ツーリング日和13(第14話)都井岬

 日南海岸フェニックスロードは宮崎市からの前半が国道二二〇号で、日南市からの国道四四八号が後半としてるのが多い。どちらも魅力的だけど国道四四八号のほうがより魅力的としてるのが多いかな。

 ルートしてはスタートの宮崎市、中間地点の日南市は市街地走行になるけど、市街地を抜けると信号も殆どないのよね。後半の国道四四八号の方が気持ちワインディングが強いけど心地良いぐらい。

 シーサイドに面してるところが多いし、これは宮崎でしか見られないと思うけど、椰子の木並木がポンポン出てくる。他にも蘇鉄みたいな南洋を思い起こさせるのも見慣れるぐらいあるのよね。

「鹿児島にはあらへんかったで」
「南国宮崎の観光政策じゃないかしら」

 鹿児島もツーリングに行ってるのかよ。

「神戸からやったらフェリーで来れるやん」
「一晩で着くよ」

 フェニックスロードって七十キロぐらいあって、時間にしたら二時間ぐらいのはず。バイクでツーリングするならこういう道を走りたいよ。でも東京ではそうはいかない。とりあえず一時間ぐらいは市街地と格闘しないといけないもの。

 そりゃ、東京は住むには刺激的で楽しい街だけど、バイク乗りには辛いところだ。どこかの有名モトブロガーが言ってたよね。ツーリング動画を撮るのなら東京は好ましいところじゃないって。

 クルマでも混雑して、信号に頻繁に停まらせられる道は好きじゃない。バイクならなおさらだよ。発進停車だけでも消耗する感じがするもの。東京だけじゃないと思うけど、都市の市街地なんて連続で十分も走れるところもないのよね。

 もう一つ東京が不利なのは、とにもかくにも関東平野は平べったい。山まで行くのも一苦労なんだ。バイク乗りなら峠道のワインディングに挑戦したいけど、箱根にしろ、日光にしろお手軽とは言い難い。

 宮崎とかだったら、このフェニックスロードもそうだし、霧島もあるし、言うまでもないけど阿蘇だって近いじゃない。それと南国なのも大きい。東京からなら東北も行けるけど冬は論外なのよね。北のツーリングの聖地の北海道なんて走れる季節が本当に短いもの。それに比べて九州は良いよね。

 もちろんその代わりはいくらでもある。バイクが好きでも、バイクに乗って暮らしている訳じゃない。その辺の差引勘定はあれこれあるけど、せめて関西に本拠地を置いても良さそうな気がするな。

「あれが幸島やで」
「サルがイモを洗って食べるところよ」

 幸島のサルは聞いたことがあるけど、こんなところにあったんだ。

「恋ヶ浦サーフポイントってネーミングが乙やな」
「宮崎はサーフィンも盛んそうね」

 恋ヶ浦からは都井岬に向かっての登りだな。ここから入り口か。森の中を走って行くと料金所が見えてきた。なになに、クルマが四百円でバイクが百円になってる。にしても安いな。似たようなものが東京にあったら二倍どころか三倍だって不思議無いよ。

 昼休憩が長引いたから十三時に海の駅を出発になってた。だってコトリさんたちが、これでもかって勢いでお土産を買い漁るんだもの。それでもまだ十四時になってないぐらいだよね。都井岬は志布志湾の入り口にあって風光明媚なところでもあるけど、

「都井岬と言えばお馬さんやろ」
「尻間崎とか隠岐とは違って在来種なのが値打ちよ」

 おいおい神戸から隠岐はまだわかるけど、尻間崎って青森の下北半島じゃないの。あんなところまで小型バイクでツーリングしたって言うのかよ。それはともかく、都井岬の馬は御崎馬として天然記念物に指定されている。

 御崎馬の始まりは高鍋藩が開いた藩営牧場で御崎牧と呼ばれたそう。牧場って聞けば柵で囲って厩舎があってと思いそうなものだけど、自然放牧って言えば格好が良いけど、

「ほったらかしにしとったみたいや」

 これは今もそうだから野生馬って呼ばれてるで良いと思う。料金所を抜けると視界が段々と開けてきて、

「いるよ、いるよ」
「やっと実物見れたな」

 馬が道路を歩いてるじゃない。それとあれは、

「そんなもんウンコに決まってるやんか」
「牛さんがいないだけマシよ」

 隠岐はすごかったみたいで、

「避けようのないウンコロードだった」
「路面の方が少ないとこもあったもんな」

 パカラパカでトイレ休憩。ここは交流館ともなってるけど、お土産物屋があったり、スナックコーナーもあったりするところだ。そこから都井岬灯台に。ここは九州で唯一登れる灯台になっていて、

