ツーリング日和13(第23話)次の取材

 東京まで清水先輩のおんぼろワゴン車の旅を耐え、

「寝ていただろうが」

 鈴鹿の杉田さんの取材記事をまとめたら次の仕事だ。こういう仕事だって骨身にしみているけど楽じゃないね。記事を仕上げるまでの手間と時間はかなり差がある。定期的に記事をあげないといけないから、言ったら悪いが雑にまとめたものもある。

 一方で、あれこれ手間とヒマと時間をかけて仕上げた記事もある。そういう記事は出来上がった瞬間には達成感が半端ないのだけど、記事を上げた瞬間に次の仕事になるのが宿命みたいなお仕事。

 好きなバイクを追っかける仕事だから、他人からはラクそうとか、趣味と実益の一致なんて言われたりするけど、いくら好きな趣味でも仕事になるとラクじゃないと言うか、シンドイと感じる事が多いんだよね。

「趣味ってな、本業の苦しさの裏返しにあってこそだと思うよ」

 同意。楽しいはずの趣味が、仕事となると灰色に見える事が多いもの。記事もいくつかのシリーズ物が基本構成になっている。宮崎でやったツーリングもそうだし、鈴鹿のレース取材もそう。

 だけどシリーズ物になると煮詰まるのが宿命。いくら日本は広いとはいえツーリングコースだって限りがある。この辺の限りがあるかないかは異論もあるけど、紹介できるコースとなると確実に限りがある。

 名ツーリングコースは走れば良くわかるのだけど、そう言われるだけの理由はあると思う。コースの面白さ、風景、目的地の価値、さらに食事やお土産がバランスよく整ってるものね。

 そういうコースはドライブコースとも重複するけど、クルマよりバイクが適しているところだってある。だけどあまりバイクに偏ると、

「なにもないのが欠点だな」

 自販機一つないところもあるものね。観光地って人が集まらないと整備も充実もしない面があり、集まり過ぎると、

「バイク乗りは避ける傾向があるよな」

 なんだよね。クルマが多くなると走りたくなくなる。クルマの後ろばっかり走らせられる道は嬉しくないもの。

「駐車場も案外ネックだ」

 バイクだって駐禁のところに停めれば切符を切られる。この辺はクルマよりお目こぼしが多いけど、大型に乗っているとさすがに気を遣う。だけどね、クルマに較べると駐輪場は桁違いに少ないのよね。


 編集長は宮崎ツーリングのヒットに気を良くしたのか、西日本取材に前向きになってくれてる。これまで後ろ向きだった理由は取材費が高くなること。でもね、東京や関東のライダーも西日本遠征が増えている兆候はあるのよね。

 とくに都内のライダーはそうだ。東京ほどツーリングに向いていないところはないんじゃないかと思うぐらい。それだったら、遠征してでも爽快なツーリングをやりたいぐらいかな。東京からの遠征となると北海道が多かったのだけど、フェリーは大洗からだし、そもそも北海道のツーリングシーズンは短いのよね。だから西日本が注目され出したぐらいと見てる。

「東北や信州、上信越も人気があるが、フェリーを使う特別感が人気の秘密だと思う」

 フェリーは安くないけど、割安感はツーリングに確実にあると思う。東京から関西にバイクで行くとなると高速利用があるけど、

「通行料、ガソリン代、さらに片道五百キロの負担を考えるとな」

 東京から大阪は高速で走り通せるけど、半日は余裕でかかる、若くてもそれだけの距離と時間は負担が甘くない。

「高速で事故ったら死ぬものな」

 それと、それだけの労力を費やしても本番は大阪に着いてからだ。いや、大阪からだってまだまだ距離と時間が必要だ。高速代とガソリン代をフェリーに置き換えたら下船してから新鮮な気持ちでツーリングに出かけられるもの。

「往復あるからな」

 もちろん良い事づくめではない。時間がかかるのもあるけど、フェリーの運航時間はトラックに焦点を合わせすぎている部分がある。それよりなにより便数も航路も限定される。東京から西日本に向かうフェリーは二つしかないものね。

「関西がちょっと羨ましかった」

 さすがは瀬戸内海と思ったけど、神戸や大阪から九州や四国にあれこれ航路があるのよね。ということで、今回の取材は四国だ。というか、東京からのフェリーが寄港するのが徳島と新門司しかないのよね。

「徳島から四国一周を考えてる」

 これは欲張ったな。徳島から高知、さらに愛媛になるけど、愛媛まで行けばしまなき海道を走るのもありじゃない。そこから新門司に行ってフェリーで帰るのは魅力的だけど、

「そこのところだけどしまなみ海道はカットも考えている」

 どうしてって思ったけど、しまなみ海道はサイクリストのメッカとまで呼ばれてるけど、バイクなら本四架橋を走り抜けて終わってしまうらしい。島巡りがしたいのならICで各駅停車をすれば良いようなものだけど、

「カネと時間がかかるのだよ」

 清水先輩が言うにはしまなみ海道は自転車か原付バイクで回るのがベターだって。じゃあ、愛媛から徳島を目指す四国一周ルート?

