ツーリング日和4(第21話)ツーリングは続く

 夜はこれからどうするかで悩みまくったユリだけど、疲れたんだね。途中から爆睡してた。この宿の朝食も素朴だけど美味しかったし、朝風呂も気持ちよかった。今日はどうするかだけど、

「そんなもんツーリングしかあらへんやん」
「今日は西に走るよ」

 やっぱりか。でもユリにはバイクはないし、

「あるで、トラックで運んでもうてた」

 いつの間に。でもお母ちゃんもいるものね。

「レンタルで借りてきてある」

 まさか乗るとか、

「久しぶりでワクワクする」

 えっと、その格好はなに。

「コトリさんは凄いね。こんなものを誂えてくれるなんて。若い時を思い出すよ」

 レーシング・スーツじゃない。

「こうやってカールとツーリングやってたのよ」

 そう言えば、ツーリングで集団レイプされる話があったけど、モトネタの経験はこれか。

「ああそれ、集団レイプはされなかったけど、カール一人で五人前ぐらいあるからね。カールもオモチャが・・・」

 言うな。こんなのでも実の両親だ。生々しい経験談なんて聞きたくない。

「でも読んでるじゃない」

 うるさいわ。とんでもない商売してるよ。でも、ここから神戸まで帰る気なの、

「レンタルだから無理よ。新幹線で帰るわ」

 神戸に帰るのは良いけどウィーニスの脅威は、

「名古屋のセントレアから帰国だよ」
「あれでも摂政やからノンビリしとられへんやろ。そもそも大使館もあらへんから居残りは無理や。居残っても日本語なんか話せるかい」

 国と言ってもそんな規模か。そう言えば一つ疑問が。高山の時にウィーニスが懇親会に出ている間にお母ちゃんを助け出してくれたのだけど、ユッキーさんの動きは良いとして、コトリさんがコウさんとセッションしたり、ウィーニスに喧嘩売って大立ち回りする必要あったのかな。

「最大の理由はあの格好してコウとセッションしたかったからや」

 おいおい。それにしてもの衣装だったけど、

「やっぱり国際親善やから、着物が正装になる。プロトコールはうるさいんよ」

 そんな問題か。

「それとアトラクションも必要やろ。日本のイメージとしてサムライもあるやんか。そやからチャンバラを見せてあげたんや」

 無理やりの言いわけだろ。

「楽しんでくれたはずやで。着物の女が鉄扇一つで大の男をバッタバッタは絵になると思わへんか」
「そうよそうよ」

 どこがだ、

「マジレスすると、あそこまで行ったから伯爵様の顔を拝みたかっただけや。コソコソ連れ出すだけやったらツマランやん」

 こいつらも頭のネジが飛んどるわ。どうにもこの二人は妙すぎる。どう見たって、ツーリングのついでに遊んでいる様にしか見えないんだもの。こっちは生きるか死ぬかなのにだよ。

「じゃあ、出発」

 富山に向かうかと思っていたら高岡だった。新高岡の駅までお母ちゃんと四人でツーリングして駅でお別れ。

「久しぶりで面白かった。でも、男がいないと夜が寂しいね」

 娘に面と向かって言うな。そこから西に向かったのだけど、

「金沢は行きますよね」
「パスや」
「能登半島は」
「パスや」
「福井の永平寺とかは」
「パスや」

 ここまで来てるのに!

「気持ちはわかるけど、コトリもユッキーも休みは明日までやねん」
「それと、その辺はユリには悪いけど行った事あるからね。見たかったらまたおいで」

 ということでひたすら西に向かう走るだけのツーリング。高速使えたら速いのだけど、とにかく下道ツーリング。これはこれで楽しいけど、ひたすら長いわ。今日はとにかく急ぐみたいでお昼もファミレスだったものね。

「ボヤくな、ボヤくな。ツーリングにはファミレスが良く似合うと思わへんか」
「そうよ。シートはふかふかだし、ゆったりしてるからリラックス出来るじゃない」

 きっちり一時間ごとに休憩を取って、下道を西へ、西へ、

「どうして中型にしないのですか」
「中型は高くつく」
「取り回しもシンドイじゃない」

 ツーリング中も思ったのだけど、この二人は間違いなくお金持ち。じゃなきゃ、高山で衣装や楽器を調達したり、ワゴン車のタクシーを借り切ったり出来ないもの。ユリのバイクをトラックで運んだのもそう。

 でもどこか慎ましいところがある。宿だってドヒャっと豪華なところは選んでないもの。昨夜だって風情はあったけど民宿だよ。バイクもそうで、ムチャクチャ改造してるのは間違いないけど、分類は小型だもの。

 それと正体は明かしてくれない。なんかお母ちゃんは勘付いたみたいだけど、歳の頃ならどこかのOL。でも、それじゃ、これだけの事が出来るはずが無い。

「買いかぶりや」
「そうよ、旅行代は北白川先生に清算してもらうよ」

 歳の頃と言えば、見た目はキャピキャピだけど、言うことに人生の厚みを感じることがある。それもほんじゃそこらじゃなくて、とてつもない厚みをね。とにかく何が起こっても動揺しない。同様どころか、楽しみというか遊びに結び付けているとしか思えないのよね。

 だってだよ、相手は小さいとは言え、国の摂政。日本なら総理大臣みたいなウィーニス伯爵を相手にやりたい放題じゃない。あのドイツ語だってどこで覚えたんだろう。

「グローバルな時代やからドイツ語かて必要やろ」
「そういう商売をしてるだけ」

 貿易関係かな。七時間近くかかって、

「小浜や」
「若狭焼おもしろかったね」

 さすがにユリもヘバってきた。それにしてもこの連中はタフだな。

「まさか、このまま神戸に帰るとか」
「泊まりって言うたやろ」

 コトリさんによると小浜から一時間ぐらいだそう。

「ここから山越えになるけどファイトや」
「もう少しじゃない」

 お二人によるとロング・ツーリングの最終日は余裕を持って終わらせたいとのこと。これはユリにもわかる。夜帰りなんてやると、さすがに翌日に応えるものね。だから今日は出来るだけ神戸に近づいて宿を取りたいぐらいだろ。

「ユリの言う通り、小型でロング・ツーリングは無理があるねん。高速使われへんから、距離が稼げん」
「だけどね、ツーリングの本道は下道だと思ってる。不便なところをどう工夫するかを考えるのも楽しみのうち」

 長距離旅行をしたいだけなら、飛行機も電車もあるし、長距離バスもある。それを使っての旅行も楽しいけど、ツーリングは旅行でもあるけど、ツーリングの移動は飛行機や電車、バスとは違うとしてた。

 ツーリングは移動すること自体が楽しみだって。自分でバイクを操り、初めて見る道にドキドキし、見えてくる風景を堪能するぐらいかな。

「そこで風を感じ、匂いを感じ、温度を感じるのがツーリングの醍醐味だと思ってるよ。もちろんラクなことばかりじゃない。長時間のライディングは肩も凝るし、腰も痛くなるし、お尻も痛くなる」

 良いところ、悪いところを差し引きして楽しいと感じられる人がやるのがツーリングだって。

「今どきはシンドイ部分を抑えるのに熱心や。それが悪いとは言わん。そやけど、ツーリングを楽しめる人間は、楽しい部分が苦しい部分を帳消しに出来るタイプと言えると思うで」

 ユリも好きだ。バイクは最高!