ツーリング日和9(第14話)ツーリング風景

 樫野崎のケマル・アタチュルクの騎馬像とお別れして駐車場に戻って出発だけど、コトリと肇さんが今日のツーリング・ルートの確認してるな。肇さんのメットにインカム無いものね。えっと、えっと、とりあえず目指すのは、

「和歌山市しかあらへんやん」

 それはわかってるけど、どれぐらいかな。

「ナビ上で四時間ぐらいやから、五時間ぐらいで着きたいところや。昼飯もあるからもうちょいかかるかもな」

 今が九時だから午後の二時か三時ぐらいか。やっぱり遠いよね。和歌山の地形はとにかく山が多くて、紀伊半島の海岸沿いに街が点在してるぐらいに思ってもらえれば良い。その海岸沿いの道を繋いでいるのが国道四十二号なんだ。

 もしこれを迂回するとなると一昨日のように紀伊山地を越えるルートになる。天川村経由は行者還林道の難所があるから十津川を使うルートがポピュラーかな。このルートも天辻峠を越える時代は難所なんてものじゃなかったみたいだけど、

「五条に出るだけや」

 そうなのよ。大阪に帰る人ならともかく、わたしたちは五条に出ても困るとこがあるもの。五条から和歌山市に行くのは近いとはとても言えないもの。そうなると国道四十二号を使って和歌山市を目指すことになるのだけど、

「昔はホンマに死に国道って呼ばれとった」

 とにかく和歌山市から南に行くにはこの道しかなかった。白浜に行くにも、那智大社に行くにも、勝浦に行くにもこの道だけ。対向二車線だし、市街地を経由しながらだから、とにかく渋滞しやすい。

「地形的に道を広げにくいし、バイパス作るのも大変そうやもんな」

 それでも阪和道とその延長が周参見まで伸びてくれてるから、随分マシになってくれてるらしい。ただ阪和道もまた渋滞の名所なんだよね。

「コトリらは関係あらへんけど」

 走れないものね。そうなると国道四十二号を和歌山市まで頑張るしかないか。それでも潮岬から遠いのよね。大阪から潮岬まで日帰りツーリングしてる人も多いけど、往復五百キロは高速使ってもウンザリしてるもの。

「ユッキー、なにブツブツ言うてんねん。こうなるのは覚悟の上で潮岬に来たんやろうが」

 まあそうなんだけど、どうにもウンザリ気分しか出てこない。とにかく走らないと帰れないから出発だ。文句は言ったけど国道四十二号は基本シーサイドロードなんだ。ただとにかく長い。二時間近くかかってようやく白浜を越えて田辺だ。田辺市内はバイパスになっていて嬉しいな。

「ここで下りるで」

 えっ、高野山とか龍神温泉って書いてあるけど、高野龍神スカイラインを目指すとか。

「下りたら信号を右や」

 今夜は龍神温泉とか。

「和歌山市に行くって言うたやろが」

 すぐに市街地は終わってカントリーロードに。これはこれで快適だ。川沿いの道から山道になり、

「ちょっと休憩」

 この辺が奇絶峡なのか。赤い欄干の橋を渡ると不動滝。この先に摩崖仏もあるそうだけど、今日は先を急ぐからパスだな。紅葉の季節ならさぞ綺麗なんだろうな。一休みしてまた走りだしたけど視界が開けて気持ちの良い道だ。あれ、こんなところに道の駅がある。備長炭記念館か、紀州と言えば備長炭だよね。そろそろお昼を・・・

「ここは軽食しかないそうやから、龍神の道の駅まで行くで」

 やっぱり龍神は通るんだ。山道を下って来たら、あは、こんな山の中にロータリー式の交差点があるなんて面白いな。さて三叉路だけど、

「左の和歌山の方や」

 ここからでも龍神温泉まで十九キロもあるのか。和歌山までも八十九キロとなってるけどね。国道四二五号ってなってるけど良い道だね。バイパスだろうけど、こんな整備された道が山の中にあるのに驚かされる。トンネルを三つ抜けたら道の駅だ、お昼ご飯だ。

 つぐみ食堂ってなってるけど、名物としてはあまごと、鮎と、熊野牛がメインみたいでお蕎麦もあってカレーもあるな。椎茸も名物みたいで、しいたけトロロうどん、しいたけの天ぷらそば、しいたけコロッケ、しいたけ丼まであるのよね。でも一番気になるのが、

「しいたけバーガーセット」

 しいたけバーガーはここしかないんじゃない。これも美味しいな。お腹を満たして出発。見えて来たのが椿山ダムのダム湖なのか。龍神ぐらいから快適、快適、これは文句なしの快走路だ。このまま和歌山で行ってしまえ。

「そうは行かん。有田まではこんな感じみたいやけど、そこからは・・・」

 酷道かと聞いたら普通の田舎の国道らしい。有田を抜けてしばらく走ると街に入り道路がバイパス風に。

「次の交差点を左や。海南市街に向かうで」

 ひゃぁ、これも良い道、良い道、バイパスも増えてるんだねぇ。ひたすら走って行ったら海南市街で国道四十二号と合流。三十分もしないうちに、フェリー乗り場は左って出てるじゃない。乗船券売り場で切符を買ってだけど、肇さんまで徳島に行くのかな。

「当たり前やろ。東京まで帰らんとあかんねんで」

 そういう事か。いくらアフリカツインでも名神東名、さらに首都高となると大変すぎるから東九フェリーで帰るのね。乗るフェリーの時刻は、ゲゲゲ、一六時二十五分じゃない。たしか徳島まで二時間だったはずだから、

「徳島港に十八時半や」

 フェリーだから仕方がないけど宿はどうするの。

「いつものとこや。あそこやったら融通が利くし」

 そんな事をしても・・・今回は良いのか。いや、やらないと信用を得られないのか。相手が相手だものね。そうなると夕食は、

「あそこのレストランは個室もあるさかい、そこにした。その方が肇さんもリラックス出来るやろ」

 フェリーの中で、肇さんに今日の宿は手配したと説き伏せた。渋ってたけどコトリの口に勝てるわけないよ。ホテルだけどフェリーターミナルから近いんだよね。だけど玄関に着くとやっぱり。

「月夜野社長、如月副社長、今回のご利用、誠にありがとうございます」
「おう、急で悪かったな。腹減ったから挨拶はそこそこにしてくれるか」

 支配人までぐらいと思ったらオーナーまで来てるじゃない。突然の宿泊だったから何かあるって思ったんだろうな。徳島ぐらいなら日帰り出張が多いから久しぶりなのもあるかもね。

「ああ、ミサキちゃん経由で部屋取ったからな」

 なるほどね。常務の直電で泊まるのが社長と副社長だからビビリ上がったんだろ。

「食事も聞いとるか」
「もちろんでございます」

 肇さんも何事が起こったんだって目をシロクロさせてるけど、これぐらい演出しておけば信じてくれるはず。部屋はわたしたちはスウィートだけど、

「悪いと思うたがシングルにしといた。あんまり気を使わせたないし」

 部屋で急いでシャワーをして化粧直し。ドレスもそろえさえといたから着替えてレストランに。肇さんもちゃんと着替えてくれてるな。とりあえずビールで、

『カンパ~イ』

 こんなところでご飯を食べるより市内の居酒屋にでも繰り出した方がおもしろそうだけど、さすがに串本からの移動はキツイよね。なんだかんだと半日がかりのツーリングだったもの。

「そんなに不味ないから、安心して食べてや」

 とりあえず食べる。