大恩人や。信用はどれだけしてもエエ人や。

「清次、遊びやないで」
「わかっとりま」