ツーリング日和13(第12話)海の駅めいつ

 まだ十一時過ぎぐらいだけど早めのお昼にするつもりかな。朝も早いからそれもありだとは思うけど、道の駅ならぬ海の駅とはね。昨日も海の駅だったから、そういうところが好きなのかな。

 どうせなら地元の名店で名物料理と言いたいけど、そっちはそっちで予算の問題もあるから助かると言えば助かるぐらいは言えるかも。この辺はお土産物を購入するのもセットにしたいのもありそう。

 でも、えっ、並んでるじゃない。今日は日曜日だからかもしれないけど、まだ十一時だよ。それなのにあの広そうな店舗が満員だなんてどうなってるの。待つこと二十分でなんとか座れたけど、

「ここの目当ては」
「日南一本釣りカツオ炙り重しかない」

 どうもここの名物らしくて、コトリさんたちもそれを目当てにわざわざ立ち寄ったで良いみたい。オーダーしてからもさらに二十分ぐらいは待たされたものね。これだけ人気があるなら期待できそう。

 どうもカツオ尽くしになってるみたいで、味噌汁はカツオのあら汁だ。甘辛い感じで濃いめの味付けかな。上の皿はカツオのフライなのか。初めて食べたよ。フライだけどレア、それもべりーレアで美味しい。

 こっちはカツオの荒煮でこっちは茶碗蒸しだ。これもなかなかだ。真ん中のお造りは左が玉ねぎのドレッシングに漬けたカルパッチョ風で、右が醤油漬けのようだ。

「ここのはね、炙って食べるのが美味しいの」
「片面をさっと炙る感じがエエらしいで」

 だから炙りで、そのために卓上七輪が置いてあるのか。どれどれ・・・これは美味しい、炙ったことで旨味が増してる気がする。

「注意やがお刺身残しとくんやで」
「最後のお楽しみがあるからな」

 なんだろ。

「ご飯も残しときな」

 ご飯もお重に刻み海苔と錦糸卵と白胡麻がかかってるけど適当に残しておいたら、

「じゃじゃ~ん」
「お茶漬けだ」

 運ばれてきたのはお茶碗と急須に入ったダシ、それに刻みネギにワサビ。お重からお茶碗にご飯を移し、カツオに刻みネギと残していたお刺身にワサビを載せて急須からダシを注いで完成。ダシがよく利いてて〆に最高だ。デザートにマンゴープリンまで付いてるのが嬉しい。

 日南は近海カツオの一本釣りなら日本一なんだって。だからカツオの質は折り紙付きとしても良いかもしれない。そんなカツオをここまで並べて千五百円なら人気が出ない方がおかしいよ。

「東京だったら二倍ぐらいしてもおかしくない」

 二倍しても味は劣りそう。これは日南に来なきゃ食べられない料理だ。これだけでも十二分に満足なんだけど、コトリさんたちはまだ頼んでたよな。

「魚うどんだよ」

 もともとは第二次大戦中に小麦粉が乏しかったから代用食として作られたものだとか。トビウオのすり身とかに卵を加えて混ぜ合わせ、さらに水溶き片栗粉、小麦粉、塩などを入れすり身を作り、

「トコロテンみたいに押し出して麺みたいにしたもんやそうや」

 一口頂いたのだけど、名前と見た目はうどんだけど、これはうどんじゃないね。

「そやな、カマボコとかチクワに近い気がする」

 そんな感じだ。

「そやけど、これを日南で食べたと言うのが値打ちや」
「そうだよ、そういうのがツーリング飯じゃない」

 ツーリングじゃなくても旅行先で楽しむ食事だよね。

「そういうこっちゃ」

 これは良いことを聞いた気がする。ツーリングコースの案内動画は定番の仕事だけど、そこには見どころの説明もあるし、立ち寄った先での食事の紹介もある。でも今まではわりと適当だったのよね。

 どうしたって定番コースの紹介になるから、行きなれた店で食べる事が多かったもの。それだって悪くないけど、これは仕事でやってるの。ツーリングの最大の楽しみはバイクを走らせることだけど、どこで休憩して、そこで何を食べたり飲んだりするかも大きな楽しみだ。

 そうだよ、ツーリング先でわざわざ美味しいものを探すのも普通にやってるじゃない。もっと言えば、その店に食べに行くのがツーリングの目的になってたりも普通にあるじゃない。これは食事だけじゃない、お土産として買って帰ったりもよ。

 そういう情報の提供が今まで弱かった気がする。これは真剣に考えなきゃならない問題だ。そうだね、ポイントはクルマのドライブとバイクのツーリングの差だ。たとえば服装でもバイク乗りは制限がかかってしまう。

 服装と言うかファッションの問題はとくにバイク女子にとっては大きいのよ。そりゃ、オシャレな店に行きたいのはあるけど、バイク乗りの服装はどうしたって武骨なのよね。そんな服装でもマッチする店の情報を求められてる気がする。

 お土産だってそうだ。とにかくバイクは荷物が乗らないのが宿命。バイク乗りでも持って帰れる発想が求められるのよ。そういう点でコトリさんたちはユニークというか割り切ってる。ゴッソリ買うけど宅配で送ってるもの。そういう情報も加味したらおもしろいじゃない。

 あとは値段だ。バイク乗りは懐が寂しいのが多い。懐が寂しいからクルマじゃなくてバイクに乗ってるまでは言わないけど、リッチな旅行とは言っても、リッチなツーリングとはあんまり言わないのよね。

 だからリーズナブル、いや掘り出し物の情報も欲しいはず。だけどね安いはリスクもあるのよね。どうしたって安かろう悪かろうが混じってくる。とくにバイク女子は悪かろうにはかなり敏感なところはある。

 とくに宿だ。怪しげな小汚い宿は安全の面でも避けたいよ。いくら懐が寂しいたって、泊まれたら満足とは言い切れない。安いなら安いなりにどこか満足するものが欲しいもの。これは男だってそれなりにあるはず。

「安い宿には理由があるねん。まず最大のメリットは安いこっちゃ。その代わりに目を瞑らなアカン部分はある。どれだけ目を瞑れるかの個人差は大きいんよ。間違っても一流旅館や、一流ホテルの設備やサービスを求めたら後悔しか残らん」

 だよね。コトリさんに言わせれば安い宿ほど客を選ぶとしてた。どうしたって設備は古いものが多いし、小綺麗な清潔感では見劣りする。そこの点で気に入らない客はお呼びじゃないものね。

「言い方悪いかもしれんが、安い宿は個性的やねん。クセが強いとしてもエエ。それに合わん客は行かん方がエエ。その代わりに嵌った時のコスパは最高や」

 でも合うか合わないかは、それこそ泊ってみないとわからない。だからこそ、情報提供をする意味があるはず。それをどうやってするかは、こっちの仕事だ。これで食べてるんだからね。

「コトリ、チキン南蛮は食べたけど炭火焼きも食べたかったね」
「炭火焼なら食えるやないか。それより菜豆腐とか冷や汁を食いたかったわ」
「延岡辛麺とか宮崎ラーメン、そうだそうだ釜揚げうどんも食べ損ねた」
「チーズ饅頭と青島ういろうはお土産にしたけどね」

 あのぉ、宮崎牛は、

「高いわ」
「そうよそうよ。ライダー飯には高すぎる」

 かもね。宮崎牛は美味しいだろうけど、さすがに値段比例の部分が大きすぎる。

「お土産には買ったけどね」
「シノブちゃんもミサキちゃんも肉は好きだもの」

 買ってるのかよ。