「松山に寄ってみたい」

 それって杉田さん。

「ここからたどるしかないからな」

 噂のバイクか。あのバイクのことも先輩とあれこれ推測はしているけど、

「杉田さんのセレブの交友関係が気になる」

 鈴鹿で出て来たのが大阪の超有名料亭の女将と、ヨーロッパの公国の現役侯爵。錚々たるセレブだけど、杉田さんがどうしてそういうセレブと交友を持てたかになる。そりゃ、ツーリング先の偶然もあるかもしれないけど、

「オレの推測だが、杉田さんが中心になってのバイク仲間じゃなく、杉田さんも参加しているバイク仲間じゃないかと考えている」

 これは先輩の推理の一つの結論だ。この推理の先にあるのが、噂のバイクの二人組がいて、杉田さんが属しているセレブツーリング仲間の中心にいるのじゃないかって。とは言うものの全部推理で根拠なし。

「会えばなにかわかるかもしれない」

 だから松山までは予定を立てるけど、そこから先は流れに任せるプランにしたいのか。松山で杉田さんに会ったからって新たな情報を得られるかどうかはわからないけど、会ってみないと情報が増える余地もないものね。こういう取材はとにかく当たって砕けるの積み重ねだもの。


 さてフェリーだけど宮崎ツーリングに使ったのが東京九州フェリーで、今回徳島に向かうのがオーシャン東九フェリー。似たような名前でややこしいのだけど別会社なんだ。航路としては徳島を経由して新門司に向かうものになる。

 フェリーターミナルも東京九州フェリーが横須賀だけど東九フェリーは有明。横須賀より近いのが嬉しい。十九時半の出航だから十六時過ぎに有明の東京港フェリーターミナルに到着。まずはターミナルビルで予約券と乗船券の引き換え。

 それにしても広々した待合室だな。まるで空港みたいだけど、そう見えるから空港に見立ててのロケ撮影もよく行われるそう。羽田や成田は撮影許可も大変だろうけど、ここならフェリー発着時以外は人もいないだろうから撮影もしやすいだろうな。

 出航の一時間ぐらい前ぐらいから車両の乗り込みが始まる。誘導員に従ってバイクを船内に乗り込ませた。東京九州フェリーと東九フェリーは新門司への航路で競い合ってるのだけど、競争はサービス向上にもつながってるんだ。

 東九フェリーの料金体系もリーズナブルになっていて、まずバイクでもクルマでもそうだけど船室とセットになってる。この船室が相部屋の二等洋室。相部屋とは言うものの、東京九州フェリーと同じカプセルホテルスタイル。

 船室構成もシンプルで、相部屋、二人個室、四人個室になってるのだけど、個室はルームチャージ制ではなくて、一人当たりの利用料金になっているのが特徴かな。というか、特典みたいな料金体系になっている。

「徳島までなら三千円の追加料金を払えば、空いていれば個室を一人で利用できる」

 東京九州フェリーも六千円追加料金を出せば個室のツーリストSに泊れるけど、東九フェリーならその六千円で二人も個室にグレードアップ出来るってこと。それも二人個室どころか、四人個室を一人で使えてしまう。

 もちろん個室が空いてないとダメだけど、平日利用だったから使えたんだよ。それでもシブチンのうちの会社が出してくれたものだ。だから双葉は四人個室を独占中。ただ部屋は簡素だね。壁に取り付けられた二段の折り畳み式ベッドが四つだもの。

 でもベッドを折りたためば広々してる。広々してるけど座敷スタイルで椅子は無くテーブルとテレビがあるだけのお部屋。でもカプセルホテル風の相部屋より百倍良いよ。これなら部屋で寛ぐのも出来そう。

 割りきりと思ったのは厨房施設がないこと。その代わりにこれでもかの自販機が充実してる。そうなのよ、自販機で食べ物を買ってレンジで温めて食べるスタイル。これはこれで気楽で楽しそうだけど、やっぱりレストランが欲しいかな。

「東京九州フェリーがカジュアルホテルなら、東九フェリーはビジネスホテルかな」

 そんな感じ。そりゃ東京九州フェリーにはBBQまであったものね。かかる時間も徳島に寄る分だけ東九フェリーの方が新門司までは長いけど、

「東京九州フェリーは早いのは早いけど、夜に着いても困るよな」

 そうだった。フェリーを下りたらビジホに泊るぐらいしか使い様がなかった。東九フェリーの方が一泊長いけど五時三十五分着だから、六時にはツーリングに出かけられるものね。だけど、

「メシは落ちるな」

 この辺も値段だけなら東九フェリーが安く出来るのをメリットにする人もいるはず。ライダーは懐が寂しいのが多いし、懐が寂しい人間が九州遠征してるものね。そのあたりの比較をレポートにするのも仕事だ。