ツーリング日和13(第11話)フェニックスロード

 宮崎で随一のツーリングコースとされているのが日南フェニックスロードなんだ。宮崎市から都井岬を結ぶルートで、地元の人は日南海岸ロードパークと呼ぶ人も多いそう。まずは県道三七七号を青島から南下していく。この道は旧道としてよくて、利便性を求めるなら国道二二〇号を使うのだけど今日はツーリングだから県道でまず海岸線を走って行く。

「トラックが国道二二〇号に流れるはずやからちょうどエエはずや」

 コトリさんは高千穂からずっと先導してくれてるけど、本当に道を良く知っていると思うのよね。だって宮崎県を初めてツーリングするはずなのにまず迷わないし、間違わない。

「そんなことないわよ。どれだけ間違ったり、迷ったりしたことか」
「文句があるんやったらユッキーが先導せい」

 あははは、コトリさんがちょっとでも迷う素振りを見せたらユッキーさんはお約束のようにツッコミが入るのよね。それだけ仲が良いのだろうけど、双葉が驚かされるのはコトリさんもユッキーさんもナビを載せていないこと。

 昨日も一ッ葉有料道路を走ったけど、あれって北線と南線の接続がちょっと煩雑なんだよね。でも殆ど迷うことなく走り抜けちゃったもの。

「そういうけど、愛宕山の登り口は迷子になりかけてたじゃない」

 あんなところ初見で迷わずに行く方が難しいよ。クルマではナビどころか自動運転もポピュラーになってる。でもバイクに自動運転なんて無理。勝手に曲がられればそれこそ転倒する。

「つうかマニュアルミッションの自動運転なんか意味あらへんやろ」

 バイクだってオートマはあるけど、未だにバイク好きはマニュアルにこだわるものね。でもツーリングならナビを載せてる人が圧倒的に多いかな。双葉だって清水先輩だってツーリングなら載せていく。

「ナビ使うやつを否定する気は毛頭あらへんけど、ナビ使うても迷う時は迷うやんか。それとツーリングで迷うのも楽しみの一つと思わへんか」
「コトリは迷い過ぎよ」
「うるさいわ」

 言いたい事はわかるのよね。ツーリングの醍醐味の一つにまだ見知らぬ道、見知らぬ土地を走ると言うのはあるもの。地図でいくら確認していても、どんな道なのか、どんな風景に出会えるのかは走ってみないとわからないワクワク感と言えば良いのかな。

「そやろ。曲がり角を一つ見つけただけでも嬉しいもんや」

 地図上では国道から県道に入るのはわかっていても、その入り口が実際にはどうなっているかはわからないのよね。この辺にあるはずだと身構えながら走って、道路案内を見つけて『これだ』って思って曲がるのだもの。

「店探したりもあるわな」

 あれはナビがあっても難しい時がある。店ってね、見つけないといけないのだけど、どんな店かは事前にネットで画像を見ていてもピンと来ない時があるもの。

「写真映りもあるし、ネット情報かってリアルタイムで更新してるわけやないからな」

 青島から鄙びた市街地を抜け、やがて峠道に。これを登りきると視界が広がる堀切峠になる。ここからは完全なシーサードコースになり荒磯に波が打ち寄せるツーリングだ。

「蘇鉄がいかにも南国気分や」

 そう思う。この辺の海岸も青島と同様に鬼の洗濯板状態のところもあって、見晴らしも良くて最高。途中で記念写真を撮りながら爽快に走り抜けていくのが気持ち良いよね。国道二二〇号に合流する頃にはまた街中を走る感じになるけど、

「ここもイイよ」
「さすがはフェニックスロードやな」

 またまたシーサイドのそれも直線ロード。

「コトリ、次は」
「鵜戸神宮は外せんわ」

 四十分ほどで、

「次の信号を左に曲がるで」

 しばらく走ると、

「あの鳥居潜るから右に入るで」
「らじゃ」

 うわぁ、こりゃ細いな。一車線しかないじゃない。これって信号を曲がった時に見えてた岬を回り込んでる道だよね。この辺の海岸線も、

「鬼さんも洗い物が多いのね」
「鬼丸印のクリーニングやっとってんやろうか」

 赤い鳥居が見えて来たけど、

「右側にある駐車場に停めさせてもらお」

 鳥居の先は門前町かな。歩いていくと朱色の神門があって、次が楼門とは豪勢だな。こっちの門は稲荷社で直進で本宮って書いてある。さらに千鳥橋、圭橋と渡って石段を下ったのだけどこれは洞窟だよね。

「ここやな」
「これはなかなか」

 洞窟というか巨大な岩屋の下に瀟洒な神社が建ってるよ。それにしてもエラいところにあるな。

「派手に見えるのは権現作りだからね」
「あの頃の流行りやもんな」

 久能山東照宮の様式だって。たぶん日光東照宮に近いものだと思う。ところで神社ではなくて神宮なのは、

「ああそれか。神社の分類の一つで、天皇さんとかその直系の先祖が祭神の神社を神宮とするんや」

 なるほど明治天皇が祭神だから明治神宮か。ちょっと待ってよ、青島神社だってニニギノミコトの次の代の山幸彦の神社じゃない。

「そうやねんけど、祭神がそうでも例外はあるねん。まあ、戦前の思惑があれこれあったんやろけど」

 そう言えば高千穂神社も神宮じゃなかったし、社格は村社って言って最低ランクだったよね。

「青島神社も立派やったけど村社やねん。そやけど鵜戸神宮は最高格の官幣大社や」

 それって、

「ホンマの理由は知らんけど、今の皇室的には先祖のホンマの神社と認めてるか認めてへんかの差やろな」

 神学論争でもあったのかな。

「そんなもんやろ」

 鵜戸神宮の祭神はウガヤフキアエズノミコト。なんちゅう寿限無としか思えないけど、山幸彦と豊玉姫の息子でニニギノミトから数えて三代目になる神様。ちなみにウガヤフキアエズの息子が神武になる。

 山幸彦の奥さんの豊玉姫は、山幸彦が連れていかれた竜宮の綿津見大神の娘になり、この岩屋を産屋としてウガヤフキアエズを産んでたとなっている。しっかしまあ、えらいところで産んでるものだ。

「ここのとこはおもろいねんけど、長くなるから昼飯の時でも話すわ」

 鵜戸神社から日南を抜けたぐらいのところで、

「海の駅で昼飯や」