「さすがに灯台からの眺めはエエな」
「志布志湾が一望だよね」

 次に行ったのが御崎神社。これも岬の端の方にあるのだけど、なんと断崖絶壁の中ほどにあるのよね。

「主祭神は上津綿津見神だね」
「なるほどやな」

 帰りに小松ヶ丘の駐車場に寄って、

「ここは夕日のインスタスポットらしいで」
「そこまで待てないけどね」

 岬の上だから起伏も大きいけど、とにかく広々とした草原が気持ちが良いのと、高台にあるから絶景のオンパレードみたいなところが都井岬かな。フェニックスロードの終点が都井岬なのも魅力として良いと思う。これで今回の取材旅行はとりあえず終了。

「事故しなや」
「もう一泊すれば良いのに」

 ここからは帰りになるのだけど、もう一泊したいよ。でもね、フェリーが二十三時五十五分発だから物理的には間に合うって言うのよ。まだ十六時になっていないから七時間ぐらいはあるけど、いくら高速道路が主体と言っても新門司まで四百キロぐらいあるんだぞ。

「ブラックやなぁ」
「経費節約だろうけど」

 だってだって、もう一泊したら阿蘇だって寄れるじゃない。清水先輩も交渉してくれたみたいだけど、

『予定通り帰ってこい』

 殺す気か。コトリさんたちは志布志から一七時発のフェリーだから羨ましい。一緒に乗りたいぐらいだけど、着くのは大阪南港だものね。そこから東京に帰るのも地獄だよ。とにかく東京から九州は遠いよねぇ。

 そのせいかもしれないけどフェニックスロードでも関東ナンバーのクルマもバイクも見なかった。これもわかる気がする。フェリーで遠征して来たら阿蘇を目指すもの。フェニックスロードなんて二回目か三回目の遠征で候補にやっとあがるぐらいじゃないかな。

「関西から北海道も遠いで」
「東京からなら便利なんじゃない」

 そんなことはない。東京でも北海道ツーリングは夢だけど、乗り場がガルパンで有名な大洗なんだよね。大洗って茨城の水戸に近い港なんだもの。

「神戸からでも変わらんで。小樽に行くんやったら舞鶴やし、苫小牧に行きたいやんったら敦賀やからな」

 たしかに遠そうだ。だけどね、苫小牧だけじゃなく小樽にも行ってくれるのは羨ましいかな。

「一周するんやったらどこでも一緒や」
「北海道はともかく東北は手近なんじゃない」

 なわけないでしょうが。まずだけど東京から東北に行くフェリーがない。だから東北道を北上するしかない。たとえばだけど仙台までだって四百キロぐらいあるのよ。これが青森になると七百キロだ。

 いくら大型バイクでも気軽に出かけられる距離とは言えない。それでも、それでもだよ、大型や中型なら高速が走れるから可能だけど、小型で下道ツーリングなんてしようものなら、ただの忍耐ツーリングになっちゃうよ。

「東京から見たらそうなるんか」
「ツーリングだけを考えたら神戸の方が便利かもね」

 絶対便利だ。九州だって新門司、別府、宮崎、志布志にフェリーで行けるし、四国も高松でも、小豆島でも愛媛だって行ける。それに東北だって、北海道だって行けるじゃない。

「そやな」
「行ったよね」

 行ったんかい。聞きながら呆れたけど、飛騨の高山も、信州のビーナスラインも走ったと言うから腰を抜かしそうになった。まさか渋峠も、

「志賀草津道路やろ。あそこから野沢温泉まわってついでに佐渡島も回って来たで」
「国道最高地点で愛を叫んだわよ」

 言っとくけど全部その小型バイクで走ってるんだよ。

「そうや日本の端っこも制覇したで」
「本州と本土の四隅だけどね」

 東京からなら余程の根性が無いと無理だ。

「ほんじゃな。気をつけてな」
「ボンボヤージュ」

 志布志までマスツーして、コトリさんたちはフェリーターミナルに、双葉たちは都城志布志道路に。地獄の帰り道が待ってるけど収穫の多い取材旅行になったはず。もっとも生きて帰れればだけど。